icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科31巻2号

1977年02月発行

雑誌目次

特集 第30回日本臨床眼科学会講演集 (その2) 学会原著

糖尿病性網膜症における黄斑部浮腫の成因と予後

著者: 田村正 ,   福田雅俊 ,   田村正昭

ページ範囲:P.169 - P.174

緒 言
 糖尿病性網膜症における後極部の網膜浮腫は,視機能に重大な障害を与える点で重要な所見の一つである1)。この病変は,眼底の血管の透過性亢進によつて生ずるが,例えば,輪状網膜症の場合のように透過性亢進が血管の一部に限局されている場合2,3),視力に対する影響は,病変が黄斑部にかかるか否かによつて決まる。一方,後極部網膜に広く浮腫の生ずる場合,その基盤となる血管の変化はより複雑であり,視力の経過も症例によつてまちまちで,比較的良好な経過をとるものや,浮腫が消失しながら視力はむしろ低下する場合等がある4)。そこでもし,初診時の網膜血管の状態から視力の経過の予測が出来るものであれば臨床上極めて有用であるが,このことについての我々の知識は極めて乏しい。
 今回著者らは,広範囲な網膜浮腫の原因となつている血管変化の状態と視力の経過との関係を,多数の眼について検討することから,予後について興味ある知見を得たのでここに報告する。

網膜小動脈瘤の7例

著者: 吉岡久春 ,   杉田隆 ,   山口佳生

ページ範囲:P.175 - P.186

緒 言
 網膜の小動脈にみられる孤立性の動脈瘤に関する報告は,古くより,Raehlmann13),Pringle12),Jennings7),Fernandez4),Ballentyne1)らの報告があり,わが国では1969年下奥17)の報告がある。われわれの一人杉田は,1976年第133回九大眼科研究会の席上,同様の3例について報告した。その後二,三の論文18,20,21)が散見されるようになつたが,これらはほとんどが1例報告である。
 多数例の記載は,1973年Robertson15)がその13例について報告したのが最初であり,その後Lewisら9),Nadelら11),Shultsら16),およびClearyら3)がまとまつた症例を報告している。Robertsonは本疾患を一つのclinical entityと考え,網膜小動脈のmacroaneurysmsなる名称で呼ぶことを提唱したが,彼はその判定基準として, ①動脈瘤は第3分枝以内の小動脈にみられること。②その周囲に限局性に出血斑と輪状滲出斑がみられること。③その部に一致し暗点を伴い中心視力が低下すること。④高血圧や動脈硬化症のある高齢者に多いこと。および,⑤動脈瘤は線維化し,特別な治療なく自然寛解することなどをあげている。

眼ヒストプラスマ症とその辺縁疾患

著者: 丸山明信

ページ範囲:P.189 - P.198

緒 言
 眼ヒストプラスマ症は,1942年にReidら1)が全身性ヒストプラスマ症で死亡した患者の眼科的所見を記載したのが最初であり,その後,1959年Woodsら2)が本症の臨床像を確立して以来,内因性ブドウ膜炎の一病因として注目を集め,北米においては多数の報告がある。
 本邦においては,1972年小暮ら3)の一例報告のみであり,果して,眼ヒストプラスマ症が本邦に存在するのか疑問である。

滲出性網膜炎(Coats病)における免疫学的観察

著者: 大岡良子 ,   棚橋雄平 ,   池田伸子

ページ範囲:P.201 - P.208

緒 言
 これまで,発症原因が不明とされている網膜疾患のひとつに,1908年Coatsにより報告された滲出性網膜炎(Coats病)がある。Coats1)は本症を3型に分類し,眼底に血管性病変および出血性病変がみられず,白斑のみを認めるものを第Ⅰ型とし,血管異常や大出血があり,網膜血管瘤を伴うものを第Ⅱ型とし,また眼底に血管腫と動静脈吻合があり,小脳血管芽細胞腫,延髄や脊髄の血管腫,および腎の病変等全身症状を合併するものを第Ⅲ型としたが,後に第Ⅲ型は除いている。その後,本症の原因について,炎症説,非炎症説,血管炎説,感染説,転位性動脈栓塞説等多数の報告がなされ,また病理組織学的には,管腔拡大,管壁非薄化といつた血管異常と炎症像の存在や,網膜下滲出物中におけるghost cellsとcholesterol片の存在等の報告がみられるが,本症の発症機構についての詳細は,今日なお不明である。われわれは,このたび,その臨床所見よりCoats第Ⅱ型と診断した症例において,本症の発症に関して,免疫機構の異常を推測し,発症原因解明の一助とすべく免疫学的見地から,主に細胞性免疫について検索を行つたところ,興味ある知見を得たので,ここに報告する。

網膜芽細胞腫の非腫瘤部の網膜微細構造

著者: 藤原紀男 ,   宇賀茂三 ,   清水敬一郎 ,   石川哲

ページ範囲:P.209 - P.215

緒 言
 網膜芽細胞腫の非腫瘤部の形態学的研究には,Teng等1),松尾等2),中尾等3)のものがあり,種種の未分化な構造やその他の異常構造の存在が報告されている。これらの発生要因については,腫瘍部から出た化学物質によるとする説と,発育上の未分化性を示すものであるとする説とがある。しかし,これまで非腫瘤部におけるこれらの未分化な構造や異常構造を,腫瘤部からの距離との関係について研究したものは見当らない。
 今回,われわれは,網膜芽細胞腫の摘出眼の網膜を,乳頭部より鋸状縁まで連続的に追究し,上記の点を電子顕微鏡的に検討した結果,二,三の興味ある所見を得たので報告する。

フリーズ・フラクチャーおよび超薄切片による網膜色素変性症の電子顕微鏡的観察

著者: 大熊正人 ,   沖波聡 ,   樋端みどり ,   塚原勇

ページ範囲:P.217 - P.230

緒 言
 1966年水野,西田1,2)は,はじめて網膜色素変性症を電子顕微鏡的に観察した。その時点で内外に37の剖検例が報告されていると述べている。その後も若干の剖検例と電子顕微鏡による観察例が記載されている3〜7)が,これらの剖検例の大部分は合併症により眼球摘出を受けたもの,あるいは死後変化の強いものである。しかし続発性変化を伴うものの,徐々にではあるが,新しい知見が積重ねられている。
 著者らも今回網膜色素変性症で絶対緑内障を伴つた1例を電子顕微鏡およびFreeze-Fracture法により観察する機会を得たので報告する。

網膜色素変性症患者の視力予後に関する研究,とくに進行性(長期視力予後)の予測について

著者: 窪田靖夫

ページ範囲:P.231 - P.236

緒 言
 網膜色素変性症の予後は,一般に不良であり,視機能の悪化,とくに視力の低下のために社会生活の中途において転職,失職等のやむなきに至ることが多い。
 一方,少数ながら長期にわたり良好な視力が保持される症例もある。したがつて,初診時に長期視力予後の推定が可能であれば,患者の職業の選択や社会生活の指導等にきわめて有効であるといえる。

比較的急速な視力障害と特異な眼底像を呈した夜盲症

著者: 木村肇二郎 ,   植村恭夫 ,   小口芳久 ,   八百枝浩

ページ範囲:P.247 - P.253

緒 言
 夜盲を示す眼疾患ことにTapeto-retinal orChoroidal Dystrophyは,最近,遺伝学的,代謝の面,さらにはERG, EOG, VEPなどの電気生理学的な面,螢光眼底撮影法,病理学的研究より新しい病型の存在も報告され,また,古典的分類に再検討を加える必要性が提唱されてきている。
 小児期の視覚障害の原因として,欧米においては,Tapeto-retinal Dystrophyが次第に大きな比重を占め,わが国でも漸く小児期のこれら疾患群に注意が喚起されてきた。今回著者らは,7歳の女児で比較的急速な視力障害と特異な眼底像を呈し視野,暗順応,FAGおよび電気生理学的検査により広範な網膜外層の変性疾患と診断されるに至つたきわめてめずらしい夜盲症の1例を経験したので,その特徴的臨床所見および諸検査成績につき述べるとともに他の類似疾患との鑑別についても考察を加えたのでここに報告する次第である。

鈍力外傷による眼底後極部病変の螢光眼底像

著者: 西元雄一郎 ,   益山芳正 ,   原田一道 ,   谷口慶晃

ページ範囲:P.255 - P.263

緒 言
 鈍力による眼外傷に際し,眼底後極部は反衝による外力を受け,浮腫,出血,壊死,組織離断などの病変をきたしやすい。しかし検眼鏡的検査のみではこれらの病変の発生機転など的確な病状の把握は困難なことが多い。そのような場合,著者らは螢光眼底検査を行ない,眼底病変の性状をさらに的確に検索している。
 最近,著者らは眼球打撲により眼底後極部に変化を来たした8症例を経験し,螢光眼底造影法による検討を行なつたので報告する。

Trypsin消化法による未熟児網膜症活動期の血管病変について

著者: 小沢勝子 ,   馬嶋昭生 ,   日比野由子

ページ範囲:P.265 - P.271

緒 言
 未熟児綱膜症活動期の重要な変化は網膜血管病変であるが,従来本症の形態学的研究は組織細片標本がほとんどである。本症の網膜血管変化を重視したものとしては,Ashtonら1)が動物実験を行なつたindia ink注射による研究がある。しかしこの方法では通過性のある血管の有無と範囲が明らかとなるが,india ink注入時に血管腔へ圧が加わるために,実際には通過性のない血管にも色素剤が入る可能性がある。これに対してKuwabaraとCogan2)のtrypsin消化法による網膜血管標本では,通過性のある血管はもちろん,通過性のない血管も明らかとなるの取ならず,血管病変の程度すなわち細胞の状態も判明する。しかし,この方法を用いた本症人眼の研究はKalinaら3)の報告があるのみである。最近は螢光眼底撮影法の発達により,本症網膜血管の螢光色素の通過や透過性の有無という機能的な情報をうることができるようになつたが,螢光眼底撮影法では,造影されない領域がはたして閉塞血管を意味するのかまたは無血管帯を意味するのか判らないという欠点がある。
 われわれは今回,未熟児1例,未熟児網膜症活動期I型2例のみならず,未熟児網膜症II型に光凝固を行なつた1例,合計4例の眼球を検索する機会を得たので,その組織切片標本とともに,trypsin消化法による網膜血管標本を作製した。

連載 眼科図譜・231

眼症状を伴つたLichen Myxedematosusの1例

著者: 計屋隆子 ,   津田尚幸 ,   山之内夘一 ,   穐山富雄 ,   高橋勇 ,   中山巌

ページ範囲:P.160 - P.161

 Lichen Myxedematosusは甲状腺機能異常を伴わないムチン沈着症で,1935年Neu-mann1)がLichen Myxedematosusとして発表して以来Papular Mucinosis2),Sclero-myxedema3),Lichen Fibromucinoidosis4)の病名でも記載されている。欧米では比較的多くの報告をみるが,本邦では中安5),加茂6),設楽7)その他合わせてこれまで10例ほどの文献報告をみる程度である。者らはLichen Myxedematosusの経過中眼瞼浮腫,結膜浮腫および異型中心性網膜炎様の漿液性網膜剥離を生じた症例を経験したので報告する。著者らの調べた限りでは,本症例の如き眼症状を伴つたLichen Myxedematosusの報告はこれまでなかつた。免疫異常を伴つていたことも興味ある点である。

総説

人工眼内レンズ

著者: 深道義尚

ページ範囲:P.163 - P.167

緒 言
 人工的な眼内レンズ,いわゆる人工水晶体移植の歴史は,1949年11月にRidleyが,彼の考案した後房レンズ挿入手術に始まることは余りにも有名である。しかし,この後房レンズは余りにもリスクが大きく,一般化するに至らずに消え去つたようである。
 その後,この眼内レンズの問題は,レンズそのものを後房から前房に留置することで世の注目を集めたこともあつたが,眼球内における固定法や,眼内組織,特に角膜に対する障害の強いことで,ほとんど忘れ去られることが多かつたようである。初期の頃の前房レンズで,今日も使用されているのは,Choiceのレンズのみである。

臨床報告

Coherent Radiationアルゴンレーザーコアグレーター−システム900について

著者: 馬場賢一 ,   天野清範 ,   藤田邦彦 ,   野寄喜美春

ページ範囲:P.285 - P.291

緒 言
 システム900コアグレーターは光学的問節を利用したシステム8001)の改良型で,レーザー発振部と凝固用光学系の間にファイバーオプティックスを伝達系として用いたものである。すなわらシステム800の特徴に加えて,伝達系の損失が少ないために,最大出力の増加(角膜上で2W),それによる最大凝固サイズの拡大(2,000μ),フレキシビリティの増加による操作性の改善などがあげられる。

人工透析を行なつた腎炎性網膜症の1剖検例

著者: 岡義祐 ,   猪俣孟 ,   生井浩 ,   熊野誠是 ,   中村定敏

ページ範囲:P.293 - P.300

緒 言
 慢性腎不全例に対する人工透析の臨床的価値が不動のものとなり,わが国においてもようやく好成績が得られるようになつて来た1)。しかし人工透析による慢性腎不全例の長期延命,社会復帰が可能になるとともに,眼科学的にもいくつかの間題が生ずるに至つた。すなわち人工透析による腎炎性網膜症の病態の変化および視機能に及ぼす影響がそれであり,それらの問題点を十分に検討することが人工透析の成果を完全ならしめる上に必要となつて来た。
 しかしわが国における人工透析の歴史はまだ浅いため,これらに関する研究は非常に少い。とくに眼球の剖検まで行なつた例は,われわれの発表以来,山之内2),高橋3)の報告を入れて,わずか4症例にすぎない。

カラー臨床報告

Ligneous Conjunctivitisの1例

著者: 有賀和雄 ,   新富芳子

ページ範囲:P.277 - P.283

緒 言
 Ligneous conjunctivitisは,1924年,Ligo-Paviaにより初めて記載され,1935年Borel1)によりLigneous conjunctivitisと名づけられた。本症は,慢性で再発を返繰す偽膜性結膜炎のきわめてまれな型で,一般に両眼の瞼結膜に肥厚した偽膜を形成し,しばしば角膜障害を伴ない,まれに角膜穿孔を起し失眼にいたることがあるといわれている2,3)。現在までにその報告例は100例にも満たず,本邦では,小口4)が,慢性義膜性結膜炎の名のもとに記載した2例の兄弟例の報告があるのみである。1968年François等2)は,本症の偽膜の組織化学的検索により,酸性ムコ多糖体の異常沈着を証明し,α-キモトリプシン,ピアルロニダーゼの局所療法が有効である事を述べている。
 今回,我々は,本症の典型例を経験したので,その臨床所見と治療成績を記載し,さらに,偽膜組織を組織化学的ならびに電子顕微鏡的に検索したので併せ報告する。

GROUP DISCUSSION

第18回緑内障

著者: 須田経宇 ,   澤田惇

ページ範囲:P.301 - P.304

〔主題〕対緑内障手術
I.Trabeculotomyについて
〔指名発表〕
Trabeculotomy ab externa (映画供覧)
 トラベクロトミーの映画は私どもの用いているZeiss6型で約10倍の大ききにしか撮影出来ない。殊にシュレム管を探すため角膜から徹照する方法は暗いので,拡大は小きく,1秒間1〜2コマで撮影しているが,実際の手術は30倍で行なつている。トラベクロトミーの難点は,シュレム管の発見がなつかしいことであるが,強膜を厚く剥がしシュレム管外壁にすれすれになるようにするのが「こつ」である。強膜の内面に毛様体のあるような強膜部分から剥離をはじめると,下に毛様体があるので穿孔することが少ないので手術がやりやすい。シュレム管らしきものを見つけたならば,それより角膜方向に向つての剥離は,少し浅くした方がよい。そうでないと前房に切りこむことがある。このためには少し段が出来るが,レーザーのようによく切れる鋭利なものがよいように思う。シュレム管を両側にひろく観音びらきにすると,シュム管の内壁がよく観察出来るしUゾンデをのせることが容易である。このようにしてもうまくゾンデがシュレム管に入つてゆかないことがある。ゾンデの重さでシュレム管内壁が前房の方にたわんでいるとか,シュレム管にseptumがあるためであろうかと思われる。(臨眼30巻3号,眼税18巻6号を参照。)

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?