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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻12号

1986年12月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・346

ソフト・コンタクトレンズ装用者にみられた上輪部角結膜炎superior limbic keratoconjunctivitisの1例

著者: 不二門尚 ,   大橋裕一 ,   下村嘉一 ,   浜野孝 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.1290 - P.1291

緒言
 コンタクトレンズの普及は多くの近視者を眼鏡から解放したが,一方で巨大乳頭性角結膜炎などの種々の角結膜疾患を惹起することも明らかとなってきた1〜7).superior limbic keratoconjunctivits (SLK)は欧米では頻度の高い疾患で,上方輪部の角結膜を主体として生じる限局性,角化性の炎症性病変を特徴としている.今回,本邦では未だ報告のないソフト・コンタクトレンズ装用中に生じたSLKの1症例を経験したので報告する.

今月の話題

裂孔原性網膜剥離に対するvitrectomyとpneumatic retinopexy

著者: 樋田哲夫

ページ範囲:P.1293 - P.1296

 一般の裂孔原性網膜剥離に対する手術法として,硝子体手術を第一次的に行おうとする動きが出てきている.硝子体内ガス注入と裂孔周囲凝固だけで網膜を復位させようとするpneu-matic retinopexyは,手術が簡単で患者の負担も少ないので,今後広く行われるようになる可能性がある.

眼の組織・病理アトラス・2

眼の基本構造

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1310 - P.1311

 眼球は脳の一部が突出してできたもので,まさしく脳の一部である.脳は神経外胚葉から発生し,脳の原基である原始脳胞の前方から,前外側に向かって左右の二つの突出が生じる.この突出を原始眼胞または1次眼胞と呼び,眼球の原基である(図1).胎生4週の頃,原始眼胞の前壁は陥凹して後壁に近づき二重壁から成る杯状の形態をとる(図2).これを2次眼胞または眼杯と呼ぶ.眼杯は前壁の内板と後壁の外板から成る(図3).眼杯は神経外胚葉に由来するので,眼杯の内板と外板はともに上皮性細胞としての形態学的な特徴をもっている.すなわち,細胞の先端部には微絨毛が,基底部には基底板(基底膜)があり,隣接する細胞は接着装置で接合している.このような上皮性細胞としての形態学的な特徴をもつ細胞が互いに接触する場合には,細胞の先端部どうし,または基底部どうしが向い合うような状態で配列する.眼杯の内板と外板は,神経外胚葉の上皮性細胞が細胞の先端部どうしを向き合わせたものである.
 内板から視細胞,水平細胞,双極細胞,アマクリン細胞,神経節細胞Müller細胞が分化して神経網膜(感覚網膜)になり,外板は網膜色素上皮細胞層に分化する.網膜の発育が進んでも,視細胞と網膜色素上皮細胞,またはMüller細胞と網膜色素上皮細胞とは,互いに細胞の先端部どうしを向い合わせた状態を保っている.視細胞やMull-ler細胞と,網膜色素上皮細胞との間(網膜下腔)は脳の脳室腔と同じもので,網膜の発生の初期には,網膜下腔と脳室腔は連続していたものである。したがって,網膜剥離はもともと存在していた網膜下腔が再び開いた状態である。網膜の内境界膜はMuller細胞の基底板で,Muller細胞に相対する網膜色素上皮細胞の基底板はBruch膜の第1層である。

臨床報告

虹彩・隅角形成不全を伴った周辺部sclerocornea

著者: 矢野真知子 ,   小沢哲磨 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.1297 - P.1300

 両眼の周辺部sclerocorneaと虹彩,隅角形成不全を合併した56歳の女性の症例を報告した.鼻下側に強膜化した角膜があり,虹彩,隅角形成不全もこの部分において著しかった.近年提唱されているmesenchymal dysgenesisは角膜,虹彩,隅角などの発生異常を包括する広い疾患概念であり本症例に観察されたsclerocorneaと虹彩,隅角形成不全はこの中に含まれている.透明性のある非強膜化部の角膜内皮細胞をスペキュラーマイクロスコープにより観察し,内皮細胞面積を測定したところ正常内皮細胞に比べて面積の拡大,大小不同がみられた.

モノクローナル抗体を用いて診断した皮疹のない両眼性角膜帯状疱疹の1症例

著者: 荻野公嗣 ,   宮田和典 ,   中野豊 ,   谷島輝雄 ,   倉田毅

ページ範囲:P.1301 - P.1304

 眼部帯状疱疹は,三叉神経第1枝領域の皮疹を伴い,種々の眼症状を呈する水痘帯状疱疹ウイルス感染症であるが,今回我々は皮疹を伴わず両眼性の角膜炎を生じた非定型的症例を経験した.抗水痘帯状疱疹ウイルスモノクローナル抗体を用いて角膜炎の原因が水痘帯状疱疹ウイルスであることを確認できた.本症のような非定型例においては,モノクローナル抗体を用いた免疫螢光法は,診断に有用であった.

定型的脈絡膜欠損を合併したpit-macular syndromeの1例

著者: 岩元義信 ,   中塚和夫 ,   麻生明子 ,   後藤正雄

ページ範囲:P.1305 - P.1308

 定型的脈絡膜欠損を合併したpit-macular syndromeの1例を報告する.
 症例 は16歳男性で,右眼に乳頭陥凹耳側縁の小さなpitと乳頭へ達する黄斑部網膜剥離がみられ,乳頭下方には約2乳頭径大の定型的脈絡膜欠損がみられた.螢光造影にて,乳頭陥凹内のpit部から乳頭耳下側縁にかけて低螢光領域がみられ,pitは深く下掘れしていると考えられた.明らかな螢光漏出像は認められなかった.1週後,乳頭耳側縁に沿ってレーザー光凝固術を施行したが,網膜剥離は軽減するにとどまった.
 視神経乳頭pitの発生には,胎生裂閉鎖不全が密接に関連していると考えられた.また,網膜下液はくも膜下腔よりの髄液に由来すると推測した.

新生血管緑内障を伴ったEales病の1症例と螢光隅角造影所見

著者: 坂本泰二 ,   井林裕子 ,   伊藤憲孝 ,   大西克尚

ページ範囲:P.1321 - P.1325

 Eales病に新生血管緑内障(neovas-cular glaucoma)を続発し,その治療に,網膜光凝固療法が有効であった症例を経験した.
 症例 は26歳の男性,Eales病の経過中に,右眼に新生血管緑内障を発症した.初診時の螢光隅角造影検査では隅角および瞳孔縁に新生血管および螢光色素の漏出が見られた.また,眼底には新生血管,硝子体出血が認められた.
 治療としてアルゴンレーザー光凝固を網膜の無血管野に施行した.光凝固施行以後,硝子体出血の再発はない.隅角の新生血管は一部残存しているが螢光色素の漏出はほとんど消褪し,眼圧は正常化した.また初診時に低下していた視力も回復した.
 Eales病に続発した新生血管緑内障の初期治療として網膜光凝固療法は試みられるべき治療法であり,その効果判定に隅角螢光造影検査は有用であると思われる.

興味ある所見を示した急性後部多発性小板状色素上皮症の2例

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.1327 - P.1332

 興味ある所見を示した急性後部多発性小板状色素上皮症の2例について報告した.症例1では本症の典型的な眼底所見を呈する以前に螢光眼底造影で後期に脈絡膜毛細管板の循環障害を示唆する低螢光部がみとめられた.このことから本症では脈絡膜毛細管板の循環障害が持続する結果,色素上皮のbarrierとしての機能異常が出現し,色素上皮に形態的異常(=黄白色小板状病巣)の出現することが確認された.症例2では本症の経過中に漿液性神経上皮剥離が出現し,剥離下に黄白色病巣が観察された.このことから本症では慢性の高血圧性脈絡膜症や妊娠中毒症と同様,脈絡膜毛細管板の循環障害の結果,色素上皮のbarrierとしての機能異常が出現し,脈絡膜由来の漿液が神経上皮下に貯留することがあると考えられた.

後天性網膜分離症眼の硝子体所見

著者: 広川博之 ,  

ページ範囲:P.1341 - P.1344

 後天性網膜分離症40人60眼の硝子体を細隙灯顕微鏡法で観察した.本症の硝子体剥離率は正常眼のそれと差がなく,硝子体剥離はもっぱら加齢の影響による.しかしながら,網膜分離症眼では部分的な硝子体剥離がおこりやすく,その頻度は高齢になるほど高い.完全硝子体剥離の症例では,部分・非硝子体剥離に比べ,分離網膜の領域が縮少あるいは消失する可能性が高い.以上より,後天性網膜分離症の発生および進行には,硝子体の牽引も重要な因子であることが推測された.

外用ステロイド剤により緑内障・白内障を併発したと思われる日光皮膚炎の1例

著者: 勝島晴美 ,   相馬啓子 ,   西尾千恵子 ,   上條桂一 ,   宇賀茂三

ページ範囲:P.1345 - P.1349

 両眼に開放隅角緑内障および後嚢下白内障を認めた日光皮膚炎の1例を経験した.皮疹は顔面の他全身露出部にみられ,10年間ステロイド剤を外用していた.外用ステロイドによる下垂体-副腎皮質機能抑制を認めたが,他の全身的ステロイド副作用はなかった.ステロイドを眼周囲に塗布しており,緑内障・白内障はいずれも皮疹の強い右側に先行したこと,ステロイド点眼にて著明に悪化する角膜障害も認められたことなどから,緑内障・白内障は経角膜的に吸収されたステロイドの局所作用によると推測された.眼周囲皮膚疾患の外用ステロイド治療時には定期的な眼科的検査が望まれる.

シリコンチューブ留置による涙道閉塞の治療

著者: 高木郁江 ,   牛島博美 ,   田原和子 ,   松尾雅子

ページ範囲:P.1351 - P.1355

 ブジーまたは注射針で開放可能な26例30眼の涙道閉塞にシリコンチューブ留置を行い,4例4眼を除き良好な結果が得られた.有効であった症例ではチューブ留置後2〜3日以内に症状の消失ないし改善がみられた.
 本方法の適応は,注射針またはブジーで一時的に開放可能な涙道閉塞であるが,主として,(1)小児の先天性および後天性鼻涙管閉塞,(2)涙小管閉塞(涙小管損傷を含む),(3)涙点閉鎖,(4)涙嚢炎を伴わない鼻涙管閉塞,(5)涙嚢内腔癒着,狭小化(DCRに併用),(6)(1)〜(5)の合併例が挙げられる.

心臓粘液腫に併発した網膜中心動脈閉塞症

著者: 加茂純子 ,   飯島裕幸 ,   桜林耐

ページ範囲:P.1358 - P.1361

 脳梗塞発作の6カ月後に左網膜中心動脈閉塞症を生じた38歳女性症例を報告した.心エコー検査にて,心臓粘液腫が発見され,外科的に腫瘍を摘出した.心臓粘液腫に併発する網膜中心動脈閉塞症の臨床特徴をまとめ,さらに若年者に発生した網膜中心動脈閉塞症では,原因として心臓粘液腫も念頭において精査すべき点を強調した.

カラー臨床報告

網脈絡膜悪性リンパ腫の臨床像

著者: 瀬口次郎 ,   松尾信彦 ,   小山鉄郎 ,   政岡史子 ,   藤原由延 ,   中山正

ページ範囲:P.1313 - P.1319

 ぶどう膜炎症状を呈し,網脈絡膜悪性リンパ腫と考えられた4例7眼(男性1例・女性3例,年齢55歳から70歳)を経験した.3例5眼に軽度の虹彩毛様体炎,1例2眼に著明な硝子体混濁,4例7眼の眼底に軽度に隆起した黄白色滲出斑様病巣が認められた.初診時,全身的に異常のみられた症例はなかった.これらに対してステロイドは無効であり,放射線照射,レーザー光凝固が有効であった.しかし中枢神経症状,全身症状の発現とともにぶどう膜炎症状の再燃がみられ,最終的には3例が初診より5カ月から3年5カ月後に死亡した.うち1例は中枢神経系悪性リンパ腫を発症後死亡,剖検を施行し,中枢神経,両側肺,胃,肝臓,左副腎および網脈絡膜にびまん性,大細胞型悪性リンパ腫細胞の浸潤が確認された.
 今回の症例より本症の経過は,急性期,消退期,再燃・眼外発症期に分けられ,臨床的に眼球内にも悪性リンパ腫は初発しうると考えられた.

最新海外文献情報

白内障・アレルギー,他

著者: 坂東正康 ,   三國郁夫

ページ範囲:P.1334 - P.1337

Summers LJ et al : Structural variation in mammalian y-crystallines based on computer graphics analyses of human, rat and calf sequences. 1. Core packing and surface pro-perties. Exp Eye Res 43 : 77-92, 1986
 γ-クリスタリン・ファミリーのうち,牛のγIIのみがX線回析分析法によって,その3次元構造が判明している.本報告では,その構造を参考にして,アミノ酸配列のわかったラットの6種類(γ1-1,γ1-2,γ2-1,γ2-2,γ3-1,γ4-1)およびヒトの2種類(γ1-2,γ2-1)のγ-クリスタリンの3次元構造がコンピーター・グラフィクス法によって計算され,比較がなされた.
 γ-クリスタリンは四つの逆平行なβ-sheetからなる四つのGreek keyモチーフ(二重に重なったヘアーピン構造)によって構成されており,二つのよく以たN-末端ドメイン(モチーフ1と2で構成)とC-末端ドメイン(モチーフ3と4で構成)にわけられる.両ドメインは180°回転した対称性でconnectingペプチドでつながっている.モチーフ2と4は溶媒と接しない内側にくる.溶媒と接するモチーフ1と3のうちモチーフ3がどのモチーフよりも,もっとも変化にとんだアミノ酸配列を持っている.しかし,遺伝子レベルが同一であるラットγ1-2,ヒトγ1-2および牛γIIの間ではモチーフ3についてもアミノ酸配列は比較的保存されている.γ-クリスタリン・ファミリー間でクリスタリン内部(core)のパッキング状態,表面の荷電状態および疎水性に種々変化が見られる.これらの差がγ-クリスタリンの可溶性や屈折率に反映するものと推定されている.

文庫の窓から

白内翳治術集論附穿瞳術集論

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 白内障予術は紀元前3000年頃から行われたらいしといわれ,古い歴史がある.片は白内障というのは瞳孔に混濁した液がたまったものと考えられていたが,17世紀に入って,これは水晶体そのものの混濁であることが明らかになった.
 わが国では白内障手術は日体最古の医書といわれる「医心方」(永観2年丹波康頼撰)第5巻に"治目清盲方"の項目で所載されているが,隋・唐代を初めとして,いわゆる漢方眼科の教えを基に眼科諸流派において揆下法,墜下法,載開法,破壊法などが"針たて"という方術で行われてきた.幕末に至っては西洋眼科の影響で和漢蘭の折衷眼科も興り,吸引法なども試みられた.

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臨床眼科 第40巻 総目次1986年(第1号〜第12号)

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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