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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科39巻9号

1985年09月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・334

特発性網膜色素上皮裂孔

著者: 山本起義 ,   金井清和 ,   岡田寿夫 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1092 - P.1093

 緒言 網膜色素上皮(以下色素上皮と略す)裂孔は1981年Hoskinら1)によりはじめて記載された.高齢者に生じる大きい網膜色素上皮剥離の剥離部の辺縁で色素上皮が線状にさける結果,両側の色素上皮が収縮して大きい色素上皮の欠損部を形成する.裂孔が黄斑部に発生すると,急激な視力低下をおこす1〜4).わが国では,我我が先に光凝固後に発生した本症を報告した以外5)未だに本症の報告例はない.今回我々は自然に発生した本症を経験したので紹介する.
 症例 :42歳男性.初診1984年1月24日.

臨床報告

標準色覚検査表第2部後天異常用の検出能力—その2 先天性色覚異常者について

著者: 市川一夫 ,   中嶋潤

ページ範囲:P.1095 - P.1098

 第1色覚異常9名,第2色覚異常29名,第3色覚異常4名,杆体一色型色覚2名について,標準色覚検査表第2部後天異常用(SPP part 2)で検査して,以下の結論を得た.
(1)第1色覚異常,第2色覚異常ともに,SPP part 2の赤緑色覚異常検出用5文字の内第12表の文字「4」をほとんど間違えず,他の4文字はほとんど間違えた.
(2)第1色覚異常,第2色覚異常ともに,SPP part 2の青黄色覚異常検出用11文字の内第3表の文字「2」のみを誤ったが,誤りは第1色覚異常に少なかった.
(3)第1色覚異常,第2色覚異常ともに,SPP part 2の第5表の文字「2」を多く誤り,この文字は特定の色覚異常の検出用に作られていないが,赤緑色覚異常検出用にすべきであると考えた.
(4)第3色覚異常は,SPP part 2の青黄色覚異常文字以外をほとんど間違えなかった.
(5)杆体一色型色覚は,SPP part 2を全表誤読した.

第一次硝子体過形成遺残の1家系

著者: 中村昌生 ,   箕田健生

ページ範囲:P.1099 - P.1104

(1)第一次硝子体過形成遺残およびその亜型としての硝子体発生異常を多発した1家系5症例を経験した.
(2)この家系の遺伝形式は常染色体性優性遺伝と推定された.
(3)5症例全例に後部硝子体由来と考えられる異常所見を認めた.また4例が両眼性に罹患していた.これら二つの特徴は,過去における遺伝性を有した硝子体発生異常の報告とよく一致した.
(4)家族性に生じる第一次硝子体過形成遺残およびその亜型としての硝子体発生異常は,孤発性の症例と比較し,その臨床像をやや異にすると考えられる.

3歳児健康診査における視機能スクリーニング(第4報)

著者: 神田孝子 ,   川瀬芳克 ,   山口直子 ,   内田尚子

ページ範囲:P.1105 - P.1109

 3歳児健診受診者483人全員に斜視,視力不良その他眼科的異常を検出するためのアンケートを実施し,その回答と眼科的所見を比較し,アンケートによる眼科的スクリーニングの問題点等を考察した.
 対象 者483人を斜視(+)群と斜視(−)群に分け斜視の有無に関する質問の答を調べた.斜視(+)群14人の回答では斜視ありと答えた者4人,斜視なしと答えた者10人で70%が見落されていた.一方斜視(−)群469人中8人(1.7%)が斜視ありと答えていた.
 視力に関する質問には483人中の視力異常群22人中の1人(4.5%)だけが問題ありと答えたのみで21人が問題なしと答えていた.視力正常群461人中問題ありと答えた者は15人(3.3%)であった.
 以上の結果からアンケートの答だけでは斜視と視力不良については正常者はほぼ正しく判定されるが異常者が見落される率が高いといえる.

外傷性視神経乳頭離断の1例

著者: 横山理子 ,   窪田まゆみ ,   神立敦 ,   上岡泰雄 ,   堀内二彦

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 交通事故による鈍的外傷後に見られた8歳男児の左眼完全型視神経乳頭離断(avulsio of the disc)の症例について,受傷4日後から約半年間その眼底所見ならびに螢光眼底所見について経過を観察する機会を得た.
 初診時(受傷4日)より全経過を通して,左眼視力は光覚弁を認めえなかった.初診時の左眼眼底には正常視神経乳頭は全く見られず,視神経乳頭が存在したと思われる後極部に約3乳頭径の不正円形の陥凹を認め,陥凹部辺縁には網膜表層性出血ならびに下方網膜血管にスラッジ現象が見られた.
 後極部綱膜全域は網膜血流途絶のためと思われる浮腫状混濁を呈していた.初診時の螢光眼底検査で,脈絡膜循環はほぼ正常と思われたが,網膜血流は完全に途絶し,わずかに陥凹底部ならびに外下方網膜血管に,箸しく遅れた螢光色素の出現を見た.
 受傷11日後には陥凹部辺縁の網膜表層性出血は吸収傾向にあり,出血塊の吸収に伴って,陥凹部は増殖性組織のために陥凹度が減少してきた.螢光眼底検査でも腕-網膜循環時間はほぼ正常に復していた.
 網膜電位図は受傷45日ではb波の低下が見られたが,受傷101日にはa波b波ともに正常範囲であった.
 以上から本症は鈍的外傷による完全型視神経乳頭離断で,しかも網膜血流は一時完全途絶したものも,網膜主幹動静脈の切断をみなかった極めてめずらしい症例と考えたので,文献的考察を含めて報告した.

眼瞼痙攣の新しい手術方法

著者: 三木正毅 ,   三浦昌生 ,   近藤武久 ,   高塚勝哉

ページ範囲:P.1117 - P.1120

 薬物療法が無効または継続できなかった眼瞼痙攣の症例3例に対して,Ander-sonの報告したeyebrow-eyelid stripping procedure,あるいはこれに順じた手術療法を行い,満足すべき効果を得た.本法の長所は顔面神経麻痺などの副作用がないうえに,起因筋を処置するという解剖学的に合理的な手術であり,同一術野で眼瞼挙筋腱膜の離断を修復できること,他の眼瞼手術と同様に比較的簡単でしかも効果が確実なこと,手術量の決定が程度により変えられ,段階的手術も可能なことなどであり,今後の眼科領域における眼瞼痙攣の有望な方法であると考えた.

Aicardi症候群(典型例5例と非典型例1例)について

著者: 唐木剛 ,   長坂智子 ,   太田一郎 ,   三宅三平 ,   市川宏

ページ範囲:P.1121 - P.1126

 我々は愛知県心身障害者コロニー中央病院において,Aicardi症候群6例(典型例5例および非典型例1例)を経験したので,その臨床症状を報告した.さらに同院で診断された点頭てんかんを有する312名と,脳梁欠損を有する61名について,眼科的所見を検討し,Aicardi症候群の頻度を求め,以下の結論を得た.
(1)点頭てんかんを有する者の2%,脳梁欠損を有する者の10%が本症候群であった.
(2)過去に100例以上が報告されうち2例以外は総て女児であったが,女児で脳梁欠損と点頭てんかんを合併する者が本症候群である可能性は極めて高い.
(3)全前脳胞症と滑脳症は本症候群の類縁疾患である可能性は低い.
 点頭てんかんを有する者や脳梁欠損を有する者についての眼科的検査は極めて重要であり,決して稀ではない本症候群とその類縁疾患の解明に大きく寄与するものと考えられる.

Paget病に合併した網膜全剥離の1例

著者: 堀田喜裕 ,   石田誠夫 ,   中島章

ページ範囲:P.1127 - P.1129

 症例 は50歳女性,Paget病で両白内障と,右のproliferative vitreoretinopathyおよび網膜剥離を認めた.螢光眼底造影では黄斑部の強い漏出と周辺部のいくつかの漏出を認めた.本症例の特徴から,多彩な網脈絡膜病変を呈するPaget病との関連について考察するとともに,本邦においてまれなPaget病の眼症状について検討した.

網膜剥離術後に網膜色素上皮剥離様病変と乳頭浮腫がみられた症例

著者: 真崎浩見 ,   浦口敬治 ,   三根茂

ページ範囲:P.1135 - P.1139

(1)61歳,男子左眼の裂孔原性網膜剥離術後に網膜色素上皮剥離様病変と乳頭浮腫のみられた極めて稀な症例を経験した.
(2)網膜色素上皮剥離様病変は脈絡膜毛細血管の透過性亢進による漏出の結果おこったものと考えられた.
(3)乳頭浮腫は脈絡膜循環系に由来する乳頭網目状表在性毛細血管網の透過性亢進によるものであると考えられた.
(4)この二つの変化はいずれも網膜剥離という病的状態に網膜剥離手術という外科的侵襲が加わり,脈絡膜循環系に障害をきたしたために生じたものと推測された.

虹彩面上白色塊を呈した真菌性眼内炎

著者: 渡辺圭子 ,   山名敏子 ,   猪俣孟 ,   松田哲男 ,   松本忠彦

ページ範囲:P.1141 - P.1144

 術後真菌性眼内炎と考えられる1例を報告した.症例は52歳男性で緑内障手術の既往があり,虹彩面上に白色塊状物を認めた.前房穿刺液を培養して真菌が検出され,更に周辺虹彩切除術時に得られた虹彩の病理組織標本にて菌要素および菌糸が認められた.アンホテリシンBの局所投与および硝子体切除術とアンホテリシンBの硝子体内注入を行い眼内炎は消褪したが,視力は手動弁にとどまった.
 分離された真菌をPaecilomyces lilacinusと同定した.本菌株を培養し,酵母様形態を作成することに成功した.P.lilacinusは二形性真菌のひとつと考えられる.

Dysthyroid optic neuropathyに対するplasmapheresisおよびsteroid併用療法の有効性

著者: 兵藤俊樹 ,   横井匡彦 ,   長田廉平 ,   加瀬学 ,   沖一郎

ページ範囲:P.1151 - P.1155

 眼球突出で初発し,その後眼球突出増悪し視力,視野障害を併発したdysthyroidoptic neuropathy (DON)の3症例を経験した.これらに対してsteroid療法を行ったが効果なく,plasmapheresis (PP)とprednisolone大量療法を併用したところ全例に視力・視野の著明な改善がみられた.眼球突出に関しては6眼中3眼に改善がみられたが3眼は回復しなかった.しかし,CT像では外眼筋の肥厚は著明に減少していた.
 DONの治療としてPPとsteroid併用療法は極めて有効性が高い治療法と思われる.

カラー臨床報告

光凝固で生じた網膜色素上皮裂孔

著者: 岡田寿夫 ,   大熊紘 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1145 - P.1149

 77歳の男性の黄斑部に発生した大きい網膜色素上皮剥離にアルゴンレーザー光凝固を加えたところ,1カ月後に剥離部の色素上皮に裂孔が発生した.他眼にはすでに瘢痕化した老人性円板状黄斑変性症がみられた.
 網膜色素上皮剥離は4乳頭径大の大きいもので,その復位を目的として,辺縁に光凝固を行った.1カ月後に網膜色素上皮剥離の耳側と鼻側の辺縁で色素上皮が離断し,残った色素上皮は収縮して中央に集まり,縦走する大きい皺襞となった.両側の色素上皮の欠損部(裂孔)では脈絡膜血管がよく透見され,螢光造影で強い過螢光を示した.その後,網膜下に著しい結合織性の増殖組織を生じた.老人に生じる大きい網膜色素上皮剥離に自然に,または光凝固後に,このような色素上皮裂孔の発生することが注目されているが,わが国では本例のような症例は報告されていないので紹介した.

文庫の窓から

眼科諸流派の秘伝書(45)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1156 - P.1157

54.大竹流眼科秘書
 甲賀者で知られる滋賀県甲賀群の隣に蒲生という所があるが,本書はこの蒲生の住人,鎌倉某という人が書写相伝したものだろうか,その表紙に『江州日野蒲生郡鋳物師村(現滋賀県蒲生郡蒲生町鋳物師村)鎌倉氏,天保二年辛卯四月十九日写之』とある.
 この写本は紙コヨリで綴られ,料紙は和紙19葉全1冊(24.5×17cm)の冊子装で,本文は片仮名漢字混りの和文で書かれている.本書の内容は大竹流眼科の薬物療法を伝えたもので,その初めに丹珠散,大真珠散,龍脳散,明珠散,琉珀散,白雲散,龍丹膏,玉明膏等の処方を挙げている.次いで目薬製法として炉岩石,蓬砂,塩硝,寒水石,石膏,真珠,生脳,代赭石等の薬性ならびに製法を掲げ,続いてこれら薬物を用いた眼病治療について述べている.その記述の要領は以下のごとくである.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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