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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科3巻9号

1949年09月発行

雑誌目次

綜説

診斷を主として内容をみる

著者: 中村康

ページ範囲:P.357 - P.363

 眼科症例特輯号第1号は治療を主体として編輯したが,第2号は診断を主体として編輯して見た.眼科診断の仕方の順序は,次の如く考へられる.
 檢査の結果は類症鑑別を精密に行う.

眼科領域に於けるストレプトマイシンの適用

著者: 大塚任 ,   大江ケイ子

ページ範囲:P.364 - P.377

緒言
 1944年1月Waksman, Schatz及びBugieがStreptomyces griseusより一つの抗菌性物質を分離し,Streptomycin (以下單にストと記す)と命名し,これがグラム陽性菌並びに陰性菌に対し抗菌性を示すこと,殊に結核菌に対する試驗管内効果並びにモルモット結核に対する効果を有することを記載して以來,これに関する研究は,日を追つて発展しつゝある.最近我國に於ても,米國製ストの使用が特定的に許可せられ,眼科方面でも次第に用いられつゝあるが,ストに関する文献は,我國眼科方面では皆無なので,ストの使用者の手引き及び米國雑誌のない研究者の忠実な文献として本論文を起草した.内容はAmeric. Journ.Ophth. May, 1949,及びArchiv. Ophthalm.April,1949迄に記載された眼科方面の研究を網羅し,これに私見を加えて体系づけたものであるが,頁数の関係上,眼科以外の事項については,要点のみに止めてある.

症例

網膜色素變性症に施したる頸動脈毬剔出の效果に就て

著者: 八十一三 ,   井街讓

ページ範囲:P.378 - P.381

 1923年にHeringにより洞神経が発見され,以後Heyman,原田,Boueekaeit等の実驗により洞神経及び頸動脈毬の生理が漸く明らかにされた,即ち頸動脈毬か諸種流血中の化学物質に敏感に反應し呼吸,血圧,脈搏等に変化を來たすことが知られ,化学感受帶として化学物質,内分泌毒素触媒或は酵素等の新陳代謝調節に関與することが生理学者に依り証明された.我々は網膜色素変性症の本態に顧み,之れを治療するに際して,本症と同系統と考えられているTay-Sachs氏病病理に於て血中酸化酵素の欠乏により酸化の行われないこと,血中の鉄不足が証明されこの爲遺傳的に新陳代謝障碍かあることが唱えられ,この結果Neu—rosom. Mitochondriaの変性を來し,神経細胞中の糖原の増加,神経細胞中の滲透圧の上昇と,pHの変化を來すことにより細胞膨化を來し変性に陷ると説明されているが,本症に対して頸動脈毬に外科的侵襲を加えることはHeyman,原田の実驗に徴し大いに意味があると考えたので剔出を行つた.その結果意外の良効を示すものが多かつたので試みた7例に就て今迄の成績を報告し,網膜色素変性症病理を究明する一助にしたい.

眼窩縁(眼瞼皮下)結核腫の1例

著者: 田中智惠

ページ範囲:P.381 - P.382

 眼瞼皮下に原発性に結核性僞腫瘍を生ずることは極めて稀なことである.私は最近かゝる1例を経驗したのでこゝに報告する.

所謂鼻性視神經炎の症状を呈した梅毒性視神經炎の1例

著者: 淸水光太

ページ範囲:P.382 - P.383

 所謂鼻性視神経炎と酷似の症候群を示す梅毒性視神経炎に就いては昭和15年田野辺氏の報告があるが余も亦斯の如き梅毒性視神経炎に咽喉第二期梅毒を合併した1例を経驗したので茲に報告する.

特發壊疽に先驅せる續發性網膜色素變性の1例に就て

著者: 樋田敏夫

ページ範囲:P.383 - P.385

緒言
 網膜色素変性には続発性のものと続発性のものとがあり,続発性のものは往時は,梅毒その他の傳染病が原因とされて居た。特発性のものは原因の認められぬものが多い爲,長く原因不明の疾患とされて居たのである.遺傅とか血族結婚に因るといふ因子を閑却する事は出來あが最近内分泌学の進歩と共に何等かの内分泌異常に依ると言ふ説が起つて來て居る.実際に色素変性患者には矮躯の者や円錐角膜を有する者が多かつたり,血管硬化が全身に及んで居たり,血圧が一般に高かつたり,女子は月経初潮が遅れ閉止が早かつたり,乳腺発育が惡かつたりする事がしばしば見られる等何等かの内分泌障碍を思はせるものがある。又植物神経系の方面から之を檢討すると楠元氏の如く,ワゴトニーの結果であるとする者や藥理的実驗をされた安武氏の如く,ワゴトニーに傾いて居るとする者もあり,生井,内山両氏は矢張り同様の見地から変性患者に頸胸部の交感神経切除を行つて居る.是の如く内分泌の方面や,植物神経系の立場から之を観察する様になつて來たのである.飜つて特発壊疽なるものは,的確なる原因は尚不明なるも血管硬化から血管のエムボリーを起し,壊疸を生ずると言ふ説や,副腎の機能亢進の結果,血中アドレナリンが増加し血管が常に緊張し血液循環障碍を來す爲と言ふ説があり,又ジンパティコトニーの傾向があり,此の結果アドレナリンの過剩がおこるとも言はれて居る.

蛔蟲性羞明に對する1考察

著者: 村山健一

ページ範囲:P.385 - P.386

 蛔虫寄生に依り各種の眼障害を起し同時に羞明を併ふ事の多いのは衆知の事実である.余はこの蛔虫性羞明の本態に就き些か考察を試みた.

B.C.Gの副作用としての乾性癒着性胸膜炎を合併したフリクテン

著者: 小原博亨

ページ範囲:P.386 - P.387

緒論
 第23回日本結核病学会にて工藤祐三教授はB.C.Gの副作用として自然感染無く特に「ツ」反應陰性の乾性癒着性若くは乾性肥厚性の肋腹膜炎の94例を報告せられた.
 予はB.C.Gの副作用としてアレルギー(以下アとす)前期のフリクテン(以下フとす)に合併した乾性胸膜淡を報告すると共にB.C.Gの副作用として眼疾患殊にフの発生を強調したい.

Sjögren氏症候群に就て

著者: 田坂純行

ページ範囲:P.387 - P.389

緒言
 1939年SjögrenはLeber以耒絲状角膜炎と言はれたもので,殊に更年期前後の婦人に来る特発性絲状角膜炎(乾性角結膜炎)に関して詳細な研究をなし,本病は單なる眼疾患でなくて口唇粘膜乾燥,慢性関節炎を伴ふ1種の全身病の眼症候に過ぎぬと言つた.我國に於ても宮下,國島,河合等の論文がある.私は興味ある数例に接し,結膜掻痒症,乾性結膜炎,乾性角結膜炎三者間に連関を見出したので茲に報告する.

梅毒性結膜丘疹の1例

著者: 鎌尾保

ページ範囲:P.389 - P.390

 梅毒は相当多い疾患であるに拘らず梅毒性結膜丘疹は比較的稀な疾患とされて居る。私は最近本症の1例に遭遇し組織的に檢索する機会に惠まれたのでこゝに追加報告する.

眼底孤立結核腫の2例とそのX線治療に就て

著者: 初田博司

ページ範囲:P.390 - P.392

緒言
 眼結核に対するX線局所照射療法の効果に就ては,先に我が教室に於て中村教授をはじめ原,山崎氏の報告があり,最近では川村氏の統計報告に依り確かに或種の眼結核には有効である事は異論のない所である.私も眼底孤立結核腫の2例に対してX線療法のみを試み,著効を認めたので茲に報告したいと思う.

圓板状角膜炎に就いて

著者: 淸澤兼久

ページ範囲:P.392 - P.394

 角膜にヘルペスが出來る事は既熱性にヘルペス,帶状ヘルペスの際に見られ角膜の知覚障碍を伴ふことから神経性疾患とされていたが,1920年Wilhelm Grüter氏は之の家兎角膜への接種に成功し以來1種のウヰールス性疾患と見なされるに至つた.其の角膜に於ける病像は例に依り異り或るものは小水泡樣でフリクテン樣の浸潤を形成し或るものは之が樹枝状に排列し樹枝状角膜炎となり或ひは角膜実質の円板状混濁を來し円板状角膜炎の像を呈し或るものは角膜上皮及び分泌物等か紐状に捲縮し絲状角膜炎となる.私は最近円板状角膜炎3例をはじめ数例のヘルペス性角膜炎を経驗しアンチモン剤及びビスムート剤の注射を行い著効ありたるを以て之を報告し併せて些か私見を述べる次第である.

フォスター・ケネディ氏症候群を呈せる2症例に就て

著者: 前川祐誠 ,   渡邊勇

ページ範囲:P.395 - P.396

緒論
 フォスター・ケネディ氏(以下フ氏と略)症候群は周知の如くこれのみによつて脳腫瘍の診断,部位及性状を決定し得る特殊の眼症状であり,欧米に於てはS.Zehden以來多数の研究発表があるにも拘らず,本邦に於ては其の報告が極めて廖々たるものであり而も詳細に亘る記載の無い事は,一に我が國の脳外科が甚だ遅れて発達した事を示すのであり從つて最近迄フ氏症候群が臨床家の注意を惹かなかつた所以と考へられる.我々は最近引続いて2例の本症候群を経驗し殊に第2例は稀例に属するものなる故茲に報告する次第である.

視神經乳頭結核腫の1例

著者: 笹野敏治

ページ範囲:P.396 - P.397

緒論
 視神経乳頭の結核腫は比較的稀な疾患であり,我國に於ては河本・石津・原田・酒井等の数氏の報告が,外國に於てはBrailey, Welss, O.Sulli-van u.Story, Knapp, v.Michel, Coats, Verde-rame, Jakobs, Bergmeister, Goninの諸氏の報告がみられるのみである.著者は臨床上檢眼鏡で見て視神経乳頭結核腫と診断した1例で,組織学的檢索を欠くので確定的なものとわ断言出來ないか,恐らく結核腫であろうと考えられる症例を診たので茲に遣加報告する.

菅沼氏多發小結節性眼球結膜炎の1例

著者: 早野三郞

ページ範囲:P.397 - P.399

 昭和14年故菅沼教授は未だ記載を認めない疾患として「眼球結膜に多発する上皮性小結節に就いて」の題名の下に特異な結膜疾患の2臨床像とその1組織像を発表され,その翌年中島教授は2症例の追加にあたつて本症を「菅沼氏多発小結節性眼球結膜炎」と呼ぶことを提唱された.以來現在までに菅沼教授第3例,鹿野氏1例,淸家氏1例の報告がある.この臨床像は特有である.從つて経驗症例も診断を迷わなかつたのであるが,組織像に於て既報告例と異る点があつたので追加したい.

兩側轉移性眼炎にペニシリンの偉效を奏したる1例

著者: 緖方昇

ページ範囲:P.399 - P.400

緒言
 ペニシリンの出現により從來不治の病とされていた諸種の疾病が救助し得らるゝ例は決して少くない。又表題の如き当然化膿失明をまぬがれぬ轉移性の眼炎がペニシリンの全身並に局所療法で救助し得られた報告もあるが,今述べんとする例は事情により全身療法のみで結果は極めて良好,硝子体溷濁を残したが視力は健常に近いものを得られた例である.

乳兒に於けるフリクテンの1例

著者: 岡本功

ページ範囲:P.401 - P.402

緒言
 戰後衣食住の諸條件が惡化し,國民一般の健康状態も戰前に比較して著しき低下を辿つてゐる現在,結核性疾患は益々蔓延してゐるように思はれる.我々眼科医が日常遭遇する眼疾患の中で,結角膜フリクテンは逐次増加しつゝあり,その原因並に成立に就ては既に諸先輩に依り数多く報告致されてゐるが,本症と滲出性体質及至結核とは密接なる関係の存する事は疑の無き所である.最近私は生後8ケ月の乳兒にフリクテンが発生し,次で結核を証明し得たる1例を経驗したので,茲に報告する次第である.

角膜移植片に見られたるデスメ膜の皺襞に就て

著者: 初田博司

ページ範囲:P.403 - P.405

緒言
 角膜移植後の移植片の態度如何は手術の成果を卜する上に極めて重要な問題であつて,個々の移植例につき移植片の変化の臨床的観察も亦充分に試みられねばならない.
 私は異常経過をとつた角膜移植の1例につき極めて特異的なるデスメ膜の皺襞を認めて以來,移植例につき特に移植片のデ膜の皺襞の有無,其の形状,発生停止の消長につき注意して観察し,二三新知見を得たので,茲に報告し御批判を仰ぎたいと思ふ.

アレコリンの縮瞳作用の増強に就て

著者: 山地良一 ,   荻野周三

ページ範囲:P.405 - P.406

 ブロム水素酸アレコリンの縮瞳並びに減圧作用に就ては,杉山克己氏(綜眼昭和18年)により発表され,続いて新美,松原両氏(臨床眼科昭和23年)の報告かある.これらの諸氏によれば,アレコリン(以下アと略記す)は單性緑内障,前駆期緑内障,急性炎性緑内障には著明なる縮瞳減圧作用を有するが,急性炎姓緑内障め発作時,慢性炎性緑内障,続発性緑内障には,他の縮瞳藥同樣に無効との事である.
 先に著者等はカルバミノイルコリンクロリツド即ちカルピノールの作用か,コカインの如き麻醉藥と共に用うる時に,驚異的に増強される事を報告した(臨床眼科昭和23年).ピロカルピン(以下ビと略記す),ェゼリン(以下エと略記す)等はコカインと共に用ひても,認むべき作用の増強が表はれない.こゝでアレコリンとコカインを同時に用うれば,アのみでは無効であつた前記の諸疾患に,何等かの効果を表はし得ないかとの考への下に,家兎眼及び人眼に就て実驗し,認むべき成績を得たので,茲に報告する.

輸血感染の眼梅毒患者にペニシリンの奏效せる1例

著者: 樋田敏夫

ページ範囲:P.406 - P.407

緒言
 本患者は給血者の不道徳及組合の粗漏から輸血により梅毒に感染し,全身の発疹,両眼視神経綱膜炎,諸関節痛,梅毒性アンギーナを來し來院,之に対しペニシリンの継続注射を行ひ諸症状の急速軽快を見たもので血清の梅毒反應が陰性になる迄注射を続けられなかつたので完全なる「梅毒に対するペニシリン療法」とは言へぬが,特に視力が急激に上昇し得た点外,2,3興味ある結果を得たので之を報告し諸賢の御批判を仰ぎたいと思ふ.

痘苗による角結膜炎の1例

著者: 初田博司

ページ範囲:P.408 - P.409

結言
 人眼に対し誤つて痘苗の接種せられた例については菅沼,越智,高田,大野氏等に依り報告があるが,最近私も一医師が種痘作業中痘苗管破片にて左眼を損傷し原発性痘毒角結膜炎を惹起せる例を得之に血清点眼療法並にペ療法,前房穿刺を試みその全経過を観察する機会を得たので茲に報告する.

角膜疱疹の治療

著者: 大塚任 ,   渡邊驥一郞

ページ範囲:P.409 - P.411

緒言
 角膜疱疹には,單純疱疹と帶状疱疹があり,兩者共に同じ濾過性病原体より起るが,只発現の形式が異り,前者は皮膚嗜好性に,後者は神経嗜好性に起ると考えられている.その治療に関しては古耒幾多の方法があげられているが,私共はスルファミン或はペニシリンを用いて好結果を得たので報告し併せて本症の最近の治療法を総括紹介する.

鞏膜管錐術後4年を經過して發生せる全眼球炎

著者: 伊藤憲一

ページ範囲:P.411 - P.413

 緑内障に対しElliotが行つて以來今日に至る迄,鞏膜管錐術は虹彩切除術と共に緑内障に対する合理的なる療法として広く用ひらる.然し手術後の後発傅染にて全眼球炎を惹起する原因の内最も多きは鞏膜管錐術にしてBrandむは其の2.6%に,Late u. Davisは0.66%に,Butlerは1.87%に,Mellerは1.7%に全眼球炎を來せる事を報告せり.我國に於ては其の報告は比較的稀にして,河本の2例,中島の1例,松岡の2例のみ.
 余は最近,緑内障に対し鞏膜管錐術施行後4年を経て全眼球炎を惹起せる症例を経驗し,其の眼球を剔出し病理組織学的檢索を爲し得たるを以て茲に報告し,併せて其の原因を考究せんとす.

可動性義眼に就て

著者: 桑原安治

ページ範囲:P.413 - P.414

 醜貌は誰れしも厭う所である爲め眼球を失つた者で義眼によつて容貌を整え度いと願うのは必然的な事である.從つて義眼は洋の東西を問わず古くから金属,木,石等各種の資材にて作製せられたが近世に於て独乙のミェラーが硝子義眼を作製してより所謂ミュラー氏義眼として一世を風靡した.本邦に於ては近世で大阪の高橋春爲氏が稍子義眼の作製を企てたが完成に至らず中絶し,次で中泉行正氏の指導で厚沢氏がミュラー氏義眼の作製に成功し此の義眼が昭和の始めより今日迄一般に使用せられ眼科界に大なる貢献を齎した.又一方工業か発達し硝子より優秀なる合成樹脂が作製せられるに至つて,私は約10年前に合成樹脂による義眼に着手したが当時は尿素系樹脂のみにて結膜に刺戟を與える事が多いため,遂に中絶するの止むなきに至つた.所が近來アクリル酸樹脂の作製が可能となり,荒木紀男氏どの共同研究にて之れを完成するに至つた.硝子義眼とアクリル酸樹脂義眼との優劣は又別に詳記し度いと思うが要点はアクリル酸樹脂義眼は硝子義眼に比して物理的耐久力が大である.即ち壊れ易くない爲,落しても破れない,又化学的耐久力が大である爲め涙液に侵されない.比重が輕い故,存在感が少く自然の感じである等の利点がある.之れによつて硝子義眼の欠点を補つて大なる進歩を見たが尚義眼の最大の欠点である動がないと云う点に於ては遙かに遠いゝものである.

昭和23年夏名古屋地方に流行せる日本腦炎の眼症状

著者: 杉浦晋

ページ範囲:P.414 - P.417

 昭和23年度夏,名古屋城東病院に收容された日本脳炎(以下日脳と略称)患者の中,116例について其の眼症状を調査した.その中110例(94.8%)わ何等かの眼症状を認め,日脳に於ても亦重要所見の一つであることを知つたので,眼症状とそれに関係があると思われる若干の症状について述べる.

球結膜硬性下疳の1例

著者: 岡本功

ページ範囲:P.417 - P.419

緒言
 眼部梅毒性疾患に就ては既に多数の例が報告せられているが,球結膜を侵すものは極めて稀なものに属する.最近,私は辺縁フリクテンに酷似せる球結膜硬性下疳の1例に遭遇し,之に駆梅療法(マファルゾール注射)を施行してその経過を観察するを得たので,茲に報告する次第である.

眼内骨形成の1例

著者: 原博

ページ範囲:P.420 - P.423

緒言
 眼内骨形成に関する報告はさまで稀有なるものに非ず.古來より知られたるものにして外國に於てはウイルヒョウが19世紀の初期に於て動物殊に馬の硝子体中に屡々骨形成を見ることあり,同樣に人眼に形成さるゝことも亦少なからずと記述している.以來パゲンステッヘル,クナップ,ワットスン,ペス,スノウバル,アクセンフヱルド等多数の報告あり.本邦に於ては中村(康),安藤,佐藤,三輪,庄司,酒井,黒沢,高橋,今井氏等多数の報告がある.以上の報告は大部分何等かの動機にて眼球癆眼を剔出してこれが組織学的檢査に依りて骨形成の存在を発見せるものである.私は最近眼球に疼痛を伴へる萎縮眼に遭遇し,骨形成を疑ひレントゲン撮影に依り眼窩中央部に欠損を認め.臨床的に眼内骨形成の診断を得て患者の整形的希望もありこの萎縮眼を剔出して組織学的にも脈絡膜及び水晶体の骨形成を証明し得た1例を報告し参考に供し度い.

硝子體前癒着症の數例

著者: 樋田敏夫

ページ範囲:P.423 - P.425

緒言
 外傷や後発白内障手術後に,硝子体ヘルニヤが認められることがあるといふ事は屡々成書や文献に記される所であるが,之の前房内に出た硝子体織維が索(スティール)を成して角膜裏面に癒着し恰も虹彩が角膜裏面に癒着せる状態を虹彩前癒着と称する如く,硝子体前癒着症(Synechia corpo-ris vitrei anterior)とも称すべき状態に在ることがあると言ふ報告は既往の文献には殆ど見当らず只エルンスト・フックスの著せるLehrbuch derAugenheilkundeに「外傷や手術に際し硝子体が漏出する事があるが,之の漏出せる硝子体の中で眼内に在るものは,瘢痕として即ち硝子体前癒着として残る」と記され,又アダルペルト・フックスが彼の眼病理組織アトラスの中に,本症の1例の病理組織標本を載せて居る位のものである.私は最近僅々1カ月前後に他医に於て受けし後発白内障手術後の1患者2眼及び当教室に於て施せる後発白内障患者3例3眼に引き続き之の状態を認め取りわけ特異なる術式を用ひたわけでないのに頻々とかかる現象が認められる事から,術後仔細に観察檢査すれば案外かゝる事実を認め得るのではないかと考へ之を御報告し諸賢の御批判を仰ぐ次第である.尚アダルベルト・フックスのアトラスに掲載しある1例の写しと,自驗1例の写生を添へ御参考に供することにする.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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