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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科34巻2号

1980年02月発行

雑誌目次

特集 第33回日本臨床眼科学会講演集 (その1) 招待講演

網膜剥離手術の現状と進歩

著者: Charles J.

ページ範囲:P.107 - P.112

はじめに
 ちようど50年前には網膜剥離は眼科では謎の病気の一つと考えられ,その原因は不明で,治療も一般に不成功とされていた。しかしこの50年の間に病因も確立され,また治療および予防についても大きな進歩がなされた。ここでは網膜剥離の診断と治療に関する最近の発展について述べ,とくにアメリカにおける現状,さらに特別の問題点や新しい手術法についてふれてみたい。

学会原著

眼球打撲症における眼底後極部病変の検討—外傷性扇形脈絡膜萎縮について

著者: 難波彰一 ,   北庄司清子 ,   平井健一 ,   大沢英一 ,   松山道郎

ページ範囲:P.113 - P.122

 (1)眼底後極部付近にみられた外傷性扇形脈絡膜萎縮の29症例について螢光眼底検査を中心に臨床的検討を加え,その発現部位に特徴ある知見を得た。
 (2)これら外傷性扇形脈絡膜萎縮病巣は乳頭黄斑部付近に起つた外傷の直達外力による病巣(concussion necrosisあるいはchoroidal rupture)を頂点として発現していた。
 (3)発現部位は眼底の垂直方向周辺部に向つて伸展しており,水平方向(3時,9時方向)に発現していた症例は皆無であり,この領域を支配する長後毛様動脈循環は打撲により障害され難いものと推測された。

中心性漿液性網脈絡膜症に対するコルチコステロイド剤の影響について

著者: 若倉雅登 ,   石川哲

ページ範囲:P.123 - P.129

 中心性漿液性網脈絡膜症がコルチコステロイド剤全身投与中に惹起した5例と,本症に対しステロイド剤内服療法が行われた9例につき,矯正視力,中心暗点,漿液性剥離の大きさ,螢光眼底所見などの臨床経過を検討した。その結果predni-soloneとして20mg/日以上の投与は,本症の発症ないし増悪をおこす可能性があり,中心性漿液性網脈絡膜症患者および既往のある例には禁忌であると考えられた。

糖尿病性虹彩ルベオーシスの治療

著者: 蓮沼敏行 ,   橋本和彦 ,   井田理恵 ,   沼賀哲郎 ,   堀内知光

ページ範囲:P.131 - P.143

 糖尿病性網膜症に虹彩rubeosisまたはneova-scular glaucomaを合併した22症例28眼の臨床像ならびに治療効果を記述した。螢光眼底造影が可能であつた22眼に対し,新しい広範囲螢光造影の手技を用いて,網膜病変とルベオーシスの関係について検索した。その結果22眼全例で,乳頭黄斑部とRPC領域を除く網膜全体に広範囲の網膜院血管床閉塞を認め,この血管床閉塞が虹彩ルベオーシス発症の主要原因であると推定した。
 細隙灯顕微鏡と螢光虹彩撮影を用いて虹彩ルベオーシスを観察し,3段階に分類した。すなわち,瞳孔縁と隅角に軽度の新生血管が発生している段階を第Ⅰ度とし,虹彩面上と隅角に新生血管が多数発生している段階を第Ⅱ度とし,周辺部虹彩癒着がほぼ完成して高眼圧を呈する段階を第Ⅲ度とした。
 この推論に基づいて,11眼に汎網膜光凝固を行い,17眼に網膜中間周辺部の冷凍凝固を施行した。冷凍凝固群の内,高眼圧を呈した8眼には毛様体冷凍凝固も併用した。
 その結果,正常眼圧群18眼中7眼にルベオーシスの半減を認め,有効であつた。高眼圧群10眼では9眼に眼圧の下降,ルベオーシスの退縮,疼痛の消失があり,有効であつた。

クリプトン,アルゴン,両レーザーによる光凝固効果

著者: 松島省吾 ,   原徳子 ,   西信元嗣 ,   中尾主一 ,   日浅義雄

ページ範囲:P.145 - P.150

 (1)アルゴンレーザーとクリプトンレーザーによる凝固効果の差は,照射入力の弱い時は認められるが,強くなれば認め難い。
 (2)凝固効果に差の出る照射入力の範囲内では,網膜深層にほぼ同性質同程度の効果をもたらすが,浅層に対してはアルゴンは著明な影響をもたらすが,クリプトンではそれほど強い影響を与えない。

Coats病に対するxenon光凝固とargon laser光凝固の遠隔成績についての比較検討

著者: 渡辺愛子 ,   追中松芳 ,   日山昇 ,   荻田昭三 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.151 - P.156

 1962年6月から1978年12月までの16年7カ月間に,Coats病に対して光凝固を施行し,最終光凝固後6カ月以上経過を観察できた症例は39例40眼であつた。内訳はxenon光凝固群が24眼,argonlaser光凝固群が12眼,両者併用群が4眼で,それぞれの遠隔成績について比較検討を加え,つぎのような結果が得られた。
 (1)血管病変の広がりと治療成績を比較すると,xenon光凝固群,argon laser光凝固群ともに,病変の広がりが狭いほど効果が大きく,病変が2象限以内の症例ではxenon光凝固群は15眼中12眼(80%),argon laser光凝固群は9眼中8眼(88.9%)に著効が得られた。病変が2象限以上の広い範囲におよんだ進行例では,両群ともに不変および無効例が多かつた。
 (2)血管病変の広がりと最終受診時視力との関係についても,病変が2象限以内の場合,xenon光凝固群は,15眼中7眼(46.7%),argon laser光凝固群は9眼中5眼(55.6%)に0.6以上の視力を保持できた。
 (3)血管病変の広がりが2象限以内の著効例における光凝固前後の視力の推移は,視力の改善がみられたものでは,両群ともに最終光凝固後約12カ月で最高視力に到達した。

早期糖尿病螢光眼底所見—食餌療法の影響について

著者: 永井真之 ,   銅直利之

ページ範囲:P.157 - P.165

 早期糖尿病(pre, chemical diabetes)に対して検眼鏡的に異常のない者で螢光眼底異常所見を呈した者56名に対し,食餌療法単独の治療を加えた結果以下の結論が得られた。
 (1)食餌療法良好群,(目標カロリーの±100カロリー以内に到達した者)は14名(25%)であつた。
 (2)食餌療法良好群が不良群よりも有意に螢光眼底異常所見が消退する傾向にある。
 (3)50g GTTは食餌療法,螢光眼底所見共に有意な関連はみられなかつた。
 (4)30分I.I.(30分ΔIRI/ΔBS)は,食餌療法および螢光眼底所見との有意な関連はなかつた。
 (5)肥満度は,食餌療法にて有意に調整され,体重調整により螢光眼底所見は消退する傾向がある。このことより,糖尿病の健康管理は体重調整に重点をおくべきである。
 (6) FFAは食餌療法にて有意に改善するが,螢光眼底所見とは有意の関連はない。
 (7)神経障害,血管障害,肝機能と食餌療法および螢光眼底所見との関連に有意の差はない。

増殖性糖尿病性網膜症に対する光凝固の効果と限界

著者: 北川道隆 ,   村岡兼光 ,   小林義治 ,   青木順一 ,   仁木高志 ,   岡野正

ページ範囲:P.167 - P.181

 乳頭あるいは網膜に新生血管を有する糖尿病性網膜症44例52眼に対し汎網膜光凝固panretinalphotocoagulationを行い,乳頭および網膜の新生血管,血管の拡張ならびに透過性亢進,黄斑部に対する効果を光凝固前後で比較検索した。検索方法として広範囲パノラマ螢光眼底造影を用いた。
 光凝固は,西独xenonとargon laserを用い,乳頭・黄斑部を除く広範囲の眼底に均一・等間隔な凝固斑をおく方法で行い,1眼に対し263〜1,927発の凝固を行つた。
 網膜新生血管は光凝固前49眼で412個の発生が観察され,そのうち凝固後262個(63.6%)が消失,30個(7.3%)が縮小した。またその大きさ,発生部位別に大きな差はなかつたが,特に黄斑上下の血管arcade部に発生したものに対しては効果が限定される傾向があつた。
 乳頭の新生血管は29眼で計52個の発生が観察され,そのうち10眼(34.5%)で有効と判定され,新生血管も14個(26.9%)が消失,5個(9.6%)が縮小するという間接効果が得られた。
 凝固部位の血管の拡張の軽減は全例で観察され,透過性亢進も減少した。さらに直接凝固をしなかつた黄斑部所見が改善される例も多く見られた。しかし視力の改善効果は少なかつた。

糖尿病性網膜症—中心窩周囲の毛細血管網の変化と視力の予後

著者: 田村正 ,   田村正昭

ページ範囲:P.183 - P.187

 糖尿病性網膜症において,黄斑部の浸出性変化により視力の低下を見た93眼に,螢光眼底造影を行い,perifoveal capillary network(PCN)の障害の進行度と視力との関係を検討した。その結果この血管網の閉塞が著明に進行している眼では,それが軽度である眼に比べ,視力低下は高度であつた。
 次に治療後2年目の視力を75眼について検討すると,血管網の障害が著明な眼では,それが軽度な眼に比べ,視力の予後は不良であつた。
 以上のことから,黄斑部浸出性病変を治療する前のPCNの所見は,治療後の視力を推測する一つの有力なdetaになりうると結論した。

糖尿病性網膜症に対するpanretinal photocoagulationについて

著者: 千代田和正

ページ範囲:P.193 - P.200

 糖尿病性増殖型網膜症23例(41眼)にpanretin-al photocoagulation(PRP)を行つた。
 乳頭新生血管の有無で,PRPの効果に著しい差があり,乳頭新生血管を伴わない症例では19眼中16眼(84%),乳頭新生血管を伴う症例では22眼中8眼(37%)に有効であつた。
 強い乳頭新生血管を伴う症例では,一時的には新生血管が減少するが,3カ月〜6カ月の経過で新生血管が再増殖する傾向があつた。また新生血管が再増殖し,硝子体出血を起こした5眼には冷凍凝固を併用したが,著効はみられなかつた。

経口的蛍光眼底写真撮影について その1

著者: 山崎芳治 ,   小林賢 ,   滝本久夫 ,   小松仁 ,   寺田永 ,   森茂

ページ範囲:P.201 - P.205

 われわれは,Fl-Naを経口投与する事により,螢光眼底造影を行なうことができた。今回は正常眼底を中心とした基礎的問題について報告した。
(1)1個人あたり1gのFl-Naを内服させ20分後より15分毎に3回程度撮影を行なえば良い。
(2)螢光所見では,経静脈的投与法の静脈相後期に類似の状態で始まり,色素上皮層および脈絡膜の疾患に対して適応と考える。

鋸状縁部の螢光眼底所見

著者: 近藤聖一

ページ範囲:P.207 - P.213

 著者は,鋸状縁部の螢光眼底撮影を行ない,以下の結果を得た。
 (1)網膜鋸状縁部は網膜血管に螢光色素が入る前から背景螢光が出現し,特に毛様体扁平部との移行部で過螢光が著明に認められる。
 (2)この過螢光部分は歯状突起の形の影響は受けず,検眼鏡的な類嚢胞変性部をしばしば越えて認められる。
 (3)一方,毛様体扁平部は,脱色素が存在していない限り,背景螢光は認められない。
 以上の所見から,網膜鋸状縁部の過螢光は,この部の網膜色素上皮層が薄く色素含有量が少ないことと関連が深いと考えてよく,また毛様体扁平部の低螢光は,この部の厚い暗調な色素上皮層による強いフイルター効果によるものと思われる。

螢光網膜電図(Fluorescein ERG)その原理と臨床的応用

著者: 玉井信 ,   松谷千鶴 ,   清沢源弘 ,   水野勝義

ページ範囲:P.215 - P.222

 BRBの機能異常ないし破壊の存在およびその程度を知る目的でF注入前後の励起光(480nm)による網膜電図を記録した。
 (1)正常者群は注入後10分間その大きさに変化はみられなかつた。老人性白内障を伴う群では5分後に有意に増大したF-ERGが記録された。
 (2)前網膜症期にある糖尿病患者ではF−注入直後より0.1%の危険率で有意に増大したF−ERGが記録され,1分,2分,3分,10分後でも増強されていた。
 (3)単純網膜症を伴う糖尿病患者では10分後に増殖性網膜症を伴う群では5分,10分後に有意差のあるF-ERGが記録された。
 (4)網膜色素変性症群ではF注入2分,5分,10分で有意差のあるF-ERGが記録された。
 (5)原田病患者では5分後のF-ERGが有意に増強されていた。
 以上の結果より糖尿病患者では網膜症の発現する以前からBRBが機能不全に陥つていること。また上記の種々の疾患で同様にBRBの破壊が存在することがERGを介して証明された。

ERG・c波の明,暗順応による波形変動

著者: 笹森秀文

ページ範囲:P.223 - P.231

 正常人眼のERG・c波について,種々の記録条件下で,最も良好な波形を得る条件を探索すること,ならびに明,暗両順応下におけるc波の動態の観察を試み,以下の特性が明らかとなつた。
 (1)十分に安定したc波を記録するためには,前明順応照度1,000lux,前明順応時間5分,前暗順応時間30秒以上,刺激持続時間10秒以上,刺激強度50luxの条件が適当であつた。
 (2)暗順応過程におけるc波振幅の変動経過は,前明順応照度によつて影響され,前明順応照度が1,000luxの場合は暗順応開始後11〜13分に最低値を持つ谷型の変動経過を示し,前明順応が10luxの場合には,c波振幅は暗順応が経過するとともに直線的に増大した。
 (3)明順応過程におけるc波振幅の変動は,前明順応照度(1,000,あるいは10lux),明順応照度(10,100,あるいは300lux),さらには刺激強度(5,あるいは50lux)のいずれの条件によつても左右されず,約7分にピークを形成する山型の経過を示した。
 (4)前明順応1,000lux,前明順応時間5分,刺激光強度50lux,明順応照度5luxの記録条件でのc波振幅の変動経過は,EOG曲線に極めて類以した経過を示した。
 (5)正常眼であれば,前明順応照度1,000lux前明順応時間5分,刺激光強度50lux,明順応照度5luxを用いれば,何らかのc波振幅が明,暗順応経過中に,検出可能であつた。

連載 眼科図譜・267

稀有な視神経乳頭形成異常の1例(菊花症候群・仮称)

著者: 粟屋忍 ,   杉田潤太郎 ,   木内誠

ページ範囲:P.104 - P.105

〔解説〕
 視神経乳頭の先天異常の1例を経験し,その乳頭上組織の形態があたかも菊の花のようにみられ,これまで報告されているものとは異なるため報告する。

臨床報告

稀有な視神経乳頭形成異常の1例(菊花症候群・仮称)

著者: 粟屋忍 ,   杉田潤太郎 ,   木内誠

ページ範囲:P.233 - P.235

 (1)3歳女子にみられた視神経乳頭の先天異常につき報告した。
 (2)水晶体後嚢鼻側に密着した茶褐色膜様組織,視神経乳頭上の黄赤色の膜様組織,乳頭周囲の輪状の網脈絡膜色素変化,血管の異常がみられたが,乳頭の陥凹はみられなかつた。
 (3)本症例は乳頭部P.H.V.や朝顔症候群などと本質的には同一疾患であり,これらの異常はBergmeister乳頭遺残が主因となり,硝子系の遺残が複雑に関与しているものと推論した。
 (4)朝顔症候群を中心とした報告例62例につき性差を検討したが,差は認められなかつた。

原発性網膜色素変性症における網膜浮腫発生原因に関する検討—Ⅰ.臨床像

著者: 三宅謙作

ページ範囲:P.237 - P.242

 42症例の原発性網膜色素変性症(以下当疾患)中13症例(31%)に両側性の網膜浮腫(嚢腫状黄斑浮腫を含む)(以下浮腫)を螢光眼底造影で検出した。浮腫群の年齢は32歳から74歳に分布し性別遺伝形式の上で特色はなかつた。浮腫群,非浮腫群について視力,視野,(螢光)眼底所見および硝子体変化などの臨床的なparameterで当疾患の進行程度を調べると浮腫群が活動期の当疾患に多いのに対して非浮腫群は末期の当疾患に多いことが統計学的有意に示された。高頻度に浮腫が合併することおよび活動期に浮腫が多発することから,当疾患における浮腫の合併は偶発的なものでなく原疾患の進行病態と密接な関連を有することが強く示唆された。

日本人の螢光虹彩血管造影について—Ⅱ.家兎および日本人の虹彩色素と虹彩血管造影の関係

著者: 海野さち子

ページ範囲:P.243 - P.246

 健康な家兎において,螢光虹彩血管造影を行い,虹彩の色調と造影の程度を比較した。続いて組織学的に検討し,次のような結論を得た。
 (1)白色家兎では鮮明な虹彩血管の螢光像を得ることができた。虹彩組織はどの部分にも虹彩色素を認めなかつた。
 (2)灰白色の虹彩では鮮明な螢光像を得たが,組織標本では,前境界層には虹彩色素を認めず,虹彩色素上皮には多量の虹彩色素を認めた。
 (3)茶色の縞状の虹彩では,茶色の濃淡に相当して螢光像も縞状に鮮明な部分と不鮮明な部分が見られ,組織は,前境界層,基質,色素上皮層に多量の虹彩色素が見られた。
 (4)褐色の虹彩では虹彩血管の螢光像は認められず,点線状に漏出するのが観察された。組織は前境界層,基質,色素上皮層に虹彩色素が多量に認められた。
 (5)どの色調の虹彩も,組織学的な基本構造には差がなく,虹彩色素の存在する部位と量にちがいがあるのであり,これにより,螢光虹彩血管造影法による虹彩血管の造影の程度が決定されることがわかつた。

黄斑裂孔を伴つたpit macular syndromeの1例

著者: 萱沢文男

ページ範囲:P.247 - P.252

 21歳,女性にみられた黄斑部限局性網膜剥離の1例につきその臨床経過を報告した。黄斑剥離は,全層性と考えられる黄斑裂孔を伴い,また視神経乳頭にはoptic pitが認められた。網膜剥離部に光凝固を行つた所,網膜剥離の急速な消退,視力の著明な改善をえた。
 本症例の臨床経過より分層孔と全層孔の鑑別診断の問題点について考察した。光凝固の奏効機序としては,脈絡膜側への下液の排出路造設という考え方以外に,熱エネルギーによる浮腫液中の蛋白凝固にもとづく膠質浸透圧の低下という新しい仮説の可能性も検討した。

逆位相眼球運動の発生機構—外眼筋伸張反射説に対する反論と網膜誤差(遠心性コピー)説について

著者: 山崎篤巳

ページ範囲:P.253 - P.257

 外斜視4例,内斜視4例の固視眼の内外直筋を眼球から切断遊離後,固視眼に強制運動を加えると逆位相眼球運動は惹起されたが,眼筋のみを伸張しても逆位相眼球運動は惹起されなかつた。この実験から,逆位相眼球運動の発生機構は外眼筋伸張受容器反射によるのではなく,視覚および眼球運動系による網膜誤差を解消すべき方向に起こる,open-loop下の条件で惹起されたHeringの法則による共同眼球運動であると考えた。

斜視の原因と治療

Ⅻ(最終回).外斜視の原因とMaster Eye手術の効果

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.258 - P.259

 本シリーズを終るにあたつて,外斜視の原因とMastereyeを手術した場合の効果とを一括してみよう。既に100例以上の患者について手術してみたが,その効果は抜群であり,持続的である。かつその効果が機能的であることを示している。
 図1は外斜の成因を模式化したもので,黒の矢印で示すように異常が進展するものと推定される。特発性のものでは何等かの原因(?印)により,まず中枢における両眼視能に抑制がかかる。そうするとFusionが働かなくなるので,両眼の内直筋のTonusが低下する。これが引き金となつてMaster eyeのProprioceptionに異常Impulseが発生し,その結果Slave eyeは外斜する。異常Impulseは更にFusionを抑制し,ここに悪循環をくりかえす。またFusionの抑制はSlave eyeの弱視をおこす。廃用性外斜視は図の「一眼視力喪失」から出発して特発性のものと同じ経路を経て発生する。両者は基本的には同じである。

文庫の窓から

医学正伝(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.260 - P.261

 いわゆる中国・金・元医学がわが国に入つてきたのは,およそ室町時代の末期(16世紀の初め頃)で,その端緒を開いた人は田代三喜(名・導道,諱,三喜,字・祖範,号・意足軒,江春庵,日玄,善道,支山人,範翁等,武州越生の人,1465〜1537)である。
 三喜は長享元年(1487)23歳の時に国使に従つて渡明し,延べ12年間明に留まり,僧月湖(僧医,明監寺と称し,潤徳斎と号す,享徳2年,明に渡り法を求め,銭塘に住し医を行なう。「全九集」「済陰方」を著わす)に師事して李東垣,朱丹溪の医説を学んで帰国した。また,三喜は虞搏の医説をも承けた。

GROUP DISCUSSION

超音波

著者: 山本由記雄

ページ範囲:P.262 - P.264

1.未熟児眼の超音波的観察──眼軸長成長の特徴
 先に,未熟児眼の超音波的観察,第6報として,生後から1年以上にわたり,未熟児眼の眼軸長およびその構成因子の長さを経時的に計測した結果を報告したが,今回は,未熟児網膜症に罹患したものだけをとりあげて,その眼軸長および構成因子の成長傾向を追求し,網膜症を経過しなかつた未熟児群と比較し,網膜症を経過した者が普通の未熟児とは異なつた特異の成長傾向を示すか否かを検討した。
 使用機器は前回までと同様で,ゼネラル製ZD 251形超音波診断装置,ZD 291 P形デジタル式眼軸長測定装置を用い,対象は前回同様都立築地産院に在院した未熟児のうち網膜症に罹患した10例20眼を対象とした。このなかには光凝固または冷凍凝固を受けたもの3例6眼が含まれている。

追悼

桐沢先輩に哀悼の意を捧ぐ

著者: 鹿野信一

ページ範囲:P.265 - P.267

 桐沢長徳先輩の突然の昇天の報をうく。驚愕哀悼,自失茫然,正に言葉もない。私が眼科の道を選んで以来,常に路の先達として私どもを教導してこられた,そのよき先達を正に今ここで失つたのである。
 省みると種々先輩との間の叱られたり,笑われたり,おこつたりの今では楽しい憶い出が沢山にある。先輩の学問上の,学界への沢山の業績については私が今行き届かぬ筆を使うのは失礼になる必配が多い。私はたつた今走馬燈の様に脳裏をめぐる情景の中からその一駒を数行記してみたいと思う。

桐沢長徳君を偲んで

著者: 河本正一

ページ範囲:P.268 - P.268

 桐沢君は昭和6年東大眼科に入局されましたが,この年には8人もの入局者がありました。今のこつている国友・田野辺・小生も一緒でした。当時は臨床研修2年がすむと医局を出て,就職したり,博士論文作製の研究をするという制度でした。世間知らずのものが,8人と大量に入つて来たので,医局が混乱したのでした。その収拾には桐沢君は大へんつくされたのでした。
 桐沢君は入局3年後,岩手医専教授に任ぜられましたが,眼科の神様という評判が立ちました。石原教授のご信任が厚く,昭和12年東大助教授になられました。その頃,今はない松本神三郎君と一緒に,時々学士会館で撞球を楽しんだことが思い出されます。私事ですが,昭和13年の関西水害の時,弥生町のお宅から,下谷清水町の小生宅まで,ふとんをご持参になつて,お見舞に来られました。玉のようなお人柄に接して,看護婦さんに至るまでみんなの者が敬愛しました。最近のことでしたが,台湾の陳新連氏のお世話もなさつていました。

桐沢長徳先生を偲ぶ

著者: 水野勝義

ページ範囲:P.269 - P.269

 桐沢先生は昭和30年5月東北大学医学部教授になられ,同46年3月定年退官されるまで眼科学講座を担当されました。ご在任期間における先生の学者として,教育者として,臨床家としてまた管理者としてのご業績は数え切れない程であり,大きな影響を後世に残されました。
 なかでも,先生のライフワークの一部であつた「眼科領域における薬物療法」と「眼の形成外科」に関する多くの論文は,この方面の開拓者的研究であり,当時の学会はもとより,現在の学会でも高く評価されているし,その晩年に手がけられた「眼サルコイドージス」に関する広範囲な研究や「ブドウ膜炎」の研究もまたユニークなもので,現在の教室における研究テーマの一部となつており,先生の確かな先見の明と,すぐれた卓見の証しであろう。

桐沢長徳先生を偲んで

著者: 三島済一

ページ範囲:P.270 - P.270

 私どもの日頃敬愛していた桐沢長徳先生には1月4日早朝,突然ご逝去になり,わが国のみならず,世界の眼科にとつても,大きな損失で,誠に悲しいことである。特に先生には,昭和31年以来,臨床眼科編集の中軸となつて,本誌の発展に貢献されてこられ本年の第一回編集委員会には,編集顧問としてご出席下さる予定であつたのに,突然お亡くなりになつたので,第一回編集会議は,先生の追悼の会となつた。先生のご功績をたたえ,この号を桐沢先生追悼号にすることとなつた。私個人は,30年来,先生の直接のご指導を受けていたので,先生の思い出などを述べ,心からご冥福をお祈りしたい。
 昭和25年,私どもが眼科の勉強をはじめた頃桐沢先生は,東大助教授,分院科長として,毎週1回,本院の外来をご覧になり,また,本院で手術指導をされた。当時の白内障手術はグレーフェ刀で切りあげ,角膜を縫わない術式であつたが,はじめて桐沢先生のされた手術の助手をし,患者さんの受け持ちになつて,手術の翌日診察すると,どちらの眼を手術したのかわからない位きれいであり,他の症例と全然様子が違つていることを発見して驚いたことを今でも忘れることができない。それ程,先生の手術は見事なもので,先生のピンセットのさばき方,刀の運び方,などを見ながら,これが我々世代の手術に対する考え方の基本になつていつたものと,非常に感謝している。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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