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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科34巻7号

1980年07月発行

雑誌目次

特集 第33回日本臨床眼科学会講演集 (その6) 学会原著

網膜静脈枝閉塞症に対するargon laser光凝固治療

著者: 戸張幾生

ページ範囲:P.937 - P.945

 綱膜静脈枝閉塞症237眼にargon laser光凝固治療を行った。237眼のうち87眼は,xenon光凝固治療を併用した。
 光凝固の適応を黄斑部に浮腫の存在する185眼と,網膜血管新生のある52眼とした。237眼のargon laser光凝固治療の結果,以下の結論を得た。
 (1)年齢による視力の改善は,60歳以下の症例ほど60歳以上の症例に比較して,良好であった。
 (2)発症より光凝固治療までの期間については,3カ月以内に治療した症例は,4カ月以上の症例に比較して,術後の視力の改善が良好であった。
 (3)黄斑部毛細血管網の障害のあるものおよび黄斑部嚢腫を形成しているものは,術後の視力の改善がきわめて悪く,20%にやや改善がみられたのみで,大部分は不変ないし悪化した。
 (4) argon laser単独使用の150眼のうち,137眼の最終視力は,0.6以上が62%であったが,黄斑部の血管障害,黄斑部嚢腫状変化の症例の多いxenonとの併用例87眼のうち84眼の最終視力は,0.6以上は34.5%にすぎなかった。
 (5)52眼の血管新生症例のうち8眼は視神経乳頭部より発症した。また,治療した52眼の18%は,術後硝子体出血の再発がみられ視力の低下を来した。

網膜色素変性症患者の眼合併症—特にコーツ症候群について

著者: 梶原喜徳

ページ範囲:P.947 - P.955

 1975年1月から,1978年12月までの4年間に長崎大学眼科を受診した網膜色素変性症患者(P.D.)171例について,その家族歴および眼合併症を調査した。
 (1) P.D. 171例の年齢は,4歳〜83歳(平均44.3歳)にわたり,うち男性は89例,女性は82例であった。
 (2) P.D. 155例の家族歴では,血族結婚が42例(27.1%)に認められた。遺伝形式では,常染色体優性型が17例(11.0%),常染色体劣性型が45例(29.0%),伴性型が2例(1.3%),孤発例が91例(58.7%)であった。
 (3) P.D. 171例における眼合併症では,併発白内障101例,眼位異常24例,強度近視18例,緑内障16例,黄斑変性14例,眼球振盪症6例,網膜剥離4例,乳頭ドルーゼ3例等が認められた。これらの眼合併症の出現頻度と,P.D.の遺伝形成との間に有意の関係は見られなかった。
 (4) P.D.とコーツ症候群が合併した2症例について,文献的な考察を加え報告した。

眼位と眼圧

著者: 三木弘彦

ページ範囲:P.957 - P.964

 眼位は第1眼位で測定し,その眼の眼圧値として評価される。しかし,実際は人間の眼球は覚醒時にはたえず動いているし,睡眠中は上転していることが多い。
 今回は第1眼位の眼圧と上方視,鼻方視,耳方視の第2眼位の眼圧を測定しその変化を調べたところ,次の結果を得た。
 1)正常人眼20例40眼の第2眼位で眼圧値は第1眼位の眼圧と同じ値か,第1眼位の眼圧より2mmHg以内の上昇を示した。正常人眼では,(第1眼位の眼圧値)+(0〜+2mmHg)=(第2眼位の眼圧値)の式が成立する(図2)。
 2)第1眼位の眼圧より第2眼位の眼圧が4mmHg以上の異常上昇を呈した疾患には,内分泌性眼球突出眼,眼窩壁骨折,頸動脈海綿動脈洞瘻,眼窩炎性偽腫瘍,眼筋麻痺などに認めた(表2)。
 3)緑内障眼では,24例46眼中10例20眼(約42%)に第1眼位の眼圧より第2眼位の眼圧が4mmHgの上昇,または眼圧が21mmHg以上の高眼圧値を示した。
 第1眼位の眼圧が正常範囲内の変化で第2眼位の眼圧が21mmHg以上の高眼圧値を呈する緑内障が存在することが判明した。治療にはこの第2眼位の眼圧を20mmHg以下にコントロールすることで緑内障の進行を停止できた。低眼圧緑内障と診断されているものの中にこのようなタイプの緑内障がみられた。

Tonic pupilの検討:Adie症候群と全身合併症を伴うtonic pupilとの比較

著者: 新富芳子 ,   花田一誠 ,   加瀬学 ,   岡田文彦

ページ範囲:P.965 - P.974

 Adie症候群22例のtonic pupilと全身疾患を伴ったtonic pupil 8例を瞳孔運動patternと薬物反応性の経時的変化に着目して比較を行つた。
 Adie症候群の21例は片眼性,1例のみが両眼性であった。全身合併症を伴うtonic pupilでは7例が両眼性,1例のみが片眼性であつた。
 瞳孔運動patternはAdie症候群では比較的均一であったが,全身合併症を伴つた群ではmiosisを伴う,対光反応障害が軽度である,近視反応の縮瞳量が少ない,近見反応のtonicityが顕著ではないなどAdic症候群の瞳孔とは種々の相異を示す例が多かった。
 全対象30例中,Adie症候群の4例と全身合併症を伴うtonic pupilの4例で,内眼筋麻痺からtonic pupilに移行する過程が観察された。
 Adie症候群ではtonic pupilの臨床像が早期に完成される例が確認されたが,全身合併症を伴う4例では,内眼筋麻痺発症後8〜22カ月後にton-ic pupilに移行した。
 全対象30例が2.5%メコリールに過敏性を示したが,全身合併症を伴う群では5例が初め過敏症を示さず,発病後2カ月〜1年目までに徐々に感受性が高まり,明らかな過敏性を呈するようになった。

白内障手術患者における糖負荷後の房水グルコース量の変動について

著者: 藤原隆明 ,   尾羽沢大 ,   三国郁夫 ,   長尾玉子 ,   佐藤薫 ,   和田真知子

ページ範囲:P.975 - P.983

 正常眼2眼,老人性白内障眼41眼,糖尿病性白内障眼13眼につき房水化学組成分析を行い,次の結果を得た。
 1)空腹時血清値は,糖尿病性白内障眼ではGlu-coseが正常値より高かった。その他は全て正常範囲にあるが,白内障眼ではNa・Total protein・Albumin・T-cholesterolが正常眼に比してやや高く,老人性白内障ではUric acidが他群に比しやや高かった。またPは白内障群でやや低かった。
 2)空腹時房水値は,糖尿病性白内障眼でGlu-cose・Uric acidが他群に比し高く,Naが正常眼および糖尿病性白内障眼で老人性白内障眼より低かつた。
 3)空腹時のいわばsteady stateにおいてRasは,Glucoseの場合正常眼で0.5,糖尿病性白内障眼で0.8以上で,老人性白内障眼はこの中間にあった。Uric acidは糖尿病で最も高かった。
 4)上記の老人性白内障眼のGlucoseのsteadystate Rasは加齢とともに上昇し糖尿病性白内障眼のそれに近づくものであることが再確認されたた。
 5)老人性白内障のべ34眼・糖尿病性白内障8眼にたいし経口的糖負荷を行った。非糖尿病性老人性白内障眼患者においては70歳代・80歳代は60歳代以下に比して血糖値上昇がより著しく,その後の下降もより遅延する傾向が認められた。

白内障嚢内摘出術と超音波吸引術における手術成績の比較検討について

著者: 馬嶋慶直 ,   江崎淳次 ,   野川秀利

ページ範囲:P.985 - P.991

 (1) ICCE, KPEで手術を行った各300眼は,平均年齢ICCE 71.1歳,KPE 58.4歳で後者が12.7歳若かった。
 (2)術前視力は,ICCEに比しKPEは0.1〜0.01に多く術後視力0.5以上を得た症例はICCE66.0%, KPE 88.7%で後者に多かった。
 (3)同一症例において片眼ICCE,片眼KPEを行った70例140眼では,術後視力0.5以上得たものは,ICCE 85.7%,KPE 82.9%でほぼ同様の傾向を示した。
 (4)術後角膜乱視の発生は,ICCE 1.18D,KPE 0.41Dと後著に有意に小さかった。
 (5)平均cell density平均cell面積拡大率はICCEに比し,KPEが軽度である。ただし超音波使用時間2分以上の例および高齢者の例では両者において差を認めなかった。
 これらのことより従来の白内障摘出術に比し損色のない術式と考えられた。

水晶体鉄錆症の実験的研究

著者: 能美俊典

ページ範囲:P.993 - P.1002

 家兎水晶体の前極部,赤道部,核部,後極部の各部位に鉄片を挿入し,実験的鉄錆症を起こし,その臨床的経過および組織学的所見について検討した。
 (1)臨床的水晶体鉄錆症は赤道部,前極部,後極部鉄片挿入家兎眼の順に多く,核部群では観察期間中には認められなかった。
 (2)臨床的に典型的水晶体鉄錆症は,いずれも赤道部群であり,発症日数は平均32日で最も短期間であった。
 (3)組織学的には上皮細胞層に著明な変化を認めた。光顕的には鉄染色陽性顆粒の沈着を認め,電顕的には0.1〜0.5μの異常顆粒を認め,微量分析で鉄を証明した。
 (4)核部挿入群について,さらに正常を対照としてその前房水鉄濃度と水晶体各層における半定量的鉄濃度比の推移を検討した。12週まででは前房水鉄濃度にはほとんど差をみないが,水晶体各層の鉄濃度の増加傾向が認められ,12週では鉄の沈着を証明した。

ブドウ膜炎の前房隅角螢光造影所見

著者: 木村良造

ページ範囲:P.1003 - P.1006

 各種ブドウ膜炎患者に前房隅角螢光造影(FGP)を施行し,以下のごとき新知見をえた。
 (1) Vogt−小柳−原田症候群のVogt−小柳型と原田型の鑑別がFGPにより容易となる。すなわち前者ではFGPにより線維柱帯部に過螢光点(trab-ecular hyperfluorescent dot)や新生血管(trabecu-lar neovascularization)が認められるが,後者ではそれらが認められない。
 (2) SarcoidosisにおいてもFGPにより過螢光点や新生血管が認められることがある。
 (3) Behçet病のブドウ膜炎発作時においてはFGPにより,隅角底より前房内への色素の噴出所見が認められる。発作間歇期には色素の漏出は認められない。

熊大眼科における眼サルコイドーシスの統計的考察—特に診断時の眼症状について

著者: 池間昌陸 ,   宮本文夫 ,   岡村良一

ページ範囲:P.1007 - P.1012

 (1)熊大眼科における眼サルコイドーシス55例の眼科での診断時における眼病変について統計的考察をおこなったが,眼病変では前部ブドウ膜炎が46例(83.6%)で最も高頻度に認められた。
 (2)病変の組合せとしては前部ブドウ膜炎+網膜血管炎+網脈絡膜滲出斑が20例で最も多い組合せであった。
 (3)眼サルコイドーシスの8例にみられた鋸状縁部の滲出性変化について報告したが,この変化はサルコイドーシスに比較的特徴のある所見ではないかと考える。

ベーチェット病および原田病におけるインターフェロンの検索

著者: 加藤富士子 ,   大野重昭 ,   松田英彦 ,   藤井暢弘 ,   皆川知紀

ページ範囲:P.1013 - P.1016

 ベーチェット病患者46例143検体および原田病患者16例76検体を対象に血中IFを検索したところ次のような結論を得た。
 (1)正常対照群平均6.8単位に対しベーチェット病患者群平均は55.7単位,原田病患者群平均は52.1単位と著明な高値を示した。
 (2)ベーチェット病の発作前期および発作期に著明な低下をみた。
 (3)原田病では臨床過程にやや遅れて発症より1カ月,2カ月目に有意の上昇をみた。

ベーチェット病の治療

著者: 小暮美津子 ,   大野弓子 ,   島川真知子

ページ範囲:P.1017 - P.1024

 40歳未満,眼発症者で眼底病変を有するベーチェット病患者を治療薬別に,ステロイド剤内服群,免疫抑制剤内服群,コルヒチン・免疫抑制剤併用群,コルヒチン内服群の4群に分け,その効果を各種基準を設けて比較検討し,次の結論を得た。
 (1)眼再発総数の減少は,コルヒチン内服群で最も多く,以下免疫抑制剤・コルヒチン併用群,免疫抑制剤内服群,ステロイド剤内服群の順であった。治療後に再発総数の増加例の最も多かったのは,ステロイド剤内服群で,次が免疫抑制剤内服群であった。
 (2)再発の部位別検討においても,ステロイド剤内服群は他の3群にくらべ,前眼部型,眼底型発作数ともに著しく多く,特に前房蓄膿性虹彩炎の再発数が多かった。
 (3)4群の治療開始1年半後の視力保全はコルヒチン内服群で最も良好で,次に免疫抑制剤・コルヒチン併用群,免疫抑制剤内服群の順であった。視力低下例の最も多かったのは,ステロイド剤内服群であった。
 (4)ステロイド剤内服群と非内服群の2群に大別し,眼発症3年後,5年後の視力を比較すると,後者の視力予後は3年後,5年後ともに前者にくらべ著しく良好であった。またステロイド剤内服群では,5年後の視力が3年後にくらべ有意に低下していた。

陳旧性硝子体出血に対するウロキナーゼ硝子体内注入療法

著者: 沖坂重邦 ,   杉町剛美 ,   石田誠夫 ,   百瀬隆行 ,   武谷ピニロピ ,   樋渡正五

ページ範囲:P.1025 - P.1030

 高度の硝子体出血があり,8〜78カ月の非観血的治療にもかかわらず,一向に吸収の兆のみられない9例9眼に,フィブリン溶解酵素活性化剤であるウロキナーゼ24,000国際単位を前房水に溶解し,毛様体扁平部より硝子体内に注入した。
 硝子体混濁のほぼ完全に吸収されたもの5例,かなり吸収されたが一部に混濁の残っているもの3例,変化のみられなかったもの1例であった。術後の視力改善は著効5例,有効1例,あまり効果の認められなかったもの3例であった。
 ウロキナーゼ硝子体内注入により前房蓄膿を伴うぶどう膜炎を7例に惹起したが,術後2〜3週間後にはほぼ消退した。しかし術後3カ月目に膨隆虹彩を伴う続発性緑内障を惹起し,虹彩切除術を行った1症例を経験した。術後合併症を考慮しても,陳旧性硝子体出血に対してウロキナーゼ硝子体内注入を第1選択とし,それで効果のみられなかったものに対して,硝子体切除術を試みるべきと考える。

硝子体手術術前検査としての超音波検査とその意義

著者: 林英之 ,   大島健司

ページ範囲:P.1035 - P.1045

 35眼の術前超音波診断と,それに対する硝子体手術,術中術後診断を比較した。その結果次の結論をえた。
 (1)網膜挙上と診断された群には全例網膜剥離または層間断裂が見られたのに対して硝子体網膜癒着と診断された21眼のうち2眼で網膜剥離が見られ,全体としての診断的中率は94.2%であった。
 (2)網膜剥離と網膜層間断裂の超音波検査による鑑別は困難であった。
 (3)硝子体膜形成のない例や硝子体網膜癒着のない例の手術は硝子体網膜癒着のある例に比して容易であった。
 以上,硝子体手術において術前の超音波検査は極めて有用であることを確認した。

妊娠により増悪したと思われる鞍結節髄膜腫の1例

著者: 橋本勝 ,   田内緑 ,   馬嶋昭生 ,   永井肇 ,   若林繁夫 ,   水野金一郎

ページ範囲:P.1047 - P.1052

 妊娠中に視力障害,視野異常が出現し,開頭術により鞍結節部髄膜腫が確認できた本邦では初めての症例を報告し,その症状出現の機序について考察した。症例は前回の妊娠中に右視力障害が出現したが,陣痛誘発の分娩後視力は回復した。今回の妊娠も妊娠後期に右視力障害,耳側半盲が出現し遂には右視力=0となり,左視力障害,耳側半盲も出現したが,分娩後左視力は回復した。開頭腫瘍摘出術を施行したが右視力の改善はなく,左視野の求心性狭窄を残した。この発症機序としては第1に妊娠による脳下垂体の生理的肥大,第二に原因は不明であるが妊娠による髄膜腫の増大が考えられ,これら二つがそれぞれ単独で作用したのではなく,両者相圧の作用により発症したと推論した。

Sex-linked juvenile retinoschisisの同胞例

著者: 鬼頭錬次郎

ページ範囲:P.1053 - P.1060

 典型的所見を有した6歳と4歳の男子同胞にsex-linked juvenile retinoschisisを経験し,その例に施行した螢光眼底検査にて,peripleral retino-schisisの部位でcapillary bedの閉塞による多彩な血管変化をみたが,新生血管の存在は認められなかった。よって本症の合併症の一つである硝子体出血は網膜内層裂孔の形成による際の血管破綻によるものと推定された。さらには検眼鏡的にperipheral retinoschisisのない部位にもmicro-angiopathyがあり,retinoschisisの部位の血管変化が二次的なものと考えられるので,その様な部位も将来検眼鏡で判別がつくretinoschisisとなる可能性がある。
 ERGのb波が減弱する事より本疾患は全網膜の疾患であり,その原因として,双極細胞層内の細胞における蛋白代謝異常が推察されることを考按した。

眼合併症を伴った色素性乾皮症の兄妹例

著者: 山秋久 ,   大石隆興 ,   井上雅雄 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.1061 - P.1066

 Xpは常染色体劣性遺伝性の光線過敏性疾患であり,高率に日光露出部位に腫瘍を併発する。
 今回著者らは眼部に腫瘍を併発したXp兄妹例を経験した。
 症例1は生後1年から日光露出部に色素沈着をみたが,5歳時より両眼輪部結膜に扁平上皮癌の出現を見,これを切除後新たな腫瘍の発生はなく経過観察中のものである。
 症例2では生後10カ月ごろより色素斑が出現し,2歳ごろより顔面に腫瘍,潰瘍の再発をくりかえし,10歳時に右眼外眼角部および上口唇に腫瘍の発生を見,組織学的に扁平上皮癌と診断されたものであり,典型的な種々の眼症状を併発していた。
 また両者は遺伝的相補性テストの結果,従来わが国の報告になかった相補性群C群に属していることが確認された。

超音波診断による硝子体出血の形態と疾患との関係について

著者: 竹内忍 ,   加藤秋成 ,   太田陽一 ,   箕田健生

ページ範囲:P.1067 - P.1074

 さまざまな原因によって硝子体出血をきたした135眼に超音波診断を試み,硝子体出血の形態と疾患との関係について検討を加え次の結果を得た。
 (1)出血エコー像より硝子体出血の形態をびまん性型出血,塊状型出血,弧状型(完全後硝子体剥離型)出血,漏斗状型(不完全後硝子体剥離型)出血の4型に分類した。
 (2)糖尿病性網膜症とEales病では,80%が漏斗状型出血の形態を示し,静脈閉塞症,高血圧では75%がびまん性および弧状型出血であった。
 (3)外傷では塊状型出血(60%),Terson症候群では漏斗状型出血し(60%)が多く認められ,裂孔原性網膜剥離ではびまん性型出血と弧状型出血の形態を示した。
 (4)硝子体手術においては,漏斗状型出血では増殖性変化や網膜剥離の合併が多く手術が困難なのに対し,びまん性型および弧状型出血では手術が容易であり,視力の予後も良いと思われた。

連載 眼科図譜・272

光凝固により縮小した硝子体嚢胞の1例

著者: 小野秀幸 ,   日谷博光 ,   久賀宣人

ページ範囲:P.934 - P.935

〔解説〕
 硝子体嚢胞は,かなり稀な疾患であり,わが国では,10余例の報告をみるにすぎない。なかでも,何らかの治療を加えて有効であったとの報告例は皆無である。
 最近,我々は硝子体内を遊走する,先天性と思われる硝子体嚢胞に遭遇し,光凝固によって著しく縮小させることができた症例を経験した。

臨床報告

網膜色素変性症のERG・VECP

著者: 中村善寿

ページ範囲:P.1075 - P.1081

 原発性網膜色素変性の各型と二次性網膜色素変性のERGとVECPについてのべた。網膜と皮質中枢レベルの錐体および桿体系機能を評価するために,皮膚電極と加算法を用いて明順応並びに暗順応下でオレンジ光刺激を行いERGとVECPの同時記録を行った。
 ERGは黄斑部機能の残存する原発性網膜色素変性症では暗所視成分(bs)のみならず明所視成分(bp)の検出も難しく,検出されても著明な振幅減弱が認められ,視野が広くても必ずしも検出されなかった。また局所ERGによっても良好な黄斑機能を表現できなかった。これに反しVECPの明所視成分(Ⅳ,Ⅴa)は視野狭窄著明でも黄斑機能が良好ならば検出同定が容易で正常の波形を示した。
 原発性網膜色素変性ではERGと視機能との間に著しい不均衝がみられるに反し,VECPは黄斑視機能をよく表現することから,ERGとVECPは本症では互いに補完関係にあるといえる。したがって両者の同時記録は本症の早期鑑別診断から末期の残存する黄斑部機能の評価までその意義は大きい。

乳頭欠損症における網膜視覚感度分布の検討

著者: 三村治 ,   田地野正勝 ,   下奥仁

ページ範囲:P.1083 - P.1087

 片眼性の乳頭欠損症(colobomata)の1例を経験し,通常の動的量的視野計測とともに眼底視標による静的量的視野計測を施行した。その結果,視力不良で固視不安定な視神経の先天異常症例においては,眼底視標による静的視野計測がより正確に網膜の視機能を反映することが確認された。
 また,視覚感度は視神経乳頭に入る網膜神経線維束と密接に関連して検出された。このことから,乳頭欠損症における視野欠損は,全網脈絡膜の形成不全のみならず,単に網膜神経節細胞の形成不全あるいは逆行変性のみによっても規定されうる可能性のあることを推論した。

蜂刺傷による眼障害の1例について

著者: 小峯輝男

ページ範囲:P.1089 - P.1091

 スズメバチによると思われる蜂刺傷性眼障害をおこし失明に至った症例を報告した。本症例は角膜に刺傷痕などの異常が無く,耳側球結膜に刺傷痕と考えられる出血点が認められ,この部位に対応した硝子体の凝集,混濁により牽引性網膜剥離をおこしたものと思われ,蜂毒は経強膜的に侵入し,網膜,硝子体を傷害した可能性が考えられる。

涙嚢鼻腔吻合術—その2 545例の病態と解剖学的個人差の分析

著者: 山崎守成

ページ範囲:P.1093 - P.1098

 DCR 545例の経験から慢性涙嚢炎の病態を観察すると,1)女性特有の疾病で30歳台より多く発生,2)原因はほとんど不明,3)男性に於ては鼻科手術後遺症が特異な原因としてあげられる。以上から慢性涙嚢炎は将来減少するとは考えられず,また,現在でも眼科医がこのDCRに無理解のためか,放置されている例も多く,これが角膜損傷の際の匐行性角膜潰瘍の素因となるから,臨床的にDCRは重要な治療技術の一つとしてあげられる。積極的にDCRを普及させるには手術術式をより容易,安全,確実な法に改良することはもちろんだが,1)涙嚢鼻腔相互の解剖学的個人差を的確に把握し,2)特殊な涙嚢炎すなわち急性涙嚢炎,外傷性,鼻手術後遺性涙嚢炎の特異性を知ることも重要である。以上の要点を知り,経験と手術術式に馴れればDCRは1時間以内に完成する外来手術であって長い間流涙と膿漏に苦しんだ患者も1週間の通院で完治できることを強調したい。

ジアテルミーを併用した眼手術の検討—血管新生緑内障(neovascular glaucoma)に対するジアテルミーを併用したtrabeculectomy

著者: 清水春一 ,   大庭久貴 ,   河野英子 ,   小野淑子 ,   芥川泰生

ページ範囲:P.1099 - P.1104

 血管新生緑内障(neovascular glaucoma)の治療法として,ジアテルミーを併用したtrabecule-ctomyを考案施行した。その結果,利点としては,
 (1)術中,術後を通じ,前房出血は非常に少なく術後の虹彩炎も極めて軽度であった。
 (2)5眼中4眼の眼圧コントロールに成功。
 (3)ジアテルミーを併用したScheie手術に比べ,露出する術野のブドウ膜面が広いため,本法は広く完全な止血ができる。
 (4)汎網膜光凝固や毛様体ジアテルミーと比較して,本法は眼球への侵襲も軽く,視力保持も期待できる。
 欠点としては,
 (1)術後虹彩ジアテルミーの部に一致して,時に瞳孔領に向かって虹彩萎縮が起こり,軽い瞳孔偏位が起きる事である。

抗凝固療法の奏効した網膜中心静脈閉塞症(切迫期)の4例

著者: 能松伊勢子 ,   河村文代 ,   牧治

ページ範囲:P.1105 - P.1109

 4例の中心静脈閉塞症の切迫期に対し抗凝固療法を試み,いずれの症例においても有効であった。抗凝固剤としては,クマリン系統のWafarinSodiumを使用し,量のcontrolは凝固機構の内的因子・外的因子にsensitiveなトロンボテストを指標とした。ワーファリン使用中に拮抗剤であるK1を投与しなければならない様な副作用は生じなかった。

文庫の窓から

萬病回春(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1110 - P.1111

 この様に本書はことごとく内経の要旨,「素問」,「霊枢」を初め,劉完素,張従正,李東垣,朱丹溪ならびに儒医の諸書の法を基礎として,多くの医家の秘方もとり入れ,さらに自己の経験を加えて,脉訣,病論,治法,方薬の順に記述し,分類法も内容についても詳細で初学者にとっては恰好の指南書であり,既成の医家にも切要の医書とされた。
 「萬病回春」の編集者龔延賢(江石,金溪の人,字は子歳,号は雲林,)は大変秀才で,父の龔信(字を瑞芝,号は西園)も医者であったといわれ,「古今医鑑」(8巻)等を撰した。廷賢の撰著には「萬病の回春」の他に次のもの等が知られている。

GROUP DISCUSSION

眼感染症

著者: 塩田洋

ページ範囲:P.1113 - P.1117

1.3',4'−Dideoxykanamycin B(DKB)点眼液の抗菌作用
 3',4'−Dideoxykanamycin B(DKB)はKanamycinの誘導体であり,緑膿菌および耐性菌を含む各種細菌に対して有効な抗生物質であるといわれている。今回,0.3% DKB点眼液を作製し,次の様な実験を試みた。
 1.緑膿菌感染阻止実験:家兎角膜に,緑膿菌のmucin添加液を接種した。接種後,右眼をDKB点眼液で,左眼を生理食塩水で1日9回2日間治療し,角膜の病変を観察した。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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