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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科38巻6号

1984年06月発行

雑誌目次

特集 第37回日本臨床眼科学会講演集 (その5) 学会原著

まわし眼位に関する研究—第4報まわし斜視のsensory adaptationについて

著者: 高橋総子

ページ範囲:P.591 - P.595

 Fundus Haploscopeを用い,両眼視機能を有する上下斜視38例のまわし眼位を他覚的および自覚的に測定し,他覚的まわし眼位が正常者の平均値±2S.D.の範囲外の症例23例をまわし斜視としてとり出した。このまわし斜視の他覚的まわしずれと自覚的まわしずれを比較することによって,まわしずれに対するscnsory adaptationについて検討した。また,まわし斜視を先天性または乳幼児期発症のものと,小児期以降発症のものにわけ,まわし斜視の発症年齢との関係についても調べた。
 乳幼児期以前に発症したまわし斜視14例においては,2例に大きな自覚的まわしずれを認めたのが注目されたが,ほとんどの症例では自覚的まわしずれは他覚的まわしずれに比しかなり小さかった。それに比べ小児期以降に発症したまわし斜視9例では,発症後長期間を経過している1例を除き,自覚的まわしずれは他覚的まわしずれと比較的近い値を示していた。
 以上の結果から,まわしずれに対するsensory adaptationは比較的容易におこり,しかも両眼視に役立つという特徴をもつと考えられた。また,sensory adaptationには,まわし斜視の発症年齢が大きく関与し,乳幼児期以前に発症したまわし斜視の方がそれ以降に発症したまわし斜視に比べてscnsory adaptationはよく発達していると思われた。

外転神経麻痺に対するadjustable transposition procedure (Carlson & Jampolsky)の治療効果

著者: 高橋洋司 ,   朝倉章子 ,   根本加代子 ,   門脇文子 ,   熊谷俊一 ,   今泉利雄 ,   二宮修也 ,   田沢豊

ページ範囲:P.597 - P.602

 4例の外傷性外転神経麻痺患者に対し,新しい眼筋移植手術法であるadjustabletransposition procedure (Carlson & Jampolsky)を試みた。受傷後7ヵ月以上経過した時点で体法を施行し,術後は6ヵ月から3年にわたる経過観察で以下の結果を得た。
(1)平均眼位改善量は73.3±19.8△,外転改善縫は24.2±8.0度であった。
(2)衝動運動,滑動性追従運動ともに術後は改善を示したが,完全なconjugate move—mentではなかった。
(3)術後の眼位の垂直偏位が4例中2例に,回旋偏位が1例にみられた。
(4) sensory statusの面では.4例中3例に融像と立体視機能が得られ,第1眼位のみであるが両眼単一視も可能となった。
 以上の結果は他の手術法による結果の報告と比較し,眼位および外転の改善量ともに本法がやや勝る感を受けた。術後の垂直偏位や回旋偏位の問題点はあるものの,総じて,外転神経麻痺に対する手術療法として,体法の有効性が示唆された。

Posterior fixation sutureが有効であったnystagmus blockage syndromeの2例

著者: 宝田千賀子 ,   中屋博 ,   氷見由美子

ページ範囲:P.603 - P.607

(1) Nystagmus blockage syndromeに対してposterior fixation sutureを施行した2例について報告した。
(2) Posterior fixation sutureは,筋のバランスを変化させることが少なく,また手術手技も比較的簡単であると思われた。
(3)斜視角が30△以上あるものは後転を併用した方がよいが,20△以下の場合は後転しない方がよいと考えた。
(4)手術効果の判定にENGが有用であった。

反復性眼圧上昇による視野障害の特性について

著者: 山崎芳夫 ,   島矢真澄 ,   岩田和雄

ページ範囲:P.609 - P.614

 Posner-Schlossman症候群8例11眼を対象に,反復する眼圧上昇発作時と寛解期における視野障害を,Friedmann M-IIを用いた静的中心視野検査による追究から,緑内障性視神経障害の障害機構解明へのアプローチを試み,次の結論を得た。
(1)反復する眼圧上昇発作による視野障害は,Bjerrum領域の中でも限局した感度低下野として出現し,発作の反復と共に,繰り返し同一部位に同様の感度低下野が再現される。
(2) Posner-Schlossman症候群における極初期の網膜神経線維層の障害は,Bjerrum領域のfine combed hair thinning (FCH)とraugh combed hair thinning (RCH)であり,これは場田のPosner-Schlossman症候群病期分類のI期以前に位置するものであり,その障害部位に一致し視野障害も進行する。
(3)眼圧上昇時および寛解期の乳頭の立体螢光眼底撮影からは,限局した部位の微小循環障害を示唆する所見は得られなかった。
 以上の結果は眼圧上昇によって起こる視神経障害が,lamina cribrosaのBjerrum領線維の通る部位の中でも極く限局した部位での直接的な障害により起こっていることを示すもので,特定血管の支配領域の障害とは異なる所見であった。

10年以上経過観察しえた緑内障患者の視野障害進行因子—多変量解析による検討

著者: 安田典子 ,   江川知子 ,   景山万里子 ,   金丸新

ページ範囲:P.615 - P.619

 Goldmann視野計で10年以上経過観察できた原発緑内障188眼について,視野障害進行因子を検討した。分析方法は多変量解析の一法である重回帰分析を用いた。目的変量を視野進行度とし,説明変量は年齢,性,隅角型,初診時視野,10年間の眼圧コントロール値の5変量とした。このうち視野障害進行に大きく係わった因子は眼圧コントロール値,初診時視野,年齢であった。眼圧は25mmHgを越すと視野を大きく進行させ,初期視野はIII期以後,年齢は50歳を過ぎると進行傾向が強まった。高齢者で,視野がIII期以後のものは一般基準(20mmHg)よりさらに低いレベルの眼圧コントロールが必要であることが示唆された。

β—遮断剤の長期点眼による眼底障害

著者: 山下秀明 ,   小林誉典 ,   板垣隆 ,   牧浦正直 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.621 - P.626

 1年から3年間,β—遮断剤点眼薬を連続使用している79例140眼を眼底検査,螢光眼底造影,ERG・EOG検査を行い眼底変化の出現検査を検索した。
 眼底に変化を認めたものは,8例9眼(6.4%)であり,その中6眼は無水晶体眼で,全無水晶体眼20眼中,20%の発生率であった。残る3眼は投与前より存在していた眼底病変が増強したものであった。眼底の病変は黄斑部の浮腫と混濁で螢光造影ではdark spot拡大とその周囲のmottlingがみられた。電気生理学的には対照群と比べて点眼群ではERG,a波,b波の減弱,EOG, base valueの減弱がみられ,ERG,b波,EOG, base valueの低下は点眼後の期間に比例していた。眼底変化の発生頻度も使用期間と平行する傾向があった。β—遮断剤の長期点眼により眼底黄斑部に変化の生じる可能性がある。とくに無水晶体眼および眼底に病変のある症例に使用する場合は定期的に視力測定,眼底検査を行う必要がある。

原発慢性閉塞隅角緑内障に対するレーザーイリドトミーの効果

著者: 杉山純一 ,   田沢博 ,   岩田和雄

ページ範囲:P.627 - P.631

(1)レーザーイリドトミーにより薬物治療で眼圧がコントロールされなかった原発慢性閉塞隅角緑内障18眼中10眼で眼圧は21mmHg以下にコントロールされた。(2)上記10眼はいずれもPAS ratio 50%未満の症例で,PAS ratio 25%未満の症例7眼,このうちPAS ratio 0%は4眼,PAS ratio 25〜50%未満のもの3眼であった。(3)上記10眼のイリドトミー施行前のC値は0.04〜0.27で,イリドトミー施行後は0.13〜0.30の範囲にあった。(4)イリドトミー施行後,18眼中10眼にC値の改善がみられたが,9眼はPASratio 50%未満の症例であった。(5) PAS ratio 50%未満の15眼においてイリドトミー施行後PAS ratioに対応する期待C値以上の値を示したものは6眼にみられたが,9眼ではその値に達せず,このうち6眼はPAS ratio 0%の症例で,そのC値は0.15〜0.22の範囲であった。(6)原発慢性閉塞隅角緑内障ではPAS形成以前のappositional closureの時期にも既にトラベクルムの障害を生じうることが明らかにされた。これらに対しては,laser trabeculoplastyが有効であった。

Q-switched Nd-YAG laserの眼科臨床応用—レーザー後発白内障切開術と合併症

著者: 弓田彰 ,   白土城照 ,   北沢克明

ページ範囲:P.632 - P.634

 Q-switched Nd-YAG lascrによる後発白内障切開術を21例22眼に施行し,十分な切開とともに大多数の症例で視力の改善を得た。
 重篤な合併症として眼圧上昇が認められ,その背景因子として緑内障治療歴と残存水晶体皮質が関与していることが示唆され,このような条件を持つ症例に対しては,レーザー後発白内障切開術施行に際し,十分な注意が必要であると考える。また,上記因子を持たない症例においても,高度の眼圧上昇を来たす場合もあり,術後の眼圧モニターは不可欠である。

Q—スイッチルビーレーザー用イリドトミーレンズの開発

著者: 井村尚樹 ,   木村嗣

ページ範囲:P.639 - P.643

 我々はQ—スイッチルビーレーザーを使用して有色家兎14羽22眼のイリドトミーを行おうと試みた。イリドトミーの際の虹彩からの出血を防ぐために,前処置としてアルゴンレーザー光凝固が必要であった。また,その安全な施行のためにはイリドトミーレンズが必要だった。我々は4種類のイリドトミーレンズを使用した。最初に用いた北沢式イリドトミーレンズ1)はQ—スイッチルビーレーザーの一発目の照射で,レンズ接着面にひびが生じた。次にKrasnovレンズ,単体ガラス製北沢型イリドトミーレンズも試みたが数十発以内の照射で破損し,破片による角膜障害を発生させた。そこで我々は単体プラスチック製北沢型イリドトミーレンズを製作し使用した。このレンズは破損しにくく,破損した際も比較的安全で,Q—スイッチルビーレーザーイリドトミー施行には最も適していると考えられた。

学術展示

瞳孔縁の不整および高眼圧を伴った原発性家族性アミロイドーシスの2症例

著者: 布田龍佑 ,   馬場裕行 ,   稲田晃一郎 ,   中島初子 ,   小島祐二郎 ,   岡村良一

ページ範囲:P.646 - P.647

 原発性家族性アミロイドーシスの眼症状として,瞳孔異常,硝子体混濁1),緑内障2)などが報告されている。我我は著しい瞳孔縁の不整と緑内障および高眼圧を伴った2症例を経験したので,その臨床症状,房水蛋白分析結果,病理組織学的所見について報告する。
 症例1は48歳,女性で42歳時四肢末端の知覚低下が出現し,内科にてfamilial amyloid polyneuropathyの診断がなされている。姉および伯母にも本症が認められている。44歳頃より視力低下が出現し,48歳時に近医にて緑内障を指摘され,熊大眼科を受診した。

乳幼児角膜形状測定の検討—ビデオモニターを用いた方法

著者: 茨木信博 ,   松田敏央 ,   山本敏雄

ページ範囲:P.648 - P.649

 緒言最近,乳幼児に対してもコンタクトレンズ処方の機会が増し,乳幼児角膜形状測定法の開発が迫られている。今回我々はビデオレコーダーを用いた測定方法を開発したのでここに報告する。
 器械および方法9ルクスの半暗室下にて,角膜上4mmの同心円の水平方向に2光源を照射し,その反射像を角膜前面より100.0cmの距離においた近赤外光テレビでレンズの絞りを開放にして撮影し,ビデオレコーダーに録画した(図1,2)。その録画画面を一時停止し,図3矢印に示した様に,角膜上の2反射光の間隙を5回測定し平均値を用いた。6.00〜9.00mmの七つの標準球を測定し,得られた回帰直線をもとに人眼の角膜曲率半径を算出した。テレビカメラの被写界深度を調べるために8.00mmの標準球を用いて角膜前面よりの距離が95.0〜105.0cmの陶を0.5cmごとに録画し,画面上明らかに除外できる範囲を決定した。この器械を用い,まず成人21名42眼につきオフサルモメーター(東京光学社サクリフ式)で5回測定した結果の平均値と比較検討を行った。次に,1.8〜2.5歳の乳幼児2名に対し角膜曲率半径の測定を試みた。

連続装用コンタクトレンズ使用の先天白内障術後症例について

著者: 山本節 ,   金川美枝子 ,   高山昇三

ページ範囲:P.650 - P.651

 先天白内障は小児視覚障害の大きな原因の一つとして知られているが,最近,その診断治療面で種々の進歩発展が著しい1)。しかし,先天白内障の視覚に関する予後は老人性白内障のそれに比べると格段の開きがあって,まだまだの感が強い。
 1977年頃より術後無水晶体症などの矯正に高含水率ソフトコンタクトレンズ(SCL)の連続装用の報告2)がみられているが,この種のレンズは装着脱に問題のある高齢者や乳幼児に使用すると便利であるとして次第に普及してきている。

レシチンコレステロール脂肪酸転位酵素欠損症について

著者: 樺澤泉 ,   赤松明 ,   武内望

ページ範囲:P.652 - P.653

 緒言レシチンコレステロール脂肪酸転位酵素(Leci—thin-Cholesterol acyltransferase, LCAT)は,肝臓で合成され血中へ高比重リポ蛋白質(HDL)とともに分泌される。血中ではHDLの表面部分の遊離型コレステロールをレシチンのβ位の脂肪酸でエステル化し,エステル型コレステロールを生成する酵素である(図1)1)。この転位酵素の欠損症は角膜混濁・角膜環・蛋白尿・貧血などの症状が特徴的である。1967年ノルウエーの姉妹について最初に報告されて以来2),いくつかの報告がある3,4)。武内らは発端者を含む3例にこの酵素活性の低下を見出し.家系調査で検討することのできた14例について詳組な血清脂質異常を報告した1)。更にこの症例の発端者がしめした赤血球膜の異常についても興味ある知見がえられている5)。今回は体症の角膜混濁および角膜環を中心に報告する。
 症例1:29歳女性。幼少時より両眼の角膜環に気付いていたが放置していた。22歳で結婚し2児の母である。妊娠時につわりが強く下肢の浮腫・蛋白尿をみたが,正常分娩で特記すべきことはない。検診で軽い貧血を指摘され,精査をうける。角膜環のため当科紹介となる。既往歴では,19歳の時の腎盂腎炎がある。家族歴では弟と父方の叔母に酵素欠損症が見出された(図2と炎1,症例3と7)1)。弟に同様の角膜環を認めるが,叔母には認めない。

鞍鼻を伴う眼窩偽腫瘍について

著者: 松屋直樹 ,   秋山和人 ,   高久功

ページ範囲:P.654 - P.655

 緒言眼窩偽腫瘍は,日常臨床においてしばしば経験されるが,鞍鼻を伴うものは極めて稀である。著者の1人高久は,かつて東北大において畠山らによって報告された眼窩偽腫瘍1)に著明な進行性の鞍鼻を伴い,かつWegener's granulomatosis (以後W.G.)は否定された症例を経験し,その本態について興味をもっていたが,たまたま最近我々は鞍鼻を伴う眼窩偽腫瘍2例を経験し,1例はW.G.,他の1例はmidline granuloma (以後M.G.)の診断を得たので報告する。
 症例1は59歳女性,1983年2月14日初診。1982年3月,左眼の充血.眼痛のため某眼科受診。角膜炎として治療をうけていたが,12月15日頃より左眼の眼球突出と頭痛が発来し,当科を紹介された。既往歴では4歳頃より慢性副鼻腔炎,鞍鼻,萎縮性鼻炎,58歳より四肢の関節炎があり加療をうけている。初診時所見:視力右1.0(n.c.)左0.1p (n.c.)眼圧右20,左25mmHg,眼球突出度(Hertel)右15,左23mm。眼球運動右良好,左外上転障害。左角膜12時部に角膜片雲(+)。中間透光体,眼底著変なし。顔面は著明な鞍鼻と左眼球突出を量し(図1),臭鼻症のため独特の異臭がある。1983年2月21日入院。視力右1.2p (n.c.)左0.3p (n.c.)眼圧左右10mmHg,眼球突出.眼球運動に変化ないが,眼底には少数の点状出血と軟性白斑を認めた。

連載 眼科図譜・319

偏光生体顕微鏡による角膜の臨床的観察

著者: 山下英俊 ,   江口秀一郎 ,   平戸孝明

ページ範囲:P.588 - P.589

 緒言偏光顕微鏡の原理を生体顕微鏡に応用して偏光フィルターを装着する事により前眼部を観察するための方法が三島によって報告きれた10〜16)。この方法に従って我々は新しく東京光学製細隙灯撮影装置に偏光装置を取り付け,角膜疾患を観察したところ普通光による観察ではみる事のできない所見を得る事がわかったのでその結果を報告する。
 方法細隙灯光の前集光レンズの下で反射鏡の上にpolarizerを,また生体顕微鏡の前にanalyzerを取り付げ,crossed polarsの状態で観察した。鋭敏色板はわずかの複屈折を示すものでも色の変化としてとらえる事ができるので主としてこれの付けたanalyzerを用いて観察した。

臨床報告

周辺部後円錐水晶体の2症例

著者: 生島賢二郎 ,   大久保潔 ,   溝上国義

ページ範囲:P.657 - P.660

 極めて稀な周辺部後円錐水晶1体の2症例を報告した。
 症例1は8歳,女児で左水晶体後面の周辺部に色素沈着を伴った周辺部後円錐水晶体を認め,その周辺にさらに5個の色素沈着を認めた。水晶体混濁および他の眼奇形は伴っていなかった。6ヵ月後,突出部の前方の水晶休皮質下に混濁が出現した。
 症例2は35歳,女性で左水晶体後面の周辺部に色素沈着を伴った周辺部後円錐水晶体を認め,突出部の前方の水晶で体皮質下に混濁を認めたが他の眼奇形は伴っていなかった。
 両症例とも硝子体動脈の牽引は認めず,近視の進行とともに,何らかの発生異常のもとに,後円錐水晶体が生じたのではないかと推定された。

偏光生体顕微鏡による角膜の臨床的観察

著者: 山下英俊 ,   江口秀一郎 ,   平戸孝明

ページ範囲:P.661 - P.664

 偏光生体顕微鏡による角膜の観察を行った。鋭敏色板をつけたanalyzerを用いて観察すると,わずかの複屈折でも色の変化としてとらえる事ができる。これにより,角膜の瘢痕におけるコラーゲン線維の走行の方向,歪みを色の変化としてとらえる事ができ,種々の角膜疾患,手術の経過観察に有用と思われた。我々は角膜移植後の経過を観察したが,移植片のゆがみが減少していく様子や,普通光では同じように白色にみえる創の部分にコラーゲン線維の瘢痕が形成されていく様子が色の変化としてはっきりとらえられた。

最近6年間の網膜剥離自験手術236眼の検討—I.手術成績

著者: 本田孔士

ページ範囲:P.665 - P.669

 1976年から1981年の6年間に,著者自身が手がけた京大病院におけるconven—tionalな網膜剥離手術症例222例,236眼のうち,病歴簿より調査可能であった209例(調査率94.1%),223眼(同94.5%)につき,手術成績を検討した。通年の平均復位率は91.5%で,前,中,後期で変らなかった。扱った症例は黄斑円孔16.6%,無水晶体眼13.0%,巨大裂孔2.4%などからなっていた。裂孔不明例が通年平均で13.9%もあり,その復位率は悪かった。症例平均手術回数は1.29回であった。

増殖型糖尿病性網膜症における汎網膜光凝固療法

著者: 原田敬志 ,   市川一夫 ,   水上寧彦 ,   小嶋一晃 ,   市川宏

ページ範囲:P.671 - P.677

 平均16ヵ月凝固後経過観察を行った35例61眼の増殖型糖尿病性網膜症に対する汎網膜光凝固術の効果と限界について述べた。乳頭上の新生血管は75%の症例で縮小ないし消失し網膜上の新生血管は約90%が縮小あるいは消失した。後極部に位置する網膜上新生血管は光凝固の影響を受けにくい印象が得られた。

Werner症候群における白内障手術—晩発性眼内炎を経験して

著者: 池田定嗣 ,   永田誠

ページ範囲:P.679 - P.683

(1) Werner症候群で白内障手術を受け,術創に濾過瘢痕の形成を認めていた眼に,約10年後,感染性眼内炎を発症した症例を経験した。本症例に対し,硝子体吸引術および抗生剤の大量投与を行い,眼内炎は軽快したが,続発性網膜剥離のため視力の改善は得られなかったし。
(2)現在当院眼科にて経過が追跡されているWemer症候群無水晶体眼の症例を示した。この結果,本症候群のように術直後,術創癒合不全を起こす可能性のある症例に対しては,KPE手術のように小切開より行う手術方法が最適であると考えた。

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(30)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.684 - P.687

39.大阪三井元孺眼目外障内障方凾
 幕末四大眼科と称して馬嶋,竹内,田原および土生の各眼科流派が挙げられていることはよく知られているが,同じ頃眼科で一家をなした家系に三井家があった。
 三井家の始祖は藤原氏の出で,その何代か後の子孫が讃岐象頭山大麻山附近に住みつき,さらに代を経て三井久助重長に至り,その子に新兵衛重行(元和6年〜元禄11年)があって,この人が三井家眼科初代であるといわれる。その眼科の興りは新兵衛が讃岐国小松庄五条(香川県仲多度郡琴平町)に住んでいた頃(延宝年間),尾州清岸芋(明眼院?)の住僧雪溪和尚(延宝年間蔵南坊の住職は第14代円清法印に当る)が金比羅人権現の金光院に滞在の折,新兵衛重行が雪溪和尚から眼病治療術を伝授されたことに始まると伝えられる。その後,三井家は三井道安,梅山の家系,三井善庵の家系および三井立悦の家系の三家に分れ,それそれ医業を営み.ことに多くは眼科医として有為な人材を輩出させた。三井流眼科の興りは讃岐の琴平であったがこ井善庵(重之)の大阪進出以後大阪三井流眼科としてその後系に良之(眉山),善之(棗洲)らが相次いで現れ,大阪三井流眼科の名を高めた.ここに掲出の「大阪三井元孺眼目外障内障方凾」(浜松,内田貞氏校訂)はこの大阪三井流眼科の一部を伝えたものと思われるが,ここには本書と大阪三井流眼科の善庵,眉山,棗洲等に限って述べることにする。

GROUP DISCUSSION

視野

著者: 松崎浩

ページ範囲:P.689 - P.693

第1部一般演題
1.点発光を自在にコントロール可能な視野測定装置について
 静的視野測定装置は眼底の感度分布マップ作製装置といいかえる事ができると思うが精度を高めるためには刺激点の数を増やし,輝度の自在なコントロールが必須条件と思われる。この条件を解決する具体的方法として,パーソナルコンピューターの持つ中央演算処理機能,記憶ならびに入出力装置に加えて高度なプログラミング言語の活用法を具体的賢例をもって示した。すなわち単波長特性を持ちコンピューター親和性が高く正確に輝度調整可能なLEDで視野測定面を構成,パソコンの巨大なアドレス空間処理能力により必要な数のLED点滅を個別にメカニカルな装置の介在なしでダイレクトにコントロール可能である。この事はプログラミングの容易さと共にコストの低下を意味する。またこれらの機能発揮がパソコン本来の使用を何等妨げない等,ソフトウエアーも含めた装置側の柔軟な対応により多様な病変の感度マップ作製を容易にかつ正確なものにする事が可能である。

地域予防眼科

著者: 小淳文雄 ,   赤松恒彦

ページ範囲:P.695 - P.698

 本年の地域予防眼科は,主題を,僻地医療,救急医療を中心に演題を募集した。10題の演題が集まり,ことに東京・愛知・横浜・和歌山等各地の救急医療に関する演題が集まり,今後の問題を含んだ意見が展開された。また僻地医療については毎回出して下さる江口先生のご努力の結果と,独協医大からの栃木県下の眼科無医地区の医療について,またフロントガラスによる外傷について今日的な眼科救急医療の大きな問題を東北大学から,学校保健における色覚異常の検査の問題についてを名古屋眼科医会から,中国におけるベーチェット病の報告を北大から,視覚障害者の発生を係数学的解折によって発生解析を行い,障害発生の型から病気の本態に迫り,発生予防にまで迫ろうという演題を名古屋大学より出された。
 座長は前半5題を日眼医の野崎道雄氏に,後半5題を独医大小暮教授にお願いした。

抄録

第22回白内障研究会講演抄録

著者: 尾羽沢大

ページ範囲:P.699 - P.712

I.一般講演
1.Bacterial endotoxinによる実験的白内障の組織学的研究
 1975年,山中はbacterial endotoxinによるShwartz—man現象において種々の眼症状を認め,endotoxic oph—thalmopathyと仮称した。今回,C3H/He (N)マウスを用い,S.flexneriを注射して白内障を惹起せしめた。水晶体の混濁は48時間後より,前嚢直下および縫合線に沿ってはじまり,全周におよび,数日持続し,1週間後には消褪した。演者らは,本白内障の初期像を紅織学的に検討した。電顕的には水晶体嚢に変化はなかった。6時間後の水晶体上皮細胞でミトコンドリアの軽度の膨化が観察された。48時間後では上皮細胞内ミトコンドリアの著明な膨化に加えて,上皮下皮質線羅の不規則性,一部膨化所見がみられた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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