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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科36巻10号

1982年10月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・299

原発性角膜脂肪変性症と考えられる1症例

著者: 山本哲也 ,   堀貞夫 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 角膜脂肪変性症は角膜に脂質が異常に沈着する疾患の一つであり,臨床的には黄白色で,一部に結晶様反射のある極めて濃厚な主として角膜実質の混濁が主な所見である。角膜脂肪変性症は普通は炎症等の眼疾患の既往のある眼に発生するが,時に何らの異常も認められない眼に発生することがあり,これを原発性角膜脂肪変性症と呼んでいる1)。我々は本症と考えられる1症例を経験したので報告する。
 症例:64歳,男性(病歴番号:56-1531)。

招待講演

ランダム化した臨床治験

著者:

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 一般の医学や眼科において,最も大切な活動の一つに臨床研究がある。臨床研究のあるものはしばしばごく少数の患者や,以前の臨床経験のみに基づいて行われたものである。ある病気の本態があまり解明されていなかったり,またある新しい治療方法の結果があまり良くなかった場合に,この臨床研究という方法は,あまり有用でない。糖尿病性昏睡の治療としてのインスリン,悪性貧血の治療としての肝抽出物の投与,さらに眼科に関係のあるものとしては,網膜芽細胞腫に対するナイトロゲンマスタードによる治療法1)がある。この様な場合,2〜3例についての個人的な観察がただちに他の臨床家に「これは全く新しい劇的な方法で,もうこれ以上の研究を必要とはしない」という事を示したこともあったが,残念ながらこの様な例はごくわずかであって,以下に述べる三つの目的のために慢性の眼疾患について臨床研究を行うのである。三つの目的というのは,まず失明の発生を減らし,治癒率を上昇させ,そして合併症の発生率を減少させることである。この慢性眼疾患の診断と治療を改善させるためにランダム化された比較対照臨床治論の方法を用いるのである。
 臨床治験とは,新しい薬や新しい手術方法などのこの治療方法のテストである。臨床治験には,最小限4項目が必要である。

華陀—中国の外科の父

著者: 陳燿真

ページ範囲:P.1219 - P.1221

 中国で華陀(図1)は外科の父と呼ばれている。華は姓で陀は名であるが,ほかに勇という名もある。華陀は成人した後もまた字を元化とつけた(註:ほとんどの中国人は複数の名前を持っている。その理由としては名前が一つのみでは貧弱に見え,複数の名を持っていると裕福に見えるということであろう)。華陀の本籍は沛県の譙であるが,現在の地図によると譙は安徽県の毫という所にある。華陀は現在の安徽,山東,江蘇まで足をのばして勉強し,そのあと医学経験を身につけた。現在,華陀は徐州で勉強したことしか知られていない。「華陀は聡明で同時に勉強家であった。当時の華陀は相当尊敬されれ,学者の典型とされていた。
 華陀の幼時生活は不明であるが,伝説によるとある日華陀は山へ散歩に行った時,誤って小さい穴に落ちた。その時,突然彼の未来のことを話している声が聞こえてきた。華陀はさらに洞窟の奥へ進むと三人の老叟が見えた。そして華陀の将来について論議していた。以前から華陀は医者になるのにはどうすればよいか悩んでいた所だったので,三人の老叟にたずねると,中の一人はすぐ返事をして,「富豪と貧乏,階級の高い人と低い人を区別してはいけない。他人から金をもらってはならない。苦しみを辛抱し,老人,子供にやさしく」と華陀に話した。華陀はこの言葉に感激し,老叟に大変感謝し,「これからこの教訓を守る」と誓った。そして老叟は古い巻本を華陀に渡し,その後消えた。

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第86回日本眼科学会総会印象記

著者: 松山秀一

ページ範囲:P.1222 - P.1245

 第86回日本眼科学会総会は新緑の京都で,57年5月21〜23日の3日間,国立京都国際会議場を舞台に,秋田大学浦山晃教授の主宰のもとに開催された。一般演題の数は112題で21,22日の両日4会場に分かれて発表された。そのうち,第1日午前Room Aでの報告と討論について記す。
 最初の4題は網膜色素上皮組胞(以下RPE)および視細胞外節における酵素系の研究を報告したもので,雨宮京大助教授の司会で活発な討論がなされた。

臨床報告

Host-graft径の異なる角膜移植

著者: 谷島輝雄 ,   木村内子 ,   澤充

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 母角膜よりサイズを0.5〜1.0mm大きくした移植片を用いて角膜移植を行い,従来の母角膜と同じサイズの移植片を移植した場合とを比較した。その結果(1)手術時間は,same size例では1.8時間であったが, disparate size例では1.1時間に短縮された。(2)術後の虹彩前癒着が,same size例では42%にみられたが, disparate size例では,18%に減少した。(3)術後の角膜曲率半はsame size例では45.8D±3.4Dであったが,disparatesize例では47.8±2.7Dとなりdisparate size例の方が2.0ジオプター近視化した。(4)術後の視力は,両者に差がみられなかった。(5)移植角膜の厚さは,術後1週,および術後厚さが一定となった時期にて両者を比較すると,差がみられなかった。

眼球再建のための角膜移植

著者: 稲葉和代 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.1253 - P.1257

 従来の治療法では,治療困難な高度の角膜病変に対し,眼球の形を保持することを目的に,角膜移植術および硝子体切除術を同時に行うreconstructive keratoplastyを行った。
 対象は1979年6月から1981年5月までの2年間に行った10例で,眼球保存の目的は全例に達せられた。視力改善も5例にみられた。これらの原疾患,経過等につぎ検討し,原疾患・適応を選べば眼球形態の保存に有用な方法であるとの結論を得た。

陳旧性網膜静脈枝閉塞症に合併した多発性の網膜裂孔の1例

著者: 浅原典郎 ,   浅原智美

ページ範囲:P.1259 - P.1264

 陳旧性の網膜静脈枝閉塞症に合併した網膜裂孔の症例において,網膜裂孔の成因について考察した。
 症例は69歳の女性であり,左眼の静脈閉塞部位より末梢の領域に6個の網膜裂孔が観察された。
 詳細な眼底ならびに硝子体検査により,各裂孔は静脈閉塞後,網膜の循環障害により,網膜の萎縮,変性が生じ,脆弱化した網膜が後硝子体剥離により牽引されて発生したものと考えられた。
 静脈閉塞症と関係ないと思われた,一見閉塞領域外に存在した周辺部の裂孔は,螢光眼底的に裂孔周囲の危細血管の閉塞所見がみとめられたことから,静脈閉塞症と関連性があるものと考えられた。
 新生血管は網膜剥離の発生に重要な役割を演じているが,網膜裂孔の発生には必ずしも重要な要因ではないと考えられた。
 本症例が網膜剥離にまで至らなかったのは,新生血管の形成がほとんどなかったため,網膜と硝子体との癒着,牽引の程度が少なかったためと推測された。裂孔形成と脈絡膜循環系との関連性については,今回言及しえなかった。

「標準色覚検査表(SPP)」を用いたふるいわけ検査成績の検討

著者: 深見嘉一郎 ,   市川宏 ,   田辺詔子 ,   湖崎克 ,   原田清

ページ範囲:P.1265 - P.1268

 1978年に市川,深見,田辺,川上によって製作,出版された「標準色覚検査表」を川いて大阪市内の小学校,中学校生徒1,766名(15校)に対してスクリーニング・テストが行われた結果を報告した。検査には同時に石原学校用色覚検査表が併用された。
 結果は検出表10表中正読表数8表以上のものが90.2%であり,異常読2表以下のものは95.5%であり非正読2表以下のものが96.7%であることが示された。
 このことによって,「標準色覚検査表」は優れたスクリーニング能力を持つものといえる。
 石原表の成績との比較は極めてよい一致を示した。
 今回の検査対象1,766名中に45名の色覚異常者が含まれていたと推定される。その頻度は,男879名中44名,すなわち5.01傷,女887名中1名で0.11%の出現率を示した。
 検査表それぞれについての検討では,第7表と第13表,つまり正常者のみに読める表が最も優れた結果を示した。

原発性角膜脂肪変性症と考えられる1症例の臨床および病理所見

著者: 山本哲也 ,   堀貞夫 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.1269 - P.1274

 64歳男性の原発性角膜脂肪変性症と考えられる症例に対し表層角膜移植術を行った。光学顕徴鏡および電子顕徴鏡による組織検査により,脂質が当初細胞内にありその崩壊により細胞外に出現する所見を得た。cholesterol cleftも多数認められた。これらの所見は従来の角膜脂肪変性症の報告例と一致した。また,角膜内の脂質沈着の機序につき考察を加えた。

頸部内頸動脈閉塞症に伴うHorner症候群—3症例の検討

著者: 渡辺孝男 ,   深田信久 ,   堀重昭 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1281 - P.1285

 頸部内頸動脈閉塞症に同側のHorner症候群を伴った3症例を報告した。1例においてcocaine-phenylephrine点眼試験により,交感神経節後ノイロンに障害があることが確認された。上頸神経節には変化が認められなかったことより,内頸動脈周囲交感神経の障害によりHorner症候群が発現したと考えられた。

犬蛔虫(toxocara canis)幼虫によると思われる眼内炎の2症例

著者: 嶋田孝吉 ,   小暮正子

ページ範囲:P.1291 - P.1295

 抗犬蛔虫抗体が陽性で,しかも典型的な臨床嫁を示した犬蛔虫幼虫によると思われる眼内炎の2症例を報告した。数少ない小児ぶどう膜炎中,本症は高率に発症している。
 現在,本症の診断は,虫体の検出あるいは観察できない症例では,臨床的および免疫血清学的所見によりなされている。しかし,わが国では,犬蛔虫の不顕性感染が多々あるものと考えられることから,本症の診断は,臨床所見を主体にすべきであると考える。

カラー臨床報告

虹彩異色性毛様体炎(Fuchs)の臨床像

著者: 樋口眞琴 ,   大野重昭 ,   松田英彦

ページ範囲:P.1275 - P.1280

 北大眼科ぶどう膜炎外来を受診した虹彩異色性毛様体炎患者15例について,その臨床像を中心に報告する。症例の内訳は男性4例,女性11例であり,全例片眼性であった。角膜後面沈着物,著明な虹彩萎縮,虹彩後癒着を伴わない軽い虹彩炎,白内障,硝子体混濁は全例に認められ,6例(40%)に虹彩異色,4例(27%)に緑内障の合併がみられた。9例(60%)は0.1未満の視力であったが,その原因のほとんどは白内障であり,そのうち4眼に手術を行い,良好な視力を得た。虹彩炎に対してはステロイド剤は無効であり,緑内障に注意しつつ経過観察を続け,進行した白内障に対しては手術をするのが良い方法と考えられる。

眼科手術学会

シリコンスポンジを用いた涙嚢鼻腔吻合術について

著者: 中村泰久

ページ範囲:P.1297 - P.1298

 直径7×6.5mmのシリコンスポンジを,涙嚢鼻腔吻合術における吻合腔への留置物として用い,9例11側中8例10側に良好な結果を得た。留置物としては,ガーゼタンポンをはじめとして種々のものがあるが,それぞれに長所短所がある。その中で,今回用いたシリコンスポンジは,留置物としての条件をほぼ満し,術中術後の操作も容易であることから,優れた材料であると考えられた。

周辺虹彩切除とトラベクロトミーの合併手術の成績

著者: 近藤武久 ,   鈴木まち子 ,   藤岡孝子

ページ範囲:P.1299 - P.1302

 原発慢性閉塞隅角緑内障の症例にGrote1)のtranstrabecular iridectomyの変法を施行し,76%の眼圧コントロールを得ることができた。本法は原発慢性閉塞隅角緑内障で既にかなり病勢の進行したものには適切な術式であると考えられた。術後合併症に重篤なものはなく,combined mechanism glaucomaやopen angle glaucoma with narrowangle componentsの症例にも適応されてよいものと考えられる。

Werner症候群における角膜移植

著者: 石幸雄 ,   筒井純

ページ範囲:P.1303 - P.1307

 Werner症候群における角膜石灰変性症に対して1眼に表層角膜移植,他眼に全層角膜移植を行いその臨床的経過を比較したところ,創口の治癒不全は認められず,全層移植で良好な視力が得られた。
 切除角膜片の組織学的変化としては角膜上皮およびボーマン膜から実質表層にかけて著明なリン酸カルシウムの沈着を認める以外特に異常は認めなかった。内皮細胞は消失していて観察することができなかった。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(11)(上)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1308 - P.1309

20.眼科玉明秘録
 古来,眼科諸流派の消長はその年代によってさまざまであったと思われるが,「本朝医考」(黒川道祐編纂,寛文3年序)によると馬嶋流の他,佐佐木,青木,須磨穂積等が目医(眼科医)として名のある一家をなしていたようである。その後,馬嶋,家里,笠原,井花等幾多の眼科諸流派の興亡がみられ,幕末も近い天保の頃は尾州の馬嶋,筑前須恵の田原,諏訪の竹内,江戸の土生といった眼科名家があって,その頃これを日本四大眼科とも称されたという。「眼科玉明秘録」は文政7年(1824)2月,末松道隆によって相伝されたものであるが,当時のわが国眼科名家の秘方を総合的に包括して伝えているので,ここに紹介します。
 「眼科玉明秘録」は文政年間(1818〜1829),わが国で名のある眼科,尾張名古屋,美濃,筑前,信濃の四家の秘方およびその外日本諸国の秘書より効験あるものを撰び出し,乾坤2巻にまとめ,習学の人のために解りやすいように図と俗語をもって記述した当流秘密の相伝であると,本書の奥書に示されている。

抄録

第20回白内障研究会講演抄録

著者: 馬嶋慶直

ページ範囲:P.1311 - P.1324

I.一般講演
1.水晶体内陽イオンの変動と水晶体との関連性について
 正常水晶体が房水や硝子体の異常により代謝障宮を生じると水晶体内の陽イオンのアンバランスが生じるが,その程度が軽く一過性であれば外部環境の正常化に伴い水晶体代謝は再び正常に回復すると思われる。そこでどの程度まで陽イオンのアンバランスが進めば水晶体は不可逆的な障害を受けるかを調べた。まず正常水晶体に可逆的な—SH阻害剤であるダイアマイドを作用させ種々の静止電位の脱分極を惹起させた。次に各水晶体を—SH保護剤を含む溶液に移し静止電位の回復を調べた。また種々な程度に脱分極した水晶体の陽イオン濃度を測定し,水晶体が不可逆的代謝障害を受ける陽イオン濃度の限界を調べた。その結果静止電位の脱分極が40mV以上の水晶体では全例進行性に脱分極した。〔Na〕/〔K〕は正常水晶体で0.18,脱分極が40mVのものでは0.57であった。以上より〔Na〕/〔K〕が0.57以上になると水晶体は不可逆的障害を受けると思われる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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