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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科35巻4号

1981年04月発行

雑誌目次

特集 第34回日本臨床眼科学会講演集 (その4) 学会原著

硝子体出血治療の基礎的検討と線溶療法

著者: 金恵媛 ,   新林広子 ,   阿部真知子 ,   朝岡勇 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.527 - P.533

 我々は硝子体出血に対する線溶療法としてウロキナーゼ(以後U.K.)を使用し,まず全身投与では13症例に1回量6,000〜6万I.U.のU.K.を静注,点滴静注し,7例に視力改善を認めた。一方局所注入療法では12症例に1回量24,000 I.U.のU.K.を硝子体内注入し,8例に視力改善を認めた。術後合併症として,一過性の虹彩炎,前房蓄膿が出現したが緑内障は認めなかった。また,1例に網膜剥離を認めたが,これが手術操作によるものか否かは断定できない。U.K.投与による血液の線溶能,凝固能に特記すべき変動はみられなかった。ウサギを使用した動物実験では対照群と比較して,U.K.投与群では,人工的硝子体出血の明らかな吸収過程の促進が認められた。

糖尿病性網膜症の経過

著者: 菅謙治 ,   浅田幸男 ,   坂本禎之 ,   奥田隆章 ,   四宮栄江

ページ範囲:P.535 - P.540

 糖尿病性網膜症は,SDR (Simple Diabetic Retinopathy)とPDR (Prolifera—tive Diabetic Retinopathy)に大別されるが,この他に網膜内線維増殖型PDRとも呼ぶべき異型があった。
 新生血管の発生には網膜のhypoxiaに加えて硝子体の関与が必要であり,線維組織の形成は血漿蛋白と硝子体と網膜由来の結合組織形成細胞の三者によって形成されると考えられた。したがって,硝子体剥離の完成しているものでは,PDR (新生血管)は発生しないし,また,すでに新生血管が発生しているものでは線維組織は形成されなかった。線維組織は硝子体後面と強く癒着しているから,線維組織が形成されたものでは,硝子体剥離がおこると,網膜剥離,新生血管や網膜血管の断裂による硝子体出血などをきたした。硝子体出血が生じると,やがて硝子体が変性して硝子体剥離が増強し,新たな硝子体出血をきたした。一般には,これをくり返して網膜症が進行した。しかし,まれには強大な線維組織が形成されたまま,硝子体剥離や出血が停止し,網膜症が固定したものがあった。これを坪期固定型と命名した。
 SDRは,硝子体剥離発生前には徐々に進行するだけであったが,硝子体剥離が始まると悪化し,硝子体剥離の終了とともに鎮静化し,その後はしだいに軽快するものと,徐々に悪化するものとに分かれた。

重症糖尿病性網膜症に対する広汎光凝固療法の効果と障害,および適応について—1.効果と適応

著者: 浦口敬治 ,   内藤智子

ページ範囲:P.541 - P.550

 重症糖尿病性網膜症に対して広汎光凝固を行い,6ヵ月以上経過観察した47例76眼の成績は以下の通りであった。
(1)全症例の68.2%に有効であり,とくに前増殖期の症例や網膜新生血管のみがみられた症例には著効がみられた。(2)光凝固を短期間に完了した症例がより有効であった。(3)硝子体出血例,巨大な新生血管を有した症例には効果は不確実であった。
 このような成績にもとづいて,広汎光凝固の適応として,(1)前増殖期の症例や綱膜新生血管のみがみられる症例でも,毛細血管床閉塞領域が広い場合や他眼がすでに増殖性病変を示している時には適応がある。(2)乳頭上新生血管がみられる増殖型網膜症は絶対的適応がある。

重症糖尿病性網膜症に対する広汎光凝固療法の効果と障害,および適応について—2.視機能への影響

著者: 浦口敬治 ,   内藤智子

ページ範囲:P.551 - P.557

 糖尿病性網膜症患者にアルゴンレーザー光凝固器を用いて広汎光凝固療法を施行し,その前後の視機能を検索した。
(1)視力・視野・暗順応は広汎光凝固後も特別な影響をうけなかった。
(2) ERG振幅は術後a波は70%に,b波は58%に低下した。
(3) EOGのL/D比は術後68%に低下した。
(4)広汎光凝固は電気生理学的検索によっては網膜機能に障害を与えていることは明らかであるが,日常生活の指標となる自覚的視機能検査,すなわち,視力・視野・暗順応の測定成績には影響を及ぼさなかった。
(5)以上の成績よりアルゴンレーザー光凝固による広汎光凝固療法は術後短期間では視機能に対して支障となる障害は及ぼさないとみなしてよい。

ブラジル在住日系人小児の屈折状態

著者: 丸尾敏夫 ,   久保田伸枝

ページ範囲:P.559 - P.563

 父母あるいは祖父母が日本からブラジルに移民した日系人で,ブラジルで出生し,ブラジル共和国,サンパウロ市の学校に在学中の6歳から14歳までの小児618名,1236眼について,トロピカマイド点眼後レフラクトメーターによる屈折検査を行った。
 同じ方法で検査した同年齢の日本人小児の屈折状態と比較した結果,6〜11歳ではブラジル在住小児の近視が多く,遠視は少なかったが,12〜14歳では両者の間に著しい差はみられなかった。
 すなわち,ブラジル在住日系人小児は日本人にくらべ近視の頻度は同じように高いが,近視が早くから発生している。

頑固な眼愁訴患者へのアプローチ—眼の健康貿問表,Dogmatylの使用

著者: 上原文行 ,   吉村睦雄 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.565 - P.569

 「眼の健康質問表」(試作),向精神薬ドグマチール投与,ときにマイナー・トランキライザーの併用を組み合わせることによって,頑固な眼愁訴患者に対するアプローチ法を確立する臨床実験を行った。質問表のスコアが高い場合には,ドグマチールが奏効する傾向にあり,奏効しにくく不安のスコアが高い場合には,マイナー・トランキライザーの併用を行うことにより症状の改善をみることが多かった。質問表のスコアが低い場合には,器質性疾患の発見によりいっそう努力する必要がある。本報告に述べた手順に従うならば,能率よくかつ的確に頑固な眼愁訴患者に対応できるものと考えられた。

外眼筋計測に関する研究—第2報斜視眼における外眼筋厚度と筋張力との関係について

著者: 稲福豊 ,   清水春一 ,   小松章 ,   大庭久貴 ,   太根節直 ,   芥川泰生

ページ範囲:P.571 - P.576

 斜視眼における外眼筋の厚度と張力を測定して以下の結果を得た。
(1)外斜視における筋厚度は,内直筋1.91mm,外直筋2.28mmで,外直筋が内直筋よりも0.37mm大きな値を示した。内斜視においては内直筋1.11mm,外直筋1.08mmで有意差は認められなかった。
(2)外斜視における張力係数は,内直筋で0.380,外直筋で0.282と内直筋が大きな値を示した。内斜視においては内直筋0.246,外直筋0.234で有意差は認められなかった。
(3)外斜視における筋厚度1単位当りの張力係数は,内直筋で0.26,外直筋で0.15と内直筋が大きな値を示した。内斜視においては内直筋0.25,外直筋0.22で有意差は認められなかった。

Forced duction testの定量化の試み

著者: 深道義尚 ,   稲富誠 ,   杉田達 ,   高橋春男 ,   小沢哲磨

ページ範囲:P.577 - P.581

 Blowout fractureの病態生理を解明する目的で,forced duction testの定量化のための器械を試作した。試作器械は張力および偏位を測定する二つのtransducerの組合わせからなり臨床的に使えるようにいくつかの工夫がなされた。forced duction testに伴う張力(抵抗)は張力—偏位曲線としてX-Yレコーダー上に記録された。対象はblowoutfracture眼7眼と正常眼8眼で,testはすべて全,身麻酔下に下直筋付着部を絹糸で上転方向に牽引する方法で行われた。正常眼の偏位5mm,10mmでの平均張力は各々9.7±2.2g,30.8±6.8gで,平均値の曲線はY=0.39X2−1.0X+3.44に近似された。blowout fracture眼の偏位5mm,10mmでの平均張力は17.6±8.4g,62.9±20.3gであった。曲線のたちあがりを示す二次係数の平均値は正常限では0.39,blowout fracture眼では0.82で,これは手術により0.6に減少した。

Fundus Haploscopeによるまわし融像の観察

著者: 高橋清子

ページ範囲:P.583 - P.586

(1)両眼底が同時に視標とともに観察することのできるFundus Haploscopeを用い,まわし融像における融像幅の測定および眼球運動を観察記録し,さらに画像解析装置により眼球運動を水平・垂直・回旋の3成分に分けて測定,解析し,まわし融像における感覚性融像と運動性融像を比較検討した。
(2)融像幅は視標の回転が時計方向時11.5°,反時計方向時8.9°であった。
(3)まわし融像の際みられたまわし運動は自覚的な融像幅の約1/10以下のわずかなものであり,また固視微動中にもかなりのまわし運動がみられたことから,ただ単に融像におけるmotor componentと考えるより,固視微動と関連したものとした方が妥当と思われた。
(4)まわし融像においては感覚性融像が主体であって運動性融像はほとんどないと考えられる。

外斜視の病態に関する神経放射線学的研究

著者: 羅錦営

ページ範囲:P.587 - P.596

 外斜視50例(間歇性外斜視20例,恒常性外斜視20例および交代性上斜位を合併した外斜視10例)について,CT検査を行い,次の知見を得た。
(1) CTで明らかに脳内異常所見を認めたものは35例(70%)であった。
(2) CT所見としては正中線上の形成異常(透明中隔腔,Verga腔,中間帆腔および部分的脳梁欠損等),脳皮質萎縮,脳室拡大,脳幹萎縮,小脳萎縮および低吸収域等が認められた。
(3)間歇性外斜視では恒常性外斜視および交代性上斜位を合併した外斜視にくらべてCTによる脳内変化は軽くて少なかった。
(4)周産期異常はCT異常群において高頻度に認められた。
(5)外斜視の病態について,中枢神経系の異常が関与すると考えられた。

Vision stimulatorによる弱視治療成績—健眼遮閉との比較

著者: 横山連 ,   北庄司清子 ,   長谷川真理 ,   川浪佳代 ,   田中尚子

ページ範囲:P.597 - P.601

 vision stimulator (CAM®)の治療成績を通常の健眼遮閉によるものと比較検討して,次の結論を得た。
(1)視力改善量および得られる最終視力に関しては健眼遮閉の方がすぐれている。
(2)視力改善率に関しては,vision stimulatorが健眼遮閉の約2倍の速度をもつ。
 以上より,健眼遮閉が本器によってまったく置換えられることはないが,患児にかける負担の軽さ,視力改善の速さ等を考慮すれば,症例によっては有用な方法であると考える。

内斜視の成因と治療

著者: 三井幸彦 ,   田村修 ,   大賀真理子 ,   石本寛子 ,   浅井香

ページ範囲:P.607 - P.610

 内斜視はいくつかのfactorが複雑に関与しておこっているために全てを解明することは容易ではない。しかし少なくともconstant esotropiaが起こるstepにはproprlo—ceptionが関与していると考えられる。このproprioceptionの異常に対して臭化プリフィニウム(Padrin®)の内服と,もう一つのfactorである調節性の輻湊過剰に対して臭化ジスチグミン(Ubretid®)の点限を併用して内斜視の治療を試み,次の結果を得た。
(1) PadrinとUbretid併用療法を行った,手術の既往のない23例中2例では内斜視が消失して正位となった。この2例はその後半年以上観察しているが経過は良い。臨床的にはほとんど効果が認められない例でも,全麻下では眼位および筋電図所見が改善されていた。
(2)内斜視手術後,手術効果が固定した時点で残存している内斜視にPadrinとUbretid併用療法を行うと,2例中2例共内斜視が消失して正位になった。またPadrinとUbretid併用療法を行って臨床的に効果がなかった例に手術を併用すると,手術の効果は大きく,安定しているように思われた。
 内斜視の成因は複雑であるから全てのfactorを完全に取りのぞくことは困難であろう。しかしPadrinとUbretid併用療法はそれだけで内斜視が消失する例もある。効果が認められなくても手術と併用すると手術の効果が大きく,かつ安定する。

上斜筋麻痺の手術療法に関する研究—第1報優位眼側とBielschowsky頭部傾斜試験成績を中心とする上斜筋麻痺の手術療法についての考察—とくに臨床成績について

著者: 市川理恵

ページ範囲:P.611 - P.620

 過去7年間に手術を行った片眼性上斜筋麻痺45名(年齢2〜21歳,平均5歳)を優位眼側により分類し,眼位ずれ,頭位の異常,Bielschowsky頭部傾斜試験(B.H.T.T.)の成績を目標にして,術後1年から7年(平均3年6ヵ月)をわたり検討し,つぎの結論を得た。
(1) B.H.T.T.において,麻痺眼側への頭傾時に麻痺眼が上ひきになるのは,主として,上直筋の働きによることが臨床例で確認された。
(2) B.H.T.T.は,上斜筋麻痺において重要な診断的意義をもつのみならず,頭位異常などの術後の効果判定にも役立つことが判明した。
(3)上斜筋麻痺は優位眼を目標にして分類し,B.H.T.T.の成績とあわせて,その手術適応を考える必要がある。

閾上値空間コントラスト伝達特性の測定と眼科臨床への応用—視神経疾患についての検討

著者: 田上勇作 ,   諌山義正 ,   桝見和孝 ,   坊博

ページ範囲:P.621 - P.627

(1)マイクロコンピューターで制御されるTVシステムを用いて閾値および閾上値での空間コントラスト伝達特性を,正常例,視神経疾患症例について心理物理的に測定した。
(2)正常例での閾上値空間コントラスト伝達特性は閾値レベルで得られるBand-passfilter型を示さずLow-pass filter型を呈した。
(3)視神経疾患症例での閾上値空間コントラスト伝達特性は,低域上昇・高域低下型,平担型,低域低下・高域上昇型の三つのタイプが認められ,それぞれ視野における中心部感度低下,中心部と傍中心部の同程度の感度低下,傍中心部感度低下に対応していた。
(4)以上の結果より,空間周波数の低域処理系と中高域処理系の存在を推定し,両者の相互抑制作用を考慮することで視神経障害時の空間コントラスト伝達特性の異常を説明することができた。
(5)閾上値を用いた空間コントラスト伝達特性の測定は各種疾患のパターン認識,コントラスト視を解明する上で臨床的に極めて有用であると考えられた。

視機能の精密検査(時・空間周波数特性測定)について

著者: 山本敏雄 ,   萱沢文男 ,   江島義道 ,   高野善道 ,   糸井素一

ページ範囲:P.629 - P.635

 テレビを用いた空間周波数特性装置に,マイクロコンピューターを組合せ,空間周波数およびコントラストの変換・制御,dataの計算処理,結果のグラフ表示などの自動処理化を試みた。測定後,直ちに結果がグラフ表示されるため,その場でdataの検討を行い,診断や経過観察の評価に用いることができ,臨床に有用であった。
 また,新たに,約3分間で,大まかな空間周波数特性の測定ができる,スクリーニング用プログラムを開発し,その使用方法,測定結果の判定などに,若干の考察を加え,報告した。

無水晶体眼矯正のmodulation transfer function (MTF)による評価

著者: 佐藤薫 ,   尾羽沢大 ,   河原哲夫 ,   横田英嗣

ページ範囲:P.637 - P.642

 無水晶体眼に対する種々の矯正法を精密に検討する目的で,眼鏡および各種コンタクトレンズによる矯正状態で視覚系のmodulation transfer function (MTF)を測定した。MTFによれば,視力値よりも精密に屈折矯正状態の微細な変化を検討できる。測定結果では,無水晶体眼に対する矯正において,コンタクトレンズによる矯正が眼鏡レンズによる矯正より光学的にすぐれており,また,コンタクトレンズによる矯正ではsoftcontact lens (SCL)よりhard contact Iens (HCL),さらに眼鏡レンズによる矯正では球面レンズより非球面レンズによる矯正が光学的にすぐれていることが確認された。

中心性漿液性網脈絡膜症における網膜のスペクトル感度測定について

著者: 太田安雄 ,   関明 ,   宮本正

ページ範囲:P.643 - P.648

 中心性漿液性網脈絡膜症のスペクトル感度を,暗順応下およびwaldの選択的順応法によりyellow, purple, blueの各順応下において測定した。
(1)青錐体系の感度の低下が早期より著明に認められた。
(2)赤緑錐体系の感度の低下も認められるが,青錐体系に比し著明ではない。
(3)発症初期は,同時に行った100 hue testの結果と同様の傾向を示したが,症状の軽快により,100 hue testでは目立った異常が認められなくなっても,青錐体系の感度の低下が認められた。
(4)黄斑中心窩の障害が軽度の時は青錐体系のみの異常がみられ,障害が高度となると,赤緑錐体系の異常が加わるという傾向が認められた。

両眼開放視野の研究—その1体位による視野動揺

著者: 鈴村昭弘 ,   加藤勝利 ,   渥美一成 ,   小山哲郎 ,   長山隆吉

ページ範囲:P.649 - P.654

(1)体位を仰臥位,上方45°位座位,下方45°位と変化し,両眼開放視野計AS—IIにより,中心視野を動的に計測した結果,仰臥位では座位に比較し視野の上方偏位を,下方45°位では下方偏位を認め推計学的に有意であった。
(2)同様な条件で測定した上・下径線上の各部位の感覚時間の変化も,中心視野6°を芯に,仰臥位は座位に比校して,上方視野感覚時間短縮,下方視野感覚時間の岡辺部ほど延長するのを認めた。
(3)緑内障,視神経および視路の疾患では仰臥位による上方視野偏位は認めなかった。ただし今後なお検討の必要がある。

連載 眼科図譜・281

涙小管位置異常とその手術

著者: 郡司隆一 ,   桐渕利次 ,   久保田伸枝

ページ範囲:P.524 - P.525

〔解説〕
 先天姓涙小管位置異常のなかでも乳頭状涙小管奇形の報告は少ない1,2)。今回われわれは,右眼の涙点が上下とも正常位置になく,涙湖部に突出した1本の涙小管をもつきわめて珍しい症例を経験し,手術によって流涙を消失させることができたのでここに報告する。
 症例:9歳,男子。

臨床報告

副腎皮質ステロイド大量投与をうけた患者の副腎皮質機能の検討—内因性ステロイド基礎分泌能および反応性分泌能のrapid ACTH testによる評価

著者: 新家真 ,   水流忠彦 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.659 - P.664

 Vogt—小柳—原田病および球後視神経炎の患者18名において,ステロイド初期大量投与法による治療を行った後,副腎皮質機能をrapid ACTH tcstにより検査し,副腎皮質の基礎分泌能および反応性分泌能について検討した。
 治療開始より1ヵ月後では,副腎皮質機能は,基礎分泌および反応性分泌とともに低下している事,3ヵ月後では基礎分泌能は正常範囲に回復しているが,反応性分泌の回復はまだ完全でない場合がある事,遅くとも12ヵ月後には,両機能共正常範囲に復していると考えてよい事が分った。
 この結果より,ステロイド初期大量投与法により治療された場合には,治療開始より3ヵ月までは,生理量のステロイド補充療法が望ましい事,それ以後も12ヵ月後までは,症例によっては,外囚性ストレス増加時には医原性副腎皮質不全の可能性がある事等が分った。

同胞にみられたpigmented paravenous retinochoroidal atrophy

著者: 林重伸 ,   上原雅美

ページ範囲:P.665 - P.669

(1) pigmented paravenous retinochoroidal atrophyの同胞の2症例を報告した。
(2)兄は両眼に,弟は片眼に乳頭周囲よりヒトデ状に網膜血管とくに静脈に沿って網脈絡膜萎縮と色素沈着を認めた。
(3)螢光眼底所見から病巣は脈絡膜毛細血管の閉塞と網膜色素上皮層の萎縮がみられ,脈絡膜循環障害が本症発症に重要な因子であると考えられた。
(4)本疾患を遺伝性疾患として検討する必要性について述べた。

色素沈着を伴った石灰化上皮腫の1例

著者: 木戸里陽 ,   山下秀明 ,   泉春曉

ページ範囲:P.670 - P.672

 1歳6ヵ月男児の右下眼瞼に青黒色を呈する腫瘍を認めた。病理組織学的に,陰影細胞および石灰化沈着を認め,石灰化上皮腫であることが判名した。本症例では,メラニン色素細胞やメラニン色素顆粒の沈着が異常に多くみられた。

老人にみられる滲出性網膜血管症

著者: 湯浅武之助 ,   多田玲 ,   下村嘉一 ,   山本保範 ,   中川やよい

ページ範囲:P.679 - P.684

 7例の老人にみられる滲出性網膜血管症を観察したが,本症の臨床的特徴は以下のようなものであることが明らかになった。
(1)本症は60歳以上の老人にみられ,女性に多い傾向があった。
(2)本症の眼底所見は透過性亢進を伴う網膜血管炎・硬性白斑・滲出斑・出血・小血管瘤・macroaneurysm・動静脈吻合・硝子体病変などであり,病変は網膜全体に及び,特定の分枝領域に限局することはなかった。
(3)臨床的にはCoats病と類縁関係があり,本症の発病においては老人性血管変化が何らかの役割を果たしていると推測された。
(4)糖尿病性網膜症・円板状黄斑変性症・網膜静脈分枝閉塞症・網膜静脈(周囲)炎・その他の網膜血管炎などとの鑑別が必要であった。
(5)治療には光凝固法がもっとも適当であると考えられた。

カラー臨床報告

点眼麻酔剤の濫用により重篤な眼症状をきたした症例

著者: 坂牧洋子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.655 - P.658

 コンタクトレンズ装用により発生した疼痛軽減を目的として使用した点眼麻酔剤,特に塩酸オキシブプロカイン(ベノキシール®)の濫用により,流行性角結膜炎の急性期を思わせる著しい急性結膜炎症状と角膜のびらんおよび実質の浮腫を発生し,激しい眼痛のため自制不能の状態となり,点眼麻酔剤の急性中毒に陥っていた1症例を経験した。
 点眼麻酔剤から離脱させるために,入院させ,カクテル麻酔として塩酸クロルプロマジンおよび塩酸プロメタジンの筋注により強制入眠させたところ,12時間後覚醒時には眼症状は著明に改善し,その後後遺症を残さず治癒した。
 塩酸オキシブプロカインをはじめとする点眼麻酔剤を頻用すると,激しい眼痛と急性結膜炎および角膜障害を生じ,急性中毒症状になる。その使用から離脱させることは容易でない。人院の上,強力なカクテル麻酔を投与して強制入眠させ離脱させるのがよい方法と思われる。
 また点眼麻酔剤を患者に処方すると濫用に陥り,このような中毒症になる危険性があるので十分注意したい。

薬の臨床

単純ヘルペスウイルス眼感染症の静注用ペプシン処理人免疫グロブリン療法

著者: 日隈陸太郎 ,   田浦輝美 ,   松本光希 ,   山下理一郎

ページ範囲:P.673 - P.677

 単純ヘルペス性角膜炎(樹枝状角膜炎2例,2眼,円板状角膜炎9例9眼)および単純ヘルペス性眼瞼疱疹4例に静注用ペプシン処理ヒト免疫グロブリン(ガンマーベニン®)を試用し,以下の結論を得た。
(1)樹枝状角膜炎および眼瞼疱疹には静注用ペプシン処理ヒト免疫グロブリンの点眼や滴下が有効であった。
(2)若年者ほど効果が大であった。
(3)遷延化した実質型角膜炎には効果が得られなかった。
(4)実質型角膜炎でも新鮮なうちに早期治療を開始すれば効果が得られることがうかがわれた。

手術ノート

白内障嚢内法の硝子体脱出防止

著者: 永田誠

ページ範囲:P.686 - P.687

 白内障嚢内摘出術における硝子体脱出率は2%ないし3%以下に抑制することはできても零にはならない。これはどのように注意深く手術しても硝子体前境界膜(膜ではなく層と呼ぶべきであるが一応慣習に従って膜としておく)が極めて弱い症例というものが必ずあるもので,水晶体全摘直後前房が急に深くなるような形で前房内に硝子体脱出を起こしてくる。こんな例ではアセチルコリン溶液を注入すれば瞳孔は直ちに正円となり縮瞳後前房内に空気を注入しておけば特に不都合なことは起こらない。問題となるのは水晶体娩出と同時に起こってくる正常な前境界膜をもった硝子体gelの脱出である。このような典型的なvitreous lossは適切な対策を講ずればほとんど零にすることができる。最近は硝子体手術器械があるから起こっても平気と楽観的になる人があるが,たとえvitrectomyを行って瞳孔正円となっても,角膜内皮を障害したり,黄斑部類嚢胞浮腫や網膜剥離の発生率のことを考慮すると決して安心はできない。
 硝子体脱出の防止に最も大切なことは眼瞼アキネジー,球後麻酔を十分きかせて眼球壁に加わる外力を極力低くすることである。できれば眼瞼アキネジーはO’Br—ien法やAtkinson法のような伝達麻酔を行う方がVanLint法よりも確実なアキネジーが得られる。筆者はVan Lint法を以前用いていたがO’Brien法を採用した後瞼アキネジーの効果に明瞭な差を感じた。

文庫の窓から

眼目精要,眼科医療手引草と医療羅合(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.688 - P.689

 「眼目精要」と「眼科医療手引草」との関係については昭和5年(1930)に小川剣三郎博士が中外医事新報(No.1166 P.571)に詳細な研究発表をされているので,ここには「眼目精要」と「眼科医療手引草」の出版書誌事項の主な相違点を挙げる。
(1)外題簽"眼目精要"の代りに"眼科医療手引草"とした。

GROUP DISCUSSION

弱視斜視

著者: 近江栄美子

ページ範囲:P.690 - P.693

 第34回臨床眼科学会が,大阪大学の真鍋礼三教授を会長として,大阪で開かれた。それに付随して,斜視弱視グループディスカッションとして,第32回日本弱視斜視学会総会が9月26日金曜日,午後1時30分〜17時まで,日本生命中之島研修所3階の講堂で開催された。日本弱視斜視学会会長植村恭夫教授から世話人をせよと1年前に指名されて以来,演題募集,プログラム作成および会の運営など準備に忙しかった。当日は,最も大きい(580名収容)大講党も開始時はほぼ満席で,熱心な参会者の熱気が開始前より感じられた。そのプログラムの内容および討論は以下である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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