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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻11号

1986年11月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・345

角膜結膜角化症の1例

著者: 竹内勉 ,   田川義継

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 角結膜上皮は通常,非角化上皮であるが,種々の原因で表皮と同様,角化を来すことが知られている.
 今回,我々は59歳女性で右眼角結膜上皮に原因不明の角化を来した症例を経験し,病理組織学的に検討したので報告する.

今月の話題

人工水晶体症例の選択と対策

著者: 清水公也

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 一般的な人工水晶体の適応には患者の年齢,術者の技量,術眼の状態およびレンズの種類が関与してくる.また人工水晶体には未知の問題もあり,その対策として摘出可能な移植を行う必要があると考えられる.

眼の組織・病理アトラス・1【新連載】

中心窩(黄斑)の構築

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1248 - P.1249

 ヒトの中心窩fovea centralisは,乳頭の4mm耳側,0.8mm下方の眼底に存在する直径1.5〜2.5mm,深さ150μmの浅い凹みである.その場所は,固視点,つまり視軸が網膜と交叉する点に相当し,網膜の中で最も視力が高い部位である.
 中心窩の中心部(中心小窩foveola)では,視細胞は錐体だけからなり,杆体は存在しない.この部の錐体は,視力を高めるために細長く,より高い密度で配列しているので,その細胞体よりなる外顆粒層は中央部に近いほど厚い.また,視細胞—双極細胞—神経節細胞のシナプス様式も,周辺網膜にみられる収斂型ではなく,視力を上げるために1:1:1型であるため,内顆粒層,神経節細胞層を構成するニューロンも相対的に多い.したがって,このままでは網膜の固視点に当たる部位では,外顆粒層,内顆粒層,神経節細胞層の,三つの細胞層がすべて厚くなるはずである.

臨床報告

多発性硬化症の眼症状に関する統計的観察

著者: 溝田淳 ,   安達恵美子 ,   黒田紀子 ,   柿栖米次

ページ範囲:P.1227 - P.1230

 1978年4月から1985年3月までの7年間に千葉大学医学部附属病院眼科を受診した多発性硬化性(MS)患者について,眼症状に対して臨床統計および,他の原因による視神経炎と比較検討を行い以下の結果をえた.
(1)新来患者33,313例のうちMSの患者は57例(男19例,女38例)で平均発症年齢は33.9±11.8歳で,男女比は,1:2であった.
(2)視神経炎・症と診断された患者は158例であった.うちMSによる視神経炎は38例(24%)であり,また原因不明の視神経炎は62例(37%)あった.
(3)視力低下を初発症状としたものは57例中20例,37%あり,全経過中で,視力低下を示したものは,57例中38例,67%であった.
(4)原因不明の視神経炎・症からMSへ発展したものは,24%であった.
(5)視神経炎からMSへ発展した例では,20歳代が最も多く,78%であった.一方,10歳代以下,40歳代以上は,低い傾向にあった.

眼病変のみを臨床症状とするサルコイドーシス

著者: 大原國俊 ,   宮澤敦子 ,   龍井哲夫 ,   大久保好子 ,   大久保彰 ,   松下玲子 ,   松下卓郎 ,   貫和敏博 ,   高橋英気 ,   吉良枝郎 ,   斎藤建

ページ範囲:P.1231 - P.1235

 眼病変からサルコイドーシスを疑われ,他に本症に一致する臨床所見を認めなかった症例に経気管支肺生検を主とする生検を行った.11例中9例に肉芽腫性病変を示す組織像を得て,眼病変のみを臨床所見とするサルコイドーシスと診断した.

高度遠視の真正小眼球症Nanophthalmosに伴うuveal effusionの手術による治療

著者: 湖崎淳 ,   本間哲 ,   宇山昌延 ,   福田富司男

ページ範囲:P.1236 - P.1238

 両眼とも+14Dの高度遠視で,眼軸長18mmのnanophthalmos (真正小眼球症)の27歳の女性に,全周に脈絡膜剥離を伴う高度の胞状の網膜剥離が発生し,uveal effusionと診断された.片眼は他院で数度の網膜剥離手術をうけていたが難治であった.
 この両眼に赤道部で4直筋の下のみを除いて全周の強膜に幅4mm,厚さ4分の3層の輪状の層状強膜切除と,その底部にほぼ2mm径の全層強膜切除による開窓を行った.
 術後uveal effusionは翌日より吸収傾向を示し,脈絡膜剥離は数週間で速やかに吸収され,半年後には網膜は完全復位した.
 手術中強膜は厚く硬かったので,真正小眼球症におけるuveal effusion の発生は眼内液の強膜を通る眼外への流出障害によると思われた.
 nanophthalmosに伴うuveal effusion に対して,強膜の輪状層状切除術と強膜開窓術は有効な治療法であり,渦静脈減圧術は必要ないと思われた.

類嚢胞黄斑浮腫とCoats病様眼底病変を合併した網膜色素変性症の1例

著者: 南後健一 ,   西村哲哉 ,   武市吉人 ,   宇山昌延 ,   愛川和代

ページ範囲:P.1251 - P.1255

 網膜色素変性症にCoats病様眼底病変と類嚢胞黄斑浮腫を合併した,10歳女性の1症例を報告した.本症例は黄斑浮腫による中心視力の低下により眼科受診したものである.眼底には網膜色素変性症の初期の所見として網膜にびまん性の軽い変性と,赤道部に小数の骨小体様色素沈着以外に,網膜にびまん性の軽度の浮腫と黄斑部に類嚢胞浮腫により層状円孔を生じ,さらに右眼耳下側赤道部に,血管異常を伴う黄白色滲出斑を認めた.螢光造影により,周辺部には毛細血管拡張症と無血管野が存在した.検査により,第二次暗順応の障害,ERGの消失,EOGの低下,視野の小さい指標での求心性狭窄を認めた.治療として,Indomethacinの点眼とPrednisoloneの内服および周辺部のCoats病様病変に対するアルゴンレーザーによる光凝固を行った.5カ月後眼底所見の改善および,視力の改善をみつつある.この症例は網膜色素変性症が基盤にあり,それに網膜血管異常を生じて周辺部にはCoats病様変化を生じ,黄斑部に類嚢胞黄斑浮腫を起こしたものと考えられた.このように網膜色素変性症は,網膜血管の障害を生じ,多彩な眼底像を示すことがあるので紹介した.

シリコンリング留置術による涙点閉鎖の治療

著者: 長嶋孝次

ページ範囲:P.1257 - P.1260

 涙小管断裂を適応としてシリコンチューブを上下涙小管にリング状に留置する発想がある.チューブを鼻腔へ誘導する手間が省け,術後にチューブの脱出が起こりえないので,シリコンループ留置術に勝る.このシリコンリング留置術に涙点の耳側切開を加える変法を頑固な後天性上下涙点閉鎖の3例に施して好結果を得た.本症を本法の適応に追加する.

日本とフィリピンにおけるウイルス性結膜炎の病因と臨床像の比較

著者: 青木功喜 ,   川名林治 ,   松本一郎 ,   沢田春美 ,   品川森一 ,   郭登賦 ,   紫田リリ ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1261 - P.1265

 ウイルス性結膜炎の病因は地域によってその頻度が異なっている.この種の疾患は治療よりも予防に重点が置かれるべきであり,わが国のみならず近隣諸国における眼感染症のサーベイランス情報は大切である.フィリピンのマニラ市で150名,わが国の札幌市で314名合計464名のウイルス性結膜炎の結膜擦過物よりウイルスの分離同定等を行った.マニラ市では62名(41%),札幌市では147名(47%)においてウイルスを分離でき,札幌ではアデノウイルス1型(Ad1),Ad3,4,8,19,35,37,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1),帯状疱疹ウイルス(VZV)が,マニラではアデノウイルス3型(Ad3),Ad4,7,8,11,19,37とCoxsackie virus A24型変異株(CA24')が分離同定された.ウイルス性結膜炎の主体である流行性角結膜炎(EKC)においては札幌はAdenovirusD群のアデノウイルス8型(Ad8),Ad19,Ad37が,マニラではAd8が高頻度に分離された.今回のsurveyでtypical EKCの所見を示した,札幌在住の45歳の男性からアデノウイルスが分離され,制限酵素HpaIによってAd35であることが同定された.一方マニラの24歳の女性でPCFの所見を示した症例からはCA24の変異株が分離同定された.

巨大裂孔のための網膜縫合術その1手術手技

著者: 西興史 ,   出田秀尚

ページ範囲:P.1267 - P.1270

 巨大裂孔による網膜剥離の治療の際,輪状締結術にガスを併用しても網膜が固定されないことが多い.このため巨大裂孔の断端を眼球壁に固定する方法が試みられている.我々は,網膜の断端を眼球壁に縫合する新しい方法を考案した.8-0ナイロン糸付の長さ2.8mm,太さ0.4mmのスキー状の両端針の一針を,closed vitrectomy後,幅1.4mmの毛様体偏平部の強膜創より挿入し,直視下に網膜を刺し通し,対側の眼球壁の適当な位置に刺出する.次いで第2針も同様の操作を行って,糸を眼球外,強膜上で縫合する.2症例にその方法を用い,2例とも網膜は復位した.

アルゴンレーザー隅角形成術後の他眼の眼圧動態

著者: 村田純子 ,   中谷一

ページ範囲:P.1271 - P.1274

(1)片眼にlow dose argon lasertrabeculoplastyを行った23例のうち,非手術眼にも持続的な眼圧下降を来した症例が8例(34.8%)にみられた.
(2)8例の手術眼(平均下降5.6mmHg)と非手術眼(平均3.8mmHg下降)の下降眼圧には有意の相関がみられた.
(3)非手術眼の眼圧下降機構は局所のtrabecular collapseの解消などのargon lasertrabeculoplasty (ALTP)の手術眼の眼圧下降とは異なった機構,すなわち中枢性眼圧調整機構などを考慮に入れる必要があると考えた.

乳幼児健診における眼科的スクリーニング

著者: 神田孝子 ,   川瀬芳克 ,   水谷典子 ,   野田千恵

ページ範囲:P.1275 - P.1278

 我々は,1982年4月から85年11月までの3年7カ月間に,乳幼児健診などの機会に眼科的異常を疑われ,眼科二次検診を受診した3歳未満の乳幼児298人の検診結果につき検討し次の結果を得た.
 受診者298人中二次検診で要精検とされた者は99人(33.2%)であった.このうち94人が精検を受け,異常ありとされた者は89人(29.9%)であった.この一連のスクリーニングでの異常者は96人(32.2%)で,斜視群62人,屈折異常群54人,その他の異常群22人であった.
 異常者の既往歴,全身状態などを調べたが,これらの中には周産期に異常のあった者が20人(20.1%)あった.また精神,運動発達遅滞を有するもの11人(11.5%)を含めなんらかの発達遅滞や身体的異常を合併する者が19人(19.8%)あり,特に斜視群に目立った.また外斜視の家族歴を有する者も多かった.

カラー臨床報告

眼内レンズ滅菌用エチレンオキサイドガス残留によると思われた無菌性前眼部炎症特に前房蓄膿性虹彩炎について

著者: 清水昊幸 ,   大原國俊 ,   沢充

ページ範囲:P.1219 - P.1225

 後房眼内レンズ(IOL)の治験で2例の無菌性前房蓄膿虹彩炎を経験した.原因はIOLの滅菌に用いたエチレンオキサイド(EO)ガスが高濃度にIOLに付着残留していたためと考えられた.炎症の特徴は,術後1〜2日で発症し,眼内レンズを包む厚いフィブリン膜が形成され,前房中に多数の細胞遊出を認め,蓄膿を形成するにもかかわらず前房水の蛋白濃度は比較的低く,温流も認められることである.治療はステロイドの投与と強力な散瞳が有効で,翌日には蓄膿は消失し,炎症は軽減した.第2例に移植した眼内レンズと同一ロットの2枚の眼内レンズにつきEO濃度を測定したところ,それぞれ39ppm,45ppmの値が得られた.高EO値のIOLは前房蓄膿性虹彩炎の他にも眼内レンズ表面へのフィブリン析出など種々の合併症を起こしうるので,注意が肝要である.

最新海外文献情報

感染症・抗生物質,他

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1240 - P.1243

Driebe WT et al : Pseudophakic endophth-almitis diagnosis and management. Oph-thalmology 93 : 442 448, 1986
 眼内レンズ(IOL)術後眼内炎の診断ならびに治療について,1974年より1983年までに経験された83症例につき検討した.年齢は49〜87歳,平均73歳で,IOLの種類との関係はみられなかった.菌培養は62例(75%)に陽性で,硝子体で菌陽性,前房水で陰性例が52%であった.眼内炎の診断に硝子体の菌培養の重要性が強調された.61例は単数菌であり,グラム陽性菌が48株(76%)でSepidermidisが24株(38%)で最も多かった.グラム陰性菌はProteus sp (4株), Paeruginosa (2株)その他であった.真菌は5株検出された.治療はGM+CER, CEZの硝子体内注入,真菌例にはAMTBが注入された.ステロイド剤は発症24〜48時間後に全身投与された.vitrectomyは46例(55%)に施行され,IOLの除去が23例(28%)に行われた.視力予後は抗生剤眼内注入のみの症例がvitrectomy併用例より良好であった.vitrectomyの適用には十分慎重であらねばならないことが強調されている.

文庫の窓から

斯弖歇謨索謨眼科書(仮称)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1280 - P.1281

 この珍本は今からおよそ30年前の1956年4月1日,東京会館において開催された日本眼科学会創立60周年記念行事として行われた日本眼科古書展の際岡山大学の筒井徳光先生から別記のような書面を添えて寄せられたものである.書面の一部を引用させていただき,本書を紹介する.
 書面によると『この写本は訳者の名なく,国訳未定稿となっていますが,禁断の書のためワザと書かなかったのかも知れず,岡山の古本屋で手に入つた点から,足守の緒方洪庵か弟子あたりの訳かとも想像されますが確実ならず,漢字も富士川游先生来岡の節,オランダ,ステヘンソン,アムステルダムなど読んでもらったので,岡山の集談会に供覧したことがあり,石田憲吾君に貸して,同君が更に調べ英国のステヘンソン原著のオランダ訳を和訳したものと判りました.写本の最後の章には義眼も出ております.表記に消えかかった木梨貞……とあり,法医学教室で写真もとって貰いましたが,下の一字か二字は確定せず,裏の色鉛筆の楽書に木梨貞次郎とあり,その人が所有者(或は記者?)と思いますが調べても不明でした云々』ということでありますが,本書についての書誌を附け加えますと,扉の部分に,嘱蘭,斯弖歇謨索謨先生著,亜謨私弖児打謨鏤,国訳未定稿と三行(図1)に墨書され,折本装(56折)全一冊(30.8×18.0cm),キララ本,毎半折葉,有界,(鳥絲欄8罫),墨付16行書,毎行字数不定,漢字片仮名混りの精写である.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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