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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科39巻2号

1985年02月発行

雑誌目次

特集 第38回日本臨床眼科学会講演集 (その1) 学会原著

片眼性前部ぶどう膜炎と一過性複視,瞳孔不同を伴った結節性動脈周囲炎の1例

著者: 古吉直彦 ,   清水勉 ,   岡村良一 ,   杉原一信

ページ範囲:P.95 - P.99

(1)今回我々は病理組織学的に確定診断のついた結節性動脈周囲炎(peri-arteritis nodosa,以下PNと略)に,片眼性前部ぶどう膜炎,左外直筋麻痺による複視,左瞳孔散大筋麻痺による瞳孔不同を伴った1症例を経験した.PNに伴う前部ぶどう膜炎は一般に稀といわれ,我々の検索した限りでは今までに5例報告されているのみである.PNに複視,瞳孔不同を合併した例はほとんど報告を見ない.
(2) PNに伴う前部ぶどう膜炎の性状は非肉芽腫性線維素性であり,水晶体表面および瞳孔縁に白色の微細な線維素性沈着物が認められた.
(3)房水の交差免疫電気泳動法による蛋白分析では,前部ぶどう膜炎の認められた左眼では臨床的にぶどう膜炎の認められなかった右眼と比べ各種蛋白の濃度は全体的に高かった.以上の所見からも片眼性ぶどう膜炎であることが確かめられた.

眼内液に帯状ヘルペスウイルス抗体価上昇を認めた桐沢型ぶどう膜炎の2例

著者: 井村尚樹 ,   井村良子 ,   奥英弘 ,   山中芳江 ,   中西紀典 ,   木村嗣 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.101 - P.106

 典型的桐沢型ぶどう膜炎2症例の房水と硝子体液のヘルペスウイルス抗体価(IgG)を検索し,2症例に共通して,帯状ヘルペスIgGの特異的上昇を認めた.特に症例2では,発病初期と末期の前房水でのペア抗体価が,256倍から1,024倍と4倍の上昇を示し,桐沢型ぶどう膜炎の病因として,帯状ヘルペス眼局所感染が強く示唆された.

眼症状を主徴とするサルコイドーシスについて

著者: 井上透 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.107 - P.111

 1981年3月から1984年3月までの3年間に九大眼科を受診した内因性ぶどう膜炎患者のうち,眼科的および全身的にサルコイドーシスの診断を得た34症例(確定群)と,サルコイドーシスに特微的な眼科的所見がみられるにもかかわらず全身的にそれを支持する所見を確認できなかった7症例(非確定群)を比較検討し,以下の結果を得た.
(1)両群共,隅角結節の出現頻度が最も高かった.
(2)非確定群7例の中に,確定群で頻度が高かった眼病変の組合せと同様の出現傾向を示す例が3例みられた.
(3)サルコイドーシスの中には,胸部X線上両側肺門部リンパ節腫脹の出現や,血清アンギオテンシン変換酵素の上昇を伴わず,眼科的にのみその所見をとらえうる症例が存在する.

ぶどう膜炎によると思われる虚血性視神経症の1例

著者: 菅原正容 ,   浅岡出 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.113 - P.116

 はじめ右眼,次に左眼にAIONを発症し,AIONの経過観察中に網膜静脈周囲炎を伴うぶどう膜炎が発症してきた症例を経験した.その発症に関して,はじめ,視神経の周囲に炎症が起こりAIONが発症し,炎症が波及してぶどう膜炎が起こってきたと推測された.

内因性ぶどう膜炎発症における免疫複合体の意義—Raji細胞法による検討

著者: 水野薫 ,   笹部哲生 ,   阪下みち代 ,   湯浅武之助 ,   春田恭照

ページ範囲:P.117 - P.120

 内因性ぶどう膜炎発症と免疫複合体(IC)との関連性をみるために,各種ぶどう膜炎患者の血中ICをRaji細胞法にて測定し,以下の結果をえた.
(1)原因未同定の前部ぶどう膜炎において血中ICが有意に高い値を示した.
(2)ベーチェット病の発作期,原田病の活動期,原因未同定の前部ぶどう膜炎の活動期において血中ICは高い値を示した.
(3)ベーチェット病および原因未同定の前部ぶどう膜炎において高い陽性率を認めた.

Behçet病患者の末梢血Tリンパ球サブセットの動態

著者: 小暮美津子 ,   吉川啓司 ,   高橋義徳 ,   酒井香子

ページ範囲:P.121 - P.126

 Behçet病患者75例を対象に,モノクロナル抗体を用いて臨床経過に伴うリンパ球subsetの動態を観察し,眼発症時および発症後の再燃,寛解のくり返しに細胞性免疫も深くかかわっていることが示唆された.
(1)本症患者のOKT 3, OKT 4の増加,OKIa1の低下は,健常対照にくらべて有意であった.
(2)発作期のOKT 3の増加は,健常対照に対して有意で,眼発作期にはOKT 8の,眼外発作期にはOKT 4の増加が明らかにみられ,OKT 4/OKT 8比の増加は眼外症状の,低下は眼症状の多発時にみられる傾向があった.
(3)眼発作期におけるOKT 8の増加は,眼発作の修復に関与するかのごとく,極期をすぎた発作後期から発作後にかけてみられ,一方,眼発症時にはOKT 4の減少が何らかの形で関与していると思われた.

Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の臨床的特徴および本態

著者: 大熊紘 ,   岸本伸子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.127 - P.132

 最近5年間に典型的なFuchs虹彩毛様体炎の12症例を経験した.症例は1年から8年間観察したが,慢性虹彩毛様体炎の経過を示し,小さい白色の角膜後面沈着物,虹彩紋理のびまん性ないし斑紋状の消失,前房内の小数の細胞をみたが,毛様充血,虹彩後癒着はなく,また虹彩異色はあまり目立たず,4眼のみが患眼で明るかった.Browneyeでは虹彩異色はあらわれにくい.白内障は全例にみられ,7眼に白内障手術が行われ,経過は良好であった.中年者の原因不明の片眼白内障に本症の存在を考慮すべきである.2眼に緑内障の合併をみ,1眼は手術を要した.8眼の白内障,および緑内障手術時に採取した周辺虹彩組織を電子顕微鏡的に観察した.虹彩実質への軽度の炎症性細胞(リンパ球,形質細胞)の浸潤と虹彩血管の内腔の狭細化,血管壁の変性像がみられ,本症の病因として虹彩血筥の異常が関与していると考えられた.

夕焼状眼底を呈しない原田病の問題点

著者: 浅井香 ,   板東康晴 ,   三村康男 ,   坂東桂子 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.133 - P.137

 1960年頃からコルチコステロイド療法が本疾患の治療に導入され,初発眼病変が原田病と非常に類似し,夕焼状眼底が出現することなく治癒に到る症例が増加してきている.これらの症例が果たして原田病であるのか他の疾患であるのか初診時に確定診断を下すことは非常に難しい.我々は原田病であって夕焼状眼底をきたさない症例の診断基準として,夕焼状眼底を呈した症例での眼外症状の頻度を参考にして,次のような条件を設定してきた.初発眼病変は両側性の急性びまん性脈絡膜炎と脈絡膜血管からの点状,斑状,クローバ状の螢光色素漏出をきたす定型的眼病変であり,かつ眼外症状として髄液細胞増多とそれ以外の2種以上が出現するという条件である1,2).しかし,発病初期から詳細に経過観察できた78例の本症患者につき各項目について再検してみると,従来の基準はやや厳しすぎる点があったため従来の基準を若干軽減し,髄液細胞増多,難聴,耳鳴,皮膚白斑,脱毛,毛髪白変のうち2種以上が存在するとき原田病とみなす暫定基準を案出した.この基準を満足できた症例は,夕焼状眼底未出現例26例中16例62%であり,初発眼病変の臨床病型では後極部剥離型が過半数をしめた.

原田病の経過と予後—副腎皮質ホルモン剤の全身投与を行わなかった症例について

著者: 山本倬司 ,   佐々木隆敏 ,   斎藤春和 ,   磯部裕 ,   新納昭子

ページ範囲:P.139 - P.144

 原田病に対するステロイド大量投与による治療法の評価を再検討するために,ステロイド剤の大量投与を行わない20症例につき,その経過と予後を検討した.20例中3例が遷延化し,他の3例が再発したが,最終観察時ではこれら6例の中2例のみが,活動性病変を示し,他は治癒した.視力予後は1.0以上が17例34眼,0.5〜0.9が3例5眼,0.3が1例1眼,0.8以上は18例36眼であり,原田病に対してはステロイド剤の全身投与を行わなくても,遷延化あるいは再発することなく,予後良好な経過をとる症例が大部分であることが明らかになった.このことから,原田病に対するステロイド大量療法は再検討されるべきである.

Uveal effusionと多発性後極部網膜色素上皮症

著者: 上野眞 ,   渡辺雄二 ,   上村健太郎 ,   三浦嘉久 ,   渡邊郁緒

ページ範囲:P.145 - P.152

 36歳男性と49歳女性の2例のuveal effusion (以下UE)を報告した.症例1は典型的な臨床症状を示したが,症例2は局所螢光漏出巣を伴い,多発性後極部網膜色素上皮症との鑑別が問題となった.UEの病態の基礎を脈絡膜循環の鬱滞と仮定すると種々の問題点が解決されるものと考えた.UEでも脈絡網膜関門の状態によって局所漏出病巣を呈する例があるが,光凝固は十分な効果を示さないものと考えた.症例2では脈絡膜剥離は認められなかったが,髄液蛋白上昇を示し,上強膜血管拡張の存在,光凝固治療の無効など,背後に脈絡膜循環障害があることが推測され,uveal effusionと診断した.

裂孔原性網膜剥離発生頻度の経年変化—和歌山県北部における5年間の調査

著者: 吉村利規 ,   田中康裕 ,   福田富司男

ページ範囲:P.153 - P.156

 和歌山県北部の人口66万8千人の地域で,1979年から5年間に,網膜剥離の手術を行っていた3施設で,合計345名357眼の裂孔原性網膜剥離を経験した.
(1)発生率は人口10万人当たり年平均10.33となった.年による発生率は8.42から11.64となったが,5%の危険率で有意な差はみられなかった.
(2)無水晶体眼性のものは13.4%,外傷性のものは9.6%となり,黄斑円孔によるものは10.9%となった.
(3)年齢階級別の発生頻度を調べると,男性では,最高60歳台の49.1人,女性では65歳台の37.4となった.
(4)50歳未満では4.93,50歳以上では25.35となった.
(5)外傷性を除いた特発性のものは,全体で9.39となり,イスラエルの報告と差はなかった.
(6)人口構成より補正すると,和歌山県北部の裂孔原性網膜剥離の発生頻度は,人口10万人当たり9.79,特発性のものは8.76となった.

比較的大きい網膜裂孔に対するシリコンボールのプロンベとしての有用性について

著者: 本多繁昭

ページ範囲:P.157 - P.160

(1)裂孔原性網膜剥離の手術では裂孔の閉鎖に完璧を期すことが必要である.比較的大きい裂孔の場合裂孔のかたちがどんなものであっても球型のプロンベがより合理的に目的を達することができる.
(2)今回使用したボールはジメチルポリシロキサンでできており非吸水性で感染の危険もなく滅菌も簡単であり,使用に便利である.
(3)黄斑円孔のプロンベの縫着に困難をきわめるとき生体接着剤を利用することもできる.
(4)29例29眼の大きい裂孔と4眼の黄斑円孔にシリコンボールをプロンベとして利用し87.8%が復位した.

特発性中心性漿液性脈絡膜症の螢光眼底血管造影法所見

著者: 吉岡久春 ,   小嶋嘉生

ページ範囲:P.165 - P.170

 本症79例81眼の螢光眼底血管造影所見から,定型型,急性網膜色素上皮炎型,およびacutc posterior multifocal placoid pigment epitheliopathy様あるいは脈絡膜三角形症候群様型の3型に分類された.その結果,(1)本症にみられる定型型の螢光漏出点も脈絡膜前毛細血管細動脈の軽度,一過性虚血(スパズム)によることが暗示された.(2)本症にみられる3型の螢光像は,侵される脈絡膜の動脈(あるいは後毛様動脈)の部位,数,スパズムの程度および持続時間に左右されるものと考えられる.

学術展示

VDT作業による眼精疲労と涙液産生能との関係

著者: 岩崎常人 ,   栗本晋二 ,   大久保享一

ページ範囲:P.172 - P.173

 緒言 情報化時代を迎えた今日,また改めて産業労働者の眼精疲労が表面化してきた.これはOA化の波に乗って現われたVDT (visual display terminal)作業が一般の事務作業場にひろく普及し,VDT作業が急増し,それに伴って眼精疲労を訴える者が増加したためである.視機能の点からいえば,VDT作業は従来から行われてきた事務作業に比べると,調節機能の低下,眼圧の上昇が同作業量で比較した場合に著しく大きい.
 VDT作業者におけるもっとも多い眼に関する不快感は,眼疲労感,視蒙,眼痛,乾燥感,熱感,異物感等であり,調節機能低下や眼圧上昇が訴えの一因をなしていることは十分に考えられるが,乾燥感,異物感に対応する視機能因子については報告がない.VDT作業者に角膜びらんが多いことは報告されている1)がその発生機序については明らかではない.そこで涙液産生能とVDT作業者の眼精疲労との関係を検討した.

CT scan像よりみたblowout fractureの自然経過

著者: 今井済夫 ,   坂井豊明 ,   西巻知佐子

ページ範囲:P.174 - P.175

 緒言 現在,blowout fractureの治療に関して決定的な見解がなく,早期手術をするという説1),一定期間の経過観察後に改善のみられない例には手術をするという説2),早期手術は不要とする説3)があり混沌としている.元来,自然治癒する傾向があり,手術することなく軽快するもののあることが知られ,自然治癒の報告もみられるが,その改善の機序は明らかにされていない.我我は数年来,blowout fractureに対して,初診時の症状・所見にかかわらず非観血的治療だけで経過をみているが,全例日常生活での複視は消失し手術を必要とした例はなかった.そこで,今回,症状改善の機序につき検討し治療の原則を明らかにしようとした.
 方法および対象対象は1982年5月から1983年12月までに当科を受診し精査ができ,複視消失時まで経過観察できたblowout fracture7例で,眼位・眼球運動・眼球陥凹・forced duction test等につき検査した.上顎洞への眼窩内容の陥凹の状態については,受診時と日常視での複視消失時にCT scanを行い,前額断層および矢状断層の像にて比較検討を行った.

翼状片のグリコサミノグリカンについて

著者: 金子昌幸 ,   高久功 ,   桂暢彦

ページ範囲:P.176 - P.177

 緒言 翼状片についての組織学的研究は数多くなされているものの,現在もなおその発生のメカニズムは不明であり,再発性のために,諸家を悩ます疾患である.我我はそのグリコサミノグリカン(GAG)に注目し,生化学的に分析し,ヒト結膜のGAGと比較検討した.
 実験方法 手術により得られた翼状片組織およびアイバンク眼より得られた結膜を,エタノール,エーテル処理し,脱脂乾燥物を得た.エラスターゼ消化にひきつづきコラゲナーゼ消化し,更にプロナーゼ消化後,10%TCAにて除蛋白し,GAGを得た(図1).GAGの成分分析をするとともに,二次元電気泳動1),二糖マッピング法2)により,GAG組成を調べた.

乳幼児の角膜形状測定

著者: 山本敏雄 ,   草田英嗣 ,   茨木信博 ,   田坂宏

ページ範囲:P.178 - P.179

 緒言 近年,乳幼児の角膜形状測定の必要性は増加している.また,乳幼児の角膜が,生下後どのような形状変化を伴いながら,成人の形状に近づいていくのかも興味のもたれるところである.
 しかし,既存の角膜形状測定法では,正確な測定距離や軸合わせが不可欠なため,全身麻酔下でないと測定は不能であった.

角膜ヘルペスの細胞学的検索—酵素抗体法の試み

著者: 水原誠一 ,   小林忠男

ページ範囲:P.180 - P.181

 緒言 近年,免疫組織学の分野に抗体の標識を酵素で行う新しい方法(酵素抗体法-PAP法1)が導入され,細胞診にも応用されはじめてきた.今回著者らは,臨床的にherpes simplex keratitis (以下HSKと略す)と思われる症例に対して,細胞診とPAP法を行い,その有用性を検討した.
 対象 樹枝状角膜炎3眼(うち2眼は実質型角膜炎と樹枝状角膜炎の合併例),角膜潰瘍1眼,実質型角膜炎4眼(表層病変の合併なし)の計8眼で,角膜潰瘍の1眼を除いていずれもその病態や経過,既往歴などから臨床的にHSKと診断された.角膜潰瘍の症例は始めHSKと診断されず,難治であったため診断のためにPAP法を行った.

格子状角膜変性症の1家系例

著者: 中泉裕子 ,   渡辺のり子 ,   狩野晴子

ページ範囲:P.182 - P.183

 格子状角膜変性症(Haab-Dimmer dystrophy)は,欧米では比較的多い疾患とされているが,本邦での報告は少ない.本邦での家族発症例の報告は少なく,金井1),藤原2),樋田3)の報告があるのみである.
 今回我々も本症の1家系5症例に遭遇し(図1),観察および角膜移植を含む治療を行う機会を得たので以下に報告する.

角膜格子状変性における臨床的・組織学的研究—3代1家系について

著者: 原田敬志 ,   田辺吉彦

ページ範囲:P.184 - P.185

 角膜実質を侵す,Bücklersの定型的なディストロフィーのうち顆粒状ディストロフィーおよび斑状ディストロフィーに関しては我々はすでにその電顕所見を報告したが,残った格子状角膜ディストロフィーの臨床的・病理組織学的検査の結果をここに述べる.
 本症は記載者の名をとってBiber-Haab-Dimmer角膜ディストロフィーとも呼ばれ小児期に発病し多くは高度の視力障害を来たすようになる.細隙灯検査では主として実質前層および中層に位置する互いに分岐する格子模様を確認できる.年余の経過と共に角膜表層に斑状の混濁が形成され表面は凹凸となり正常の輝きを失う.経過で特徴とすべきは年に数回発生する疼痛発作で流涙・羞明・異物感を訴え来院する.反覆する上皮剥離と考えられる.

家族性格子状角膜変性症における角膜各層の変化について—Specular Microscopyによりとらえられた角膜各層の病態

著者: 菅井めぐみ ,   小林ひろみ ,   栃久保哲男 ,   河本道次

ページ範囲:P.186 - P.187

 緒言 Specular microscopyはヒト角膜各層のin vivoでの観察を可能とし,角膜疾患の病態理解に役立っている.格子状角膜変性症は本邦では比較的稀な疾患で,家族性発症の報告は少なく1),本症の角膜各層をspecularmicroscopeにより観察した所見はこれまでほとんど明らかにされていない2).今回我々は6世代にわたり家族性発症を示した1家系(77例中23例)(図1)のうち,2症例に対しspecular microscopyを施行し,臨床上細隙灯顕微鏡検査により観察される知見と比較し検討を行った.
 症例1:57歳女性.主訴;両眼視力障害.10歳台後半より視力障害増悪し,5年前他医にて水晶体摘出術施行された.初診時視力V.d.=0.03(i.d.×+12D),V.s.=0.03(i.d.×+12D).角膜中央部上皮下に半透明状白濁が見られた(図2①).

Iridocorneal endothelial (ICE)症候群における角膜内皮細胞の形態と機能

著者: 松原正男 ,   新家真 ,   北沢克明 ,   大原国俊

ページ範囲:P.188 - P.189

 緒言 Iridocorneal endothelial (ICE) syndromeは,Essential iris atrophy, Chandler's syndrome, Cogan-Reese syndromeを同一の疾患群であるとして上記三疾患を総称するものである1).本症候群では角膜内皮細胞の異常が主病変であり,内皮細胞の虹彩面上への異常増殖により周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,虹彩萎縮,瞳孔偏位等が生じるとされる.我々は本症候群の3例について角膜内皮細胞の形態と機能の測定を行った.
 対象と方法 症例1:38歳,女.36歳時に左眼の瞳孔の不整に気付く.視力右1.2(n.c.),左1.2(n.c.).眼圧右16,左17mmHg.6時方向の瞳孔縁は下方に牽引され,5〜7時に周辺虹彩前癒着(PAS)をみる(図1).角膜は透明だが外下方の内皮面の反射はbeaten silver様を示す.右眼は正常.

蚕蝕性角膜潰瘍に対する潰瘍および結膜切除診術(Brown法)の治療成績

著者: 塩田洋 ,   水井研治 ,   山根伸太 ,   内藤毅 ,   三村康男

ページ範囲:P.190 - P.191

 緒言 蚕蝕性角膜潰瘍は進行性で難治性である.本疾患の原因は未だ不明で,確立された治療法はない.1975年Brownは,潰瘍部付近の角膜・結膜コラゲナーゼ活性の上昇を認め,結膜コラゲナーゼの病的産生が角膜潰瘍を進行させるものと推論し1),治療方法として潰瘍隣接部結膜の切除を行い,その有効性を報告した2).わが国では武井らによって,最初の本法有効2症例が報告されている3).我々も6症例(10回)に本法を試み,満足すべき結果を得ているので,その治療成績と術式の要点について述べる.
 方法と対象 角膜辺縁部の潰瘍で,undermined edgeを有する典型的な蚕蝕性角膜潰瘍6症例を対象とした.同一眼で異なった部に潰瘍が起こって来た者および再手術した者があるため,手術回数は合計10回となった.術後の観察期間は最短1年10カ月から最長5年7カ月におよび,平均3年3カ月であった.

角膜移植後拒絶反応に対するCyclosporin Aの使用

著者: 森林淑江 ,   広松正児 ,   水落笙子 ,   谷島輝雄 ,   増田寛次郎

ページ範囲:P.192 - P.193

 緒言 Cyclosporin Aは,臓器移植における拒絶反応の抑制に著明な効果を持つことが明らかにされ,腎移植,肝移植,骨髄移植,心臓移植等に使用されている1).今回,我々は角膜移植後の拒絶反応に対して本薬剤の内服療法を行ったので,結果を報告する.
 症例 31歳男性.原疾患は円錐角膜である.過去2回,他院にて左全層角膜移植術を受けるも,移植片は混濁した.1983年4月左全層角膜移植術を行ったが,術後10日目に拒絶反応を起こし,ステロイドホルモンの内服・点眼・結膜下注射を行ったが,移植片は混濁した.1984年3月,左再手術を行い,翌日よりPrednisolone20mgの内服を開始した.術後14日に拒絶反応が生じたため,Prednisolone 30mgに増量,Betamethasoneの結膜下注射,点眼を行ったが,拒絶反応が軽快しないため,Cyclosporin A 10mg/kg/日内服を開始した.Cyclosporin A内服後,経時的に腎機能測定,血算,血液生化,尿検,リンパ球機能検査を行い,更に血中のCyclosporin A濃度を測定した.

連載 眼科図譜・327

網膜つた状血管腫(Wyburn-Mason)

著者: 猪原貴子

ページ範囲:P.92 - P.93

 網膜つた状血管腫racemose hemangiomaは,網膜動静脈が毛細血管を介しないで直接吻合し,著しい拡張と蛇行を呈する状態であり,その本態は網膜動静脈の発生異常(先天性奇形)とされている.Wyburn-Mason症候群は,これに同側性の頭蓋内動静脈奇形と眼瞼皮膚または眼窩の血管奇形が合併したものである.
 症例は生来健康な47歳女子(56-7052)で,左眼に視力障害が突発して来院した.初診時視力は右眼1.2,左眼は手動弁であった.左眼は強い硝子体出血のため,眼底は透見不能.硝子体出血の除去を目的に,硝子体手術vitrectomyを行った.術後視力は0.5に回復した.

臨床報告

妊娠中・後期における下垂体腺腫—血中ホルモン値と視野変化

著者: 本田孔士 ,   高橋晃

ページ範囲:P.195 - P.198

 プロラクチン産生下垂体腫の19症例,20回の妊娠中の視野を1,2カ月ごとに検査し,8/20回(40%)に欠損の新たなる出現または欠損の拡大を認めた.一方,同患者の血中プロラクチン値は最初の2〜10週で急激に上昇した後,平衡に達し,以後変動しにくく,最も大切な妊娠中・後期に下垂体の動態を知る有力な指標となりえないことがわかった.このことから,上記患者の妊娠中の下垂体の動態は,血中ホルモン値の小康をもって安心することなく,視野検査の繰返しによって追求されるべきで,欠損の拡大が急なる時は,麦角アルカロイドbromocriptine投与を行って,後に不可逆的病変を残すことのないよう努力すべきである.

糖尿病性網膜症に対する硝子体手術成績—成績向上への対策

著者: 福田雅俊 ,   翁長春彦 ,   江口甲一郎 ,   亀山和子

ページ範囲:P.205 - P.209

 著者らの所属する3施設で最近5年間に実施した増殖糖尿病性網膜症217眼(195例)の硝子体手術成績を発表し,その向上に必要な対策を考察した.視力改善率は平均56.2%で,54年以前の43%(13眼)より58年の67%(43眼)まで徐々に向上しつつあるが,今後の成績向上への対策としては,対象を最終視力低下時より3カ月以内,視力が術前0.01以上のものにしぼるのがよいと結論された.

網膜静脈分枝閉塞症の増殖性病変—103眼の臨床的特徴と光凝固予後に影響する因子

著者: 竹田宗泰 ,   木村早百合

ページ範囲:P.211 - P.216

 最近10年間に札幌医大眼科で網膜静脈分枝閉塞症による新生血管を合併し光凝固を受けた103眼を対象として,新生血管の臨床的特微と光凝固効果を閉塞部位別に検討した.
(1)新生血管発生部位は耳側主要分枝閉塞群で50%が乳頭部に見られた.しかし周辺側分枝群では1例を除きすべて網膜面であった.
(2)光凝固効果は経過観察を行った全例98眼中,新生血管完全消失49%,部分退縮46%,不変5%であった.閉塞部位別に見ると新生血管の消失あるいは縮小では周辺側分枝群で100%,耳側主要分枝群で92%であった.硝子体出血頻度では周辺側分枝群術前74%から術後13%,耳側主要分枝群術前47%から術後24%であった.視力維持,改善は周辺側分枝群93%,耳側主要分枝群85%で全体的に静脈閉塞部位により治療効果が異なる.
(3)光凝固の予後不良の因子として①耳側主要分枝閉塞群②乳頭部新生血管③光凝固不十分の例④牽引性網膜剥離などがあげられる.

眼内レンズ挿入眼の予後とその併発症・後房レンズ

著者: 山岸和矢 ,   小林博 ,   西村晋 ,   池田定嗣 ,   荻野誠周 ,   永田誠

ページ範囲:P.217 - P.222

 1979年より1983年5月の間に後房レンズを209眼に挿入し,うち199眼について3カ月以上最長4年にわたり術後経過観察を行い得た.手術は55歳以上の片眼老人性白内障を対象とし,今回は挿入眼の視機能予後と併発症について検討した.
(1)矯正視力0.5以上は184眼(92%)であった.(2)併発症で多かったのは光学部瞳孔前偏位(pupillary capture)12眼(6%),後発白内障8眼(4%)であった.(3)術後Pseudomonas cepaciaによる細菌性眼内炎を1例経験した.(4) Pupillary captureとdecentrationは後房レンズのタイプにより発生率に大きな違いがあり,それぞれのタイプの固定や平面安定性の差が推察できた.(5)ぶどう膜炎を3眼(1.5%)に認めたが総て一過性であった.しかし虹彩支持レンズ挿入眼では持続性ぶどう膜炎を6%に認めており,後房レンズ挿入眼においても十分な経過観察が必要である.また長期予後が明らかでない現時点では適応は慎重でなくてはならない.

標準色覚検査表(SPP表)と新色覚異常検査表(新大熊表)の使用経験

著者: 岡島修

ページ範囲:P.223 - P.227

 石原表6表によるscreeningをfailした大学新入学者755人および一般外来受診の色覚正常者男女各200人に対し,標準色覚検査表第1部(SPP表と略),新色覚異常検査麦(新大熊表と略),石原表国際版,anomaloscopeにて検査を行い,SPP表の異常者検出能力と分類能力,新大熊表の検出能力を検討した.
 検出能力はSPP表では石原表をやや下回るが,新大熊表では要精検を正常に含めれば石原表に匹敵する結果であった.検出表を個々に検討すると,SPP表では第5,14表が,新大熊表では第2,3表が秀れていた.
 SPP表の分類能力はprotan,deutan共他の分類表の成績を上回った.しかしSPP表についての報告を検討すると,protanの分類成績の良いものとdeutanの成績の良いものとに分かれ,印刷の際の色の再現性に問題がある可能性をうかがわせた.

カラー臨床報告

線状皮脂腺母斑症候群の眼所見

著者: 桐渕和子 ,   内田幸男 ,   丸山博

ページ範囲:P.199 - P.203

 線状皮脂腺母斑症候群の2症例に眼科的検索を行い,広範な母斑を伴う1例の同側眼底に,乳頭上鼻側方向に脈絡膜の低色素を主病変とし,同部の脈絡膜,強膜の低形成が混在するという形成異常,ならびに乳頭の生理的陥凹の拡大を認め考察を加えた.

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(38)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.228 - P.229

47.神教流眼科内障針秘書
 神教流眼科は慶長年代の初め,竹生島の弁財天祈祷によって夢中に授けられた法と伝えられている.
 文化年代にその9世の孫,古澤元泰(源時英,号海庵,文化12年,52歳)という人が近江国(滋賀県),彦根,井伊掃部頭藩医官の隠居として江戸に住んでいた.この古澤元泰に埼玉県久喜町の佐藤純之助氏の曽祖父佐藤慶雲氏が教えを受けた.佐藤慶雲氏は文化年代より久喜町に眼科を業とし,代々慶雲を通称したといわれる.つまり,古澤元泰は先祖から受継いだ眼科を佐藤慶雲氏に伝授したことになろうか.

GROUP DISCUSSION

眼の形成外科

著者: 中川喬

ページ範囲:P.231 - P.234

1.先天性眼瞼下垂の手術時期
          山本 節・高山昇三・金川美枝子              (兵庫県立こども病院) 目的眼瞼下垂の手術治療として数多くの手術方法があるが,先天性の場合はもともと眼瞼挙筋が萎縮変性しているため,満足な結果を得ることがむずかしい疾患の一つとされている.また,本症の治療にあたって一番問題となる点は,手術術式以外に,その手術時期であると思われる.
 今回,私たちが行ってきた眼瞼下垂手術症例をretro-spectiveにみて,どの時期に手術をするのが最も適切か検討して報告する.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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