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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科37巻5号

1983年05月発行

雑誌目次

特集 第36回日本臨床眼科学会講演集 (その5) 学会原著

糖尿病性網膜症と血清脂質

著者: 吉田秀人 ,   坂田広志 ,   河内英子 ,   佐久間修

ページ範囲:P.579 - P.583

 糖尿病127例と対照80例について,脂質化学的分析,および血清リポ蛋白質の電気泳動を実施して,次の結果が得られた。
(1)中性脂肪値,総コレステロール値と糖尿病性網膜症の進行との間には,相関がみられなかった。
(2)糖尿病に高脂血症の頻度が高かったが,網膜症の進行とは相関がみられなかった。
(3) midband Lpを糖尿病では76.4%,対照では42.5%に検出し,糖尿病性網膜症が進行すると,その出現頻度が増加し,2本以上の縞をもつmultiple midband Lpを認めるものが多くなった。このようなリポ蛋白質の異常は,網膜症の進行と関連があるのではないかと考えた。

単純型糖尿病性網膜症における網膜機能の多角的検討

著者: 後藤修 ,   市川一夫 ,   矢ヶ崎克哉 ,   太田一郎

ページ範囲:P.585 - P.590

 インスリン非依存性糖尿病患者に網膜機能の層別検討を試みた。検査項目は網膜電図律動様小波,眼球常存電位の高浸透圧反応,青の感度,transient tritanopia effectおよびvitreous fiuorophotometryである。すべての検査で異常の程度は網膜症の進行と平行する結果を得た。また,検眼鏡所見で点状出血を認めない時期に,すでに網膜色素上皮層の機能異常を示すにもかかわらず,内層の機能異常が認められない症例が存在した。さらに,この時期では内層機能の異常の強いものと軽いものの間に外層機能の障害に差を認めなかった。このことから網膜の内層と外層に異常をきたすメカニズムに相異があるのではないかと推測した。

両眼開放視野の研究—その2緑内障における頭位変換視野計測について

著者: 小山哲郎 ,   深見えり子 ,   鈴村昭弘

ページ範囲:P.591 - P.596

(1)接眼部光学系を回転し,体位および頭位変換を可能とした両眼開放視野計AS II Aを使用し,正常者, P.O.A.G.,高眼圧症について頭位を正面位と60°うつ向位にしたときの視野変化について検討した。
(2)正常者の結果は両頭位のイソプター面積比に変化なく,うつ向頭位に視野の下方偏位を有意に認めた。P.O.A.G.,高眼圧症ではうつ向頭位の面積比に縮小傾向が見られたが有意差はなく,下力偏位は認めなかった。マ盲点にはいずれの例も面積比,偏位度に有意な変化は見られなかった。
(3)高眼圧症では,60°うつ向位にてイソプター沈下,暗点の出現を示したA群と,これらの変化は示さなかったが,正常者に見られた視野下方偏位を認めなかったB群,および下方偏位を示したC群が認められた。これらの群で,A, B群は将来P.O.A.G.へ移行する可能性が高いのではないかと思われた。

緑内障眼におけるマ盲点の分析

著者: 井上洋一 ,   井上トヨ子

ページ範囲:P.597 - P.602

 原発緑内障のBjerrurn領域における視野異常は,視神経線維束の障害として捉えられているが,その線維束の走行における視野異常,ことにマ盲点周囲の異常は興味がもたれるところである。今回,マ盲点を中心に2°間隔,66測定点を配置したプログラムを川い,CPブラケット(OCTOPUS)により,正常および緑内障眼のマ盲点の分析を行った。
 対象は高眼圧54眼および早期緑内障196眼計250眼で,正常眼53眼を対照とした。視野の程度により群(マ盲点部分的露出,マ盲点露出(I−2沈下),孤立暗点,鼻側階段および鼻側狭窄)に分別し,マ盲点の大きさおよびその周囲を,上・下・その他の3部に分け,その感度分布を調べた。
 正常マ盲点のdBポイント数(ポ数)を示すと,0 dBポ数は3.4±1.47,0〜9 dBポ数6.3±2.51,10〜19dBポ数は2.3±1.54であった。
 高眼圧54眼では,予想に反して,マ盲点上部にのみ,196の危険率で感度低下の拡大がみられた。近い将来,緑内障へ移行する例が含まれており,早期緑内障と高眼圧の鑑別が,あらためて難しい問題であることがうかがわれた。
 正常GPの緑内障眼では,マ盲点上部に有意の感度低下がみられた。ことにPOAGでは,マ盲点自体の拡大が有意に検出された。

緑内障視野の進行因子の検討

著者: 湖崎弘 ,   稲葉昌丸 ,   中谷一 ,   藤谷博行 ,   恵美和幸 ,   飯塚修三

ページ範囲:P.603 - P.606

 我々は原発性緑内障100眼の視野を3年間観察し,悪化進行因子を検討した。眼圧以外の因子は統計的に有意の相関関係をえられなかった。I−3イソプターの視野変化率(△S)とP (眼圧,mmHg)×t (期間,月)とのあいだに相関関係を認め△S=−0.473(P×t)180.7なる関係式をえた。またIII期のV−4の変化と,(P-Pmean)×tの間にも有意の相関をみた。

緑内障視野進行に伴う乳頭変化の検討—第I報初期緑内障例

著者: 大久保潔 ,   溝上国義

ページ範囲:P.607 - P.612

 緑内障早期の視野障害の進行と乳頭変化との相関について検討を行った。対象は初期原発性開放隅角緑内障で,(1)同一眼で平均8年1ヵ月に及ぶ追跡中に初期視野障害の発現または進展を認めた4例4眼,(2)同一症例で視野障害の程度に左右益を認める24例48眼である。
 視野障害と陥凹変化との相関の検討にあたっては,神経線維の走向を考慮し,乳頭ならびに視野を各々上下に2分割して検討した。陥凹変化の検討にあたっては,陥凹乳頭面積率(C/D・A)を用いた。
 その結果,Goldmann視野障害検出に先行して,陥凹の拡大が生じる時期があり,視野障害検出までに,約20%のC/D・Aの増大を要し,陥凹の拡大は,全方向に均等に起こる事を示した。
 これらは,神経線維がび漫性に脱落していく時期である可能性が考えられた。

低眼圧緑内障のステロイド反応

著者: 玉田康房 ,   笹森秀文 ,   森敏郎 ,   田沢豊

ページ範囲:P.613 - P.617

 いわゆる広義の低眼圧緑内障とされている症例の中には健常眼圧を越えた真の低眼圧緑内障と偽緑内障とがある。これらの鑑別を目的として,広義の低眼圧緑内障患者のステロイド反応,視神経乳頭線状出血などを調べた。
 対象は両眼性の緑内障性視神経乳頭とこれに相応する視野障害を有する50名100眼である。視野障害(湖崎)はIIa〜IIIa期が91%を占めた。ステロイド負荷試験では,陽性は36眼でこのうち強陽性は17眼であった。強陽性眼の視神経乳頭の陥凹型は血管の鼻側偏位をもつ陥凹拡大型とnotching形成型が多かった。視神経乳頭出血は全体では30%に,6ヵ月以上経過観察できた症例では37%にみられた。出血とステロイド反応の間に相関関係はなかった。以上から真の低眼圧緑内障と偽緑内障との明確な鑑別は困難であるが,血液循環障害が,前者ではわずかな眼圧上昇と相まって,後者では単独に陥凹形成に関与していると推測された。

低眼圧緑内障患者の眼底血行動態解析の試み—螢光眼底録画法による検討

著者: 松生俊和 ,   高瀬正彌

ページ範囲:P.619 - P.624

 我々の開発した螢光眼底録画装置を用いて,網膜螢光希釈曲線を得ることにより.以下の成績を得た。
(1)正常有志者群8例8眼において,腕—網膜中心動脈最高濃度時間:17.2±2.0(S.D.)秒。網膜中心動静脈最高濃度時間差:2.0±0.8(S.D.)秒。動静脈50%ひろがり比=1.30±0.24(S.D.)であった。
(2)低眼圧緑内障患者群8例8眼において,腕—網膜中心動脈最高濃度時間120.1±3.7(S.D.)秒。網膜中心動静脈最高濃度時間差:4.1±1.0(S.D.)秒。動静脈50%ひろがり比:1.16±0.21(S.D.)であった。
(3)以上の成績より低眼圧緑内障は網膜中心動静脈最高濃度時間差の延長と一部の症例での腕—網膜中心動脈最高濃度時間の延長を認め,本測定法の低眼圧緑内障診断上の評価に関し考按した。

原発閉塞隅角緑内障の疫学的研究(その1)

著者: 藤田邦彦 ,   根岸千秋 ,   藤木慶子 ,   紺山和一 ,   K. ,   金子憲

ページ範囲:P.625 - P.629

 PACGの罹患率についてタイ国および室蘭市の既存資料を用い推定した。そして訂正罹患率を用い,英国の資料と比較した。
(1)罹患率:タイ国では10万対(a)群9.3人,(b)群9.3人,(c)群16.8人,室蘭市では38.4人であった。
(2)罹患年齢:室蘭市男子では高齢者程罹患率が高まるのを除いて室蘭女子,タイ国3群の男子共,50〜60歳代で最も高くなり,以後減少した。
(3)性比:タイ国では3.8〜4.0倍(P《0.001),室蘭市では2.5倍(P≒0.001)女子の方が多かった。
(4)訂正罹患率:タイ国(a)(b)群は共に10万対11.1人,(c)群は10万対19.2人,室蘭市は10万対19.6人,英国Ferndaleは10万対39.6人,Bedfordでは,10万対76.4人であった。
 今後,住民調査や地域眼保健サービス等への応用を試みられよう。また,室蘭市における罹患年齢の男女差や,タイ国および室蘭市と英国FerndaleおよびBedfordとの訂正罹患率の差,資料調査によって求められた羅患率と住民調査による有病率との関係なども今後解決されるべき問題である。

硝子体手術術後管理における超音波検査の応用

著者: 林英之 ,   大島健司 ,   高尾雄平

ページ範囲:P.631 - P.637

 硝子体術後早期に眼底透見不能であった80眼に対し超音波検査を行い眼内の状態について検討した。硝子体手術眼において出血は塊状エコーを呈することはなく水平面を形成するのみで自然消褪した。網膜剥離は32眼に見られたが,うちいわゆるcycliticmembrane formationによるものが認められこれは最も難治なものであった。

硝子体内鉄片異物摘出術の予後について—マグネット法と硝子体手術法の比較

著者: 三木徳彦 ,   山内昌彦 ,   井上一紀 ,   大沢英一

ページ範囲:P.643 - P.648

 数年来硝子体内鉄片異物に対し,硝子体手術法による,硝子体異物鑷子での摘出を施行して来た。そこで,従来のマグネット法による摘出例との術後合併症ならびに予後について比較検討し,それぞれの術式の適応について考察した。
 対象は30眼の硝子体内鉄片異物で,22眼は従来のマグネット法を,最近の8眼は硝子体異物鑷子を用い,硝子体手術法により異物摘出を行った。
 術後合併症は,マグネット法において,硝子体手術法に比しはるかに高頻度であり,硝子体出血硝子体牽引,網膜剥離,続発緑内障の順に高頻度で生じ,術前術後の硝子体出血が,永続的な硝子体混濁,硝子体牽引,牽引性網膜剥離へと移行し,予後不良であった。
 硝子体手術法は,術前すでに大量の硝子体出血を有する症例,巨大異物症例,鉄錆症例,眼内感染症例等が適応と考えられる。一方,微小異物で,硝子体出血の軽微な症例の場合には,マグネット法でも良好な結果を得た。

Positron CT (PCT)の眼科的応用—(2)18F−2—deoxy−2—fluoro—D—glucose (18F-FDG)を使用した眼窩腫瘍検出への基礎実験

著者: 清澤源弘 ,   福田寛 ,   吉岡清郎 ,   岡部仁 ,   佐藤多智雄 ,   高橋俊博 ,   松澤大樹 ,   井戸達雄 ,   水野勝義

ページ範囲:P.649 - P.654

 18F-FOGをトレーサーとしたポジトロンCTを眼窩腫瘍の診断に利用するための基礎実験を白色家兎で行った。眼窩に実験悪性腫瘍VX−2を移植した家兎(5羽)および眼窩にクロトン油を注射し炎症をおこさせた家兎(3羽)を用いた。18F-FDGの分布をポジトロンCTにて経時的に検査し,同一個体にてあとから得たオートラジオグラムを参考に比較検討した。家兎で腫瘍と炎症は高い18F-FDG分布を示しポジトロンCT画像上ではっきり検出できた。特に悪性腫瘍VX−2はポジトロンCTのECATナンバーにて他の組織と異なる18Fの集積の経時変化を示した。

まわし眼位に関する研究—第3報Fundus Haploscopeによる上斜筋麻痺患者の自覚的および他覚的まわし眼位

著者: 高橋総子

ページ範囲:P.655 - P.660

 Fundus Haploscopeによって上斜筋麻痺患者のまわし眼位を自覚的および他覚的に測定し,以下の結果を得た。
(1)大きな上下ずれを示す症例に大きな他覚的まわしずれを認めるとは限らず,上下ずれの大きさと他覚的まわしずれの大きさは協調していなかった。
(2)上斜筋麻痺患者でも,自覚的だけでなく他覚的にもまわしずれを示さない例を認めた。
(3)自覚的まわし眼位と他覚的まわし眼位を比較すると.第一眼位においては,内ひき眼位,外ひき眼位に比し両者の協調性が悪く,sensory adaptationがより大きく関与していると思われた。

EMGによる外斜視master eyeの決定

著者: 田村修 ,   三井幸彦

ページ範囲:P.661 - P.664

 外斜視のmaster eye手術は,手術効果および両眼視能抑制の除去にすぐれている(子供のphoria-tropiaを除く)1,2)。したがって外斜視のmaster eyeを決定し,master eye手術を行うことは重要である。しかし実際には臨床的にmaster eyeを決定することが困難な例がある。両眼視力の良いphoria-tropiaや一見交代性に見える外斜視である。そこで水平4直筋のEMGによりmaster eyeを決定する力法を検討した。その結果,次のような結論を得た。
(1)外斜視のmaster eyeに軽いforced adductionを加えると,一般に反対側の眼のEMGのみに変化がおこる。これはMF現象に相当し,外斜視特有の現象である。
(2)外斜視のrnaster eyeにductionを加えると,時としてversionを示すようなEMG所見がおこる。これはRPRに相当した現象である。
(3)外斜視のslave eyeにductionを加えても,ductionを加えた眼のEMGに変化がおこることはあっても反対側の眼のEMGに変化がおこることはない。これは正常者にも見られるipsilateralなproprioceptive reflexであろう。
 以上のように,外斜視の1眼にductionを加えて,EMGにMF現象またはRPRに相当する変化が認められれば,ductionを加えた眼がmaster eyeである。

水俣病にみられる固視微動異常

著者: 石川哲 ,   向野和雄 ,   山上晴子 ,   岡村良一 ,   皆良田研介 ,   安武博英 ,   熊谷和久

ページ範囲:P.665 - P.671

 典型的水俣病患者10例でmicrosaccadesの増大したと考えられるsquare wavejerks (SWJs)が出現することを前報1)で報告した。今回さらにその意義,責任病巣を検討するために水俣被検者(疫学的には本症発症の可能性が十分考えられた一部行政認定されたものも含む)16例,正常対照群15名,さらに中枢神経病変対照群14例を取り上げ検討した。眼球運動はphotoclectric oculographyにより記録し,暗黒下,照明固視下(NDフィルター4段階応用)の5条件下に記録した。得られた0.5°以上のSWJsを取り上げ振幅,持続時間,頻度につき分析した。水俣被検者16例中11例にSWJsがみられ,暗黒下で振幅が増大した。一方今回の正常対照群ではSWJsは認められなかった。今回初めて取り上げた両後頭葉病変,視床—中脳背側病変ではSWJsが明瞭であった。水俣グループのSWJsは両側後頭葉病変のそれと最も類似しており,この部位が責任病巣と考えられた。また小脳,上丘病変のそれとは異なっていた。

学術展示

中心暗点をきたす疾患について

著者: 野々村正博 ,   前田修司

ページ範囲:P.674 - P.675

 緒言中心暗点は視神経病変を示唆する重要な所見である。原因としては炎症,腫瘍など種々のものがあるが,中心暗点以外他の所見に乏しく,鑑別診断が困難なものも少なくない。
 今回,多彩な中心暗点をその形態から分類し,原因疾患,予後等との比較検討を行った。

エタンブトールによる中毒性視神経症の経過報告

著者: 佐々木秀樹 ,   中野容子 ,   高山東洋 ,   井上満

ページ範囲:P.676 - P.677

 第二次抗結核薬として,1960年に開発されたEtham—butol (以下E.B.と略記)は,既存の抗結核薬による耐性菌に対しても,強力な治療効果を示した例もあるとのことで,現時点の結核治療剤の中では,最右翼におかれている。しかし,1962年,Carrらによりその副作用として,中心暗点を伴う視力障害の発症が報告されて以来,本邦においても,原田の報告を初めとして,視力障害を併発する報告が数多くみられ,医原病としての本病と,投与されたE.B.の量とについては,一回投与量,経続投与日数,総投与量との関係に到る総括的報告までなされている。
 対症療法として,発病時にE.B.中毒性視神経症であることが確認された場合には,すぐにE.B.内服を中止すれば,視力の改善を得ることが可能であるとされてはいるものの,特効薬についての報告はない。

one-and-a—half syndromeで初発した髄膜脳炎の1例

著者: 古野久美子 ,   五十嵐保男 ,   向野和雄

ページ範囲:P.678 - P.679

 緒言PPRF (橋傍正中網様体)と同側MLF (内側縦束)の障害により生ずる核上性眼球運動障害をFisherら1)は"one-and-a—halfsyndrome"と呼び,血管障害・腫瘍・変性・外傷などが原因として挙げられている。しかし,髄膜炎によって本症が惹起された報告はみられない。我々は比較的若年者でmycoPlasma pneumoniaeによる髄膜脳炎に起因してone-and-a—half syndromeを発症したと考えられた症例を経験したので報告する。
 症例:32歳,女性。

片側性の視神経腫大を呈した視神経炎の2症例

著者: 佐久川知子 ,   比嘉弘文 ,   大門勝

ページ範囲:P.680 - P.681

 原因不明の視神経炎で片側の眼窩深部痛,乳頭浮腫があり,CTで腫大蛇行した視神経が抽出された2症例を報告する。

CT scanによる眼窩内視神経の定量的解析

著者: 花田一誠 ,   加瀬学 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.682 - P.683

 緒言CT Scan (以下CT)により眼窩内視神経の性状を把握することができれば視神経疾患の病態理解および診断に重要な知見を提供してくれると考えられるが,この様な検索は少ない1)。そこで我々はCTを用い眼窩内視神経の直径値を正常人と視神経疾患患者で実測し比較検討を加えた。
 対象・方法対象は正常人20例,視神経萎縮20例,視神経炎5例であった。使用したCTはSomoton IIである。window level 30, Window width 512, matrixは256×256,matrix sizeは0.5×0.5mmでslice幅は2mm,Scan時間は10秒である。ScanはReid's bace lineに平行なtransaxial scan (2 mm幅)で行い,必要に応じてCoronal scanやSagittal scanを行った。視神経の計測はCT像を5倍に拡大し,主にaxial scanで得られた眼窩内視神経のdistal 1/4で最大径の部分で行った。

赤外線Fundus Haploscopeによる網膜対応の観察—第9報ランダムドットステレオグラムによる立体視検査時の眼球運動解析

著者: 近江栄美子 ,   中村孝子 ,   谷塚多江子 ,   乾敏郎 ,   可児一孝

ページ範囲:P.684 - P.685

 緒言我々はJuleszのランダムドットステレオグラム(RDS)を用いた立体視検査を行った(近江ら,1982)。その結果,正常者においても初見者では平均反応時間は23秒で,21回目以後は10秒程度の減少が見られた。またRDS検査のみが不完全であったもののうち8/9が輻輳運動不全であることがわかった。これらの結果は,RDS検査においては輻輳運動の微小な制御能力が要求されることを示唆している。SayeとFrisby(1975)や小谷津(1980)も立体視における眼球運動,とりわけ輻輳運動の重要性を指摘している。しかしながらRDSの立体視検査においては,極めて微小な眼球運動が問題となるので輻輳運動の解析は極めて困難であった。今回,我々は赤外線Fundus Haploscopeを用い,RDSによる立体視検査時における輻輳運動の解析を行った。
 方法JuleszのRDSを赤外線Fundus Haploscope用のスライドに縮図作製したもの(視角14°×14°)を用いた。スライドは2組で,左右を入れかえると凹凸が逆になるので計4試行を行った。立体視成立時にはRDSの中央に凸または凹の菱形が見える。凸または凹の部分の視差は14′であった(図1)。

鈍的眼外傷に続発した開放隅角緑内障の1例—組織学的検討

著者: 大庭省三 ,   平井健一 ,   吉岡正樹 ,   秋山嘉彦 ,   入江博章 ,   山田耕士 ,   後藤保郎

ページ範囲:P.686 - P.687

 緒言鈍的眼外傷後に続発緑内障をきたす例があることはよく知られているが,組織学的報告は少なく,とくに電子顕微鏡(以下,電顕)的に房水流出路の形態学的変化を検討したものは少ない。今回,受傷後早期より眼圧上昇をきたした1症例を経験したので報告する。
 症例57歳男性。1982年1月24日,右眼球に木片が強くあたった。受傷翌日初診。初診時視力はV.d.=(0.08(v.n.c.), V.s.=0.1(0.8×S−1.0D)。眼圧はSchiötz眼圧計にて両眼とも17mmHg。右眼に角膜上皮剥離,前房内浮遊細胞,中等度散瞳,網膜振盪症を認めた。前房深度は正常で前房出血は認めなかった。受傷後12日目より眼圧上昇を認め,内服・点眼療法にても眼圧調整が困難となった。隅角鏡にて全周に隅角離開,下方の線維柱帯上に色素沈着を認めた。トノグラフィーc値は右=0.04,左=0.23であった。受傷後45日目にTrabeculect—omyおよび虹彩切除を行い,切除標本をグルタールアルデヒド,四酸化オスミウムにて固定し,エポン包埋を行って組織学的に検討した。眼圧は術後半年目の現在,点眼のみでコントロールされている。

体位変動と眼圧について

著者: 佐々木隆弥 ,   塚原重雄

ページ範囲:P.688 - P.689

 緒言体位変動による眼圧差を正確に知ることは夜間就寝時での眼圧が推定されると共に,緑内障の診断と治療をより有効に行うために重要である。既に,体位変動による眼圧変化については幾つかの報告があるが,座位ではGoldmann圧平眼圧計,仰臥位ではSchiötz眼圧計,Perkins眼圧計等が使用されていて方法論的に問題がある。できれば同一眼圧計を用いて測定する方が,眼圧計の違いによる誤差が少なくて望ましい。
 今回,我々は座位でも仰臥位でも眼圧が正確に測定できるAlcon社製Pneumatograph (P.T.G)を用いて,正常眼,原発性開放隅角緑内障眼,低眼圧緑内障眼について座位,仰臥位での眼圧測定を行い若干の知見を得たので報告する。

連載 眼科図譜・306

Microhemorrhagic maculopathyの症例

著者: 余敏子 ,   天野清範

ページ範囲:P.576 - P.577

 日常外来で黄斑部中心窩附近に単発性の小出血がある症例を経験することがあるが,その誘因や原因について検討した報告は少ない。今回,このような所見を認めた2症例についてvalsalva stressの既往を含め検討した。
 症例1 40歳,女性(主婦)。

臨床報告

内頸動脈血栓患者における眼底血圧測定—特に低血圧性網膜症と血管新生緑内障との関係

著者: 真壁禄郎

ページ範囲:P.699 - P.700

 片側性内頸動脈血栓患者計65例についてMüller氏眼底血圧計を用いて眼動脈血圧の左右差を検討した。17例には患側に低血圧性網膜症を合併し,その中の6例に軽度の眼圧上昇と高度の視力低下を伴う血管新生緑内障が発生した。
(1)収縮期眼動脈血圧は,健側に比較して,眼所見の無い48例では24.5±11.3%(平均値±標準偏差),低血圧性網膜症のみの合併11例では42.5±15.5%,血管新生緑内障発生例では69.2±15.9%低下していた。各群間には著明な有意差がある。
(2)拡張期眼動脈血圧の低下は多少とも軽度で各群夫21.3±13.7%,32.9±10.1%,46.8±19.9%であった。
(3)眼底血圧測定により内頸動脈血栓の診断が容易に下せるのみならず,その眼合併予後の判定に資される。

色覚異常により発見された性染色体異常(睾丸性女性化症)の一家系

著者: 安間哲史 ,   市川宏 ,   成田収 ,   呉明超

ページ範囲:P.701 - P.705

 色覚異常によって発見された睾丸性女性化症の一家系を報告した。
 発端者は25歳の"女性"であり,第2色盲と睾丸性女性化症を合併していた。発端者の"妹"も両者を合併していた。また発端者の祖母の姉は,色覚異常を伴わない睾丸性女性化症であった。
 本家系には両者の合併した症例と,睾丸性女性化症だけを呈した症例が混在しており,遺伝子座を検討する上からも重要な症例であり,さらに女性の色覚異常者をみた場合に考慮すべき疾患としても重要であると考え,報告した。

光凝固の奏効した虹彩転移癌

著者: 西麗子 ,   西興史 ,   前里和夫 ,   人見滋樹

ページ範囲:P.706 - P.711

 右眼虹彩および隅角への転移癌の1例を,報告した。当初,腫瘍を含む虹彩全幅切除術を施行したところ2日後に再発をみた。その後.新たに出現した多数の転移巣に対し,アルゴンレーザー光凝固術を繰り返し施行し,一時的にではあるが,腫瘍を細隙検査上消失せしめた。病理組織では左肺原発巣に一致する小細胞未分化癌の浸潤を,虹彩に認めた。虹彩転移癌に対しては,虹彩切除術は手術操作により,腫瘍細胞を前房内に撒布する危険がある。初期段階にアルゴンレーザー光凝固を施行すると,腫瘍の消退に非常に効果的であり,視力の保持も可能であった。虹彩隅角部転移癌に際してはまず光凝固を施行し,必要であれば手術操作を施行すべきと考える。

カラー臨床報告

Doyne's honeycomb macular degenerationの家族例

著者: 高橋正孝 ,   奈良諭一 ,   大野高子 ,   田川博

ページ範囲:P.691 - P.697

 典型的なDoyne's honeycomb macular degenerationの一家系の3症例を報告した。黄斑部網脈絡膜変性を示す65歳の発端者は中心暗点,周辺視野狭窄,後天性色覚異常を示した。36歳の次女は中心窩にcolloid bodyが見られず,比較中心暗点,abnormal EOGを示した。33歳の長男は左眼傍中心窩に網—脈絡膜間の関門障害と網膜脳層剥離,同部に対応する暗点が認められた。発端者の長女と2〜14歳の孫6名は正常であった。近親結婚が家系になく,発端者の父と祖母が同疾患で失明したと推測されることから常染色体性優性遺伝の遺伝形式をとっているものと判定された。

新刊紹介

—Harley, R.D—Pediatric Ophthalmology (2nd Ed.)

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.705 - P.705

 小児眼科学を初めて体系化した名著として高い評価を受けた本書の第一版が刊行されたのは1975年のことであったが,今その新版があらわれた。頁数にして3割近く増加して上下2冊に分れ,表紙も以前の紺色からセピア調のシックな外装になった。執筆者は総計67名で,その大半が現在アメリカで最大といわれる眼科専門病院であるWills Eye Hospitalの関係者である。
 本を改訂する場合に,不備な箇所に適当に加筆する部分訂正または「建て増し」と,全巻を書き改める「改築」の二つの方法があるが,著者らはあえて後者の途を選んだ。第一版と比較すると,目次の建てかたにもかなり大きな変化の跡が見られるが,個々の項目の記述内容も相当に変わっている。最初の第1章にしても,初版では文章による記述だけで少々お座なり的な感じの「眼の成長と発達」だったのが,今回は「新生児眼科学」となり,胎児期から周産期に至る各段階での生理的・病的な話題が図・表をたっぷり使って扱われるようになった。初版と同様に,未熟児網膜症は本書では余り大きな扱いを受けていず,ここでの記述も1頁弱しか当てられていないが,文献として植村氏が引用されているのは嬉しい。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(17)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.712 - P.713

26.大智壷流小鏡巻
 馬嶋流眼科には延文年間中興の祖と仰がれた清眼僧都が創始した明眼院(寛永9年寺号改む)系統と馬嶋大智坊重常(大永7年3月8日入寂)分派の別派がある。
 馬嶋大智坊眼科は大智坊重常にはじまり,第12世円祥(文化6年5月31日入寂)に到り,それ以後は岐阜へ移住したと伝えられる(福島義一著「日本眼科全書」第1巻61頁)。

GROUP DISCUSSION

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.715 - P.717

1.アノマロスコープ自動化の試み予報(討論)
 アノマロスコープは色覚検査の正確な診断のために不可欠な検査器械である。しかし,その使用に際して検者はかなり習熟を必要とし,また検者個々のくせもあり,検査の手順も一定していない。
 われわれは,熟練した専門医の手をわずらわせることなく,器械が自動的にプロセスを迫って作動し,その結果より最終判定が可能なアノマロスコープの作製を目的として実験を行った。

地域予防眼科

著者: 赤松恒彦

ページ範囲:P.718 - P.720

 昨年の地域予防眼科は海外援助の在り方を中心に開催されたが,本年は日本国内における眼科医の地域活動を中心に話題を選んで講師の方々にお願いした。
 眼科の医療も地域の中において診療所にとじこもっている時代から,診療所の外に出て活躍することを要請される様に変わりつつある。地域の疾病予防・失明予防に取り組まねばならない時代になったことを,眼科医は認識しなければならない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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