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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科33巻5号

1979年05月発行

雑誌目次

特集 第32回日本臨床眼科学会講演集 (その4) 教育講演

眼科医療の需要と供給

著者: 中島章

ページ範囲:P.591 - P.599

緒 言
 15,6年前,日経新聞に名古屋のある眼鏡店の社長が,眼の健康管理が眼鏡商の任務であるかのごとき文章をのせたことがある。本来,眼の健康管理は眼科医が中心となつて進めるべきが当然である。そこで日経新聞に抗議を申込み,その結果,その社長とこの点について編集部を交えて対談を行い,上の原則を確認して日経新聞に掲載してもらつた。本年4月この人が理事長になつて4年制の眼鏡専門学校が開校した1)。また,これ以外にも,日本に検眼士制度を確立しようという動きがある。一方アメリカは眼科医と検眼士との間の業務分担をめぐつて多くの人々が議論しており2〜4),昨年10月ダラスで開催された第82回全米眼耳鼻科学会においても"Manpower in Oph-thalmology"というシンポジウムが開催され,検眼士問題を含む眼科診療従事者の問題について取り上げ,立ち入つた討議を行つている5)。一方,日本眼科学会では,眼科専門医制度検討委員会が東北大水野勝義教授を座長として発足し,専門医制度を導入する方向で検討がすすんでいる。
 これらは,眼科医療の需要供給の問題と密接に関係している。

眼科における救急医療の実際

著者: 深道義尚

ページ範囲:P.601 - P.605

緒 言
 いずれの診療科にあつても,救急医療には1次医療と2次医療,時としては3次医療なるものが考えられている。救急医療の本質からすれば,このように医療体系が数次にまたがることは好ましいことではない。しかし実際には,医療機関の設備の面や,時間的な制約もあり1次救急の確保も困難な地域もあるようである。
 ところで救急医療とは実際に何を指すのかと考えてみると,意外にわからないことが多い。断片的にこの問題に触れた文献もないことはないが,眼科における救急医療全般にわたる文献はほとんどない現状である。救急医療と一言で述べられる医療の内容は,患者側と医師側の両者の成育度によつて,時代と共に変化して行くものと考えられる。したがつて本論文では,筆者なりに考えた救急医療の内容を述べると共に,三つの病院における1年間の救急医療の実際を紹介し,今後における対策を考えてみたいと思う。

学会原著

未熟児網膜症の函館地方における地域管理について

著者: 江口甲一郎 ,   多田桂一 ,   藤岡敏彦 ,   藤岡憲三 ,   𠮷田玄雄 ,   冨沢愛士

ページ範囲:P.607 - P.616

緒 言
 われわれの居住する函館市は図1のごとく北海道の南端に位置し,内地の一つの県の広さにあたる渡島半島の中心都市である。この地域には人口31万余の函館市を中心として24力町2村が存在し総人口は約60万である。この広い地域に眼科専門医は函館市にか常住せず,住民の眼の保健はわれわれ函館眼科医会のメンバーが受持つているわけである。函館には医科大学が存在せず,眼科医の常勤する総合病院は市立函館病院のみで,未熟児網膜症対策も,われわれ眼科開業医が担当する外ない状態である。この地域特性にもとづき,過去8年間われわれは未熟児網膜症対策を種々考案実行し見るべき成果を挙げたと考えられるのでここに報告する(未熟児網膜症の分類は昭和50年まではOwens1)分類,51年よりは厚生省未熟児網膜症研究斑の診断基準2)によつた)。

高解像力スリットランプ写真撮影の臨床的応用—(その1)試作機の構成と実験成績

著者: 野寄喜美春 ,   糸井素一 ,   千代田和正 ,   小田治雄

ページ範囲:P.617 - P.620

緒 言
 前眼部の写真撮影とくにスリットランプ撮影については,多くの報告がある。しかし最も重要な撮影系の構成には,低倍率撮影(0.5〜1倍)では,通常の写真レンズを用い,高倍率(3〜10倍)では,スリットランプの顕微鏡を利用する方法が広く行われている1)。これらのレンズは前者は拡大撮影用として設計されていないし,後者は専ら観察用であるために,高倍率撮影では得られる写真の鮮鋭度が劣るという欠点がある。
 一方に照明系では光の均等性,スリットの鮮鋭度などの問題があり,これらも撮影系とともに考慮しなくてはならない。しかし今回は最も影響が大と考えられる撮影系レンズの改良により,前眼部の精密な写真撮影を行う目的で,3〜10倍拡大用の高解像力対物レンズを設計試作し好結果を得た。

回転式細隙灯撮影装置による水晶体の記録—その臨床応用と記録の再現性について

著者: 佐々木一之 ,   大石隆興 ,   山秋久 ,   中村福美

ページ範囲:P.621 - P.627

緒 言
 水晶体所見の記録法としてScheimpfiug1)の原理を応用した写真撮影装置は,Drews2),Niesel3),Brown4),野寄5)等により既に開発されており,前眼部の生理的あるいは病的変化の解明手段の一つとしてその広い応用が待たれている。
 回転式細隙灯撮影装置も同じ原理による撮影装置で,1975年来Hockwin (Bonn)らと共同開発中のものであり既に何回かの改良を重ね現在に至つている。

前房隅角螢光造影法

著者: 木村良造

ページ範囲:P.629 - P.633

緒 言
 NovotnyおよびAlvis1)により開発された螢光眼底造影法はその後著しい発展を遂げてきており,眼底疾患の診断および治療上,その貢献ははかり知れない。
 今日では,螢光観察および造影法は眼底のみにとどまらず,結膜2〜5),角膜3,5),虹彩5〜9),前房隅角2,5,8,9),および毛様体2,10,11)とほぼすべての眼部に応用され発展している。上記各部位の螢光造影法は眼底に代表されるごとく,既に完成の域に達したものも少なくはないが,前房隅角螢光造影(以下FGPと略)にはいまだに確立した方法が見当らない。

Fundus photo-perimeterによる視交叉部より中枢部疾患の視野の検討

著者: 太田安雄 ,   宮本正 ,   友永正昭 ,   原沢佳代子

ページ範囲:P.635 - P.642

緒 言
 われわれは,モニターTVにより,眼底を観察しながら,視野計測を行つた後,計測した視野をそのまま撮影して,同一の眼底写真フイルム上に記録する新しい方法を発表した。この方法は,移動する視標を被検者の眼底に直接投影し,モニターTVで眼底を観察しながら視野を測定し,被検者の応答に従つて打点された位置をポラロイド,あるいは35mmカラーフイルム上にイソプターとして記録することが可能である。
 今回は,本器を用いて,うつ血乳頭,両耳側半盲,同名半盲など,視交叉部より中枢に至る各種疾患の視野欠損について検査し,また,開頭手術前と手術後の症例についても検査を行つた。

Modulation transfer functionの臨床的研究

著者: 山本敏雄

ページ範囲:P.643 - P.649

緒 言
 近年,光学系の特性を表わすために空間周波数特性,すなわちModulation Transfer Function(以下MTFと略す)という概念が導入され,光学系の画像処理能力をあらわすのに用いられるようになつた1)。最近この概念を,人間の視覚系に導入して眼のMTFを測定しようとする試みがなされ,いくつかの測定方法が開発された。その結果,視覚系MTFは,多くの情報を含みしかも普遍的な視機能表示となることが明らかとなつてきた2)
 しかし最近までは,MTFは視覚の基礎的なメカニズムを研究する生理学あるいは心理学の領域のものと考えられ,臨床眼科への応用は始められたばかりである3〜5)

Ophthalmodynamographyによる頸動脈循環障害症例の所見

著者: 宮澤文明 ,   阿川忠郎 ,   飯塚俊明 ,   勝目紀一

ページ範囲:P.651 - P.656

緒 言
 網膜中心動脈圧は,Bailliart1)以来全身血圧との比較において,主として高血圧症の予後判定に用いられてきた。1962年Weigelin2)がこの血圧の変化は眼局所の血流によるのではなく,頸動脈の血流に大きな影響を受けることを実証して以来,この血圧は脳血管障害において大きな診断意義を持つに至つた。しかし従来の網膜中心動脈測定法は,いずれもいわゆるOphthalmodynamo-metory (O.D.M.)であつて,脳血管障害で重要な情報となる内頸動脈圧を正確に反映するものではなかつた。
 1963年Hager3,4)は脳循環血液量測定の目的で,Ophthalmodynamography (O.D.G.)を考案し,O.D.G.が内頸動脈の眼動脈分岐部圧,すなわち眼動脈圧であり,O.D.M.に比べて血圧値の個体差や左右差の少ないことを証明した。また1967年佐野5,6)はHagerと同じ原理によるO.D.G.を自ら考案して,大動脈弓症候群などのO.D.G.を測定した7)。しかしこれは片眼での測定であり上腕動脈も同時測定するにはおよばなかつた。

白内障記録における一考察—赤外線カラーフイルムを使用して

著者: 呉圭福

ページ範囲:P.657 - P.660

緒 言
 白内障において,その混濁度を記録写真により比較検討することは,客観的に白内障の進行度を判定,ひいては治療薬の効果判定をする上で大いに参考となる。今までにもカタリン点眼液の効果判定基準として,Hockwinら1)や岡本2)は,眼底カメラによる徹照写真を,林ら3)は細隙灯顕微鏡写真装置を使つた徹照写真,スリット写真,ステレオ写真を用いている。このように従来より,撮影装置,撮影方法により良い写真を撮るための検討が重ねられてきた。
 今回はこれらに加え,フイルム面からの検討の試みとして,通常のカラーフイルムの他に,赤外線カラーフイルムを用いて白内障を撮影し,主にそれの持つ偽色(false-color)作用による効果を比較検討してみた。

視覚電位自動記録装置の開発

著者: 田沢豊 ,   米良博量 ,   近藤駿 ,   笹森秀文 ,   小笠原孝祐 ,   油井秀夫

ページ範囲:P.661 - P.666

緒 言
 生体の視器が発生する電気現象を眼科臨床の診断に応用する,いわゆる電気生理学的検査としては,いくつかの種類があり,近年に至つてその一部は臨床的に普及し,診断あるいは予後の判定に不可欠のものとなつてきた。このような検査のうちで,主として現在用いられているものは,網膜電位図(ERG),眼球電位図(EOG),視覚誘発皮質電位(VECP),眼振図(ENG)などが一般的である。
 しかし,これらの諸検査のための測定器は,それぞれ各個に作成されており,また製品化されているものはその一部のみである。そこで今回は上記の検査を1台の機械でそれぞれ施行する能力を有し,かつ検査の操作と得られたデーターの処理,記録を内臓するコンピューターで行い,検査を容易ならしめるための装置の開発を試み,一応の成功をみたので報告する。

網膜中心動脈閉塞症の色光ERG特性

著者: 吉田輝也 ,   小林雄二 ,   宇治幸隆 ,   新里研二

ページ範囲:P.667 - P.674

緒 言
 網膜電図(ERG)は網膜の循環障害特に網膜中心動脈閉塞症(以下本症と略す)の診断には不可欠のものでnegative ERGの典型として知られ,そのb波が減弱することはHenkes1),Karpe2),Vannas3),浅山4)などにより報告されている。さらに米村5)により強力キセノン閃光刺激により誘発される律動様小波が本症で減弱することが述べられて以来それに関する報告もある6)。Brown7)による人為的に網膜循環を止める実験でも著明なb波の減弱を認める。本症におけるPⅢの分離に関しては河崎8)の報告が見られそのPⅢの意味についても述べられている。今回私は,本症5症例(毛様網膜動脈の発育がよく中心視力,視野を残した例,網膜動脈枝閉塞例各1例を含む),眼動脈閉塞症例2,網膜中心静脈閉塞症1例,総頸動脈結紮を行つた1例について色光ERG記録を行い,主にそのPⅢ様反応の色光特性について検討した。

レチノスコピーの観察系

著者: 西信元嗣 ,   峯克彰 ,   松田俊彦 ,   中尾主一 ,   永田良

ページ範囲:P.679 - P.681

緒 言
 今までに,従来のレチノスコピー理論の不完全を指摘し1),開口絞りの概念を導入して修正補完した基礎理論を発表した2)。さらに,いわゆるcutoff phenomenon,scissors movementsの考察3)およびスキャニングの方法4)についても発表した。観察系の基礎につき今回発表する。

第1および第2色覚異常におけるERG所見(その1)

著者: 米村大蔵 ,   河崎一夫 ,   田辺譲二 ,   柳田隆 ,   仲里博彦 ,   若林謙二

ページ範囲:P.683 - P.691

緒 言
 前報12,22,23)で,人眼ERGにおいてoff応答急峻部が主に錐体に由来することを示し,この成分を指標とすれば色覚異常者における視細胞レベル(錐体そのもの)の異常を他覚的に検出できる可能性を指摘した。
 本報では,a波を錐体系の指標として用いられるかを検討し,さらに第一色覚異常者でのa波とoff応答急峻部の分光特性の異常を記す。

学齢期における近視性視力低下—Impedance cyclographyによる分析

著者: 保坂明郎

ページ範囲:P.693 - P.697

緒 言
 比較的弱度の凹レンズで矯正される若年者の視力低下は機能性の変化であると漠然と考えられているが,その根拠は明確とはいえない。いわゆる偽近視の実態を原点に戻つて検討しようと考えた。Impedance Cyclography (以下ICGと略記)は,調節刺激に対応する毛様筋のインピーダンスの変化を記録することによつて,他覚的に毛様筋の活動性を知る方法でSwegmark1)によつて開発された。著者はこれにならつた装置を試作し,既に発表した2,3)。装置の詳細は省略するが,4電極法を応用して,ほとんど純粋に毛様筋部のインピーダンスの変化のみを取り出すことができる。この装置を使用して若年の近視性視力低下者の調筋動態を分析した。症例が未だ少なく,観察期間も十分とはいえないが,若干の知見を得たので報告する。

視運動欠損を呈した後頭葉障害の1剖検例

著者: 武田純爾 ,   筒井純 ,   調輝男

ページ範囲:P.698 - P.702

緒 言
 後頭葉障害の病理学的報告の中で負荷眼球運動検査所見との関連を論じたものは少ない。今回われわれは,Cogan1)が初めて記載したoculomo-tor apraxiaの状態を一見呈しており,視性の合目的眼球運動は不能であつたが,音声で誘導した衝動性眼球運動は可能であつた1症例の病理解剖所見を得たので,生前の眼球運動図(EOG),あわせて視覚誘発脳波(VECP)の異常所見と脳の病理学的所見との比較検討した。

連載 眼科図譜・258

網膜静脈周囲炎を併発した眼部帯状ヘルペス

著者: 佐々木一之 ,   山秋久 ,   北川和子

ページ範囲:P.588 - P.589

 症例:T.F.,25歳,女性。
 現病歴:1978年3月15日頃より右側頭部,前額部に疼痛を認め,同月23日頃より右上眼瞼から同側前額部にかけて小水疱が出現したのに気付き皮膚科を受診,帯状ヘルペスの診断を受けた。皮診出現の1週後に右瞳孔が異常に散大しているのに気付き眼科医を受診,眼部帯状ヘルペスとして治療を受けていたが,4月24日精査を希望して金沢医科大学眼科を受診した。

眼科臨床レントゲン診断学・17

各論(14):神経眼科(その5)—神経眼科とCT (3)脳血管障害

著者: 丸尾敏夫 ,   桐渕利次

ページ範囲:P.720 - P.721

 脳血管障害には,脳出血,脳梗塞,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,および頸動脈海綿静脈洞瘻があり,これらの疾患によつて種々の眼症状を生ずる。今回は眼症状をきたした脳血管障害のCT所見について述べよう。

臨床報告

10歳女児にみられたPosner-Schlossman症候群の1例

著者: 相沢芙束 ,   佐藤卓

ページ範囲:P.703 - P.706

緒 言
 1948年PosnerおよびSchlossman1)によつて,Glaucomatocyclitic Crisisと呼ばれる眼圧上昇発作を特徴とする開放隅角型の緑内障が報告されて以来,多教の報告例がみられる。
 Posner-Schiossman症倒群は独立したClinicalentityとして原発性と続発性緑内障の中間に位置づけられて,かなりの数の症例が日常診療で観察される。その病因・病態には不明の点が残り,若年者層に比較的多いといわれている。われわれは3回の眼圧上昇発作を観察できた10歳,女児例に遭遇したのでSteroid rcsponseの成績を含めて報告する。文献上の報告例としては最年少と考えられる。

先天性眼窩眼瞼嚢腫の2例

著者: 松嶋三夫 ,   難波彰一 ,   大沢英一 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.707 - P.711

緒 言
 小柳1),Von Szily2)らにより,眼窩眼瞼嚢腫は胎生4ないし5週頃の眼胚裂の閉鎖不全および神経外胚葉自身の発生異常であると病理組織学的に裏付けられている。また1858年Arlt3)の報告以来,眼窩発育不全を伴う無眼球症または小眼球症として既に数多くなされているが,最近著者らは2例の眼窩眼瞼嚢腫を経験したので臨床学的,組織学的鑑別に加えて,眼科領域で盛んに応用されているCT scanによる診断等についてここに報告する。

保存強膜による内眼角偏位の形成手術—保存強膜を利用した形成手術(Ⅰ)

著者: 田邊吉彦 ,   岡和田紀昭 ,   原田敬志 ,   杉田潤太郎

ページ範囲:P.713 - P.716

緒 言
 外傷などにより内眥靱帯が切れ,内眼角偏位の起きた場合,単に軟部組織を再縫合しただけでは偏位の矯正されない事が多い。こうした場合,内眥靱帯の再縫合が必要となるがこれは困難な場合も多い。その時瞼板組織をstrip状に切出し有茎弁として使用したり1),自家fascia lataを採つて代用する方法1)が用いられて来た。しかし,いずれにしても余計な傷を加える上,時間もかかる。そこでわれわれは保存強膜を代用として利用することを考えた。
 fascia lataは最近保存のものが自家fascia lataに代つて利用されつつあるが2,3),われわれは持つていない。しかしeye bankのお蔭で,保存強膜は豊富にあり,両者共,主としてコラーゲン線維から成るので,同様に代用できるのではないかと考え,3例に試み,良好な結果を得たので報告したい。

眼光学学会

高倍率眼底写真撮影について

著者: 馬場賢一 ,   野寄喜美春 ,   清水利治 ,   田中正司 ,   加藤尚臣

ページ範囲:P.717 - P.719

緒 言
 われわれが眼底を観察し,あるいは写真撮影をする場合には,通常は被検眼の眼底像を拡大して行なうが,その目的は拡大することによつて細部の観察精度を上げ,豊富な情報を得ようとするところにある。したがつて眼底カメラにおいても,より高倍で撮影しようという試みは古くから行なわれ,一部は実用化されている。現在の標準型眼底カメラ(画角30°)のフイルム面における倍率は約2.5倍であるが,この撮影系のレンズの焦点距離を負レンズにより長くして,標準倍率の1.6〜4倍の拡大画像を得る装置がある。しかしこの方法はいわゆる像の引伸しであつて,解像力の向上はない。すなわち35ミリフィルムで撮影し,それを引伸したものでも,拡大装置で直接に拡大撮影したものでも,倍率が同じであれば理論上からの差は出ないおけである。そこでこれまでに解像力の向上を目的として種々の高倍率眼底撮影法が試みられている。たとえば(1)前置レンズとフォトスリットランプの組合わせ,(2)特殊コンタクトレンズとフォトスリットランプの組合わせの方法などが研究発表さている。しかし(1)の方法は収差や反射のために特別な研究を除いては実用に耐えないことが多い。

斜視の原因と治療

Ⅲ.外斜視の手術

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.722 - P.723

 前回,外斜視を手術する場合,斜視眼(Slave eye)ではなくて注視眼(Master eye)を手術すれば,手術は単に物理的なものではなく,少なくとも一部分外斜視発生の原因をついた治療法になることを述べた。今回はこのことを実際の例でお見せする。図1を見ていただきたい。前回Magician's forcepsでお見せした患者である。図1−Aは手術開始時の所見である。左眼が注視眼で右眼が外斜している。Master eye (左眼)を手術している。手術は,この眼に持続的にMagician's forcepsを働かせるという狙いで,まず内直筋の短縮と次いで外直筋の後転を併用した。両直筋を同時に手術することが望まれる。その理由は手術の効果は物理的なものではなく,内外直筋から発信されるproprioceptive reflexの遮断が関係するように思われるからである。
 図1−Bは手術中の所見である。左眼(Master eye)の内直筋を短縮する程度により,右眼(斜視眼)の眼位をどのようにでもControlできることを示した写真である。図1−CはわずかにOvercorrectionの状態で内直筋の短縮を終わつたことを示す。この状態で外直筋を同じ程度後転して手術を終わるのが良い。

文庫の窓から

啓迪集(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.724 - P.725

 「啓迪集」にのべられている道三の医学説とは,疾病には外感と内傷とあつて,外感の病因は風,湿であつて,寒,暑,燥,火はその現われである。疾病を受けるものは気血,痰で,特に気,血の2病を重視している。気の寒熱順滞は小便の性状により,血のそれは大便の性状で知る。もし大小便両方に何らの異常がなければ経中脈外の疾病であるとし,気,血,痰の症が久しく続くようならば欝を生じ,6種の欝滞病から100病を惹き起す。
 精神障害のような7情の欝および臓腑の気の滞るによつて飲労役不足の証を発し,陰これを受けて臓に入り内傷の病を生ずる。故に治法は専ら病因を知つておいて施行し,風によつて発するものには利水の剤を投与する。用薬の目標は補潟であつて,血,気,痰それぞれに補瀉の主剤を配した(石原明著,「医史学概説」)。

GROUP DISCUSSION

高血圧・眼底血圧

著者: 入野田公穂 ,   松山秀一

ページ範囲:P.727 - P.731

1.網膜血管閉塞症患者の凝血能について
 網膜血管閉塞症は血栓形成によるものが多く,血栓形成傾向の検査は本症の予防および治療に重要である。今回は網膜静脈閉塞疾患者について,凝固能,線溶能の他に血小板機能を検索した。
 対象は,網膜中心静脈閉塞症患者16名,網膜静脈枝閉塞症患者53名,計69名である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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