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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科36巻3号

1982年03月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・292

Hintere Krokodilchagrin (Vogt)の1例

著者: 原田敬志 ,   三浦元也 ,   森林平 ,   水野計彦 ,   伊藤桂子

ページ範囲:P.182 - P.183

 角膜dystrophyのうち角膜実質より後部を侵すものについては,日常臨床でもなかなか遭遇できないため,病理学的・生化学的に十分研究されていない。
 今回きわめてまれなhintere Krokodilchagrin (Vogt)の1例を経験したので,その臨床像を紹介し考察を加える。本症を最初に記載したWeizenblattの6例はいずれも両側性で,角膜中央部にある混濁は実質深層に位置し,個々の灰色をした三角形ないし六角形の班から構成され,これはまた6ないし9個集合してロゼットを形成している。刺激症状もなく,あってもほんのわずかな視機能の障害しかみられなかった。Vogtは自内障のある高齢の女性で,やはり敷石様に配列した柔らかそうな灰白色の混濁が濃い間道で境される,デスメ膜近辺の特色ある角膜混濁を認め,狭光東における図でその詳細を説明した。

臨床報告

ベーチェット病の眼発作予知とCRPおよび赤沈について

著者: 難波克彦 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.185 - P.188

 東京大学眼科を受診したベーチェット病患者27例の眼発作59回を対象に,CRP,赤沈,眼外症状,好中球数の変動を調べ次の結果を得た。
(1) CRPは発作前後に上昇し直前最高となるのに対し,赤沈は発作と関係しなかった。
(2) CRPと眼外症状の間に一定の関係はみられなかった。
(3)発作直前CRP上昇か好中球数増加のいずれかがみられたのは81.4%,CRP上昇のみが64.4%,好中球数増加のみは69.5%であった。
(4) CRP上昇後の発作発生率は59.1%で好中球数増加後(65.7%)と類似し,CRP上昇に好中球数増加を伴う場合はさらに高率(81.6%)に発作が発生した。
(5) CRPは好中球数とともに眼発作予知の有力な指標と考えられる。

糖尿病性網膜症とヘモグロビンA1との関係

著者: 半田幸子 ,   高橋祥子

ページ範囲:P.189 - P.195

 糖尿病者51名のヘモグロビンA1(HbA1)と網膜症との関連について検討し,次の結果を得た。
(1) HbA1は測定日から逆のぼって2ヵ月以内の早朝空腹時血糖(FBS)との間にr=0.65,P<0.01で正の相関があった。
(2)糖尿病者のHbA1は9.9±2.34%で網膜症の有無にかかわらず,健常者6.4±0.32%に比べ有意に高かった(P<0.01)。
(3) Scott分類(1953年)とHbA1との関係では,Scott 0〜Ⅱまでを軽症網膜症とし,ScottⅢa以上を重症網膜症としてHbA1平均値を比べると前者8.95±1.86%に対し,後苔10.8±2.38%とp<0.01で有意であった。
(4)単純型,前増殖型,増殖型の病変型分類では前増殖型のHbA1は11.22±1,83%と最も高く,次いで増殖型10.9±2.53%となり,いずれも単純型9.05±1.99%との間にP<0.05で有意差が認められた。更にこれら症例を罹患期間,FBSからみた血糖コントロール良否,肥満の有無,治療法等の因子を考慮して,各々の場合での網膜症の重症度とHbA1との関係を検討すると,増殖型網膜症(前増殖型網膜症を含む)者のHbA1は,単純型網膜症者のそれよりも有意に高かった。
 以上の成績はHbA1の増加がすなわち血糖コントロールの良否が糖尿病性網膜症の進展,増悪に直接関係がある事を示唆している。

黄斑部低形成を合併した先天無虹彩症の一家族例

著者: 高峯英子 ,   田中靖彦

ページ範囲:P.197 - P.201

 3世代7例にわたる常染色体優性遺伝と思われる先天無虹彩症の一家系に,3例の黄斑部低形成を伴った症例を報告した。先天無虹彩症と黄斑部低形成の合併に関し,発生学的見地から考察を加えた。

急性篩骨洞炎に合併した視神経症の1例

著者: 林英之 ,   百枝榮 ,   江浦重治

ページ範囲:P.203 - P.206

 片眼の急激な視力低下をきたし視神経乳頭の発赤腫脹をみた13歳女児の1例においてCT像と超音波像にて論骨洞炎と眼窩内,眼球周四の炎症所見を見出した。同症例に対してステロイドを用いず抗生物質の投与を行った結果,篩骨洞および眼所見の著明な改善を見た。
 CTおよび超音波検査は,副鼻腔炎に合併した視神経症の診断においてきわめて有用と思われた。

色覚検査法の検討(2)—小学生のロダテスト成績について

著者: 安間哲史 ,   高柳泰世 ,   上崎博

ページ範囲:P.207 - P.215

 名古屋市内の市立小学校に在籍する4年生に対して学校用石原式色覚検査表を用いて色覚スクリーニング検診を行い,1表以上誤読した884名(男子807名,女子77名)に対して,ロダテスト検査を施行した。
 その成績を最も診断能力がすぐれていると考えられる判定基準に従って診断し,他の色覚検査成績との比較を行った。
(1)ロダテストは第1色覚異常と第2色覚異常との判別に関しては満足しうる能力を備えていたが,二色型色覚と異常三色型色覚との判別は困難であった。
(2)第1色覚異常では,ロダテストとパネルD−15テストの判定との間に関連を認めたが,第2色覚異常では何ら関連をみいだしえなかった。
(3)第2色覚異常では,ロダテストとランタンテストの判定との問に関連を認めたが,第1色覚異常では関連をみいだしえなかった。
(4)馬嶋試案にしたがって,パネルD−15とランタンテストとを用いて色覚異常の程度を判定すると,その程度が強くなるにつれてロダテストの判定不能例が増加していた。
(5)第1色盲あるいは第2色盲が弱度と判定される率がそれぞれ約20%および15%近くあり,しかも第2色覚異常ではパネルD−15テストとの関連がほとんど認められなかったことから,社会適性検査としてのロダテストの利用価値はほとんどないと思われた。

膿疱性乾癬にみられた前房蓄膿を伴うぶどう膜炎

著者: 山本保範 ,   多田玲 ,   下村嘉一 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.217 - P.221

 皮膚科的に膿疱性乾癬(Psoriasis pustulosa)と確診された47歳男性に,両眼性の虹彩毛様体炎を合併し,右眼に再発性前房蓄膿をきたした症例を経験した。本患者は小膿疱を有する広範な紅斑局面を示す特徴的な皮疹を呈し,発熱,関節痛を伴う膿疱性乾癬として皮膚科にて経過観察中であった。この間に何らの誘因なく突然右眼の虹彩毛様体炎を発症し,治療にもかかわらず,前房蓄膿を認めるに至った。螢光眼底撮影では両眼に脈絡膜由来と思われる色素の異常漏出像を認めた。約1カ月後にはこの虹彩毛様体炎は軽快したが,この後も軽度の炎症の再発があり,約1年後には2度にわたり前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎の再燃を右眼にみた。この6カ月後には左眼にも虹彩毛様体炎が出現するに至り,その後も両眼に時々,軽度の炎症の再発を反復した。
 膿疱性乾癬は皮膚の病理組織像などから,好中球の反応性亢進などの機能的異常が示唆されており,本症例においては前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎の反復がみられたことから,膿疱性乾癬は皮膚粘膜眼症候群として病因論的にBehget病と何らかの関連性が疑われ,今後の検討に興味深いものがある。

水晶体嚢内摘出術後における角膜内皮細胞の変化—第2報前房形成剤の差による影響

著者: 小峯輝男

ページ範囲:P.223 - P.227

 同一方法により水晶体嚢内摘出術を行った78名,134眼を対象とし,前房形成に用いた溶液の角膜内皮に及ぼす影響を検討した。対象を4群に分け,それぞれに生理的食塩水,空気,人工房水,Balanced Salt Solutionを前房形成剤として用い,角膜内皮細胞平均面積と角膜中央厚を経時的に測定した。
 Balanced Salt Solutionを使用した群の角膜内皮細胞平均面積増加率が観察期間を通して有意に小さかった。
 人口房水を使用した群の面積増加率は,観察期間のある時点では統計学的に有意ではなかったが,生理的食塩水,空気を使用した群より小さかった。
 角膜中央厚は4群間に有意差はみられなかった。
 内皮細胞平均面積の変化と角膜中央厚の変化の間には,有意な相関はみられなかった。
 内皮細胞面積の増加率を大きくしないために,前房水に類似の組成の溶液を,前房形成剤として用いることが望ましい。

両眼の水晶体起因性慢性肉芽腫性眼内炎—病理組織学的研究

著者: 猪俣孟 ,   井上透 ,   牛島博美

ページ範囲:P.241 - P.250

 65歳男性の両眼に生じた水晶体起因性慢性肉芽腫性眼内炎を病理組織学的に検討した。
 眼球を摘出した第1眼では,破嚢した水晶体を中心に典型的なzonal typeの肉芽腫性炎症を示し,水晶体嚢内摘出を行った第2眼では,水晶体後嚢の自然破嚢を伴ってマクロファージの浸潤と類上皮細胞結節形成を示し,いずれも水晶体起因性慢性肉芽腫性眼内炎であることが明らかにされた。
 本症の発症には,両眼ともに水晶体の混濁と水晶体嚢の破嚢が関係していることが考えられた。
 水晶体の混濁を伴った原因不明の難治性ぶどう膜炎では,水晶体起因性炎症の可能性を考慮して,できるだけ早急に水晶体全摘出術を行うべきであることを強調した。
 水晶体起因性炎症は病理組織学的には,肉芽腫性炎症であるか否かによって,「水晶体起因性慢性肉芽腫性眼内炎」あるいは「水晶体起因性慢性非肉芽腫性ぶどう膜炎」と呼ぶべきであり,臨床的には臨床所見だけから両者の鑑別は困難であるので,両者を一括して「水晶体起因性炎症」と呼ぶのが妥当であることを提唱した。

間歇性外斜視の過矯正手術後の経過について

著者: 上原雅美 ,   中道明 ,   三木耕一郎

ページ範囲:P.251 - P.255

 間歇性外斜視の過矯正手術例20例の経過を1年間観察し,非過矯正群と比較して次の結果を得た。
(1)術後経過は次の3型に大別できた。(i)早期にもどって外斜に移行するもの,(ii)ゆるやかなもどりを示し,orthophoriaまたはesophoriaを保つ予後良好なもの。(iii) consecutive esotropiaとなるもの。
(2)術後のもどり量は対照群(非過矯正群)に比し,過矯正群の方が大きかった。
(3)1年日の眼位の予後はconsecutive esotropiaの例を除くと明らかに過矯正群の方がよかった。
(4)過矯正手術例が非過矯正手術例に比し予後がよい主因は,術後生じるであろうもどりを手術により予め先取りしていることによると思われた。
(5)過矯正例は眼位の安定が遅く,今後さらに長期の経過観察が必要である。

黄斑部網脈絡膜萎縮に伴った脈絡膜血管新生の症例

著者: 萱沢文男

ページ範囲:P.258 - P.260

 変視症を訴えて来院した58歳男性の両眼底黄斑部にトキソプラズマ症によると考えられる網脈絡膜萎縮巣をみとめ,左眼にはそれに隣接して脈絡膜新生血管膜の存在をみとめた。アルゴン・レーザ光凝固は,有効で3週間後には,新生血管膜は閉塞され,変視症の改善をみとめた。脈絡膜新生血管膜は,トキソプラズマ症の網脈絡膜萎縮に突発する視機能低下の一因として十分留意されねばならないと考えられる。

カラー臨床報告

Geographic helicoid peripapillary choroidopathy類似の1症例—網膜下新生血管の合併

著者: 白川弘泰 ,   内田璞

ページ範囲:P.235 - P.240

 51歳の女性に発症したanterior uveitisとsubretinal neovascularizationとを伴ったgeographic helicoid peripapillary choroidopathyと思われる1例を報告した。anterioruveitisは右眼にのみ認められ,副腎皮質ホルモン点眼薬によく反応し,早期に消槌したことから,病変の活動期における一過性の反応性炎症ではないかと思われた。眼底病巣はステロイドホルモンを初めとする消炎療法に反応せず,本症を変性疾患とする説を裏付けた。subretinal neovascularizationは,脈絡膜変性に起因するBruch膜の破壊の結果生じたものと考えられるが,本症に合併することが少ないのは,本症における変性部脈絡膜血管の閉塞に基づくものと推定される。

手術ノート

初心者のためのKPE手術事故防止ポイント集(3)

著者: 上野山謙四郎

ページ範囲:P.256 - P.257

USチップの位置と動作
(1)手前から瞳孔中心領までは,いわゆる彫刻法で,超音波をかけながら押してもよい。ただし,押してよいのはこの場合だけで,他はすべて固定位置のままで行うこと。
(2)瞳孔領下半分(3〜9時位置)で超音波を掛けるときは,チップは固定したままで行う。

眼科手術学会

網膜剥離の顕微鏡下手術—網膜下液排出法

著者: 出田秀尚

ページ範囲:P.261 - P.265

 顕微鏡下で,6〜25倍の強拡大の下に網膜下液の排出を行うと,十分に排液を行うことができ,しかも排液に伴う合併症を1%以下に抑えることができ,より安全である。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(5)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.266 - P.267

10.眼目秘伝書仙人流
 江戸時代の眼科諸流派は中国明代の眼科を基礎としながらも自己の経験や体験をいかしていろいろと創意工夫した。また,彼らはわずかに他と異なる治療法や薬方を考案すると,それを看板に一流一派を樹て,何々流と自称し互に門戸を張っていたものが常であるが,中には他の流派の治療術等良い所を採り入れて一つの門派を興したものもある。仙人流はそうした他流派抜萃型の一流派ということができよう。
 仙人流の眼科を伝えるものに「眼目秘伝書仙人流」という秘伝書がある。その初葉に『此一巻ノ書ハ目嶋,家里,山岡,清源其外諸流ノ抜書也』とあり,仙人流はそれら諸流派の優れている点を抜萃して一書となし,仙人流の秘伝書としたものと考えられる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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