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症例
可動性義眼に就て
著者: 桑原安治1
所属機関: 1慶應大学眼科
ページ範囲:P.413 - P.414
文献購入ページに移動 醜貌は誰れしも厭う所である爲め眼球を失つた者で義眼によつて容貌を整え度いと願うのは必然的な事である.從つて義眼は洋の東西を問わず古くから金属,木,石等各種の資材にて作製せられたが近世に於て独乙のミェラーが硝子義眼を作製してより所謂ミュラー氏義眼として一世を風靡した.本邦に於ては近世で大阪の高橋春爲氏が稍子義眼の作製を企てたが完成に至らず中絶し,次で中泉行正氏の指導で厚沢氏がミュラー氏義眼の作製に成功し此の義眼が昭和の始めより今日迄一般に使用せられ眼科界に大なる貢献を齎した.又一方工業か発達し硝子より優秀なる合成樹脂が作製せられるに至つて,私は約10年前に合成樹脂による義眼に着手したが当時は尿素系樹脂のみにて結膜に刺戟を與える事が多いため,遂に中絶するの止むなきに至つた.所が近來アクリル酸樹脂の作製が可能となり,荒木紀男氏どの共同研究にて之れを完成するに至つた.硝子義眼とアクリル酸樹脂義眼との優劣は又別に詳記し度いと思うが要点はアクリル酸樹脂義眼は硝子義眼に比して物理的耐久力が大である.即ち壊れ易くない爲,落しても破れない,又化学的耐久力が大である爲め涙液に侵されない.比重が輕い故,存在感が少く自然の感じである等の利点がある.之れによつて硝子義眼の欠点を補つて大なる進歩を見たが尚義眼の最大の欠点である動がないと云う点に於ては遙かに遠いゝものである.
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