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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科39巻8号

1985年08月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・333

Cockayne症候群の1例

著者: 上村昭典 ,   伊佐敷誠

ページ範囲:P.992 - P.993

 Cockayne症候群は侏儒症,難聴および精神発育遅延などの全身症候とともに,眼症候として網膜変性症を発現する稀な常染色体劣性遺伝症候群である.これらの病的所見は2歳頃に発見されることが多い.この症候群は,1936年および1946年の2回にわたり,Cockayneが,「dwarfism with retinal atrophy and deafness」という表題で集積症例を報告したのが始まりで1,2),小児科領域からの報告が多い.本邦においては,眼科領域からの報告は少ないが,最近では小森ら4),唐木ら5)の報告がある.従来の報告において,網膜変性所見の記述はよく行われているが,カラー眼底写真が提示された報告はない.我々はCockayne症候群の症例において,比較的良好な眼底写真を撮影しえたので報告する.
 症例:9歳女児.

臨床報告

偽緑内障の検討

著者: 勝盛紀夫 ,   溝上国義

ページ範囲:P.995 - P.998

 眼圧が常に20mmHg以下で,緑内障性の視野障害,乳頭変化を有するものは通常低眼圧緑内障と呼ばれているが,その概念,定義については現在統一的見解は存在しない.今回我々は眼圧調整機構には異常を証明しえない症例群を偽緑内障として,低眼圧緑内障とは区別して検討を加えた.
 症例群には大きく二つの病型が存在した.第1型は急激な全身的循環障害の既往があり,乳頭には褪色の先行する陥凹を認める.第2型は慢性に進行する全身的,局所的循環障害が確認できる病型で,乳頭には褪色を認めた.
 このように,いわゆる低眼圧緑内障と呼ばれる症例群には,視野障害,乳頭変化が循環障害に起因する病型が存在し,これらは偽緑内障よりは,むしろ慢性に経過する虚血性視神経症と呼ぶべきであると考えられた.その鑑別点の一つは視神経乳頭で,褪色が重要な所見であると考えられた.

標準色覚検査表第1部の表の類別と各表の検査能力

著者: 田邊詔子 ,   纐纈浩子 ,   牧田京子

ページ範囲:P.999 - P.1002

 標準色覚検査表第1部先天異常用(SPP-1)の個々の表を評価する際の便のために,表を構成する色が同じであるものをまとめて,6群に類別する.1群から4群までが検出表,5群と6群は分類表である.
 先天性赤緑色覚異常者431例を対象としてSPP-1の検出,分類能力と,個々の表の特徴を検討した.検出は二色型色覚100%,異常三色型色覚95.8%,全体で97.7%可能であった.分類は二色型色覚は全例,異常三色型色覚は97.3%,全体で98.4%が正しく分類された.
 各表ごとにみると,検出表では,検出力の優劣がひとつの群に共通であるとは限らない.4群は2表とも検出力がよいが,1群は非常に検出のよいものと非常に悪いものがある.分類表では5群は極めて高い分類能力を示すが,6群は分類不明となるものが特に第二異常に多い.
 検出にしても分類にしても,個人差をカバーするためには種類の違う表を併用する必要がある.それにより,一表ずつの検査能力は必ずしもよくなくても全体として優れた成績を得ることができる.

翼状片の再発防止のための手術法

著者: 菅謙治 ,   吉田浩司

ページ範囲:P.1003 - P.1007

 翼状片切除に,強膜露出を併用した術式による10人の術者の77眼に対する手術の再発率は,0から100%(平均45%)で,1カ月以内に21%,3カ月以内に51%が再発した.この事実から,再発は翼状片組織のとり残しが原因と考えられ,以下の手術手技が勧められる.
(1)翼状片の剥離は結膜下,強膜上ともになるべく鈍的に行う.翼状片の切断は剪刀ではさんだ後,なるべく深部まで切除する.
(2)翼状片の除去は,涙丘方向のみではなく,上方に広がる結膜下肥厚組織をも十分に切除する.このため,術者は患者の側方から手術をする.
(3)強膜露出法に輪部焼灼や輪部溝作成を併用する.
(4)再発翼状片などで,露出部強膜端の結膜を十分に薄く剥離できない場合には,露出部強膜上に結膜移植や,側方の輪部結膜の移動移植術などを併用する.

難治性葡萄膜炎に対するCyclosporin Aの効果

著者: 高橋久志 ,   鈴木優子 ,   平野洋子 ,   櫻木章三 ,   浦山晃

ページ範囲:P.1009 - P.1014

 従来の治療法によって効果が得られなかった難治性葡萄膜炎患者4例にCyclo-sporin Aを試みた.初期投与量は全例10mg/kg/dayとして,症状を見て漸減した.ベーチェット病2例はいずれも葡萄膜炎の再発発作が減少し,眼外主症状も改善したが,1例は心筋梗塞を,他の1例は神経ベーチェット病を発症した.桐沢型葡萄膜炎患者ではほとんど効果が見られなかった.糖尿病を伴った原因不明の葡萄膜炎の患者では,減量中に大きな発作を起こしステロイドを使用せざるをえなかった.副作用については長期投与例3例の内2例に多毛が見られたが,腎機能については,投与量を少なめに抑えたため血清クレアチニンの軽度上昇が見られただけで,他の機能に重大な異常は出なかった.

移植用摘出眼球の角膜内皮細胞観察用Chamberとその臨床応用

著者: 澤充 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1015 - P.1018

 角膜移植用摘出眼球の角膜内皮細胞をスペキュラーマイクロスコープにより観察するためのChamberを開発,移植術前,術後における内皮細胞の観察を行った.Chamberは眼球を容れる本体と角膜の湿潤を維持し,汚染を防ぐためのキャップと摘出後の低眼圧を機械的に矯正する装置を兼ねたキャップの3部からなる.内皮細胞はChamberに固定された全眼球の状態で角膜上皮側からスペキュラーマイクロスコピーにより観察された.対象とした摘出眼3例4眼の全眼で内皮細胞の観察が可能であった.移植眼4眼中3眼での術後11〜15日の内皮細胞の観察結果の術前に対する平均細胞密度減少率は18%であった.本Chamberは今後,角膜移植術前,術後の角膜内皮細胞の臨床的検討に有用であると考えられた.

白内障手術後に極めて悪化した単純型糖尿病性網膜症

著者: 森秀夫 ,   菅謙治

ページ範囲:P.1019 - P.1022

 白内障手術後に,単純型糖尿病性網膜症が著しく増悪した4例5眼を報告した.増悪は以下の特徴を有する.(1)増悪は術後1〜2カ月で始まることが多く,著しい網膜浮腫や大型の黄色浸出斑が後極部網膜に発生する.(2)浸出斑や浮腫の吸収は術後6〜8カ月で始まって10〜20カ月でほぼ終了し,症状は固定状態となる.(3)増悪期の症状が強かったものは殆んど視力が回復せず,0.04以下に終わる.網膜症増悪の原因としては,白内障手術後に生じる後部硝子体剥離や硝子体の前方への移動による網膜への刺激が考えられ,これにはプロスタグランディンも関与している可能性がある.
 糖尿病性網膜症を有する場合の白内障手術の手術術式は,嚢外法が嚢内法に比べて優れていると考えられる.

難治性ぶどう膜炎に対する血漿交換療法について

著者: 福富登美代 ,   片山寿夫 ,   藤原久子

ページ範囲:P.1023 - P.1027

 Plasma cxchangeは自己免疫が関与する疾患に対し最近試みられている治療法である.目的は病的因子となる高分子物質の除去であり,我々はdouble filtration systemを難治性ぶどう膜炎に使用した.
 症例1は48歳男性で,ベーチェット病で罹病期間は12年間で,59年より再発を数回おこし,視力が低下した例である.症例2は69歳男性,5年前より完全に治癒しない原因不明のendogenous chronic uveitisでステロイド全身投与が中止にできない症例である.両者に対し,週1回計3回,6,000〜7,000mlの血漿交換を行い,明らかに血液成分を改善させ,症例2においては,臨床症状の自覚的,他覚的な改善が得られ,ステロイドの全身投与が中止できるようになった.

人工水晶体移植術後にみられたlight-induced maculopathyの1症例

著者: 中村晶

ページ範囲:P.1029 - P.1033

 人工水晶体移植術後にみられたlight-induced maculopathyの1症例を経験した.症例は68歳,女性で術前視力は0.1であった.水晶体摘出術ならびに人工水晶体移植術の翌日に,視力は0.03に低下した.検眼鏡的には黄斑部下方に約1/2乳頭径×1乳頭径大の極めて軽度な網膜の混濁浮腫がみられ,螢光眼底造影では網膜浮腫に一致して脈絡膜からの螢光漏出による過螢光像がみられた.視野検査では中心暗点を呈した.術後1カ月には視力は0.6に改善し,螢光眼底造影ではwindow dcfectによる過螢光像がみられ,視野検査では傍中心暗点を呈した.
 本症は臨床所見に乏しく見逃されやすいが,偽水晶体眼の合併症として注意すべき疾患の一つと考えられる.診断には中心視野測定および螢光眼底造影が有用であると思われる.

標準色覚検査表第2部後天異常用の検出能力—その1.正常者について

著者: 市川一夫 ,   中嶋潤 ,   宮川典子 ,   田辺詔子

ページ範囲:P.1035 - P.1038

 6歳から79歳までの正常者227名について,SPP part 2を検査し,またさらにSPP part 2をすべて正読できた正常者5名に各種プラスレンズを負荷して視力を低下させて,SPP part 2を検討して,以下の結論を得た.
(1) SPP part 2の第3表の文字「2」は,正常者の87.2%が読めず,判定には役立たない.
(2) SPP part 2の他の19文字は,正常者の93.8%が正読できることから,19文字中1文字でも読めない時は,異常を疑うべきである.
(3)60歳以上の高齢者では,眼疾患がなくてもSPP part 2の誤読がみられるが,3文字以上誤ることはなかった.
(4)正常者の誤りの特徴は,青黄異常検出用に作られた第3表の文字「2」(正常者の87.2%が誤った)と赤緑異常検出用に作られた第12表の文字「4」(正常者の6.2%が誤った)を誤りがほとんどであることだった.
(5)近見視力0.2までは,ほとんど実験的な屈折負荷では,SPP part 2の判読に視力低下の影響は現われなかった.したがって,臨床的にSPP part 2を使用する場合かならずしも視力矯正を十分する必要がないと思われた.

Interstitial linear keratitisの1例

著者: 高橋堅一 ,   高橋誠 ,   中山龍子 ,   櫻木章三 ,   山田酉之

ページ範囲:P.1051 - P.1056

 17歳女子の右眼に見られたinterstitial linear keratitisの観察により,以下のごとき結果が得られた.
(1)患者はソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者であった.
(2)本例がSCL装用者であったという点を除けば,Grabner,Schwabらの症例と同様,若年若,片眼性で,角膜を横切って強角膜輪部から対側の輪部まで伸展したsemicircularfashionを示し,その線状混濁はボーマン層〜前部実質に位置していた.
(3)ステロイド点眼にて速やかな改善が得られ,現在までのところ線状病変の遊走や再発はなく,軽度の血管侵入を伴う瘢痕を残して治癒状態にある.
(4)血清梅毒反応は陰性で,他の全身検査にても原因を示唆する様なデータは得られなかったが,病因として免疫反応の関与が想定された.

小児の網膜剥離

著者: 西村哲哉 ,   岸本伸子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1057 - P.1060

 最近6年間に関西医大眼科で手術を行った網膜剥離症例のうち,15歳以下の37例43眼について検討した.男性が79%と多く,さらに外傷性網膜剥離では圧倒的に男性が多かった.原因として鈍傷が重要で,特にボール外傷が多く見られた.瘢痕期未熟児網膜症による晩発性剥離や硝子体網膜変性症の症例では,剥離は重篤で手術は輪状締結術を必要とし,復位しても視力回復は不良例が多かった.成人に見られる格子状変性円孔型網膜剥離の早期発生例と思われる症例も多かった.手術を確実に行うと,手術による網膜の復位成績は良好であったが,陳旧例や他の眼合併症を伴ったものでは視力回復は不良であった.小児網膜剥離を取り扱う上で,早期発見が重要と思われた.

巨大な眼瞼脂腺癌の1例

著者: 脇田まり子 ,   稲垣有司 ,   田中稔 ,   石田誠夫 ,   石和久 ,   吉方りえ ,   坂東行洋

ページ範囲:P.1067 - P.1070

 巨大な上眼瞼の悪性腫瘍を経験した.症例は20年前から存在していた霰粒腫が増大したものと患者自身が考え,巨大になるまで放置されていたもので,この症例に我々は根治手術を行った.本症はSebaceous cell carcinomaであり,その臨床像・組織像などを合わせて報告した.経過良好で現在のところ再発・転移を認めていない.

カラー臨床報告

Iridocorneal endothelial syndromeの2症例

著者: 山本起義 ,   越生晶 ,   岡本和郎 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1061 - P.1065

 Iridocorneal endothelial (ICE) Syndromeは従来より知られていた本態性虹彩萎縮症,Chandler症候群および虹彩母斑症候群(Cogan-Reese)の3疾患を総称した病名で,角膜内皮の障害による角膜浮腫,隅角線維柱網,虹彩表面への内皮細胞の増殖による緑内障を来たす疾患である.われわれは最近その2例を経験した.
 第1例は43歳女性,虹彩実質の萎縮が著しく,瞳孔偏位,虹彩周辺部の前癒着,軽い緑内障と共に角膜浮腫と角膜後面のいぶし銀様光沢をみとめ,角膜浮腫は眼圧上昇時に増強した.2年間に角膜浮腫が進行しており,本態虹彩萎縮症とChandler症候群の中間型と診断された.第2例は47歳男性,瞳孔の偏位,虹彩萎縮,ぶどう膜外反,虹彩周辺部の前癒着と共に虹彩表面に小結節をみとめ,角膜は透明であったが,続発性閉塞隅角緑内障による高眼圧により濾過手術を要した症例で,iris nevus (Cogan-Reese)症候群と診断した.両症例ともspecular microscopyで角膜内皮細胞の強い変性を認めた.いずれもICE症候群である.本症候群は我国ではいまだに報告が少ないが,続発性閉塞隅角緑内障の一つの病型として,また,角膜ジストロフィーを来たす一疾患として紹介した.

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第39回日本臨床眼科学会総会

ページ範囲:P.1040 - P.1050

総会長:岩田和雄(新潟大学教授) 世話人:難波 俊(新潟県眼科医会会長)事務局:〒951 新潟市旭町1-757 新潟大学医学部眼科学教室内 第39回日本臨床眼科学会総会事務局    TEL O252-23-6161(内線2613)

GROUP DISCUSSION

視野

著者: 太田安雄

ページ範囲:P.1071 - P.1076

1.自動静的視野計Krakau perimeterの使用経験
      ○呉 輔仁・白土城照・北沢克明(東大) 目的:早期緑内障性視野変化の発見には静的視野計測が動的視野計測に比べ,優れた方法であり,近年多くの自動静的視野計が開発され,市販されている.今回,我我は新しい自動静的視野計"Krakau perimeter"(米国Alcon社)を使用する機会を得,その有用性について検討したので報告する.
 対象 および方法:Goldmann視野計ならびにOctopus視野計での視野検査を行った早期原発開放隅角緑内障(湖崎Ib,IIa)30眼,ならびに高眼圧症42眼を対象とし,本視野計の早期緑内障性視野変化検出能を検討した."Krakau perimeter"は定点刺激による静的量的視野計であり,LED視標を用い,視標輝度は0.03〜1000asbまでの16段階自動可変,背景輝度は0.315,3.15,31.5asbの3種選択方式である.視標は0〜20°の中心視野に72点,その周辺20°〜35°に52点の計124点が同心円状に配置されている.固視モニターは,あらかじめ測定されたMariotte盲点中心部のcheckによって固視ずれ回数を検討するHeijil/Krakau方式をとっている.本装置はスクリーニング用のsuprathreshold法ならびに精査用のthreshold法の両者を行いうるが,今回1はsupra-threshold法による中心20°のスクリーニング法を用いた.

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.1077 - P.1081

1.先天性全色盲20症例の総括
              大庭紀雄(鹿児島大) いわゆる先天性全色盲と診断される症例はごくまれであるが,色覚異常を理解するためによい材料となるから,古くからよく調べられている.演者は過去10年ほどの期間すこしずつ症例を集めてきたが,ようやく20症例を集積自験することができた.そこで,資料を整理総括し公表したい.遺伝形式,視力,諸種色覚検査表成績,眼底所見などにつき補遺的知見を報告する.また,いくつかの症例で行われた心理物理測定成績や弁色能,さらにジストロフィー(錐体ジストロフィー)との疾病概念問題についてもふれてみたい.
 市川宏(名大):①視力はどのような分布でしたか.②眼底に黄斑異常を示すものとoptic discに異常を示す例を示されたが,完全型と不完全型という病型と関係ないか.③逆プルキンエを示したblue cone monochromatらしい例を示されたが,どのくらいの明るさレベルのとき逆プルキンエは起るでしょうか.明るさ条件を教えてください.④先生の説明によると,出生後に発症してくるものもあるといわれるが,そうなると本症はstationalといえなくなる.本症をcone dysfunction syndromeの一部と考えておられるか.

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(44)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1082 - P.1083

53.甲斐流眼目之書
 甲信の地に隠医として実用的治方の妙術をもって活躍した戦国時代の名医,永田徳本(知足斎)については,その医説とともに多くの先輩によって広く研究されてきた.
 徳本は参河の人,信濃の人,美濃の人,あるいは甲斐の人などといわれ,その生れを詳にせず,諸国を周遊して一処に長く留ることがなかったが,中でも甲斐の国(山梨県)に留る日が最も多かったといわれ,それ故甲斐の徳本とも呼ばれる.彼は後,張仲景の学説,すなわち傷寒論をわが国に初めて実践し,徳本流という一流派をなしたことはよく知られているところである.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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