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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科33巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

特集 第32回日本臨床眼科学会講演集 (3) 学会原著

網膜周辺部の糖尿病性病変

著者: 村岡兼光 ,   小林義治 ,   北川道隆

ページ範囲:P.425 - P.439

緒 言
 螢光眼底造影法による糖尿病性網膜症の基本的な病態の解析は,所見の客観的記録を行ないやすい後極部については,多くの研究があるが,周辺部をも含めた眼底全体における糖尿病性網膜症の病像は,極めて不完全にしか把握されていない。糖尿病性網膜症の視力の最終予後を最も左右する硝子体出血および増殖性変化には,新生血管の有無が大きく関与しており,新生血管が乳頭は別として,眼底周辺部に好発すること,ならびに,近年提唱されている光凝固手技のひとつpanretinalphotocoagulationが全眼底を対象とすることからも,糖尿病性網膜症における眼底周辺部の関与は重要な研究課題である。われわれは,独自に開発した高解像力・広画角のパノラマ螢光眼底造影の手技を本症の多数例に応用検索することにより,準周辺部眼底での網膜血管病変が,重症糖尿病性網膜症での基本的な変化であること,ならびに,これが新生血管の出現と密接な関連をもつことを知つた。本知見は良性網膜症と悪性網膜症とをつなぐ重要な鎖の一環をなすものと考えられ,以下にその大要を報告する。

いわゆる"Congenital retrolental fibroplasia"の病理組織所見

著者: 大河内雄幸 ,   酒井寿男 ,   上野真

ページ範囲:P.441 - P.446

緒 言
 未熟児網膜症がTerry1)により報告されて以来,その発生,進行に関して,特に生下時体重,在胎期間,酸素使用等が主要因子と考えられ,数多くの研究が行われて来た。また,近年,未熟児網膜症が社会的にも大きな問題となるにつれて,未熟児のみならず成熟出生児の眼底検査もしばしば行われる様になつた。
 この様な酸素未使用の成熟児に,未熟児網膜症活動期および瘢痕期類似の所見を示した症例の報告2〜4)があり,Karlsberg ら2)は"congenital re-trolental fibroplasia"と報告している。しかし,これらが本来の未熟児網膜症と全く同じ発生機序,病態かについては明らかでない。今回,肉眼的に未熟児網膜症瘢痕期3度類似の所見を呈する眼球の剖見を行つたので,その病理組織所見の発表を行うと共に,従来の報告例についても検討を行つた。

漿液性髄膜炎を伴う網脈絡膜疾患の数例

著者: 小原博亨 ,   成木黎 ,   神谷貞義 ,   真野清子 ,   桑山和加子

ページ範囲:P.447 - P.455

緒 言
 Leptomeningitisは細菌,真菌,原虫,Virusなどによる感染性髄膜炎と,Sarcoidosis, Behçet症候群,癌性髄膜炎等の非感染性髄膜炎とに大別されるが,非細菌性でしかも,髄液に炎症性反応が見られるものを総称して漿液性髄膜炎(SeröseMeningitis)または無菌性髄膜炎(AseptischeMeningitis)というが,Vogt−小柳−原田症候群およびBehçet病はSeröse Meningitisを伴うとされているが,著者らはVogt−小柳−原田症候群およびBehçet病を除いた網脈絡膜炎を伴う眼疾患で,Seröse Meningitisを伴う症例を5例報告したい。

いわゆる"Idiopathic"triangular syndromeの活動性病変

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.457 - P.467

緒 言
 Triangular Syndromeの活動性病変について全身疾患または眼局所病変(手術,外傷,光凝固など)に続発するものに関しては多数の報告1〜14)がある。これらの報告によると眼底変化として島状から三角形状あるいは境界不鮮明な網膜深層の白色混濁および漿液性網膜剥離がみられ,急性の経過をたどる。これに対し基礎疾患が認められないいわゆる"Idiopathic"の症例では活動性病変として網膜剥離のみが報告され15〜18),症例も少ない。著者は"特発性"の本症候群中7症例に活動性病変を認め,漿液性網膜剥離に加え網膜下新生血管,網脈絡膜萎縮病変の拡大進行,網膜毛細血管の透過性亢進など多彩な病変を呈することを確認したので報告する。

原田病症状を併発した仮性副甲状腺機能低下症

著者: 中島崇 ,   曾谷尚之 ,   青山達也 ,   松岡徹 ,   河中正裕

ページ範囲:P.469 - P.475

緒 言
 仮性副甲状腺機能低下症(Pseudohypoparathy-roidism)は1942年Albrightら1)により報告され,本症の病因は腎における副甲状腺ホルモンの感受性の低下とされている。本症は短躯,円形顔貌,短指症,知能低下等の特徴的な所見を有し,さらに慢性テタニー,血清Caの低下,無機燐上昇等の症状を示す極めて稀な疾患である。眼科における合併症はBlonsky2)やSchwarz3)によると,白内障,斜視,緑内障,うつ血乳頭,視神経炎などがあるとしている。本邦における仮性副甲状腺機能低下症についての報告は内科,小児科,精神科領域4〜21)での報告は20数例みられるが,眼科領域での報告は,著者らの調べる限りでは,秋山22)の白内障を合併した仮性副甲状腺機能低下症の1例にすぎない。しかしこの症例においても視力は良好で手術まで行なうような白内障ではなかつた。現在まで本症における眼合併症のため手術を行なわねばならなかつた症例は,内科領域の文献で2例を認めるにすぎない11,20)。しかし眼科所見の詳細は不明である。今回著者らは,仮性副甲状腺機能低下症に合併した白内障を手術し,術後,約2週間後原田病症状を呈した症例に遭遇した。これらの症状の発現機序などに関して文献的考按を加えて報告する。

北大眼科における過去10年間のベーチェット病の治療法と成績

著者: 大口正樹 ,   大野重昭 ,   樋口真琴 ,   松下卓郎 ,   松田英彦

ページ範囲:P.477 - P.481

緒 言
 ベーチェット病の原因はいまだ不明のままに残されている。したがつて本病に対する治療法は対症療法の域を出ないのが現状である。
 われわれもより効果的な方法を求めて種々の治療法を試み,二神の報告以来,その成績1〜11)について発表してきた。また国内・国外ともに多数の薬剤について幾多の検討がなされているが,そのいずれもが本病を治癒させうるものではなく,発表者によつて成績にもかなりの相違がみられる。このことは診断基準がいまだ確立されておらず,治療効果の判定基準がないのでやむをえないこととも考えられる。

硝子体手術に関する臨床的研究(その5)—再び重症糖尿病性網膜症の手術成績について

著者: 松井瑞夫 ,   田代忠正 ,   佐藤節 ,   永田黄 ,   前保彦

ページ範囲:P.483 - P.488

緒 言
 われわれはさきに1),26症例28眼の重症糖尿病眼内合併症に対する経毛様体扁平部硝子体切除術の結果を報告したが,その後さらに症例を追加し,現在までに46症例51眼について術後の経過観察を行うことができたので,その観察結果について報告する。

硝子体切除術の眼におよぼす影響について—第1報 網膜病変におよぼす影響

著者: 別所建夫 ,   福田全克 ,   西川憲清 ,   石本一郎 ,   山本保範

ページ範囲:P.489 - P.493

緒 言
 Pars plana approachを主体とする今日のvitrectomyの発達は,硝子体を切除し,生理的食塩水と置換しても,眼障害の発生がほとんど認められないことをしめしたKasner1)の報告によるところが大きい。しかし,硝子体のもつ機能がなお明確でない以上,硝子体切除の眼組織におよぼす影響は慎重に検討されねばならない。こうした検討を通して,硝子体のもつ機能はさらに明確化されるであろうし,また,硝子体切除が眼組織におよぼす影響性を加味した立場から,硝子体切除術適応症を考えていくこともできる。
 以上の観点から,まず第一段階として,硝子体切除術を施行した糖尿病性網膜症例を材料として,それらの術後の網膜病変の経過を観察することにより,硝子体切除の網膜にあたえる影響を検討した次第である。

ノリエ病

著者: 藤田晋吾 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.495 - P.496

緒 言
 Norrie's disease (ノリエ病)は1927年Norrie(デンマーク)がはじめて記載した重い先天性眼異常,すなわち両眼の先天盲と白色瞳孔を主徴候とする疾患である1)。最近になり,Warburg (1966年)が,6家系35症例を検討して,その臨床像を整理するとともに,X染色体劣性遺伝病であることを確かめるにいたり,単位疾患としてひろく承認されている2)。本疾患の臨床像のうち最も重要な症候は,出生後間もなく,もしくは数カ月のうちに気がつかれる両眼性のいわゆる白色瞳孔である。それは水晶体後方の硝子体中に存在する,帯黄白色の血管に富む偽腫瘍性の集塊構造に由来する。さらに,虹彩萎縮,浅前房,虹彩後癒着,虹彩外反,毛様突起延長などの前眼部異常をみることもしばしばあり,ときには網膜全剥離や眼底出血をみることもある。継年とともにこれらの症候はしだいに増強し,さらに角膜混濁や水晶体混濁も加わり,やがて眼球萎縮にいたる。このような眼異常は本疾患に必発であるが,変異遺伝子は,聴覚や精神機能にも多面発現する作用をもつ。すなわち,約30%の症例では,青壮年期から進行性の難聴もしくは知能低下や精神薄弱がみられる3)
 ノリエ病はまれな疾患であるが,現在までに200例ほどの症例集積がある。白人種,黒色人種,北米インディアンで患者が発見されている3)。しかし,日本人をふくむ黄色人種においては,本疾患の記載がみられない。

サリドマイド胎芽病の眼症状について

著者: 有本秀樹

ページ範囲:P.501 - P.507

緒 言
 サリドマイドthalidomide (α-phthal-imido-glutarimide)剤は催眠鎮静剤として,また胃腸薬として,わが国では1958年1月20日から1962年9月13日までの4年8カ月間発売されていた。これを妊娠初期に服用した母親から生れた特有の四肢奇形および聴力障害があるものをサリドマイド胎芽病thalidomide embryopathyまたはWied-mann症候群と呼んでいる。サリドマイド胎芽病の眼症状についてのわが国での報告は植村らの4例と小暮らの1例のみであり,系統的な研究は行われていない。
 今回,厚生省サリドマイド胎芽病認判定委員会で認定された303名のサリドマイド胎芽病のうち89名を眼科的に検査し,興味ある知見を得たので報告したい。

先天性小瞳孔・前房隅角の発生異常および先天緑内障晩発型を合併した一家系—1)臨床所見および遺伝型式

著者: 田原昭彦 ,   向野利寛 ,   和佐野利記子 ,   南川妙子 ,   猪俣孟 ,   和田暢夫

ページ範囲:P.508 - P.516

緒 言
 先天性小瞳孔とは瞳孔径が小さく,かつ虹彩の紋理が不明瞭であるという特徴を有するまれな先天性眼疾患である。この瞳孔および虹彩の異常の本態は,各種の散瞳剤を点眼してもほとんど散瞳効果を認めないこと1〜9),また本症を有する眼球の組織学的検査所見1)より瞳孔散大筋の先天的な発育不全と考えられている。
 一方,先天緑内障晩発型(Developmental glau-comaのlate type)とは,10歳から30歳代に発症する緑内障で隅角鏡にて前房隅角に発生学的な異常を有するものをこう呼んでいる。そしてこの際に認められる前房隅角の異常は,隅角部を形成する中胚葉組織の発達が不充分なためと考えられている10〜14)

未熟児出生児の視機能について(その2)

著者: 立神英宣 ,   山本節 ,   文順永

ページ範囲:P.517 - P.523

緒 言
 われわれは,1971年以来,兵庫県立こども病院における未熟児網膜症の発症,管理に関する種々の報告1〜7)を行なつてきている。それとともに重症視覚障害者を1人でも減らすため,今までの管理方法の反省と,今後の未熟児保育管理の一層の充実をはかるため,未熟児出生児の追跡調査をしてあらゆる角度から,検査を行なつている。
 前回われわれは,未熟児出生児の視機能について検査し,いくつかの結論を得ることができたが8),今回さらに症例を増して前回不十分であつた点を補い統計的な検討を加えたので報告する。

連載 眼科図譜・257

網膜神経線維層の欠損

著者: 岩田和雄 ,   難波克彦 ,   祖父江邦子

ページ範囲:P.408 - P.409

 Retinal nerve fiber layer(RNFL)の欠損に関するHoyt1,2)らの報告は,眼底検査を日常の仕事としてきた人々にとつて衝撃的な出来事であり,眼底はなお未知の情報の宝庫でありうることをあらためて認識させてくれた。視神経の経路における消耗は,逆行性に網膜の視神経線維層(RNFL)に反映し,綱膜面である幅をもつた神経層欠損として観察される。やや進行した緑内障では,しばしば明瞭なクサビ型欠損として観察されるが,その他視神経症,視神経外傷,循環障害等他の病態においても良く発見される。眼底の光凝固後にも上向性および下向性欠損が観察できる。観察方法にやや制限があり,倒像法では大型の欠損を除けば困難である。直像鏡でもコントラストのつよい欠損は判別できるが,弱いものは判別でき難い。スリットランプは無赤光観察もできるので優れているが,観察視野が狭く,全体像の把握ができ難い欠点がある。眼底カメラで覗くのがもつとも良い。カメラを左右に振るとパララクスによる立体的読みができる。またRNFLのアーチ状欠損が全視野に入り,判断が容易であるし,rim notching (乳頭内縁の切れ込み)との関係が一目瞭然となる。通常35mm版は硬調で粒子荒く,ディテールに欠けるので,6×6cm版位の拡大撮影が望ましい。平行移動によるステレオ撮影は最高の分解能を有し,細い欠損でも明確に"抜け"として認識できる。

眼科臨床レントゲン診断学・16

各論(13):神経眼科(その4)神経眼科とCT (2)脳室・脳槽の変化

著者: 丸尾敏夫 ,   桐渕利次

ページ範囲:P.552 - P.553

 脳室や脳槽は年齢とともに増大し,大脳溝およびSylvius槽は若年者では著明でないが,高齢者では認められるようになる。脳室や脳槽の偏位や変形は,先天性奇形,大脳萎縮水頭症および腫瘍などで生じやすい。

総説

Vogt−小柳−原田病

著者: 杉浦清治

ページ範囲:P.411 - P.424

はじめに
 Vogt−小柳−原田病(以下原田病と略す)は身体各所を侵す全身病であるが,臨床医学的研究が主として日本人によつて推進されてきた特筆すべき疾患である。診断に関してはわが国ではまず問題はないが,欧米では症例が少ないためもあつて,本病の概念,診断基準などに若干の混乱があるように見受けられる。著者らは一連の臨床研究によつて,本病が特定の免疫遺伝学的素因をもつた入に多く,また病変の基底にある免疫反応が眼および皮膚に共通のものがあることを明らかにした。髄膜,内耳においても同様であろうと推定される。この意味からは,本病は「症候群」というより「病」と呼ぶのが適当であろうと考える。
 本稿においては臨床像,診断基準について本病の概念を整理し,本病の原因,発病機序について著者の考えを述べてみたいと思う。

臨床報告

明所視力の良好な漿液性中心性網脈絡膜症患者の夜間視力と夜間運転適性

著者: 常岡寛 ,   蒲山俊夫 ,   福田順一 ,   楢崎嗣郎

ページ範囲:P.525 - P.532

緒 言
 漿液性中心性網脈絡膜症は青壮年男子に好発する疾患であり,航空機および車輻などの乗務員にも比較的多く認められる。この疾患は,明所視力が回復し,眼底病変が改善して螢光造影により螢光漏出が消失した時期になると,一応臨床的に治癒とみなされることが多い。しかし,これらの改善のみをもつて本疾患による視機能障害が完全に回復したということはできず,小視症,変視症などの自覚症状は,他覚的に眼底病変が改善した後にもかなりの期間残る1)。交通機関の乗務員の中で,視機能に何らかの欠陥を有する者に事故発生率が高い2)という現状から考えても,これらの乗務員に対する本疾患の治癒判定にはとくに慎重を要すると思われる。
 今回,航空振興財団・夜間視力計試作委員会が開発した新型中距離夜間視力計3)を用い,明所視力の良好な,または回復した漿液性中心性網脈絡膜症の患者の夜間視力を測定したところ,患眼では健眼および正常者に比して非常に低下していることが多く,また夜間視力の回復は,明所視力の回復および眼底病変の改善に比較して著しく遅れていた。

徹照像撮影による白内障水晶体混濁の解析

著者: 尾羽沢大 ,   河原哲夫 ,   長尾玉子 ,   佐藤薫

ページ範囲:P.533 - P.537

緒 言
 老人白内障水晶体混濁に関しては,発現部位ならびに形態に関し,既に詳細な検討がなされ,分類も試みられているが1〜3),混濁の時間的経過に関する解析はいまだ不十分である。白内障の進行が通常慢性で,長期にわたる混濁の変化を的確に記録することの困難性がその一因と考えられる。われわれは先に偏光を用いて角膜反射を除去し,良質な永晶体徹照像写真を記録する方法を開発した4)。今回本法により経過を追つて撮影した白内障水晶体の徹照写真像より,水晶体混濁ならびにその時間的経過の解析を試みた。

脳性麻痺に伴つたhomonymous hemioptic atrophy

著者: 田上勇作 ,   立神英宣

ページ範囲:P.539 - P.542

緒 言
 外側膝状体,視索の障害では,同名半盲と共に,いおゆるhomonymous hemioptic atrophy1,2)と呼ばれる特徴的な視神経萎縮像を呈するとされている。
 今回われわれは,脳性麻痺に伴つたhomony-mous hemioptic atrophyの興味ある一例に遭遇したので報告する。

Vergence-prismsによる先天眼振の治療経験

著者: 新居純子 ,   内海隆 ,   綴木満子

ページ範囲:P.543 - P.545

緒 言
 先天眼振に対する治療法としては,そのfaccturnに対し,手術(Andcrson法など)およびversion prisms装用が主に行なわれ,眼振そのものを減弱させる手段はあまりとられていない。眼振そのものを減弱させる方法としては,CüppersのFadenoperationが最近行なわれ始め,わが国でも報告1)されている。また,三井の唱える水平筋の切断ぬいつけ術(筋を付着部で切断し,すぐ元の付着部へぬいつける)も報告2)されている。一方,Dell'Ossoの唱えるvergence prismsによる治療法3〜5)は,非観血的であり,簡便に外来通院で行なうことのできる方法であるが,わが国では未だ追試されておらず,報告もない。そこで今回われわれは,典型的な先天眼振の一成人男子例に対し,vergence prismsによる治療を試みたところ,視力が格段に上昇するという望外の成果を得たのでここに報告する。

眼光光学会

網膜および後部硝子体の細隙灯16ミリシネ撮影

著者: 永田紀子 ,   梶浦睦雄 ,   高橋正孝 ,   上原誠 ,   児玉明彦

ページ範囲:P.547 - P.551

緒 言
 著者らは眼底ならびに後部硝子体の細隙灯顕微鏡法に関してoptical section撮影法の立場から一連の研究報告1〜9)を行なつて来ており,その結果極めてスリットの幅が狭く,反射が比較的少ないoptical sectionの写真撮影が可能となり,一連の網脈絡膜疾患ならびに後部硝子体のOpticalsection所見が明確に把握できる様になつて来た。
 一方,一連の網脈絡膜疾患の全貌を把握したり,とりわけ後部硝子体の病的所見あるいは動的所見を表現するためには先のoptical section撮影記録法に加えて連続的なoptical section撮影を行うことが非常に必要であり,これらの観点から眼底および後部硝子体の細隙灯所見の撮影記録法の一つとして細隙灯16ミリシネ撮影法を開発し,臨床に応用した所,反射が比較的少ない状態で連続optical sectionを撮影記録することに成功したので本法を紹介する。なお著者の一人高橋7)が装置その他film送り速度,スリットの幅,撮影倍率等に関する概略はすでに報告ずみなので,今回は本法を行う際,特に必要とされる撮影方法等に関して理論的に検討を加えたので若干の症例と共に報告する。

斜視の原因と治療

II.外斜視の原因と治療

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.554 - P.555

 外斜視は眼の安静位が外斜の人がFusionを喪つておこるのではなく,本来正位の人において,注視眼(Mastereye)から異常なSensori-motoric reflexが発生して,他眼(Slave eye)の外直筋を収縮させる結果おこるものであること。外斜位(Exophoria)の人ではこのReflexはFusionが優位にある時はおこらないが,例えば1眼を遮閉してFusionを妨げれば,遮閉眼はSlave eyeになる。開放眼はMaster eyeになり,光刺激下においてSlave eyeの外直筋を収縮させるReflexを発信するようになる。
 Fusionの優位性が低下すると1眼を遮閉しなくとも遠見時や,注視の意志が低下している時には,MastereyeがRefiexを発信し,Slave eyeが外転する。同時にSlave eyeの視力に抑制がかかる。これが間歇性外斜視Phoria-tropiaである。このRefiexは光刺激がなければ伝達されないから,光刺激を絶てば正位に戻る。やがてReflexが常在性のImpulseになつた時,外斜視Exotropiaになる。常在性のImpulseは光刺激がなくとも伝達される。したがつてExophoria(phoria-tropiaを含む)は暗室では正位になるが,Tropiaになると光刺激を絶つただけでは正位にならない。

文庫の窓から

啓迪集(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.556 - P.557

 わが国の医学は在来医学を除いては,インド,中国医学の影響を強く受けて次第次第に発展してきたが,奈良,平安時代から鎌倉時代頃までは,わが国が一方的に中国より学ぶものが多く,いわば模倣の時代であつて,医書などもほとんどが中国や朝鮮伝来のものが使用され,いわゆる模倣医学の時代といつても過言ではない。
 室町時代以降江戸時代の中期にかけては,中国の金,元および明代の医学が入り,医書もその翻刻やそれを基にした著述が行なわれ,ことに明代の医学が田代三喜(1465-1537)らによつてとりいれられ,曲直瀬道三(1507-1595)らによつて広められてから,わが国の医学は宗教と医学が分離する方向に進み,医術の段階から科学的基礎知識の上にたつて考えられた,いわゆる実証医学へ漸く変つてきたということができる。

薬の臨床

出血性網膜疾患に対するpentoxifyllineの使用経験

著者: 岩船裕一 ,   吉本弘志

ページ範囲:P.558 - P.565

緒 言
 出血性網膜疾患とくに網膜中心静脈および分枝閉塞症に対する治療法として,従来より抗凝固剤1,2),血管拡張剤3),血管強化止血剤2),線溶酵素剤1,2),抗動脈硬化剤4),および血小板機能賦活剤5)等の投与が一般に行なわれている。しかしなお高度の視力障害を残す不完全治癒症例も決して少なくない2,3)。その理由としては,血栓形成後の血流欝帯に由来する酸素欠乏性の変化として,毛細血管床の閉塞が二次的におこり,その閉塞が原因となる網膜の広範な微小循環不全が,血栓そのものの融解後も本症の完全治癒を困難にしていると考えられている6)。このような広範な微小循環不全の長期にわたる存在は,網膜の浮腫・変性等を来たし,さらには硝子体内新生血管の形成,またこれに続発する硝子体出血を招き,失明という不幸な機転をとる場合もまれではない7)。この毛細血管の循環不全を改善もしくは予防するためには血管拡張剤や抗凝固剤の投与のみでは不十分なことは従来の成績から明らかである。他方近年,毛細血管領域における血液の流動性の改善が重視され8,9),これに赤血球の変形能が重要な意義を有することが明らかにされている10,11)。これらの研究によれば,赤血球の変形能は血液のpH,浸透圧および赤血球内ATP含有量によつて影響される8,12)

GROUP DISCUSSION

超音波

著者: 山本由記雄

ページ範囲:P.566 - P.569

1.試作新型眼科用超音波診断装置の特性
 超音波パルス反射法を用いた,Aモード法,A,B両モード法の併用,眼軸長計測,あるいは超音波ドプラー法による眼部血流の計測など,眼科における超音波検査法はかなりの普及をみるようになり,これに伴つて,検査に用いられる超音波の機器はパルス反射法の装置に限つても,国内,国外の製品を合せて数種類にもなつている。しかしそれらの装置より得られる画像または波形の性質は,それぞれに使われているトランスジューサ,増幅器などの電子回路,表示装置の諸特性および走査方式の違いなどにより,かなりの差がみられる。そしてこれらによる疾患の鑑別は,その装置での検者の経験に負うところが多く,装置相互には必ずしも同じ結果を示さないのが現状である。したがつてこ才しら様々な画像または波形の中で,どのような質のものがその疾患を的確に表現しうるか,あるいは,これらの情報に何らかの共通点があるかを見出しておくことは必要なことである。
 一方,眼科の超音波診断も,その検査をTechnicianの手に委ねる方向に進まねばならない。このためには装置の規格化はもとより,医師の指示に従い,患部の正確な診断情報を採取しうるような標準的な検査方法を確立することが必要となつてきている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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