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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科30巻2号

1976年02月発行

雑誌目次

特集 第29回日本臨床眼科学会講演集 (その2)

第29回日本臨床眼科学会講演集目次

ページ範囲:P.128 - P.128

講演
バセドウ病における眼圧とステロイド感受性……………井上洋一・他…133
糖尿病性網膜症に対する妊娠の影響について…………福田雅俊・他…138

学会原著

バセドウ病における眼圧とステロイド感受性

著者: 井上洋一 ,   井上トヨ子

ページ範囲:P.133 - P.137

緒言
 バセドウ眼における異常な高眼圧は,一般に緑内障状態によるものではなく,単なる高眼圧であるとみなされている1,2)。それでも,欧米では,緑内障の発生頻度が高いという説も多い3)。著者らは過去10年1000例を越すバセドウ病の症例を管理下においているが,今回,これらの症例の眼圧を検索すると共にステロイドにより誘発された高眼圧例,ならびにステロイド緑内障の出現から,ステロイド感受性に注目し,調査した結果,興味ある成績をえたので報告する。

糖尿病性網膜症に対する妊娠の影響について

著者: 福田雅俊 ,   田村正 ,   梅津道子 ,   羽藤史子 ,   望月学 ,   本多洋

ページ範囲:P.138 - P.144

緒言
 妊娠が糖尿病性網膜症に及ぼす影響は,症例報告の形で文献上も散見されるが,概して妊娠により糖尿病性網膜症が悪化すると考えられているという程度で,必ずしも意見の一致をみていない。すなわちHerre, H.D.ら(1965)1)は,妊娠中網膜症の35%は増悪し,22%は改善したと述べ,White,P.(1965)2)は増殖型網膜症をもつ妊婦87例中10例に妊娠初期から眼底出血などの増悪がみられたと報告しているに反し,Pedersen, J.(1967)3)は妊娠により網膜症の悪化するのは極めて稀れで,20年間に3例しか経験していないという。Herreのごとく妊娠中の網膜症の改善をみたという報告も散見される。ところが近年糖尿病の全身療法,管理方法の進歩により,小児糖尿病患者も延命し,糖尿病患者が妊娠する例も増加しつつあり,これにともなつて眼科医が眼底検査を依頼され,網膜症の予後や,妊娠中絶の可否を問われる機会も稀れではなくなつた。しかし前述のごとく定説のないため,成書の記載も不明確で,加藤謙(1971)4)は「網膜症が妊娠により悪化し,妊娠中絶により軽快したとの報告があるが,両者の関係が広く確認されたわけではない」と述べ,大森安恵(1975)5)は,網膜症と妊娠との因果関係を判断するのは困難であるが,妊娠中の網膜症の出現は勿論,以前からあつた網膜症の経過には慎重配慮すべきであるとしている。

血族結婚による女性罹患者を含むCongenital Retinoschisisの一家系

著者: 内野允 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.145 - P.151

緒言
 Retinoschisisは,わが国では網膜披裂または網膜分離病と呼ばれ,先天性,後天性(老人性),続発性の3種に大別される1)。そのうちX染色体劣性の遺伝形式を示すCongenital Retinoschisis(以後C.R.と略す)は欧米では多数の報告例があり,とくにKrausher2)等が多数の症例について詳細な検討を加えている。しかしわが国におけるその家族内発生の報告例は未だ少数3)のようである。われわれは二世代にわたり4名の患者を含むC.R.の典型的な一家系を経験した。しかもこの家系の特徴として,
 ①家系内に血族結婚を有すること。

先天性白内障手術後におこる網膜剥離の検討

著者: 豊福秀尚 ,   広瀬竜夫 ,   Schepens, L.

ページ範囲:P.153 - P.157

緒言
 先天性白内障の手術を受けたことがある眼に起こつた網膜剥離(Aphakic Retinal Detachmentafter Congenital Cataract Surgery,以下ARDCと略)は,それほど多いものではない。しかし,その取り扱いは難しく,また手術予後も一般には良くない。老人性白内障手術後に起こる網膜剥離(Aphakic Retinal Detachment after Se—nile Catarct Surgery以下ARDSと略)は,術後1年以内に起こるのが多いのに反して,ARDCは,術後10年以上の長年月を経て起こる傾向にあることが臨床上の経験で知られている。そこで,この種の網膜剥離の特徴を分析することは,未だ不明の網膜剥離の発生機序の解明や,予防および治療面の改善からも必要となつてくる。
 ARDSを主体としたものの分析は数多くみられる。しかし,先天性白内障術後のものだけを取り上げたのはCordes1)による54眼の組織学的検索が見られるのみで,臨床面を分析したものはないようである。本編では,純粋にARDCのみ114眼を取り上げ,これらの臨床所見を分析し,その病因をさぐるのを主眼とした。なお,治療については別の編で述べる。

新しい病型と考えられるFlecked Retinaの2例

著者: 上野脩幸 ,   松尾信彦 ,   長谷川栄一 ,   藤原久子 ,   山本覚次

ページ範囲:P.159 - P.172

緒言
 最近著者らは,両眼底後極部に閃輝性のコレステリン結晶様黄白斑が無数に認められ,その検眼鏡所見はあたかも夜空にちりばめられた,きらめく星のごとき感を呈する稀有なる2症例を経験し,全身的,眼科的諸検査を行ない興味ある知見をえたので報告する。

脈絡膜循環に関する研究—第1報ICG静脈注射による赤外吸光眼底撮影法

著者: 所敬 ,   林一彦 ,   武藤政春 ,   浅原典郎 ,   佐藤公子 ,   吉田種臣

ページ範囲:P.173 - P.179

緒言
 1961年Novotny & Alvis1)により螢光眼底撮影法が開発されて以来,網膜の血行動態,網膜血管の病的変化及び血液網膜関門の状態を知る上に,重要な検査法となつている。しかしながら,この方法にも限界があると思われる。すなわち,網膜色素上皮層のフィルター作用及び脈絡膜毛細血管からの血管外漏出により,脈絡循環を詳細に撮影観察することが困難なことである。特に黄斑部においては,色素上皮層の色素含有量が多いためか,あるいはXanthophyll2,3)のために黄斑部無血管領域での脈絡膜血行状態を観察する事は,全く不可能な状態であつた。
 一方,色素上皮層を通過しうる赤外線を用い,脈絡膜血行動態を観察記録する方法は,1969年Kogure4)らが脳循環の研究に,Infrared Abso—rption Angiographyを用いて以来,眼科領域にも導入され,猿の頸動脈よりIndocyanine Gre—en (以下ICGと略す)を注入し脈絡膜血管の撮影に成功した。しかし,この方法は頸動脈より注入する方法であり,日常臨床に応用するには難点がある。そこで今回は,猿の肘静脈よりICGを急速に注入し,眼底カメラを用い猿の眼底を赤外線カラーフィルムで撮影する方法で,脈絡膜循環動態をとらえるための基礎的検討を加えたので,ここに報告する。

眼底像からみた,いわゆる播種性脈絡網膜炎の病型

著者: 星兵仁 ,   石川靖彦 ,   三田洸二 ,   松田恭一 ,   高橋利兵衛 ,   田沢豊

ページ範囲:P.183 - P.189

緒言
 播種性脈絡網膜炎は,眼底に散在性の病巣を生じ,病期の進行に伴つて,種々な程度の瘢痕巣が混在する特有な所見を示す眼疾患1)とされているが,近年は,本症の主な原因とされてきた結核あるいは梅毒の罹患者の減少と共に,本症に関する報告2,3)は少なくなつている。
 私達は,最近数年間に経験したいわゆる播種性脈絡網膜炎の6例について,眼科的ならびに全身的諸検査を行なつたところ,特に,検眼鏡的および螢光眼底所見から,本症には幾つかの病型の存在が老えられたので報告する。

黄斑部附近の網膜下新生血管に対するアルゴンレーザー凝固—老人性円板状黄斑変性の治療

著者: 広瀬竜夫 ,   J. Wallace

ページ範囲:P.191 - P.198

緒言
 円板状黄斑部変性は,病因を同じくする単一疾患ではなく眼底所見よりとらえられた形態名である。同変性は老人性,遺伝性,先天性変化,強度近視,血管様線条,炎症,腫瘍,あるいは外傷等を基盤として黄斑部網膜下に血管新生,滲出,あるいは出血を起こし,網膜色素上皮または視細胞剥離,あるいはその両者を起こし,最後には黄斑部に円板状瘢痕による中心視力の永久消失を来たす1)。黄斑に瘢痕を形成した例では中心視力を改良する有効な治療法は無い。変性を起こす原因は多様であるが共通した所見はBruch膜の断裂であり,その断裂を通して脈絡膜毛細血管より,生じた新生血管が色素上皮下に増殖し,色素上皮を障害するとともに,さらに視細胞下へ増殖し,色素上皮下,視細胞下に滲出,出血を生じ網膜の変性を起こすと考えられている1,2)
 最近細隙燈顕微鏡検査,眼底立体写真および螢光眼底写真の発展にともない,臨床上網膜下新生血管の確認が比較的容易になり,かつアルゴンレーザーにより,小スポットで効果的に新生血管を凝固しえるようになつて,かつては治療不可能であつた円板状黄斑変性の治療が最近試みられるようになつた3〜5)

光凝固による暗点の縮小について—中心性網脈絡膜炎の症例

著者: 吉田雅子 ,   上野聡樹 ,   吉田秀彦 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.199 - P.205

緒言
 今日では,いわゆる漿液性中心性網脈絡膜炎(以下,中心性網脈絡膜炎と略称する)に対する光凝固療法は,螢光眼底撮影法の普及とも相まつて,広く一般化され確立した感がある。しかしながら,当治療法のもつとも好ましからざる問題点である凝固巣に相当した絶対暗点の性質については,量的に詳しい分析を試みた報告1,2)が少数なされているものの,暗点の経時的消長については未だ報告はなされていない。
 今回,われわれは,中心性網脈絡膜炎に対する光凝固後の凝固巣に相当した他覚的暗点の経時的な消長について,量的な検索を行なつたので報告する。

倒像螢光眼底撮影法による未熟児網膜症の臨床的研究

著者: 木村肇二郎

ページ範囲:P.207 - P.215

緒言
 多くの眼底疾患の診断ならびに病態の解明に,螢光眼底撮影(FAG)が多大の貢献をしてきたことは周知のことである。未熟児網膜症に類似点があるとされている糖尿病性網膜症においてもそうであり,日常の診療においてこのFAGは今や必須の検査法となつている。しかし未熟児網膜症のFAGに関する報告は,わずかにCantolino1),Patz2)らの研究があるにすぎず,わが国においてはまだ見られていない。この理由についでは,未熟児に随伴する呼吸障害などの全身的背景を含めて,検査の施行が容易でないことと,病変の出現部位が耳側周辺網膜に多い点で,通常の眼底カメラによる撮影の困難性が主たるものと考えられる。そこで著者は先に開発した倒像螢光眼底撮影法3)を未熟児網膜症の螢光眼底撮影に応用しうるか否かを検討してみることとした。今回は活動期症例を主体とし,一部瘢痕期症例についても倒像螢光眼底撮影を試み,従来の眼底検査法による所見と併せて検討を加えた結果,本症の病態について若干の知見をえたのでここに報告する。

未熟児網膜症活動期の瘢痕期への推移とその臨床的背景

著者: 高橋美与子 ,   馬嶋昭生 ,   日比野由子 ,   鎌尾憲明 ,   高井みちえ

ページ範囲:P.217 - P.223

緒言
 未熟児網膜症に関する研究はすでに多く,著者らも1972年以来,本症の発生,進行に関する統計的考察を行なつて来た1〜3)
 最近,本症が大きな社会問題としてとりあげられるにおよんで,多くの医療機関から発生に関する統計をはじめ,この1,2年は特に光凝固療法を中心とした報告が数多くなされている。

網膜芽細胞腫の予後—眼球外浸潤をみた網膜芽細胞腫10例についての検討

著者: 山名泰生 ,   高木郁江

ページ範囲:P.225 - P.231

緒言
 網膜芽細胞腫の生命に対する予後は,早期治療が行なわれるようになつて向上してきた1,2)が,なお不幸な転帰をとるものが存在している。死亡原因としては視神経を介して頭蓋内に転移するものが圧倒的に多いことから,摘出眼球の組織学的検索では,視神経断端部だけの検査が重要視され,他の部分のそれはなおざりにされてきたきらいがある。
 今回私達は,九大眼科で1965年から1974年までの10年間に治療した60例(80眼)のうち,眼球外浸潤をみた10例について検討した結果,興味ある知見をえたので報告する。

連載 眼科図譜・219

血族結婚による女性罹患者を含むCongenital Retinoschisisの一家系

著者: 内野允 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.131 - P.132

〔解説〕
 RetinoschisisのうちX染色体劣性の遺伝形式を示すCongenital Retinoschisisは欧米では多数の報告例があるが,わが国における本疾患を有する家系の報告は未だ数少ない。われわれは二世代にわたる4名の患者を有するCongenital Retinoschisisの典型的な一家系を経験した。
 この家系の発端者は48歳の男性で,1973年5月15日初診。左眼は28年前に某病院で網膜剥離の手術を受け,初診時には完全に失明状態で光覚も弁じえなかつた。右眼は黄斑部に色素沈着をともなつた変性が認められ,外側方赤道部に第1図に示す巨大な網膜内層の裂孔があり,この内層裂孔の周囲から後極側に黄斑部の外側まで境界の比較的明瞭なRetinoschisisが確認された。

臨床報告

一次性を疑わしめた二次性片眼網膜色素変性症の1例

著者: 阿部春樹 ,   庭山直子 ,   木村重男

ページ範囲:P.245 - P.250

緒言
 片眼性網膜色素変性症は,1865年Pedraglia14)によつて報告されで以来,すでに内外に多くの報告がある。しかしこれらの中には,二次性のものが多く,一次性のものは極めて少ないように思われる。近年,電気生理学的立場から検討がなされ,厳密な意味での一次性片眼網膜色素変性症の存在そのものについても,疑問が提起された。
 著者らは最近,すべての点で,一次性片眼綱膜色素変性症に一致する症例に遭遇したが,既往歴から二次性網膜色素変性症と,考えざるをえなかつた1例を経験した。以下にその概要を報告し,若干の考察を加えてみたい。

頭蓋咽頭腫臨床像の多様性について

著者: 平岡満里 ,   藤野貞 ,   市田忠栄子

ページ範囲:P.251 - P.255

緒言
 頭蓋咽頭腫は,トルコ鞍上の上皮性の腫瘍で胎生期の頭蓋咽頭管の遺残より発生する。本腫瘍は,脳腫瘍の3〜4%を占めるといわれるが,その発生の機転からみで,小児期に症状をあらわすことが多く,14歳以下では9%を占める1)。しかし,頭蓋咽頭腫68例のうち24例は,50歳以上で初発症状をあらわしたという報告もある2)
 われわれは,片眼の中心暗点ではじまつた成人例,頭痛・発熱・片眼視力障害ではじまつた小児例,外傷後のうつ血乳頭ではじまつた幼児例の3例の異なつた臨床像を呈した頭蓋咽頭腫を経験した。

スルベニシリンナトリウムの点眼による眼内移行

著者: 岩田修造 ,   池本文彦 ,   大久保由紀子 ,   福井成行

ページ範囲:P.257 - P.262

緒言
 スルベニシリンナトリウム,Sulfobenzylpeni—cillin disodium (以下Sulbenicillin 2 Naと略称)は広域の抗菌スペクトルを持つ合成peni—cillinであり,すでに各科領域で臨床上繁用されているが,眼科領域においては本剤の全身投与の他に,点眼による局所投与の形式が考えられる。
 Sulbenicillin 2 Naの眼科領域への応用は,先に三国ら1)が基礎的知見について報告し,生理食塩液に溶解した本薬剤の点眼による眼内分布について述べているが,著者らは本剤の眼内移行についてさらに実験を行ない,まずin vitroでの角膜透過性について定量的検索を行なうとともに,点眼液として調製したSulbenicillin 2 Naを用いて,家兎に対する点眼による眼内分布の動態を実験的に明らかにしたので報告する。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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