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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科38巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・323

先天性乳頭上硝子体嚢腫の1例

著者: 大久保彰 ,   大久保好子 ,   奥野幸雄 ,   金上貞夫 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.1014 - P.1015

 先天性乳頭上硝子体嚢腫は硝子体管の遺残物として視神経乳頭あるいはその周囲に見られるepipapillary mem—brane (Bergmeisters' papilla)が嚢腫状に残存して形成されたものであり,極めて稀な非遺伝性の硝子体発生異常である1〜3)。今回我々は,先天性乳頭上硝子体嚢腫の1例を経験したので報告する。
 症例:71歳,女性。

臨床報告

糖尿病性網膜症の毛細血管閉塞域における血液循環の改善—光凝固後の長期観察

著者: 岡田むね子 ,   田村正

ページ範囲:P.1017 - P.1020

 増殖型糖尿病性網膜症患者6名(7眼)に光凝固治療を行い,網膜毛細血管網の流通状態を長期にわたり観察した。光凝固は,眼底後極部から赤道部網膜にかけて,黄斑部をのぞいて広範囲に施行した。7眼はいずれも前回の報告1)で,光凝固治療前の毛細血管閉塞域の一部分に,治療後,血管網が再造影され,網膜症の改善をみた症例である。7眼中6眼においては,その後の観察期間中にも再造影される血管網の範囲はさらに拡大し,検眼鏡下の網膜病変もさらに改善した。またそれらの部分から網膜前新生血管の発生はみられなかった。7眼中1眼のみにおいては,一度再造影された血管網が再び消失し,検眼鏡および螢光眼底造影所見上,網膜症の悪化をみた。これらのことから,再造影された血管網は網膜症の軽快に役立ち,光凝固治療は,何らかの意味で網膜のhemodynamicsを改善すると考察した。

白内障嚢内超音波乳化吸引法

著者: 原孜 ,   原たか子

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 超音波の障害から角膜内皮を保護するために超音波法を水晶体前嚢下で行う新しい方法を開発し,1980年1月7日から9月1日までに,本法がほぼ着想通りに行われた61歳から78歳の21人26眼について最低3年追跡した結果を報告する。20眼に種々の眼内レンズが挿入された。角膜中央部内皮細胞損失率は全26眼で12.0±7.4%(1.3〜36.296),眼内レンズ挿入の20眼で13.6±7.7%(3,6〜36,2%),眼内レンズ非挿入の6眼で6.9±3.0%(1.3〜10.0%)であった。術後最高視力値は1.1±0.2(0.6〜1.5)であった。術中,術後合併症は11眼(42.3%)に生じた。水晶体後嚢破損の3眼も含め合併症は全て良好に処理された。

ペプシン処理免疫グロブリンの連日投与による実質型角膜ヘルペスの治療成績

著者: 西田輝夫 ,   庄田節子 ,   浜野保 ,   木下茂 ,   下村嘉一 ,   真鍋礼三

ページ範囲:P.1027 - P.1031

 実質角膜ヘルペスに対してペプシン処理免疫グロブリン製剤の点滴静注の投与方法が,その視力予後にどのような効果をもたらすかを検討した。
 当科を受診した実質型角膜ヘルペス18名19眼に対し,ペプシン処理免疫グロブリンを5H間連日投与(11例13眼),あるいはペプシン処理免疫グロブリンを1週間に1,2回間歇投与(11例13眼)した。
 ペプシン処理免疫グロブリンを5日間連日投与した群では,1週間に1,2回の間歇投与群に比べ,視力改善が著明であった。角膜実質浮腫および毛様充血に対しても,連日投与の方が効果は大きかった。前房内細胞および再発率には差が認められなかった。
 これらの成績より,ペプシン処理免疫グロブリンの連日投与(点滴静注)が,実質型角膜ヘルペスの治療に対して,間歇的投与より効果的であることが明らかとなった。

網膜静脈分枝閉塞症における晩期合併症と光凝固療法について

著者: 石川浩子 ,   松嶋三夫 ,   佐藤圭子 ,   楠田美保子 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.1033 - P.1038

 網膜静脈分枝閉塞症の経過中に生じる硝子体出血,新生血管緑内障,網膜裂孔などのいわゆる晩期合併症を予防するために,光凝固の適応について検討した。合併症を認めた症例と認めなかった症例の螢光眼底血管造影所見を比較検討した結果,合併症を認めた症例には次の特徴が共通して認められた。
1)静脈閉塞部位が乳頭縁より1乳頭径以内に存在する。
2)無血管野が1象限以上におよぶ。
3)無血管野の動脈に著しい狭細化がみられる。
 よって,これらの条件を備えている症例に対しては,晩期合併症の予防のために無血管野全体に光凝固を施行するのが望ましいが,これ以外の症例では,新生血管やその他の合併症を認めた時点で光凝固を施行するのが妥当であると考えられた。

Argon laser trabeculoplasty による開放隅角緑内障の治療成績

著者: 塩瀬芳彦 ,   川瀬芳克 ,   山田寿子 ,   佐藤隆子

ページ範囲:P.1039 - P.1043

 楽物コントロール不良の開放隅川緑内障眼にlaser trabeculoplasty (LTP)を施行し,術後8週の眼圧値を基準に有効性を検討した。照射条件は隅角1/2周のtrabecularpigment band 上に平均50発施行した。原発性開放隅角緑内障(POAG)67眼の有効率は85.1%,全例86眼では80.2%であった。POAGを40歳未満と以上に分けるとLTP有効率は前者で90.5%,後者が82.6%であったが有意差はなかった(p<0.75)。LTPによる平均眼圧下降は6.7±6.0mmHg, outflow prcssure下降率は38.1±26.6%であった。
 今回の条件下で重大な副作用は少なく,LTPの有用性が示唆された。

先天性乳頭上硝子体嚢腫の1例

著者: 大久保彰 ,   大久保好子 ,   奥野幸雄 ,   金上貞夫 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.1045 - P.1048

 71歳,女性の右限視神経乳頭上に認められた先天性乳頭上硝子体嚢腫について報告した。嚢腫は直径1乳頭径大で視神経乳頭に付着して存在し,硝子体ゲルとは後硝子体膜の中央部で連がっており眼球運動によるゲルの動きとともにわずかに振動した。嚢腫の存在位置と硝予体ゲルとの関係から硝子体管の遺残物として形成された先天性乳頭上硝子体嚢腫と診断した。先天性乳頭上硝子体嚢腫は極めて稀であり本邦では最初の報告と考えられた。

原田病におけるステロイド剤のパルス療法

著者: 小竹聡 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1053 - P.1058

 8例の原田病患者を対象にメチルプレドニゾロン超大量投与によるパルス療法を行った。その結果,8例の本病患者はすべて治癒し,本療法によると考えられる副作用は1例もみられなかった。また,治療後8〜18カ月の経過観察にて1例の再発もみられなカった。
 パルス療法は原田病の新しい治療法のひとつとして試みる価値があると考えられる。

糖尿病と血液網膜柵—硝子体螢光測定による分析

著者: 吉田晃敏 ,   ,   C.Delori ,   D.Collas ,   J.Wallace

ページ範囲:P.1059 - P.1064

 我々の開発した硝子体螢光測定装置(Vitrcous Fluorophotometer)を用いて,螢光眼底写真を基に分類した77人の糖尿病患者と23人の正常人の血液網膜柵の機能と水晶体自然螢光を検討し,次の結果を得た。
(1)水晶体自然螢光は,糖尿病患者では同年齢の正常人に比べて有意に高く,しかも網膜症の発現前の患者においても正常人に比べ有意の上昇を示した。
(2)若年群(40歳以下)では,後部硝子体のbaseline値,fluorescein静近後60分値共,すべての糖尿病性網膜症グループで正常人に比べ有意の高値を示したが,これは高い水晶体自然螢光の影響を強く受けていることが判明した。
(3)高年齢群(41歳上)では,上記の様な若年群に認められた顕著な変化は認められなかった。
(4)網膜症発現前の糖尿病患者では,眠内の自然螢光を補正すると,血液網膜柵の破壊の程度に関し正常人との間に有意差を認めなかった。

水晶体前嚢下計画的白内障嚢外摘出法

著者: 原孜 ,   原たか子

ページ範囲:P.1065 - P.1069

 1980年3月より,1983年2月までの間に24人の26眼に対して「計画的白内障嚢外摘出の際に水晶体前嚢によって角膜内皮を保護する」という試みが行われ,平均22.4±11.2カ月(6〜40カ月)追跡された。先端を曲げた22ゲージ皮下注射針によりcan opener変法による水晶体前嚢切開を行う。下半周は各時刻に1個の割で,上半周は密に切開する所が重要な点である。12時の輪部圧迫により核は水晶体前嚢の下から娩出される。その後に前嚢は除去される。患者平均年齢は70±11歳(41〜81歳)であった。白内障以外に視力障害の原因となる眼疾患を有する5眼を除く術後最高視力の平均は,1.0±0.2であった。全眼の角膜中央部の内皮細胞損失率は,8.7±4.0%(0.1〜15.8%)であった。5眼の前,後嚢異常を含む8眼(30.8%)に合併症を認めたが,全ては経験の不足から来たもので,予後良好であった。

標準色覚検査表第1部(SPP−1)の検討—(2)各スクリーニング表の評価

著者: 深見嘉一郎 ,   島本史郎

ページ範囲:P.1070 - P.1073

 第1報と同じように先天色覚異常者411名に対して標準色覚検査表第1部(SPP—1)を用いて検査を行った。スクリーニング表全10表それぞれについての正読者数を検討した。また以前に行った小・中学生に対するスクリーニング・テストの結果と比較した。
 正常者の正読率が高く,異常者の正読率の低い,優れていると考えられる表は,第5表と第14表であった。正常者の正読率が低く,使いにくい印象を与えた第9表,第11表は,異常者の正読率も低く,スクリーニング表としては欠かせないと判断できる。
 正常者の正読率の高いものは90%以上,低いものでも80〜90%であり,色覚異常者の正読率は高いもので20%,低いものは5%以下であった。
 仮性同色表の使用色のちがいや,文字のちがいと正読率の高低との関係は十分に解明することができず,今なお不明な要素が多くある。

滲出性老人性黄斑変性に対するアルゴンレーザー凝固

著者: 真壁祿郎

ページ範囲:P.1074 - P.1077

 55〜87歳の患者95例,98眼の滲出性老人性黄斑変性にアルゴンレーザー光凝固を行い経過を観察した。
(1)レーザー凝固後36眼に視力の改善を認めた。効果は病型により相違した。
(2)血管新生を証明しない漿液性網膜色素上皮剥離では13眼中10眼に視力故善し,効果は持続的であった。
(3)広範な出血を欠く網膜下新生血管例では術後73眼中21眼に視力改善したが,その効果は多くは一時的であった。特に,網膜下新生血管膜の長径1乳頭またはそれ以上の大きい例は経過が不良であった。
(4)広範な出血を伴うも限局性の網膜一下新生血管例は12眼中5眼に視力改善し比較的良好な成績であった。

追悼

巨星墜つ

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1058 - P.1058

 ベルギーのジュール・フランソワ氏(Jules Francois)が去る8月13日に逝去された。77歳ということである。
 眼科の歴史を通じてフランソワ氏ほど活躍をされた人物はないであろう。一昨年サンフランシスコの国際眼科学会で,第一回Duke-Elder賞を受賞されたときのMaumence氏の挨拶でも,氏が今までに書かれた著書が34冊,論文が1,800編を越えるというのである。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(34)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1078 - P.1079

43.眼目養生秘伝書(仮称)
 わが国の仏教医学は奈良時代に最盛期をむかえ,その後仏教の消長に伴って盛衰があり,およそ近世初期に至るまで存続した。それは多くの仏教経典によってもたらされた。「金光明最勝王経」「四分律」「維摩経」「摩訶僧祇律」「十誦律」等は医学を説いた仏典としてよく知られている。「金光明最勝王経」は鎖護国家の妙典として尊ばれ,国家平安の祈願に供せられ,護国経の第一とせられた外,この経には疾病の原因が説かれ,その症状および療法なども記述されているといわれる。これら仏教医学は釈迦の医学,つまりインド医学を伝えたもので,奈良時代の医学に大きな影響を及ぼした。また,これら医学書的仏典と並んで広く読まれた経典に[妙法蓮華経」がある。この経はわが国へも早くより伝来し,推古天皇の御代に聖徳太子自ら講ぜられ,鎮護国家随一の妙典として読まれ,法の功徳と法罰を疾病にたとえて明解に述べられているので,広く一般民衆にもなじみのある経典といわれる。つまり一般民衆の問では,病気を治療するのに医薬の力にたよるよりも神仏に祈誓し,加持祈祷によってこれを癒そうとする風潮があり,この経典を読めば病気が癒るものと信じ,深遠な仏の教えとしてよりも加持祈祷の意味に解して読まれたようである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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