icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科36巻2号

1982年02月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・291

角膜のCrystalline Dystrophy

著者: 矢野真知子 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.94 - P.95

〔解説〕
 角膜のcrystalline dystrophyはSchnyderにより1929年1)と1939年2)に報告された遺伝性の疾患である。角膜中央部にBowman膜下よりはじまる混濁があり,その中に針状の結晶が存在することが特微である。遺伝型式は常染色体優性遺伝であり,諸外国には多くの家系症例の報告3〜17)があるがわが国にはまだ報告がない。視力低下をきたして角膜移植手術を行った症例より得た組織を組織化学的に検索した結果,混濁中にコレステロールの沈着物があることが証明されている4〜7)。今回角膜のcrystalline dystrophyが親子にみられた症例を経験したので報告する。症例の家系は図1に示す通りである。

臨床報告

糖尿病性網膜症の治療に及ぼすDextran Sulfateの影響

著者: 荒木實 ,   小林彰雄 ,   鴨下泉

ページ範囲:P.97 - P.103

 内科医の治療下にある糖尿病症例で網膜症を有するものを無作為に64例を対象とし,MDS 1,350 mg/dayを約1年間内服せしめ,その前後の血清脂質,凝固線溶系,および眼底所見を比較検討し次の結論を得た。
(1)血清脂質、血液凝固線溶系の改善が認められ,TG (P<0.01), Fbg (P<0.01)の有意減少,FFA (p<0.01), ELA (p<0.01)の有意増加が認められた。
(2) background retinopathy 115眼のうち眼底所見に改善が認められたもの21眼(10%),不変64眼(58%),悪化39眼(32%)であった。
(3)眼底所見が改善あるいは不変と認められたものは,大半が糖のコントロールが良好にしてかつ,肥満,遺伝素因,蛋白尿,高血圧などのrisk factorが低く,これに反し,proliferative retinopathyに増悪進行した症例の大部分は,遺伝素因を有し,蛋白尿強陽性という特徴を示した。

Vitreo-retinal dystrophyの1症例

著者: 高坂明 ,   有本秀樹 ,   久保田伸枝

ページ範囲:P.105 - P.108

 5歳男子。外斜視で来院し,右眼の斜視手術後,経過観察中非手術眼である左眼の視力が徐々に低下し,両眼の網膜および硝子体に変性がみられFamilial exudativevitreoretinopathyと思われる症例を報告した。

7歳児にみられた眼サルコイドーシス

著者: 下村嘉一 ,   多田玲 ,   山本保範 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.109 - P.112

 典型的な眼所見と珍しい皮膚病変を有しながらも,胸部所見のない7歳児のサルコイドーシス症例について述べた。とくに両眼球結膜に水疱状の隆起物を認め,生検の結果,類上皮結節と診断できたことと,両眼角膜のBowman膜の深さにおいて,褐色の色素沈着を認めたことが従来ほとんど報告されていない興味ある事実であった。

保存強膜を利用した眼形成手術(IV)—瘢痕性内反症への応用

著者: 田邊吉彦 ,   近藤俊 ,   浅野隆 ,   鳥居修平

ページ範囲:P.113 - P.117

 上眼瞼の瘢痕性内反症の3例に保存強膜移植による矯正手術を行い,全例良好な結果を得た。すなわち手術翌日より患者の異物感は消失した。graft面には約1カ月で血管に富んだ上皮様組織が覆い,20ヵ月から13ヵ月経過の現在graftは瞼板内によく定着して,吸収や内反症の再発は認めていない。

色覚検査法の検討(1)—小学生のパネルD−15ならびにランタンテスト成績について

著者: 安間哲史 ,   高柳泰世 ,   上崎博

ページ範囲:P.119 - P.125

 名古屋市内の市立小学校に在籍する4年生32,769名(男手16,839名,女子15,930名)を対象として学校用石原式検査表による色覚スクリーニング検診を行い、1表以上誤読した者891名(男子814名,女手77名)に対して色覚精密検診を施行し,以下の結論を得た。
(1)スクリーニング検診で検出された色覚正常者には圧倒的に女子が多く,色覚異常保因者が多く検出されたものと考えられた。
(2)このような正常者では男女ともにその視力は対照に比して有意に悪かったが,パネルD−15あるいはランタンテスト成績と視力との間には何ら関連をみいだしえなかった。
(3)このような正常者ではパネルD−15テストにおいてもランタンテストにおいても,その練習効果が随分強いことがわかったが,パネルD−15テストとランタンテストとの間には何ら関連をみいだしえなかった。
(4)色覚異常者群では初回のパネルD−15テストでfailだった者が再検査でpassすることはなく,またborder line patternを示すことも稀であったが,初回でborder linepatternを示した者,あるいはirregular patternを示した者は,その約半数が再検査において診断が変わっていた。
(5)色覚異常者群ではランタンテスト成績にあまり大きな練習効果は見出せなかった。
(6)ランタンテストのpass, failの境界はやはり誤数3と4との間にとるとよいことがわかった。

Acute posterior multifocal placoid pigment epitheliopathyの再発症例

著者: 萱沢文男 ,   高橋寛

ページ範囲:P.127 - P.133

 41歳女性(症例1)と44歳男性(症例2)にみられた急性後極部多発性円板状網膜色素上皮症(APMPPE)の臨床経過について報告した。両例共急激な視力低下で発症し,検眼鏡的には後極部に多数の黄白色滲出斑がみられ,螢光眼底造影では,初期相でhypofluorecence,後期相でhyperfiuoresccnceの所見がみとめられた。症例1では,半年後に右限,7年後に左眼に再発がみられた。再発時滲出斑は,初診時滲出斑のみとめられた部位の他,新たな部位にも出現した。再発後の経過は,初回と変らず視力予後は良好であった。症例2では,初回病変は,1ヵ月で自然治癒し,滲出斑に一致した瘢痕形成と夕焼け状眼底の所見がみられた。再発は4ヵ月後左限にみられ,漿液性虹彩炎を伴っていた。症例1はAPMPPEの典型例,症例2はAPMPPEの非典型例あるいは原田病の異型と考えられ,APMPPEは種々の病因によっておこる一症候群ではないかと推測した。

Cockayne症候群(典型例3例と非典型例1例)について

著者: 唐木剛 ,   磯村悠宇子 ,   三宅三平 ,   三宅養三

ページ範囲:P.135 - P.143

 我々は典型的なCockayne症候群3例と典型的とはいえない1例を経験し,全身所見および眼科的所見を報告するとともに,本邦の報告例を主として集めたなかから,典型的なCockayne症候群の眼科的所見の特長について考察した。
 また全身所見では,日光過敏症を重視する必要を述べ,できれば皮膚のfibroblast cultureによる紫外線に対する感受性を検討することが,今後この疾患の本態の解明に役立つと共に,鑑別診断の根拠となる可能性があることを強調した。

先天性外涙嚢瘻—漏涙とその治療

著者: 長嶋孝次

ページ範囲:P.157 - P.161

 先天性外涙嚢瘻に起こる漏涙を止める確かな方法は瘻管の全切除である。フルオレスセイン残留試験と,瘻孔を涙点拡張針でふさいで行う洗浄試験で,鼻涙管に明らかな通過障害が認められなければ,痩管切除が流涙を招くことはない。
 瘻孔に通した通常の涙管ブジーを目標に,瘻管をその基部まで剥離する従来の方法の変法として,鳩日付きの瘻管同定ブジーを作り,これを瘻管に取り付けておくと,その全切除が容易である。本法を3例に試み,いずれも合併症なく,好結果を得ている。

角膜のCrystalline Dystrophy

著者: 矢野眞知子 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.163 - P.165

 角膜のcrystalline dystrophyが43歳の女子と13歳の女子の親子にみられた症例を報告した。母親は角膜混濁部に結晶がなく,円板状混濁を呈する型であるが,娘は典型的な針状の結晶が存在する型であった。角膜の厚さは正常でありspecular microscopeにより観察された内皮細胞は,両者ともに形はほぼ六角形であり,細胞の大きさは正常範囲であった。血液の脂質分析を行ったところ,両者ともにtype II b hyperlipoproteinemiaを示した。

カラー臨床報告

緑内障を合併したRieger's anomalyの2例

著者: 小野秀幸 ,   馬場さえ子 ,   近藤和義 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.151 - P.156

 壮年期に緑内障を発症したRieger's anomalyの2症例を報告した。
 症例1は35歳の女で,両眼同程度に,Schwalbe線の前方移動,幅広い線維柱帯,密生する虹彩突起とSchwalbe線に達する虹彩前葉などの隅角異常が観察された。眼圧上昇は左眼のみであったが,右眼にも眼圧上昇の既往が推測された。
 症例2は52歳の男で,両眼の著明なぶどう膜外反と,周辺虹彩前癒着が認められた。右眼のみに眼圧上昇をきたして,トラベクレクトミーを施行したが,術後1ヵ月頃より眼圧は再上昇した。
 以上の2症例から,Rieger's anomalyに合併する緑内障について,つぎのことが示唆された。すなわち,
(1)緑内障は,生涯のどの時期においても発症しうる。
(2)壮年期に緑内障を発症する症例のなかには.一時期眼圧が上昇した後,自然寛解の経過をとる場合がある。
(3)同一症例では,隅角所見の程度と眼圧上昇との間には密接な関係はない。

手術ノート

初心者のためのKPE手術事故防止ポイント集(2)

著者: 上野山謙四郎

ページ範囲:P.166 - P.167

核の硬さと適応
(1)軟性白内障は危険なので,初心者はさけるべきである。これは従来いわれてきたのと反対に聞えるかもしれない。「初心者はまず軟性白内障で十分経験を積んでから,有核白内障に取掛るべきである」と考えておられる力も多いと思う。しかしEmeryとLittleの教科書(47頁)を見てほしい。彼らは初心者に適当なのはGra—de3のMedium Nucleiであり,Grade1と2はすすめられないとしている。その理由は脱臼操作がむずかしく,この間に後嚢破損を発生しやすいことや,後房法になることが多く,これは技術的に初心者向きでないためとしている。著者も自分の失敗経験から同感である。本当に安全なのは「吸引のみで取れる白内障」であり,これは症例数からいえば少ししかない。
(2)初心者にとって安全な症例は「容易に脱臼できる有核白内障」である。一手前房法にせよ,二手前後房法にせよ,脱臼が旨く行けば手術は半分成功したといえる。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(4)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.168 - P.169

8.馬渕流目伝書
 眼科の流派の中にはその名称だけ伝えられて,その秘伝書等の資料はほとんど見当らないものがはなはだ多い。馬渕流もその一つであるが,筆者の手許にある資料によって馬渕流の一部を窺ってみることにする。
 この写本は延宝9年(1681)1月24日,従学翁の伝えとして書写(方照書之)相伝されたものである。その識語にはおよそ次の様に認められている。

眼科手術学会

Preretinal membraneの手術経験

著者: 大島健司 ,   三根茂 ,   橋本芳昭 ,   緒方質 ,   大平明弘 ,   西村葉子 ,   坂本博士

ページ範囲:P.171 - P.174

 1978年3月から1980年10月までに福岡大学病院眼科にて,8例のmacular puckerの患者に対して,経毛様体扁平部硝子体手術によりpreretinal rnembraneを剥離除去した。術後合併症として1例に鋸状縁離断をみたが,手術により復位した。結果は良好で,7例に視力の改普がみられ,他の1例は不変で,悪化した例はない。術後6カ月以上追跡した結果ではpreretinal membraneの再発はなく,良好な状態である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?