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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科38巻12号

1984年12月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・325

Kearns-Sayre症候群の興味ある眼底所見

著者: 細谷比左志 ,   春田恭照 ,   大本達也 ,   木下茂 ,   田野保雄

ページ範囲:P.1220 - P.1221

 Kearns-Sayre症候群またはKearns-Shy症候群は,1958年にKearnsとSayreが,網膜色素変性症,外眼筋麻痺,心ブロックを三主徴とする一症候群として最初に発表した症候群1)で,今までに世界中で20例以上,日本国内で4例以上の症例が報告されているが,眼科的に詳細に検討された症例は少ない2,3)。
 我々はこの度,このKeams-Sayrc症候群を3例,相次いで経験し,眼科的検討を加え興味ある所見を得たので報告する。

臨床報告

ぶどう膜炎患者のリンパ球サブセットの検討

著者: 砂川光子 ,   沖波聡

ページ範囲:P.1223 - P.1227

 ぶどう膜炎患者45名(前部ぶどう膜炎患者15名,Behçet病患者15名,Vogt—小柳—原田病患者5名,サルコイド性ぶどう膜炎患者5名,分類不能の全ぶどう膜炎患者5名)と対照健康人55名の末梢血中のリンパ球サブセットについて,OKシリーズのモノクローナル抗体を用いて検討した。ぶどう膜炎患者群では対照健康人群と比べ,OKT 4細胞の割合が増加し(p<0.01),OKIa1細胞の割合が減少していた(p<0.01)。中でも,前部ぶどう膜炎患者群では,OKT3細胞の割合およびOKT4細胞の割合とも増加し(P<0.05),Behçet病態者群では,OKT3細胞の割合およびOKT4細胞の割合とも増加し(p<0.01),かつOKIa1細胞の割合が著しく減少していた(p<0.001)。他のぶどう膜炎患者群では,症例数が少なく有意差は出なかったが,一般に,OKT4細胞の割合は増加していたが,他のサブセットの変動は少なかった。これらの事より,この様な免疫学的手段が,ぶどう膜炎の分類や鑑別診断に,あるいは病因解明に使える可能性を示唆した。

標準色覚検査表第2部後天異常用によるエタンブトール中毒性視神経症の検査

著者: 田邊詔子 ,   田渕保夫 ,   村上真理子

ページ範囲:P.1229 - P.1233

 標準色覚検査表第2部後天異常用(略称SPP−2)の検査能力をみるために,エタンブトールの副作用の検査項目のひとつとして,エタンブトール投与患者47名,のべ検査回数110回の成績を検討した。
 エタンブトール中毒性視神経症を発症したものは11例,のべ検査回数36回である。SPP−2の検査結果は,症状の軽いものは赤緑異常が主であり重症となるに従って青黄異常が加わって全色盲様となる。
 SPP−2による色覚異常の検出は,自覚的他覚的な視力障害の発現とほぼ同時期であり,副作用を特に早く捉えられるわけではないが,初期のわずかな視力低下を病的と判断する根拠ともなり,検査が簡便なことはスクリーニング検査として有用である。ただし副作用のチェックを長期間本表のみに頼るのは危険である。また,先天色覚異常,中心性網膜炎およびその他の眼底疾患の既往は,検査結果に大きく影響するので,投与前の成績を対照としなければならない場合もある。

人工水晶体挿入後の緑内障の1例

著者: 大越貴志子 ,   杉江進 ,   神吉和男

ページ範囲:P.1235 - P.1239

 後房レンズ挿入後,高度の隅角色素沈着によるものと思われる緑内障で,眼圧のコントロールが困難であった1例を経験した。
 後房レンズ挿入後の27名27眼の隅角検査を施行した結果,術眼にScheie I〜IV度の種々の程度の隅角色素沈着を全例に認め,いずれも非手術眼である反対眼に比較して高度であった。内,緑内障となったのは1眼であり,最も色素沈着が高度であった。
 したがって,後房レンズ挿入による隅角色素沈着は多くの場合,眼圧上昇をもたらさないが,高度の場合は緑内障を惹起しうるものと考えられる。
 また,このような緑内障に対し,laser trabeculoplastyが眼圧コントロールに有効であった。

先天性筋ジストロフィー症に特異な眼底像をみた1例

著者: 平田寿雄 ,   三嶋弘 ,   清水さえ子 ,   調枝寛治 ,   木村徹 ,   西美和 ,   福田清貴

ページ範囲:P.1241 - P.1244

 血清および尿中にアミノ酸の特異的な上昇を伴わない,脳回転状脈絡網膜萎縮症に類似した眼底病変を呈する3歳10カ月の福山型先天性筋ジストロフィー症の1例を経験した。本症例は眼所見に関しては脳回転状脈絡網膜萎縮症に類似しているが,水野の提唱するType I,Type IIのいずれにも完全には一致していなかった。

DIDMOAD症候群の1例

著者: 園田愛子 ,   安藤伸朗 ,   関伶子 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 DIDMOAD症候群は尿崩症,糖尿病,視神経萎縮.難聴を有する症候群である。著者らは本症候群の1例を経験したので報告する。
 症例は20歳の男性で,7歳の時,インスリン依存型糖尿病を指摘され,インスリン注射療法を開始した。18歳の時視神経萎縮,20歳の時感音性難聴を指摘された。現在まで尿崩症の発症はないが,diabetes mellitus, optic atrophy, deafnessの存在よりDIDMOAD症候群と診断した。
 本症候群の病因はまだ確定されておらず,視神経萎縮の成因についても不明である。今回,本症例について眼科的検索を行った結果.本症候群の視神経萎縮は上行性のものではなく,下行性のものであることが判明した。

開瞼失行の追加13症例—その診断と治療の試み

著者: 本田孔士 ,   直井信久 ,   吉村長久

ページ範囲:P.1253 - P.1257

 開瞼失行の13症例を,前報の5症例に追加して報告した。世界的にも,これまでこれだけ多数例を扱った報告はなく,本症のいくつかの特色を統計的に示すことができた。発症は28歳から80歳にわたっていたが,一般に高齢者に多い。男女差はなく,6例(33.3%)が瞬目過多の病期を経て発症した。眼瞼痙攣から移行したものが2例(11.1%)あった。また,パーキンソン症状を合併したものが2例あり,本症の筋アキネジアとの関連を示唆した。9例に行ったCTで前頭葉萎縮を認めたものは2例であったが,びまん性萎縮を含めると7/9例(77.8%)に異常を認めた。記銘力低下2例も本症の前頭葉との関連を示唆していた。治療薬として用いたマイナートランキライザー(各種),L-DOPA (抗パーキンソン剤),Ca-hopantenatc (HOPA)の有効な症例があったが,薬効の数量内な判定は不可能であった。眼瞼下唾手術を行った2例中2例とも患者の愁訴が軽快した。ただし,開瞼開始困難が軽快することはなかった。

日和見病原菌としてのStreptococcus faecalisによる眼感染症

著者: 大石正夫 ,   永井重夫 ,   坂上富士男 ,   米山恵子 ,   大桃明子

ページ範囲:P.1259 - P.1263

 Streptecoccus faecalisが検出された眼感染症について,その病因的意義につき検討を加えた。
 症例は1978年から1982年の5年間における12症例で,疾患は急性結膜炎2例,新生児涙嚢炎,慢性涙嚢炎各1例,角膜潰瘍3例,角膜膿瘍2例,眼窩感染1例および術後感染2例であった。
 分離されたStr.faecalisの薬剤感受性は,ampicillin, penicillin-G, minocycline, doxy—cyclineには感受性を示し,cephaloridine, cefazolin, cefmetazole, kanamycin, gentamicin,chloramphenicol, crythromycin,lincomycin, clindamycinには低感受性であった。
 白色成熟家兎眼に臨床分離菌を接種して,化膿性眼内炎の発症がみとめられた。
 Str. faecatisは常用抗菌剤に抵抗性のことが多く,今後opportunistic pathogenとして眼感染症の重要な原因菌の一つになると考えられた。

前部硝子体手術を併用したphacolytic glaucomaの水晶体摘出術

著者: 浅原典郎 ,   浅原智美

ページ範囲:P.1269 - P.1273

 3例4眼のphacolytic glaucomaについて白内障手術を施行したが,4眼とも硝子体圧がつよい傾向にあった。1眼はあらかじめ前部硝子体手術を行ったところ,良好な結果をおさめた。
 硝子体手術時に採取した硝子体液を免疫電気泳動法にて分析した結果,アルブミン,トランスフェリン,IgGの明らかな増加がみとめられたことから,硝子体への炎症の波及が示唆された。
 手術時,硝子体圧がたかかった原因については,手術までの炎症に対する治療が関係しているものと思われ,直接的には硝子体の炎症との関連性がつよくうかがわれた。
 Phacolytic glaucomaでは,早期に白内障手術を施行する場合,強力な消炎療法を行い,硝子体手術の準備をしておくか,もしくは,あらかじめ前部硝子体の切除,吸引を行っておくことは,硝子体の分析結果からも理にかなった治療法かと思われる。

3歳児健康診査における眼位スクリーニング—第2報異常者の長期経過

著者: 神田孝子 ,   川瀬芳克 ,   内田尚子

ページ範囲:P.1275 - P.1279

 1974年度から1979年度の6年間に3歳児健診で眼科的異常を指摘された異常者383人の長期経過を調べた。まず入学時まで追跡できた者の視力をみると器質的異常のない者では3歳時に弱視であった者を含め全員0.5以上であった。また3歳時に斜視と診断された者で治療中断のなかった者133人の入学時の状態は,外見,機能ともほぼ満足できるものは89人(66.9%),機能的には良くないが外見上は良い者42人(31.6%),無効2人(1.5%)であった。以上から3歳児健診で弱視や斜視をスクリーニングすることは有意義と考える。
 また全異常者の長期経過をみると152人(39.7%)が中断し,その約半数は1,2回の受診のみで治療開始前の中断であった。中断の契機では眼鏡装用を指示されての者が多かった。これらに対しては弱視や斜視の早期治療の必要性および治療法を十分理解させる必要がある。また保健所と医療機関が十分連携することにより中断者を有意に減らすことができた。

膨隆水晶体による急性閉塞隅角緑内障

著者: 友田隆子 ,   三木弘彦 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1281 - P.1285

(1)白内障の未熟期,成熟期ないし過熟期に水晶体が膨張して水晶体前面が前進し,pupillary blockをおこして急性閉塞隅角緑内障による急性発作が発生することがある。
 このような膨隆水晶体による急性閉塞隅角緑内障を最近5年間に13例経験した。これはこの間の原発性閉塞隅角緑内障の1/5の症例数で,従来の報告3〜5)以上に高頻度であった。
(2)平均年齢は76歳と高齢者が多く,成熟白内障が大多数をしめた。
(3)他眼の前房は半数が浅前房であり,元来浅前房の眼に白内障で水晶体が膨隆すると本症が発生しやすい。
(4)寿命延長に伴い,片眼白内障の高齢者がふえる結果,本症はますますふえると思われるので,急性緑内障発作時に本症を見逃さないように注意を要する。
(5)本症は高齢者に多く,緑内障発作による全身への悪影響,高浸透圧剤,炭酸脱水酵素阻害剤使用による全身脱水,手術施行と身体への侵襲が重なり,術後全身合併症の発生が多いので注意を要する。このような合併症の発生を防ぐには,薬物療法やlaser iridotomyなどで一時的寛解により全身状態の回復をまって手術を行うのがよい。
(6)膨隆水晶体の診断には,起音波検査を行い,水晶体の厚さをみるのも有用である。

Vitreous fluorophotometry値の血漿内タンパク非結合フルオレスセイン濃度動態を用いた補正法—(1)1時間値までの簡便補正法

著者: 吉田晃敏 ,   小島満

ページ範囲:P.1287 - P.1291

 Vitreous fluorophotometry測定値を血漿内fluorescein (F)濃度で補正する簡便法を検討した。8名の正常人に体重(kg)あたり7mgのF-Naを静注し,血漿中のtotal F濃度ならびに限外浜過法によるprotein-unbound F (PUF)濃度を静注後1分から5時間まで経時的に測定した。測定値をもとに,3項の指数関数,簡便法(単項の指数関数,有理整関数,対数関数)によって曲線近似した。以上の方法でF静注後60分まで濃度曲線下の面積を計算し,同様に測定値をもとに台形法で計算し比較検討した。F-Na静注後10分,60分のPUFで,単項の指数関数を用いて近似した静注後60分までの面積計算値(補正値)は,3項の指数関数,台形法による理想値と最もよく相関し,日常の臨床に用い得ることが判明した。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(36)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1292 - P.1293

45.生嶋殿相伝眼科秘伝書(仮称)
 古い写本が原装のままで伝えられることはあまり多くなく,たいてい何らかのいたみがあるのが普通である。
 本書は表紙や巻頭の部分を欠き,書名や書写年代等不明であるが,末葉の1行に"生嶋殿相伝也"と判読できる識語がある処より,その秘伝書と思われる。このようにその成立年代も定かでないが,片仮名文字の特徴,朱描眼病図の退色度合等からみる限り,あるいは江戸時代中頃の写本かと推定される。

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臨床眼科 第38巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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