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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科39巻7号

1985年07月発行

雑誌目次

特集 第38回日本臨床眼科学会講演集 (その6) 学会原著

眼窩腫瘍に対する経頭蓋的摘除術の成績

著者: 麻薙薫 ,   今井尚人 ,   藤巻武俊 ,   石川ゆう子

ページ範囲:P.839 - P.843

 1971年より1983年の間に千葉大学付属病院および関連施設において,30例の眼窩腫瘍に対して,経頭蓋的眼窩腫瘍摘除術を施行した.患者は男性16例,女性14例で最若年者は2歳,最高齢者は76歳であった.病理組織学的には悪性腫瘍10例,良性腫瘍20例であった.術後経過観察が可能であった27例(悪性腫瘍10例,良性腫瘍17例)につき,術後合併症,後遺症の検討を行った.
 腫瘍の再発は悪性腫瘍4例,良性腫瘍1例に認められた.
 術後合併症は,以下のごとくであった.
(1)限瞼下垂:21例(84%)(全例回復).(2)眼球運動障害115例(62.5%)(3例回復せず).(3)瞳孔異常:4例(19%)(2例回復せず).(4)視神経萎縮:1例.(5)死亡:5例(3例全身転移).

前房蓄膿を呈した急性リンパ性白血病の病理組織学的検索

著者: 小関武 ,   高橋誠 ,   谷田部道夫 ,   渡辺新

ページ範囲:P.845 - P.850

 9歳男子.急性リンパ性白血病発症3年後に右眼のみに前房細胞の出現をみ,まもなく前房蓄膿に発展し,眼圧も上昇した.ステロイドの全身大量投与により一過性の効果が得られ,前眼部を中心とする計1000radの放射線治療では数日間の小康を得るにとどまった.眼圧上昇に伴う眼痛が激しく,結局trabeculectomyを施行し,その際前房蓄膿を採取して電顕的観察を行った.発症5年半後に脳内出血により死亡し,3時間後に患眼のみ摘出され病理組織学的検索が行われた.
 その結果,前房蓄膿は白血病細胞の堆積したものであったが,有糸核分裂から成熟,崩壊にいたるまで白血病における細胞回転の種々相が観察された.摘出標本からは虹彩,毛様体および脈絡膜は著しく肥厚し白血病細胞は充満しており,虹彩からは前房に,毛様体からは後房中に細胞の逸出する所見が得られた.隅角および視神経乳頭の血管周囲にも細胞浸潤は認められた.網膜には直接細胞の浸潤はみられなかったが視細胞を中心に変性が認められた.

眼科における高血圧症と耐糖能異常

著者: 町田祐子 ,   岩船裕一 ,   吉本弘志

ページ範囲:P.851 - P.854

 高血圧症の耐糖能への影響を知るため,高血圧患者30例.正常血圧者34例に対し眼底検査により硬化性病変の有無および程度を確認後,75gブドウ糖経口負荷試験を施行し,血糖および血中インスリン動態を検討した.
 高血圧患者では.硬化性変化の高度なもので境界型GTTを示し,インスリン曲線上極値発現の遅延が認められた.硬化性変化が軽度のものでは,正常群と血糖値に有意差を認めなかったが,全経過を通じ比較的高値を示した.またインスリン曲線は極値のはっきりしない特異な形状を示した.Insulinogenic indexは,高血圧症患者で正常群に比し有意に低値であった(p<0.05).血中インスリン量の総和は高血圧症の有無で有意差を認めなかった.したがって,高血圧症においては硬化性変化が軽度な時期から耐糖能異常が存在しており,それに続発する細動脈硬化性変化により更に悪化していくものと考えられた.

Potential acuity meterによる白内障術後視力の予測について

著者: 福原潤 ,   森岡藤光 ,   中井邦秀 ,   畑中治 ,   魚里博 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.855 - P.860

 白内障眼の術後視力を予測するのに,術前にpotential acuity meter (PAM)による視力を測定し,レチノメーターによる干渉縞視力の測定値と比較し,以下の結論をえた.
(1)混濁が強く瀰漫性である成熟白内障においては,PAMはレチノメーターに比べ,測定困難な場合が多かった.
(2)混濁の比較的軽度な白内障では,PAMの測定値はレチノメーターの測定値に比べ,術後視力との相関が高く,より精度の高い予測が可能であった.

生体眼の超音波パワースペクトラム解析に関する研究

著者: 小鹿倉寛

ページ範囲:P.861 - P.866

 超音波AモードのRF信号をフーリエ変換して,Aモード,Bモードなど従来の方法ではとり落としていた周波数成分のパワースペクトラム解析を行い,情報量を増加させ,超音波検査の診断精度の向上と,検査手技の簡易化を計るために実験を行い,次の知見を得た.
(1)パワースペクトラム解析により,これまで十分に活用できなかった超音波反射波の周波数成分に関する情報を診断に応用でき,診断精度の向上をもたらすと期待できる.
(2)パワースペクトラムの高周波数域(10〜64MHz)の波形によって,硝子体内の膜形成などの病的状態の鑑別診断と経過観察が可能である.
(3)かくして周波数解析法は,Aモード法の診断手技の簡易化,迅速化,診断精度の一手法として,今後の実用化が期待される.

穿孔性眼外傷における硝子体手術と超音波検査

著者: 林英之 ,   高尾雄平 ,   北川雄士 ,   大島健司

ページ範囲:P.867 - P.871

 穿孔性眼外傷100例100眼に超音波検査を行い,うち73眼に硝子体手術を行った.100眼のうち16眼は超音波所見に異常を認めず,残り84眼には網膜剥離がのべ46眼,硝子体出血が43眼,硝子体の増殖性変化が39眼にみられた.超音波所見に異常がない例は受傷後期間が7日以内の例に多く,それ以降の例には稀であった.増殖性変化は受傷後8日以降の例に頻度が高く,網膜剥離は14日以降高頻度となり30日以降と90日以降では差がなかった.73眼の硝子体手術の結果56眼(76%)の視力は改善または不変で,41眼(56%)は0,1以上の視力をえた.このうち網膜剥離を伴わない38眼では視力の改善,不変は34眼(89%),0.1以上は30眼(78%)であったが,網膜剥離を伴う35眼ではそれぞれ22眼(62%),11眼(2896)であり予後に差を認めた.

コンピューター処理を伴ったOculocerebro vasculometry (OCVM)の眼科診断への応用

著者: 野村隆康 ,   馬嶋慶直 ,   伊藤栄一

ページ範囲:P.873 - P.877

 Oculocerebro vasculometry (OCVM)処理専用のソフトウェアーを内蔵したポケットコンピューターを用い,救命センターで内頸動脈閉塞症と診断,または疑われた14例に対し,OCVMを施行し,これを処理した所,頸動脈撮影(CAG) CTの結果とよく一致した.次にOCVMの脈波の読みの検者による誤差を調べるため,二者が別々に読んでコンピューターに入力した結果,2%の危険率で一致がみられた.眼科疾患にこれを施行した所,虚血性視神経症を疑った8例中6例.片眼性一過性視朦症3例中1例に異常がみられ,このうち角膜脈波消失時眼圧/上腕収縮期血圧(OAP/BrSP)比0.45以下のものに,CAG上,内頸動脈の完全あるいは高度の狭窄が認められた.また網膜中心動脈閉塞症,網膜中心静脈閉塞症に対しては殆ど異常なOAP/BrSP比はみられなかった.球後における循環障害が疑われる症例に対し本法は,その非侵襲性から,内頸動脈閉塞症のスクリーニングに有効であると考えた.

涙道閉塞症例の涙道内CT像

著者: 石田俊郎 ,   中村泰久 ,   熊谷道朝

ページ範囲:P.878 - P.881

 涙道閉塞症,涙道狭窄症17例22側のCT像を検討した.涙嚢部は涙嚢炎の存する例では,CT値が約+40で比較的粘稠な物質の存在を示唆し,涙嚢炎の存しない例ではCT値が約+20〜+30で涙液よりはわずかに高い値を示した.閉塞部と思われる部位は,特発例では涙嚢鼻涙管移行部から上部鼻涙管であり,外傷や副鼻腔手術などによるものでは中部から下部鼻涙管であり,いずれの場合にもその部の陰影は一様で,CT値は+60〜+80と肉芽性変化を示唆する値であった.狭窄例では,各断層面の鼻涙管内CT値は種々の値を示し内部の状態が一様でないことを示唆していた.
 これらの結果,涙道閉塞症の病態がいっそう明らかとなり,涙道手術に際し有用な情報が得られた.

NMR-CTの眼科領域への臨床応用

著者: 柿栖米次 ,   安達恵美子 ,   麻薙薫 ,   渡部美博 ,   豊永直人 ,   黒田紀子 ,   池平博夫 ,   福田信男 ,   舘野之男

ページ範囲:P.882 - P.886

 核磁気共鳴を利用した断層撮影(NMR-CT)を眼科症例13例に応用した.使用したNMR-CTは放射線医学総合研究所旭MARK-J (常伝導1000ガウス)および千葉大学医学部附属病院ピッカー社製(超伝導3000ガウス)である.放医研NMR-CTでは飽和回復(SR),反転回腹(IR),縦緩和時間(T1)画像を,また千葉大NMR-CTではSR,IR,スピンエコー(SE)像を検討した.涙腺腫瘍(T1=430msec),松果体芽腫(T1=630),トルコ鞍上髄膜腫はX線CTと比較してNMR-CTの方がより明らかに腫瘍陰影を認めた.血管腫2例(T1=540,797),鼻性視神経炎のIR像はパルス条件を変えることにより異なった画像がえられた.甲状腺機能亢進による眼球突出例では外限筋の肥厚(T1=383)が明らかに認められた.多発性硬化症4例はX線CTで異常所見がえられなかったが,うち2例にNMR-CTで異常所見がえられた.

鼻中隔を用いた眼瞼形成術

著者: 戸塚清一 ,   田中紀子 ,   広瀬毅

ページ範囲:P.891 - P.895

 下眼瞼悪性黒色腫および上眼瞼基底細胞腫の2症例に対し,鼻中隔軟骨および粘膜より成るcomposite graftを用いた眼瞼形成術を行い,良好な結果が得られた.
 鼻中隔片の長所は(1)高い支持性.(2)自己移植で安定.(3)瞼板,結膜の同時補充.(4)採取が美容上問題ない.短所は(1)身体他部に傷をつくる.(2)採取が比較的面倒.(3)瞼板より厚く硬い.眼球前面への密着性に留意.(4)採取不能例がある.
 鼻中隔は,今日においても,特に大欠損例や1回の手術で再建を完了する場合に,極めて有用な眼瞼再建材料である.

学術展示

X-linked ocular albinism (Nettleship-Falls)の診断

著者: 早川むつ子 ,   加藤和男 ,   中島章 ,   吉池隆志 ,   小川秀興

ページ範囲:P.898 - P.899

 緒言 Ocular albinism (OA)は臨床的に明らかな皮膚や頭髪の低色素が見られず,眼球にのみ色素異常がみられ,眼振,弱視,黄斑部発育不全症の所見を呈する遺伝性先天性疾患である.この中で多いのはNettleship-FallsのX-linked type (XOA)であり,確定診断の参考所見としてO'Donnellらは症例の皮膚の低色素斑や皮膚生検によるmacromelanosomeの存在が有用であると報告している.今回我々は虹彩の透光性や典型的な白子様限底所見を欠く男子例において,家族調査と皮膚所見からXOAと診断できたので報告する.
 症例:S.N.男,1964年8月21日生れ.

Aicardi症候群の6例

著者: 唐木剛 ,   水上寧彦 ,   太田一郎 ,   堀口正之 ,   三宅三平

ページ範囲:P.900 - P.901

 緒言 我々は先に本症候群1例を報告したが1),その後新たに5例を経験するに至った.そこで今回自験の6例の臨床症状をまとめるとともに,愛知県心身障害者コロニー中央病院における本症候群の頻度(点頭てんかん,脳梁欠損との関係)について検討したので報告する.
 方法 1980年以降,愛知県心身障害者コロニー中央病院における諸検査の結果,Aicardi症候群と診断された6例(0〜13歳の女子)について,その臨床症状をまとめた.

強度遠視,網膜血管蛇行,uveal effusion等を伴った小眼球症の兄弟例

著者: 馬嶋昭生 ,   二村健一 ,   白井正一郎 ,   桑山正美

ページ範囲:P.902 - P.903

 症例 症例1は1946年,症例2は1948年生れの兄弟で,兄は1978年5月に両眼視力障害の増強を訴えて来院した.右限20D,左眼17 Dの遠視,両眼軽度小眼球,乳頭境界の不鮮明,網膜動静脈の怒張蛇行,後極部全体に扁平な網膜剥離を認めた.裂孔はなく,剥離は自然消退してその後再発はない.弟は1981年4月に右眼視野狭窄を主訴として来院したが,1982年6月に右眼中心暗点を自覚し他院で光凝固を受けている.両眼軽度小眼球,18Dの遠視,網膜動静脈の怒張蛇行に加えて,右眼下方に著明なuveal effusionを認めた.入院安静によって自然消退した.
 考按 本症の発生原因と機序について;成書や文献には,他に重篤な眼先天異常を合併せず,胎生裂閉鎖後に眼球の発育が停止したために発生すると記載されているがそれ以上の考案はあまりされていない.馬嶋1)は小眼球の発生学的分類として,1)眼胞形成障害,2)水晶体起因性,3)硝子体起因性,4)胎生裂閉鎖不全,5)眼杯発育障害,6)その他を提唱した.この分類によれば,まず,1)と4)が否定でき,従来の報告例から2)と3)も否定される.したがって5)と6)に原因があることになる.そこで,著者らは次のように考えている.すなわち,胎生裂閉鎖直後からの遺伝要因,環境要因あるいは不明の要因による眼杯からのぶどう膜,さらに強膜の誘導障害が本症発生の原因となる.

コンピュータを用いた色覚検査表のシミュレーション

著者: 永田啓 ,   山出新一 ,   稲富昭太 ,   橘俟子 ,   三根京子 ,   深見嘉一郎

ページ範囲:P.904 - P.905

 緒言 色覚検査法にはその目的に応じて種々の方法が存在しそれぞれに長所・短所を持っているため,一つの方法によりすべてを解決することはできない.こうしたなかでコンピュータという手軽に利用できるツールが普及しはじめたのでこれを使って新しい色覚検査方法が試みられないかについて検討してみた.検討にあたり,今回はまず既存の色覚検査表のシミュレーションを行った.
 また,高価なコンピュータによるグラフィック処理は以前から行われており種々の試みが可能であったが,電子技術の急激な進歩により市販のパーソナルコンピュータでもある程度のコンピュータグラフィックが行えるようになったのでこれを利用し,その可能性もあわせて検討した.

カンジダ性眼内炎の3例

著者: 谷瑞子 ,   早川純子

ページ範囲:P.906 - P.907

 緒言 基礎となる消耗性疾患を持った3例のカンジダ性眼内炎の臨床経過と病理組織学的所見を報告する.
 症例1:60歳,女性,急性骨髄性白血病.

青色光により色覚障害を生じた1例

著者: 北原健二 ,   環龍太郎 ,   野地潤

ページ範囲:P.908 - P.909

 緒言 今回,われわれは高輝度の青色光を反復して注視する心理物理学的実験により,比較中心暗点および色覚障害を惹起し,とくに青錐体系の反応の障害が長期にわたって残存した1例を経験したので報告する.
 症例 26歳の男性で,心理学専攻の大学院生である.1983年7月,500wattのxenon arc lampを光源とするMaxwell視光学系を使用し実験を開始した.実験は右眼で行い,106,5photopic trolandsの白色光路に東芝色ガラスフィルターのV-44を挿入し,視角9.6°の青色円形指標を順応刺激として使用した.この順応刺激を5〜10分の間隔で,30秒間注視する実験が1日に10〜20回繰り返された.実験開始後2〜3日までは,実験終了後2〜3時間で順応光による残像は消失した.しかし,4〜5日目以降は実験終了後5〜6時間にわたり残像が存続し,実験開始後1週間では翌日の実験開始時においても残像を自覚するに至った。このため実験開始後10日で実験を中止している.しかしながら,約1カ月後に至っても残像が消失せず,色覚障害を自覚し,1984年8月29日当科を受診した.

眼感染症における無芽胞嫌気性菌の発症病理に関する研究—第2報 ステロイド結膜下注射の影響

著者: 永井重夫

ページ範囲:P.910 - P.911

 緒言 眼感染症より検出される無芽胞嫌気性菌は,Propionibacterium acnes (以下,P.acnes)が多い.第1報1)においては,臨床分離のP.acnesをモルモット眼の硝子体に接種し,臨床経過,硝子体内生菌数の推移および病理組織像を検討した.それによって,P.acnesにより眼内炎が発症することを明らかにしたが,その病原性は眼に対して弱毒性であることがわかった.
 今回は,host側因子に変化を与える目的で,モルモット眼にステロイド剤の結膜下注射を行なった後に,P.acnesを接種して,眼内炎の病態に及ぼす影響について検討した.

先天性色覚異常者の第1,第2色盲混同線上における彩度識別能

著者: 花房晶 ,   宮本正 ,   本橋孝彦 ,   清水金郎 ,   太田安雄

ページ範囲:P.912 - P.913

 緒言 先天性第1,第2色盲では,CIE色度図上のC点を通るおのおのの混同線上の色が総て無彩色に見えることが知られている.今回我々は先天性色覚異常者が第1,第2色盲混同線上において,それぞれどのような彩度識別能を有するかを検討する目的でCIE色度図上のC点を通る混同線上の色度座標より色票を作製し,それらを用いて配列検査を施行した.
 方法 色票作製に当り,CIE色度図上でC点を通る第1,第2色盲混同線上に色度座標を選定したが,その際CIE 1976Lab表色系の色差式を用いておのおのの色度座標が等色差(△E=2)となるように配慮した.

超音波診断における眼部画像処理と臨床的意義—第16報 走査方式による画像表示差

著者: 菅田安男 ,   山本由記雄 ,   冨田美智子

ページ範囲:P.914 - P.915

 目的と方法 三種の走査方式による眼科用超音波診断装置より診断効率の高い機種を選ぶため水浸法にて次の画像を比較した.
(1)生体に近いモデルとして卵殻に窓をあけた鶏卵(図1上).(2)形のゆがみをみるため円筒形に張ったナイロン線の模型(図1中).(3)方位,距離の確かさをみるため方眼に張ったナイロン線の模型(図1下).(4)脈絡膜剥離の症例(図2,4,6).(5)落下水晶体の症例(図3,5,7).

眼球内悪性腫瘍に対する温熱療法の検討

著者: 金子明博 ,   猪俣素子 ,   星昭夫 ,   菊池隆二 ,   本田実

ページ範囲:P.916 - P.917

 緒言 悪性腫瘍に対して温熱療法が有効なことはすでに1866年にBuschによって報告されている.近年加温装置の進歩により他科領域においては,放射線療法や化学療法に併用する治療法として臨床的に使用されている.眼科領域においてはLagendijk, Fingerらによりmicrowaveを使用した加温装置が発表されている.我々はmicrowaveを使用しないで眼球内悪性黒色腫に対して温熱療法を施行する可能性を検討したので報告する.

連載 眼科図譜・332

ひょうたん型眼球

著者: 桐渕利次 ,   平田勲 ,   知原秀樹 ,   丸尾敏夫

ページ範囲:P.836 - P.837

 近年,視神経乳頭部先天異常の中で視神経入口部の拡大と陥凹を呈し,奇異な収縮運動を認める症例についての報告が注目されてきている.この異常運動の原因としてmuscular contraction mechanismが考えられ,その部の強膜にatavistic retractor bulbi muscleの存在が想定されているが,これらはまだ確認されていない.今回我々は異常な収縮運動を伴うひょうたん型の眼球を呈した症例を経験し,斜視の手術の際に筋性膜様組織を確認することができたので,ここに報告する.
 症例:3歳11カ月,女子.

臨床報告

モードロック方式YAGレーザーによる後部硝子体手術

著者: 米谷新 ,   田中隆行 ,   得居賢二 ,   清水弘一

ページ範囲:P.919 - P.924

 モードロック方式によるNd・YAGレーザーを用い,硝子体腔内に網膜を牽引する病変を示す16症例(糖尿病性網膜症6例,網膜静脈分枝閉塞症3例,その他5例)の治療を行い,これに成功した.後部硝子体における増殖組織のYAGレーザーによる切断は,緊張を持った膜性の病変でより容易に実施できた.緊張が少なく,明瞭な索形成の見られない硝子体混濁の場合には若干の困難を伴った.
 一度の照射回数は,平均560回(最低71,最高1272)であり,症例により,一度ないし数度で満足できる硝子体切断が完成した.
 術中の合併症は2例にみられ,硝子体新生血管からのわずかな出血と,網膜の白い凝固斑であったが,いずれも一過性であって,術後の経過に悪影響を残さなかった.

両眼の高度の虹彩萎縮と緑内障を伴う急性虹彩毛様体炎

著者: 藤原久子 ,   坂本高章 ,   五島紳一郎

ページ範囲:P.925 - P.928

 我々は61歳男性で両眼の充血と異物感を訴え来院した患者に,両眼の高度虹彩萎縮と緑内障および漿液性虹彩毛様体炎を有する例に遭遇した.
 広隅角で角膜内皮に異常はなかった.
 HLAについては.A2, BW 62(15)であった.
 Iridocorneal endothelial syndrome, iridoschisis, Fuchs' heterochromic iridocyclitisなどとの鑑別診断を行い,両眼のFuchs' heterochromic iridocyclitisに属する疾患と考えられた.

増田型中心性脈絡網膜症で発見されたパターンジストロフィの1例

著者: 森下清文 ,   横山泉 ,   兜坂法文 ,   渡辺千舟

ページ範囲:P.929 - P.933

 中心暗点,変視症を主訴として来院し,増田型中心性漿液性脈絡網膜症の臨床所見を合併したため,偶然発見された43歳男性の蝶形色素ジストロフィの1症例を経験した.漿液性剥離消失後の視機能諸検査では,視野,色覚は正常であったが,ER.Gで左a波の振幅の低下,EOGでLP/DT比が右1.62で境界値,左1.43でやや低値を示した.
 両眼底とも,黄斑部を中心に散在性の色素沈着および脱色素斑を認め,螢光眼底撮影で検眼鏡的色素異常に相当する部分には,蝶形のnegative fuorescenceが認められ,その周囲に色素上皮内への螢光色素の取り込みによると思われる斑状のhyperfluorescenceが見られた.既往歴,家族歴には異常はなかった.

乳頭周囲領域の拡大と陥凹,硝子体中の索状物を認める乳頭部先天異常

著者: 東範行 ,   田中靖彦 ,   小口芳久 ,   植村恭夫

ページ範囲:P.935 - P.942

 視神経乳頭周囲領域の拡大と陥凹および硝子体中の索状物を認める眼先天異常7例8眼について臨床的および電気生理学的検討を行った.乳頭部の所見は朝顔症候群,コロボーマ,乳頭周囲ぶどう腫を呈しており,また従来第一次硝子体過形成遺残と呼ばれている異常に一致する所見が認めらねた.これらは視力不良で小眼球や広範な網膜脈絡膜異常を多く伴い,ERGやVEPも不良であり,網膜剥離の合併が多いことから乳頭部先天異常のなかでもきわめて予後不良な群であると思われた.

ひょうたん型眼球を呈した1例—異常収縮運動のみられた乳頭周囲ぶどう腫

著者: 桐渕利次 ,   平田勲 ,   知原秀樹 ,   丸尾敏夫

ページ範囲:P.943 - P.947

 内斜視を主訴として受診した3歳11カ月,女子の乳頭周囲ぶどう腫にみられた狭窄部での異常収縮運動を螢光眼底撮影で記録観察し,またCT scanで小眼球を示す前半分とぶどう腫にあたる後半分とがほぼ同じ大きさのためひょうたん形を示した.内斜視の矯正手術を行ったところ小眼球とぶどう腫の境界部に付着したretractor bulbi muscleを思わせる光沢のある強靱な筋性膜様組織が眼球後部へと伸展していた.この膜様組織を切除しぶどう膜の色調がみられる強膜ぶどう腫が観察された.乳頭周囲ぶどう腫における収縮運動の原因としてretractor muscleと思われる組織を観察した報告は文献上みられないので考察を加えて報告した.

網膜剥離手術後にみられた黄斑部脈絡膜新生血管

著者: 久布白公子 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.956 - P.959

 65歳男性の左眼網膜剥離の手術後,黄斑部に脈絡膜新生血管が発生した症例を報告し,高齢者の高度近視眼の網膜剥離の術後合併症として,従来記載のない黄斑部脈絡膜新生血管が起こることがあること,そして剥離手術後黄斑部網膜の注意深い観察が必要であることを強調した.

網膜動脈循環不全に併発した中心静脈閉塞症の1例

著者: 戸塚秀子 ,   戸塚清一 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.961 - P.966

 82歳の男性で,網膜中心動脈不完全閉塞に中心静脈閉塞症を併発したと考えられ,同時に毛様網膜動脈の循環障害をも認めた症例を報告した.経過とともに,広範な毛細血管閉塞が進行したが,いわゆる出血型中心静脈閉塞症に比し,静脈のうっ血や網膜出血は比較的軽微であった.しかし,著明な循環の改善をみた毛様網膜動脈域では,出血の増加が顕著となった.
 本症例の発症過程は,中心動脈の循環不全による血流のうっ滞により,静脈血栓が形成され,この静脈圧の上昇によって毛様網膜動脈の循環障害を来たしたと考えられる.その後,毛様網膜動脈域では,循環改善による血管内圧の上昇が出血をもたらしたが,循環の改善が軽微であった中心動脈域では,出血が比較的少なかったものと推定される.
 したがって,出血型中心静脈閉塞症において,動脈循環不全による毛細血管障害が毛細血管閉塞に,循環回復時の血管内圧の上昇が網膜出血に関与している可能性があると考えた.

カラー臨床報告

桐沢型ぶどう膜炎と血漿交換療法

著者: 中山正 ,   松尾信彦 ,   小山鉄郎 ,   小西玄人 ,   尾島真 ,   青井克行

ページ範囲:P.949 - P.955

 桐沢型ぶどう膜炎(44歳,男性)の急性期病巣に対する血漿交換療法の影響を検討した.血漿交換療法は発症後12病日から1週間に計4回総量5,100ml施行した.交換液には5%アルブミン製剤を使用した。臨床経過のモニターとしては,眼底所見と螢光眼底造影を参考とした.その結果病巣分布は孤立性を呈し網膜動脈炎は軽度で,病巣より末梢の血行はよく保たれ網膜剥離は認めなかった.桐沢型ぶどう膜炎に対する効果の可能性としては,血中の免疫複合体の除去と局所の微小循環改善によると思われた.血漿交換療法は桐沢型ぶどう膜炎の急性期病巣に対する免疫学的治療法として試みる価値があると考えられる.

薬の臨床

グラム陰性桿菌眼感染症におけるAztreonamの臨床評価

著者: 大石正夫 ,   永井重夫 ,   葉田野博

ページ範囲:P.967 - P.974

 「新しいモノバクタム系抗生剤」Aztreonam (AZT)を細菌性眼感染症に臨床応用して,有用性と安全性を検討した.
 眼瞼蜂巣炎(2),急性涙嚢炎(4),慢性涙嚢炎(6),角膜浸潤(1),角膜潰瘍(4),化膿性虹彩毛様体炎(2),眼窩感染(1)の20症例に,AZTを1回1g1日1ないし2回,または1回2g1日1回点滴静注した.著効4例,有効13例,やや有効3例の結果で,有効率85.0%であった.
 疾患別有効率は眼瞼蜂巣炎,角膜浸潤,角膜潰瘍,眼窩感染では100%,慢性涙嚢炎83.3%,急性涙嚢炎75.0%,化膿性虹彩毛様体炎50.0%であった.
 分離菌別有効率ではK.pneumoniae, H.influenzae, S.marcescens, E.cloacaeには100%,P.aeruginosa 83.3%であった.
 初診時検出されたK.pneumoniae, S.marcescens, P.aeruginosa, P.mirabilisにすぐれた抗菌力を示し,Cefmetazole (CMZ), Cefoperazone (CPZ), Latamoxef (LMOX), Ceftazidime(CAZ),およびCefsulodin (CFS)に比べてより高い感受性を示した.副作用は1例にもみられず,臨床検査値に異常を示したものはなかった.

GROUP DISCUSSION

眼感染症

著者: 田中直彦

ページ範囲:P.975 - P.978

1,虹彩面上白色塊を主徴とした真菌性眼内炎の1例
       渡辺圭子・山名敏子・猪俣 疏(九大) 全身の感染症や免疫不全の認められない52歳男性で前房混濁と虹彩面上に大小不同の白色塊状物の散在した症例で前房水培養で真菌が検出された.抗真菌剤の局所投与で白色塊状物はしだいに消えた.過去の緑内障手術創よりの感染が疑われた.
 討議;白色塊状物中の真菌の有無,また組織中の菌はカンジダと考える(石橋)に対し塊状物中に真菌の芽胞が認められ,また組織中のものは芽胞の形を取ったペシロマイセスであり,培養で確認されていると答弁した.

緑内障(第26回)

著者: 澤田惇

ページ範囲:P.979 - P.981

 今回のテーマである『緑内障における視神経について14題の一般演題が発表された.
 梯 龍洋・堀越 順・神野順子・太根節直(聖マ医大)は,緑内障眼における視神経厚度の変動について述べた.

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(43)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.982 - P.983

52.眼目女伝書
 中国(明代)眼科書には眼病の病理を説明するのに五輸八廓説,五臓五仏説,十二神の説,五行生剋の説等が述べられているが,わが国の近世初期の眼科はこれら中国(明代)眼科伝来の影響で,五輪八廓説や五臓五仏説を採入れているものが多く,馬島流を初めとする眼科諸流派の秘伝書によってそれをうかがい知ることができる.標題の「眼目女伝書」は五臓五仏説に従って記述された秘伝書である.
 本書はおよそ20葉,全1冊(16×22.5cm)よりなり,本文は大方平仮名に変体仮名を混えた記述である.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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