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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻2号

1986年02月発行

雑誌目次

特集 第39回日本臨床眼科学会講演集 (1) 学会原著

片眼性硝子体出血の原因と対策

著者: 新田安紀芳 ,   南部真一

ページ範囲:P.91 - P.95

 糖尿病性網膜症を除く片眼性に突発した大量硝子体出血151例を検索した.網膜裂孔(42%)と陳旧性網膜静脈分枝閉塞症(37%)が2大原因を占めた.一般に自然予後は不良であった.裂孔群64例中発症後1カ月過ぎてから剥離手術を行った32例は,復位率64%と不良で,その大きな原因は,増殖性硝子体網膜症の合併であった.網膜静脈分枝閉塞症など網膜血管病変の場合,出血の自然吸収は38%と低いうえに,2カ月以後の吸収例は極端に少なく,出血が持続した.また網膜静脈分枝閉塞症やイールズ病に網膜裂孔が18%と高率に合併した.片眼性硝子体出血をみた時には,網膜裂孔の発見と増殖性硝子体網膜症予防のために遅くとも1カ月以内に硝子体手術を行うことが勧められる.
 一方,網膜静脈分枝閉塞症など網膜血管病変が考えられる場合には,2カ月待っても出血が消退しなければ硝子体手術の適応があると結論される.

増殖性硝子体網膜症を伴う裂孔原性網膜剥離に対するscleral buckling手術の効果

著者: 西村哲哉 ,   板垣隆 ,   岡田寿夫 ,   金井清和 ,   小林誉典 ,   加藤直子 ,   高橋寛二 ,   南後健一 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.97 - P.100

 最近7年間に関西医大眼科でScleralbuckling (SB)法のみで手術を行った重症網膜剥離症例のうち,増殖性硝子体網膜症proliferativevitreoretinopathy (PVR)の重症度がC以上の重篤なもの81例81眼について手術成績を検討した.再手術例を含め,最終的な復位率はC1,C2の症例では96.9%と良好であった.C3〜D3では症例数は18眼と少なかったが,復位率は50%であった.術前に脈絡膜剥離,硝子体出血を伴っていた症例の約半数は復位しなかった.裂孔がなかった症例の不成功率は25.0%であったが,裂孔が存在した症例のそれは9.8%と低かった.網膜が復位すると,視力はほとんどの症例で改善したが,macular puckerを来した症例や,黄斑部に網膜皺襞が残った症例では視力の改善が不良であった.
 従来から行われているSB手術は重症網膜剥離に対しても,基本的かつ有効な術式であることが確認されたが,PVR C3以上の症例や,脈絡膜剥離,硝子体出血,無水晶体眼,剥離手術後再発例,裂孔不明例のような予後不良の条件をもった症例では硝子体手術の併用が考慮される必要があると思われた.

網膜剥離を伴った黄斑円孔の簡易手術法とその長期経過観察

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.101 - P.106

 黄斑円孔を伴った網膜剥離16症例(女14例,男2例)に対して既報した簡易法を用いて手術を行った.症例はいずれも黄斑円孔以外の網膜裂孔はなく,明確な網膜硝子体癒着が後極部にみられない症例である.黄斑バックル,黄斑ジアテルミー,硝子体切除はいずれも行わず,眼圧を下げ,ガスあるいは空気を硝子体中に注入し,術後患者に腹臥位を命じた.眼圧を下げるのに網膜下液の多い症例では耳側の強膜側より下液を排除し,網膜下液が少ない症例には前房水を吸引した.
 16症例中14例でこの簡易法のみにより復位が得られ,3カ月から2年5カ月(平均13カ月)の経過観察中に網膜剥離の再発をみた例はない.
 本法は手術手技が容易で,眼球侵襲が極めて少なく,また黄斑部機能を障害しない.黄斑円孔を伴った網膜剥離のかなりの症例で第一選択術式となりうる.

ガス注入による黄斑裂孔網膜剥離の治療

著者: 竹内忍 ,   鈴木水音 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.107 - P.111

 黄斑裂孔網膜剥離に対して,SF6ガスの硝子体腔内への注入のみによる治療を行った.対象は9例10眼で,増殖性硝子体綱膜症や硝子体牽引のない例に限った.100%のSF6ガスを毛様体扁平部より約0.75ml注入し,眼圧上昇例には前房穿刺にて眼圧を低下させ,術後face down posi-tionをとらせた.10眼中8眼が復位したが,1眼は6カ月後に再剥離し,再度のガス注入にて復位した.復位しなかった2眼のうち1眼は黄斑バックル,1眼は硝子体切除と空気タンポナーデおよび眼内レーザー光凝固にて手術を行い,最終的には全例の復位に成功した.
 硝子体切除を行わずに,ガス注入のみによる黄斑裂孔網膜剥離の治療は,手術手技も容易で合併症も少ない.また,手術侵襲も極めて少ないため,今後第一選択となるべき手術方法と思われた.

アルゴンレーザーによる網膜剥離予防手術の成績

著者: 渡部富美雄 ,   上野泰志 ,   柊山剰

ページ範囲:P.113 - P.117

 アルゴンレーザー光凝固にて網膜剥離予防手術を行った73例,76眼について,予後および裂孔,円孔の性状等について検討した.
(1)アルゴンレーザー光凝固で網膜剥離予防手術を行った76眼中,新生裂孔を生じた症例は3眼(3.9%)であり,網膜剥離を発生した症例も3眼(3.9%)であった.
(2)網膜剥離を発生した3症例は,すべてmin-imal detachmentを伴う上方の裂孔または変性巣内円孔で光凝固の方法は不適当と思われた.
(3)光凝固による重大な合併症は無かったが,術中,網膜出血を見たものが1例あった.

調節機能動態へのβ遮断剤の効果とその濃度依存性について

著者: 後藤明美

ページ範囲:P.119 - P.123

 眼精疲労者(14名27眼)および正常有志者(11名22眼)を対象に,β遮断剤の調節機能への影響を検討した.Befunolol hydrochloride(以下BFE)の0.25%,0.2%,0.15%および0.1%の各濃度を使用して,点眼前および点眼後30分に微動調節,眼圧を測定し,次の結果を得た.(1)眼精疲労群の微動調節は,0.15%,0.1%のBFE点眼に比べ,0.2%,0.25%の点眼で有意に改善した.(2)正常者群では,使用したいずれの濃度でも微動調節は反応しなかった.(3)両群とも,BFE点眼前後に眼圧の変化を認めなかった.(4)初圧は正常者群よりも眼精疲労群の方が有意に高かった.
 以上,眼精疲労者の調節動態に対して,β遮断剤であるBFEが濃度依存性に影響することが明らかとなり,眼精疲労の治療薬としての有用性が示唆された.加えて,微動調節の改善は初圧と関連する可能性が示唆された.

網膜静脈閉塞症の硝子体手術の検討

著者: 市岡博 ,   市岡伊久子 ,   西村晋

ページ範囲:P.129 - P.131

 硝子体手術を要した網膜静脈閉塞症につき検討した.対象は1980年1月から1984年12月の5年間に,硝子体出血にて発症したもの,あるいはその経過観察中に硝子体出血を来し,硝子体手術の適応となった網膜静脈閉塞症44例46眼で,その内訳は網膜中心静脈閉塞症2例2眼,網膜静脈分枝閉塞症42例44眼であった.このうち39眼で2段階以上の視力回復を認めたが,術後視力が0.1に満たない症例が13眼認められた。その原因別内訳は黄斑部浮腫が3眼,黄斑前繊維症が3眼,限局性牽引性網膜剥離が3眼,網膜全剥離が2眼,原因不明が3眼であった.医原性網膜裂孔をきたした症例が5眼あり,そのうち4眼が網膜剥離に発展し2眼が最終的に復位しなかった.術後再出血を来し再手術が必要となったものが7眼あったが,このうち術中光凝固を施行した症例は1例もなく,後日光凝固を追加することにより,その後再出血を認めていない.網膜静脈閉塞症は硝子体手術適応症例の中でも比較的手技的に容易であると考えられるが,医原性網膜裂孔等の術中併発症の頻度は意外と高く,手術には細心の注意を要すると思われ,また,術後再出血の予防には術中光凝固あるいは術後光凝固が有効と思われた.

網膜色素上皮下脈絡膜新生血管の螢光眼底血管造影所見

著者: 吉岡久春 ,   小嶋嘉生

ページ範囲:P.133 - P.139

 異論のない網膜色素上皮下脈絡膜新生血管の3例を報告し,その螢光眼底所見の特徴は網膜動脈相に樹枝状,房状あるいは輪状の過螢光として出現し,後期に螢光色素の漏出あるいは顆粒状過螢光を伴うstainingの像であることを明らかにしたが,このことは黄斑部網膜色素上皮下脈絡膜新生血管の早期診断,鑑別診断に役立つものと考えた.

学術展示

小眼球症に合併した無症候性巨大眼窩腫瘍

著者: 朝岡守 ,   松高久 ,   永井真之 ,   清水由規 ,   石井和博

ページ範囲:P.142 - P.143

 眼窩腫瘍は一般に眼球突出,眼球運動障害等の臨床症状を呈するものが多いが,今回単に視力の低下を主訴とし高度の遠視,後極部の特異な網膜皺襞を呈しCT検査にて眼窩腫瘍を発見した症例を経験したのでここに報告する.
 症例 47歳男子.初診:1984年12月7日.主訴:右眼視力低下.既往歴:8年前眼球打撲あり.家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:1週間前に偶然右眼視力低下に気づき近医受診,当科紹介さる.眼科的所見:V.d.=0.02(0.1×+6.0D),V.s.=0.5(1.2×+1.0Dcyl-0.5DAx 135°).右=10mmHg,左=15mmHg.眼球突出度はHertelにて右=14mm,左=12mm.右眼眼底は黄斑部を中心に網膜皺襞が放射線状にあり網膜動静脈の蛇行,乳頭部より鼻側は浮腫状.螢光眼底撮影にて乳頭上の過螢光と黄斑部に螢光漏出を認めた.左眼眼底は特に異常を認めず.CT検査にて右眼球後,外直筋と視神経の間に大きさ約2.7×1.8×2.5cmの充実性の腫瘍を認めた.右総頸動脈撮影(大腿動脈経由,Seldinger法による)にて右眼動脈の外側やや上方に圧排,偏位を認め眼窩内側に淡いstainを認める.67Gaシンチにて異常所見認められず.経過:以上よりmalignant lymphomaも考えdiagnostic radiother-apyとして20Gy照射行うが縮小見られず.

Fabry病3例の結膜生検—電子顕微鏡的研究

著者: 原田敬志 ,   三宅養三 ,   粟屋忍 ,   三田一幸

ページ範囲:P.144 - P.145

 Fabry病はスフィンゴ脂質の蓄積症で7ないし8歳ごろから症状を表わす.眼科的には渦状角膜が特徴とされるが,これは保因者にも90%ほどの頻度で見出される.遺伝型式は不完全伴性劣性遺伝である.珍しい疾患であるとはいえ,国外・国内でその報告例も増加しつつあり,我々もその3家系6症例を記載している.
 特徴的な角膜病変を解明するために今までその病理組織学的検討が加えられているが,本症は視力が低下しないので角膜をこのように検査できる機会は多くない.その代わり結膜生検は実施が容易で患者の負担が少ない.今回母子例2例を含む3症例に結膜生検を施行したので,その電顕所見について述べ,さらにすすんで母(不完全型)とその男児(完全型)との間に見出された形態学上の差違について比較検討した.

巨大な輪部結膜乳頭腫の3例

著者: 竹村恵 ,   上野脩幸 ,   植田葉子 ,   玉井嗣彦 ,   野田幸作 ,   岸茂 ,   割石三郎 ,   北川康介 ,   織田あおい ,   伊与田加寿

ページ範囲:P.146 - P.147

 緒言 輪部結膜に発生する乳頭腫は,まれなものではないが,角膜側に向かって増殖し瞳孔領を覆い,視力障害をきたすことがある.著者らは瞳孔領の1/3〜2/3を覆うにいたった巨大な乳頭腫の3例を経験したので報告する.
 症例 症例1:65歳女性.1980年5月某病院にて右眼の輪部結膜腫瘤を指摘され,6月12日腫瘤切除術を受けた(病理診断:乳頭腫).1982年3月頃より再発を認め,5月25日当科へ紹介された.初診時視力右0.3(0.6×+1.0D cyl-10D Ax 90°),左0.7(1.0×+2.0D cyl−1.5D Ax 90°).右眼輪部の10時〜3時に,10×18mmのループ状血管に富んだ肉様腫瘤が瞳孔の鼻上側1/3を覆っていた(図1).6月18日腫瘤切除術と冷凍凝固術を旋行した.術後視力右0.7(1.0×+0.75D cyl+0.75D Ax 180°).現在まで再発の徴侯なし.

流行性角結膜炎の臨床像とアデノウイルス8型のサブタイプ

著者: 宮島輝英 ,   樋口真琴 ,   大野重昭 ,   中園直樹 ,   岩川良樹 ,   林金祈 ,   許明木 ,   陳振武 ,   藤井伸一

ページ範囲:P.148 - P.149

 緒言 現在,台湾の高雄におけるヒトアデノウイルス8型(Ad-8)には,DNA切断解析法により本邦(Ad-8A,Ad-8B)1)とは異なる少なくとも4種のサブタイプ(Ad-8C, Ad-8D, Ad-8E, Ad-8F)2)が存在することが知られている.我々のこれまでの高雄における流行性角結膜炎(EKC)家族内発症例の検討3)で,角膜炎,耳前リンパ節症の出現頻度に,サブタイプによる差異がある可能性が示唆された.今回これを確かめる目的で,病日および年齢をほぼ一致させた症例でDNA切断解析を行い,サブタイプと臨床症状との関連を検討したので報告する.
 対象 対象は1980〜81年に台湾の高雄でAd-8が分離されたEKC患者のうち,病日(3〜15病日)と年齢(5〜39歳)をほぼ一致させた35例である.そのうちわけは,耳前リンパ節症ありが13例,なしが22例,角膜炎ありが2例,なしが33例である.

全層角膜移植再移植におけるMizoribineの使用経験とステロイド剤の減量効果

著者: 南修一郎 ,   金井淳 ,   村上晶 ,   中島章

ページ範囲:P.150 - P.151

 緒言 全層角膜移植において移植片反応は混濁原因の大きな因子の一つに挙げられている.著者らは移植片反応にhigh riskである再移植例等の全層角膜移植後に免疫抑制剤Mizoribine1)(Bredinin®:東洋醸造)を経口および点眼投与し,移植片反応抑制効果について検討したのでその結果について報告する.
 対象と方法 対象は順天堂大学で1983年4月〜1985年2月迄の間に行った全層角膜移植156症例中,移植片反応のriskがある30例に対してMizor-ibineの経口および点眼投与を行い,6カ月以上の経過観察を行った.経口投与例22例中,初回手術例は14例,再移植例は8例であった.点眼投与は9例で内1例は経口投与も行った.

眼部帯状ヘルペスに対するアシクロビル点滴静注の治療効果について

著者: 西田輝夫 ,   八木純平 ,   楠部亨 ,   福田昌彦 ,   安本京子 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.152 - P.153

 緒言  帯状ヘルペスはvaricella-zoster virus によって引き起こされ,三叉神経,肋間神経などの知覚神経が侵される皮膚疾患である1).時に三叉神経支配領域である眼瞼,結膜および角膜などの眼所見を呈する症例を経験する.アシクロビル(ゾビラックス®は,その作用機序より正常組織に対する毒性が極めて少なく,全身への副作用も殆どなく,点滴静注による全身投与が可能な抗ウイルス剤である2).今回眼部帯状ヘルペスに対するアシクロビル点滴静注による治療効果について,検討したので報告する.
 対象  近畿大学医学部附属病院眼科を受診し,皮膚所見および眼所見より帯状ヘルペスと診断された5例5眼を対象とした.年齢は13歳から87歳で,男性3例,女性2例であった.全例に対して,入院のうえアシクロビル250mgをソリタT3G200mlに溶解し,8時間毎に1日3回1時間かけて7日間点滴静注した.細隙灯による臨床所見の観察および自覚症状の変化を記録した.

角膜ヘルペスに真菌(Fusarium)感染を合併した角膜潰瘍の1症例

著者: 阿部真知子 ,   田村修 ,   高岡裕子

ページ範囲:P.154 - P.155

 緒言 近年眼科領域でも混合感染が注目されている.その中で角膜ヘルペスと細菌,角膜真菌症と細菌についての報告は症例数も多いが,角膜ヘルペス基本型と角膜真菌症を同時に合併した症例は非常に少なく,わが国では塩田ら1)の2例が報告されているにすぎない.我々は単純ヘルペスと真菌(Fusarium)を同時に同定した症例を経験したので報告する.
 症例 64歳男性.主訴:1984年12月11日右眼痛.現病歴:1984年12月8日,右眼にゴミが入り,近医で除去してもらった.治療を受けたが症状は改善せずその後も異物感,眼痛が続いた.12月10日角膜潰瘍と診断され,当科を紹介された.

石川県能登地方で多発した特異な角膜炎

著者: 山村敏明 ,   北川和子 ,   富井隆夫 ,   高橋信夫

ページ範囲:P.156 - P.157

 緒言 石川県能登地方において特異な病型を呈する角膜炎を相次いで経験したので報告する.
 症例 1983年秋以降,異物感,充血,羞明,流涙などを主訴として来院した計34症例であり,その臨床像は以下のごとくであった(表1).

眼内灌流液の角膜内皮バリア機能に及ぼす影響 GBRおよびS-MA2による検討

著者: 新家真 ,   松元俊

ページ範囲:P.158 - P.159

 緒言 眼内灌流液は,内眼手術において今や不可欠なものとなったが,眼組織,特に角膜内皮細胞に対する安全性が極めて重要である.従来内皮への影響は角膜膨潤率ないし,内皮細胞面積や組織所見等の形態学的変化を指標として評価されてきた1,3〜5).しかし内皮細胞間の接合状態を反映するbarrier機能は,内皮損傷の程度をより鋭敏に反映すると考えられる1).我々はin vitro角膜灌流下内皮barrier機能評価法を開発し,現在最も傷害が少ないと考えられているGBR2),S-MA24)の2種の灌流液の内皮機能への影響を検討したので報告する.
 実験方法 白色家兎(2.2-2.9kg)を屠殺後ただちに両眼球を摘出,角膜上皮を剥離後perfusion chamber2)にマウントし,上皮側をsilicone oil (Dow CorningMs 200 fluid)で被い,内皮側を37℃で,25μ1/分の割合で灌流した.灌流は両眼同時に行い,常に一方は対照としてGBR,他方はS-MA2またはGBRにて灌流した.なお,各灌流液の組成は表1に示した.灌流開始後約15分の時点でSpecular microscope2)により角膜厚さを測定,silicone oilを吸引除去した後,0.05%のcarboxy fluorescein (CF)溶液を約10秒間実質上皮側に接触せしめた後十分に吸引除去し,再びsilicone oilにて上皮側を被った(図1).

Idiopathic corneal endotheliopathyの1症例

著者: 大橋裕一 ,   真野富也 ,   木下茂 ,   切通彰 ,   大路正人 ,   山本良

ページ範囲:P.160 - P.161

 緒言 一般にヒトの角膜内皮細胞は傷害を受けてその数を減じてももはや分裂することはほとんどなく,もしその数が一定数よりも少なくなると角膜は浮腫に陥る.こうした角膜内皮細胞への傷害は内眼手術,角膜内皮変性症,外傷,角膜ヘルペスなど,種々の原因によって起こる.近年,角膜内皮を場とする炎症が「角膜内皮炎」という概念でとらえ始められており,いくつかの報告も見られる1〜3).今回,我々は原因不明の進行性の角膜内皮傷害により水疱性角膜症を呈するに至った特異な1症例を経験した.
 症例 29歳男性.1984年8月6日初診.3年前に両眼の充血があり近医を受診したところ虹彩炎と診断され,その後2,3回再発したがステロイドの点眼によりそのつど軽快していた.しかしながら,3カ月前の発作では虹彩炎に加えて角膜浮腫が両眼に出現したため某病院眼科に紹介された.角膜ヘルペスとの診断でステロイドを主体とする治療を受けたが軽快しなかった.初診時の視力は右0.2(0.4),左0.3(1.0).瞳孔反応では右眼のMarcus-Gunn現象は陽性であったが,眼球運動には異常を認めなかった.前眼部の観察では右眼に蝶形の大きな角膜浮腫病巣と(図1)それに伴った角膜後面沈着物および(図2矢印)主病巣の周囲に衛星病巣と思われる所見を認めた.左眼にも扇形の同様な角膜浮腫病巣が認められた(図3).前房には炎症所見をほとんど認めなかった.

Nd:YAGレーザー照射による正常角膜内皮障害の検討

著者: 中泉裕子 ,   石樹敏 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.162 - P.163

 緒言 YAGレーザーの出現は眼科治療に新たな可能性をもたらすものではあるが,透明組織をも破壊しうるレーザーの特殊性ゆえその傷害にも注目しなければならない.
 前報1)に続き角膜直接照射による内皮障害の長期観察およびコンタクトレンズ使用下の内皮の間接的損傷につき実験的に検討した.

連載 眼科図譜・339

脈絡膜骨腫の1例—7年間の経過観察

著者: 仁平美果 ,   上野聡樹 ,   松村美代 ,   塚原勇

ページ範囲:P.82 - P.83

 緒言 脈絡膜骨腫についての報告は1978年のGass1)以来すでに40数例を数えるが,その長期的経過について検討した資料は皆無に近い.本症例は,脈絡膜骨腫と診断して報告した症例2)を,その後7年余の長期間にわたって,その経過観察を行ったものである.ここに経過所見を供覧する.
 症例 16歳,女子.左眼の視力低下を主訴として1977年5月2日受診した.初診時視力は,右眼1.5(n.c.),左眼0.7(1,0×0.75D)で,眼圧,前眼部,中間透光体には異常を認めなかった.左眼眼底には視神経乳頭耳下側網膜下に,直径約4乳頭径大のごくわずかに隆起した腫瘤の存在を認めた.腫瘤はなめらかな卵円形でその境界は鮮明であり,中央部では黄白色,辺縁部では燈赤色の色調を呈し,さらに中央部に軽度の色素沈着が認められた.また,病変部および隣接する黄斑部の中央に軽度の続発性網膜剥離が観察された(図1).螢光眼底造影において造影初期より腫瘍の中央部に顆粒状過螢光,さらに後期にかけて病巣部全体に一致したびまん性過螢光という脈絡膜骨腫に特徴的な所見が認められた(本文図1頁183,図2度184).頭部CTにて左眼後極部付近に骨組織とほぼ同密度の扁平な陰影を認め(本文図3頁184),我々はこの症例を脈絡膜骨腫と診断した2)

今月の話題

多発性後極部網膜色素上皮症

著者: 西村哲哉

ページ範囲:P.85 - P.90

 本症は続発性網膜剥離を来す疾患の一つであるが,決して稀な疾患ではない.早期に光凝固を行えば視力予後は良いが,経過が遷延すると光凝固を行っても視力予後は良くない.滲出性網脈絡膜炎や網膜剥離と誤られやすく日常診療において注意すべき疾患である.

最新海外文献情報

網膜の細胞生物学と生化学

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.123 - P.124

Bennet N, Dupont Y : The G-protein of retinal rod outer segments (Transducin). J Biol Chem 260 : 4156-4168, 1985 網膜に到達した光刺激は視細胞のロドプシン(R)を感光し,電気信号として後頭葉に送られる.Rの化学反応と神経の電気反応を仲立ちする蛋白質として三つの単位(αβγ)からなるトランスジューシン(Transducin, T)がある.電気信号,TおよびRの関係を模式的にまとめてみた(図).(1)光刺激によるメタロドプシン(R)増加,(2) RとGDPのついたTの結合,(3) GPDとGTPの交換,(4) TとRの分離,(5) TのTαとTβγへの分離,(6) Tαとフォスホジエステラーゼ(PDEi)の結合,TβγとGTPアーゼ(GTPasei)の結合,(7) PDEiとGTPaseiの活性化(PDE*とGTPase),(8) PDEによる環状リン酸(cGMP)量の減少,(9)視細胞膜の透過性の変化によるCa2+チャンネル,Naポンプを介した電気信号の発生,(10) GTPaseによるGTPの水解,(11) TαとTβγの結合,がサイクルとして動く.このサイクルはロドプシンキナーゼ(RK)によるRのリン酸化で調節される.このトランスジューシン(T)のサイクルはいかにうまく流れるのだろうか.本論文は,光散乱度測定とラベルしたリン酸ヌクレオチドの利用によりサイクルの各ステップのTとメタロドプシン(R),TとGTPあるいはGDPの解離定数を求め,結合親和性を検索したものである.Tはサイクル中では,1)R*が結合してなくてGDPとの親和性が高い,2)R*が結合していてGDPあるいはGTP(特にGDP)との親和性が低い,3)R*が結合してなくてGTPが結合していてフォスポジエステラーゼとの親和性が高い,これらの三つの状態で存在することがわかった。またR*がついてないTと結合したGTPはそのままではGDPと入れ換わらない。これらの事実はこのサイクルが一方通行で,TとR*,GTPあるいはGDPの間の二つの物質の結合親和性がもう一つの物質の結合の有無で変化しサイクルが実に効率よく流れることを示していて,大変興味深い。Tの研究はここ数年で急速に発展したが,今後さらに面白い事実がわかるだろう。

糖尿病性網膜症

著者: 岡野正

ページ範囲:P.124 - P.124

Mosier MA et al : Anterior retinal cryotherapy in diabetic vitreous hemorrhage.Am J Ophthal-mol 100 : 440-444, 1985 増殖型糖尿病性網膜症に高度な硝子体出血が発生すると,その吸収を待つべきか硝子体手術に踏切るべきかの選択に迫られる.出血吸収を待つ間に眼底病変が重篤化することがある一方,硝子体手術にはリスクがともなう.著者らは,網膜冷凍凝固を選択し検討した.
 アルゴンレーザー光凝固をしてあったが硝子体出血があった23人24眼に,周辺部網膜冷凍凝固を行った.4直筋付着部より後方に,ほぼ赤道部部位まで全周に,2〜3列の経強膜的冷凍凝固を置いた.平均9.5カ月観察で,24眼中23眼に硝子体出血の吸収をみた.矯正視力は15眼で向上,4眼で低下した.低下例中3眼は,黄斑部浮腫と牽引性網膜剥離例およびmacular holeであった.

角膜

著者: 樋田哲夫

ページ範囲:P.127 - P.127

Bourne WM et al : Endothelial cell survival on transplanted human corneas presented by organ culture with 1.35% chondroitin sulfate. Am J Ophthalmol 100 : 789-793, 1985Robin JB et al : An Update of the Indications for Penetrating Keratoplasty. 1979 through 1983. Arch Ophthalmol 104 : 87-89, 1986 現在米国のEye Bankで一般に用いられているM-K mediumによる移植用角膜の保存期間は4日が限界とされている.さらに長期の保存を目的とした保存液の開発にとりくみ競いあっているのがK-SolのKaufmanらと本論文のグループである.いずれも保存液にchondroitin sulfateを加えて長期保存を可能にした.chondroitinの保存液への添加は20年前に慶大を中心に研究された.著者らはOrgan cultureの方法を用いて34℃で4週間までの保存を可能にしたが,問題点はテクニックが複雑なこと,calf serum即ち抗原性のある蛋白を含んでいること,保存中の角膜の浮腫が著明なことなどである.本論文ではM-Kmediumに最長81時間保存した角膜と,本法で最長33日間保存した角膜の移植例各30例の術後2カ月の内皮損傷の程度を比較した結果,有意差を認めなかったと述べている.このような長期保存が可能になると,日本でも眼球銀行組織に種々の変革が必要になると思われる.

臨床報告

千葉県広域調査によるスギ花粉浮遊量とアレルギー性結膜炎の相関

著者: 菅井めぐみ ,   棚橋雄平 ,   山下晃 ,   河本道次 ,   佐橋紀男 ,   大本太一

ページ範囲:P.165 - P.168

 1982年1月より1985年4月までに千葉県内眼科医を受診したアレルギー性結膜炎と思われる患者3,744名を集計し,千葉県におけるスギ花粉飛散量と比較・検討を行った.男女比は2:3と女性に多く,年齢別では20歳未満に多く,花粉飛散状況と一致した受診状況がみられた.従来花粉症は男児と30歳台の女性に多いと報告されていたが,今回の我々の調査でも20歳未満に多く,また30歳台にも比較的多くみられ,花粉症を含むアレルギー性結膜炎については学校保健の面からもその予防,治療について検討すべき点があると思われた.

網膜色素変性症と緑内障

著者: 武市吉人 ,   山根淳志 ,   加藤直子 ,   山岸和矢 ,   板垣洋一 ,   三木弘彦

ページ範囲:P.169 - P.172

 1984年12月までの3年間に関西医科大学眼科を受診した網膜色素変性症患者138例中,緑内障を合併したのは9例あった.その合併率は6.5%であり,全人口の緑内障発生率より約10倍の高頻度であった.
 緑内障は,原発性閉塞隅角緑内障6例,原発性開放隅角緑内障2例,続発性開放隅角緑内障1例であって,閉塞隅角縁内障の合併が特に高度であり,40歳代の比較的年齢の低いものにもみられた.
 眼圧正常な網膜色素変性症患者92例の前房隅角検査を行うと狭隅角が多い傾向があり,これが網膜色素変性症に閉塞隅角緑内障の合併が多い原因と思われた.
 網膜色素変性症に合併した緑内障の眼圧コントロールは薬物療法並びに手術療法で比較的容易にコントロールできた.

結節性硬化症100例からみた眼底腫瘤の頻度に関する考察

著者: 桐渕和子 ,   伊藤景子 ,   内田幸男 ,   福山幸夫 ,   丸山博

ページ範囲:P.173 - P.176

 結節性硬化症160例の眼科的精査を行い,眼底腫瘤の大きさと数により算定した眼底scoreを用いて検討したところ,眼底腫瘤が従来の報告より高頻度(87%)に合併し,診断の遅れが著明な不全型例の早期診断に極めて有用なことを示し,た.

Terrien's marginal degenerationに対する表層角膜移植

著者: 渡辺仁 ,   渡辺晶子 ,   木下茂 ,   下村嘉一 ,   濱野孝 ,   大橋裕一 ,   西田輝夫 ,   須田秩史 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.177 - P.181

 Terrien's marginal degenerationの3症例に対し,いささかの工夫を凝らし表層角膜移植術を行った.術後全症例で透明治癒し,また角膜の変形も矯正でき,視力の向上を認め,術後各1年,7年8カ月,2年2カ月経ているが,再発もおこらなかった.術前,術後にわたりphotokera-toscopeを用い角膜の形状をとらえ,術前形状変化をきたしていた角膜も,表層角膜移植術の結果,角膜の変形が矯正されていた.また,Terrien'smarginal degenerationに対する全層あるいは表層(全表層または周辺部)角膜移植術の選択,手術時期について考察を加えた.

脈絡膜骨腫の長期経過観察

著者: 仁平美果 ,   上野聡樹 ,   松村美代 ,   塚原勇

ページ範囲:P.183 - P.187

 われわれは脈絡膜骨腫の1症列の7年間にわたる経過観察を行い,その結果次のような知見を得た.(1)眼底所見上,腫瘍は7年間で約4倍に拡大したが,その増大率は時間的に決して一定ではなく,腫瘍の増大がほとんどみられない時期も認められた.(2)初診当時卵円形であった腫瘍はその後不規則な方向に増大する傾向を示し,7年後には本腫瘍の特徴の一つとされている地図状の形状を呈するにいたった.(3)螢光眼底造影では初診時には本腫瘍の特徴とされる造影早期よりのびまん性過螢光を示すのみであったが,7年後には造影後期まで低螢光を示す部やあるいは造影後期になってはじめて顆粒状過螢光を示す部など,部位によりさまざまな所見を呈した.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.182 - P.182

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います.
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います.

網膜裂孔発見のためのポイント集(2)

網膜剥離のタイプとその特徴(2)

著者: 桂弘

ページ範囲:P.188 - P.189

 前回は高年者と若年者の網膜剥離および裂孔の特徴について述べたが今回は黄斑裂孔,無水晶体眼,鋸状縁断裂に伴う網膜剥離の特徴と裂孔発見のために参考になるポイントについて述べる.

文庫の窓から

施里島私眼科書と施里烏斯眼科全書(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.190 - P.191

 19世紀の前半ドイツ外科学界の中心的人物と言われたセリウス(Maximilliam Joseph vonChelius−1794〜1876)の著書,いわゆるセリウス外科書(Handbuch der Chirurgie, zum Gebrauchbei seinen Vorlesungen)が1822年〜23年の初版以来1857年までにおよそ8版を重ね,11カ国語以上に翻訳され,ドイツを初め広く流布した教科書であった(順天堂史,上巻87頁)ことは周知の通りである.わが国ではその蘭訳本—Leerbookder Heilkunde naar dezeutigabe vertaaldenvermeerderd door.Pool GJ, Amsterdam,1830〜1832,が佐藤舜海(幼名,竜太郎,諱,尚中,字,泰卿,号舜海,笠翁−1827〜1882)らにより翻訳され,「瘍学全書」として知られる.セリウスは1819年以後,彼の母校であるハイデルベルク大学の外科の正教授をつとめ,同地の外科眼科教室を創始して,その名声を大いに高からしめた人であると伝えられ,眼科学にも大変長じていて,その著,Handbuch der Augenheikunde (2巻)が1839〜44年にスツッツガールトで出されたといわれている.

Group discussion

地域予防眼科

著者: 小暮文雄

ページ範囲:P.192 - P.194

 本年の地域予防眼科GDは『学校保健』の問題を中心に話題が取り上げられた.
 1席は『学校保健における色覚検査のあり方について』との題で名古屋市学校医会の高柳他による発表があった.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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