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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科4巻3号

1950年03月発行

雑誌目次

綜説

イオン療法(Iontophoresis)に就て

著者: 鈴木宜民

ページ範囲:P.89 - P.96

1.緒言
 眼科領域に於ける治療法としてイオン療法が登場してから既に30年余りの年月が流れた.1908年Wirtzが始めて眼科に取り入れて以來本療法に関する研究報告は相次いで爲されて來た.本邦に於ては其の殆ど総べての発表が伊東教授の指導に依つて多数の教室出身者に依つて爲され,又同教授によつて其の用ひ方,適應症に就て再三ならず詳細に発表せられ,吾々は今日迄其の原理と用ひ方に從つて各種の藥物を種々の疾患の治療に用ひて來た.硫酸銅,硫酸亞鉛からサルファ剤,ペニシリンと藥物の近代的進歩と共にイオン療法も亦同じ歩みを続けて今日に及んで來た.今日吾々はサルファ劑,ペニシリンのイオン療法を外來に入院に常時使用して其の偉効を認めておるが故に本療法が更に廣く一般医家に使用される事を願つて巳まない.時もよし本誌編輯子の依頼もあり,私は本誌上を借りてしばらくイオン療法の歴史を回顧して其の業績を今一度見直し,併せて今日吾々が教室に於て常用しておる本法の用ひ方に就て紹介し諸賢の御參考に供したいと思う.

臨床實驗

眼瞼肉腫の1例について

著者: 尾島英之

ページ範囲:P.97 - P.98

緒言
 眼瞼に原発する眼瞼肉腫に関する文献は欧米に於ては多数見られるが我國に於ける報告は井上茂氏以下18氏に依る21例にしか過ぎない.著者は最近斯る眼瞼肉腫の一例を経驗したので茲に其の臨床的及組織的所見を述べようと思う.

斜視と融像能力の缺陷

著者: 佐藤邇

ページ範囲:P.98 - P.100

 斜視の原因に就てはBielschowsky9)に依れば,既に二世紀前より述べられていて,De la Haire(1743)は黄斑部の位置異常が斜視の原因であると考えたとの事である.それ以後の諸説は多数あるが,これを器質的異常と機能的異常とに分類する事が出來る.
 器質的異常としては,眼窩と眼球の大きさ並びに形態の異常,瞳孔間距離の大小,外眼筋の強弱及び長短,腱の附着位置の異常,筋鞘の彈力,長さの異常,或は眼球後部組織の異常等が論ぜられており,簡單に表現するならば眼球と其の附属物との具合が惡いと云えるであろう.

石油ランプの自在鈎による眼外傷

著者: 黄秀根

ページ範囲:P.101 - P.102

 石油ランプの自在鈎による外傷は,明治年代には頗る多くて河本先生(明治43)は「日本に於てランプの鈎にて眼の負傷多きは世界無比ならん」と言つている程である.然るに電燈の普及に伴いこの種の外傷は殆んどその跡を絶つに至り,大正年代に市原氏例(大正3),昭和年代に廣瀬氏例(昭和5)が見られるのみである.而も廣瀬氏例は満洲において中國人に見たものであり,今日吾々は殆んど見るを得なかつたものである.
 然るに偶々終戰後において,一時電氣事情惡化した折再びランプが用いられるに至つた際に,珍らしくもこの鈎によつて受傷した症例を経驗したのでここに報告する.

環状視標の研究

著者: 山森昭

ページ範囲:P.102 - P.106

緒論
 2種類の視標で同一の眼の視力檢査をする時,例へばAの型の視標では0.3迄は全部当るが,0.6迄は幾分間違ひ,0.8で殆んど当らない.Bの型の視標では0.4迄は全部当るが,0.6で殆んど当らないとする.視力の微細な変化を檢出するにはBの方が優れている.AよりBが感度が良いという言葉を使う.出來るだけ感度の良い視標を見出さうとした.

網膜黄斑部中心窩無血管範圍の計測に就て

著者: 加藤謙

ページ範囲:P.106 - P.109

緒言
 網膜黄斑部の中心領域に毛細血管が欠如していることは周知の事実であるが,その欠如部の範囲(廣さ)に関しては未だ必ずしも意見の一致を見ない.從來報告せられた計測値は主として網膜血管の注入標本又は染色固定標本に就て組織学的に計測せられたものであるか,或はPurkinje氏血管像を應用して内視的に計測せられたものである.試みに先人の計測値を列挙してみると,外國では水平直径0.42mm (Leber),水平直径0.41mm,垂直直經0.31mm (Becher),水平直径0.4506mm,垂直直径0.3999mm (Mayer hausen)等であり.本邦の文献では直径0.5mm (河本重次郎1),明治37年),直径0.3mm (藤田秀太郞2),大正4年),水平直径0.89mm,垂直直径0.77mm(鈴木林一3),昭和16年),直径0.2mm (中村康教授4),昭和22年)等である,尚鈴木氏に拠れば血管注入標本に就て0.4-0.5mmと報告した人(内田,1918)もある.以上の報告数値を通覧すれば,本邦の文献に於て最小0.2mmより最大0.89mmに及ぶ著しい差異があつて,これを單に被檢者若くは観察標本の個人差であると見做すには,余りに差が大き過ぎるように思はれる.
 私は最近網膜黄斑部毛細管の血流内視現象に関して考究中,偶然の機会に血流内視現象を應用して私自身の黄斑部無血管範囲を計測してみたととろ.

一卵性双生兒におけるヒステリー性視野変化に就て

著者: 松原俊麿 ,   宮下和子

ページ範囲:P.109 - P.111

 ヒステリーは遺傳的素質に起因して発生するものと言はれて居る.諸種の眼症状の現われることが知られているが,就中視野における変化は著明である.今日性格,或いは精神疾患の研究に双生兒研究は盛んに行われているけれども双生兒におけるヒステリー性眼症状の記載は未だこれを観ないもののようである.
 余らは最近一組の双生兒において定型的のヒステリー性視野変化を示すものに遭遇したのでここに報告する.

眼窩血瘤腫Blutbeuleに就て

著者: 井街讓

ページ範囲:P.112 - P.113

血瘤腫Blutbeuleは大正6年耳鼻科田所氏が始めて詳細記録命名した鼻腔及び副鼻腔に原発する良性腫瘍である
 乍併,その症状が鼻腔副鼻腔内に限局せず甚しい場合には,周囲組織を圧迫崩壊せしめ増殖し,時に異常な大いさに達し,癌腫又は肉腫と誤まられ一見惡性腫瘍の樣な猛威を振るう.耳鼻科領域でも比較的稀な疾患で眼科文献には未だ記載を見ない.

胎兒眼球及角膜・鞏膜發育過程に就て

著者: 中村康

ページ範囲:P.114 - P.120

1.緒言
 余はさきに黄斑部の研究の一部として,昭和15年以來胎兒黄斑部の発育に就て,多くの材料を集め,此肉眼的,組織学的研究を行つていたが,不幸にして戰災を受け,其材料の一部を失い,研究の中絶に遭つていた.然し其後日本医科大学産婦人科教室の好意に依り,再び材料を集め,其不足を一層補うととが出來,此度はもつと廣く胎兒眼球の発育過程を総括して発表し得ることは誠に幸である.
 此度発表する一つ一つの項目は何れをとつてみても大なる論文をなすもので,此短篇に総ての諸見を論じ盡くすことは出來ない.依つて此度は研究して得た結論を多くの図を以て述べることにしたいと思う.尚詳細なる報告は,別に発表する機会を求めたいと思う.

醫局だより

名古屋大學眼科醫局

著者: 服部知巳

ページ範囲:P.120 - P.120

 戰災を受けた何れの大学もがそうで有る樣に,全ての面に不侵と困苦を凌ぎ乍らも,中島実教授を中心に教室員一丸となつての努力は,近時戰前に劣らぬ否戰前以上の活況を教室に充実せしめている.
 毎月開かれる名古屋眼科集談会は,近郊は勿論,近縣遠隔の地より多数の參会者を迎えて,月の盛大を極めている.過日第百囘集談会には,遠く金澤よりも參会を得,百名に余る盛会さは,日本眼科学会の縮図の如き観があつた.

長崎醫大眼科教室

ページ範囲:P.130 - P.130

 終戰以來あしかけ6年,既に人々の顔には当時のどすぐろい疲勞した蔭は無く,死の原野浦上には戰災者住宅建ち並び,逞しい更生力を示して居ますが,未だ原爆の跡は所々に生々しく悲慘だった当時を囘想させます.
 原爆による母校の慘過は余りに大きく,基礎は一瞬全滅,病院は辛うじて外郭を殘し得た丈で壊滅致しました.眼科は幸い火災を免れ,辛うじて図書は殘りましたものの,山根教授始め婦長以下7名の殉職者を出しましたのは,その犠牲の余りにも大きくて,一時は全くどうして良いかわからない状態でした.然し皆の一時絶望の氣持も,故角尾学長,故山根先生始め諸先輩同僚の最後の言葉に励まされ,大学の復興浦上の復旧の氣運次第に起り,20年11月市内國民学校の一窒に名許りの診療を再開,次いで現大村國立病院,次いで其処を追われ,諫早に移轉.2ケ所に分散して形許りの大学を再興し現在に至つて居ります.

臨床講義

高安氏病

著者: 中島實

ページ範囲:P.121 - P.124

 患者 服部○子 15歳 女学生 三重縣生れ.
 〔主訴〕両眼の視力障碍.初診1949.11.17.

私の経驗

クレーデ氏法の代用として30%アセトスルファミン溶液の點眼を提唱す

著者: 野村穆

ページ範囲:P.125 - P.126

 初生兒淋菌性結膜炎即ち初生兒淋菌性膿漏眼(初淋結)が角膜軟化症と共に,幼年時失明の最大原因たることは疾くに周知の事実である.此の初淋の予防を目的として1681年クレーデ氏法(ク氏法) Dredé's methodが發桃されてから以來は,初淋結に因る幼小者の失明が激滅したと云われる.
 然し乍ら此のク氏法に於て殺結の目的を以て使用される所の2%硝酸銀水は,点眼後屡々結膜に藥品性刺戟なる出血或は炎症を遺し,甚しきは角膜の溷濁,潰瘍をも生起させることがあるので,現今では1乃至0.5%硝酸銀水が代用されることが多い.が此の1〜0.5%の硝酸銀水でさえも其の好ましからざる副作用の爲めであるのか,私が近頃経驗した初淋結の数例ではク氏法が助産婦によつて任意に省略されているのは注目す可き事実である.此は多小,産道の汚染の程度により独断的に処理されるものと想像するのであるが,吾が眼科領域に於ても,比較的分泌物の小い.而かも淋結を確実に証明し得る所の,所謂不完全型の初淋結が実存することは明らかであつて,此と相似のものが産婦人科的にも在るものと思われる.斯樣な軽症の初淋結が臨床倉皇の間に於て,菌檢索を怠り油断し易い爲めに却つて危險を伴うことが多い.殊に人工栄養兒,早産兒或は虚弱兒等に於ては,角膜の崩壊,穿孔が速かであるので特に細心の注意を要するものである.

外文抄録

英國篇(其の1)

ページ範囲:P.127 - P.128

 これからの掲載する欧米文献の内容を繙いて本邦現在の報告を反省して見る事が大切である.最近の日眼総会の演題を今一度讀みかえし日眼総集会號を通覽することを讀者におすすめする.私は其を此処に説かない.本邦眼界の水準は比較する方々の自由檢討にまかせたい.そして其の立脚地にたつて一層本邦銀界の世界眼科界に向つての寄與を志して載きたい.集談会に一つでも多くの優れた論文を発表して文献の上に其名をとどめるやら努力されるやら望んでやまない.

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保險のしをり—社会保險診療質疑應答集(其の3)

ページ範囲:P.128 - P.128

理学療法科
 問 被保險者がレントゲン診断を要求した場合給付となるや.
 答 被保險者が只單に結核らしいという疑をもつてする場合は給付出來ない.然し療養経過中又は自覺的症状があつて診断を求め,医師がその必要を認めた場合は健保の給付となる.要約すれはレントゲンの必要の有無は医師の認定によると云える.

眼科醫の知識

ページ範囲:P.131 - P.131

 この欄には眼科と他科とのグレレツゲビートの事,他科の領域内でも眼科に関係のある事,又眼科に直接関係はなくても眼科医として医学常識上知つておるべき事等を他の雜誌等より抄録する.こういう事項に付いてとかこの問題をとかの御質問御教示を歡迎するどしどし編集部宛御意見を御送り下さい.出來るだけ御希望の記事を抄録して掲載致します.

手術メモ・10

(1)角膜成形術

著者: 中村康

ページ範囲:P.129 - P.130

 角膜成形術には,角膜組織を補ふのに,他の角膜組織を以てする方法と,結膜組織を以てする方法とがある.前者は.角膜の色々な病氣の後に.角膜葡袋腫になつたり,又円錐角膜になつたりした時に行ふ外,開眼手術の一つとして行ふ.後者は,角膜潰瘍殊に角膜痩孔に行う.街角膜移植術を以つて,不幸にして移植に脱出し,角膜穿孔が其儘開口してしまつた時,健康結膜法をとつて,其穿孔を蔽ふことがある.
 後療法:一移植手術を行つた後は翌日はなるべく繃帶交換程度で止め開眼し手術の成果を精細に観察でない方が良い.只移植した切片が脱出したり剥離したりしていないかを見る程度に止める.抜糸は5-8日位の間に行う.其後は蒸氣罨法,赤外線照射等を施し自宅でも温罨法に2%硫酸亞鉛水点眼をさせる.洗眼時眼瞼反射の爲め眼球に加圧するととはなるべく避けるが良い.軽く上眼瞼を上挙し洗眼する.凡そ2週間たてば創縁は密着する.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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