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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科37巻4号

1983年04月発行

雑誌目次

特集 第36回日本臨床眼科学会講演集 (その4) 特別講演

小児眼科:先天白内障を中心として

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.431 - P.446

 先天白内障は視性刺激遮断として発達期の視覚系に影響を及ぼし,片眼先天白内障ではform vision deprivation amblyopiaを,両眼先天白内障ではsensory defect typenystagmusをもたらす。視性刺激遮断の感受性は生後2カ月ごろより急激に増加し,6カ月より24カ月までは強くその後しだいに減少するが,10歳あるいはそれ以上まで感受性はみられる。このことより,片眼先天白内障では生後4週以内に手術を行い,可及的早期(4日以内)にコンタクトレンズによる無水晶体眼の矯正,健眼遮閉を施行する。両眼先天白内障では8週以前に手術を施行し,左右眼の手術間隔はできるだけ短くし(3日以内),可及的早期(5日以内)にコンタクトレンズによる無水晶体眼の矯正を施行し,眼鏡装用ができるようになれば,できるだけ早く眼鏡装用にきりかえる。今回の研究においてこのような治療の中での最も難問は,無水晶体眼の矯正にあることが明らかとなった。
 すべての治療が視性刺激遮断の感受性期に施行される関係上,手術の適応を含め,術後視力の評価,健眼遮閉による遮閉弱視の予防のためには,PL法による視力評価が重要である。

学会原著

虹彩ルベオーシスの臨床的検討—前眼部蛍光造影を中心として

著者: 山秋久

ページ範囲:P.447 - P.451

 早期ルベオーシス眼28眼,高度ルベオーシス眼10眼の虹彩ルベオーシス所見につき検討した。
 細隙灯顕微鏡で発見しがたい微細なルベオーシスも虹彩螢光撮影で発見可能であった。
 早期ルベオーシス眼の瞳孔縁出現部位は上方縁に多い傾向にあった。
 ルベオーシス眼には広範な無血管帯・乳頭新生血管が高率に合併していた。
 早期ルベオーシス眼の光凝固療法は71%に有効で,特に瞳孔縁のみにルベオーシスが見られた例にルベオーシスの消褪をみた例があった。褐色虹彩においても,虹彩螢光撮影によるルベオーシスの早期発見は可能で,その臨床的意義は高いものと思われた。

中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の病像の検討

著者: 湯沢美都子 ,   若菜恵一 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.453 - P.459

 筆者らは11症例の中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の経過観察を行い,本症の初期病変および病像の進展形式を検討し以下の結論をえた。
(1)検眼鏡および螢光眼底造影で最初にみとめられる本症の異常所見は黄斑部の粗な顆粒状の色素上皮の萎縮である。
(2)粗な顆粒状の色素上皮の萎縮病巣が密になり,拡大してある程度の大きさになると,病巣内に1個ないし数個の小さな境界鮮明な色素上皮一脈絡膜毛細管板萎縮病巣が出現する。
(3)その色素上皮—脈絡膜毛細管板萎縮病巣は色素上皮の萎縮病巣内で拡大・癒合しながら進行し,萎縮の程度も徐々に進行する。錐体の機能障害も徐々に進行する。
(4)最終的には色素上皮の顆粒状の萎縮病巣のみとめられた部に一致して,高度の網脈絡膜萎縮病巣(脈絡膜大血管は保たれる)が形成される。

ぶどう膜炎における角膜内皮細胞

著者: 岩下正美 ,   川俣達男 ,   長谷見通子 ,   浜田嶺次郎

ページ範囲:P.461 - P.466

 寛解期におけるぶどう膜炎患者(ベーチェット病10例,原田病8例,サルコイドージス5例)のspecular microscopeによる角膜内皮細胞の撮影と角膜の厚さの測定を行い,ぶどう膜炎患者の内皮細胞面積と臨床所見について検討し,次の結果を得た。
(1)ぶどう膜炎全体の角膜内皮細胞面積,角膜の厚さは正常群との間に有意差がなかった。
(2)ベーチェット病,原田病,サルコイドージスの三者において,角膜内皮細胞面積,角膜の厚さに有意差は認められなかった。
(3)サルコイドージスでは角膜内皮細胞面積に,前房内炎症の経過に一致して左右差を認める症例が存在した。
(4)角膜内皮細胞面積と年齢,罹患期間,視力,発作回数,眼圧との相関について検討し,ベーチェット病では視力,原田病では年齢との相関が認められた。
(5)前眼部ぶどう膜炎における虹彩毛様体炎は角膜内皮細胞に対し,形態的,機能的な影響をほとんど及ぼしていない事が判明した。

Vogt—小柳—原田病にみられた視神経炎,網膜色素上皮下出血およびElschnig's spot様瘢痕形成

著者: 吉岡久春 ,   杉田隆 ,   永浜正浩

ページ範囲:P.467 - P.475

(1) Vogt—小柳—原田病発病時,視神経炎を合併することを確認した。このことは本病の視力予後を推定するのに意義がある。
(2) Vogt—小柳—原田病経過中に脈絡膜毛細血管閉塞によるElschnig's spot様瘢痕形成がみられたこと,abnormal choroidal perfusionがみられることなどから,本病とacute posteriormultifocal placoid pigment epitheliopathyとが混同される可能性がある。
(3) Vogt—小柳—原田病経過中に脈絡膜新生血管を伴わない網膜色素上皮下出血がみられたことは脈絡膜毛細血管の異常透過性亢進の存在が示唆され,本病にみられる網膜剥離の発生機序は脈絡膜毛細血管の異常透過性亢進による網膜色素上皮細胞の二次的変化による外血液網膜柵の破綻によることを暗示する。

非ステロイド性消炎剤flurbiprofen水性点眼剤の術後眼内炎症に対する効果—フルオロフォトメトリーによる定量的検討

著者: 新家真 ,   高瀬正弥

ページ範囲:P.477 - P.481

 0.1%flurbiprofen水性点眼液の白内障全摘出術後における抗炎症効果を術後6日目にfluorescein内服法により定量的に検討した。すなわち術後眼における前房内および血漿中のfluorescein濃度を経時的に測定し移行方程式にあてはめて,見かけの虹彩透過性係数(k'dpa)および房水流量係数(k'fa)を算出し,前者を血液房水柵透過性の定量的指標として採用した。
 白内障全摘出術後従来の点眼療法のみを行った13例と,手術3,2,1および0.5時前と術後1日4回のflurbiprofen点眼を追加した10例におけるk'dpaの値は,各々0.050±0.055hr−1(平均±S.D.)および0.014±0.007hr−1であり,後者の値は前者に比べ有意に低かった(Mann-Whitney U-test,p<0.01)。
 以上の結果より,flurbiprofen点眼は白内障術後の消炎剤として極めて有効であると結論された。

眼底白点症—暗順応遅延の時定数による検討

著者: 岡本道香 ,   岡島修 ,   飯島裕幸 ,   新家真

ページ範囲:P.483 - P.487

 典型的な眼底像を示す眼底白点症3例を対象として諸検査を行い,停止性と考えられることを示した。暗順応機能の評価には最終閾値および時定数を求めるべぎことを論じ,暗順応曲線第2相の時定数をコンピューターにて1次の指数関数に近似することにより求めた。
 眼底白点症では最終闘値は正常であったが,時定数は正常人の3.4倍から6.6倍と大きく,本症における暗順応障害にロドプシン再生遅延が関与していることを明らかにした。
 網膜色素変性症では最終閾値は上昇していたが時定数は正常人と差異はなかった。

網膜疾患の電気生理学的分析—黄斑部疾患での応用(その2)

著者: 若林謙二 ,   河崎一夫 ,   米村大蔵 ,   真舘幸子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.489 - P.494

 後極部に卵黄様の病変を呈する4症例をERGとEOGによって検討した。
(1) Best's macular dystrophyの症例ではERGの律動様小波は正常であったが,EOGL/Dは著しく低下し,高浸透圧応答も正常下限未満に低下し,網膜色素上皮の障害が示唆された。
(2) Best's macular dystrophyあるいはfoveo-macular vitelliform dystrophyのadult type (Gass,1977)と思われる症例ではERGのoff応答急峻部は正常であったが,EOGL/Dは著しく低下し,高浸透圧応答およびDiamox応答も正常下限ないしは正常下限未満に低下しており,網膜色素上皮の障害が示唆された。
(3)黄斑部出血の症例ではERGのoff応答急峻部およびEOG L/Dは正常であった。
(4) Choroidal ostcomaの症例ではERGおよびEOG L/D、高浸透圧応答,Diamox応答はすべて正常範囲内にあった。

Fundus perimeterによる乳頭黄斑間の網膜感度—強度近視眼について

著者: 滝澤恵美子

ページ範囲:P.495 - P.501

 強度近視の黄斑部機能を調べるために,眼底直視下視野計を用い,屈折度−6.25〜−27.0Dで10〜65歳の強度近視患者77名101眼について乳頭黄斑問の網膜感度を測定した。その結果,
(1)豹紋状眼底のみの視力良好なものでも,正常眼にくらべ,乳頭黄斑問の網膜感度の低下が認められた。
(2)豹紋状眼底のみで視力不良なものおよびび漫性網脈絡膜萎縮を呈するものは,ともに豹紋状眼底のみで視力良好な強度近視眼に比し,網膜感度は低下していた。
(3)近視性コーヌスは,全例暗点となっていた。眼局性網脈絡膜萎縮巣のうち,螢光眼底造影像で脈絡膜毛細血管板の消失があるものでは暗点となり,網膜色素上皮の障害のみのものでは,網膜感度の軽度の低下がみられた。
(4)中心窩における視覚の寄せ集め現象について検討した結果,正常眼と視力良好な豹紋状眼底の強度近視眼との問に差は認められなかった。しかし小視標における閾エネルギーは,強度近視眼の力が高い傾向で,31.5'以上の大きな視標ではその差がわずかであった。

中心性漿液性脈絡網膜症の視機能—主として100—Hue Testについて

著者: 北原健二 ,   環龍太郎 ,   野地潤 ,   神立敦

ページ範囲:P.502 - P.506

 中心性漿液性脈絡網膜症の回復過程ならびに残存する色覚障害の性質の観察を目的として,Farnsworth-Munsell 100—hue test (F-M100)とNagel I型Anomaloscopeにより経過観察を行った。F-M100の判定は総偏差点と前回報告した関数A (N)により行い,パターンの2極性の度合と性質の変化について検索した。
 その結果,(1) anomaloscopeによる異常比(A.Q.)の変動は眼底所見ならびに自覚症状と相関がみられたが,F-M100の総偏差点の変化はA.Q.および臨床所見との間に良い相関は得られなかった。
(2)健眼に比較し,軽度ではあるが長期にわたり色相識別能の障害が残存した。
(3)全経過を通して,F-M100のパターンは2極性を有し,長期にわたり後天性青-黄異常の性質を呈した。

糖尿病性網膜症とプロスタグランディン—トロンボキサンA2,プロスタサイクリンについて

著者: 二木むつ ,   大塚裕 ,   野々村裕子 ,   石川清

ページ範囲:P.511 - P.515

糖尿病性網膜症の発症進展に対するトロンボキサンA2(TX.A2),プロスタサイクリン(PGI2)を中心とし,あわせて血小板凝集能,BUN,過酸化脂質の関与を考え,正常者および糖尿病患者について測定検討を行った。(TX.A2はTX.B2を,PGI2は6—keto—PGFをマーカーとして測定した。)
(1) TX.B2は糖尿病群で上昇し,中でも背景網膜症群で著しく,網膜症の発症進展に何らかの関与をしているものと考えられた。
(2)6—keto-PGFは糖尿病群で高い傾向を示した。(3) TX.B2と6—keto-PGFは糖尿病群,および網膜症(+)群で正の相関関係がみられた。
(4)血小板凝集能は網膜症(—)群で高い傾向を示したが有意差なく,TX.B2および6—keto-PGFとの明らかな相関は示さなかった。
(5) BUNは増殖性網膜症群で有意の上昇を示した。
(6)過酸化脂質(MDA)は差がなかった。

学術展示

立体視検査における単眼情報の介入度

著者: 今井済夫

ページ範囲:P.516 - P.517

 緒言両眼視機能を見る上で,立体視検査は不可欠の検査である。立体視検査法においては,基本的には両眼単一視下においてのみ立体的に見え,単眼情報だけで正解が得られてはならない。しかし,現在一般に行われている立体視検査においては,単眼視下で立体感が得られたり,単眼情報により正解を得られることがある。そこで,Titmus Stereo Test, TNO Stereo Test, FrisbyStereo Testにつき単眼情報の介入度につき調査し検討した。
 方法視力,眼位に異常なく両眼同時視を有する30名の被検者(18歳〜28歳)に以下の検査を,両眼視下,単眼視下の順で行った。(1) Titrnus Stereo Test,(2)TNO Stcreo Test,(3) Frisby Stereo Test。

乳頭血管炎・絶対緑内障を呈した眼内悪性リンパ腫の1例

著者: 大木孝太郎 ,   蒲山俊夫 ,   畠山信 ,   鈴木光

ページ範囲:P.518 - P.519

 緒言眼球内に悪性リンパ腫が発生することは極めて稀である。今回我々は乳頭血管炎様症状にて初発し,絶対緑内障に陥り,眼球摘出の結果,眼内悪性リンパ腫と診断された1例を経験した。
 症例症例は64歳女性,家族歴・既往歴に特記すべきことなく,飛蚊症・視力低下のために近医を受診したところ,うっ血乳頭を指摘され当院を紹介された。初診時の視力・眼圧は表1,眼底所見,螢光眼底所見は図1・図2に示す。視神経乳頭の浮腫,静脈の著明な拡張が認められ,視神経乳頭のhyperfluoresceinおよび主幹静脈血管壁のfluoresceinによるstainingも見られる。全身的には異常所見は認められなかった。ただちにステロイド治療を開始したが症状は悪化の一途をたどり(図3・図4),初診から5カ月後には,視力は光覚(—)となり網膜剥離を来たし,さらに著しい硝子体混濁のために眼底は透見不能となった。初診から6カ月目に眼圧が上昇し,絶対緑内障に陥り,やむなく眼球摘出を施行した。

アルゴンレーザーによる開放隅角緑内障の治療

著者: 三木弘彦 ,   平山優子 ,   板垣洋一 ,   米田宗道

ページ範囲:P.520 - P.521

 開放隅角緑内障に対し近年laser光による新しい治療が試みられている。これは1973年Krasnovのruby las—er光によるgoniopunctureに始まる。1973年Hagerが初めてargon laser光を用いて開放隅角緑内障に対して線維柱帯網に強い凝固を加えて眼圧をコントロールしようと試みた。これらは隅角に強い光凝固を行ったもので眼圧下降効果は一時的であった。ところが,1979年Wise1,2)によりレーザーによる開放隅角緑内障の治療には弱いargon laser光凝固が良いとし,その光凝固条件は0.1sec,50μ,1,000〜1,500mW,80〜120発,前房隅角の全周と決めて以来,眼圧下降効果を認めるいくらかの追加報告がみられた。本邦でも白土3),田辺4)の報告がある。本治療法の成否の大きな一つのポイントはlas—er光凝固条件にある。今回,我々はWiseの光凝固条件よりさらにlow powerのエネルギー条件で1978年12月以来19例28眼に隅角に光凝固を行い3カ月〜約3年間経過観察を行った所,十分に眼圧下降成果が得られることが分ったので報告する。

発育異常性緑内障の早発型と晩発型の遺伝型式に関する比較検討

著者: 武内邦彦 ,   早川むつ子 ,   藤木慶子 ,   加藤和男 ,   中島章 ,   百瀬皓

ページ範囲:P.522 - P.523

 緒言順天堂大学眼科および臨床眼科研究所付属病院を受診した69例の早発型および45例の晩発型発育異常性緑内障に関し遺伝学的検討をした所,両者に差を認めたので報告する。
 結果および考按調査対象(表1)は1961年〜1982年6月の22年間に当科を受診した他の先天異常の合併がなく続発性でない69例の早発型(発症は3歳以前,90%は1歳未満)と1978年以降現在まで順大眼科および臨床眼科研究所で経過観察中の晩発型45例(発症は4〜36歳,平均21±7歳)で,男対女は早発型1.5:1(P=0.12)晩発型1.4:1(P=0.30)と共に有意ではないが男子に多かった。各型両親の近親婚分布,平均近交係数およびいとこ婚率は(表2)の様で,早発型ではいとこ結婚の他に2例の近親婚があった。今泉ら1)による一般集団中の結婚年別近親婚分布と本研究の患者両親の結婚年より加重平均をとり,一般集団中のいとこ結婚率を求めると早発型2.9%に対し1.3%,晩発型8.9%に対し4.2%と共に約2倍一般集団より高率だが有意な差ではなかった。しかし中島ら2)の過去2回の盲学校調査では早発型831名中,両親のいとこ婚率は21.1%であった。

眼窩外傷に対するCT検査

著者: 北庄司清子 ,   難波彰一 ,   泉谷昌利 ,   中田蘭子 ,   大沢英一 ,   松山道郎

ページ範囲:P.524 - P.525

 緒言眼窩外傷の診断に際し,従来,単純X線撮影法,断層撮影法および血管造影法などが主な手段であったが,近年CT (computerized tomography)検査が開発され,眼窩領域に応用されて以来,より詳細な情報を得ることが可能になった1,2)。今回,鈍的外傷3)および異物外傷の症例を対象にCT検査の有用性を検討したので報告する。
 症例代表例6症例を示す。

後部強膜炎の2症例

著者: 小野田和成 ,   白井正一郎 ,   鎌尾憲明 ,   下川真貴子

ページ範囲:P.526 - P.527

 緒言後部強膜炎は1902年Fuchs1)が初めて報告したが,その後報告例は極めて少なく,その診断の困難さをうかがわせる。しかし,1970年代後半以降急激に症例数が増加していることに注目される。この増加の理由は主に検査手技の向上,すなわち螢光眼底造影,CTスキャン,さらに超音波検査による本症の病像がようやく明らかにされてきたことにあると考えられる。我々は病型の異なる2例の後部強膜炎を経験したので,その臨床所見を報告する。
 症例1:14歳男子。1979年3月右眼疼痛,充血で発症。その後網膜浮腫,乳頭浮腫(図1a)をきたし,眼球運動障害,軽度の眼球突出も出現。CTスキャン(図1b)で眼球後壁の肥厚を認めた。これらの所見から後部強膜炎と診断し,ステロイド剤内服を行ない症状は改善した。約3年後の1982年4月,右眼痙痛,充血を再発。急激な視力低下とともに黄斑部を含む眼底後極部に境界明瞭な漿液性網膜剥離をきたした(図2)。螢光眼底造影では初期から中期にかけて点状,斑状の螢光が出現し,後期には剥離部に螢光色素の貯留が認められた(図3)。血沈亢進,抗DNA抗体陽性のため全身検査を行ったが,若年性関節リウマチ等の異常はなかった。今回もステロイド内服で諸症状は軽快した。

視方向による他覚屈折度の変化

著者: 牧野弘之 ,   魚里博 ,   西信元嗣 ,   中尾主一

ページ範囲:P.528 - P.529

 緒言他覚屈折検査は,本来,視線上の屈折度を測定することが望ましい。しかし,最近の高性能の他覚屈折度測定器は眼球視線と測定器光軸が多少不一致でも測定可能である。このような実際の使用上で起りうる誤差を評価するため,測定方向が視線と上下左右それぞれ2°−6°の方向誤差を与えた時の他覚屈折度測定を行うことにより,得られる測定値にどのような変化を及ぼすか統計分析を行った。
 実験方法①実験対象は高等看護学院生,1学年全員の約60名。②視標面300lux。③測定器はCanon AutoRef R−1®を用いた。④視覚目標は視距離30cmの位置に図1に示すような4方向にそれぞれ中心より2°,4°,6°の位置に3.5ポイントの数字を配した。0の位置は器械光軸上に位置するよう設置。⑤検者の指示により数字目標を固視させた。測定は0,1,2,……,12と行い,それぞれ3回反復測定し,各測定を行う前に,その都度0を固視させ原点位置の確認を行い測定した。⑥得られたデータを統計分析した。

不同視弱視のpattern reversal VEP (抄録)

著者: 大関尚志 ,   木村素子

ページ範囲:P.530 - P.530

 緒言不同視弱視は臨床上しばしばみられる。著若等は弱視治療により改善した不同視弱視についてPat—tern reversal VEPを検査し興味ある結果をえたので報告する。
 方法テレビパターン発生装置(クレアクト)上に視覚12.6°の円形視野,平均輝度16.7cd/m2,コントラスト50%,チェックサイズ24'の条件で黒白市松模様を反転頻度2.4Hz,4.8Hz,9.6Hz,15.0Hzの時間周波数についてsineおよびsquare変調により刺激した。視野の中心に小さな固視目標を定めた。関電極を外後頭隆起に不関電極を両側結合耳朶に置き両側結合乳様突起を接地した。1%サイクロペントレートを点眼し調節を除去し検影法により他覚的屈折度を測定し最良の自覚的屈折度を求めた。1mの距離で検査した。時定数0.3秒,高周波除去フィルターは用いなかった。シグナルプロセッサー7T08(三栄側器)により分析時間400msで68回平均加算を行った。えられたアナログ波形(時間領域データ)をサンプリングタイム0.78msecで高速フーリエ変換(FFT)によりpower spectrum (周波数領域データ)を求めた。このpower spectrumのfundamental2nd,……nthのharmonic cornponentsについて加えpow—erとした。このpowerの平根を求めて振幅とした。

色覚異常により発見された染色体異常(睾丸性女性化症)の一家系

著者: 安間哲史 ,   市川宏 ,   成田収

ページ範囲:P.531 - P.531

 女性の色覚異常者は男性の約20分の1とその頻度は少ないが,遺伝学的にみて興味深い家系に時々遭遇する。今回報告した家系は,就職のための色覚検査を希望して来院した色覚異常の女性を発端者として発見された染色体異常(睾丸性女性化症)の一家系である。
 発端者は25歳の女性であり,色覚検査を希望して当科を受診した。色覚検査成績は典型的な第2色盲であったが,父親の色覚が正常であり,また本人が無月経であったことから染色体検査を施行した。結果は46XYであり,睾丸性女性化症に色覚異常を合併した症例と結論された。家系調査を施行すると,発端者の妹にも睾丸性女性化症と色覚異常の合併をみた。また,発端者の祖叔母は色覚異常を伴わない睾丸性女性化症であった。

連載 眼科図譜・305

視神経乳頭過誤腫を伴った結節性硬化症の1例

著者: 桐渕和子 ,   丸山博

ページ範囲:P.428 - P.429

 本症(Burneville-Pringle母斑症1))は1880年に初めて報告され,常染色体優性遺伝を示す代表的な神経皮膚症候群の一つである。近年その診断は顔面皮脂腺腫,痙攣発作,精神運動発達遅滞という従来の三大主徴に加え,CTや検眼鏡的に頭蓋内石灰化および眼底病変を直視することに重点がおかれるようになった。発生頻度は一般人口10万人に対して数人のorderとされるが,網膜腫瘍,Van der Hoeveのいわゆるphakomaがしばしば経験されるのに対して,乳頭腫瘍は本邦では極めて稀であり,parapapillar veilとして病変が視神経乳頭に波及したものを除外すると,広瀬・永江2),石田3)による当時の眼底スケッチの記載をみるのみである。今回自験例70数例を検討した中より,1例に同所見がみられたので報告する。
 症例:8歳,女子。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(16)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.532 - P.533

25.豁開活眼睛
 わが国最大の眼科流派といわれる馬嶋流眼科については既に多くの研究者によって今日その全貌が次第に明らかにされてきているが,その秘法,秘伝書などの深奥を探究するにはなお相当な時間が必要とされるようである。
 一子相伝の形で受継がれてきた眼科秘伝書は大抵の場合,各々流派の流儀保持のため師弟,門弟以外には固く秘していたので秘伝書に他の諸流派の伝法,秘法,流儀などを全面的に採り入れて作成されたものは数少ない。「豁開活眼睛」は眼科秘伝書の中でも,そうした他の諸流派の妙術を多数採り入れ,その内容をより豊かにしている珍書の一つである。「豁開活眼睛」を紹介するに当って,そうした作者の意を端的に示しているのが本書の序文であると思う。以下その序文を掲げる。

臨床報告

外傷性毛様体解離

著者: 田原昭彦 ,   大西克尚 ,   吉富健志

ページ範囲:P.535 - P.541

 眼球に鈍的外傷を受けて毛様体解離を起こしたために,低眼圧となって視機能に障害を来たした3症例を経験し,このうち解離部の自然閉鎖が見られなかった2例に毛様体解離部のジアテルミー穿刺凝固を行って症状の改善を得た。これら3症例の臨床経過を報告した。また,隅角の断裂に対する用語の整理を試みた。隅角鏡検査で毛様体帯の幅が広く観察される状態を隅角後退(angle recession)とし,この状態を臨床像を考慮して二つに分類した。すなわち,隅角鏡的に毛様体に深い断裂が確認され,かつそのために低眼圧を起こしている場合を毛様体解離(cyclodialysis)と呼び,低眼圧を伴わない隅角後退を隅角離断(goniodialysis)とした。そして外傷性の毛様体解離についてその臨床症状を論じるとともに,解離部のジアテルミー穿刺凝固術が手技が簡単で,安全かつ確実であり,毛様体解離の外科的治療にあたっては積極的に選択されるべき術式であることを強調した。

朝顔症候群における後極部網膜血管および黄斑部の異常

著者: 山名敏子 ,   西村みえ子

ページ範囲:P.543 - P.547

(1)朝顔症候群8眼の眼所見を観察した。乳頭周囲輪の大きさを測定し,乳頭領域,後極部網膜血管,黄斑部の状況を比較検討した。(2)乳頭周囲輪が比較的小さい症例は,乳頭面上の白色組織は少なく,乳頭周囲の網脈絡膜障害の程度は軽く,後極部網膜血管の走行は正常に近く,黄斑部の形成は良好であった。また乳頭周囲輪が大きい症例は乳頭面上の白色組織は多く,乳頭周囲の網脈絡膜障害の程度は強く,後極部網膜血管は直線的走行を示すものが多かった。また正常の黄斑部は形成されておらず,乳頭から耳側にかけて偏位した黄斑部と思われる黄色部分が認められた。(3)以上より朝顔症候群では,形成異常の程度が著明な場合には黄斑部をも含めた乳頭周囲の網膜が比較的広範囲に障害されるものと思われた。

眼瞼に発生した毛母細胞腫—12例の臨床病理学的検索

著者: 石橋達朗 ,   佐藤渉 ,   猪俣孟 ,   石川祐二郎 ,   今山修平

ページ範囲:P.549 - P.554

 九州大学医学部限科および皮膚科において最近11年間に経験した12例の眼瞼の毛母細胞腫について,臨床的および病理組織学的に検討した。
 本腫瘍の発生は9歳までが3分の2を占め,また女性が男性の3倍であり,すべて上眼瞼にみられた。大きさは直径10mm前後の硬い腫瘍で,皮膚との癒着は認められるが,下部組織との癒着はなかった。
 病理組織学的には好塩基細胞と陰影細胞からなる特徴的な病像を呈し,4分の3の症例に石灰化を伴っていた。また1例には類表皮嚢胞との合併がみられた。
 発生起源としては,成熟した毛母細胞より発生すると考えるより,毛母細胞への分化を示す未熟な上皮芽細胞より発生すると考えられた。

ソフトコンタクトレンズのベースカーブ選定への考案

著者: 後藤順藏 ,   水谷豊

ページ範囲:P.555 - P.559

 ソフトコンタクトレンズの処方にあたり,角膜周辺部の曲率半径を直接測定し,その測定値よりレンズのベースカーブを選定するシステムを考案した。このシステムは細隙灯顕微鏡前部に,ターゲットリングを描いた円筒を装着し,角膜limbusより0.8〜1.6mm内側の領域の反射によるターゲットリングの反射像をポラロイド撮影したのち,このポラロイド写真上の反射像の大きさより角膜の曲率半径を把握し,レンズのベースカーブを選定する方法である。1981年11月より,このベースカーブ選定システムで53名106眼にソフトコンタクトレンズの処方を行い,従来のophthalmometerによるベースカーブの選定法に比し,処方の簡便化をはかることができ,また,その後の装用成績に良好な結果が得られたことから,このシステムは一般臨床家にとって有効であると考える。

眼科手術学会

ヒアルロン酸使用によるサル眼線維柱帯切除術における実験的研究(予報)

著者: 清水公也

ページ範囲:P.561 - P.564

(1)カニクイザル16頭に線維柱帯切除術を施行した。1眼にピアルロン酸ナトリウム,他眼に生理的食塩水を用いた。手術中および術後の合併症には,特に差は認められなかったが,ヒアルロン酸ナトリウム使用眼では術後の前房が深く形成された。
(2)術後の眼圧経過では,術後2〜8週ではヒアルロン酸群が生食群に比し,やや低い傾向を示したが,13週以後では有意差がなくなった。
(3)手術を行った全例において,角膜混濁・虹彩炎・白内障などの異常な所見は認められなかった。

GROUP DISCUSSION

小児眼科

著者: 湖崎克

ページ範囲:P.565 - P.568

1.結膜アレルギーにたいする点眼減感作治療の試み
 目的:結膜アレルギーにたいする治療としてはステロイド治療がおもに行われているが,重大な副作用として知られている。気管支喘息などで実施されている減感作療法は手技が繁雑である。
 ハウスダストの凍結乾燥末をグルタルアルデヒドによって変性させ,これを1%コンドロンに添加して1日4回点眼させた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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