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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科34巻8号

1980年08月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・273

網膜色素線条症に外傷性網膜出血を来たした症例

著者: 池田定嗣 ,   深尾隆三 ,   永田誠

ページ範囲:P.1132 - P.1133

〔解説〕
 網膜色素線条症は日常臨床で時に遭遇する疾患であるが,全身の弾力線維の変性をおこす症候群の一分症であるため身体各部の異常をしばしば合併する7)。それとともに外傷が本症の発現ならびに視力に関係する合併症の発生に関与することがあるといわれている。今回わずかな外傷により特異な形態の網膜出血を来たした網膜色素線条症の症例を経験したので,ここに報告する。
 症例:24歳,男性(No.た−683)。

教育講演

小児眼科領域における検査の諸問題

著者: 湖崎克

ページ範囲:P.1135 - P.1144

はじめに
 わが国に小児専門医療機関が創設されてすでに15年になる。この創設は欧米先進国に大きく遅れをとっているが,その後のわが国の小児医療の発展は誠に目覚しいものがあり,小児眼科においても同様に著明な発展をみせつつある。因みに国立小児病院および大阪市立小児保健センターに眼科が開設されたのは,1965年である。
 小児眼科の研究と診療の発展として,まず眼科専門誌に小児科特集が掲載されたのは,眼紀15巻(1964)が最初で,成書として植村恭夫氏と著者の共著による"小児眼科トピックス"が始めて発刊されたのが1966年であり,小児眼科の研究グループディスカッションが始めて開催されたのは1967年の第21回臨床眼科学会からであり,1980年の現在には日本小児眼科学会が創設されることになった。

臨床報告

緑膿菌性眼感染症における新セファロスポリン剤,Cefoperazoneの臨床的評価

著者: 大石正夫 ,   西塚憲次 ,   本山まり子 ,   小川武

ページ範囲:P.1145 - P.1149

 緑膿菌性眼感染症5例に対して,新しいセファロスポリン,Cefoperazone (T−1551)を全身,局所投与して臨床効果を検討した。
 緑膿菌性角膜潰瘍の4例には,すぐれた臨床効果がみとめられた。全眼球炎の1例は眼球内容除去術を行ったが,硝子体内細菌数の減少がみられた。
 副作用として,3例に発疹がみられた。その他,検血,肝腎機能検査値に異常をみとめなかった。

前房隅角に白血病細胞の浸潤をみた続発性緑内障

著者: 山本節 ,   文順永 ,   立神英宣 ,   馬渕理 ,   見須英雄

ページ範囲:P.1151 - P.1155

 症例は3ヵ月の男児で,睾丸腫大,腹部膨隆,チアノーゼなどが現われ本院へ紹介されて来た。腹部腫瘍の疑いで血液検査など精査の結果,急性骨髄性白血病と診断され,全身的に化学療法,放射線療法などが行われた。
 初診時より軽度の眼球突出が認められたが,2ヵ月の経過で左眼球突出が著明になり,左眼の眼圧に上昇がみられ,緑内障に対する手術を行った。
 組織学的検査では虹彩および線維柱帯網状組織に白血病細胞の浸潤がみられ網状組織は破壊され房水の流出障害を来たして二次的緑内障を起したものであった。また,視神経のくも膜も変性した白血病細胞の浸潤により軽度の肥厚がみられた。

網膜剥離に対する強膜折込み術の一変法

著者: 塩田洋 ,   久保賢倫 ,   中沢昭

ページ範囲:P.1157 - P.1161

 網膜剥離に対する強膜折込み術の一変法について述べた。その術式は,従来の強膜短編ジアテルミー術とほぼ同じであるが,強膜への通糸法に工夫をこらした。すなわち両側に半層切開した強膜の一根部に通糸して内方に入り,同側根部から再び外に出す。この糸を対側の半層強膜へも同様に通糸し,ピンセットで両半層強膜を押し込みながら結紮すると,切開した強膜は全て眼球内へ折込まれる。本法で手術した裂孔原性網膜剥離は,29眼のうち27眼(93.1%)において網膜の復位が得られた。本法は,
 1)強膜半層切開の幅を自由に広げられる。
 2)強膜折込み量を加減できる。
 3)硝子体中に高い隆起が形成される。
 4)硝子体牽引を軽減できる。
 5)陥入物は自己のものである。
 等の特微があり,裂孔が1象限以内の網膜剥離に対しては,適切な方法と思われる。

ブドウ膜炎を合併したacute posterior multifocal placoid pigment epitheliopathy

著者: 吉岡久春 ,   津曲康一郎

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 APMPPEの原因は不明であるが,今回の症例において,ブドウ膜炎を伴っておりなんらかの炎症性病変であることが推定でき,APMPPEの特徴的な螢光所見である初期の背景螢光が陰性像を呈するのは,脈絡膜毛細血管の閉塞のみではなく,網膜色素上皮病変によるフイルター役もまた関与していることが確認された。

晩期妊娠中毒症に併発した無裂孔性網膜剥離の病態

著者: 大橋孝治 ,   尾形徹也 ,   宗司西美

ページ範囲:P.1167 - P.1174

 4例の妊娠中毒症患者と1例の分娩後多量に輸液を行なった患者に無裂孔性の続発性網膜剥離を観察した。
 螢光眼底検査より本症は脈経膜よりの浸出液により生じることを確認した。
 いずれも両眼性で黄斑部に異常を認め,視力低下の強いものと軽度のものとあった。これらは程度,部位の差によると考えられる。
 長期経過観察のできた1例に脈絡膜梗塞を疑わせる所見を呈したものがあった。

Goldmann-Favre病の視機能について

著者: 中井義秀 ,   吉田輝也 ,   森一満

ページ範囲:P.1175 - P.1180

 Goldmann-Favre病の1症例について,臨床検査,およびERG記録,スペクトル感度測定を行ない次のような所見を得た。
 1)暗順応:本症では自覚的暗順応・ERG暗順応共,正常者に比べて軽度な障害を認めたが,同程度の視力・視野を有する網膜色素変性では著明な低下がみられ,両疾患における暗順応に差がみられた。
 2)色覚検査:本症では増分閾スペクトル感度測定で,赤・緑錐体系反応の明確な異常が検出され,網膜色素変性症では青錐体系反応の強い減弱が認められた。各錐体系反応の異常を検出するのに増分閾スペクトル感度測定は有用であった。両疾患の錐体系の機能障害においても差が認められた。なお明順応下における色光ERGでは,青錐体系反応に比べて赤・緑錐体系反応の軽度な減弱を認めた。
 以上のごとく,Goldmann-Favre病は杆体系,錐体系が同程度の障害をうける進行性・錐体・杆体dystrophyの範疇に属すると考えられ,一般的な網膜色素変性症とは,網膜機能においても差異が認められた。

マウスERGに及ぼす抗結核剤Ethambutol長期投与の影響

著者: 山西陽子

ページ範囲:P.1181 - P.1186

 抗結核剤ethambutol (EB)投与前後のマウスERGを測定し,EBの網膜レベルへの影響を研究した。20mg/kg投与群ではa波振幅の減少,律動様小波およびb波の頂点潜時の短縮,50mg/kg投与群ではa波,b波,o3波の振幅減少,b波の頂点潜時の短縮,200mg/kgおよび500mg/kg投与群ではa波,b波,律動様小波の振幅減少がみられた。a波,b波振幅減少の平均値は20mg/kg投与群,50mg/kg投与群,200mg/kgおよび500mg/kg投与群の順に大きくなった。
 以上よりEBは網膜レベルにも影響があることが示唆された。

人工眼内レンズの成績—第4報 前眼部螢光撮影所見について

著者: 近藤武久 ,   的場寛佳 ,   宮代汎子

ページ範囲:P.1187 - P.1191

 人工眼内レンズ挿入術を行った50例の症例に術後前眼部螢光撮影を施行し,それらの12眼(24%)に病的螢光漏出の出現を認めた。虹彩よりの螢光漏出の程度と視力の関係では一定の傾向は見出されたかった。

長掌筋(M.palmaris longus)の腱を用いた眼瞼下垂の手術

著者: 武田啓治 ,   坂井豊明 ,   岩田和雄 ,   関利明

ページ範囲:P.1193 - P.1195

 (1)長掌筋腱を利用した新しい吊揚げ手術法について述べた。
 (2)先天性眼下垂の5例9眼におこない,術後経過4ヵ月から1ヵ月であるが全例とも経過は良好である。
 (3)長掌筋腱は傷跡が目立たずに採取でき,しかも何らの機能障害も残さないため,大腱筋膜を利用する方法よりも優れており,今後活用されるべき方法と考える。

網膜静脈枝閉塞症に続発した新生血管に対する間接光凝固法

著者: 追中松芳 ,   井上暁二 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.1215 - P.1220

 網膜静脈枝閉塞症に続発した新生血管に対して,間接光凝固のみを行った9例9眼について検討を加え,つぎのような結果が得られた。
 (1)新生血管に対する間接光凝固は有効である。しかし,新生血管の完全消褪が得られたのは4例のみで,他の5例ではわずかながら新生血管の残留が認められた。
 (2)間接光凝固をより有効なものにするためには,無血管野を全て処置する必要がある。特に,黄斑部周辺からhorizontal rapheに隣接する無血管野の処置を怠りやすいので注意を要する。
 (3)今回対象とした症例はすべて,光凝固前から閉塞領域に一致する大きい視野欠損・沈下を認めることが特徴的で,光凝固後あきらかな視野変化を示すことは少ない。

電気眼振法を用いた他覚的視力測定の一考案

著者: 真壁祿郎

ページ範囲:P.1221 - P.1225

 臨床上の必要から他覚的視力測定装置を作製した。既存の装置に最小限度の加工を加えるとの観点からOhm法を採り,Jung電気眼振器に光点投影機を取付けた。技術的難点から光点径変化を用いず,光点径を11分に一定とし,照度を変化させ,水平眼振と抑制する最小照度を求めた。
(2)健常30眼を半透明膜を人工的に17段階に視力を落し,眼振抑制光点最小照度を測定し,Snellen自覚視力と比較して両者間に関数関係を認めた。平均値,2および3シグマ限界を算出して基準曲線とした。
(2)非詐盲の種々疾患患者177眼につき上記他覚視力平均値とSnellen視力を対比して,相関係数+0.95を得た。
(3)臨床的に明らかに詐盲と判断された患者48名75眼を検査し,検査不能の3例5眼以外何れも他覚視力が自覚視力に有意に勝り,診断が裏付けられた。

カラー臨床報告

網膜色素線条症の黄斑変性に対する光凝固一治験例

著者: 萱沢文男

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 42歳男性の両眼に網膜色素線条症に合併した黄斑部脈絡膜新生血管を認め,光凝固の適応とみなし,アルゴン・レーザー光凝固を施行しきわめて有効な結果を得た。
 網膜色素線条症の黄斑部脈絡膜新生血管に対するアレゴン・レーザー光凝固療法は,その適応,凝固条件を慎重に選択すれば,有望な治療法ではなかろうかと考えた。

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第34回日本臨床眼科学会プログラム(於大阪市)

ページ範囲:P.1198 - P.1205

眼科手術学会

嚢内水晶体摘出術後の視力の長期予後と類嚢胞状黄斑浮腫

著者: 菅謙治 ,   壷坂栄江 ,   下地康代

ページ範囲:P.1227 - P.1231

 水晶体嚢内摘出術の長期予後を検討するために手術後2年以上(4年2ヵ月まで)を経過した症例のみを対象として選び,術中に硝子体脱出のなかった150人213眼と硝子体脱出のあった33人34眼について術後の矯正視力と類嚢胞状黄斑浮腫を検討し,次の結果を得た。
 硝子体脱出なしに手術が行なわれた場合には術後に得られる視力は良好で,しかもその良好な視力は長期にわたって安定しているから,嚢内水晶体摘出術はきわめて優れた術式である。これは高度近視眼に対してもいえる。また,硝子体脱出があった場合にも,十分な前部硝子体切除が行なわれていて切開創に硝子体が全く嵌頓していないか,あるいはあってもその量がごく軽度になっておれば,硝子体脱出なしに手術が行なわれたものとほぼ同程度の成績が得られる。これに対して切開創に多量の硝子体が嵌頓し,術後一定の期間を経過してから瞳孔偏位をきたしてくるものでは,術後2〜4年を経過するうちに約75%で視力低下をきたす。
 手術後に得られる最高の視力は患者の年齢によって異なる。この最高視力は大部分のものでは手術後2〜3ヵ月内に得られるが,なかには2年の長期を経過してから最高の視力に達するものもある。また,術後に多発するといわれる類嚢胞状黄斑浮腫は術中に硝子体脱出がなかったものでは,術後2年以上を経過すると約1%に軽度なものが認められるにすぎなくなる。

薬の臨床

0.3% DE−020点眼液の外眼部感染症に対する臨床効果—二重盲検法による検討

著者: 松田英彦 ,   根路銘恵二 ,   田沢豊 ,   嶋田孝吉 ,   北野周作 ,   東野巌 ,   内田幸男 ,   金子行子 ,   徳田久弥 ,   田中直彦 ,   佐々木隆敏 ,   石川哲 ,   宮田幹夫 ,   大石正夫 ,   西塚憲次 ,   市川宏 ,   村上正建 ,   原二郎 ,   三井幸彦 ,   塩田洋 ,   筒井純 ,   小林俊策 ,   岡村良一 ,   鎌田龍二 ,   小寺健一 ,   東堤稔 ,   岡田寿太郎 ,   森田修之

ページ範囲:P.1233 - P.1246

 新しいアミノグリコシド系抗生物質KW−1062を主成分とする点眼液である0.3% DE−020点眼液の有用性を確認するため,外眼部感染症患者を対象として多施設二重盲検法により市販のゲンタマイシン点眼液との比較研究を行い,つぎの成績を得た。
 (1)総投与例429例中,除外症例91例および脱落症例45例を除く293例を採用症例とした。その内訳は,DE−020投与群145例,GM投与群148例であつた。
 (2)各種患者背景因子の検討では,疾患別分布で総投与症例において有意差が認められたが,採用症例においては同じ傾向にあるが,有意差があるとはいえないので薬効の比較が可能であると考えられた。
 (3)採用症例において両薬剤の臨床効果,安全性および有用性を比較した結果,臨床効果においてはU検定でDE−020が有意に優れていたが,有効率には有意差は認められなかった。安全性においては両群間に有意差は認められなかった。有用性においてはU検定でDE−020に有意に優れた傾向を認めたが,有用率には有意差は認められなかった。
 以上の結果から,0.3% DE−020点眼液は,外眼部感染症患者に対し,ゲンタマイシン点眼液と同等あるいはそれ以上の効果の期待できる有用な薬剤であると考えられた。

GROUP DISCUSSION

第18回 白内障研究会

著者: 馬嶋慶直

ページ範囲:P.1247 - P.1258

1.培養水晶体におよぼす外部環境因子
—特に外圧と温度の影響—
 水晶体の外部環境を構成するそれぞれの因子は,水晶体の透明性維持のために重要な要因となる。この外部環境要因を大別すると,外圧,温度などの物理的因子と浸透圧,PH,化学組成などの化学的因子に区別されるであろう。
 一方,水晶体混濁化における生化学的変動の一つとして,一価陽イオンの組成変化がその初期的パラメーターとなることは,幾多の研究から立証されている。

糖尿病性網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.1262 - P.1265

 昭和54年度の当グループ・ディスカッションは10月25日午前9時から3時間,大岡良子会長のご好意により日本青年館A会議室で開催することができた。会場が東京であったためか,生憎の天気にもかかわらず150名以上の参会者があり,入口の関係から後で立席のまま参加された方も多かった。
 演題は15題で,10分以上の時間の超過はあったが,全発表を終り,終始活発な論議が交された。演題は例年のごとく,局所と全身の両面からの本症の病理・治療の検討のほか,機能的な面からのアプローチが増加しはじめたのも大変有意義な傾向だと思われた。最後に白内障の手術の問題も2題あり,これが今日では少しも特殊な例としてでなく,診療されるようになつてきたことを心強く感じた。例によって紙数制限のため,折角の質疑応答の内容が収録できないのは残念であるが,以下各演者の提出した抄録を掲載して,本年の当会報告としたい。

文庫の窓から

審視瑤凾(眼科大全)(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1260 - P.1261

 中国では元の代になってから,医方に大方脈科,小方脈科,風科,産科兼婦人雑病科,眼科,口歯咽喉科,正骨兼金鏃科および瘡腫科の9科目が採用され,眼科という専門の1科の呼称が顕われている。
 わが国においては文武天皇(597〜707)の大宝元年(701)に所謂大宝律令が発布され,その中の医疾令(唐医制に基づく)に,體療(内科),少小(児科),創腫(外科),耳目口歯の4科が設けられているが,眼科は耳口歯の中に入れられ,1部門を1科として取扱い,独立した専門の1科としては認められていなかった。眼科が独立して1科をなし,その専門書(今日私共が見ることのできる)があらわれるようになったのは,中国においてはおよそ明代以降であり,また,わが国では室町時代に入ってからとみられている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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