icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科38巻5号

1984年05月発行

雑誌目次

特集 第37回日本臨床眼科学会講演集 (その4) 学会原著

静視標に対する調節と輻輳の研究—1.正常人での検討

著者: 初川嘉一 ,   村井保一 ,   大本達也 ,   森眞千子 ,   池渕純子 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.473 - P.478

 新しく開発した両眼屈折・眼位同時測定装置を用いて,静的に調節と輻輳の関係を調べた。自然視下で視標を5mから20cmまで近づけ,両眼開放下と片眼遮蔽下とを比較し,正常例では両者の間に余り差を認めなかったが,外斜位例では融像性輻輳の存在を認めた。片眼遮蔽下で視標を近づけて近接刺激と調節刺激を与えた場合と,調節刺激装置を用いて調節刺激のみを与えた場合とを比較し,視標を近づけた場合の方が単位調節量あたりの輻輳量が大きく,近接性輻輳の存在が推察された。症例によっては,近接性輻輳のみの存在を明らかにすることができた。また調節性輻輳のみを調べた結果,AC/A比は2.8±1.0degrees/diopterであった。

眼屈折度の高低別左右差より見たる屈折要素の年間変化量の差異

著者: 大塚任

ページ範囲:P.479 - P.482

 眼屈折度を高低別に分け,その相対応眼の左右差をコンピューターで計算すると,屈折度の有意差は,屈折要素の有意差を示したものが原因で起こるといえることを著者が発見し,その屈折要素の年間変化量が如何なる因子が主となって起きているかを証明しようとしたものである。その結果,初診時の屈折度の有意差は,屈折度の年間変化量および眼軸長の年間変化量の有意差が原因となっていることを証明できた。これは所および加部のデータに明らかにあらわれているが,鈴木の結果にもこれに近い結果が見られ,高山の結果より,初診時の眼鏡度の低矯正,過矯正がその原因をなしていることがほぼ類推される結果を得たのである。大塚の説の理論については旭川で所が代講した。

VDT作業による眼精疲労について

著者: 岩崎常人 ,   栗本晋二 ,   野村恒民 ,   大久保享一 ,   野呂影勇 ,   山本栄

ページ範囲:P.483 - P.487

 Visual Display Terminal (VDT)使用者に眼精疲労を来すものが少なくなく,この眼精疲労の治療,予防対策が急がれる。そこでディスプレイの様態による調節機能への影響を調べ,眼精疲労の予防について検討した。被験者30例には,ディスプレイ上での物名探索作業を行わせた。ディスプレイの条件には,1)文字の色,2)文字の輝度,3)文字の間隔,4)ディスプレイの大きさの4種を変化させた。調節機能の測定には赤外線オプトメーターを用い,毛様体筋の微動調節運動を1時間毎に測定した。その結果,青色文字,高輝度の場合,また文字間隔の長い場合やディスプレイサイズの小さい時に,微動調節運動の低周波化が著しかった。これらのことから,VDT作業におけるディスプレイの物理条件を改善することは,眼精疲労の予防に大きく関与することが示唆された。

精神発達障害児に対する眼科的管理

著者: 黒田紀子 ,   本橋郁代 ,   山森真紀 ,   安達恵美子

ページ範囲:P.489 - P.493

 精神発達障害児343名を対象とし,従来より多く合併するとされている屈折異常,眼位異常を中心に眼科的管理について検討した。対象に含まれている基礎疾患は脳性麻痺が最も多く,髄膜炎または脳炎後遺症,先天性水頭症,小頭症,頭蓋内出血後遺症,Down症候群,その他種々の先天疾患である。屈折異常はこれらの症例の79.3%にみられ,その中の約70%,206名に眼鏡を処方した。実際に眼鏡を装用したのは,さらにその70%に相当する145名で,この中,視力の改善があったと思われるものは57名で,実際に眼鏡を装用したものの39.3%であった。一方,眼位異常は63.7%に認められ,その中の約1/3が手術施行例およびその予定者である。眼位異常者に弱視訓練,視能矯正を行った結果,共に,その中の約50%に効果を認めた。これらの効果判定には,日常生活の観察とVECP検査によるところが大きかった。
 今回の結果より,残存して埋もれている視機能をわずかでも伸ばす意味で,早期より眼鏡装用,弱視訓練,視能矯正を試みるべきと考え,今後も努力して行く予定である。

外傷性視神経障害の臨床的解析

著者: 関谷善文 ,   大久保潔 ,   田上勇作 ,   諌山義正

ページ範囲:P.495 - P.499

 非開放性外傷性視神経障害67例73眼の視機能障害を視野変化のパターンにより,視野消失型,水平半盲および不規則欠損型,片側耳側半盲型,中心暗点型,求心性狭窄型の5型に分類した。視神経は解剖学的に眼窩内,視神経管内,頭蓋内の3部に分けられるが,その各部における血管支配を考慮に入れ,病理学的検討報告を参考として,各型の視野障害の成因を検討し,発症機転を類推することにより,個々の症例の病態を推測しえた。
 次に視機能障害の経過につき,保存的療法と手術療法を対比して観察した。すなわち,治療効果の判定に新しい基準をもうけ,今まで考慮されることのなかった視野変化の推移を加味して検討した。全体として手術施行例22眼中14眼の改善,非施行例51眼中18眼の改善を示し,手術施行例に有意に高い改善率を示したが,非施行例でもかなりの改善率を示し,今後なお,治療の面で検討の余地があると考えられた。

事象関連電位の臨床応用

著者: 市橋進 ,   筒井純 ,   安田雄 ,   寺尾章

ページ範囲:P.501 - P.505

 マイクロコンピューターを用いた数字刺激により,誘発される事象関連電位(P300)の基本的な問題と臨床応用の価値について検討した。
 正常者において,P300成分は注意を向けた課題関連刺激のみに出現することから,この波形は内因性の反応であり,選択的注意を表現したものと考えられた。またこの振幅が左半球で大きい傾向を示したことより,計数中枢が左半球優位であることとの関連が示唆された。
 痴呆患者において,臨床症状が改善した例ではP300頂点潜時の短縮と振幅の増大傾向が認められ,課題が不可能な場合にはP300成分は出現しなかった。
 以上のことより,数字刺激は事象関連電位の刺激方法として適当であり,知能障害のある患者の経過について治療効果を判定する一つの指標とすることができる。

光視症と閃輝暗点の診断と治療

著者: 本田孔士

ページ範囲:P.507 - P.512

 光視は飛蚊症と明確に鑑別されねばならない。更に,光視は末梢性と中枢性に分類される。前者は狭義の光視症であり,後者には閃輝暗点が含まれる。中枢性光視症は,後頭葉腫瘍,血管異常などによって起るが,器質病変のはっきりしないものもある。その一部にphenytoin療法が著効するものがあることを報告した。

日常診療における回旋偏位の評価についてNew Cyclo Testsによる検討

著者: 粟屋忍 ,   菅原美雪 ,   三浦元也 ,   平井淑江

ページ範囲:P.513 - P.517

(1)上斜筋麻痺15例,下斜筋麻痺2例,A型斜視5例において,著者らの開発した新しい検査表New Cyclo Testsにより測定された回旋偏位の値はSynoptophore,Phase Difference Haploscopeによる測定値とよく一致した。
(2) New Cyclo Testsは回旋偏位の定量的測定に簡便で有用であると考えられる。
(3)回旋偏位の定量的把握は,偏位の程度判定や,治療前後の経過の比較に大切であり,日常診療においてつねに検査されることの必要性を強調した。

先天性・後天性色覚異常者の第3色盲混同線上における彩度識別能について

著者: 宮本正

ページ範囲:P.523 - P.530

 CIE色度図上でC点を通る第3色盲混同線上より選んだ93個の色票(ΔE=1)を用いて配列検査を行い,色覚正常者,先天性,後天性色覚異常者の彩度識別能を検討した。
 色覚正常者,先天性色覚異常者の全例が93個の色票を正しく配列することができなかったが,色票数23個(ΔE=4)まで減じるとほとんどの者が正しく配列できた。しかし後天性色覚異常者では,症状が極く軽度の者でも23個の色票の配列を誤った。
 したがって本法を用いた後天性色覚異常の検査は,疾患の診断,経過観察,予後の判定に極めて有用なものと思われる。

斜視外来における改良型Fundus Haploscopeの有用性について

著者: 新井真理 ,   可児一孝 ,   稲富昭太

ページ範囲:P.531 - P.534

 Fundus Haploscopeは大型弱視鏡の機能を備え,内蔵された赤外線カメラにより眼底を同時に観察できる器械であり,その特徴は眼底と視標との位置関係が明確にできる点にある。しかしこの器械は大型であり,日常の臨床には使用しにくい欠点がいくつかあったので,臨床での使用を目的としてFundus Haploscopeの改良を行った。1)上下斜視に対処するため,鏡筒の上下への傾き,すなわちあおりができるようにした。2)スライドの上下左右への移動や回旋を,手動から電動にきりかえた。3) TVの画像を水平方向40°垂直方向30°と広くし,眼底の位置関係をわかりやすくした。4)ピント調節により眼底や視標の大きさが変化しないようにした。
 このような改良により,以前よりも簡単に操作できるようになったので本器械を大型弱視鏡と同様に斜視外来で使用し,その有用性を1)検査可能年齢,2)網膜対応異常症例について検討した。その結果,3,4歳では検査可能な症例は.大型弱視鏡とくらべると少ないが,5歳以上では90%以上の症例に対し使用可能であった。また網膜対応の異常な症例は全体の17%にみられ,そのうち融像まで得られた症例は,すべて微小角斜視であることが確認された。
 Fundus Haploscopeは改良により操作しやすくなり,研究面のみでなく,日々の診療に十分使用可能となった。

学術展示

慢性腎不全透析患者にみられる網脈絡膜血管病変(抄録)—蛍光眼底造影所見を中心にして

著者: 入野田公穂 ,   佐藤章子 ,   三上規 ,   町田祐子 ,   松山秀一

ページ範囲:P.535 - P.535

 慢性腎不全透析患者には,高血圧症の合併頻度が高く,また心・血管障害が死因の半数近くを占めていることから,透析患者にとって血管病変は避けることのできない問題である。今回我々は,当院および鷹揚郷腎研究所にて加療中の人工透析患者75名(年齢19〜72歳平均年齢45.7歳,透析歴3カ月以上11年7カ月まで平均透析歴4年7カ月)に対し,視力,眼底および螢光眼底検査,網膜電図検査等を行い網脈絡膜血管病変を検討し,また血圧値(最高血圧)との関係について検討した。原病の内訳は慢性糸球体腎炎59名,嚢胞腎5名,慢性腎盂腎炎4名,糖尿病性腎症およびループス腎炎各1名,その他5名である。
 結果:(1)脈絡膜血管病変として脈絡膜背景螢光の充盈遅延,Elschnig's spot,脈絡膜大血管の閉塞が認められ,これらの脈絡膜血管異常所見は39例(52%)にみられた。一方網膜血管病変として毛細血管透過性亢進,毛細血管瘤,毛細血管床閉塞,RPCの拡張,動・静脈の著しい狭細化・閉塞が認められ,これらの網膜血管異常所見は29例(38.796)にみられた。

陳旧性硝子体出血に対するウロキナーゼ硝子体内注入療法—その2ウロキナーゼ純度による臨床効果の検討

著者: 玉城宏一 ,   沖坂重邦 ,   武谷ピニロピ

ページ範囲:P.536 - P.537

 緒言WilliamsonとForrester1)の報告以来,陳旧性硝子体出血に対してフィブリン溶解酵素活性剤であるウロキナーゼの硝子体内注入療法が試みられ,我々も1978年6月より高純度のウロキナーゼを使用して良好な成績を得ている2)。最近では製剤技術の進歩により更に高純度のものの使用が可能になった。今回我々は24,000国際単位ウロキナーゼ硝子体内注入療法を施行した20例について,蛋白含量0.83mg/mgのものを使用した前期10例と,蛋白含量0.17mg/mgのものを使用した後期10例について術後の硝子体混濁,視力,合併症(前房蓄膿,虹彩毛様体炎,白内障,緑内障)などについて比較検討したので報告する。
 対象および方法対象は表1に示すように長期間の非観血的治療(3カ月から78カ月)にもかかわらず高度の視力低下をきたしている硝子体出血20例とした。なお術前検査としてERGや超音波断層検査を施行した。

結節性硬化症における血液網膜柵および血液房水柵透過性の検討

著者: 瀬戸千尋 ,   江口秀一郎 ,   新家真 ,   小室優一

ページ範囲:P.538 - P.539

 緒言結節性硬化症は,顔面脂腺腫,癲滴発作,知能発育障害を主徴とし,全身諸臓器に多発性の腫瘍を生ずる疾患であり,特に稀な疾患ではない。眼科的にはVan der Hoeveが本症に眼底腫瘍を発見1)して以来,多彩な眼合併症の報告があるが,特に眼底病変の発現頻度に関しては,報告者によっては本症の約半数を占める2〜4)。眼底病変は漸次進行し,網膜,硝子体出血や腫瘍崩壊,散布を生じ,ついには重篤な視力障害を来たす事もあり,かつ,検眼鏡的に眼底病変の認められない症例にても,螢光眼底撮影上,異常を認める症例が報告されている5)。更に本症にはしばしば白内障,虹彩異色等の前眼部病変を伴うことが報告されている2,3)。今回我我は本症の眼病変の病態をより詳しく把握するために,fluorometryの手法を用いて血液房水柵(BAB)および血液網膜柵(BRB)につき検討したので報告する。
 対象および方法1)対象;当院皮膚科にて結節性硬化症と診断された4名(3名は同一家系6))であり,年齢性別,眼病変を表1に示す。

円形脱毛症,十二指腸潰瘍あるいは自律神経失調症を伴った中心性漿液性脈絡網膜症

著者: 吉岡久春 ,   阿部文英 ,   疋田直文 ,   松野亨規

ページ範囲:P.540 - P.541

 緒言中心性漿液性脈絡網膜症の原因は未だ不明である。我々はストレッサーとしてアドレナリンを用い,その反覆静注により,猿に人の本症と同じ病変を作ることができたことから本症の原因にストレスが関与していることを明らかにした1)。今回は,さらに本症がストレスと関係がある一根拠として,本症例に従来ストレスによることもあると考えられている円形脱毛症,十二指腸潰瘍あるいは自律神経失調症を合併した症例を経験したので報告する。
 症例1:46歳女性。初診1973年9月17日。主訴:右眼視力障害。現病歴:2カ月前より右眼中心暗点を自覚して近医を受診して中心性漿液性脈絡網膜症の診断を受ける。視力右0.3(n.c.)左1.2(1.5×+0.5D)。1973年10月光凝固施行にて自覚症状改善。右眼視力0.9(n.c.)となる。その後再発をくり返し,螢光眼底写真にて以前とは異なった部位よりの螢光漏出(図1噴出型スポット)を認む。発病初期より円形脱毛症が発症し,その同時期に視力低下に気付く。円形脱毛症が軽快するに従い視力も改善した。再発時再び円形脱毛症を来たした(図2)。

良好な経過を示した前部虚血性視神経症の7例

著者: 坂井豊明 ,   阿部春樹 ,   西巻知佐子

ページ範囲:P.542 - P.543

 緒言従来,前部虚血性視神経症(AION)は一般に予後不良で,高度の視機能障害をきたすとされている。しかし,セクター型に虚血のくるsectoral AIONでは,発症時より中心視力の低下は高度ではなく,視力予後も悪くないものと推定されるが,最近の報告でも,必ずしも予後は不良ではないとされている1)
 今度,比較的高齢者にみられた乳頭炎ないし乳頭浮腫を検討した結果,セクター型AIONが7例みられた。この7例について,視力,視野,眼底所見,螢光眼底所見,網膜神経線維層欠損などの経過を観察することができたので報告する。

未熟児網膜症に対するビタミンEの効果について(I)

著者: 高田正博 ,   馬嶋昭生 ,   田中純子 ,   加藤寿江

ページ範囲:P.544 - P.545

 緒言著者らは幼若猫を用いた実験的未熟児網膜症に関する研究1)で,ビタミンE (V.E)がその発生予防と進行防止に有効であることをすでに報告した。今回は,臨床的に未熟児に投与されたV.Eが未熟児網膜症(ROP)に対してどのような効果があるのか検討した。
 方法V.E投与群(A群:38例)には,生後0日と2日目にTocopherol acetate 50mg/kgを筋注しその後は同量を毎日内服させた。対照群(B群:140例)はV.E非投与群で,V.Eを投与した期間の前後の症例を選んだ。また,経時的に採血ができた症例の血中V.Eと過酸化脂質(LP)を測定した。

連載 眼科図譜・318

Chlamydia trachomatisによる封入体性結膜炎の1例

著者: 青木功喜 ,   田中宣彦 ,   沼崎啓 ,   千葉峻三

ページ範囲:P.470 - P.471

 緒言眼科に極めて馴染みの深いトラコーマの病原体,Chlamydia trachomatis は欧米では非淋菌性尿道炎,子宮頸管炎,乳幼児の肺炎,直腸炎と眼結膜以外にも多種の感染症を起こすことが報告され,Sexually transmit—ted diseaseとして注目されている1)。我々は偽膜性結膜炎の新生児において結膜よりchiamydia trachomatisを分離しえたので報告する。
 症例H.S.,生後14日目(58-5037)。

臨床報告

透析療法中の糖尿病性牽引性網膜剥離症例の硝子体手術

著者: 上谷彌子 ,   高塚忠宏

ページ範囲:P.547 - P.551

 無ヘパリン化血液再循環透析法partial blood recirculation dialysisで維持透析中の糖尿病性牽引性網膜剥離患者3眼に,硝子体切除術を施行した。
(1)症例1は術前視力の指数弁から0.6へ,症例2は手動弁から0.3へ,症例3は指数弁から0.5へと良好な視力改善を得た。
(2)術中術後の大きな出血はなく,2症例では,虹彩ルベオーシス出現もなく,眼圧上昇も認められなかった。1症例では併発白内障摘出術を同時に施行したため,術後1週目に虹彩ルベオーシス出現,眼圧上昇をみたが,加療により1カ月後にはルベオーシスは消褪し,眼圧も落着いた。
(3)3症例共,術中術後を通して全身状態は安定し,血糖値コントロールも良好であった。無ヘパリン化血液再循環透析法は,維持透析中の糖尿病性牽引性網膜剥離患者の硝子体切除術時,および術後の出血予防に有効であった。

蛍光網膜電図(Fluorescein ERG)増殖性糖尿病性網膜症と汎網膜光凝固術

著者: 玉井信

ページ範囲:P.553 - P.556

 フルオレスセン(F)静脈内注射後その励起光により記録される螢光網膜電図(F-ERG)は血液—網膜柵(BRB)の障害を反映している。BRBの破壊された状態の代表的な疾患である増殖性糖尿病性網膜症(PDR)には現在汎網膜光凝固術(Pan-PHC)がその進行阻止に最も有効と考えられ多用されている。そこでF-ERGからみたBRBはPan—PHCの前と後でどうなったかを観察した。Pan-PHCの前後でF-ERGの増強程度に有意差はなく,F静注後1分より10分にかけて0.1%の危険率で正常者群に比し増強されたF—ERGが記録された。これは今までの実験データから考えると(1) FAG上では漏出なく,網膜がdryにみえても漏出がはげしいこと,(2) PDRを来している全身状態のため増強効果をもたらしていること。(3)光凝固の瘢痕を通して脈絡膜循環にあるFからの螢光により視細胞外節が刺激され増強されたERGが記録されていること等の可能性が考えられる。その結論は得ていない。

レーザー光凝固により消失した先天性硝子体嚢腫の1例

著者: 大塚忠弘

ページ範囲:P.557 - P.560

 生来健康な21歳男子の左眼硝子体中に浮遊する直径約3mmの球形,茶褐色の先天性硝子体嚢腫を認めた。嚢腫は移動性を有し,しばしば,黄斑部を覆って突然の視力障害を来していた。超音波検査の結果,内容物が実質性ではなく,硝子体と同様の物質から成ると推定された。
 この嚢腫に対し,2回にわたってアルゴンレーザー光凝固を施行した。凝固はBritt社製レーザー光凝固装置を使用し,1回目は0.7W,200μm,0.02secで20発,2回目は1.0W,400μm,0.05secで3発施行した。その結果,嚢腫はその破片と思われる数個の微小色素片を残して消失し,自覚症状も軽快した。
 本症に対するレーザー光凝固治療の有効性が確認された。

Paecilomyces lilacinusによる角膜真菌症の1例

著者: 高槻玲子 ,   内堀環 ,   富吉幸徳 ,   中島裕子 ,   藤之原仁美 ,   矢矢崎紀紘

ページ範囲:P.561 - P.564

 Paecilomyces lilacinusによる角膜真菌症の1例を報告する。症例は全身的には糖尿病を合併し,局所的には角膜ヘルペスでステロイドの局所投与を頻回に行っていた。
 角膜所見は固くもり上り表面の乾いた病巣で進行は遅く,抗真菌剤はほとんど無効でチメロサールが有効であった。
 分離した真菌を家兎角膜に接種した結果,数日後に潰瘍が発生したが経過観察中に自然治癒した。またステロイド投与例では,非投与例に比べて症状は重篤で治癒が著しく遅れた。

低眼圧症における超音波所見

著者: 廣森達郎 ,   山内昌彦 ,   大西幸子

ページ範囲:P.565 - P.568

 脈絡膜剥離あるいは毛様体剥離における超音波検査で,眼球後壁が層状分離所見を呈することは以前から指摘されていたが,その所見の意味するところは明らかではなく議論の的であった。今回,低眼圧を呈する症例に超音波検査を行うとともに,家兎を用い前房穿刺により低眼圧を作成し,超音波検査を行い両者を比較し,組織学的にも検討を加え,その層状分離所見の意味するところを低眼圧による脈絡膜の肥厚と考えた。

GROUP DISCUSSION

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.569 - P.573

1.21—deletion syndromeの1例
 21番染色体の欠失した症例を出生直後より2年間経過観察した。染色体は46XY.r (21)(P11→q22.1)であり,眼科的には両眼小眼球で両眼先天性角膜混濁を有していた。生後1年4カ月に左眼角膜移植術を施行した。虹彩,水晶体,眼底には著変ないことが確認された。摘出角膜には上皮細胞内のメラニン顆粒出現,ボーマン膜消失,血管侵入,基質内膠原線維の走行の不規則化,デスメ膜断裂,内皮細胞の変性が認められた。

小児眼科

著者: 湖崎克

ページ範囲:P.577 - P.580

1,進行性顔面半側萎縮症の1例
 本症には患側に何らかの眼症状を伴うことが多く,眼球陥凹,瞳孔不同症,眼瞼萎縮,睫毛欠損,Horner症候群等が高頻度で,虹彩炎,角膜の異常,外眼筋麻痺等も報告されている。本症はこのような前眼部の変化に比べ眼底の変化は極めて稀で,今日までに数例が報告されているのみである。今回,本症と診断された9歳女児において,眼球陥凹,瞳孔不同症等の前眼部の変化に加えて眼底の変化すなわち網脈絡膜萎縮を認めた例を経験したのでその限症状および眼科的諸検査の結果について報告,考察する。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(29)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.574 - P.575

38.古今精選眼科方筌
 伊達62万石で知られる仙台藩は早くより西欧文化に接し,殊に蘭方医学に対して進取的であった。
 寛政10年12月,藩医木村寿禎(1774〜1834)が刑屍を解剖して蘭文を附した解剖供養碑を建てたと伝えられ,この頃仙台藩においては刑屍の解剖が行われていたことが窺われる。この解剖は仙台藩において第一号であったが当時の仙台藩の漢方医家の間では刑屍解割に反対の声が高かったといわれている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?