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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科30巻10号

1976年10月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・227

嚢腫様増殖をきたした両眼性特発虹彩腫瘍の1例

著者: 本田孔士 ,   坂土英 ,   宇山昌延 ,   浅山邦夫

ページ範囲:P.1131 - P.1132

〔解説〕
 症例:33歳,女性。主訴:両眼の視力障害。1973年3月,偶然に両眼(特に左眼)の視力障害に気付き某医を受診,両眼虹彩嚢腫の診断を受けている。1973年9月,左眼の視力障害の増強と流涙感を訴え再度,同医を受診し,約半年の間に腫瘤の成長が速かなることを指摘きれ,京大眼科へ紹介された。1973年9月25日初診。
 両眼の虹彩瞳孔縁部より第1,2図のごとき嚢腫様の増殖が認められ,左眼では瞳孔領を塞ぐほどであり,右眼はやや程度が軽い。瞳孔反射は両眼とも正常に保たれており,虹彩根部には腫瘤を認めない。右眼水晶体核に,ごく軽度の混濁を認めるが,その他,前眼部,眼底に器質的,機能的著変を認ない。全身的にも特記すべき異常は発見されなかつた。特殊な薬剤の使用,眼手術の既往歴はない。左眼視力は明所にて20cm/F.Z.(矯正不能),暗室または散瞳剤使用により0.1(−5. 0D 1.0)であつた。愁訴は,嚢腫による瞳孔閉塞と考えられ,1973年10月3日,左眼において,上方で全虹彩切除を行なつた(第3図)。左眼術後,外来にて経過観察中であつたが,右眼虹彩瞳孔縁の腫瘤が依然として著明に存在しているため(第4図),右眼においても,上方で虹彩金切除を施行する。両眼とも,術後,視力,視野の改善が見られた。下方の瞳孔縁部に残つた嚢腫は術後,縮小傾向を示した。その後,外来にて経過観察中であるが,腫瘤の増大は見られない。

総説

網膜芽細胞腫の諸問題

著者: 箕田健生

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 網膜芽細胞腫はわが国では眼内悪性腫瘍のなかで最も多く,かつ小児悪性新生物のなかでも上位の頻度を占める疾患である。近年ヨーロッパにおいて本腫瘍の発生頻度が数十年前に比べて増加しているとの報告があり1,2),その原因として本症の診断治療が正しく行なわれるようになつたことで本症患者の生存率が向上し,更に次世代に本症が遺伝することによつて家族発生例が増加したことが指摘されているが,一方では散発発生の頻度も増加しているとの報告もある1)。わが国における網膜芽細胞腫の疫学的研究は尾久3)の1945〜57年の北海道地区の報告,またMatsunaga&Ogyu4)の1900〜40年の206例の遠隔調査の報告などがあるが,本症に関する全国的規模での詳細な調査は今日までなされていなかつた。昨年,わが国では初めての試みとして1975年度網膜芽細胞腫全国登録が実施され,本症の実態が明かにされつつある5)。本文では主として,この全国登録によつて明かにされた知見を引用しつつ,本症に関する諸問題を考察する。

臨床報告

眼瞼に原発したlymphoblastic lymphosarcomaの1例

著者: 新家真

ページ範囲:P.1139 - P.1145

緒言
 悪性リンパ腫が眼瞼に発生することは稀である。眼およびその付属器のリンパ腫に関する諸家の報告2,3,8,9,13,19,23)をみると,眼瞼は悪性リンパ腫の発生部位としては,より稀な部位に属している。また母集団を眼瞼の全悪性腫瘍にとつた統計1)でも,眼瞼の悪性リンパ腫はわずかその0.1%を占めるにすぎない。
 著者らは眼瞼に原発したと考えられるlym—phoblastic lymphosarcomaの症例1例を経験した。眼瞼に原発したlymphoblastic lympho—sarcomaは文献上,Jain5)の報告した1例と金子,谷島22)による臨床報告の中にみられる1例の計2例しかない。極めて稀なものと考えられる症例をここに報告し,眼瞼に原発したlymphobla—stic lymphosarcomaの臨床経過について考察を加え,また,本症例の組織像を,従来広く行なわれてきたRappaportの分類よりは大きく変化した最近の悪性リンパ腫の分類6,7,15)に,関連づけて言及したい。

Biological Plasticsを素材としたHard Contact Lensについて(その3)

著者: 神谷貞義 ,   北国秀三郎 ,   大西靖彦 ,   長谷川正勝 ,   三ツ谷繁男

ページ範囲:P.1159 - P.1166

緒言
 著者らは角膜の構造1)についてコラーゲンとムコ多糖類の水和状態での挙動から,コラーゲン部をポリメタクリル酸メチル樹脂,ムコ多糖類を構造の類似する親水性多糖類におきかえて考えること,すなわち生体産物である親水性多糖類と無生物有機ポリマーを結びつける発想から前第1報2)では,まずデキストランをクローズアップさせ,次に前報告3)(その2)では,デキストラン以外の一般的親水性多糖類および合成親水性ポリマーであるポリビニールアルコール(PVA)とMMAを共重合させそれらの新物質についての相互間の性質,Hard Contact Lensとしての適合性に関して検討を加えた,、その結果,親水性多糖類とMMAの共重合体において,主に1.4—グルコシド結合を有するセルローズ・デンプンとMMAとの共重合体は吸水率,接触角の点でややデキストラン—MMA共重体に比較すると低下するが,角膜との親和性の点(違和感の消失)では改良が認められる。これは水溶性多糖類の中のフリーの水酸基の性状に基づくものであると考えられる。これに対して,α−1.6グルコシド結合を有するデキストラン—MMA共重合体は前者に比し,より高い吸水率,接触角の低下を示す。このことはデキストランの構造が主として,α−1.6グルコシド結合による三次元マトリックス構造を有し,そのため角膜における多糖類(酸性硫酸多糖類)と近似した吸水挙動を示していると解釈できよう。

急性白血病の1例で見られた網膜の毛細血管瘤

著者: 河上勝美 ,   金上貞夫 ,   箕田健生 ,   家坂義人 ,   横内章

ページ範囲:P.1167 - P.1173

緒言
 白血病患者において,その生前および剖検で,種々の眼症状と眼組織変化の見られることは,古くから多くの記載がある1〜5)
 病変は,組織学的には,白血病細胞の浸潤と出血が主であるが,臨床症状は症例ごとに多彩である。加えて近年では,化学療法や血小板輸血などの発達により,白血病の診断後,寛解・増悪を繰返しつつ,年余にわたつて生存しうる者が次第に増加しているので6),眼科領域でも,そのような白血病の病像変遷と相挨つて,過去には気付かれなかつたような所見が,螢光眼底撮影を含め,少なからず報告されるようになつた7〜11)

タケカレハガ幼虫による刺毛性眼障害の1例

著者: 柳沢仍子 ,   嶋田孝吉

ページ範囲:P.1175 - P.1178

緒言
 毒虫による刺激性眼障害は極く稀なものであるが,その炎症は時に重篤なこともあり治療に困惑するものである。今回著者らはタケカレハガ(Philudoria albomaculata Bremen,カレハガ科)の幼虫による刺毛性眼障害の1例を経験し,1年間経過を観察する機会を得たのでここに報告する。

典型的な中心赤色斑型黄斑の2例

著者: 田辺吉彦 ,   高橋宏子 ,   天野みゆき ,   牧田京子

ページ範囲:P.1179 - P.1181

緒言
 中心赤色斑型黄斑は植村1,2)によつて提唱された名称で,弱視児にしばしば見られる黄斑部異常の一つであり,屈折異常を伴い,−4D以上の近視または高度遠視に伴う場合は弱視の治療効果は多くは望めないとされている。今回著者らは典型的な中心赤色斑型黄斑の2症例に遭遇したが,1例は右高度遠視弱視に伴つた両眼中心赤色斑型黄斑で健眼遮閉によつて右矯正視力1.2を獲得し,今1例は右中心赤色斑を示したが屈折,視力は正常であつた。なお前者の同胞の1人に中心赤色斑型黄斑の不完全型と思われる所見を認めたのでここに報告したい。

嚢腫様増殖をきたした,奇異なる両眼性特発虹彩腫瘍の1例

著者: 本田孔士 ,   坂上英 ,   宇山昌延 ,   浅山邦夫

ページ範囲:P.1183 - P.1187

緒言
 虹彩の嚢腫は比較的稀なものである。発生異常としてdermoid cyst1),いわゆるcongenital iriscyst2,3),成人においては,外傷や手術に続発して前房に嚢腫様の腫瘤を作るepithelial cyst4)が最も良く知られている。leiomyoma, melano—maも時にcyst様の形態をとることがあるとされている5)。われわれは,外傷や手術の既往のない中年女性の両眼に特発し,嚢腫様増殖を示す奇異なる虹彩の良性腫瘍を経験したので,その症例を,治療,組織所見とあわせて報告する。

座談会

労働眼科学:今後の動向—最近の国際眼科学会から

著者: 中島章 ,   深道義尚 ,   深見嘉一郎 ,   市川宏 ,   松尾治亘 ,   安藤文隆

ページ範囲:P.1147 - P.1155

 市川(司会)本日はお忙しいところをお集まりいただきまして,ありがとうございました。
 たくさんの先生方にお集まりいただいたわけですが,いままでergo—phthalmologyのinternationaLの代表ということで中島先生に,外国と日本とのパイプ役をしていただいておりましたし,今度もハンブルグでの総会で日本の事情を説明していただいたので,ご出席いただきました。それから,松尾先生には,一つは第1回のマドリッドてのinter—national world-congressに日本代表としてご出席いただきましたし,ergophthalmologyの背景というか,母体となつた交通眼科学会の会長として,いろいろご意見をいただきたいということでございます。それから深道先生は,world-congress以来,ずつとcrgophthalmologyの学会に出ていらつしやいまして,内容を一番よくご存じです。また深見先生,安藤君,私と,今回のハンブルクのシンポジウムに行つてまいりまして,とくに安藤君には,この次に日本で予定している,その国際会議のsecretary generalをやつてもらうことになつておりますので,出席していただいた次第です。

GROUP DISCUSSION

網膜剥離

著者: 塚原勇

ページ範囲:P.1189 - P.1194

1.網膜剥離初発症状の統計的観察
 弁状裂孔および網膜円孔による網膜剥離は臨床上よく経験されるものであるが,現在まで両者は,単に「網膜裂隙」として取扱われ,必ずしも区別ざれない傾向にあつた。今回,初発症状,自覚症状を中心とし,その相違について検討したところ,裂孔によるものでは,(1)飛蚊症等前馳症状で初発することが多く,(2)前馳症状から視野狭窄等剥離症状まての期間は多くは2週間以内,(3)胞状剥離を示すことが多く,(4)硝子体出血を伴う事が多く,(5)高齢者に好発する等の特徴を示した。一方,円孔によるものでは,①前馳症状を伴わず,いきなり剥離症状で初発し,②扁平剥離が多く,③苦年者に好発する,等といらようにかなりの相違がみられた。これら相違は,裂孔によるものでは剥離発生に硝子体の関与が多く,逆に円孔によるものでは,網膜の変性が主体となる事を示唆するものであり,今後網膜剥離を考える.上で,両者をある程度区別して取扱う必要があるものと考える。

眼・光学学会

自動他覚的屈折度計ディオプトロンの使用経験

著者: 杉町剛美 ,   松岡久栄 ,   金井淳 ,   加藤和男 ,   中島章

ページ範囲:P.1203 - P.1207

緒言
 近年小児眼科を含めて眼科臨床における屈折検査の比重が大きくなりつつある現状で,そのため眼科医の時間を大きく費やすようになつてきた。
 そこで眼科医以外の屈折検査に習熟していない検者が行なつても自動的に正確な値が得られる他覚的屈折検査器ができれば眼科医にとつても有益なわけである。

角膜後面曲率半径の測定

著者: 所敬 ,   林一彦 ,   武藤政春 ,   浅原典郎

ページ範囲:P.1209 - P.1213

緒言
 角膜後面曲率半径の測定は,角膜乱視,残余乱視の研究あるいは,Phacometryの精度を向上させるためなどには大切であるが,従来その報告は少ない。そこで今回は,Purkinje-Sanson像の第1像(角膜前面反射像)および第2像(角膜後面反射像)を利用した測定方法,測定条件およびその精度につき検討し,十分使用できる方法であることが判明したので,ここに報告する。

新型オフサルモメーターについて

著者: 長谷川弘 ,   高橋文男 ,   高橋千代治 ,   中島章 ,   曲谷久雄 ,   平野東

ページ範囲:P.1215 - P.1218

緒言
 近年コンタクトレンズの普及に伴い,オフサルモメーターの使用頻度は,ますます増大し,眼科器械としては必要不可欠のものとなつてきた。
 この器械の原型は,1885年ヘルムホノレツにより考案され,その後ジャバルシェッツ,ハーティンガー,サックリフ,リットマン等がそれぞれ特徴を持つたオフサルモメーターを考案し,現在ではおのおののタイプが製品化されている。
 この中でサックリフ型のオフサルモメーターは,乱視両主径線における測定が同時にできるという大きなメリットにより,現在では最も多く使われている。

チャンネル型I.I.管のレフラクトメーターへの応用

著者: 大島祐之 ,   伊藤ゆり子 ,   和田新二 ,   北尾郁雄 ,   滝沢志郎 ,   加藤康夫

ページ範囲:P.1219 - P.1223

緒言
 眼屈折度の他覚的測定に使われるレフラクトメーター(以下,レフと略)は約100年前にSch—midt Rimpler1)により創製されたが,実用的器種が生れたのは約50年前の1920年代であつた2)。その後,機器の改良はあつたが,最近アメリカにて開発された自動レフは一時期を画する進歩ではある。今回著者らは,その自動測定器に使われている赤外線を観測式レフの測定光とし暗視管をとりつけた装置を試作して実験し,レフによる眼屈折度測定に関する知見を得た。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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