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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科37巻7号

1983年07月発行

雑誌目次

特集 第37回日本臨床眼科学会講演集 (その7) 学会原著

視床出血における眼症状の神経眼科的考察

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.885 - P.889

 視床出血の63例をCT-scan所見から限局型,進展型(外方,下方,上方),広範囲型に分類し,各型にみられる眼症状の特徴と発現機序を神経眼科的に考察し,予後についても検討した。
 限局型では縮瞳をしめし,予後良好なものが多かった。外方進展型では共同偏視,とくに出血病巣の反対側に向う偏視が多く,予後は運動障害を残すものが多かった。下方進展型では上方注視麻痺,輻酸障害,散瞳,対光—近見反応解離がみとめられた。上方進展型では縮瞳のほか同名性半盲がみとめられた。広範囲型では下内方偏視,散瞳,対光反応消失をしめすものが多く,予後は不良であった。

海綿静脈洞症候群の瞳孔所見の検討

著者: 石川弘 ,   鈴木利根 ,   稲垣昌泰 ,   中野直樹 ,   関本幸子 ,   北野周作

ページ範囲:P.891 - P.896

 海綿静脈洞から上眼窩裂の病変による動眼神経麻痺で瞳孔散大が出現しない機序を解明するため,海綿静脈洞症候群25症例に,Hess chartを主とした定量的眼球運動検査と交感神経刺激剤点眼試験を含む瞳孔検査を行った。その結果,交感神経はほとんど関与していないことが判明し,動眼神経下枝の障害が欠如しているかまたは軽度なために瞳孔括約筋を支配する副交感線維の機能が保たれるとする説が有力となった。

Stevens-Johnson症候群の1例—その治療法に関する工夫

著者: 上里忠信 ,   山田義一 ,   上原勝

ページ範囲:P.897 - P.902

 高尿酸血症治療の目的で用いられたアロプリノール製剤投与中にStevens—Johnson症候群を発症した27歳男性の1例を経験し,その眼合併症の急性期には,SCL装用およびステロイド全身投与等の治療のほか,持続球後麻酔による眼痛のコントロール,慢性期には人工涙液の持続点眼による乾性角結膜炎の治療を試み,一応の効果を認めたので報告する。

Wagner症候群の一家系

著者: 本村幸子 ,   中野秀樹 ,   河野恵子 ,   松本雄二郎

ページ範囲:P.903 - P.909

 不完全ながら常染色体性優性遺伝を示すWagner症候群の一家系,3世代4症例について報告した。基本的な硝子体所見は,正常硝子体構造の破壊消失により,硝子体は光学的に虚の状態,硝子体索,網膜前膜,網膜硝子体癒着および後部硝子体剥離であり,網膜所見は種々な網膜変性,網膜裂孔,網膜剥離であった。更に眼内所見として白内障を認めた。これらの眼内所見は症例により様々な組合せで出現し,極めて多様性であった。本家系の症例中に,これまでに記載のない新しい網膜硝子体所見,すなわち硝子体中を浮遊する微細な硝子体線維の絡まりよりなる球状塊,紡錘状網膜変性巣,色素斑を伴う扇形の網膜変性巣および末梢網膜血管の走行・分岐異常が認められたことを指摘し,検討を加えた。Wagner症候群の診断は,その臨床像の多様性を十分に考慮し,家系調査結果をふまえてなされるべきであることを述べた。

乳頭上新生血管をきたした急性赤白血病

著者: 砂川光子

ページ範囲:P.911 - P.914

 急性赤白血病で,その経過中,両眼に初診時認められなかった乳頭上新生血管が出現し,硝子体出血をきたし,失明に至った症例について報告した。

Toxocara眼症について—臨床的特徴と小児・成人発症について

著者: 山田宏図 ,   八子恵子 ,   金成拓二 ,   永井宏

ページ範囲:P.915 - P.921

 Ocular toxocariasisの特徴を示し,臨床的に診断した5症例を報告した。特にsolitary granuioma型の螢光眼底所見の特徴を示し,本症の臨床的診断基準の一つとなりうるものと考える。

乳児,幼児の屈折検査成績とくに9ヵ月児および1歳6ヵ月児について

著者: 田辺千賀子 ,   中屋博 ,   氷見由美子

ページ範囲:P.923 - P.928

 9カ月児,1歳6カ月児,3歳児の健康診査時に調節麻痺下での屈折検査を行い,また4歳児,5歳児の保育園児にも施行した。その結果は次のごとくである。
(1)年齢が進むにつれ,近視および+1.75D以上の遠視の占める割合は減少し,+0.75D〜+1.5Dの軽度遠視の割合は増加するのがみられ,−0.25D〜+0.5Dの正視の割合には変化は認められなかった。
(2)乱視は9カ月児では直乱視,遠視性乱視が多く,年齢が進むにつれ,全体的に乱視の占める割合は減少した。
(3)生下時体重と屈折度の関連は,9カ月児および1歳6カ月児においては認められなかった。
 以上のことより,年齢が進むにつれ近視,遠視ともに屈折度の強いものが減少し,+0.75D〜+1.5Dの軽度遠視を中心とするその周囲の頻度が増加するといえる。

KPE手術教育の経験

著者: 仲河正博 ,   吉村利規 ,   黒田純一 ,   倉淵信哉 ,   平原将好 ,   小西則子 ,   大八木康夫 ,   上野山謙四郎

ページ範囲:P.929 - P.931

 経験者の指導下で,眼科入局2年次に40症例の集中的顕微鏡下白内障全摘手術を経験後,4〜5年次にKPE手術を30〜40症例経験した。
(1)1980年4月から1982年6月までに行ったKPE手術,合計238眼につき検討を加えた。
(2)術式は主として有核白内障に対し,2手前後房法を用いて行った。
(3)術中術後主要合併症は虹彩損傷18.2%,後嚢破損13.5%,硝子体脱出12.6%,核落下0.9%,後発白内障4.7%等であった。
(4)術後視力0.5以上得られたものは70.7%であった。
(5)失明に至る重篤な合併症の発生は認められなかった。

先天性チアノーゼ性心疾患の眼底

著者: 堤篤子

ページ範囲:P.933 - P.938

 先天性チアノーゼ性心疾患患者211名の眼底を精査し,次の結論を得た。
(1)二次性多血症の程度と動静脈の拡張・静脈の蛇行率が相関していたので,眼底変化は多血症によるものと考えられた。
(2)網膜中心動脈閉塞症・周辺血管白鞘形成などの眼底変化が,二次性多血症の強い症例(赤血球数800万/mm3以上)にみられた。
(3)年齢との関係では,年齢と血管径・蛇行率に相関は認められなかった。
(4)脳血管障害を合併した症例では,強い眼底変化をみるものが多いが,乳頭の発赤・腫脹は必ずしも,脳病変の存在を示唆するものではなかった。

進行性病変を呈した白色瞳孔の2症例

著者: 山本節 ,   金川美枝子 ,   奥田斗志

ページ範囲:P.939 - P.943

 白色瞳孔で進行性病変の場合,先ず,網膜芽細胞腫が疑われるが,生後19日目と2カ月の男児で,白色瞳孔が進行して両眼性となり,片眼はそれぞれ続発性緑内障を来たし,眼球摘出を行った。
 組織学的所見より1例は第一次硝子体過形成遺残,もう1例は網膜異形成と診断できた。
 両眼性白色瞳孔で続発性緑内障を来たす例は数少ないが,臨床所見や超音波検査より早期診断をして,眼球保護のための早期手術をすることが望ましいと考える。

小児におけるvon Recklinghausen病の眼科的所見

著者: 吉武秀子 ,   大島崇 ,   勝海修 ,   岩田浩子

ページ範囲:P.953 - P.957

 61症例の小児におけるvon Recklinghausen病の眼科的所見について検討した。
 その結果,合併するものとしては虹彩小結節が最も多く,34例,55.7%に認められた。虹彩小結節を認めた最小年齢は生後4カ月であったが,その出現頻度は年齢とともに高くなる傾向を示した。その他の眼科的所見としては,視神経萎縮2例,眼圧上昇および眼球突出をみたもの1例,網膜腫瘍を疑わせる網膜変性巣を認めたもの1例,眼底に色素斑を認めたもの1例,コーツ病様変化を認めたもの1例であった。

乳児屈折異常のスクリーニング—簡易photorefractionによる試み

著者: 山本敏雄 ,   前田和子 ,   田辺稔邦 ,   梅谷一清

ページ範囲:P.959 - P.963

 乳幼児の眼位異常や屈折異常は,なるべく早い時期に検査しなければならないとされているが,実際にはなかなか検査を行うことができない。1979年,Kaakinenは簡単なカメラを使って1回の写真撮影にて同時に限位と屈折の異常を知る方法を発表した。今回,我々はこのKaakinenの方法を改良して,乳幼児で限位とおおよその屈折状態を測定するカメラを試作した。そしてまず,模型眼でこのカメラにより屈折異常を大まかに測定できることを確かめ款に人眼でも屈折異常の種類や程度を測定できることを知った。更に,1歳前後で眼位や屈折検査ができない乳児で,試作機を使い眼位や屈折の異常を調べることができることを確かめた。我々はこの様なカメラが乳幼児の眼位・屈折異常のスクリーニングに役立つものと考えている。

乳幼児における視力発達について

著者: 勝海修 ,   大島崇 ,   吉武秀子 ,   植村恭夫

ページ範囲:P.965 - P.970

 生後2カ月より3歳までの正常乳幼児の視力発達過程をpreferential looking(PL)法をもちいて調べた。生後12カ月未満の乳児にはForced choice preferential looking(FPL)法を,それ以上の年齢の乳幼児には知能,行動の発達に応じて,検査殊に応答法に工夫を加えて検査を施行した。
 その結果PL視力は生後6カ月では15 min of arc,生後12カ月では6min of arc,生後24カ月では3min of arc,そして生後30カ月ではlmin of arcのレベルに達した。
 PL法の成功率は生後3〜6カ月の群および生後25カ月以降の群で高く,生後13〜18カ月の群で最も低い値を示した。
 PL法はやり力を工夫することにより生後2,3歳まで有効に行えることが判った。

弱視の予防と治療に関する研究Preferential Looking法による経過観察

著者: 菅原美雪 ,   児玉安居 ,   大石文恵 ,   三浦元也 ,   平井淑江 ,   粟屋忍

ページ範囲:P.971 - P.976

(1)片眼の弱視が疑われた乳幼児30例(4カ月〜1歳8カ月)について,preferential looking法を用いて視力を測定した。
(2)このうち6例(角膜切創1,眼窩蜂窠織炎既往例2,内斜視1,外斜視2)では弱視が発見されたため,健眼遮閉を開始すると共にPL法による視力の経過を追い,弱視の治癒を得た。
(3)弱視の認められなかった24例の中に,片眼性先天性眼瞼下垂5例,片眼の生下時黄斑部出血既往例2例が含まれていた。
(4)弱視とくに視性刺激遮断弱視の予防と治療のためには,2歳頃までの特に感受性の高い期間内に視力の左右差を知ることが何よりも重要であり,その手段としてPL法はたいへん有用である。

学術展示

日本における網膜芽細胞腫の頻度(1975〜1979)

著者: 金子明博

ページ範囲:P.978 - P.979

 わが国における網膜芽細胞腫(Rtbと略す)の頻度に関する研究は箕田により1975年の1年間について全国登録されたものを使用した報告がある。しかし,これは参加施設が少なく,回答率が低く,観察期間も短いため,その結果に対する信頼性は乏しかった。今回,厚生省がん研究助成金によりRtbに関する研究班が発足したので,本疾患の基礎データとして正確な頻度を知る必要があり,1975年から5年間について調査した。
 調査方法Rtb全国登録を補う型でアンケート調査を行った。対象とした施設は1975年から5年間のRtb全園登録に症例の見られない,大学病院眼科11と一般病院眼科1,113施設である。第一次調査として症例の有無につき回答を求めた。すべての大学病院眼科と担当医の転勤などで調査不能の64施設を除く,94%の一般病院眼科から有効な回答が得られた。第2次調査として,症例のあった施設に調査用紙を郵送して,患者氏名,性別,生年月日,初診日,患側,遺伝性の有無,病理診断の有無,転院先などについて記入を依頼し,封書により全施設から返信を得た。行政管理庁長官の許可を得て,厚生省人口動態統計死亡調査票よりRtbによる死亡者を調査した。これらの方法で知った症例は,氏名などによりすでに登録されている者と重複しているか否かを検討した。登録されている症例にも,Rtbでないと思われるものが入っており,これらを除いた。初診日をもって,その症例の発生年度とした。

奇異な経過を呈した単純性糖尿病性網膜症の1例

著者: 大迫一人 ,   佐藤勝 ,   大島禎二 ,   西山苑 ,   志賀早苗 ,   別所建夫 ,   五石惇司

ページ範囲:P.980 - P.981

 緒言今日,糖尿病とmacroangiopathyの関係が指摘されて来ているが,我々眼科医にとって,内頸動脈狭窄,閉塞の合併は日常診療においてあまり念頭に入れられていない。
 今回著者らは初診時単純性糖尿病性網膜症のみを呈し,短期間に左眼の急激な視力低下,虹彩炎,虚血性視神経症,ルベオージス緑内障へと進行した興味ある1症例を経験し,眼動脈ドップラー血流検査にて左内頸動脈閉塞および右内頸動脈狭窄を推定し,ICAGにてこれを確認し,内膜剥離術にてアテローム硬化性変化を確認したので報告する。

Tilted disc syndromeについて—網膜,視神経レベルの検査に関して

著者: 佐々木美佳子 ,   向野和雄 ,   大塚賢二 ,   石川哲

ページ範囲:P.982 - P.983

 緒言Tilted disc syndromeは1976年Young1)らによって①乳頭傾斜(乳頭逆位)先天性コーヌス,②下鼻側の網膜色素上皮層の菲薄,③近視性乱視,④両耳側視野欠損,⑤正常トルコ鞍等の特徴が提唱された。その後内外で,視野異常の原因についての論議が数多くなされている。今回我々は変視症を主訴とした本症の1症例に対して網膜,視神経レベルの機能検査2)を施行し,原因部位につき,苦干の考按を加えた。
 症例49歳女性,左眼変視症と羞明感を主訴として来院。7年前より変視症を自覚し再発緩解をくり返していた。既往歴としては特記すべきことなし。家族歴としては高度近視者がいる。現症;視力右=0.1(1.2×—2.0D),左=0.1(0.7×−2.0D),前眼部,中間透光体に異常なく,瞳孔正円で,左右同大,対光反応,輻湊反応ともに正常。Amsler chartで左眼のみに縦横線ともに灣曲が認められた。眼底は両眼ともに視神経乳頭は下方に向かって,傾斜して下方コーヌスを認めた。視神経乳頭の下力は紋理状を呈し,下方ぶどう腫が認められた(図1)。検眼鏡的に網膜の屈折度を測定してみたが,その結果,両限ともに耳側網膜の上半部および下半部の間には6Dの差が認められた。螢光造影眼底写真では左眼のみに,window defectと思われる過螢光がぶどう腫の上縁とほぼ一致して認められた3)(図2)。

小口病様眼底を呈した1例について

著者: 山川良治 ,   深尾隆三 ,   永田誠

ページ範囲:P.984 - P.985

 小口病は1907年小口の報告以来,先天性停止性夜盲と特異な眼底所見を特徴とし,水尾・中村現象や電気生理学的検査等に種々の興味深い所見の存在する疾患として知られている。今回著者らは一見小口病様眼底を呈しながらもその諸検査において典型的小口病とは異なった検査結果を得た症例について検討する。
 症例:60歳,男性。

生後3ヵ月で死亡した極小未熟児網膜症例の眼病理所見について

著者: 浜田陽 ,   米本寿史

ページ範囲:P.986 - P.987

 緒言保育管理の進歩により極小未熟児の生存率が向上してきているが,厳重な酸素管理にもかかわらず,1,000g以下の極小未熟児には網膜症が発症する。極小未熟児の網膜血管の未熟性と酸素濃度に対する反応性についてはいまだに不明な点が多い。今回は未熟児網膜症を発症した症例でトリプシン消化網膜伸展標本ならびに病理組織標木を作成し,網膜血管の未熟性について検討したので報告する。
 症例S.M.,1981年9月29日生。生下時体重1,000g,在胎27週,母親は2回の出産歴をもっているがこれまでの出産には異常がなかった。全身的には特発性呼吸窮迫症候群,動脈管開存,脳室内出血,水頭症があり,出生直後より屯症の呼吸障害のため,挿管にて呼吸調節が行われた。出生直後より2日目まではPO2が十分に上昇せず,生後9日目にようやく自発呼吸が可能となった。その後も無呼吸発作が出現した。眼底像は生後3週までは硝子体混濁で透見できず,4週目より透見できるようになった。生後8週より境界線が出現し,III期よりなお進行するため冷凍凝固を3回施行した。しかし全身状態が悪化し,呼吸障害のため出生後約3カ月で死亡した。

Vitreoretinal degenerationの1例

著者: 加藤秋成

ページ範囲:P.988 - P.989

 緒言遺伝性に綱膜と硝子体の変化がおきる疾患を1938年Wagnerがdegeneratiohyaloideo-retinalis here—ditariaと呼称し報告して以来,Ricci, Duke-Elderにより3型に分類されて来たが,1969.年 Criswickら1)により新たに,これら疾患群に属すると思われるfamilial exu—dative vitreoretinopathyが報告された。その後,本邦でもこの類似疾患をそれぞれ異なった呼称で,大塩2),木村3),西村4)らが報告した。
 Tolentino, Schepensら5)は,(1) Wagner's heredita—ry vitreoretinal degeneration,(2) congenital hereditaryretinoschisis,(3) Goldmann-Favre's vitreoretinal dege—nerationに,(4) familial exudative vitreoretinopathyを合わせ,vitreoretinal degenerationsとしてまとめた。今回著者は大塩,西村らが報告した症例と同一であると思われる症例で,その経過観察中網膜剥離を発生し,治療を要した経験を持ったのでここに報告する。

Milles症候群の1例

著者: 門屋講司 ,   小笠原孝祐 ,   小原喜隆 ,   田沢豊

ページ範囲:P.990 - P.991

 症例は13歳,女性,1981年9月28日初診。1980年4月頃,学校検診で右眼の視力低下に気づき,某医を受診したが,特別な異常を指摘されなかったため放置していた。しかし,その後さらに視力が低下したため当科を受診した。生来,三叉神経第1および2枝の領域に顔面血管腫がある(図1)。
 初診時,視力はV.d.=0.1(0.7×+3.5D),V.s.=1.2(n.c.)。眼圧,右19mmHg,左17mmHg。右眼は,前眼部では角膜輪部に血管網の形成があり,結膜,上強膜の血管拡張が認められた(図2)。隅角は開放隅角で血管腫等の異常所見はみられない。中間透光体は異常ない。

眼球マッサージが有効であった網膜中心動脈閉塞症の1例

著者: 安里良盛 ,   比嘉弘文

ページ範囲:P.992 - P.993

 緒言網膜中心動脈閉塞症は急激な血流途絶によるAnoxiaで,不可逆性変化を来しやすく,治療が急を要する重要な疾患である。今までいろいろな治療法が行われてきている1)が,眼球マッサージは,すぐに,手軽に,どこでも行える点で,第一選択として行われるべき方法だと思われる。著者らは眼球マッサージが有効であった症例を経験したので報告する。
 症例33歳,男性(初診1981.8.8.)。

Nanophthalmosに中心性漿液性網脈絡膜症を合併した1例

著者: 福与貴秀 ,   勝又俊二

ページ範囲:P.994 - P.995

 非裂孔原性網膜剥離が合併したnanophtalmosの報告は比較的多数あるが,その螢光眼底所見については,数例の報告を見るにすぎない。今回,そのような症例で,螢光眼底撮影上,中心性漿液性網脈絡膜症に見られるような,噴出型色素漏出像を呈した1例を経験した。症例は36歳の女性で,約半年間続いた過労の後,右眼に変視と霧視とを自覚し,1982年3月29日当科初診となった。家族歴に両親の血族結婚と同胞1名の強度遠視がある。
 初診時所見:視力右0.01(0.1×+20D),左0.05(0.1×+16D)。角膜径は両眼10.5×10mm。前房はやや浅く炎症所見なし。隅角はGrade 3(Shaffer)の開放隅角。虹彩,水晶体,硝子体には異常なく,眼圧は右12,左14mmHg。両眼底とも,偽視神経乳頭炎の像を呈し,血管の努張,蛇行,反射尤進も見られた。右眼底には視神経乳頭から黄斑部にかけてretinal foldが存在し,下方のvascular arcadeを越えて嚢胞状網膜剥離が見られた。裂孔は発見されず,体位変換による網膜下液の移動もなかった。周辺の脈絡膜は腫脹し,検眼鏡的に容易に鋸状縁が観察できた。左眼底にはその他の異常は認められなかった。

連載 眼科図譜・308

角膜腫瘍を伴った色素性乾皮症

著者: 宮川淑子 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.882 - P.883

 色素性乾皮症は遺伝性の皮膚疾患で,皮膚や粘膜に悪性腫瘍を若年のうちから生ずることが知られているが,今回我々は角膜および結膜に扁平上皮癌類似の変化を伴った症例を経験し,これに対して表層角膜移植を行い良好な結果を得たので報告する。
 症例は24歳男性。両親はいとこ婚で兄も本症と診断されている。幼時より露出部皮膚にそばかす様色素斑や腫瘤の形成があり色素性乾皮症と診断されていたが,今回東大病院皮膚科にて左鼻翼部腫瘤(図1)の切除を受け基底細胞腫(basal-cell epithelioma)と診断された(図2)。左眼角膜の白い膜様物を主訴として眼科を受診した。視力は右矯正1.0,左矯正0.2で中間透光体および眼底には異常がなかったが前眼部では両眼ともに下眼瞼の外反,瞼縁糜燗,睫底脱落と結膜充血が認められた。角膜は右限にも翼状片様の組織がみられたが左眼角膜は細い血管を伴う表面不整の組織で広い範囲が覆われていた(図3)。この左眼に対し表層角膜移植を行った。切除した角膜の組織所見では上皮層が肥厚し異型性の強い細胞が多くみられボーマン膜の一部が途切れてこれらの細胞が角膜実質内に浸潤しているのが認められた(図4,5)。異型性の強い細胞は角膜とともに切除した輪部沿の結膜にも認められた。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(19)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.998 - P.999

28.山口道本内障一流養生的伝鏡秘術事
 本書の外題は「目薬一通」となっているが内題には「山口道本内障一流養生的伝鏡秘術事」と書かれており,山口流眼科の秘法を伝えたものと思われる。
 山口流眼科の資料は極めて少なく,その詳細は明らかでないが,小川剣三郎著「稿本日本眼科小史」,富士川游著「日本医学史」,福島義一著「日本眼科史」(日本眼科全書第一巻)等には山口流眼科内障治術について解説が行われている。山口道本は安土桃山時代末から江戸時代初め,すなわち天正から慶長年代の頃,内障眼の治術をもって馬島流眼科とは別に一流派をなしていたといわれる。

臨床報告

脈絡膜循環障害の疑われた地図状脈絡膜症

著者: 木村早百合 ,   竹田宗泰

ページ範囲:P.1001 - P.1007

 原田病様の急性びまん性ぶどう膜炎で発症し螢光眼底所見上脈絡膜循環障害が疑われ,地図状脈絡膜症と考えられた1例を報告した。
 34歳健康な男性の眼底に前部後部ぶどう膜炎,視神経乳頭炎,網膜静脈炎,漿液性網膜神経上皮剥離がみられ網膜下の灰白色混濁病変を伴っていた。大量ステロイド療法を行い,ぶどう膜炎は約4週で消失したが,網膜下病変は約6週かかって特異な地図状の網膜色素上皮層および脈絡膜毛細血管萎縮巣を残し,ぶどう膜炎が消褪後も次々と新病巣をつくり進行していった。急性期網膜下病変は螢光初期には低螢光で示され螢光後期には過螢光となったがこのとき初期の低螢光領域内に中等大以上の脈絡膜血管を透見していた。急性期網膜下病変における螢光初期の低螢光は網膜色素上皮の浮腫混濁による螢光遮断ではなく何らかの炎症機転による脈絡膜の毛細血管や前毛細血管細動脈の循環不全である可能性を示唆し,病態の主座はこれら脈絡膜血管系にあると考えられた。しかし治療で投与されたステロイドホルモンの効果は明らかではなかった。

Lanthony's New Color Testによる色覚研究—(2)後天色覚異常例その1中性色帯について

著者: 市川一夫 ,   徳田浩子 ,   森井一江 ,   市川宏

ページ範囲:P.1015 - P.1020

 後天性疾患の中性色帯を検討するために,10歳〜69歳までの各年代10人の正常者と後天異常の14疾患140症例227眼を対象とし,New Color Testの分離検査を施行して以下の結論を得た。
(1)正常者は60人中58人が検査をpassし,failした2名もerror score 4以下であった。
(2)後天性赤緑色覚異常では〔PR〕〔RP〕と〔V〕〔VB〕に中性色帯の中心があり,後天青黄色覚異常では,〔PB〕〔BP〕と〔J〕〔JV〕に中性色帯の中心があった。
(3) Stargardt disease 5眼が後天性青黄色覚異常に分類され,従来の報告と異なっていた。
(4)後天性青黄色覚異常を示す疾患で黄色側のピークが中心性網脈絡膜症のみが〔JV〕にあり,他の疾患では〔J〕であった。
(5)後天性青黄異常は単極性を示す傾向が強く,この傾向は糖尿病性網膜症で顕著であった。

角膜腫瘍を伴った色素性乾皮症

著者: 宮川淑子 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.1021 - P.1023

 色素性乾皮症の患者の角膜にみられた扁平上皮癌類似の変化を伴った腫瘍を切除し表層角膜移植を行った。経過は良好で術後4カ月現在移植片は透明性を保っており視力改善も得られ,腫瘍の再発は認められない。
 本症の角膜腫瘍に対する治療として表層角膜移植が有効と考えられる。

カラー臨床報告

視神経乳頭ドルーゼ

著者: 田村忍 ,   鎌尾恒幸 ,   関谷善文 ,   大久保潔 ,   高橋俊博

ページ範囲:P.1009 - P.1013

 我々は,exposcd typeとintra-papillary typeの視神経乳頭ドルーゼの2症例を経験した。
(1)検眼鏡的にexposed typeは多数の黄白色に輝く塊状のドルーゼが観察されたが,intra-papillary typeでは乳頭浮腫の所見を示しドルーゼは観察されなかった。
(2)2症例ともフィルターにより乳頭の偽螢光を除去すると,ドルーゼの自発螢光を認めた。
(3)超音波Bスキャン検査でドルーゼの強い反射エコーを検出し,視神経乳頭ドルーゼの診断に極めて有用であった。
(4)2症例とも視力低下と視野障害を示した。

GROUP DISCUSSION

眼感染症

著者: 内田幸男

ページ範囲:P.1024 - P.1026

1.緑膿菌によるマウス前房内感染実験
 緑膿菌の株による酵素と毒素の産生の差が,前房内感染にどのような差違を作るかをみるため,マウスを用い経時的に病理変化をしらべた。ProtcaseとElastaseは前房内投与で250μg以下の量では,眼病変は軽かった。Exotoxin Aでは病変が重く,12.5μgで半数以上が2日以内に死亡した。生菌感染では上記3物質を産生する株で病変が重く,Exotoxin Aのみ産生株がこれに次ぎ,これらの非産生株が最も軽かった。
 〔討論〕佐々木(横市大) NC−5株のExotoxin A産生能はどうか。

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.1027 - P.1032

1.Congenital grouped pigmentation of the re—tinaの1症例
 Congenital grouped Pigmentation of the retinaは欧米では数十例の報告があるが,本邦では我々の調べた範囲で7例の報告しかみられない。今回我々は本疾患と思われる症例に遭遇し,その一家系を検索する機会を得たので報告する。
 症例は10歳女子で左眼の充血を主訴として来院した。視力は右=1.0(矯正不能),左=1.0(矯正不能)。前眼部,中間透光体には異常を認めなかったが,眼底検査で両眼底後極部に黒味を帯びた,境界鮮明な小斑点を多数認めた。視野検査,暗順応検査では異常はみられず,螢光眼底撮影で色素斑に一致した背景螢光のブロックがみられ,Congcntial grouped pigrnentation of the retinaと診断した。また家系調査の目的で,祖母,両親,兄弟を検査したが異常を有する者はみられなかった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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