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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科38巻4号

1984年04月発行

雑誌目次

特集 第37回日本臨床眼科学会講演集 (その3) 招待講演

斜視治療の進歩

著者: B.Scott ,   秋山健一

ページ範囲:P.357 - P.359

緒言
 私の選んだ眼科領域にははじめから多くの日本人研究者の名前がありました。眼球運動障害にEOGを初めて応用したのは1957年広石でした。百瀬による固視の追従運動中の外眼筋の筋電図解析や中川の詳細な解剖学的計測などは現在の生理学の本にくりかえし載せられております。国際眼科学会と国際斜視学会における日本人科学者の大挙しての参加は世界の眼科において日本が大きな役割と責任を果たしてきていることを示しております。ですから私はSmith-Kettlewell眼科研究所からの代表者として皆様方と共にこの重要な学会に参加できますことは大きな特権であり,皆様と皆様の会長である植村教授に感謝申し上げます。

学会原著

急性脈絡膜循環障害

著者: 木村早百合 ,   竹田宗泰 ,   木井利明 ,   森繁樹 ,   柴田真吾 ,   山口康一 ,   佐藤正治

ページ範囲:P.361 - P.368

 螢光眼底所見上明らかに脈絡膜螢光流入遅延の証明された3症例を報告した。成因として症例1は海綿静脈洞血栓症,症例2は原因不明の後毛様動脈循環不全,症例3は悪性高血圧症が各々考えられた。急性期の脈絡膜循環障害を螢光造影所見にて臨床的にとらえた報告は稀である。さらに全例で脈絡膜螢光流入遅延部に隣接して漿液性網膜神経上皮剥離が明らかに確認された。全例で急性期に患眼の網膜EOGのLp/Dt比が低値となり螢光造影所見と共に脈絡膜循環障害を反映する良い指標となった。

桐沢型ぶどう膜炎の臨床像と全身所見

著者: 高山秀男 ,   村岡兼光 ,   粟根裕 ,   堀内知光

ページ範囲:P.369 - P.375

 我々は急性発症で,周辺眼底から始まる黄白色混濁と網膜動脈周囲炎を最大の特徴とし,治療に反応せずに急激な経過をたどり,末期層に萎縮展底あるいは網膜剥離になった,原因不明の自験例5例9眼を「桐沢型ぶどう膜炎」と診断し,その臨床像を検索した。本症は網膜と脈絡膜の循環障害を同時に伴った網膜壊死を中軸病変とし,欧米のacute reti—nal necrosis syndrome, ARNS (急性網膜壊死症候群)と同一疾患であると結論された。また,高頻度で眼動脈ないし脳動脈の狭窄があり,1例に低免疫状態があった。我々は本症をこうした全身所見の有無にかかわらず,前記の特有な眼臨床像を有する全ての症例を包括する疾患と定義し,それがclinical entityとしての特徴を具備していることを確認した。病名terminologyとしては,ARNSの方が病像と発症病理をより良く表現しているので,これを採用することを提唱する。

ぶどう膜炎患者のEpstein-Barrウイルス抗体価

著者: 砂川光子 ,   沖波聡

ページ範囲:P.377 - P.380

 京大病院眼科ぶどう膜炎外来に通院中の前部ぶどう膜炎患者29名,全ぶどう膜炎患者40名(Behget病患者17名, Vogt—小柳—原田病患者11名,分類不能の全ぶどう膜炎患者12名)および,年齢の対応する対照健康人144名について,Epstein-Barr (EB)ウイルス抗体価を測定した。抗Viro-Capsid-Antigcn,抗Early-Antigen抗体の出現に関しては,ぶどう膜炎患者群と対照健康人群とでは差がなかった。しかし,抗体価上昇例(抗体価≧160)出現率,および抗体価の幾何平均とも,前部ぶどう膜炎患者群では対照健康人群よりp<0.01で,全ぶどう膜炎患者群よりp<0.001で有意に高値を示した。EBウイルスに対する免疫反応において,前部ぶどう膜炎患者と全ぶどう膜炎患者とは,全く異なった抗体パターンを示したことから,両者の間には単に解剖学的病巣ばかりでなく,免疫応答にも相異があるのではないかと考えられた。

ぶどう膜炎における硝子体の電顕的観察と免疫生化学的分析—2症例の桐沢型ぶどう膜炎を中心に

著者: 臼井正彦 ,   長谷見通子 ,   大西由子 ,   大浜敬子 ,   高村健太郎

ページ範囲:P.381 - P.387

 2症例の桐沢型ぶどう膜炎から得た切除硝子体を電顕ならびに免投生化学的方法によって検索した。電顕観察では,硝子体細線維の集塊と電子密度の高い顆粒状物質が認められた。また,細胞内および破壊された細胞に100〜160nmのウイルス様粒子が発見された。
 免疫生化学的には,硝子体可溶性蛋白の濃度が著明に増加し,特にIgGは可溶性総蛋白量に対する割合がほぼ一定で,かつ大きい傾向がみられた。このIgGは水痘一帯状ヘルペスウイルスに対し高い抗体価(128倍)を有し,血清のものと比較した抗体率は88と有意に上昇していた。以上の結果より,桐沢型ぶどう膜炎の病原体として,水痘—帯状ヘルペスウイルスが強く示唆された。

ベーチェット病における眼病変の変遷(第2報)

著者: 三村康男 ,   西内貴子 ,   和田恵子 ,   湯浅武之助 ,   水野薫

ページ範囲:P.389 - P.392

 これまで我々はベーチェット病の眼病変の変遷について臨床的に検討し報告してきたが,今回は症例を増やしさらに四国地区の患者も加え,合計663名を対象として眼病変発症の年次によりA・B群にわけ,病型および性差,副症状の出現状態,眼病変発症年齢,視力予後について比較検討し次の結果をえた。
(1)病型では,B群における全症例および男性患者で完全型の有意の減少がみられた。男女比ではB群で男性患者が減少していたが,有意差はみられなかった。
(2)副症状の出現頻度は,全国調査結果とくらべ,眼症状を有する患者では消化器症状,血管系症状,神経系症状が有意に低かった。A・B両群の比較では,B群で関節炎症状,副睾丸炎,神経系症状が有意に低かった。
(3)副症状の出現数が2以上である症例は16.7%であった。
(4)眼病変発症年齢においては男女ともにA・B両群間に差はみられなかった。
(5)定型的な螢光眼底所見を示した網膜ぶどう膜炎型の視力予後は,発症後5年で判定するとB群の有意の改善がみられた。

難治性べーチェット病に対するCyclosporin A療法

著者: 赤沢和美 ,   溝渕京子 ,   秋谷綾子 ,   茂木桂子 ,   荻原葉子 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.393 - P.397

 従来の治療によって眼および全身症状を抑えることができなかった難治性ベーチェット病患者9例16眼に対し,Cyclosporin A療法を施行した。投与量は10mg/kg/dayとして,症状に応じて増減した。投与中視力低下をおこしたもの5眼,うち2眼はべーチェット病の眼発作であり,1眼は硝子体索状物の牽引による硝子体出血,2眼は硝子体混濁の増悪したものであった。投与後に視力の低下したものは,眼発作をおこした2眼であり,不変3眼,軽快11眼であった。全身症状は9例中7例において軽快したが,2例は投与後も全身症状に変化はなかった。免疫学的検査ではOKT4/OKT8で1例のみ低値を示したが他の症状は正常範囲であった。ツベルクリン反応は,強陽性であった3例のうち2例に陰性比が認められた。Cyclosporin A最低血中濃度は,眼発作をおこした症例は全て30ng/ml以下と低値を示し,眼発作をおこさなかった症例は30ng/ml以上の値を示した。経過観察期間が短かいために,薬剤の有効性についてはさらに長期間の投与観察を要する。

サルコイドージス長期観察例に対する血清学的検討—第1報細胞性免疫について

著者: 小暮美津子 ,   吉川啓司

ページ範囲:P.398 - P.402

 長期間観察しえた眼症を有するサルコイドージス患者32名の免疫異常を検討し,以下の結果を得た。
(1) PPD値は,発症とともに陰性化し,回復につれて陽性化する。眼外症状の消退後も眼症が存在する間は,陰性を持続していた。
(2)活動期には末梢血でTγ(%)の低下,OKT 4陽性細胞の低下, OKIa陽性細胞の増加が有意に認められた。この傾向はPPD陰性検体に著明で, Tγ(%)の低下は眼症のみの遷延化例で多く認められた。
(3)血清免疫グロブリン値はIgMのみが高値であった。
(4) ACE値は肺病変の活動性を敏感にとらえるが,活動性眼病変のみでは高他を示さなかった。

Bacillus cereusによると考えられる転移性ぶどう膜炎の1例

著者: 平野洋子 ,   高橋堅一 ,   山木邦比古 ,   櫻木章三

ページ範囲:P.407 - P.412

 62歳男性。胃癌手術後,右眼に網脈絡膜病巣,左眼に濃厚な硝子体混濁を伴うぶどう膜炎が発症した。ステロイド剤,抗生剤により一時軽快したが,左眼前房蓄膿の出現と硝子体混濁の増強があり,硝子体手術を行った。吸引硝子体よりBacillus cereusが培養検出され,その薬剤感受性より,AKMとEMの療法を行い治癒した。
 内因性ぶどう膜炎には,感染性のものも念頭におき,その確定診断には,硝子体の検索が有用である。

透光体混濁眼の予測視力の精度について

著者: 福原潤 ,   魚里博 ,   森岡藤光 ,   畑中治 ,   西信元嗣 ,   中尾主一

ページ範囲:P.413 - P.418

 従来もちいられてきた干渉縞視力による,透光体混濁眼の術後視力の予測精度をさらに高める目的で,従来の干渉縞視力測定と,新たにspeckle pattern shift刺激によるVEP,および混濁透光体より発生するspeckle patternのappearance-disappearance刺激によるVEPを測定し,術後視力の予測を試みた。
 その結果,これら三者を併用して求めた予測視力は術後視力との相関が高く,高精度の予測が可能であった。さらに,強度の瀰漫性混濁のために,従来の干渉縞視力測定が不能であった症例のうち,片眼のみの症例では,他眼の視力と他眼および患眼より記録したspeckle pattcrn appearance-disappearance VEPの三者により,術後視力を高精度に予測することができた。

学術展示

小口病に中心性輪紋状脈絡膜萎縮症を合併した1例

著者: 菅原正容 ,   大西正一 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.422 - P.423

 緒言小口病は視細胞・網膜色素上皮の異常による疾患と考えられている1,2)。一方,中心性輪紋状脈絡膜萎縮症は網膜色素上皮・脈絡膜毛細血管板の障害による疾患と考えられており3,4),両者とも比較的稀な疾患とされている。今回われわれは小口病に中心性輪紋状脈絡膜萎縮症を合併した症例を経験したので報告する。

網膜剥離における網膜下索状物

著者: 恵美和幸 ,   坪井俊児

ページ範囲:P.424 - P.425

 緒言網膜剥離において網膜下索状物は硝子体および網膜前の増殖性変化と同様,剥離網膜の復位を妨げる重要な牽引要素である。網膜下に形成された索状物が剥離網膜の骨格を形成し,収縮して復位を妨げる例に対しては硝子体手術を含め適切な処置を要する1)。この様な網膜下索状物は遷延化した網膜剥離例においてしばしば認められるが,一般にはdemarcation lineとして看過され,注目されることも少なく,その成因,特微についての総括的な報告はみあたらない。しかし網膜下の増殖性変化を伴う網膜剥離は術後の視力不良例や網膜下液吸収遅延例など臨床予後の悪いものが多く,硝子体および網膜前の牽引性増殖性変化と同様に注意を要するものと考えられる。そこで今回,我々は特発性の網膜剥離例において網膜下索状物を伴う例の特微につき検討をくわえた。
 方法1982年1月より12月までの1年間に阪大眼科に入院し,手術を施行した網膜剥離症例の中で特発性網膜剥離129例135眼を対象とし,検眼鏡およびスリットランプを用いて網膜索状物を検索した(図1)。糖尿病性網膜症,葡萄膜炎,眼内腫瘍などによる続発性網膜剥離は対象から除外した。

アトピー性皮膚炎に円錐角膜,白内障,および網膜剥離を伴った1例

著者: 今泉忍 ,   石川祐二郎

ページ範囲:P.426 - P.427

 緒言アトピー性皮膚炎に合併する眼疾患として,眼瞼皮膚炎,角結膜炎,円錐角膜,虹彩毛様体炎,白内障および網膜剥離などの報告がある。今回著者らはアトピー性皮膚炎に円錐角膜と白内障を伴い,白内障手術前に超音波検査において網膜剥離の存在が疑われ,白内障手術後に網膜剥離を確認できた症例を経験したので報告する。
 症例:18歳,男性。

脳回転状脈絡網膜萎縮症患者へのプロリン投与の効果について

著者: 早坂征次 ,   塩野貴 ,   中島久雄 ,   高橋攻 ,   水野勝義 ,   斉藤峻 ,   多田啓也

ページ範囲:P.428 - P.429

 緒言脳回転状脈絡網膜萎縮症の生化学的病態を解明し,治療を試みたので報告する。
 目的高オルニチン血症を伴う脳回転状脈絡網膜萎縮症(Gyrate Atrophy)はオルニチン・ケト酸・トランスァミナーゼ(OKT)の活性低下により発症することが明らかにされている。Gyrate Atrophyの生化学的背景が解明されるにつれ,諸々の治療法が試みられている1)ビタミンB6投与,低蛋白・低アルギニン食,クレアチン投与,リジン投与などが報告されている。我々はプロリン投与を試みている。Gyrate Atrophyのような慢性進行性疾患の治療効果の判定には,少なくとも1年以上の経過観察が必要と思われるので,長期プロリン投与の前後で,視機能や眼底像を比較検討した。

網膜脈絡膜萎縮症の後極部病変に関する研究—第2報斑状病巣について

著者: 小見山知之

ページ範囲:P.430 - P.431

 緒言網膜脈絡膜萎縮症は各種原因により生じ,種々の形態変化を呈する。前報1)にて各種萎縮症における部位別頻度の特性を検討したが,その際,1/2〜1/5乳頭径大で,視機能にも影響を及ぼす斑状病巣が,強度近視等によくみられた。この斑状病巣は,脈絡膜血管に関する諸研究2)より脈絡膜循環障害を反映すると考えられ,その病態の究明は,網膜脈絡膜萎縮症の発症および進行の予防にも有益である。そこで今回,この斑状病巣の特微および脈絡膜循環との関速につき,臨床的に検討した。
 対象と方法対象は1980年10月から1983年4月までの2年7カ月間に岡山大学眼科外来を受診し,原因を間わず,主として後極部に何らかの網膜脈絡膜萎縮症を認め,螢光眼底撮影にて詳細に萎縮巣が判読できた162例250眼である。対象範囲は乳頭耳側8乳頭径,鼻側7乳頭径,上下7乳頭径までとし,光凝固等の人工的萎縮および周辺部に病変の主体のあったものは除外した。これらの症例に対し,検眼鏡的検査および螢光眼底撮影を行い,このうち1/2〜1/5乳頭径大の斑状病巣のみられるものにつき検討した。また強度近視等に多い大きな変性でも辺縁が斑状なものは,斑状病巣の集合したものとして扱かった。

妊娠中毒症と網脈絡膜症

著者: 高橋甚吉 ,   玉井信

ページ範囲:P.432 - P.433

 緒言妊娠中毒症に併発する網膜症1),特に無裂孔性網膜剥離の主病変は脈絡膜にあると考えられている2)が全身合併症のため発症早期から螢光眼底撮影(以下FAGと略す)で循環動態を観察することは困難である。
 今回我々は産褥期に生じた網脈絡膜症の2例を経験しFAG所見から二型に分類されるのではないかと考えた。

連載 眼科図譜・317

Q-switched Nd-YAG laserによる後発白内障切開術および瞳孔形成術

著者: 弓田彰 ,   白土城照 ,   北沢克明

ページ範囲:P.354 - P.355

 近年,Q-switched Nd-YAG Iaserの眼科臨床への応用が進められ,既に実用に供せられている1,2)。Q-switchedNd-YAG laserの眠組織への作用はoptical breakdownによるものであり,argon laserが熱効果により作用することとは,その機序を異にしている1〜3)。Optical break—downの発生は物質の吸光係数に関係しないので,中間透光体におけるlaser手術が可能である1,2)。また,その組織破壊力は強力であり,虹彩切開なども短時間で施行可能である1,2)
 Q-Switched Nd-YAG laser装置であるLASAG AG社製MICRORUPTOR IIを用いて行った手術症例を示す。

臨床報告

市販硝子体内蛍光光度計(3機種)の評価

著者: 萱沢文男 ,   加藤賀千雄 ,   桑山和加子 ,   町田照代

ページ範囲:P.437 - P.440

 1983年6月末現在で,国内で,vitreous fluorophotometryの目的で使用されている螢光光度計3機種(Fluorotron Master, Fluoromet, Gamma-Inami)について,その検量限界,精度,Tailing effectについて比較検討した。検量限界は市販の状態では, FluorotronMasterがもっともすぐれていたが,光電子増倍管を電子冷却素子により冷却したGamma—Inamiでは,10倍以上のS/Nの改善がみられた。
 Tailing effectは, Fluorotron MasterとGamma-Inamiでは,優劣がつけられないが,Fluorometは約2倍の範囲にTailingがみられた。

日本(京都)におけるSpheroid Degeneration,気候性角膜症,瞼裂斑および翼状片について

著者: S.Norn ,   千原悦夫

ページ範囲:P.441 - P.444

 眼球の露出部における曝光原性変性と考えられている種々の病変の頻度について緯度35°の京都における189人の日本人(モンゴル人種)を対象に調査した。そしてその結果を著者自身が同じ検査方法を用いて紅海近辺のコルダン(アラブ人,127人),グリーンランド(エスキモー,659人)とデンマーク(白人810人)において調査した結果と比較した。
 今回調査した日本人のうち31%に結膜の球状変性(spheroid degeneration)が認められ,60%に瞼裂斑が認められた。この比率は日照時間の長いヨルダンよりは少ないがグリーンランドやデンマークよりは高かった。気候性角膜症(clirnatokeratopathy)はグリーンランドより低い頻度で認められた。このことは日本において曝光性の結膜変性の出現頻度が高いにもかかわらず曝光性の角膜変性をおこす危険性が少ないことを意味する。翼状片はわずか1%という驚くべき低い頻度にしか認められなかった。このことは翼状片が結膜の変性とは無関係であることを意味している。

網膜色素上皮細胞の網膜下液排液機能について—網膜剥離患者における検討

著者: 千原悦夫 ,   塚原勇

ページ範囲:P.445 - P.448

 神経網膜と網膜色素上皮細胞の間には解剖学的な糸結合がなく,この両者が接着するためのメカニズムとして視細胞間物質,外節と網膜色素上皮細胞の交互嵌入などの他に,網膜色素上皮細胞が網膜下腔より脈絡膜側へ水を排出し,網膜下腔に陰圧を生ずることが重要であると考えられている。われわれはこの網膜色素上皮細胞の排水能力を推定するために,網膜剥離患者において手術前の超音波断層像を撮影して網膜下液量を計算し,これが消失するまでの時間を測定することによって,網膜色素上皮細胞を介した網膜下液の排液量を推定した。網膜色素上皮細胞は1日に200μl/cm2以上の網膜下液を脈絡膜側へ排液していると考えられ,神経網膜が網膜色素上皮細胞に接着するために重要な役割を果たしていると考えられた。

両側視神経圧迫を起こしたfibrous dysplasiaの1例

著者: 松本雄二郎 ,   能勢晴美

ページ範囲:P.449 - P.453

 視神経圧迫を起こすfibrous dysplasiaに対し視神経管開放術を施行した症例は数少なく,またその手術の視力予後も一定していない。今回,著者らは視力障害を訴える12歳男子で,右視神経圧迫を起こしたfibrous dysplasiaに対し右視神経管開放術を試み,良好な視力改善が得られた1症例を報告した。
 視力障害,視野欠損を呈する疾患の中では,fibrous dysplasiaは極めて少ないものであるが,著者らの経験と文献的症例を検討した結果,視機能検査,単純頭部X線写真,CTなどの手段により,fibrous dysplasiaによる視神経圧迫所見の早期発見,早期治療が,視力予後の上で非常に重要なことであると考えられた。

留置針を用いた球後麻酔—その2この方法の限界

著者: 玉井信

ページ範囲:P.455 - P.457

 球後針を留置することにより局所麻酔薬を繰返し注入することが可能となり,長時間におよぶ局所麻酔による眼科手術が可能となる。この方法による手術例が35例に達した。35例中10例で術中痛みを訴え,これを完全に除去することができなかった。そのいずれもが眼科手術をすでに受けた症例であり,こうした症例に対する長時間手術にはこの方法にても限界があると考えられた。35例中1例で不幸にして球後針の刺入時に血管損傷をおこし,大量出血を来したが留置針を通して出血が排除されこの方法の長所の一つと考えられた。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(28)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.458 - P.459

37.柚木流眼科秘伝書
 眼科諸流派が一流一派を樹立してその特色を誇称してきたとはいえ,その秘伝とする内容は,某流の内薬は何の眼病に妙薬であるとか,某派は内障の治療術に優れているとか,一方一技をもって他流と互に競っていた程度である。しかし,何れの流派の医家も眼病治療の妙術を生みだすためにはその病因を究明し,創意一工夫を必要とした。また,そうした気持を抱いていたに違いない。そのために,できうれば人体の解剖をしてその仕組を知り,眼病の原因を突きとめることによって,治療を効果的にしようとした。しかし,こうした考えを実地に行うとする時,最大の障害になったものが宗教的抑制であったように思われる。また,官の目も非常に厳しかった。
 こうした時代,柚木太淳(字仲素,号鶴橋,京都の眼科医,〜1803)は寛政9年(1797)8月6日官に請願し,許を得て,その10月に一刑屍を解剖し,「眼科精義」,「解体瑣言」(寛政11年刊)等を著わしたといわれる。これより先,根来東叔(京都の眼科医)は享保17年(1732),人骨を観察して写生し,それに説明を加えて寛保元年(1741)に「人身連骨真形図」と題する一書を作った。ついで寛保2年(1742),「眼目暁解」を著わした。この書には眼球の構造を想像によって描いた眼球内景図が載せられ,白内障手術の経験より白内障は眼球中央部の病であると,その部位の解剖学的位置づけをしているといわれる。

GROUP DISCUSSION

緑内障(第25回)

著者: 澤田惇

ページ範囲:P.460 - P.462

 今回も,例年のように総説と,焦点をしぼった一般演題17題が発表された。
 井上洋一(オリンピアクリニック)が総説として自動視野計について述べた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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