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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻10号

1986年10月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・345

角膜のSchnyder crystalline dystrophy

著者: 白土春子 ,   片倉尚美 ,   稲垣有司 ,   田中稔

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 角膜のcrystalline dystrophyは1929年Schnyder1)によって報告された常染色体優性遺伝を示す稀な角膜変性症である.わが国では親子例の報告2)が1例あるのみである.今回我々は本症の母子例を経験した.家系図は図1に示す.

今月の話題

角膜上皮の疾患 上皮障害の細隙灯顕微鏡所見

著者: 木下茂

ページ範囲:P.1123 - P.1127

 角膜上皮障害は細隙灯顕微鏡所見により,punctate epithelial erosion (PEE),punctateepithelial keratopathy (PEK),PEKと上皮下浸潤,そして上皮欠損に大きく分類することができる.これらの所見から角膜上皮疾患の原因を考え,診断する基本的なプロセスを解説する.

臨床報告

多剤耐性緑膿菌による難治性眼窩感染症とofloxacin効果

著者: 大石正夫 ,   坂上富士男 ,   大桃明子 ,   田沢博

ページ範囲:P.1128 - P.1131

 81歳,女性,左眼窩腫瘍で眼窩内容除去術が施行された症例で,術後眼窩感染を発症した.眼窩内の膿性分泌物の培養でPseudomonas aer-uginosaが検出された.その薬剤感受性はcar-benicillin,sulbenicillin,piperacillin,cefsulodin,cefoperazone,cefpiramideのすべてに>100μg/mlの高度耐性,ceftazidimeには12.5μg/mlgentamicin,amikacin,habekacinには25〜50μg/mlの最小発育阻止濃度で耐性を示した.ofloxacinには1.56μg/mlで高感受性であった.ofloxacinの局所,全身投与により,眼窩内の膿性分泌物の軽減,菌数の減少がみとめられて臨床症状の改善がみられた.多剤耐性のP aeruginosaによる難治症例の治療に,ofloxacinがきわめて有用な抗菌剤であると考えられた.

糖尿病性輪状網膜症に対する光凝固

著者: 桂弘

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 滲出物が黄斑部に及ぶ糖尿病性輪状網膜症に対して光凝固を施行した10例について検討を加え,次の結果を得た.
 ①光凝固後,滲出物の減少は10例全例に認め,7例でほぼ消失した.
 ②視力の改善は4例に認め,不変例は凝固前の黄斑部の滲出物が著明な症例であった.
 ③糖尿病性輪状網膜症に対する光凝固は有効であるが,視力改善のためには,黄斑部の滲出物が軽度な時期に施行することが重要であると考えられる.

特異な経過を示したlens-induced glaucomaの1例

著者: 能勢晴美 ,   臼杵祥江 ,   坪井一穂

ページ範囲:P.1138 - P.1140

 67才女子の左眼に発症したlens-in-duced glaucomaの症例につき報告した.明らかな誘因もなく水晶体皮質が一塊として前房内に脱出し,細隙灯顕微鏡所見ではあたかも水晶体全体が脱臼したかのように見え,急激な緑内障症状を呈した.消炎および眼圧下降の処置を行い前房内の皮質は吸収されたが,モルガン白内障の存在が証明された.第20病日に水晶体摘出術を施行し,視力の回復を得ることができた.
 このような症例は文献上でも報告のないきわめて稀な例である.

原田病遷延化の指標としての虹彩結節

著者: 趙容子 ,   中川やよい ,   春田恭照 ,   多田玲 ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 原田病の発病後,比較的初期から観察できた3症例で,その経過中に炎症再燃に伴い瞳孔縁に虹彩結節(Koeppe結節)の出現を認めた.その後これらすべての症例はステロイドの減量に伴い炎症を反復し,炎症が遷延化したと考えられる経過を示した.また原田病70例の観察から,虹彩結節は遷延化した症例のみに見られる所見であることが明らかとなった.したがって細隙灯顕微鏡で簡単に観察できる虹彩結節は,原田病の炎症が遷延化したことを示唆する指標として有用であると考えられる.

外傷性毛様体解離による低眼圧症2例の外科的療法

著者: 清水勉 ,   松村明

ページ範囲:P.1151 - P.1155

(1)外傷性毛様体解離による低眼圧症の2例を経験し,外科的治療を施行した.
(2)1例目は受傷後2カ月半目に,ジアテルミー凝固,人工的虹彩前癒着形成術,硝子体中空気注入による併用手術を施行した.2例目は受傷後1年8カ月目に,人工硝子体液注入とジアテルミー凝固を施行した.
(3)2症例とも術後一過性の眼圧上昇発作(1例目は術翌日,2例目は1年3カ月)の後,眼所見の著しい改善がみられた.
(4)眼圧上昇の原因は房水の上脈絡膜腔への流出路の閉鎖によるものと考えた.

CTスキャンにより診断されたtrilateral retinoblastoma三側性網膜芽細胞腫の症例

著者: 高橋寛二 ,   板垣隆 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延 ,   安田敬済 ,   山内康雄 ,   糸田川誠也

ページ範囲:P.1157 - P.1161

 両眼性網膜芽細胞腫に松果体腫瘍を合併した1例を経験した.症例は9カ月の女児で左眼の白色瞳孔を主訴として来院し,左眼は腫瘍が眼内に充満し,眼球摘出によって組織学的に網膜芽細胞腫であることが確認された.右眼は網膜後極部に5乳頭径の腫瘤1個,赤道部に1乳頭径の腫瘤2個が見られる多中心性腫瘍であり,保存療法(放射線療法,光凝固療法)を行って瘢痕化に成功している.脳CTにて松果体領域に異常な石灰沈着とenhancementにより増強される松果体腫瘍と思われる病変を認めた.松果体腫瘍には放射線療法を行い,増大を見ずに1年間経過観察中である.右眼および全身的に他の再発転移の徴候はなく松果体腫瘍は松果体原発のものと思われた.松果体腫瘍の組織学的証明はないが,臨床的に本症は両眼の網膜芽細胞腫に松果体腫瘍を合併したtrilateral retinoblastoma三側性網膜芽細胞腫と診断され,きわめて珍しい症例であった.本症の診断には脳CTが必須の検査であり,両眼性網膜芽細胞腫患者をみたとき,ならびに経過観察中には両者の合併に注意すべきである.

角膜輪部に発生した扁平上皮癌の1例

著者: 大越貴志子 ,   杉江進 ,   石田誠夫 ,   神吉和男

ページ範囲:P.1167 - P.1169

 角膜輪部に原発したと思われる扁平上皮癌の1例を経験した.症例は35歳男性で,初診時角膜輪部にそって肌色の比較的扁平で,血管に富んだいくつかの腫瘤を認め切除した.その結果病理学的には扁平上皮癌(squamous cell car-cinoma)と診断された.眼内浸潤および全身転移を疑わせる検査所見はなかった.手術後2カ月目に再発したが再切除を行い,その後はBleomycinの結膜下注射と点眼を用い,再発は認めず現在に至っている.

剖検で視神経浸潤を確認できた悪性リンパ腫の1例

著者: 佐野雄太 ,   敷島敬悟 ,   菊地泰

ページ範囲:P.1170 - P.1173

 視神経浸潤をきたした悪性リンパ腫の1症例に対し病理組織学的検索を行った.経過中左眼眼底は網膜中心静脈閉塞症の所見を呈するとともに,後極部に網膜深層の斑状出血が多数混在していた.剖検により左視神経,右前頭葉,腎臓,胃等にリンパ腫の浸潤を確認した.視神経における腫瘍細胞浸潤は前部視交叉から強膜篩状板の範囲におよび,くも膜から中隔内血管周囲に強く認められた.実質は著明な空胞化と萎縮をきたしていたが,浸潤は軽度であった.視機能障害の機序としては,軟膜中隔への腫瘍細胞浸潤による血管系閉塞に起因した虚血性機序を重視した.

カラー臨床報告

Bloch-Sulzberger症候群の網膜凝固療法

著者: 岡本茂樹 ,   田野保雄 ,   細谷比左志 ,   春田恭照 ,   大本達也 ,   中尾雄三

ページ範囲:P.1141 - P.1146

 生後早期に発見された3例のBloch-Sulzberger症候群を,xenon光凝固術または冷凍凝固術により治療し良好な結果を得た.治療経過からみて,本症候群は毛細血管床の脱落が生後一定期間のみ後極に向かって進行するself-limitingな疾患で,網膜凝固療法は網膜の増殖性変化を防ぐ効果はあるが,病変の後極部への進行そのものは停止させることはできないと考えられた.

最新海外文献情報

ぶどう膜,他

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.1164 - P.1165

Culbertson WW et al : Varicella zoster virus is a cause of the acute retinal necrosis syndrome. Ophthalmology 93 : 559-569, 1986
 急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)は網膜動脈炎,壊死性網膜炎,裂孔原性網膜剥離を主症状とする重篤な疾患である.本症は1971年,浦山らによって初めて記載された原因不明の疾患であるが,近年,帯状疱疹ウイルス(VZV)の関与が指摘されるようになった.そして本報告では,摘出眼球標本から電顕的にVZVが見出されただけでなく,単クロン抗体を用いた免疫組織学でもVZV抗原が確認された.さらに2眼中の1眼では硝子体液の培養によりVZVそのものが分離培養されたという.これは世界で最初の成功例であり,少なくとも本症のあるものは網膜のVZV感染により発症することが確かめられたといえる.しかし,本症が単純疱疹ウイルスやサイトメガロウイルス感染でも発症する可能性は否定できない.今後,本症のステロイド治療,acyclovir治療の可否を含め,本症の病因,病態,治療の解明が急ピッチで進められるものと思われる.

Group discussion

糖尿病性網膜症

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.1174 - P.1175

1.糖尿病における視機能の分析
     竹内晴子・横川浩己・井上正則(神戸大) 視力0.1以上の糖尿病例につき,視力,FarnsworthMunsell 100 Hue test,中心フリッカー値などの視機能検査結果と螢光造影結果とを対比検討した結果,眼底変化と共に視機能障害が増加するが,特に色覚の異常(第3色覚異常が多い)を早期より認め,今後も空間コントラスト特性に関する検討を続けると報告した.

文庫の窓から

眼科実地此事須知篇と視力乏弱病論

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1176 - P.1177

 文化12年(1815)に杉田立卿(名豫,通称立卿,号錦腸,天真楼,1786-1845)訳述の「和蘭眼科新書」(全5巻,附録,1巻)がわが国の翻訳眼科刊行書の第1号として出版され,西洋眼科学との接触が本格化したが,文政6年(1823),シーボルト(Philipp Franzvon Siebold,1796-1866)の来日によって,その実地医療が着実に推進され,ようやく日本の眼科も名実ともに近代眼科への道を踏み出した.こうした時代,医家として,また医育者としての高良斎(名淡,字子清,号良斎,1799-1846)や緒方洪庵(名章,字公裁,号適々斎,華陰,1810-1863)らが相次いで出て,その語学力と医学知識を基に洋方眼科の他,医学全般にわたり数多くの翻訳,著述を行って,日本の近代医学,眼科学の発展に計り知れぬほどの影響力をもたらしたことはよく知られた通りである.
 掲出の写本,「眼科実地此事須知篇」は高良斎が,「視力乏弱病論」は緒方洪庵がそれぞれ蘭訳本より重訳し,19世紀初めのヨーロッパの眼科学をわが国に伝えた眼科書といわれているものである.以下この両書について考察する.

第90回日本眼科学会印象記 1986年5月22〜24日於四日市市

—一般講演—緑内障I〜III,他

著者: 岩田和雄 ,   難波克彦

ページ範囲:P.1179 - P.1202

 学会第1日目,15題の緑内障に関する講演が行われ,早朝から熱心な討論が行われた.
 視機能に関し,101席松田公夫氏(大阪医大)は負荷色覚検査などにより高眼圧症例の中にも異常がみられるとし,110席鈴村弘隆氏(東京医大)は反復視野測定で視疲労様変化がBjerrum領域にみられ,緑内障性視野変化に先行する可能性を,102席勝島晴美氏(札医大)は早期視野異常の出現しやすい部位ほど視野は改善しにくいと報告.105席宇山令司氏(近畿大)はオクトパスG1プログラムについて検討し,神経線維層の観察と同様程度の精度があると報告.何れも結論を出すのに未だ方法論そのものに多くの問題点を含み,より厳しい検討が要請されよう.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.1204 - P.1204

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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