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雑誌目次

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臨床眼科32巻2号

1978年02月発行

雑誌目次

特集 第31回日本臨床眼科学会講演集 (その2) 学会原著

白内障術後嚢胞状黄斑部浮腫の実態(第1報)

著者: 山元力雄 ,   木村好美 ,   尾崎吏恵子 ,   山岸直矢 ,   井上まち子 ,   高橋義公 ,   深尾隆三 ,   永田誠

ページ範囲:P.209 - P.215

緒 言
 白内障手術後の嚢胞状黄斑部浮腫(以下C.M.E.と略記)については,Irbine,Gass & Nortonが報告して以来,欧米において多くの報告が,みられるが,その発生因子について,いろいろな説が,発表されていて定説がないのが現在の状態である。また本邦においても,吉岡以来数人の報告をみるが,いまだその実態についての概念が確立されたといえない状況である。
 著者らは,最近,日本人における本症の実態を知るために,主に老人性白内障患者を対象とするProspective studyを試みた。まず白内障手術の種類によるC.M.E.発生の差異を検討するため,冷凍嚢内摘出術,計画的嚢外摘出術,KelmanのPhacoemulsificationによる嚢外摘出術を行ない,各群につき,年齢別に,術後経過を系統的に観察し,また4週から6週の間に,螢光眼底写真撮影(以下F.F.A.)を行ない,検討を加えた。

水晶体摘出後の嚢腫状黄斑部浮腫発生に対するProstaglandinsの関与性(Ⅲ)

著者: 三宅謙作 ,   坂村静子 ,   三浦花

ページ範囲:P.217 - P.222

緒 言
 水晶体摘出術後の嚢腫状黄斑浮腫(以下CME)の成因は不明である。本疾患は本邦人のごとき有色人種には少ないとする誤つた見解があつたが最近著者等のprospcctiveな検討3)で明らかなように,本邦人でも欧米と同様の発生様態を呈すること,また最近一般化しつつある人工水晶体挿入後の合併症としても,注目をあつめており,その成因を明らかにし,治療法を確立することが臨床上重要な問題となつてきた。
 従来,低眼圧説4),硝子体索引説5),炎症説6)などが提案されてきたが,いずれも不完全である。最近では炎症説が比較的多数の研究者の支持を得ているが,眼球前部に与えられた手術的刺激により,なぜ眼球後極部に病変が発生するのか,手術的刺激とCME発生との時差をどのように説明するのか等の問題点が存在する7)

特発性網膜前黄斑部線維症における大視症の臨床的意義

著者: 吉岡久春 ,   上原真幸

ページ範囲:P.223 - P.231

緒 言
 Wiseは1),網膜内境界膜のwriklingを主要所見とする網膜前黄斑部線維症という疾患の概念を明らかにし,これには特発性と続発性のものがあることを述べた。この網膜前黄斑部線維症は網膜内境界膜付込が病変の場と考えられている比較的新しい黄斑部疾患として近年注目されるようになつた2〜13)
 本症の自覚症状としては,従来,視力障害,変視症,小視症,中心暗点,稀に光視症などがあげられているが,これらの発生機序についてはほとんど説明がなされず,しかも不明な点が多い。著者らは本症に大視症を訴えた症例を経験したので,以来注意して本症における大視症の有無を検査した結果,本症の自覚症状として従来全く記載のない大視症が,かなりの頻度に存在することを見いだした。

Triangle症候群と黄斑部病変—とくに漿液性中心性脈絡膜症との関連において

著者: 佐藤圭子 ,   三木徳彦 ,   佐藤孝夫

ページ範囲:P.235 - P.241

緒 言
 後毛様動脈の閉塞による脈絡膜虚血の結果生じる扇形の脈絡膜萎縮をTriangular shaped choro-idal alteration(Amalric)1,2)として報告されて以来,臨床的,実験的知見が加えられてきている。また一方,教室の三木ら3)は,漿液性中心性脈絡膜症の主病因として脈絡膜循環障害の存在を主張してきたが,今回,著者らはTriangle症候群を有する眼底に,黄斑部の限局性漿液性網膜剥離と,螢光眼底血管造影により円形拡大型あるいは噴出型の螢光漏出が認められた7例を経験したので,漿液性中心性脈絡膜症の成因と相まつて,両病変の発現機構に共通の基盤があることを提言すると共に,黄斑部脈絡膜循環と特定領域の脈絡膜循環との関連性についても検討を加え,ここにその大要を報告する。

アルゴンレーザー光凝固による後極部疾患の治療について—その2 血管病変(新生血管の凝固)

著者: 天野清範 ,   藤田邦彦 ,   落合富士也 ,   千代田和正

ページ範囲:P.243 - P.249

緒 言
 アルゴンレーザー光の特性である高エネルギー密度,強集束性,小凝固点の得られることなどを利用して,後極部疾患の精密凝固が安全かつ確実に行なわれることは既に述べた1)が,更にこれらの特長に加えて1960年代の終りよりL'Esper-ance2)が主張した如く,アルゴンレーザー光の波長が血液のヘモグロビンへの吸収率の高いことを考慮して,血管病変の凝固にも応用されている。血管病変の光凝固の目標は血管壁であり,現在ではこの理論は必ずしも正当とは考えられないが3),アルゴンレーザー光凝固の病的血管の凝固効果については,多くの人々により報告されている。
 今回,過去1年間に行なつたアルゴンレーザー光凝固の症例のうち,血管病変特に新生血管の凝固を行なつた症例につき,凝固条件および凝固結果を検討したので報告する。

毛様網膜動脈閉塞を伴う網膜中心静脈閉塞症の1例

著者: 高橋洋司 ,   星兵仁 ,   松田恭一 ,   田沢豊

ページ範囲:P.253 - P.259

緒 言
 最近,著者らは網膜中心静脈閉塞症の所見を伴つた毛様網膜動脈閉塞症の症例について,発症初期より長期にわたる経過を観察する機会を得た。本症例と類似の報告は,著者らの調査し得た範囲内では欧米で13例1〜2),本邦で2例3)を数えるのみであり,しかも発症後極く初期の検眼鏡所見および螢光眼底所見をとらえたものは少ない。今回の症例は,自覚症発生から約3時間後に初診しており,その特異な螢光眼底所見は他に類例をみない。
 本稿ではこの症例の経過を詳細に報告し,更に網膜と脈絡膜の循環,および相互の関係を明らかにすることによつて,網膜中心静脈閉塞と毛様網膜動脈の循環障害との関係を論じ,本症候発生の本態解明を試みた。

血液凝固系から網膜循環障害へのアプローチ—その2 特に糖尿病性網膜症のretinal ischemiaと血小板凝集能,過酸化脂質について

著者: 大塚裕 ,   島野葉子 ,   忍足正之 ,   石川清

ページ範囲:P.261 - P.269

緒 言
 著者らは,前回の第30回日本臨床眼科学会1)において,網膜微小循環障害における血液凝固系亢進の関与がきわめて大きい要因の一つであることを報告した。
 現在多くの研究者が,糖尿病性網膜症が血管閉塞性の病変である点で一致しており,著者らは,糖尿病性網膜症をとりあげて,網膜循環障害として重要な役割をしめるretinal ischemiaと血小板凝集能および血清過酸化脂質の関連性について,検討したので報告する。

病的近視の後極部眼底病変

著者: 林一彦

ページ範囲:P.271 - P.284

緒 言
 病的近視の後極部眼底病変は,進行性の変性萎縮性変化が主体であると考えられているが,その病態はさまざまである。従つて視機能障害もその病態により異なるものと思われる。検眼鏡的にみられる後極部眼底病変は,境界が不鮮明なびまん性病変と,境界が鮮明な斑状病変に分けられるが,両者が同一眼にみられることも稀ではない。しかし,これらの病変の病態及び視機能障害の程度との関連性については明確でなく,またお互いに移行するか否かについても明らかでないのが現状である。従つて,以上の点を解明することは,病的近視にみられる後極部眼底病変の進行過程ひいては,予後を推定する上で重要であると思われる。
 従来より病的近視の後極部眼底病変について検眼鏡所見を中心に種々の報告がある1〜6)。Novotny及びAlvis7)により螢光眼底検査法が開発されて以来,これを用いて各種の網膜疾患に対する研究が行なわれ,強度近視における網脈絡膜病変についてもKlein及びCurtin8), Levy9),袖野10)などにより興味ある結果が報告されている。一方,後極部眼底病変と眼軸長との関連性については,Curtin及びKarlin11),著者12)らの報告がみられるが,眼底病変をびまん性病変と斑状病変に分けての検討はなされていない。しかも,これら二つの病変について螢光眼底造影所見と眼軸長その他視機能障害などより総合的に検討した報告もみられない。

眼トキソプラズマ症患者の妊娠対策

著者: 鬼木信乃夫

ページ範囲:P.285 - P.292

緒 言
 眼トキソプラズマ症患者の妊娠中の再発はもちろんのこと,患者の妊娠にあたつてどう対処すべきかは眼科医にとつても重要な課題となり,最近のPerkins1)の総説でもこの問題を重視している。先天性トキソプラズマ(以下トキソ)症は何らかのルートを通じて感染した母親から胎盤を経て胎児に移行することにより発生する。したがつて,明らかに眼底にトキソ性病変を有した女性患者が妊娠した場合,先天性トキソ症が発生するのではないかという危惧に悩まされる。こういう場合,妊娠を続行させてもよいのか,または妊娠を中断すべきなのかという問題に対して明確な指示を与えた論文は,いまだかつて報告されていない。
 著者は,本症を研究し始めた頃,貴重な2例(症例1,2)の本症患者の妊娠を経験することができた。その経験より「若い母親で,しかも妊娠中抗体価が上昇しないものにかぎり妊娠を続行させてもよいのではなかろうか」という大胆な仮説のもとに,その後,6症例11回の本症患者の妊娠を体験した。ここでは全症例13回の出産成績を紹介し,眼トキソ症患者の妊娠対策について論じてみたい。

ベーチェット病における免疫増強療法

著者: 大野重昭 ,   大口正樹 ,   松田英彦 ,   杉浦清治

ページ範囲:P.293 - P.300

緒 言
 未知の原因で発病するベーチェット病は,慢性遷延性経過をたどり,その視力予後は不良である。これまで免疫抑制剤1)やコルヒチン2,3)ほか多くの治療法が試みられてきたが,いずれもその治療効果は満足できるものではない。従来の治療法は,免疫抑制剤やコルチンを含めてもつぱら生体の機能を抑制する方向での治療法であつて,本病のような慢性遷延性の疾患には真に適当な治療法とはいえない。
 むしろ生体の機能を賦活するような治療法が求められるべきであろう。近年免疫学の進歩により,ある種の疾患において非特異的免疫増強療法が著効を示すことが知られてきた。

Behçet病の抗凝固療法について

著者: 安藤文隆 ,   松捕雅子 ,   佐竹成子 ,   加藤美代子 ,   鯉江捷夫 ,   神谷忠 ,   緒方完治

ページ範囲:P.301 - P.307

緒 言
 Behçet病患者のブドウ膜炎発作のmechanismは未だ不明であるが,Chajek1)はフィブリノゲン量の増加,血液凝固第Ⅷ因子活性の著明な亢進を報告した。わが国でも,中山2)が血小板粘着能および血小板のADP凝集能の亢進している症例の多いことを報告している。
 一方,Behçet病患者では,血沈値の促進している症例の多いこと3)はよく知られているが,我我は,この血沈促進因子として,フィブリノゲンが最も高い正の相関関係にあることを既に報告した4)。そしてさらに血液凝固能については,血小板凝集能の亢進,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の短縮傾向,フィブリノゲン量の増加,血液凝固第Ⅷ因子(AHF)活性の増加が見られるなど,一般に凝固亢進状態にあり,またhemocoagulaseの筋注により症状の悪化すること5)も知つた。さらに,眼症状の寛解時と発作時についてみると,特に発作時にAHF活性の亢進が著明で,同時に測定したAHF様抗原量はさらに増量しており,眼局所における血栓形成傾向を裏づけていることも報告した6)

眼サルコイドーシスの網膜血管変化について—走行異常および血管瘤形成

著者: 池間昌陸 ,   宮本文夫 ,   鎌田龍二 ,   岡村良一

ページ範囲:P.308 - P.310

緒 言
 眼サルコイドーシスの所見とくに網膜血管の変化については,わが国でも多数の報告がみられ本症の重要な所見の一つとされている。著者らも現在,経過を観察している35例の眼サルコイドーシスの患者のうち17例に網膜血管炎その他の血管病変を認めている。そのうち6例に網膜血管周囲炎に合併して起こつたと思われる特徴のある限局性の血管の走行異常を認めた。この変化は,これまで本症の診断に役立つ特有な所見といわれる網膜静脈周囲炎や網膜の浸出斑につけ加えられるべき所見ではないかと考えたので,その変化について報告し,乳頭表面に血管瘤形成をみた比較的まれな1症例についても併せて報告してみたい。

ベーチェット病の病変経過の免疫学的検索—主にT細胞の機能について

著者: 橘川真弓 ,   棚橋雄平 ,   杤久保哲男 ,   大岡良子

ページ範囲:P.311 - P.317

緒 言
 Behçet病は,1937年イスタンブール大学皮膚科Behçet1)が眼症状,皮膚症状,陰部潰瘍を一疾患単位として記載し,その症状の多彩性と再燃性を特徴とする慢性炎性疾患とされて来た。本症は第二次大戦後日本において,世界諸国の発生率を更に凌駕する異常な急増多発傾向を示し,かつ各種の治療手段に抵抗性を示す屈指の難病として,1972年度厚生省特定疾患に指定された。本症の成因に関し眼科領域においても古くは,結核説,ブドウ球菌アレルギー説,敗血症説等があげられ,その後疫学的,生化学的多方面からの研究がなされているが,まだその詳細は不明であり,本症の発症機構に直接関与する病原因子の検索は今後増々重要視されて来ている。近年本症における免疫血清学的検索2)や病巣付近の二,三の検索3〜5)が(諸家により)活発に行なわれ,免疫機構の関与が示唆されてはいるが,いまだ本症との関連性については解明されていない。今回,著者らは本症の患者に体液性免疫におけるImmunogloblinの増加を認めたことより,何らかの免疫機構の関与があるのではないかと考え,本症の原因解明の一助とすべく,発作期・緩解期について,細胞性免疫特にT cellの機構について検索し興味ある知見を得たのでここに報告する。

連載 眼科図譜・243

視力の良好な朝顔症候群の1例

著者: 浜田幸子 ,   井上英幸 ,   松田久美子

ページ範囲:P.196 - P.197

 1970年Kindlerによつて始めて朝顔症候群が発表されて以来,散発的に同様の症例が報告されて来た。朝顔症候群の特徴の一つとして,Kindlerは中心窩は正常と述べているが,報告されたほとんどの症例の視力は非常に悪い。たとえばKindlerの症例中,中心窩は正常で,もつとも視力のよいものは0.2であり,Krauseの報告した中心固視のある症例は,視力が0.4,植村の症例中,黄斑部正常,中心固視のある1例は0.3,他の1例は0.5である。最近われわれが経験した朝顔症候群の1例は,視力が0.9で,このようによい視力の報告は,今迄にない。視野もほぼ測定可能であつたので報告する。
 症例は9歳の男子で,1976年秋,学校検診で左眼の視力障害を指摘された。既往歴としては,10カ月で正常に生まれたが,2歳頃よりてんかんの発作があり,現在迄抗てんかん剤を使用している。

眼科臨床レントゲン診断学・2

撮影法(その2):横軸方向および視神経管撮影

著者: 戸塚清

ページ範囲:P.342 - P.343

横軸方向撮影法
 この撮影を行なう場合には,頭部をフイルムカセッテ面にたいして横向きとし,頭部の正中矢状面をフイルム面に平行させる。そこで上方から中心X線が投下されるわけであるが,この方向が実際に頭部のどの部分を通るかによつて,でき上る写真に微妙な差が生じる。もし左右眼窩がちようど重なつて見通せるような写真が希望なら,中心X線が左右とも,外耳孔と同側の眼窩外縁の最陥凹点とを結ぶ直線の中点を通るようにしなければならない。またもし左右眼窩の影像は多少ずれても,トルコ鞍の輪廓が1本のきれいな線をなすような,そういう写真を希望ならば,中心X線が両側とも外眼角と耳珠とを結ぶ線の中点上,1/2〜21/2cmの点,あるいは外耳孔の上縁点と眼窩外縁最陥凹点とを結ぶ線の,後寄り2/5の点を通るようにしなければならない。一般的にいえば,前者の方法による方が良いと思うが,これによつたからといつて,常に左右の眼窩が正確に重なつたきれいな写真が撮れるとは限らない。多少はずれがある写真になつてしまうことが多い。
 この方向の写真は読影が極めてむずかしいといわれる(図1),しかし強調したいのは,この写真が,前掲の後→前方向の写真と一対になつて効果を発揮する点である。この写真では両方の眼窩が横に列んで投影されている。どちらの方がフイルムに近い眼窩の影像かは,その影像の鮮鋭度と拡大度の差で区別する。

眼科動物園・7

遺伝性白内障マウス(その1)

著者: 岩田修造

ページ範囲:P.344 - P.348

 一般に獣といわれる動物は,全世界で約3,500種が生息し,その中でネズミ族は1,765種の約半分である。このネズミ族はドブネズミ(Rat),ハツカネズミ(Mo-use),そしてハタネズミ(Vole)に大別される。ラットと呼ばれて実験動物に用いられるものは,ドブネズミが白化し,順化したシロネズミのことである。
 一方,実験用愛玩用として飼育されるマウスとは,廿日鼠(Mus musculus molossinus)属の中の体の小さい白化したネズミのことを指し,どぶねずみなどにくらべて非常に愛らしいものである。だからかどうか知らないが,英語の辞書には女性のかわいい子,よい子の愛称語としてmouseが記載されている。

総説

網膜色素変性症の遺伝と臨床

著者: 大庭紀雄

ページ範囲:P.199 - P.207

はじめに
 網膜色素変性症がいわゆる難病であることは多言を要しない。しかし,多くの研究者のたゆみない努力により,近年の基礎的および臨床的知識の集積は目をみはらせるものがある。最近もいくつかのすぐれた総説もしくは解説が内外にみられる3,8,13,21,32,33,34,37,38,41)。本稿においては,網膜色素変性症の臨床遺伝学に関する動向をさぐつてみたい。

臨床報告

持続性ステロイドの後部テノン嚢下注射によるブドウ膜炎の治療法の検討

著者: 大野重昭 ,   大口正樹 ,   松田英彦

ページ範囲:P.332 - P.336

緒 言
 ブドウ膜炎には原因の不明なものが多く,その診断や治療には困難をきわめることが少なくない。しかしこれらを症候学的に大別してとらえ,必要最小限の臨床検査ののらに,各群ごとに適した治療法を確立してゆくことは,ブドウ膜炎という複雑な病因のからみあつた疾患の臨床的解明に大きな助けとなり,ブドウ膜炎の本態の究明とともに大切な点と考えられる。
 著者らはこれまでベーチェット病や各種ブドウ膜炎の治療法について検討してきた1〜3)。今回は,眼疾患の治療において最もよく使われる薬剤のひとつであるステロイド剤をとり上げ,その局所注射法につき検討を加えてみた。本邦においては,テノン嚢下注射は結膜下注射に比して余り重要視されていないが,著者らは持続性ステロイドを後部テノン嚢下に投与し,ブドウ膜炎の治療に良好な成績を得たのでここに報告する。

Kearns-Sayre症候群の1例

著者: 平岡満里 ,   市田忠栄子

ページ範囲:P.337 - P.340

緒 言
 Kearns-Sayre症候群は,その三徴候を外眼筋麻痺,網膜色素変性症,心ブロックと,定義されている1)。我が国での本症例の報告は,少なく2),その不全型,移行型と思われる症例もあるものと思われる。先に佐橋ら3)がパーキンソニズムを伴つた神経筋疾患の一例として,カテコールアミン代謝異常を示唆した報告を行なつたが,著者らは,この症例の眼科的臨床所見について詳述し,若干の文献的考察を加えてみた。

カラー臨床報告

Iris medallion lens挿入後にみられた角膜内皮ジストロフィーの1例

著者: 西興史

ページ範囲:P.327 - P.331

緒 言
 1957年Binkhorstが従来の人工水晶体の改良型である,Iris clip lensを使用することによつて,人工水晶体は実用化の時代に入り,現在オランダを始め,ほぼ全世界で広く使用されるに至つた。わが国では,竹内1),早野2),永田3),菅4),深道5),清水,三宅,杉田,西6)らが報告しているが,実際にはもつと多くの人が行なつていると思われる。合併症の防止や治療,また最終的な術式が充分確立されたとは言えないが,現実にその便利さについては,コンタクトレンズと両方経験した患者の言によつても裏付けられるように,比較にならぬ程,人工水晶体が良いと思われるので,今後術式の改良と共に広く普及すると思われる。
 特に人工水晶体挿入自体によつて起こされる合併症中でもつとも恐れられているのは,角膜内皮ジストロフィー,Endothelial corneal dystrophy(以下ECDと略す)である。ECDは外国の文献によると0%7〜13)〜9.22%に発生を見ているが,わが国では,その報告はほとんどない。著者は,現在迄に,WorstのIris medallion lensを35眼(観察期間1カ月〜1年半)に挿入したが,その内1例に典型的なECDの発生を経験したので,文献的考察を含めて報告する。

国際眼科学会に向けて

メイン・レポーターの横顔—「網膜色素上皮」への期待

著者: 宇山昌延

ページ範囲:P.349 - P.350

 網膜色素上皮は,網膜の最外層にあるわずか一層の細胞で,脈絡膜との境であるBruch膜の上に一列に並んでいる。Bruch膜をへだてて脈絡膜毛細血管板があり,また色素上皮細胞のすぐ上には視覚の第一歩としてもつとも重要な視細胞がある。眼球の組織標本を光学顕微鏡でみるとこの細胞は網膜の最外層に,茶褐色の色素—メラニン顆粒—を多数含んだ褐色の列としてみえ,眼杯の外板すなわち神経外胚葉から発生した上皮細胞である。この細胞の機能として従来から,①眼へ入つた光線を吸収すること(光の散乱を防ぐ)。②ビタミンAの貯蔵と再生(視細胞外節にある視紅の代謝に関係)が知られていた。さらにこの10年位の間に,電子顕微鏡を主とした基礎的研究によつて,③視細胞外節の周囲をうめる粘性多糖類の生成,④網膜脈絡膜間の栄養,代謝産物の輸送,⑤視細胞外節の貪食と消化,⑥脈絡膜網膜関門,など重要な様々の機能をもつことがわかつて来た。
 また同じ頃,螢光眼底造影法によつて従来全くしられなかつたいろいろの網膜色素上皮の病変がわかり,臨床家にも注目を集めるようになつた。例えば,われわれになじみの深い中心性網膜炎(漿液性中心性網膜症)は網膜色素上皮の病変によつて発病することが明らかになつたし,さらに網膜色素上皮剥離や,網膜色素上皮症,網膜色素上皮炎など耳新らしい病名が次々と生まれている。

追悼

中泉行正先生を悼む

著者: 須田経宇

ページ範囲:P.351 - P.353

 中泉先生からは昭和3年から50年間御厚誼を賜り,公私共に御指導を頂いていたので,想出は数限りなくあり,語り尽せないが,その一端を述べてみようと思う。
 戦後の荒廃から立ちなおろうとした昭和26年,故黒沢潤三博士と共に日本眼科医会を復興させ,昭和41年会長となり,昭和47年辞任されるまで実に20有余年本会のため日夜尽力されたのであり,それ故にこそ衆議一決して名誉会長にご推薦いたした次第である。

中泉行正先生を偲んで

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.354 - P.354

 中泉行正先生とのおつきあいは,筆者が大学を出て石原忍先生の眼科教室に入つた昭和6年以来であるから,約50年に近い年月といえる。先生は大正11年(1922)に医学部を卒業されたので,筆者の9年先輩に当られるわけで,いわば大先輩であつた。従つて入局当時は東大眼科の同窓会や,医局の催しでお目にかかるぐらいで,親しくおつきあいを願えるという間柄ではなかつた。
 しかし,昭和12年に筆者が石原先生の下で助教授を拝命してからは教室の種々な問題について先輩との間の交渉役のような役目を引き受けることになり,中泉先生とも頻繁にお会いする機会があるようになつた。当時の先輩の中で石原先生の信任の最も厚かつたのは黒沢潤三博士であつたが,同博士は医政にも広く活躍をされた方で,後には日本医師会長にもなられたぐらいであるから,何かにつけ石原先生の相談役になつておられた。その黒沢博士に常に密着して「影の形」に対するように行動しておられたのが中泉先生であつた。黒沢博土は中泉先生の1年先輩であつたので,恐らく中泉先生は眼科教室員として入局後,何から何まで黒沢博士の指導を受けられたのであろう。従つてお二人は兄弟のような形で万事行動を共にされたようである。その黒沢博士が案外早く,病魔にたおれられたので(昭和41年),中泉先生はそのあとの多くを引継がれることとなり,日本眼科医会会長になられたのもその一つであつた。

中泉行正先生御逝去を悼む

著者: 田中強

ページ範囲:P.355 - P.355

 大寒の日,1月20日午後5時30分,なつかしい中泉行正先生は,遂に80歳の寿命を終られました。晩年,宿痾のため,再三入退院をしておられたので,この度も間もなく,快癒されるものと思つておりました。
 病篤しと聞いてその日,午後4時過ぎ上野先生と二人,お見舞に御病室を訪れたのでした。もうその時は,お目にかかる事は出来ませんでした。悲しい極みであります。いつまでも生きて頂きたかつた先生でした。思えば私は公私ともに,30数年来先生にお世話になつたものです。大東亜戦争も落目になつた頃,今のがんセンターである元の海軍々医学校に,戦備用の恩賜の義眼の製造に,都市ガスの増配が必要であると,おいでになつた時からでした。御承知のように,義眼についても権威者でした。

中泉行正先生を偲んで

著者: 三島済一

ページ範囲:P.356 - P.356

 去る1月20日,アメリカのラスヴェガスで学会に出席中,中泉行正先生の御逝去の報に接した。第二次大戦後の日本眼科の歴史を築いて来られた先生を失い,日本眼科の1つの時代が先生と共に終つたとの感を禁じ得なかつた。五月に行なわれる国際眼科学会に対しても,多くのアドヴァイスをいただいたし,また先生の畢生の事業である一新会から,石原先生の色盲表を出品されることを楽しみにしておられたのに,後わずか3カ月ばかりのことで,この日本眼科の大事業を御覧になることができず,誠に残念なことである。
 私が大学を卒業して眼科に入つた頃から,関東および東京眼科集談会や東大同窓会でお会いするたびに,激励の言葉をいただいたことを思いだす。何時もにこにこしておられ,若いわれわれに対しても,非常に丁寧で,腰のひくい先生で,話しかけられるたびに恐縮していた。当時若いわれわれには,先生の事業のくわしいことは知ることができなかつたが,研医会図書館を,どの大学にもない立派なものに完備されて,われわれのために提供されたり,日本の医学史に御造詣が深く,質問すると即座にくわしく教えて下さつたりしたことなどから,えらい大先輩として畏敬の念をいだいていた。何かを御願いすると,必ず非常に御丁寧な手紙が帰つて来て,その度に恐縮していた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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