icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科38巻8号

1984年08月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・321

ゼンメリング環の1例

著者: 升田義次

ページ範囲:P.838 - P.839

 水晶体嚢外摘出術で水晶体の中央部のみが摘出されて赤道部が残り,水晶体質が前後嚢により包まれた場合,その水晶体質は前房水の溶解作用を免がれて虹彩後方に環状に残留する。これを発見者の名にちなんでゼンメリング環と呼ぶ1〜3)。嚢内法はもちろんのこと嚢外法でも顕微鏡下でKPEやI/A tipが使用されるようになった現在,この特異な後発白内障は幻の疾患となりつつある。ここにその1例を報告する。
 症例:64歳,男。

臨床報告

Synoptophore用random dot stereo slideによる立体視検査第4報

著者: 福田雅子 ,   大川忠 ,   相沢芙束

ページ範囲:P.841 - P.845

 Synoptophore用random dot stereo slideを用いて不同視,完全調節性内斜視,間歇性外斜視の立体視検査を行った。
(1)不同視,完全調節性内斜視においては,視力不良が近見と共に立体視の低下を招く。
(2)完全調節性内斜視は眼位の不安定さのため,不同視より立体視不良例が多かった。
(3)間歇性外斜視は立体視検出不可能な症例が多く,手術後も1/3が検出不可能なままであった。

フォトレチノスコープ(photoretinoscope)

著者: 矢沢興司

ページ範囲:P.847 - P.849

 乳幼児スクリーニング用に開発したフォトレチノスコープを紹介した。このカメラで瞳孔を観察すると誰でも簡単に屈折異常を判別できる。乳幼児眼科検診の診断・記録に有用と思われる。保健所の3歳児スクリーニングの際に視力検査を行う事は,なかなか困難である事を考えると,フォトレチノスコープを用いて,保健婦が中心となり,1歳6カ月児に簡単な検影法のみでスクリーニングをしてしまう方が能率的かもしれない。今後検討していきたい。

重度視覚障害児の保護者に対するアンケート調査結果—愛知県内盲学校在籍者について

著者: 唐木剛 ,   太田一郎 ,   堀口正之 ,   三宅三平 ,   市川宏 ,   薗部光子 ,   尾川尚子 ,   田辺竹彦

ページ範囲:P.851 - P.855

 我々は重度視覚障害児を持つ保護者(盲学校在籍者の父兄)に,アンケート調査を行って結果を検討し,以下の結論を得た。
(1)視覚障害を持つ子供は,比較的早期に発見され眼科を受診しているにもかかわらず,身体障害者手帳の交付には長い期間を要していた。
(2)現在の身体障害者手帳の交付基準は,自覚的検査のできる大人用のもので,小児の特性である視覚の発達を全く考慮していないにもかかわらず,小児にこの大人用の基準を無理に適用しているため,身体障害者手帳の交付が非常に遅れ,重度視覚障害児およびその父兄に多大な不利益を与えている。
(3)我々眼科医は,出生直後から行う定期的な眼科検査を広く普及させ,視覚障害の早期発見に努めるとともに,真の小児のための身体障害者手帳の交付基準を実現させるよう努力しなければならない。

下甲介折骨術による先天性鼻涙管閉塞の治療

著者: 長嶋孝次

ページ範囲:P.857 - P.859

 ブジー法が無効の先天性鼻涙管閉塞10例に下甲介を正中側にむかって骨折させる方法(Jones & Wobig)を追試した。内6例は下甲介嵌入,4例は閉塞部の線維増殖と考えられたが,前者の4例と後者の2例に卓効を得た。24歳の成人例にも奏効したことは特筆に値する。本法は先天性の頑固な鼻涙管閉塞に対して,シリコン留置術あるいは涙嚢鼻腔吻合術に代わる,簡単かつ有効な手段である。

眼窩転移で発見されたneuroblastomaの1例

著者: 加藤寿江 ,   馬嶋昭生 ,   白井正一郎

ページ範囲:P.861 - P.865

 2歳3カ月の女子で,左眼瞼腫脹を主訴として受診し,諸検査の結果,neuro—blastomaの眼窩転移と診断された1例を報告した。
 初診時左眼窩内外側部に弾性硬の腫瘤を触知。CT scanで左眼窩内に大きな腫瘍塊が認められ,尿中V.M.A.は高値を示した。骨髄穿刺で異常細胞が検出され,neuroblastomaと診断された。
 抗癌剤の投与で限窩腫瘍は一時縮小傾向がみられたが,その後急速に増大し眼球突出も著明となった。抗癌剤や放射線による治療にもかかわらず全身転移をきたし,初診から約9カ月で死亡した。組織学的にrosette-forming typeのneuroblastomaであり,右副腎にも腫瘍が存在したことから副腎原発ではないかと推定された。本症例は病期分類stage IVに相当し,また年長のため治療に抵抗し不幸な転帰をとったものと考えた。

糖尿病患者の両眼性一過性乳頭浮腫の1例 (diabetic papillopathy)

著者: 萱沢文男 ,   森川明

ページ範囲:P.867 - P.872

 43歳の女性の糖尿病患者にみられた両眼性一過性乳頭浮腫の臨床経過について報告した。
 両眼底共背景糖尿病性網膜症がみられ,最初左眼乳頭浮腫,次いで9日後に右眼乳頭浮腫がみられた。左眼乳頭浮腫は発症より9日目,右眼乳頭浮腫は22日目より軽快しはじめ後に軽度の乳頭萎縮を残した。検眼鏡的に乳頭は充血腫脹し,螢光眼底造影においても乳頭部血管拡張および色素漏出がみられ,filling defectの所見はなかった。
 全経過中,糖尿病のコントロールは良好で,CT scan瞳孔反応,luminance VEP等神経学的検査は正常で,視力は両眼共0.5前後に低下した。視野検査では両眼共マリオット盲点の拡大と下鼻側視野異常を認めた。
 両眼乳頭浮腫の消退と共に,視力は右0.9,左0.7に改善し,右視野は正常となり,左視野も軽度改善を認めた。
 本症例の臨床像は,Appenらのいうdiabetic papillopathyに相当すると考えられた。

ドリル研磨による翼状片手術—続報8年間534眼の成績

著者: 原たか子 ,   原孜

ページ範囲:P.873 - P.875

 電動ドリル研磨による翼状片手術を前回報告した229眼の他に305眼追加して行い,合計534眼,8年間にわたる成績を改めて報告した。術後の0.04%マイトマイシンC点眼は,1日3回,3日間点眼が最適であった。1回の手術による治癒率は84.6%であり,83眼(15.5%)に合併症を生じた。内訳は再発54眼(全534眼の10.1%),肉芽形成21眼(3.9%),強膜壊死6眼(1.1%),角膜穿孔2眼(0.4%)であった。本法は簡便確実で有用性が再確認された。

著しい浸出性病変を示したfamilial exudative vitreoretinopathyの1例

著者: 中泉裕子 ,   高橋信夫 ,   大石隆興

ページ範囲:P.877 - P.880

 症例は9歳の男子で左眼視力障害のため来院した。満期産,成熟児で酸素投与の既往はないが,両眼底は瘢痕期未熟児網膜症に類似の所見を呈し,さらに左眼には著しい浸出性変化が認められた。家族性であることや.眼底所見および螢光所見よりfamilialexudative vitreoretinopathyと診断した。

調節・輻輳障害を有する眼精疲労患者に対する融像幅増強訓練の効果

著者: 若倉雅登 ,   三柴恵美子

ページ範囲:P.897 - P.902

 器質的疾患が否定され,屈折異常による因子が除外された眼精疲労患者12例(平均32.9歳)に対し,調節および輻輳検査が行われた。その結果調節衰弱もしくは不全と輻輳障害を合併した9例(A type)と輻輳障害のみの3例(B type)に分類された。輻輳障害は輻輳近点延長以外に,シノプトフォアによる検査で融像幅低下がほぼ全例にみられた。また融像性輻輳の壊れるbreak pointのかなり前に指標がぼける点(blur point)を自覚する例がA typeに6例,B typeに1例,合計7例あった。全例に融像幅増強訓練を施行したところ,break pointならびにblur pointがプラス側に拡大するとともに輻輳近点の改善が全例に認められ,調節障害の改善が89%に,自覚症状の改善が75%に認められた。輻輳および調節障害を有する眼精疲労患者に対して融像性輻輳を刺激する訓練は臨床的に有用な方法と考えられた。

網膜中心静脈閉塞症の発生機序に関する臨床的研究

著者: 石橋達朗 ,   熊野祐司 ,   山本正洋 ,   大西克尚 ,   山名泰生

ページ範囲:P.903 - P.908

 網膜中心静脈閉塞症の発症前より経過を追えた2症例について,その発生機序を臨床的に検討した。この2症例とも螢光眼底造影を行うと,網膜中心静脈閉塞症発症前に視神経乳頭より螢光色素の漏出が認められた。この螢光漏出現象は,おそらく網膜中心静脈系の内皮細胞障害によるものと思われ,この内皮細胞障害を基盤に血栓形成が進行するものと推定した。

Posner-Schlossman症候群にみられる虹彩毛様体炎の臨床像

著者: 樋口眞琴 ,   大野重昭 ,   宮島輝英 ,   松田英彦

ページ範囲:P.909 - P.912

 北大眼科を受診したPosner-Schlossman症候群患者32例について,そのぶどう膜炎症状を中心に検討した。症例の内訳は男性22例,女性10例で全例片眼性であった。前房内炎症ではfiareは94%が1+以下であり,炎症細胞もほとんどが2+以下で,1+以下のものが74%であった。前房内炎症の強さと発作時の眼圧の高さとの間には相関はみられなかったが,降圧のみをはかった場合よりも,消炎の目的で副腎皮質ホルモン剤を投与した方が,眼発作の持続期間は短縮された。本症における虹彩毛様体炎は,眼圧の高さや角膜後面沈着物の強さとは無関係に比較的軽いものではあるが,本症の再発性眼発作の主要症状をなしており,十分な消炎をはかることが眼圧下降にも役立つことが推測された。

網膜剥離を伴う糖尿病性網膜症眼の硝子体手術成績—1.100眼の手術成績

著者: 安藤文隆

ページ範囲:P.913 - P.917

 網膜剥離を伴う糖尿病性網膜症眼連続100眼の硝子体手術成績を,主として牽引性網膜剥離の型別に検討した。
 眼底後極部のみ復位していた9眼を含み,復位眼は74眼に達した。しかし,視力の2段階以上改善したものは42眼にとどまり,逆に悪化したものは35眼を数えた。
 網膜剥離の型別の復位率はTent型80%,Trampoline型85.4%,Table-top型67.6%,びまん性または全剥離型58.8%であった。
 復位していた74眼のうち,視力の2段階以上悪化したものは9眼あり,悪化率はTram—poline型で20%,Table-top型で8%であったが,Tent型,全剥離型には復位後視力の悪化したものはなかった。
 術前既に網膜裂孔の存在していたものは25眼あり,全剥離型では58.8%に認められた。術中誤って裂孔を形成したものは17眼あり,網膜剥離の高度なもの程高率に認められた。
 虹彩ルベオーシスは12眼に認められ,このうち7眼は出血緑内障を続発した。

--------------------

第38回日本臨床眼科学会総会

ページ範囲:P.882 - P.891

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(32)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.918 - P.919

41.眼科集要折衷大全
 わが国におけるオランダ医学は安永3年(1774)杉田玄白らによって訳出された「解体新書」により基礎ができ,柚木太淳の「眼科精義」や衣関順庵の「眼目明弁」杉田立卿の「眼科新書」等が著わされるに及び,漢蘭混合眼科が漸く試みられるようになった。文政6年(1823)シーボルトの来日により,高良斉,土生玄碩,馬嶋円如等がその直接,間接の指導を受け,漢蘭混合眼科が実地に行われるようになった。こうしてオランダ眼科を採り入れて著わされたものに,山田大円の「眼科提要」(1817),樋口子星の「眼科撰要」(1826),土生玄昌の「銀海療法」,あるいは本庄普一の「眼科錦嚢」4巻(1831),同じく「続眼科錦嚢」2巻(1837)等があるが,その正続眼科錦嚢は漢蘭折衷眼科を最も詳細に記述していたものとして知られている。
 延文2年(1357)清眼僧都によって再興された馬嶋明眼院(寛永9年寺号賜る)はその法灯第28世馬嶋円如僧正(字,忍甲,号,復明堂,1802〜1855)が立つにおよんで,流祖清眼僧都以来引き継がれた中国(明代)眼科を主軸としたいわゆる馬嶋流眼科の学風が一変され,治療法や器械に改良が加えられ,漢蘭折衷による実験重視型の眼科へ移向して時勢の潮流に遅れず当時日本眼科の主要な位置を保った。こうした在来馬嶋流眼科の改変によって著わされたのが馬嶋円如撰述の「限科集要折衷大全」である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?