臨床眼科30巻5号

1976年05月発行

特集 第29回日本臨床眼科学会講演集　（その5）

学会原著

硝子体手術の検討

著者： 杉田慎一郎¹ 中島豊槌¹

所属機関： ¹杉田病院

ページ範囲：P.523 - P.526

文献概要

緒言
　白内障の手術時や外傷等によつて起こる，大量の硝子体脱出後の重篤な合併症は，われわれが時時経験するところである。これによつて硝子体に大きな操作を加える手術法は，危険極まりないものと思うのは当然である。従つて，今日まで，硝子体手術はきわめて限局された方法でしかなかつた。たとえば，脳脊髄液その他の代用液を用いての硝子体の一部置換法である。しかし，出血外傷等のために硝子体内に変化を生じ，広範囲に混濁を生じた場合でも，硝子体の下にある網脈絡膜に障害の比較的少ない場合もある。このような症例においては，硝子体さえ除去できれば，角膜，水晶体を通る光線は，健全な網膜組織に投影され，視力は改善されるはずである。従来から硝子体の混濁を，眼球に大きな損傷を起こさせないで除去する手術法は，多くの術者により地味な苦労の多い道を辿りながら試みられてきた。しかし，1960年にKasnerが，外傷のためにひどい損傷を受けた硝子体組織を，ほとんど全部切り取つて，有効な視力を回復させることに成功し，次いで1963年，さらに1968年，一次性硝子体アミロイドージスに罹患した症例において，硝子体のほとんど全部を切除してかなりの視力をえた症例を報告するまでは，このように積極的に大量の硝子体を切除する方法は，成功をみることはなかつた。