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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科35巻6号

1981年06月発行

雑誌目次

シンポジウム 超音波の眼科的応用

硝子体混濁の超音波診断と治療

著者: 大鳥利文

ページ範囲:P.901 - P.911

 超音波診断法は,硝子体混濁,とくに硝子体出血の診断や経過観察と治療に極めて有用である。硝子体混濁があるときの,網膜剥離と硝子体内膜様混濁の鑑別も超音波診断法により可能であることが多い。
 しかしながら,定量的超音波診断法には,なお問題点も残されており,眼球後壁についてのより精密な超音波診断法の開発が望まれる。
 超音波診断法は極めて有用な検査法であるが,超音波診断法はあくまでも補助診断法であることを忘れてはならない。

学会原著

眼瞼部悪性腫瘍について—九大眼科における過去20年間の症例の検討

著者: 安倍正弘 ,   大西克尚 ,   原雄造 ,   篠田泰治 ,   神宮賢一

ページ範囲:P.913 - P.919

 1960年から1979年までの20年間に九大眼科を受診し,病理組織学的に眼瞼部悪性腫瘍の診断が確定した47症例について検討を加え報告した。
(1)病理組織学的分類は扁平上皮癌24例,基底細胞癌14例,腺癌6例,悪性黒色腫2例,悪性リンパ腫1例であった。基底細胞癌が圧倒的多数を占めるとする従来の報告とは異なり,扁平上皮癌が最も多く認められた。
(2)患者の平均年齢は,扁平上皮癌65.7歳,基底細胞癌70.3歳,腺癌65.3歳といずれも高齢者に多く認められた。
(3)男女差は特に認められなかった。
(4)発生部位別では,扁平上皮癌は上限瞼に,基底細胞癌は下眼瞼に多く認められた。また腺癌では全例上眼瞼に発生していた。
(5)経過観察のできた37症例のうち再発および転移はそれぞれ3例ずつ認められた。また原病死は2例に認められた。
(6)転移をきたした3症例は全て良性の腫瘤として安易に処置された既往があり,組織検査ならびに初回治療の重要性が再認識された。

眼症状を呈した耳鼻科疾患の統計

著者: 佐藤昌保 ,   鈴木美佐子 ,   松木恒生 ,   山田宏圖

ページ範囲:P.921 - P.925

 1978年1月より1979年12月までの2年間に,福島医大眼科を受診した患者のうち,原因が耳鼻科疾患によると考えられた64例について,統計的に検討を加え以下の結果を得た。
(1)年齢は,30〜39歳に最も多く,男性にやや多かった。
(2)耳鼻科的原因疾患としては,副鼻腔炎,上顎洞悪性腫瘍,mucocele・pyoceleの頻度が高く,全体の90%を占めていた。
(3)眼科的自覚症状としては,視力障害,眼球突出,頭痛,眼痛が特に多く,諸症状の60%を占めていた。
(4)眼疾患としては,眼窩腫瘍および球後視神経炎の頻度が高かった。
(5)鼻性頭痛および眼痛は,同一の機序で起こる可能性があることを推測し,鼻性疾患の重要な症状の一つであると考えた。

腎移植患者にみられる眼合併症の経過

著者: 佐々木一之 ,   向井佳子 ,   津川龍三 ,   篠田晤 ,   石川勲

ページ範囲:P.927 - P.935

 1975年3月より1980年6月までの間に金沢医科大学病院にて腎移植術を受け,眼科的検索をなしえた30症例について眼科の立場から術後経過を観察した。
 眼合併症は30例中23例(76.7%)に認められた。
(1) PSCは21例70%にみられた。
(2) PSCの発症は術後2カ月から61カ月でみられた。
(3) Grade IIをこえるPSCの出現はみられなかった。
(4)術後約1年前後で10g以上のステロイドを内服している者に発症したPSCは,進行の可能性がある。
(5) Grade IIの者ではPSC発生とステロイド総服用量および第1年目量との間に有意な相関関係が認められた。
(6) PSC発生とAzathiopurine総量,血清カルシウム,クレアチニン・クリアランス,血清アルブミンとの間には有意な相関関係は認められなかった。
(7)緑内障は2例に認められた。
(8)頻回の球結膜下出血は2例に認められた。

Cherry red spot,角膜混濁および種々の神経症状を呈した成人例3家系6症例

著者: 樋口みち子 ,   大関尚志 ,   草場葉子 ,   伊藤大蔵 ,   田中直彦 ,   酒井正雄 ,   赤木正雄

ページ範囲:P.937 - P.943

 Cherry red spot,角膜混濁に加えて,ミオクローヌス,小脳運動失調などの神経症状ならびにGargoyle様顔貌,脊椎の変形,Angiokcratoma等の身体症状を有した,6症例3家系について酵素学的検索を行い,β—galactosidase,sialidase両者の活性の低下を認めた。

黄斑色素および視感度の加齢について

著者: 安間哲史 ,   鳥井文恵 ,   市川宏

ページ範囲:P.945 - P.949

 15歳から83歳までの矯正視力0.9以上の人工無水晶体眼50眼を対象として,467 nmおよび551 nmの2波長光に対する感度を網膜中心部と10°周辺網膜にて測定し,以下の結論を得た。
(1)黄斑色素による吸収量は467 nmでは平均0.258 logであり,加齢による影響はみいだせなかった。
(2)網膜中心部では加齢による感度低下はあまり明らかではなかったが,10°周辺網膜では加齢と感度低下との問に相関が認められた。ことに,短波長光に対する感度低下は著明であった(P<0.05)。
(3)このことから,加齢による感度低下は周辺部の青錐体系に最も強くあらわれると考えた。

網膜疾患の電気生理学的分析—黄斑部疾患での応用(その1)

著者: 米村大蔵 ,   河崎一夫 ,   若林謙二 ,   真舘幸子 ,   川口泉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.951 - P.959

(1)サルで眼底後極部の4乳頭径の範囲の光凝固3週後には,off応答急峻部とDiamox responseは著明に減弱した。
(2) Fundus flavimaculatusの症例ではERG off応答急峻部,EOGのhyperosmo—larity response, Diamox responseのいずれも異常であり,錐体と網膜色素上皮の障害が示唆された。
(3)限局性の脈絡膜障害(黄斑部2.5乳頭径),老人性Ill盤状黄斑部変性症例ではoff応答急峻部,L/D比,hyperosmolarity responsc, Diamox rcsponseは正常範囲にあった。
(4) ERGのoff応答急峻部, EOGのL/D比,hyperosmolarity response, Diamoxresponseを併せ検討することは,主病変が網膜色素上皮層または視細胞層(錐体)のいずれにあるかの推定の一助となり,黄斑部変性症などの病態把握に有用である。

脳回転状網脈絡膜萎縮の成因と治療に関する研究—その3 4症例の臨床所見を中心にして

著者: 中島久雄 ,   早坂征次 ,   高久容一 ,   塩野貴 ,   渡辺誠一 ,   高橋甚吉 ,   水野勝義 ,   斎藤峻 ,   大村清 ,   多田啓也

ページ範囲:P.961 - P.968

 脳回転状網脈絡膜萎縮のうち既報の3例にさらに1例を加えて臨床的,生化学的に検討した。特異な眼底変化とともに近視・白内障等の合併症,また毛様体所見も加齢とともに進行していた。全例で高オルニチン血症が認められ,同時にornithine ketoacidtransaminaseの欠損ないしは低下が認められた。オルニチン負荷試験とビタミンB6投与の結果から,プロリン投与療法ないしはビタミンB6投与療法が本症に有効である可能性が示唆された。

視神経乳頭の先天性異常—Tilted discおよびsitus inversusの眼所見について

著者: 渡辺郁緒 ,   酒井寿男 ,   外山喜一 ,   大石貴子

ページ範囲:P.969 - P.974

 Tilted disc syndromeとよばれている視神経乳頭の先天異常の76眼(53症例)の眼症状の分析を行った。
 Tilted discは43眼にsitus inversusは33眼に認められ,両者を同一眼に明確に合併するものはごく少数であった。
 視神経乳頭の傾斜角度の測定では各症例は正常乳頭よりsitus inversusまで連続的に分布はしなかった。
 これらの異常は片眼性のものが両眼性のものより多く,1眼tilted disc,他眼situs inver—susの例は4症例(8%)であった。
 屈折異常:Tilted discではほとんど全例近視ないし近視性乱視であり,situs inversusでは近視〜遠視と一定の傾向を示さない。
 視野異常:Tilted discでは56%, situs inversusでは48%をこ認められ,refraction scotoma様所見はtilted discにのみ14%に認められた。
 Tiltld discでの視野異常は眼底下方の網膜色素上皮〜脈絡膜の異常によることが,検眼鏡所見,螢光限底写真よりうらづけされた。EOG所見もこの事実とよく一致する。situsinversusでの視野の異常の説明は,今回の調査結果よりは出なかった。Conusやnasalectasiaと視野異常との問に密な関係は見出されなかった。

特異な慢性多発性神経炎,膜性増殖性糸球体腎炎の経過中に認められた網脈絡膜症の2症例

著者: 本村幸子 ,   能勢晴美 ,   河野恵子 ,   尾崎行雄

ページ範囲:P.975 - P.986

 色素異常・剛毛・浮腫・免疫グロブリン異常などを伴う慢性多発性神経炎で,しかも膜性増殖性糸球体腎炎を伴う2症例の経過中に,続発性網膜剥離を伴う眼底後極部に比較的限局する特異な網脈絡膜症の発症を経験した。この網脈絡膜症は症例1では両眼に,症例2では片眼に認められ,その臨床像の特微から,様々な呼称はあるもののGassのいう胞状網膜剥離と診断しうるものであった。この2症例に認められた新しい症候群はなんらかの免疫グロブリン異常が存在し,それが全身の多彩な症状の発現に深く関係していること,更にこの2症例では免疫病理学的疾患の一つである膜性増殖性糸球体腎炎を伴っていることから,なんらかの免疫異常が眼底病変の発症にも深く関係していること,その障害部位は色素上皮細胞—Bruch膜—脈絡膜毛細血管板のレベルであること,また色素上皮細胞の強い障害を認めることから体液性組織障害因子の存在も推定しうることを述べた。
 この新しい症候群に網脈絡膜症を伴った症例はまだ内外で報告されておらず,本症例が最初のものであることを,また最近眼科医に注目されているこの特異な網脈絡膜症で全身所見を伴うものは本症例が最初のものである。

視覚誘発脳波による視的学習利得の研究—1.方法の開発と誘発脳波の後期成分について

著者: 市橋進

ページ範囲:P.987 - P.993

 視覚誘発脳波による視的学習利得の他覚的評価を行う目的で測定方法の開発を行い,万人向き学習用語を用いて,視的作業による誘発脳波の後期成分の意義を明確にした。
 刺激方法としては,単語の有意性を判断する方法と,有意な単語から更に選択作業をする課題視を負荷した方法である。用いたひらがな3文字は日本人に対して万人向き刺激方法であるが,学習という点では低次元の判定をしているものと考えられた。
 結果として,成人ではvertex potentialで,意味のある無しにかかわらず波形成分の差は認められず,小児では意味のない変形図形でN1,P2潜時の延長とN1—P2振幅の明らかな低下を認めた。これは被検者の関心の違い,すなわち注意力の差に由来するものと考えられた。次に被検者に課題視させた時に,成人と小児共にP300成分が出現した。しかし小児は成人に比べて頂点潜時が延長しており,文字を見てからの判断および決定が遅いためであると考えられた。
 以上のことより視覚誘発脳波の後期成分であるvertex potentialは文字認識の最も基本的な反応であり,認識過程の第1段階を示し,次いで出現するP300は判断,決定といったより高次の認識過程を反映したものと考えられた。

色光VECPの臨床応用に関する研究—正常者ならびに視神経疾患について

著者: 白川昭人

ページ範囲:P.1001 - P.1007

 輝度1000troland,視角10°の白色背景下で,波長440nm,540nm,および610nmの3色光を,視角1°の刺激光として与えた。刺激光は自覚閾値から,0.25あるいは0.5対数間隔で,2.0または4.0対数単位閾上値まで変化させ,その時のVECPを測定した。
(1)正常者では,波長440nmを刺激光としたP1出現閾値は,1.25対数単位閾上値であり,波長540nm,および610nmを刺激光とした出現閾値は,0.5〜0.75対数単位閾上値であった。以上より,短波長光での刺激は,中波長ならびに長波長光刺激とは,VECP出現に関し異なった機構を有するものと推察した。
(2)視神経疾患群の健限におけるVECPは正常者とほぼ同様の傾向を示した。患眼で健眼と比較すると,自覚閾値よりP1出現閾値までの刺激光の増加量に関し,短波長光刺激では差がなく,中波長光では1例に,さらに長波長光では2例とも著明な差を認めた。刺激時間200msecでは.刺激時間10msecに比べて,自覚閾値よりP1出現閾値までの刺激光の増加量が,3色光とも一層大きなものとなり健眼と比較し,約1.0〜1.5対数単位の差を認めた。
 以上より,白色背景下における中心窩単色光刺激法による刺激時間200msecのVECP測定は,視神経疾患での視覚伝導路障害の有無に関する病態診断に有意であると考えられる。

スペックルパターンによる視覚誘発電位(VEP)の臨床応用

著者: 福原潤 ,   魚里博 ,   小池明彦 ,   野島誠一 ,   西信元嗣 ,   中尾主一

ページ範囲:P.1009 - P.1014

 従来のパターンリバーサル装置では記録困難な眼球光学系に異常のある症例について,レーザースペックルパターン刺激による視覚誘発電位(VEP)を記録した。
 その結果従来のパターンVEPに比して,
(1)屈折異常矯正を行わない場合でも矯正した場合と変わらぬ波形が得られた。
(2)中間透光体混濁のある場合,その影響により,従来のパターンリバーサル刺激では記録困難な例でも,その影響を受けずに記録可能なものがあった。
 以上より本法は眼球光学系の影響を比較的受けずに,網膜皮質系のパターン識別能を他覚的に評価できる力法として臨床上有用であると思われた。

視覚誘発脳波(VECP)によるいわゆる経線弱視の研究

著者: 勝海修

ページ範囲:P.1015 - P.1025

 経線弱視(meridional anblyopia)を検討する一方法として,視覚誘発脳波VECPをもちいて,乱視を有する小児の症例について両主経線間におけるmeridional ratioを比較し,次の結果を得た。
(1)弱視を有する症例は正常視力を有する症例に比較して高いmeridional ratioを示した。
(2)片眼性弱視例は両眼性弱視例に比較して高いmeridional ratioを示した。
(3)片眼性,両眼性弱視とも光学的矯正と遮閉法による視力向上に伴い,meridionalratioは正常範囲になることを認めた。
(4)経線弱視は臨床的には不同視弱視あるいは非正視弱視に含まれるもので,特別にこの弱視をとり上げる必要はないと考える。

連載 眼科図譜・283

ハンセン病の眼病変—I.外眼部,角膜

著者: 藤田晋吾 ,   吉村睦雄 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.898 - P.899

 ハンセン病(らい病)は,らい菌の感染による慢性伝染病であり,眼は病変の好発部位である。わが国では罹病者は近年とみに減少して,全国で1万人ほどとみなされるが,世界の各地にはなお推定で1,000万人という多数の罹病者が存在し,主要な失明原因となっている地域も少なくない。眼病変は,眼瞼.角膜,ぶどう膜など広範囲におこるが,その発生頻度や重症度は罹病期間と治療に依存するほか,罹病者の住む地域にも左右される。すなわち,寒冷地域では,温暖地域とくらべて眼病変の合併はより頻度が大きく,かつ重症である。また,臨床病型かららい腫型(lepromatous type)と類結核型(tuberculoidtype)が区分されるが,前者のほうが眼病変をより高率に,かつ重症に合併しやすい。
 ハンセン病にみめれる眼病変はふるくから詳細な記述があるが1),実物カラー写真を記録した報告はあまりみられない。著者らは,国立療養所星塚敬愛園(園長:大島新之助博士)において,690名の罹病者の眼を観察した。細隙灯顕微鏡写真など新しい資料をえたので紹介してみたい。

私の経験

薄膜72枚撮りフイルムを用いた螢光眼底撮影

著者: 岡野正

ページ範囲:P.912 - P.912

 螢光眼底撮影の最近の進歩は実に目覚ましく,とくにhardwareの主体を構成する眼底カメラに関しては,本邦ではC社・K社・M社・N社・O社・T社など数多いメーカーの開発の努力もあって,容易に良質の螢光眼底写真が撮れるようになった。しかしsoftwareの面では,なお多くの混乱や試行錯誤がみられ,ことにフイルムの活用法については撮影器機の進歩にはるかにとり残されている感がつよい。
 螢光眼底撮影では問題を臨床に限っただけでも,解像力の良いmicroangiography的な個々の毛細血管まで微細に写そうとする場合とrapid sequence angiographyとして眼底の血行動態の時間的造影諸相を記録する場合との二つの面がある。両者それぞれ意義があり,理想的な螢光眼底撮影のroutineでは,頻回にしかも良質の映像を記録したいというのが螢光眼底の専門家ならずとも眼科臨床一般のつよい要望である。だが,この二つの性格は手技上必ずしも両立しえないようである。例えば通常使われている36枚撮り白黒フイルム(例:トライX,ネナパン400,イルフォードPH5など)を使った場合,はじめから毎秒3駒などの高速度で使えば12秒でフイルムは終ってしまう。しかも,通常は36枚全部が螢光用に使われる訳ではない。我々の教室では,最初の1駒は患者の名前などのデータ記録用,次の2駒は検眼鏡所見の白黒写真とし,4駒目から螢光造影の記録をはしめる。

臨床報告

Triamcinolone acetonide局所注射による霰粒腫の治療経験

著者: 藤関能婦子

ページ範囲:P.1027 - P.1030

(1)50名53個の霰粒腫に対して,Triamcinolone acetonide (以下T-A)局所注射を行い,著効31例,有効9例と,転帰不明例を除くと,43個中40個(93%)と,諸家の報告と同様,高い有効率を得た。
(2)特記すべき副作用もみられず,観血的治療の困難な幼小児,キシロカィンショックの危惧される症例,手術拒否の患者,涙小管損傷,瞼板動脈弓損傷が危惧される部位の症例等に対し,従来の外科療法に比べ,外来診療において,簡単に,手軽にできる,魅力的な方法であり,霰粒腫に,まず試みてもよいと考える。

挿管拡大涙嚢造影法

著者: 岩崎雄二

ページ範囲:P.1031 - P.1036

 涙小管より涙道へ造影剤を注入しながら3倍に拡大して撮影するIntubationmacrodacryocystographyの手技につき説明し,涙道閉塞症,涙道狭窄症,涙道走行異常の各症例に対して本法によって得られたレ線像を報告した。本法の手技は決して繁雑ではなく,涙小管より下鼻道開口部に至る全涙道系を詳細に観察でき,造影剤を注入後1倍の拡大率で撮影して得られる従来の涙道像に比較して情報量は数等すぐれているので,涙道再建術の術前検査に広く用いるべきである。

外血液網膜柵病変に対するコルチコステロイド剤の影響

著者: 若倉雅登 ,   吉田寛 ,   谷いづみ

ページ範囲:P.1037 - P.1041

 外血液網膜柵病変を有する患者に対しステロイド剤内服治療が行われ,特異な経過をたどった3例の症例につき検討した。第1例は原田病で,ステロイド剤投与で炎症性変化は急激に改善したが,1眼の不整な螢光色素漏出点は円形の漏出点となり,黄斑部に円盤状の漿液性剥離を有した中心性漿液性網脈絡膜症に移行した。第2例は原因不明の円盤状黄斑変性症で,ステロイド剤投与中に黄斑部病巣に漏出点を有する円盤状漿液性剥離を認め,本剤の減量中止によりこれは消失した。第3例は両球後視神経炎と1眼の脈絡膜症を有する患者で,これに対しステロイド剤の投与を行ったところ,脈絡膜症の部位から螢光色素の漏出が発生し,滲出性剥離が生じ,ステロイド剤減量中止により治癒した。以上よりステロイド剤は外血液網膜柵に病変部位を有する疾患に対し,この部を破綻させる方向に作用しうることを示唆した。したがって,とくに原因不明の外血液網膜柵病変に対するステロイド剤の使用は慎重でなければならない。

視神経管開放術を施行した大理石骨病の1例

著者: 後長道伸 ,   近藤和義 ,   調枝寛治 ,   迫田勝明 ,   魚住徹

ページ範囲:P.1043 - P.1049

 視神経萎縮を呈した大理石骨病の1症例に対して,視神経管開放術を施行した。症例は2歳10カ月の男子で,2歳頃までは日常の行動に不自然はなく良くみえているようであった。2歳6カ月頃より,左眼が外斜し,また物によくぶつかるようになり,両眼の著しい視力障害がうたがわれた。頭部レ線では,頭蓋底の骨硬化,肥厚が強く,視神経管は著しく狭小化を示していた。両眼の軽度の眼球突出と視神経乳頭の著しい蒼白化が認められたが,瞳孔対光反応およびERGがほぼ正常であったことから,1980年2月7日前頭開頭下に両視神経管開放術を行った。術後2週頃より物をみつめる動作がみられるようになり,また母親の観察によれば自宅周囲の道は確認しながらひとり歩ぎができるようになったことから,一応の効果をあげたものと推測された。

手術ノート

Trabeculectomyの反省

著者: 湖崎弘

ページ範囲:P.1050 - P.1051

1.歴史
 1968年6月,スイスのBürgenstockで第2回の眼科顕微鏡手術研究グループのシンポジウムが開かれたが,そのテーマは緑内障の顕微鏡手術であり,その内容は誠に多彩であった。KrasnovがIridocycloretractionとSi—nusotomyを, HarmsとDannheimがTrabeculotomyを,SmithがNylon Filament Trabeculotomyを,CaimsがTrabeculectomyを発表した。
 このように百花繚乱のおもむきのあった新しい手術も,奏効率の高さ,併発症の少ないこと,操作の容易性,適応症の広さから,10年以上経過した今日ではTrabecu—lectomyが世界で最も広く施行されることになった。しかもその作用機序も濾過瘢痕形成と考えられている。

文庫の窓から

格致餘論(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 中国医学における学問的な分派の独立は金,元四大家(劉,張,李,朱)に始まるといわれる(石原明博士)。この特色ある医説が明に受け継がれ,更に李朱医学(李東垣,朱丹溪の医説)としてわが国にもたらされたのは田代三喜が長享元年(1487)に入明し,約12年間医学の修業をつんで帰国(明応7年,1498)してからのことである。
 わが国に伝えられた李朱医学は田代三喜の門人,曲直瀬(一溪)道三らにより日本人に適合する様に改良され普及された。この様に日本化された李朱医学はいわゆる道三流医学として日本の医学に多大な影響力をもった。

GROUP DISCUSSION

遺伝・先天性眼疾患

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.1054 - P.1060

1.本GDの名称を眼先天異常または先天性眼疾患と変更する件について
 先天異常の原因は,1)遺伝要因,2)環境要因,3)特定の要因不明のものに分けられる。眼科領域においても,遺伝性疾患は先天異常に含まれるものであるので,遺伝と先天性という用語を別個に,あるいは並列して用いるのは正しくない。本GDは,第1〜8回は「遺伝性疾患,特に網膜色素変性症」,第9〜12回は「遺伝性眼疾患」,第13〜17回は「遺伝・先天性眼疾患」という名称で発展して来たので,この様な結果になったが,実際に,遺伝と先天異常という言葉の異同が正しく理解されていないと思われることが少なくない。この方面の研究を目的とする本GDとしては,今回私が世話人をお引受けする機会に,「眼先天異常」または「先天性眼疾患」GDという簡潔で誤解のない名称に改めたいと思う。

緑内障(第22回)

著者: 澤田惇

ページ範囲:P.1061 - P.1065

〔主題〕緑内障手術の合併症
I.虹彩切除の合併症
(総説)
 虹彩切除術の合併症を早期合併症と晩期合併症に分けてみると,早期合併症には球後出血,前房出血の一部,感染,虹彩の解離,デスメ膜剥離,外傷性白内障,硝子体脱出,濾過瘢痕の形成,浅前房とそれに伴う脈絡膜剥離等があり,これらは十分な注意,手技の向上により予防ができる。しかし前房出血のあるものは虹彩に血管がある以上さけられない。純性小眼球症におこった閉塞隅角緑内障に対する虹彩切除術後には高頻度に脈絡膜剥離や無裂孔性網膜剥離が発症する。これに対する予防法も的確な治療法もないのが現状である。悪性緑内障も予防困難であるが,その発見が早く迅速にアトロピン点眼を行い,さらにはチャンドラーの方法による硝子体吸引,前房内空気注入を行えば,多くの場合事態は収拾できる。しかしそれでも無効な場合がある。
 晩期合併症は,まず虹彩後癒着が多発する。特に炎症を伴った緑内障や,術後にピロカルピン点眼を必要とするような眼に頻度が高くなる。予防的虹彩切除術後でも10%をこえる割合でみられる。

抄録

第16回日本眼光学学会

著者: 大庭紀雄

ページ範囲:P.1067 - P.1073

 第16回日本眼光学学会は,1980年11月29日(土)に指宿観光ホテルで開催された。下記のごとく眼光学分野の最近の研究が多数紹介され,有意義な情報交換が行われた。特別講演に予定されていたMathew Alpern教授(米国ミシガン大学)は急病のため来日不能になったため,送られてきた講演原稿"The Color Vision of theColor Blind"を会長が代読した(この原稿はJapaneseJournal of ophthalmology25巻1号に収載される)。学会出席者は180名で,例年のごとく眼科関係者,理工学,光学分野とinterdisciplinaryの色彩がつよかった。会場は九州南端のリゾートホテルに設けられ,晴天に恵まれて参加者は晩秋の南九州を楽しむこともできた。なお,今年度から,日本眼光学学会は独自の学会誌を発行することが決定された(大庭紀雄)。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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