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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科39巻6号

1985年06月発行

雑誌目次

特集 第38回日本臨床眼科学会講演集 (その5) 学会原著

Posner-Schlossman症候群における眼底および視野障害について

著者: 難波克彦 ,   岩田和雄 ,   関伶子

ページ範囲:P.701 - P.706

 我々は多数の緑内障眼の極初期所見分析の結果から,眼圧上昇がおこると何らかの視神経障害がおこるのではないかと予想している.そこでPosncr-Schlossman症候群45例の網膜神経線維層(RNFL)の欠損,視神経乳頭のcuppingおよびpallor,Goldmann視野,Friedmann Visual Field Analyzer Mark II (FVFA)について検討した.
 RNFLの欠損は症例の66.7%に,cuppingの拡大は26.7%に認められた.Goldmann視野では22.9%に,FVFAでは23.1%に視野変化がみられた.以上のことから眼圧が上昇すれば何らかの視神経障害が生ずることを示竣する結果が得られた.

隅角癒着解離術第1報

著者: 永田誠 ,   禰浦直久

ページ範囲:P.707 - P.710

 慢性閉塞隅角緑内障で器質的周辺虹彩前癒着を生じた隅角を再び開放する新しい術式を考案した.あらかじめ硝子体中心部から少量の硝子体を切除し,輪部小切開創から隅角癒着解離術用の注入針を挿入し前房を深く形成しながら隅角癒着を剥離する.6カ月以上観察できた8例9眼の成績からこの手術が難治な閉塞隅角緑内障の手術的治療として,安全でかなり有効な方法であることがわかった.

内因性大腸菌性眼内炎の3症例

著者: 秦野寛 ,   谷口定路 ,   佐々木隆敏 ,   田中直彦

ページ範囲:P.711 - P.714

 内因性大腸菌性眼内炎を3例報告した.症例は38歳女性,68歳女性,74歳男性で,全例糖尿病と尿路感染を合併していた.視力予後は全例不良であった.本症発症の背景について文献的考察を加えた.

Octopusによる中心視野についての研究(総括)

著者: 大鳥利文 ,   中尾雄三 ,   松本長太 ,   福田昌彦 ,   楠部亨 ,   岡村和和世 ,   池田雅晴

ページ範囲:P.715 - P.719

 OctopusのSargonプログラムを用い,中心視野測定用の9種のプログラムを作り,これを分類,命名した.
 パーソナル・コンピューターに中心固視の良い眼で求めた中心49点のdB数を入れ,中心視野変化をgray scale表示ならびに3次元とカラー表示することを試みた.
 過去3年間の臨床研究よりして,我々の作ったプログラムM1.0とM2.0は錐体ジストロフィーのような黄斑疾患や,旁中心暗点を有する視神経症や同名半盲の症例にみられた黄斑回避の診断や経過観察に最も有用であることがわかった.

Laser trabeculoplastyの臨床的および形態学的研究

著者: 三浦孝博 ,   松浦啓之 ,   魚谷純 ,   清水正紀 ,   船田雅之 ,   藤永豊

ページ範囲:P.721 - P.725

 教室におけるlaser trabeculoplasty (LTP)の最近の成績とLTP後眼圧コントロール不良例および正常隅角眼のLTP施行1週後の形態学的観察を行った.薬物治療不能な緑内障18例23眼に対しLTPを施行し,11例14眼(60.9%)で眼圧のコントロールが得られた.
 LTP後眼圧コントロール不良例のトラベクレクトミー切除片では,線維柱帯間隙の狭細化とシュレム氏管の一部に閉塞がみられた.また,走査電顕的に線維柱表面に膜様物の形成が観察された.
 照射1週後の正常隅角眼では,線維柱帯に間隙の拡大と内皮網の菲薄化がみられた.

Optico-oto-diabetic syndromeの同胞例

著者: 平井香織 ,   佐藤昌保 ,   松木恒生

ページ範囲:P.727 - P.732

 François (1976年)は糖尿病,視神経萎縮,尿崩症,感音性難聴を合併した症候群をoptico-oto-diabetic syndromeと命名したが,現在のところ本邦における眼科領域の報告はない.我々は体症候群と思われる4兄弟(16歳,15歳,10歳,6歳)を経験した.家族歴に2代にわたる血族結婚がある.長男と次男は4主微をすべて備え,三男は眼症状のみを呈し,四男には糖尿病と感音性難聴がある.長男,次男,三男の眼症状はわずかに進行性で,その眼底像は視野・ERG・暗順応の結果から網膜色素変性症の一型と考えた.また,常染色体劣性遺伝の可能性が強い.

Fundus Haploscopeによる盲斑機序の研究

著者: 新井真理 ,   高橋総子 ,   稲富昭太

ページ範囲:P.733 - P.738

 Fundus Haploscopeにより内斜視患者350名の網膜対応を眼底直視下で観察し,そのうち網膜対応異常を伴う盲斑機序を4症例確認した.これらの症例の斜視手術後の網膜対応,抑制野,および視覚感度を測定した.その結果,斜視手術後網膜対応部位が動揺し乳頭からはずれた症例や,網膜対応部位は変化しなかったが,視覚感度分布に変化がみられた症例があった.このように同じ対応異常をともなう盲斑機序でも術後の変化に差を認めたことは,乳頭を含んだjump suppressionの幅や同時視の有無などとの関係から,盲斑の積極的な関与を考えるよりも対応異常の深さによる差異と推定された.また盲斑機序が疑われたが,盲斑を利用せず乳頭近くにjump suppressionを認める症例が5例あり,このことからも盲斑の特別な役割を考えるのは,難しいと思われる.

眼筋手術の量定に関する研究—予報 眼位の測定について

著者: 篠原淳子 ,   宮下忠男

ページ範囲:P.739 - P.743

 眼筋手術の量定を目的として,術前,術後の眼位を正確にかつ定量的に測定するために,写真およびビデオカメラによる撮影計測を行った.写真撮影は望遠,接写装置にプリズムを併用して角膜写真像の拡大をはかり,この角膜反射像より斜視角を測定した.
 カメラの移動撮影により,斜視角またはむき眼位よりの角膜反射像が明確になり,正確な計測ができるようになり,特に上下偏位のある際に有利である.
 下斜筋過動の程度を表わすために,患眼の30°内転時の上方偏位角を用いることとした.これにより,mm単位で表わされる下斜筋後転術との比較において下斜筋の手術量定を数量的な関係として検討することが可能となる.
 ビデナヵメラを使用して,眼球運動,眼位の状態を記録し,手術の量定法に役立てることとした.

Swinging flashlight testによる relative afferent pupillary defectの検出能

著者: 小笠原孝祐 ,   高橋洋司 ,   小田島祥司 ,   田沢豊

ページ範囲:P.745 - P.750

 Swinging fiashlight test (SFT)によるrelative afferent pupillary dcfect (RAPD)の検出能を再検討するため,視機能上種々の程度の左右差を有する外傷性視神経症,緑内障,視交叉症候群,虚血性視神経症の計35症例について,RAPDの程度と視力,視野,中心フリッカー値(CFF)との関係を調べた.その結果,RAPDと左右眼の視力差との間に関連は認められなかったが,RAPDと左右眼のCFF差には相関があり,患眼のCFFとRAPDと同じ濃度のND filterを負荷した後の他眼のCFFとはよく一致していた.また,視野の量的左右差はGoldmann視野測定の結果から対数閾値を求めて比較したが,I1,I2,I3イソプターの総和とRAPDとの間に強い関連性が認められ,Peritestによる中心視野内の閾値低下の程度,範囲に対応していた.今回の研究結果をopen loop 下のRAPDの分析結果と比較することはできないが,SFTも基本的には中心視野に対応する第3ニューロンの視感度閾値の差を量的にとらえるものと考えられる.

Optico-encephalo-peripheral neuropathyを呈したシンナー中毒の3症例

著者: 池田潔 ,   木村徹 ,   石川哲

ページ範囲:P.755 - P.758

 長期にわたってシンナー遊びを続けていた3症例に対して眼科的,神経学的精査を行った.
 いずれの症例も視力低下が著明で視神経萎縮を呈しており,flash VEPで高度の障害を示したにもかかわらず,ERGでは2症例でsupernormal typeを呈し視神経により強い障害をおよぼすことがわかった.
 また,脳波異常を呈し,幻覚の既往および手袋靴下型感覚障害があり,中枢神経系異常ばかりでなく末梢性ニューロパチーも認められた.1症例で小脳症状が著明であった.
 以上より,シンナー中毒では広い範囲にわたって視路が障害されている可能性があり,神経学的所見も考慮すると,本症はoptico-encephalo-peripheral neuropathyと解するのが適当であると考えられた.

Skew deviation 80例の検討

著者: 加島陽二 ,   稲垣昌泰 ,   鈴木利根 ,   中野直樹 ,   西田幸子 ,   石川弘 ,   北野周作

ページ範囲:P.759 - P.763

 Skew deviationの80例を検討した.その病巣部位は間脳を含めた脳幹,小脳および末梢前庭と広範囲にみられた.Skew deviationを注視方向による眼球の上ド偏位の変化によって分類すると共働型,交代型,単筋麻痺型の3型に人別でき,特に単筋麻痺型があることを強調した.Skew deviationの診断には上記3型を念頭に置いた注意深い複像検査を行うことが重要である.

学術展示

諏訪地方工場勤労者の緑内障調査

著者: 福永博一 ,   松生俊和 ,   高瀬正彌

ページ範囲:P.766 - P.767

 緒言 緑内障の集団検診を行うにあたっての予備試験として,地方工場労働者(10歳代〜60歳代の健常者)の眼圧分布と乳頭C/D比分布調査を行った.本研究の目的は緑内障のスクリーニング方法を確立することにあるが,今回眼圧の分布および血圧など身体的因子との相関を検討し,興味ある結果を得たので報告する.
 方法 ①対象は諏訪市内工場労働者,18歳から67歳までの健常と思われる876人(男性569人,女性307人)1752眼.②検査方法は家族歴および既往歴調査後,視力測定を行い,ついで検査技師によりA.O.non contact tono-meter (NCT)で眼圧を右眼に続いて左眼の順で測定した.測定値は3回測定し,その平均値を採用した.測定時刻は午前10時30分より午後2時30分までに行った.さらに細隙灯顕微鏡による前眼部および中間透光体検査を行い,その後直像鏡による垂直C/D比測定を行った.身長,体重測定から肥満度を算出し,また血圧測定も行った.③解析方法は対象全体を10歳きざみ各年齢層,男女性別に分類し,眼圧分布を検討した.また眼圧分布と年齢による層別,肥満度による層別,血圧(収縮期,拡張期)による層別との相関関係を検定した.

Exfoliation syndromeにおける虹彩・水晶体癒着について

著者: 上野脩幸 ,   野田幸作 ,   玉井嗣彦 ,   岸茂 ,   和田秀文 ,   北川康介 ,   割石三郎 ,   竹村恵 ,   佐々木徹 ,   豊田英治

ページ範囲:P.768 - P.769

 緒言 Exfoliation syndromeを伴う3眼は,白内障手術時に破嚢や前房出血などの合併症を起しやすいことが報告されている1).今回著者らは,本症候群患者の虹彩片と水晶体を形態学的に観察したのでその結果を報告する.
 対象と方法 16例19眼の本症候群を伴う白内障眼を全例アモイルス・ノンエレクトロ冷凍手術装置にて,水晶体全摘術を施行した.手術時に得られた虹彩組織と水晶体は,直ちに2.5%グルタールアルデハイド固定をし,光顕,ならびに電顕用標本を作成した.

Iridocorneal endothelial (ICE) syndromeによる続発緑内障と角膜障害について

著者: 真野富也 ,   井上幸次 ,   木下茂 ,   宇仁明彦 ,   飯塚修三 ,   清水芳樹 ,   木下渥 ,   稲葉昌丸

ページ範囲:P.770 - P.771

 緒言 ICE syndromeには臨床上種々のvariationがあるが,疾患の原因は角膜内皮異常であり,上皮化した角膜内皮やデスメ膜様膜が角膜後面,隅角,そして虹彩面上を覆うためとされている,今回,我々はICE syn-dromeの各variationに角膜内皮異常があるか否かを検討した.
 対象および方法 対象はprogressive iris atrophy 2例,Chandler's syndrome 2例,Cogan-Reese syndrome 3例であり,specular microscopeで角膜内皮の形態を観察し,超音波診断装置(VIDA55)にて角膜の厚さを測定した.

早期緑内障眼の青錐体感度とtransient tritanopia effectの検討

著者: 阿部春樹 ,   坂井豊明 ,   吉田武子

ページ範囲:P.772 - P.773

 緒言 我々は早期緑内障の視野異常はBjerrum領の青錐体感度低下に始まり,その検出には静的青錐体視野計測が最も鋭敏であることをすでに報告1)した.今回,この青錐体系の反応の一つであるtransicnt tritanopia ef-fect (以下TTEと略)を,Maxwell視光学系と平面色光視野計を用いて,網膜中心窩近傍ならびにBjerrum領域で検討した.
 方法 Maxwell視光学系(図1)と,平面色光視野計(図2)を用いた.光学系の詳細については既に日眼誌1,2)に報告した.検査光は視角53分で黄色背景光(Max-well視104tolorand,平面色光視野計950 Nit)下で,Maxwell視では網膜中心窩近傍で,平面色光視野計では中心視野25°以内の各網膜部位で測定した.測定はまず3分以上黄色背景光に順応し,この上に青色検査光を重ねて呈示し青錐体感度を求めた.次に背景光を3秒間on,0.5秒間offの条件をくりかえして背景光offの間に閾値を測定し,両者の閾値の差をTTEとした.

緑内障視野進行に伴う乳頭変化の検討—第III報 中期以降の緑内障例

著者: 大久保潔 ,   溝上国義

ページ範囲:P.774 - P.775

 緒言 初期緑内障における乳頭陥凹については多くの報告が見られるが,すでに緑内障性乳頭陥凹が完成した中期,末期緑内障における乳頭陥凹については,詳細に検討した例は,ほとんど見られない.著者らは前報1,2)において,長期追跡例,左右の視野障害の程度に差を認める初期緑内障について視野障害進行と陥凹・乳頭面積率(C/D・A)の相関さらにOctopus視野計の計測を定量化し,対応するC/D・Aと比較検討した.
 今回我々は中期・末期緑内障について,Goldmann視野障害の程度とC/D・Aとの関連について検討を加えたので報告する.

Laser trabeculoplasty後の前房隅角螢光血管造影所見

著者: 木村良造 ,   木村亮子 ,   菊池武邦

ページ範囲:P.776 - P.777

 緒言 Laser trabeculoplasty (以下LTPと略)の有用性は一般に容認されてきているとはいえ,最終的な評価を得るまでには到っていない1).すなわち,実験的あるいは臨床的に可及的多くの手段を駆使しての追求が引続き必要とされている.このたびは,その一手段として,内外ともにまだ応用されていない前房隅角螢光血管造影法Fluorescein gonioangiography2)(以下FGAと略)をとりあげた.以下にその成績を報告する.
 対象および方法 いまだ手術をうけたことのない原発性開放隅角緑内障眼で最大許容範囲の薬物療法にもかかわらず眼圧コントロールが不良な5例5眼を対象にLTPを行ったが(表1),LTPは内または外側方半周の線維柱帯の強膜岬寄りに,照射サイズ50μm,照射強度700-1000mW,照射時間0.1秒の条件で50個所行った.LTPに先立ち,LTP施行予定部位のFGAを行った.LTP施行後にも同一個所のFGAを行い比較した.FGAはKimura (1980)2)の方法によった.LTP施行前後におけるFGA施行日は表1に示した通りである.

眼球打撲患者の前房隅角所見—Pigment pelletの成因の一つとして

著者: 春田恭照 ,   湯浅武之助 ,   中川やよい

ページ範囲:P.778 - P.779

 緒言 隅角の色素沈着には特異な形態があり,これらの形・沈着量から二つの型に分けてpigment pelletとPigment sprayと名付られている1).今回は,pigmentpelletについて,その成因の一つとして,眼球打撲があげられるかどうかも検討した.
 方法 1978年7月から1984年8月までに阪大病院および近大病院眼科を受診した眼球打撲患者の83例86眼(受傷後隅角検査までの期間が6日以内の例37例38眼,1週以上の例46例48眼)について,隅角の色素沈着に着目して,隅角解離などの眼球打撲による隅角変化および前房所見とpigment pelletの頻度を比較検討した.Pigment pelletとは,隅角下方6時付近の球形ないしは米俵状の色素塊であり,ウサギの糞のような形をしたもの1)をいう.

鈍的眼外傷の統計的観察—その2 外傷性黄斑円孔の視力予後と合併症

著者: 山内昌彦 ,   難波彰一 ,   平井健一 ,   泉谷昌利 ,   森野智英子 ,   河合蘭子 ,   大沢英一 ,   松山道郎

ページ範囲:P.780 - P.781

 緒言 黄斑円孔は一般に視力予後が不良であると考えられているが,外傷性黄斑円孔では,full thickness hole(以下FHと記す)であっても,視力の改善が比較的良好な場合がある.そこで,視力予後が良いのはどのような症例か,また視力予後に大きな影響を及ぼす網膜剥離を起こすのはどのような場合かを知る目的で外傷性黄斑円孔25症例について臨床的検討を加えた.
 対象 1975年1月より1984年6月までに大阪市大眼科を受診した外傷性黄斑円孔の患者のうち経過観察しえた25例25眼を対象とし,円孔の性状,固視点の位置による視力予後および網膜剥離,網脈絡膜萎縮の合併について検討した.

鈍的眼外傷の統計的観察—その3 外傷性脈絡膜破裂の検討

著者: 平井健一 ,   吉本旬 ,   池田誠宏 ,   山内昌彦 ,   北庄司清子 ,   難波彰一 ,   松山道郎

ページ範囲:P.782 - P.783

 緒言 鈍的眼外傷によって起こる脈絡膜破裂は,経過中稀に重篤な合併症として新生血管形成がみられることがある.部位によっては,視力予後に人大きな影響を及ぼす.この新生血管はどのような症例に形成されるのかを知る目的で,過去9年間に著者らが経験した外傷性脈絡膜破裂38例を対象に臨床的に検討をした.
 結果 (1)過去9年間の鈍的眼外傷1381例中脈絡膜破裂がみられた症例は38例(約2.8%)であった.

Horner症候群にみられた軽度眼瞼下垂に対するMüller筋・結膜短縮術の検討

著者: 粟屋忍 ,   菅原美雪 ,   冨安誠志 ,   三浦元也

ページ範囲:P.784 - P.785

 緒言 従来から軽度の眼瞼下垂の矯正にはFasanella-Servat法1)が有効であるとされている.これに対し,1975年,PuttermanおよびUristはFasanella-Servat法が奏効する機序は瞼板や眼瞼挙筋の部分切除によるのではなく,Müller筋の部分切除によるものであるとし,この目的のために,瞼板を切除することなく,Müller筋と結膜のみを部分切除する方法2)を発表した.
 我々は今回,神経レベルの麻癖の後遺症としてとかく放置されやすいHorner症候群などにみられるMüller筋の弛緩を主因とする眼瞼下垂に対してPutterman-Urist法を施行し,その結果を検討した.

連載 眼科図譜・331

非定型的脈絡膜欠損を伴った結節性硬化症の1例

著者: 山崎伸一

ページ範囲:P.698 - P.699

 非定型的脈絡膜欠損が,結節性硬化症(tuberous scle-rosis)の眼底にときに起こることは,François1).桐渕2)らによって報告されている.今回,従来の報告には見られないほど大きな非定型的脈絡膜欠損と,それによる視野欠損を伴った1例を経験した.
 症例ば15歳の男子である(S.T.,58-1128).小学校入学前から現在に至るまで,夜間に癩癇発作が頻発していた.数日前から昼間にも癩癇発作が頻発するようになり,1983年11月21日当時著者が在職した病院の精神科と脳外科を受診.顔面の脂腺腫と頭蓋内石灰化とから結節性硬化症と診断され,眼底検査のため紹介された.家族歴には特に問題はない.両親は血族結婚でない.

臨床報告

Preferential looking法による極小未熟児の視力発達

著者: 若林憲章 ,   多田桂一 ,   横谷千晴 ,   蠟山敏之 ,   佐藤美雪 ,   亀松さくら ,   江口甲一郎

ページ範囲:P.789 - P.793

(1)2カ月齢から3歳までの乳幼児263例について,preferential looking (以下PL)法を用いて視力を測定した.
(2) PL法は乳幼児の視覚障害の早期発見のために,定量的視力評価法として優れた検査法であり,臨床面で広く用いられるべきである.
(3)片眼視力の測定が難しく正確なPL視力が測定できない症例に対しては,月齢に即した工夫によって更に成功率を向上させることが期待できる.
(4) PL法によって得られた極小未熟児および超未熟児の視覚発達の特徴は,出生直後からは視性刺激を受けても視力の発達を開始せず,出産予定日を3カ月過ぎた頃から早産分だけ遅れて発達する.出生後6カ月経過すれば,正常乳幼児と同様の発達を示す.
(5)極小未熟児および超未熟児の視覚発達は,出産予定日から考えることが妥当である.

Consecutive cyclic esotropiaの3症例

著者: 宮島弘子 ,   明尾潔 ,   神園純一 ,   田中靖彦 ,   植村恭夫

ページ範囲:P.795 - P.799

 間歇性外斜視術後に,周期性内斜視となったconsecutive cyclic esotropia 3症例の臨床所見,手術方法,術後経過について述べ,"primary cyclic esotropia"との比較検討を行った.
 Consecutive cyclic esotropiaの特徴は近視傾向を示し,手術眼の外転抑制を伴うことであり,原因として外直筋の不全麻痺と,手術を契機として生じた外直筋のtonusの変化と,「生物時計」biological clockの関係が考えられた.

クリプトンレーザーによる中心性漿液性脈絡網膜症の光凝固療法の成績

著者: 加藤直子 ,   山本武仁 ,   大熊紘 ,   友田隆子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.800 - P.804

 Coherent社クリプトンレーザー光凝固装置(システム910)を用いてこの1年間に中心性漿液性脈絡網膜症(中心性網膜炎)64例65眼に光凝固を行った.合併症を防止して治療効果をあげるために,大きいスポットサイズ(200μm),長い凝固時間(0.2秒)を凝固の標準とし,平均85mWの低出力で螢光漏出点を含めその周囲に数発の凝固を加えた.網膜剥離完全消失までの期間は平均2.9週で,術後視力の回復も良好であった.光凝固部の瘢痕は軽く,そこに一致する暗点は小さいかあるいは証明されず,また合併症は見られなかった.クリプトンレーザー光を用いると,中心窩の近くの凝固も可能で,中心性網膜炎に対する光凝固にはアルゴンレーザー光よりもクリプトンレーザー光の方が有利であった.

眼窩内病変を伴った網膜動静脈吻合の1例

著者: 真崎浩見 ,   浦口敬治 ,   東長人

ページ範囲:P.805 - P.811

 10歳,女児にみられた眼窩内病変を伴うretinal arteriovenous communicationsの1例について報告した.
(1)右眼眼底には,動静脈の区別のつかない著明に拡張,蛇行した巨大な血管が視神経乳頭部から網膜全方向に拡がっているのが認められた.
(2)周辺部網膜には網膜出血,毛細血管瘤,無血管領域が認められた.
(3)患眼の視野は著明に狭窄しており,その原因は眼窩内のarteriovenousmalformationによるものと考えられた.
(4)患眼のVEPはIV, Vaがほぼ消失し,最大振幅は健眼の1/3以下であった.
(5) ERG, EOG Hght riseも健眼に比して減弱していた.
(6)本症例の視機能障害の原因は網膜異常血管による直接障害のほか,血管異常に起因する血流動態の変化による二次的な網膜および脈絡膜の障害であると推測した.また,この視機能は眼窩内異常血管の存在によりさらに強く障害されたものと考えられた.

糖尿病性網膜症に対するアルゴンとクリプトンレーザー光凝固の対比

著者: 岡野正 ,   米谷新 ,   村岡兼光 ,   岸章治 ,   沼賀哲郎

ページ範囲:P.813 - P.818

 糖尿病性網膜症光凝固適応例37名61眼について,光凝固装置における同一のdelivery systemで,青緑色アルゴンレーザー例と赤色クリプトンレーザー例を比較した.
 同一患者で左右眼別に照射した18名36眼では,アルゴンもクリプトンも,治療効果・矯正視力に関して同等の成績を示した.治療量の光凝固では,重篤な合併症は皆無であった.
 同一眼底で異なった部位へ両レーザーを照射した19名25眼のうち,中間透光体に問題のない16眼で,同じ出力ではアルゴンの方がクリプトンよりも強く反応した.凝固斑の混濁を同じ程度にするのに,クリプトンではアルゴンより出力を増す必要があった.白内障や硝子体出血のあった9眼では,上の関係は逆転して,同じ出力でアルゴンの凝固斑はクリプトンに比べ弱い混濁を示した.
 赤色クリプトン光凝固では,選択的に網膜外層を凝固でき,中間透光体におけるある程度までの出血や白内障を青緑色アルゴンの場合より有効に透過した.
 以上から,進行した糖尿病性網膜症に対する汎網膜光凝固では,赤色クリプトンレーザー光凝固が先ず選択されるべきことが結論される.

桐沢型ぶどう膜炎に対する眼内液体シリコン充填術

著者: 永江康信 ,   田野保雄 ,   張野正誉 ,   中川やよい ,   春田恭照 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.819 - P.822

 桐沢型ぶどう膜炎は急性の滲出性病変と網膜動脈炎にはじまり,網膜の壊死性変化および網膜剥離を続発し予後不良の疾患である.この網膜剥離に対して多くの報告者は輪状締結術等を試みているが,一般に良好な成績をあげていない.我々は従来の手術法では網膜復位が困難であった全網膜剥離を来した桐沢型ぶどう膜炎の2例に対して,硝子体切除術と眼内液体シリコン充填術を施行し,1例で網膜を完全に復位させた.この症例は術後1年8カ月を経ても,白内障の手術を施行後は,矯正視力0.15の視力を維持しており再剥離を来していない.他の例は完全な網膜の復位が得られなかった.

GROUP DISCUSSION

地域予防眼科

著者: 小暮文雄

ページ範囲:P.823 - P.825

 地域予防眼科G.D.も5回を重ね,本年は老人問題を中心に演題を募集した.
 老人問題5題と離島問題1題,救急問題1題の演題となった.

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(42)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.826 - P.827

51.根来流眼目秘方
 根来流眼科の由来については寛保2年(1741)に根来東叔によって著わされた「眼目暁解」の中に『僧空海支那に渡レル時生来眼病アリ彼地ニテ治ヲ乞ヒ癒ユルコトヲ得,兼テ其治法ヲ学ビ帰朝シ高野山ノ僧徒ニコノ術ヲ傳ユ,根来寺ニモ傳ヘテ福本坊法印宥賢ニ傳ハリ後遂に俗人ニ傳ハリ云々』(小川剣三郎著「稿本日本眼科小史」)と述べられているように,その眼科は弘法大師によって中国より高野山の僧徒に傳わり,更に庶民の間に伝えられたことが窺える.根来寺から伝えられた術により根来流とされたのであろうか,「根来流眼目秘方」もまたその眼科を伝えるものであろうか.
 本書はおよそ13葉,全1冊(12.7×19.5cm)横長本で,本文は片仮名交り和文で記述され,第10葉目に『右此一流秘博ニテ候ヘドモ相傳仕候他見有間敷者也仍而如件根来不動院在判寛永八年六月吉日』と識され,この写本は寛永8年(1631)以降の書写本と推される.なお,「国書総目録」(岩波)第6巻によれば「根来不動院眼療書」(安永6年写,1冊,無窺会神習文庫蔵)の1本がある.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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