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特集 第29回日本臨床眼科学会講演集 (その2) 学会原著
糖尿病性網膜症に対する妊娠の影響について
著者: 福田雅俊1 田村正1 梅津道子1 羽藤史子1 望月学1 本多洋2
所属機関: 1東京大学附属病院分院眼科学教室 2東京大学附属病院分院産婦人科学教室
ページ範囲:P.138 - P.144
文献購入ページに移動妊娠が糖尿病性網膜症に及ぼす影響は,症例報告の形で文献上も散見されるが,概して妊娠により糖尿病性網膜症が悪化すると考えられているという程度で,必ずしも意見の一致をみていない。すなわちHerre, H.D.ら(1965)1)は,妊娠中網膜症の35%は増悪し,22%は改善したと述べ,White,P.(1965)2)は増殖型網膜症をもつ妊婦87例中10例に妊娠初期から眼底出血などの増悪がみられたと報告しているに反し,Pedersen, J.(1967)3)は妊娠により網膜症の悪化するのは極めて稀れで,20年間に3例しか経験していないという。Herreのごとく妊娠中の網膜症の改善をみたという報告も散見される。ところが近年糖尿病の全身療法,管理方法の進歩により,小児糖尿病患者も延命し,糖尿病患者が妊娠する例も増加しつつあり,これにともなつて眼科医が眼底検査を依頼され,網膜症の予後や,妊娠中絶の可否を問われる機会も稀れではなくなつた。しかし前述のごとく定説のないため,成書の記載も不明確で,加藤謙(1971)4)は「網膜症が妊娠により悪化し,妊娠中絶により軽快したとの報告があるが,両者の関係が広く確認されたわけではない」と述べ,大森安恵(1975)5)は,網膜症と妊娠との因果関係を判断するのは困難であるが,妊娠中の網膜症の出現は勿論,以前からあつた網膜症の経過には慎重配慮すべきであるとしている。
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