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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻3号

1986年03月発行

雑誌目次

特集 第39回日本臨床眼科学会講演集 (2) 学会原著

臨床検査としてのimpression cytologyとその角結膜疾患への応用

著者: 大路正人 ,   切通彰 ,   木下茂 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.209 - P.212

 Impression cytologyにおいて用いるcel-lulose acetateのfilter (MILLIPORE®以下フィルター)に対して滅菌操作〔滅菌(-),EOG,γ線,オートクレーブ〕が及ぼす影響について検討した.フィルターへの結膜上皮の平均接着率は,滅菌(-)の群71.1%,EOG群58.3%,γ線群40.1%,オートクレープ群0.7%であった.それぞれの群のPAS+ヘマトキシリン染色の染色性には差異は認められなかった.オートクレーブにより滅菌したフィルターは他の3群のものと比較し,破損しやすい傾向があった.以上より,臨床検査として用いるのは,EOG滅菌したフィルターが最も望ましいと考えられ,臨床検査に使用し,角結膜疾患の上皮の状態を知りえた.

老人性円板状黄斑変性症のクリプトンレーザー光凝固による治療成績

著者: 板垣隆 ,   大熊紘 ,   宇山昌廷

ページ範囲:P.213 - P.216

 当科にてクリプトンレーザー光凝固にて治療を行った老人性円板状黄斑変性症患者43例44眼の凝固後の経過を観察した.治療成績は病型によって異なり,漿液性網膜剥離型が最も良く,網膜下結合織形成型,網膜下嚢腫型は光凝固を行っても悪化する症例が多かった.クリプトンレーザー光凝固は,特に中心窩に近接する部の網膜下新生血管網を凝固閉塞するのにアルゴンレーザー光凝固よりも有効であった.しかし,進行例では光凝固を行っても悪化する例が多いので,本症に対する治療は漿液性網膜剥離を主病像とし,まだ結合織増殖の少ない初期のうちに診断し,螢光眼底造影にて証明された新生血管網を十分凝固することが必要と思われた.

フリーランニングモードNd:YAGレーザー眼底光凝固の黄斑部視機能に及ぼす影響

著者: 横山利幸 ,   沖坂重邦 ,   簗島謙次

ページ範囲:P.217 - P.221

 老人性黄斑部変性症4症例7眼を含む血管新生黄斑症5症例8眼にフリーランニングモードNd:YAGレーザー光凝固を施行し,視力検査,眼底検査,螢光眼底造影,自動静的視野計により光凝固の治療効果と黄斑部視機能に及ぼす影響を検討した.
 弱度,中等渡凝固ともほぼ同程度の網膜下新生血管閉塞効果を認めた.中等度凝固では光凝固による網膜感度の低下が強くみられたが,弱度凝固では1カ月後には光凝固の影響はほぼ消失していた.
 治療効果の判定には,なお長期間の経過視察が必要であり,照射条件についてもさらに検討を加える必要があるが,今後血管新生黄斑症の治療として試みられても良い方法であると思われた.

ヒト涙液ライソゾーム酵素活性,特にリゾチーム活性に対するアミノ配糖体抗生物質の影響

著者: 塩野貴 ,   早坂征次

ページ範囲:P.222 - P.223

 ヒト涙液中のライソゾーム酵素であるリゾチーム,酸フォスファターゼ,N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ活性に対するアミノ配糖体抗生物質の影響を検討し,以下の結果を得た.用いたアミノ配糖体抗生物質はすべてリゾチーム活性を阻害したが,他酵素に対してはベカナマイシンを除いては活性に影響は認められなかった.一方他種の抗生物質であるサルベニシリンとエリスロマイシンは,これらの酵素活性をほとんど阻害しなかった.以上のことから,アミノ配糖体抗生物質のリゾチームに対する阻害作用は特異的であり,したがって外眼部感染症の予防を目的とした点眼は,結膜嚢の自浄作用にとって,重要なリゾチーム活性を阻害しないアミノ配糖体以外の抗生物質の使用が望ましいと思われた.

シェーグレン症候群における涙液β2-microglobulinについて

著者: 鈴木君代 ,   大谷浩子 ,   植田達子 ,   北野周作

ページ範囲:P.225 - P.228

 シェーグレン症候群患者の涙液β2-mi-croglobulin濃度を測定した.シェーグレン症候群患者の涙液β2-microglobulin濃度は18.99±7.73mg/lであり,正常人の10,61±3.90 mg/lに比べ有意に上昇していた(P<0.05).涙液鳥β2-micro-globulin濃度の測定は,シェーグレン症候群の診断において有用であり,涙腺組織への細胞浸潤を反映すると考えた.

成人型封入体性結膜炎の臨床疫学とクラミジア各種検出法の比較

著者: 青木功喜 ,   丹田均 ,   田畑浩一 ,   諸星輝明 ,   沼崎啓 ,   千葉峻三 ,   中尾亨

ページ範囲:P.229 - P.232

 眼科,泌尿科および婦人科外来でクラミジア感染を疑った114名の患者について,分離培養(Cycloheximide処理McCoy cell),直接蛍光抗体法(Micro Trak),プロパツェツク小体(Giem-sa染色)によって病因的検索を加えた.陽性率は47%であり組織培養41%,蛍光抗体法32%,ギムザ染色14%であった.その陽性者は男:女=21:8と男が多く,尿道炎,前立腺炎,子宮頸管炎などの既往歴のある群が71%で対照の37%より多かった.患者の主訴は,眼脂と充血が片眼にみられ,16歳から25歳までの若年層が10例56%と多いのが注目された.結膜炎は急性濾胞性結膜炎の所見で始まり,濾胞は3カ月以降には減少,乳頭増殖を示していく傾向がみられた.鑑別診断としては流行性角結膜炎が大切であり,2週間経っても軽快傾向を示さず,片眼のまま経過する濾胞性結膜炎にはクラミジア感染を考慮する必要がある.

新潟大学眼感染症クリニックにおける検出菌(1980年〜1984年)

著者: 坂上富士男 ,   大桃明子 ,   大石正夫

ページ範囲:P.233 - P.238

 1980年より1984年に新潟大学眼感染症クリニックを受診した愚者1,448名を対象として,菌の検出ならびに主要検出菌の薬剤感受性を検査した.その結果以下のような成績が得られた.
(1)2,009株が分離され,Gram陽性球菌が1,120株(55.7%),Gram陰性桿菌が389株(19.4%)であった.Staphylococcus epidermidisが最も多く検出されGram陽性球菌の63.3%を占めた.Gram陰性桿菌では非発酵菌が52.7%と最多であった.
(2)薬剤耐性では,PCG耐性Staphylococcus aureusが毎年高頻度に見られたがMCIPC耐性株も1983年より出現した.MCIPC耐性のS.epider-midisは近年増加傾向にある.Pseudomonas aer-uginosaはABPC,CEPsに高度耐性株が多いが,GMやCLに耐性の株も出現してきた.非発酵菌ではDOXY耐性株が1984年より出現し,GM耐性株も増加してきている.これらの動向をふまえて,今後の眼感染症化学療法を考えていく必要がある.

ヒト結膜濾胞のリンパ球サブセット

著者: 田川義継 ,   斉藤学 ,   小阪貴 ,   竹内勉 ,   松田英彦 ,   高見剛 ,   菊地浩吉

ページ範囲:P.239 - P.242

 5例の濾胞性結膜炎患者より生検した結膜濾胞を用い濾胞を構成するリンパ球について検討した.(1)濾胞の中心は細胞表面にIgM・IgDをもつ幼若なB細胞が主体であった.(2) B細胞領域の周囲はT細胞が主体で,helper/inducer T細胞が多くみられた.(3)結膜上皮下にT細胞・形質細胞がみられ,形質細胞の多くはIgA保有細胞であった.結膜上皮細胞に分泌型IgAのsecre-tory componentをみとめた.(4)結膜上皮層ではランゲルハンス細胞およびsuppressor/cytotoxic T細胞が主要な免疫系細胞であった.
 以上より,結膜濾胞は眼球表面における抗原刺激に対しB細胞が抗体産生細胞へ分化する場であり,結膜における分泌型IgAの産生に重要な役割をはたすと推測された.

学術展示

Soft contact lens装用による角膜潰瘍の2例

著者: 小島道夫 ,   小川健次

ページ範囲:P.250 - P.251

 最近soft contact lens (以下SCL)装用患者で日和見感染による角膜潰瘍が報告されている.今回白内障嚢内摘出術後,抗生剤やステロイド点眼を受けた眼で,stfaphylococcus epidermidisによる辺縁性角膜潰瘍でパンヌス形成と角膜菲簿化が特長的であった1例とSerratia marcescensによる散在性小円形斑状の浅い角膜潰瘍を生じた1例を経験したので報告する.
 症例 1:SS,60歳の主婦.5年前より掌蹠膿疱症あり.1年4カ月前右眼の白内障嚢内摘出術を受け,術後燐酸ベタメタゾン・ナトリウム点眼とスルベニシリン・ナトリウム点眼を受けた.1年1カ月前から右眼にSCL装用.1985年1月27日初診時右角膜輪部の8時から2時にわたる辺縁性角膜潰瘍を認めた.この角膜潰瘍は図1に見るように蚕食性角膜潰瘍に似て,輸部の浸潤がunderminedの状態を呈しており,パンヌスは認められず,視力は右=0.02(0.5×+11.0D)だった(図1).エリスロマイシン点眼,コリスチン点眼にもかかわらず,角膜浸潤は改善せぬばかりか2週間後には図2に見るように求心性口舌状に拡大し,パンヌスは認められず,視力は右=0.01(0.04×+11.0D)と悪化したので入院させた(図2).

白内障術後の屈折矯正としてのBreath-O®連続装用250名アンケート調査

著者: 小山秀康 ,   矢島保道 ,   沖坂重邦 ,   江島照夫 ,   坂野賢次 ,   山口節子

ページ範囲:P.252 - P.253

 緒言 人口の老齢化に伴い,白内障手術を受ける患者数は増加してきている.したがって白内障手術後の視力矯正方法によっては余命の社会活動に大きな影響を与えるだろうことは十分に想像できる.このことは術後の視力矯正方法が従来の眼鏡およびHCLから長期連続装用SCL,人工水晶体へと変化してきたことと一致している.この中で長期連続装用SCLによる術後矯正方法が実際,無水晶体眼患者にとって満足しうる矯正手段かどうかを検討するのにアンケート調査を試みた(表1).
 方法 1979年8月より1985年1月まで防衛医科大学校病院眼科で白内障手術を受けた980名のうちBreath-O®を装用可能であった510名に対して,無作為に選んだ250名のアンケート調査を行い,回答の得られた180名について分析処理した.なお,当院でのBreath-O®の処方方式は,白内障術後1週間目に装用し,その後1カ月間は,1,2週間に1度の割合で前眼部検査,SCLの洗浄を行い,以後1カ月間隔に来院してもらい眼症状の安定した3〜6カ月の間にスペアレンズを作製し2カ月毎の検査来院時に交替で装用する.この間,一方の未使用のSCLは特殊クリーナー処理後,煮沸消毒し,レンズの汚れ,付着物,蛋白除去を行うこととしている。また,装用中の患者には感染予防のために抗生物質の点眼を併用している.

後円錐水晶体の1例

著者: 鈴木一作 ,   浜井保名 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.254 - P.255

 緒言 後円錐水晶体は,水晶体後面が円錐状,または半球状に隆起した形態異常で,比較的稀な疾患である.最近我々は,後円錐水晶体の1例を経験し,組織学的に検索する機会を得たので報告する.
 症例 47歳,男性.

先天性白内障の水晶体蛋白合成異常

著者: 田淵昭雄 ,   池田章 ,   三島昇

ページ範囲:P.256 - P.257

 緒言 老人性白内障に比して,先天性白内障の原因を探る目的で水晶体蛋白を生化学的に分析した研究は極めて少ない.今回,先天白内障手術により得た水晶体組織を免疫化学的に分析したところ,先天性白内障の原因を考える上で興味深い水晶体蛋白合成異常を示す所見が認められたので報告する.
 方法 症例はすべて両眼性先天性白内障の例で,手術時年齢が,1歳から13歳の男児3名(4眼)および女児5名(6眼)の,計8名(10眼)である.表1に,症例を手術時年齢順に並べ,さらに水晶体資料番号(lens number),性別,手術時と眼科的診断時の年齢,および白内障の型について示した.白内障の型は,完全白内障が症例1,2の2名(2眼),核性白内障が症例3,4の2名(3眼),そして前,後嚢下白内障および層間白内障を含めた皮質白内障が症例5,6,7,8の4名(5眼)であった.

Aldose reductase阻害剤(M-79175)の実験的長期糖尿病眼合併症に対する効果

著者: 赤木好男 ,   池部均 ,   高橋幸男 ,   宮谷博史 ,   吉川隆男 ,   糸井素一 ,   小野英樹

ページ範囲:P.258 - P.259

 緒言 ラット糖白内障の起因酵素がAldosereductase (AR)であることが確立されて以来,ヒト糖尿病性眼合併症に対する新しい治療薬としてAR阻害剤(ARI)が注目されている.しかし,ヒト臨床治験効果判定の複雑・困難さを考えると,動物実験でその効果を十分把握する必要がある.本研究は1年という長期実験的ラット糖尿病に対するARIの効果を形態学的に調べ,その有効性を知ることが目的である.
 方法 体重約200gのSD系ラットにstreptozo-tocin (50mg/kg)を尾静脈から投与し,その半数にはARI (M-79175,エーザイ)を混餌投与した.1年経過時の血糖平均値(mg/dl)は正常対照群,糖尿病群,糖尿病ARI投与群でそれぞれ101,569,510であり,各群7匹ずつ観察した.水晶体は型通り試料を作成し,光顕的観察とAR局在を知るための免疫組織化学的観察(PAP法)を行った.網膜は網膜血管トリプシン消化標本を作成し観察した.

Aldose reductase阻害剤(E-1008,ONO-2235)のガラクトース白内障に対する効果(その2)

著者: 田坂宏 ,   中路裕 ,   田村邦嘉 ,   赤木好男

ページ範囲:P.260 - P.261

 緒言 近年ヒト糖尿病合併症に対する新しい治療薬としてAldose reductase阻害剤(以下AR阻害剤)が注目され,近い将来日常臨床に用いられることが期待されている.現在研究中のAR阻害剤には各々特性がみられるため,糖尿病合併症別に,薬剤の種類,投与方法を動物実験で十分検討した上で,薬剤を選択投与することが大切であると思われる.本研究では,Polyol-osmotic説により,ラット糖尿病白内障と同じ発生機序をもつとされる,ラットガラクトース白内障を用いて,白内障形成の各時期の組織化学的所見と,AR阻害剤であるONO-2235とE-1008投与による白内障発生抑制効果を組織学的および免疫組織化学的に検討した.
 実験方法 実験には体重50gのSprauge-Dawley系ラットをガラクトース含有食で2〜21日間飼育し,AR阻害剤(0.2%,0.5%ONO-2235含有飼料投与,E-1008両眼点眼および片眼への投与)の投与を行った.

白内障術後の前房内浮遊物数の推移

著者: 小室優一 ,   松元俊 ,   新家真 ,   宮田和典

ページ範囲:P.262 - P.263

 緒言 眼内炎症,特に術後炎症の客観的把握は手術方法の検討,各種消炎剤の選択等に際して極めて重要である.従来の前房内術後炎症程度の判定は,前房中フレアーおよび浮遊細胞数を,験者が細隙灯顕微鏡観察下に定量分類するものであり,客観性に乏しいという欠点があった.我々は第88回日眼総会において,前房内浮遊物数自動計測装置を開発し発表した1).今回本装置を用いて白内障術後眼における眼内炎症程度の時間経過を,前房内浮遊物数を経時的に計測することにより客観的に観察することができたので報告する.
 方法 我々の開発した前房内浮遊物数自動計測装置1)を用いた.本装置は細隙灯によって前房内に作られる光切片内の浮遊物からの微弱な反射光をimageintensifierおよび高感度TVカメラによりTV信号化し,この信号を画像解析装置を用いて,前房内フレアーおよび,散乱光によるノイズの除去を行い,前房の一定体積中の直径4.2μm以上の浮遊物数を計測する装置である.本装置の光路図と全体像を図1,2に示す.

後発白内障の臨床的統計的観察

著者: 西興史 ,   植村恭子 ,   高田明子 ,   西素子 ,   山本京子 ,   松岡尚子

ページ範囲:P.264 - P.265

 眼内レンズ(IOL)挿入眼と非挿入眼における後嚢混濁発生の臨床的統計的観察を行った.対象は1979年6月〜1983年9月までKPEまたは計画的ECCEで手術し,follow-upできた733眼(内IOL 225眼)中,手術またはYAGレーザー切開を要した中央部の後嚢混濁である.
 臨床的に問題となったのは,水晶体上皮増殖による後嚢混濁で,線維性増殖とElschnig'pearls1,2)が観察された.Soemmerring輪状白内障のように大量の残留皮質による後発白内障は見られなかった.

YAGレーザーによる水晶体前嚢切開時の水晶体変化について

著者: 富田真美 ,   矢部京子 ,   中村悦子

ページ範囲:P.266 - P.267

 緒言 水晶体嚢外摘出術の前処置として,すでにYAGレーザーによる前嚢切開が,臨床に応用されている(図1).切開は十分な大きさが得られ,しかも水晶体内部および周囲組織には破壊作用が及ばない照射エネルギーを検討して行うべきである.そこで人眼において,種々の条件で前嚢切開を行い,特に照射エネルギーの違いによる切開創の形状および水晶体実質の破壊状態を比較するために,走査型電子顕微鏡にて観察した.
 方法 装置はQ-switch Coherent System 9900YAG Ophthalmic Laserを使用した.水晶体全摘術施行予定5例5眼に,執刀約1時間前にミドリンP®にて極大散瞳のうえ,PeymanワイドフィールドYAGレーザーレンズを用いて行った.パルス数は1に固定し,エネルギーを1〜3mJと変えて,瞳孔領約1mm内側の6時方向に1発,切開を行った.

眼内レンズ移植における早期離床および外来手術の試み

著者: 鈴木高遠 ,   枝川宏 ,   本田宗治 ,   青柳睦美

ページ範囲:P.268 - P.269

 現在,米国においては眼内レンズ移植を含む白内障手術は既にその大多数が外来で行われており,医療制度の相違,人種的な差を考慮してもなお,本邦にても内眼部外来手術は可能であると思われる.
 演者らのうち,鈴木,本田,青柳は本年6月に内眼部手術を対象とした外来手術用診療所を開設したが,これに先立ち,安全性と有効性の検証のために,1週間程度の入院群,早期退院群,および外来手術群につき術後成績の比較と問題点の検討を行い若干の知見を得たので発表する.

連載 眼科図譜・340

膠原病の強角膜穿孔に対する周辺部表層角膜移植

著者: 大路正人 ,   切通彰 ,   木下茂

ページ範囲:P.202 - P.203

 緒言 膠原病は,眼科的にも角膜潰瘍や網膜出血などの種々の病変を引き起こすことが知られているが,膠原病のうちWeber-Christian病1)が疑われている症例の強角膜穿孔に対して,周辺部表層角膜移植術を施行した.
 症例 13歳の女性で6年前よりWeber-Christian病の診断にて某病院眼科および小児科で経過観察されていた.1980年頃より時々結膜の充血がおこり,強膜炎の診断を受けていた.1982年,両眼角膜の周辺部に混濁および新生血管が生じてきた.1984年8月強い右眼痛を訴え眼科受診したところ,右眼は角膜輪部1時の位置に虹彩脱出を伴った強角膜穿孔を生じていたので,穿孔部に結膜被覆が施行された.しかし,約1カ月後には虹彩の膨隆が著明となったため,当科に紹介された.初診時視力は右=0.1(0.6),左=0.2(1.2)で,右眼は1時の位置の角膜輪部に虹彩の著明な膨隆を認め,さらに角膜輪部全周より新生血管の進入が認められ,周辺部の角膜実質はやや菲薄化して脂質の沈着が全周に認められた(図1).左眼には角膜穿孔はなかったが,右眼と同様に新生血管の進入,角膜実質の菲薄化,脂質の沈着が認められた(図2).1984年9月8日右眼の強角膜穿孔に対して,周辺部表層角膜移植術を施行した.手術は膨隆した虹彩の周囲に直径7.5mmのトレパンにて印をつけ被覆結膜を切除し,周辺部角膜および強膜を半層に切除した.

今月の話題

眼のアルカリ腐蝕

著者: 白井正一郎

ページ範囲:P.205 - P.208

 アルカリ腐蝕では,初期医療が非常に重要で,予後にも重大な影響を与える。アルカリ損傷のメカニズムを理解した上で,アルカリの作用時間を短くすることに全力をあげ,二次的障害をできるだけ予防,軽減することが治療の原則である.
 薬物による眼腐蝕は,発生頻度はそれほど高くはないものの,眼科的救急医療の代表的疾患の一つであり,初期救急医療が非常に重要である。特にアルカリによる損イ易は,糸且糸哉深達'1生が強く,腐蝕も長期間にわたり進行し,弄後不良な経過をたどることが多いので,通常からト分な知識を養い,いつでも対処できるように心がけておかなければならない。

最新海外文献情報

ぶどう膜,他

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.246 - P.247

O'Connor GR : Heterochromic iridocyclitis. Trans Ophthalmol Soc UK 104 : 219-231, 1985 虹彩異色性虹彩毛様体炎は日本人のようなbrowneyeでは見逃されやすいが,著者は本病の臨床像の特徴を詳細に解説している.そして従来知られていた所見に加え,(1)虹彩実質および色素上皮の萎縮,(2)不鮮明な虹彩紋理,(3)瞳孔散大または不正円化,(4)前部硝子体中の少数の炎症細胞,の四つの所見を新たにあげている.本病患者の局所hypoxiaは螢光虹彩所見により明らかにされているが,これが新生血管の原因であると同時に,本病の病因に深く関与している可能性を述べている.本病が炎症ではなく変性ではないか,との考えに対しては,光顕および電顕所見から,やはり炎症であるとの立場を明確にし,抑制T細胞の機能低下による免疫異常の関与を示唆している.治療は通常ステロイドが無効であり,白内障や緑内障の合併が問題となる.白内障の手術成績は良好であるが,緑内障は難治性で手術も奏効しない例がある.今後さらに研究すべき興味深い疾患である.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.249 - P.249

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います.
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います.

臨床報告

トキソプラズマ眼症の統計的考察—病因曝露年齢の推定と炎症寛解期間の時系列解析

著者: 伊佐敷靖 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.271 - P.274

 トキソプラズマ眼症による急性滲出性炎症を示した71例を対象として,発病年齢および炎症寛解期間を調査し,集計資料を統計分析した.発病年齢は10〜20歳まで急に立ち上り,以後はゆるやかに下る,正のゆがみをもつ分布曲線を示した.発病年齢分布資料を潜伏期理論にもとづいて分析すると,病因曝露年齢はほぼ零歳と推定され,病変が先天感染に起因することが証明された.約半数の症例で急性炎症はさまざまの寛解期間をおいて繰り返された.寛解持続期間は1〜2年が最も多く,それ以後はしだいに少なくなった.この時系列事象は初期不良型のワイブル分布で記述可能なことが明らかにされた.再発危険率は数年までは高いが,10年を過ぎるとほとんど無視しえるとみなしてよい.

裂孔原性網膜剥離(赤道部網膜裂隙型)における潜伏期の時系列解析

著者: 永迫文代 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.275 - P.278

 裂孔原性網膜剥離の潜伏期を時系列事象として統計分析した.有水晶体,非外傷性で赤道部網膜裂隙に起因した網膜剥離を発病した成人76例について,前駆症状(飛蚊症,光視症)発現から網膜剥離症状(周辺部視野異常)発現までの間隔を観察した.潜伏期分布はワイブル確率紙で直線回帰され,発病率が単調に減少する初期不良型ワイブル分布を示した.前駆症状発現後,10日,30日までにそれぞれ50%,90%が網膜剥離を発病するとみなすことができた.

水晶体嚢性緑内障に対するレーザー隅角形成術の効果

著者: 上野脩幸 ,   玉井嗣彦 ,   野田幸作 ,   岸茂 ,   植田葉子 ,   竹村恵 ,   割石三郎 ,   北川康介 ,   織田あおい ,   町田照代

ページ範囲:P.279 - P.283

 薬物コントロール不良の水晶体嚢性緑内障眼33例34眼(年齢54歳〜85歳(平均70.9歳))にlaser trabeculoplasty (LTP)を施行し3カ月〜3年9カ月(平均11.8カ月)の経過観察を行い有効性を検討した.LTP後成績は著効27眼(79.4%),有効4眼(11.8%)で両者を合せると31眼(91,2%)が成功と判定された.成功例ではLTP後,いずれの観察時期においても高度に有意(P<0.001)の眼圧下降が得られた.なかでも12カ月目の,差の平均値±標準偏差は−16.4±6.4mmHgと最大であった.LTP前眼圧の高いもの(30mmHg≦)ではLTP後の眼圧下降幅(17.0±7.7mmHg (標準偏差))は最大を示し成功率(92.3%)も高かった.隅角線維柱帯の色素沈着の強いもの程,LTP後の眼圧下降が著明であった.LTP後のトノグラフィーC値は,LTP前に比べ高度に有意(P<0.001)の改善がみられた.
 重大な合併症はなく,本症に対するLTPの有用性が示唆された.

糖尿病透析患者における網膜症の検討

著者: 池田誠宏 ,   佐藤圭子 ,   三木徳彦 ,   森井浩世 ,   井上隆

ページ範囲:P.285 - P.287

 透析療法中の糖尿病患者45例90眼について,主に網膜症についての検討を加えた.腎不全に陥った糖尿病患者の網膜症は進行したものが多く,特に透析導入1年未満に活動性の網膜症を有する症例が多く見られた.一方,透析期間2年以上の症例では,網膜症は安定していた.以上より,透析開始2年未満の時期には,螢光眼底血管造影,また光凝固術など,眼科的に適切なる処置を速やかに行う必要があると考えられた.また,透析導入時期に関しては,今後眼科的な視点からも検討の必要があると思われた.

サルコイド性ぶどう膜炎患者のEpstein-Barrウイルス抗体価

著者: 新井一樹 ,   砂川光子 ,   詹宇堅 ,   沖波聡

ページ範囲:P.293 - P.296

 京大病院眼科ぶどう膜炎外来に通院中のサルコイド性ぶどう膜炎患者23名(前部ぶどう膜炎患者7名,全ぶどう膜炎患者16名)眼症状のないサルコイドージス患者13名および対照健康人144名について,血清Epstein-Barr (EB)ウイルス抗体価を測定した.抗Early-Antigen抗体の抗体上昇例(抗体価≧20)出現率,および抗体価の幾何平均とも,前部ぶどう膜炎患者群では対照健康人群よりP<0.001で有意に高値を示した.また有意差は認められなかったが,全ぶどう膜炎患者群と比べても高値を示した.抗Viro-Capsid-Antigen抗体価,抗EB Virus Nuclear Antigen抗体価の幾何平均は前部ぶどう膜炎患者で全ぶどう膜炎患者と比較し高値を示し,先に報告した一般のぶどう膜炎と同じパターンを示した.EBウイルスに対する免疫反応において,サルコイド性ぶどう膜炎患者群における前部ぶどう膜炎患者群と全ぶどう膜炎患者群とは,全く異なった抗体価のパターンを示したことから,一般のブドウ膜炎と同様にサルコイド性ぶどう膜炎においても両者の間には免疫応答に相異があるのではないかと考えた.

網膜裂孔発見のためのポイント集(3)

網膜剥離の範囲と裂孔の位置(1)

著者: 桂弘

ページ範囲:P.288 - P.289

 網膜剥離の範囲,言い換えればその進行様式は,裂孔の位置およびタイプ,網膜下液の重力による移動性および体位,そして,乳頭,鋸状縁,瘢痕などの網膜脈絡膜間の癒着といった解剖学的限界によって決まってくる.したがって,逆にいえば,網膜剥離の範囲から裂孔の位置を予想することができる.LincoffやSchepensがわかりやすくまとめているが,そこには一つのルールがあり,これを知っておくと裂孔を発見する上で大きな助けとなる.大部分の症例はこのルールにあてはまるので,剥離の範囲がわかれば自ずと裂孔のある場所がわかってくることが多い.したがって,最初から周辺部に裂孔を捜すのではなく,まず,剥離の範囲を把握することが大切である.また,どうしても裂孔が発見できない場合,剥離の範囲から裂孔のあるべき部位が予想できれば手術の方法を決定する上で大きな助けとなる.さて,そのルールについて,Lincoffらのものに若干の私見をまじえて次に述べる.なお,剥離の範囲が狭ければこのようなことをとりたてていうことはないわけで,ここで述べるのは,少なくとも1象限以上剥離している場合である.

文庫の窓から

施里烏私眼科書と施里烏斯眼科全書(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.290 - P.291

 この両書の内容は各章の説明等一様ではないが,およそ病論・病因・治療・予防・予後・近因・誘因その他にわたって論じられている.その目次から各章の項目を列挙すると以下の通りである.
施里烏斯眼科全書治療篇

Group discussion

ぶどう膜炎

著者: 佐々木一之

ページ範囲:P.297 - P.300

1.眼内炎に対する消炎剤のロイコトリエンC4,5HETE遊離抑制からみた評価
              藤原久子(川崎医大) 家兎にegg albuminによるアレルギー性結膜炎(I型アレルギー反応)を発症させたところLTC4が合成されることをHPLC,RIAにより明らかにした.さらに,LTC遊離抑制の測定により各種抗アレルギー剤の効果について検討を行いメキタジン,ザジテンはほとんど効果を示さなかったのに対してクロモグリク酸ナトリウム,トラニラストでその効果を認めた.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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