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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科34巻11号

1980年11月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・276

球結膜切除術が有効であった難治性蚕蝕性角膜潰瘍の3例

著者: 西麗子 ,   千原悦夫 ,   浅山邦夫 ,   塚原勇

ページ範囲:P.1494 - P.1495

 蚕蝕性角膜潰瘍は,進行性で難治の疾患である。従来より結膜弁被覆術,角膜移植術等,種々の治療法が試みられてきた。本症は治療に比較的良く反応する型と,急速に失明に到る重篤な型(激症型と称す)とがある。後者は両隈性で比較的若年者に多いといわれている。われわれは最近3年間に,1眼ほ既に本症のために失明した激症型の3症例の残された1眼に,数回の球結膜切除術を施行した。全例失明をまぬがれ,ほぼ満足すべき結果が得られた,これら3症例のなかで症例1は最も症状が重篤でかつ本症の典型的な臨床像を呈した。さらに症例1の失明眼は組織学的検査を施行し,興味ある知見をえた。本症の病理組織学的検索報告は内外ともに少なく,非常に貴重な1症例と考えられるので報告する。
 症例:T.S.,53歳,男子。

第3回日本眼科手術学会シンポジウム:手術による角膜侵襲

解説

著者: 三島済一

ページ範囲:P.1497 - P.1500

 手術とはtraumaを身体に与えることにより,そのtraumaの順序を秩序だててすることで手術の目的を達し,その後に組織の再建を確実にすることである。したがってtraumaをできるだけ少なくするのが最終の課題である。しかし手術である限りtraumaが皆無になることはありえない。traumaによつて身体に何が起るかを十分理解しなければ本当の意味で手術の目的を達したとはいえない。

白内障手術の角膜侵襲

著者: 永田誠

ページ範囲:P.1501 - P.1506

はじめに
 昭和20年代に白内障手術が古典的な嚢外摘出術で行われていた頃を想起してみると,手術翌日肉眼的な角膜混濁いわゆる線状角膜炎の認められる症例が稀ではなかった。これは前嚢切除,核摘出操作のための器械の挿入の他にDaviel匙や,前房横匙など金属性の器具を何回も前房に入れ,更に角膜上からmassageして残留皮質を摘出していたための角膜内皮損傷による害質性角膜浮腫であったと考えられる。
 その後獲内摘出が次第に普及するにつれて残留皮質の摘出操作は不要となったが,強角膜創の長さが増大したことや,tumbling法の際の鑷子やErysiphakeの接触による内皮損傷に起因すると思われる術後の線状角膜炎はごく一般的な現象であった。しかしこのような場合でも角膜混濁は数日中に消褪し,水疱性角膜症になって困ったという例はあまり筆者自身の記憶に残っていないことを考えると日本人の角膜は本来かなり強いものであったということはできる。その後Sliding法、冷凍摘出法を手術用顕微鏡下に行うことが普及し,術中ほとんど角膜内皮に触れることなく手術が行われるようになってからは普通の嚢内摘出術の翌日は少なくとも肉眼的に角膜が透明であることが当然のようになってきた。このこと自体は最近20年ないし30年の間に起こった眼科手術学の成果の一つということができる。

臨床報告

透明透光体ならびに白内障患者における干渉縞視力測定

著者: 真壁祿郎

ページ範囲:P.1507 - P.1509

 Rodenstock社製のRetinometerを用いてレーザー干渉視力を行いSnellen視力と比較した。弱視は除外した。
 1)透光体に混濁を認めない種々眼底疾患患者65例126眼において矯正Snellen視力と干渉視力は多くは大体一致したが42眼(33.3%)では両測定値の相違が50%以上に達した。その様な症例は健常眼より疾患者に多く特に低視力(視力0.2以下)の者に多発した。疾患別では特に黄斑部変性患者に干渉視力がSnellen視力に優る傾向があった。
 2)干渉縞は垂直,水平に比べ斜方向が認知し難い事が多かった。その指向性と乱視との関係は証明しえなかった。
 3)老人性白内障71眼の術前干渉視力は,術後矯正Snellen視力に大体一致することが多かったが,26眼(36.6%)ではその相違が50%以上に及んだ。この不一致の頻度は上記透明透光体患者におけると同様なほぼ三分の一で,両者測定の方法的誤差に基づくものと考えられた。

球結膜切除術が有効であった難治性蚕蝕性角膜潰瘍の3例

著者: 西麗子 ,   千原悦夫 ,   浅山邦夫 ,   塚原勇

ページ範囲:P.1511 - P.1517

 両眼性の激症型蚕蝕性角膜潰瘍の3症例に球結膜切除術を施行した。全例病勢の進展を阻止し失明を防止しえた。これらの症例はすべて,他眼は既に失明しており,今回残された1眼に新たに本症の発生をみたものである。cysteine, EDTA,血清等のコラゲナーゼ阻害剤の点眼(1日5回点限)は,病勢の進展を阻止しえなかった。さらに高濃度のEDTA点眼液(0.1M)は角膜上皮剥離を惹起し,むしろ有害であった。副腎皮質ホルモンの全身投与は病勢の進展阻止に有効であった。また全例に血液検査でLDHの高値がみられた。症例1の失明眼の病理学的検査で,角膜のみならず,球結膜,上強膜,虹彩にもリンパ球,プラズマ細胞,好酸球の小円形細胞浸潤を高度に認めた。これらの臨床および病現所見は本症が自己免疫疾患であることを示唆する。激症型の蚕蝕性角膜潰瘍に対して,有効な治療法のない現在,球結膜切除術は,安全性の点からも,術後成績の点からも有効な手術法とみなしえる。さらになるべく早期に施行する方が良好な成績がえられている。

網膜皺襞を呈したtilted disc syndromeの3例

著者: 坂井豊明 ,   桜井泉 ,   武田啓治 ,   難波克彦

ページ範囲:P.1519 - P.1523

 Tilted disc syndromeに網膜皺襞という新しい症状をもった3例を報告した。皺襞は後部ブドウ腫の上方にあり,傾きのある縦方向の波状の微細な網膜皺襞であった。その成因に関しては不明とせざるをえないが,tilted discという視神経乳頭の発生異常と後部ブドウ腫という眼球の形態の変化が,網膜神経上皮層にある限局した範囲にひだを形成したものと推定され,今後さらにその経過を追究する予定である。

Diffuse Infiltrating Retinoblastomaの1例

著者: 山名泰生 ,   石川祐二郎 ,   猪俣孟 ,   鬼木信乃夫 ,   嶺井真理子 ,   生井浩

ページ範囲:P.1525 - P.1529

 水晶体脱臼,前房出血と続発緑内障を起こした1歳2ヵ月男児の右1眼にみられたdiffuse inrfiltrat-ing retinoblastomaの1例についてその組織所見を報告するとともに,小児の眼内炎,眼内出血などでは常にretinblastomaを考慮する必要があることを強調した。

眼科手術学会

水晶体嚢内摘出に続くBinkhorst 4−loop lens挿入,連続383例の成績—第3報 合併症 その1 眼内レンズ脱臼と硝子体脱出眼への眼内レンズ挿入に関する成績

著者: 原孜 ,   原たか子

ページ範囲:P.1531 - P.1535

 水晶体嚢内摘出に続くBinkhorst 4—loop lens挿入,連続383眼の合併症のうち,眼内レンズ(以下IOLと略)脱臼と硝子体脱出眼(以下硝脱と略)へのIOL挿入の二つに関する成績を報告した。結論は次の通りである。
 IOL脱臼28例(7.3%)あった。
 (1)個所:垂直無縫合挿入の場合,上脚は下脚の3倍脱れやすかった。硝子体内脱臼は3例あったがIOL摘出または再挿入は円滑に行えた。
 (2)治療点眼整復12例,手術整復16例。
 (3)予後全例の最終平均視力0.91であった。
硝脱例
 全47例の最終平均視力は0.97で硝脱がIOL挿入の禁忌とならないことが示された。ただし,IOL挿入時の硝脱例は視力および続発合併症の点で,水晶体娩出時硝脱例にやや劣ることが示された。

人工水晶体移植眼に発症した水疱性角膜症の組織学的所見

著者: 舩橋正員 ,   早野三郎

ページ範囲:P.1545 - P.1550

 人工水晶体移植後2年8ヵ月後に水疱性角膜症を発症した1眼に対し,3年6カ月目に角膜全層移植を行ない良好な結果を得た。
 手術時の被移植片について組織学的検索を加えた。
 走査型電子顕微鏡による観察では角膜浮腫が著明であった部位では,角膜内皮細胞は完全に消失し,線維構造物が露出してみられ,浮腫が軽度なところでも角膜内皮細胞は伸展し,細胞間隙を有しながら存在しているのが認められた。
 光学顕微鏡下では扁平化した.内皮細胞の部分的残存,デスメ膜皺襞形成,retrocorneal membrane形成などがみられ,内皮細胞が完全に消失した部も観察された。角膜実質中層部の実質細胞は減少し,角膜上皮細胞層にところどころ上皮浮腫が認められた。

新刊紹介

—G.O.H. Naumann (ed.)—Pathologie des Auges

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1543 - P.1543

 眼病理学の教科書には戦前HenkeとLubarschの編集したHandbuch der speziellen pathologischen Ana-tomie und Histologieのシリーズの第11巻としてPatho-logische Anatomie und Histologie des Augesの三部作(1928,1931,1937)があって,この道の総本山ないし聖書のような地位を占めていたものだが,今回それの続篇とでもいうべき快著が現われた。
 書名は単に「眼病理学」となっているが,1966年にはじまったSpezielle patholgoische Anatomieシリーズの第12巻となるもの。判型は少し小さくなっているので,ちょうどYanoffとFineのOcular Pathology (1975)を少し厚くしたような感じのスマートな本である。総計7名の共著であるがだれもがハンブルクとチュービンゲンの眼科の関係者で,編者Naumannもチュービンゲン大学眼科の主任である。

薬の臨床

アレルギー性結膜炎症状を呈するスギ花粉症におけるdisodium cromoglycateの眼誘発反応防禦効果について

著者: 三国郁夫

ページ範囲:P.1551 - P.1557

 Disodium cromoglycateのアレルギー性結膜炎におけるアレルギー反応防禦効果を検討すべく,対象として非発作期の日本スギ花粉症患者5例を選び,プラセボを対照とする限誘発試験を行なった。この結果,以下の成績を得た。
 (1)スギ花粉抗原による眼誘発後の涙液屈折率の変化を指標とした場合,DSCGにより5例全例共明らかなアレルギー反応防禦効果が認められた。
 (2) DSCG点眼5〜10分後よりアレルギー反応は自覚的にも,他覚的にも抑制されることが判明した。
 (3)涙液の屈折率で示されるアレルギーres-ponseで,患者に対するDSCGの薬効判定が可能であることが推察された。

文庫の窓から

證治準繩(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1558 - P.1559

 一般に医学全書と呼ばれるものはそれぞれの時代における諸家の説や治方を集録し,時には編者自身の治験等も加えて,その医学知識を総合的に纒めている点で高く評価されている。「證治準繩」は中国,明代に王肯堂によって編纂された私撰の医学全書として取り扱おれているものの一つである。
 「證治準繩」はまた,六科準繩とも称せられているように證治準繩,傷寒證治準繩,幼科證治準繩,女科證治準繩,瘍科證治準繩,雑病證治類方の六種の医書より成っている。その構成は重鐫王宇泰先生医書六種(虞衙蔵板)によればこの各医書の初めには王宇泰の自序が入り,門が以下のように分けられている。

第3回日本眼科手術学会抄録集(1)

著者: 長嶋孝次

ページ範囲:P.1560 - P.1567

◎セミナー/涙道手術
1.涙道Intubation
 涙道再成術へのシリコンラバーチューブの利用は,この領域での最近の進歩である。
 閉塞部位に応じて2法がある。すなわち,①シリコンループ留置術②逆行性シリコンチューブ留置術である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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