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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科35巻8号

1981年08月発行

雑誌目次

シンポジウム 超音波の眼科的応用

眼部腫瘍診断に関する超音波の応用

著者: 金子明博

ページ範囲:P.1245 - P.1252

 網膜芽細胞腫,ブドウ膜悪性黒色腫,眼窩腫瘍の診断における超音波検査の意義につき検討した。網膜芽細胞腫においては多くの場合,超音波反射と減衰の強い充実性腫瘍として描出される。しかし例外的な症例も存在することを例示し,このような場合に有用な補助診断法を紹介した。眼窩腫瘍の診断ではCT検査が主体となるが,生検により病理診断を行うことが必要な場合に役立つ超音波検査下でのPunch biopsyの方法を開発し紹介した。

学会原著

極小未熟児の増加と網膜症の発生,進行に関する統計的研究

著者: 馬嶋昭生 ,   田中純子 ,   加藤寿江 ,   鎌尾憲明

ページ範囲:P.1253 - P.1264

 名市大未熟児病棟で管理された生下時体重2,500g以下の低出生体重児のうち,すでに報告した1970年1月から1975年6月までの470例(A群)と,1977年1月から1979年12月までの195例(B群)を対象として,未熟児網膜症の発生,進行について比較した。さらに,B群における1,250g以下の極小未熟児について,網膜症と全身的諸因子との関連性を検討し,以下の結果を得た。
(1)名市大では極小未熟児が増加しており,特に1,250g以下が著明である(p<0.001)。
(2)それに伴って重症網膜症も増加している。
(3)Ⅱ型網膜症は約5倍に増えたが,統計学的には有意な増加とはいえない。
(4)全身管理法は,名市大においてはA群の時期にすでに現在の水準まで達していたと考えられ,発生率と重症例の増加は,極小未熟児の増加によるために他ならない。
(5)生下時体重1,250g以下において,(a)Ⅰ型網膜症は全身的諸因子に関係なく発生,進行している。(b)Ⅱ型および混合型は,全身的諸因子に強い関連性があり,ほとんど全ての条件が悪い症例に発生している。
(6)網膜の未熟性こそ本症の重要な発生因子であることを再確認した。
(7)本症による失明予防には,極小未熟児の出生防止が急務である。

眼科領域における超音波Tissue Characterization,特に眼内膜様物のそれについて

著者: 澤田惇 ,   馬場幸夫 ,   益山芳正 ,   西元雄一郎 ,   児玉芳久 ,   恵利美代子

ページ範囲:P.1265 - P.1269

 眼内膜様物の超音波組織特性を知るために,眼内膜様病変,すなわち網膜剥離94眼,硝子体膜形成58眼,増殖性糖尿病性網膜症33眼,計185眼について,Aモードによるquantitative echography (Ossoinig)を行い,次の結果を得た。
(1)網膜剥離では,89%において非常に強い超音波反射性が,9%において比較的強い反射性が示された。
(2)硝子体膜形成では,88%において非常に弱い反射性が,9%において比較的強い反射性が示された。
(3)増殖性糖尿病性網膜症では,超音波反射性に一定の傾向がみられず,強いものと弱いものがみられた。
 このように眼内膜様病変の超音波組織鑑別にquantitative echographyは有用であるが,病変の形態をよく描き出す映像法の併用がより正確な情報をもたらす。

螢光色覚検査表の試作研究(第2報)

著者: 関亮 ,   加藤晴夫 ,   本橋孝彦

ページ範囲:P.1271 - P.1274

 我々は螢光色を用いてAnomaloskopに近い成績を得る仮性同色表を求めて第2回試作表を作製し第1回試作表より良好な成績を得た。また他の検査方法との比較を行い高い精度を持つことを確認した。今後より大きな色度差を持たせAnomaloskopの色に近づくように改良すれば我々の理想とする色盲のみの検出表により近づける事が可能と考え今後も研究を続ける予定である。

学術展示

網膜神経線維層の観察—第1報その分光特性による抽出法

著者: 難波克彦 ,   岩田和雄

ページ範囲:P.1275 - P.1281

 拡大立体カラー撮影,無赤色光フィルター撮影,同時立体カラー撮影(35mm)の三つの方法の網膜神経線維層欠損の抽出効果の評価を行った。拡大立体カラー撮影と無赤色光フィルター撮影との間に差はみられず,同時立体カラー撮影はそれらにやや劣る結果であった。年齢と網膜神経線維層欠損のみえ方との関係では高齢者になるほど識別しにくい傾向がみられた。
 拡大カラー写真上でBjerrum領域および網膜神経線維層欠損部の分光透過率を検討した。加齢とともに青,緑色光成分が減少し,赤色光成分の増加がみられた。網膜神経線維層欠損部ではこの三つの成分とも低下し,青,緑色光成分では年齢差は認められなかった。
 以上のことより高齢者の網膜神経線維層欠損の抽出には単にフィルター撮影のみでは不十分で,何らかの画像処理が必要と考えられた。

液晶ハプロスコープによる不等像視測定に関する研究

著者: 矢沢興司 ,   根岸千秋 ,   川村緑 ,   平野東 ,   武谷ピニロピ ,   紺山和一 ,   加藤和男

ページ範囲:P.1283 - P.1287

 コンタクトレンズとメガネの合成レンズ系による実験的不等像視を液晶ハプロスコープにより測定した。このガリレイ式望遠システムによる網膜像の拡大を計算値と比較したところ,実測値では1diopterあたり1.5〜1.7%の拡大がみられた。一方計算値は1diopterあたり,1.2%であった。従来良い検査法がないためにコンタクトレンズ処方のみでよしとされる傾向にあった片眼無水品体眼の不等像視に対して積極的な矯正を行う上で,液晶ハプロスコープを用いる方法は有用な検査法である。

稀有なる網膜嚢胞の2例

著者: 坂西良彦 ,   松下卓郎 ,   金上貞夫 ,   清水昊幸 ,   内野允

ページ範囲:P.1289 - P.1294

 網膜剥離を伴わない,いわゆる網膜大型嚢胞の2例について報告した。
 症例1:25歳,男性。右眼上鼻側に硝子体出血,肥厚硝子体膜による牽引のために生じたと思われる網膜嚢胞がみられた。硝子体切除術を施行した後,嚢胞自体に積極的に光凝固を行ったところ嚢胞をほぼ消失させることに成功した。
 症例2:34歳,男性。右眼視神経乳頭鼻側に接し,高さ14D.直径8乳頭径の網膜嚢胞がみられ,傍乳頭部網膜血管種症(Juxtapapillary retinal angiomatosis)が成因として考えられた。光凝固術により,いずれもほぼ消失させることに成功した。

青錐体系の視力とその臨床応用について(Ⅰ)

著者: 中井義秀 ,   大原孝和 ,   横山実

ページ範囲:P.1295 - P.1299

 黄色光順応下(2,000 asb)で,広域青色フィルター(ピーク,450 nm)によるランドルト環投射を行い,青錐体視力(BCV)を測定した。このsuprathresholdの領域で計測されるBCVは,個体差,年代差の少ない安定した指標である。正常35眼のBCV平均値は0.16±0.03であるが,特発中心性脈絡膜症,網膜剥離,緑内障,網膜色素変性症などにおいて選択的に障害され,あるいは回復の遅延する傾向がある。

光線追跡法による眼底実寸値計測

著者: 清水春一 ,   小鹿倉寛 ,   今井葉子 ,   井口登紀子 ,   小早川嘉

ページ範囲:P.1301 - P.1306

 赤外線無散瞳限底カメラCR 45 NM,およびGullustrandの眼球模型から光線追跡法を用いて,撮影写真の倍率に及ぼす影響をカメラ側,眼側の要因に分け検討した。
(1)カメラ側の倍率に関する要因:CR 45 NMにて撮影写真計測により眼前で張る角度Δθ°を求める概算図を作成した。
(2)限側の倍率に関する要因:
i)角膜曲率半径,眼底曲率半径の個体差は共に誤差率が2%以下であった。
 ii)角膜,水晶体の屈折による個体差;角膜前面を非球面と仮定すれば,x=y2/7.8/1+√1—(y/7.8)2+1.881Х10−4y4−1.443Х10−6y6の値を得た。
 iii)眼軸長1の個体差;概算図で求められた眼前で張る光線角度Δθ°に対しては,DΔθ°=Δθ°(0. 01425l−0.0536)の関係が成立することがわかった。
 これら,カメラ側および眼側の要因を総合し撮影写真から眼底実寸値δを求める関係はD=Δθ°×δ/0.3(0.01425xl−0.0536)となることが判明し,実測値との誤差率は,全体の5%以下ではほぼ満足しうる結果を得た。

Automatic Visual Field Analyserの開発とその臨床応用

著者: 菊地玄

ページ範囲:P.1311 - P.1317

 Cathord Ray Tubeおよびマイクロコンピューターを基盤に本邦初の自動視野計を開発した。視標呈示法,固視確保などに新しい方法をとり入れ,各種ブログラムの活用により,より簡単により精密により量的に計測でき,臨床検査に十分応用できる視野計となった。

YAGレーザーの眼科的応用

著者: 鹿島佳代子 ,   沖坂重邦 ,   木村泰朗 ,   武内邦彦 ,   中島章

ページ範囲:P.1319 - P.1325

 YAGレーザーの眼球内の透過率はSpecule photometerで調べた所ArgonとXcnonの中間の透過率を示した。
 YAGレーザー発振器部よりのレーザーをファイバーで,細隙灯顕微鏡に組み込み,光凝回装置を試作した。
 サル眼底にレーザーを照射し,検眼鏡,螢光眼底,および細織学的に凝固層を経時的に観察した。
 530nmQスイッチでは網膜に主に変化を認めたが,1,060 nmQスイッチでは脈絡膜にも著しい変化を認めた。

角膜真菌症経過中に混合感染を起こしたと思われる1症例

著者: 石橋康久 ,   矢野真理 ,   柴田重陽

ページ範囲:P.1327 - P.1330

 73歳,男子の左眼に角膜病変が認められ,検査の結果,実質中に真菌の寄生が確認されたため抗真菌剤による治療を行い,当初は改善傾向を示していた症例が,突然潰瘍上側縁より実質中に濃い混濁が出現し急激に拡大して前房蓄膿を伴い角膜穿孔を起こした。これは真菌による初発病変に細菌による二次的な感染を起こしたものと考えられ,今後角膜真菌症を診た場合,細菌やウイルスによる混合感染に対しても十分注意を要すると思われた。

角膜ヘルペスと角膜真菌症の合併した2例(予報)

著者: 塩田洋 ,   西内貴子 ,   井上須美子

ページ範囲:P.1331 - P.1334

 角膜ヘルペス基本型と角膜真菌症とを同時に合併し,特徴的な臨床所見を呈した2症例について報告した。その特徴は次の様な所見であった。
(1)地図状潰瘍。
(2)潰瘍中央部は不透明で凹凸不平。
(3)潰瘍辺縁はジグザグになっており,強い浸潤を伴う。
 これらの特徴をそなえる角膜潰瘍を診たならば,HSVと真菌との混合感染によって生じた角膜潰瘍である事を念頭において検査し,治療には抗ヘルペス剤と抗真菌剤とを併用するのが望ましい事を強調した。

涙液分泌不全における角膜潰瘍の3症例

著者: 平原敦子 ,   杉田美由紀 ,   塚原一彦 ,   富永一恵 ,   山本倬司 ,   田中直彦

ページ範囲:P.1335 - P.1340

 涙液分泌不全にみられた,難治性角膜潰瘍の経験例について報告した。2例2眼は,シェーグレン症候群の疑い例の人工的無水晶体眼で,1眼は穿孔性であった。他の1例1眼は,シェーグレン症候群にみられた穿孔性角膜潰瘍で,これら3例3眼の角膜所見と臨床経過について述べた。
 乾性角結膜炎,シェーグレン症候群,慢性関節リウマチにみられる穿孔をも来たす,角膜潰瘍の症例について最近報告がなされており,自験例もこれらに属するものと考えられた。報告例について紹介し,あわせて臨床上の問題点について述べた。

連載 眼科図譜・285

傍乳頭部網膜血管腫症による網膜大型嚢胞の1例

著者: 坂西良彦 ,   松下卓郎 ,   金上貞夫 ,   清水昊幸 ,   内野允

ページ範囲:P.1242 - P.1243

 網膜剥離を伴う網膜嚢胞については従来より数多く報告されている。しかし今回我々は網膜剥離を伴わず,傍乳頭部網膜血管腫症(Juxtapapillary retinal angioma—tosis)が成因として考えられる網膜大型嚢胞の1例を経験したのでここに報告する。
 症例:34歳,男性。

臨床報告

Opticociliary veinを伴った鞍結節部髄膜腫の1例

著者: 後長道伸 ,   近藤和義 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.1341 - P.1346

 71歳,女性の左眼視神経乳頭上にopticociliary veinを伴った鞍結節部髄膜腫の1例について報告した。30歳頃から左眼の視力低下が始まり,43歳頃には左眼は失明状態となり,52歳頃には右眼の視力障害,視野狭窄が始まった。両眼とも視神経乳頭は蒼白萎縮を示し,左眼には視神経乳頭上にopticociliary veinと思われる異常血管を認めた。螢光眼底撮影により,網膜動脈相に造影がみられず,静脈相早期に造影が始まり,漏出も認められない点からopticociliary veinと診断した。頭部X線単純撮影・CT・頸動脈撮影により鞍結節部髄膜腫と診断され,視神経管撮影では左側視神経管への強い波及が明らかであった。腫瘍摘出術をうけ,術中所見と術後の病理学的検査により,鞍結節部髄膜腫の確定診断を得た。
 腫瘍摘出1年経過後にも,左眼視神経乳頭上のopticociliary veinに変化は認めなかった。

裂孔原性網膜剥離の年齢別発症の解析—ワイブル分布関数の応用

著者: 村上文代 ,   八木登 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.1347 - P.1352

 裂孔原性網膜剥離の発症を時系列事象とみなし,発症年齢をワイブル分布関数を用いて解析した。208症例を観察資料として発症年齢を求め,一般人口構成を参照して年齢別発症率を計算した。ワイブル確率紙を用いて解析すると,発症は特性値を異にする二つのワイブル分布関数の混合で記述されることが発見された。いずれも摩耗型故障を示したが,一方は約30歳に平均を有しばらつきが多く,かつ約8歳まで無故障期間をもつ分布であり,他方は約60歳に平均を有するばらつきの少ない分布であった。この結果から,裂孔原性網膜剥離は発症機構成立の時間経過を異にする,少なくとも二つの故障病態から構成されると結論された。

Chronic cyclitisの臨床像

著者: 樋口真琴 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1353 - P.1357

 北大眼科ぶどう膜炎外来を受診したchronic cyclitis患者19例について,その臨床像を中心に報告する。症例の内訳は男8例,女11例であり,両眼性が9例,片眼性が10例であった。虹彩後癒着を伴わない軽い虹彩炎と,著明な硝子体混濁(前部微塵状混濁,snowballs, snow banking)がほとんどの例にみられ,類嚢胞黄斑部浮腫,白内障,緑内障の合併も多くみられたが,23眼(82.1%)は0.5以上の良好な視力を保持していた。虹彩炎に対しては無治療,類嚢胞黄斑部浮腫や硝子体混濁の強いものには,後部または前部テノン嚢下ステロイド注射が適当であり,長期にわたる定期的なfollow upが必要である。

涙腺排出管結石の2例

著者: 藤関能婦子 ,   小泉屹

ページ範囲:P.1358 - P.1361

 21歳と32歳の男子,眼痛を訴えた2症例で,涙腺排出管切開にて,数個の結石様物質を認めた。結石は0.5×0.5×1.0mmから,1.5×1.5×3.5mmにわたり,円形からカシューナッツ形を示し,黄白色の,比較的柔かい白墨様外観を呈する物質であった。真菌や細菌の菌塊は認められず結晶成分も析出されず,H-E染色にて均一に染まる無構造物質であった。

手術ノート

網膜剥離(予防手術)

著者: 市橋賢治

ページ範囲:P.1362 - P.1363

1.まず適応を考える
 現在予防手術は技術的にはほぼ完成された手術といえるが,個々の症例に対応した適応についてはなお迷うことが少なくない。
 網膜剥離を予防するためには(1)現存の網膜孔を閉鎖する,(2)網膜孔の発生を予防するの2点である。しかし臨床的にはすべての網膜の孔や変性巣が剥離をひき起こすわけではなく,また予防手術自身による併発症も低率ではあるが発生する事実を考慮にいれる必要がある。できれば危険性の高い病変だけを予防手術の対象とし,その他の孔,変性巣等は放置(経過観察)するようにしたい。しかしこの危険性の評価にかなりの幅があるため適応の基準も各術者の主観に大幅に依存しているのが現状といえる。参考までに私が適応のメドにしている基準は表1の通りである。

文庫の窓から

本草綱目(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 "本草"という名称,その出所,時代等については諸説があって明確ではないが,いずれも紀元前に遡る話である。また,その意味も不老長生とか,錬金といったことに深い関連があるようである。
 一般的に本草学の始祖は伝説の神農といわれ,その最も古い書物は「神農本草経」とされている。しかし,不老長生,食治却病,治療疾病に使用する薬物をも含めて考究する学問としての本草学が大成されたのは中国の明代,万暦年代に至ってのことで,その大成された本草書が李時珍の「本草綱目」である。

GROUP DISCUSSION

神経眼科

著者: 筒井純

ページ範囲:P.1366 - P.1369

 神経眼科G.D.は神経眼科学会の方針により,例年一般眼科医向けの講習会形式で実施されている。本年度は神経眼科領域での基礎的問題1題,眼科の臨床に関する演題3題で,内2題は治療面のことを主体にプログラムが編成された。参加者は約200名で活発な討論がなされたいへん有意義であった。次に講演順に従い要旨を述べる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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