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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

特集 第39回日本臨床眼科学会講演集 (5) 特別講演

糖尿病性増殖網膜症の予知と治療に関する研究I—糖尿病性増殖網膜症の局所療法改善に関する研究

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.575 - P.579

 増殖化した糖尿病性網膜症の進行を阻止し,失明を防止する手段として今日最も高く評価されている網膜光凝固療法と硝子体手術療法との治療成績と,全身ならびに局所の諸因子との関係を検討し,いずれも早期実施が治療成績を向上させる有力手術であるという結論を得た.すなわち光凝固療法においては,コントロールの改善のほか,増殖前期(著者分類BI)に実施すれば97%の進行阻止効果が得られること,硝子体手術においても硝子体混濁のみの病期では74%の視力改善率,視力の決定的低下により3カ月以内であれば87.5%の視力改善率が得られることを知った.また前者では凝固斑数を徒らに多くすることが,治療成績をあげる結果とは結びつかず,光凝固例に羞明,暗順応障害の発生率が高いことも明らかとなり,今後のこれらの治療成績向上への対策を確立するに有用な結論が得られた.

虚血性前部視神経症

著者: ,   難波克彦

ページ範囲:P.581 - P.587

 虚血性前部視神経症(AION)は中年以後にしばしば起こる視力障害の原因の一つである.後毛様動脈循環は視神経乳頭の血流の大半を占め,これは個人間で非常に大きな差がある.疫学上また病因論上AIONの症例は以下の二つに大別される.グループAは後毛様動脈または視神経の栄養動脈の血栓または栓塞による閉塞によるもの.グループBは視神経乳頭の栄養血管の一過性の灌流途絶または灌流不全によるものである.
 典型的な臨床像を有する症例では本症の診断は通常簡単である.ほとんど常に片眼に突然視力障害が発生し,これには疼痛を伴わず,しばしば朝起床時に気づかれる.視力障害の程度は視力1.0から光覚喪失までいろいろある.視野測定では視神経乳頭に関係した典型的な欠損が認められる.検眼鏡所見では,初期では主な変化は視神経乳頭浮腫であり,これは頭蓋内圧亢進にみられるものと鑑別できないものが多い(本症患者ではしばしば頭蓋内腫瘍が疑われるため)が,しかし乳頭は2カ月後には萎縮する.螢光眼底撮影では脈絡膜充えい欠損がみられる.症例の約3分の1は究極的には数週,数カ月,数年すると他眼にもAIONが発生する.AIONの症例の治療において,第1に重要な点は巨細胞性動脈炎を除外することである.その理由は,この疾患では両眼が完全に失明する危険性が大きいからである.AIONを種々の方面から検討した.

学会原著

HLA-B27陽性のぶどう膜炎の臨床像

著者: 小竹聡 ,   大野重昭 ,   麻生伸一 ,   吉田篤 ,   樋口真琴 ,   松田英彦

ページ範囲:P.589 - P.592

 北大眼科ぶどう膜炎外来を受診したぶどう膜炎患者でHLA検査を行った450例のうちHLA-B27陽性の13例の臨床像を検討した.
 13例中2例はベーチェット病,5例は強直性脊椎炎(AS)で,2例は両疾患の合併例であった.残る4例は原因不明の急性前部ぶどう膜炎(AAU)であった.ベーチェット病の4例を除く9例はすべてAAUの臨床像で,全例男性であった.眼症状としては片眼性,再発性の症例が多く,前房蓄膿,線維素析出,小さな角膜後面沈着物と虹彩後癒着が高頻度にみられた.しかし,眼合併症は少なく,視力予後は良好であった.また,ASに伴ったAAUと他のAAUとの間には臨床像の差はみられなかった.
 HLA-B27陽性AAUと陰性AAUとの比較では,B27陽性群では男性が多く,発症年齢が低く,再発率が高かった.しかし,視力予後は両群とも良好であった.

硝子体手術に関する臨床的研究(その7)—重症糖尿病性網膜症に対する硝子体手術成績の変遷

著者: 松井瑞夫 ,   佐藤幸裕 ,   長尾完 ,   前保彦

ページ範囲:P.593 - P.596

 駿河台日大病院眼科で硝子体手術を行った重症糖尿病性網膜症196例224眼につき下記の検討を行った.
(1)視力向上を得たものは224眼中118眼(53%)であった.
(2)網膜剥離を伴う群と網膜剥離を伴わない群の視力向上率はそれぞれ43%,70%であり,前者において明らかに不良であった.
(3)手術術式の改良に伴う手術成績の変遷をみると,three port system,持続空気灌流による網膜復位術,および積極的なsilicone oil注入を導入した1983年以降,手術成績は大幅に向上した.
(4)術後合併症の処理方法の解決と,手術適応の再検討が今後の大きな課題である.

前房灌流時の縮瞳反応—特に温度の影響について

著者: 鈴木亮 ,   芳野秀晃 ,   寺西秀人 ,   小林俊策

ページ範囲:P.597 - P.598

 前房洗浄時に際してのアトロピン抵抗性縮瞳反応にはインドメサシンの前処理が有効であるが,両者の存在下でもなお縮瞳反応を経験することがある.前房洗浄により虹彩の温度が急変することも予想されるので,前房の代用,0.2mlのacrylic chamberを作製し,また瞳孔径の代わりにウシ瞳孔括約筋の収縮記録を用いることにより,温度変化が虹彩に及ぼす影響について実験した.低温にすることにより摘出瞳孔括約筋のtoneは上昇し,薬物に対する感受性も増強した.

不同視眼におけるradial keratotomy

著者: 百瀬皓

ページ範囲:P.599 - P.602

 radial keratotomyを行った565眼のうち109人141眼が2.5D以上の不同視を伴っており,いずれも眼鏡およびCLに耐えられない症例であった.この141眼の不同視眼のうち77眼にはradial keratotomyは屈折度の強いほうの眼にのみ行われ,64眼では両眼に異なった矯正量で行われた.全例に不同視の軽減がみられ,眼鏡装用が可能になった.また粟屋式New AniseikoniaTestで測定した6例では術前に比して術後の不等像視の軽減を認めた.不同視眼はcontact lensで矯正出来ない限り,radial keratotomyで不同視を軽減させ眼鏡矯正すると良い結果をうる.

増殖型糖尿病性網膜症の術後合併症としてのルベオージスの臨床的検討

著者: 三木正毅 ,   斉藤伊三雄 ,   塚原陽子 ,   近藤武久

ページ範囲:P.603 - P.606

 増殖型糖尿病性網膜症患者68例80眼の術後合併症を,術式により4群に分類してルベオージス,血管新生緑内障の発生頻度を検討した.第I群は白内障嚢内摘出術群17例22眼,第II群は白内障嚢外摘出術群17例20眼,第III群は有水晶体の硝子体手術群19例20眼,第IV群は無水晶体眼の硝子体手術群15例18眼である.ルベオージス/血管新生緑内障の発生はそれぞれ第I群は11/7眼,第II群は5/1眼,第III群は3/0眼,第IV群は11/7眼にみられ,発生率は第IV群,第I群,第II群,第III群の順に高く,ルベオージス発生には水晶体の有無が大きく関与しており,後嚢一層でも前部硝子体膜でも水晶体に準じたbarrierとしての役割を果たせることが推察された.視力予後は白内障手術間,硝子体手術間で術式による差は無く,網膜症の悪化は第I群が高率であった.以上の結果からルベオージスの発生機序を文献的に考察し,今後の望ましい手術方法に言及した.

徹照像からみた白内障の種々相—II.糖尿病者における白内障の形態的特徴について

著者: 藤原隆明 ,   矢田浩二 ,   山本晃 ,   小林修 ,   秋山理津子 ,   茅根重一

ページ範囲:P.607 - P.610

 徹照像撮影を行った白内障患者338名(男144名,女194名)を対象として,糖尿病者(142名)と非糖尿病者(196名)に分け,徹照像の形状を尾羽沢の分類に従って分類,比較した.
 全体的にみると,糖尿病者に小胞状,放射状陰影が,非糖尿病者に円板状陰影が多く,1%以下の危険率をもって有意差を認めた.各年代毎にみると,放射状陰影と輪状陰影が加齢とともに出現頻度が増加した.また各年代において,特に著しい高血糖状態の既往を有するものに小胞状陰影が多くみられた.糖尿病者32名と非糖尿病者42名の,7カ月から21カ月(平均約13カ月)におよぶ観察では,前者は後者の2.3倍の経時的変化率を示し,円板状,小胞状,放射状陰影の順に多く変化がみられた.
 白内障徹照像の形状解析が,その発症機序,原因的分類,薬効評価の解明に重要である.

水晶体混濁評価法の検討—Multi-linear,isodensitometryの導入

著者: 佐々木一之 ,   坂本保夫 ,   柴田崇志 ,   小島正美

ページ範囲:P.611 - P.615

 水晶体混濁の評価を撮影画像の解析より行う著者らの方法を示した.画像は良質のスリット断面像と徹照像の両者が共に必要である.このために両画像が同一画面内に撮影される新しい水晶体撮影装置を開発し,これを用いた.水晶体断面画像の解析はフィルムのdensitometryを基本としたが,これにmulti-linear densitometryとisodensitometry (area densitometry)の手法を導入した.徹照像の解析は混濁部分が瞳孔領内をしめる割合を面積比として数値化して表現した他,混濁部位を濃度差をもって表すisodensitometryも行った.各年代にわたる1,422眼の透明水晶体について撮影画像のdensitometryを行い水晶体各層における透明度の減衰の加齢変化を具体的に数値化して表現した.この正常加齢変化をふまえた上で長期観察例につき水晶体混濁進行の評価を試みた.

眼科一次救急患者10,206例の統計

著者: 三村治 ,   山縣祥隆 ,   春田龍吾 ,   宇山淳 ,   田岡信明 ,   盛隆興 ,   松野公利 ,   荻田洋二

ページ範囲:P.616 - P.620

 大阪府堺市清恵会病院眼科に1981〜1983年の3年間に受診した眼科一次救急症例10,206例の統計的観察を行った.症例は70%が男性であり,受診年齢のピークは0〜9歳と30〜39歳であった.医師が真の救急性ありと判定したものは全症例の半数以下であった.外傷受傷眼の左右差については,微細な異物による軽症例では特に左右差はなく,強角膜裂傷および眼瞼・結膜裂傷のような比較的重症例では有意に左眼の方が多く認められた.また眼科救急診療の設置所として救急病院の利点についても述べた.

健常人および糖尿病患者の水晶体計画的嚢外摘出術におけるFlurbiprofen点眼薬の瞳孔径に及ぼす影響

著者: 土坂寿行 ,   呉輔仁 ,   高瀬正彌

ページ範囲:P.621 - P.624

 糖尿病を合併した白内障,および合併しない白内障の水晶体計画的嚢外摘出術32眼を対象として,Flurbiprofen (FP)点眼薬の術中,術後の縮瞳抑制効果について検討を加えた.その結果,FP点眼液は糖尿病を合併しない症例については後中の縮瞳反応を有意に抑制した.しかし,糖尿病を合併した症例については縮瞳抑制効果は認められなかった.

鈍的眼外傷の統計的観察—その7.外傷性高眼圧について

著者: 吉本旬 ,   難波彰一 ,   池田誠宏 ,   森野智英子 ,   中川美和子 ,   松山道郎

ページ範囲:P.625 - P.628

 最近10年間に経験した,鈍的眼外傷に続発する高眼圧症88例を対象とし,前房出血と水晶体脱臼の合併,受傷後早期のangle recessionの範囲,受傷時年齢に着目して,眼圧の予後予測の目的で統計的検討を行った.
 結果は(1)受傷後早期に減圧目的の手術を受けた症例に,有意に高率に水晶体脱臼が合併していた.(2)受傷後長期経過例の眼圧コントロールは,受傷後早期の前房出血・水晶体脱臼の有無,anglerecessionの範囲とは有意な関係はなかった.(3)受傷後長期経過例の眼圧コントロールは受傷時年齢が高いほど不良であった.
 したがって,受傷後早期には水晶体脱臼の合併の有無が,長期経過後には受傷時の年齢が,眼圧の予後予測に重要であると思われた.

上斜筋麻痺に対する上斜筋縫縮術に関する研究第 2報—頭部傾斜時における両眼の反対回旋の角速度に与える影響について

著者: 生田全

ページ範囲:P.629 - P.632

 上斜筋麻痺に対する上斜筋縫縮術の効果を判定するため,16例の片側上斜筋麻痺(先天性6例,外傷性10例)に対し麻痺眼の上斜筋縫縮術を施行し,頭部傾斜時の両眼の動的反対回旋運動(DCR)の角速度に与える影響を解析した.DCRの測定は森の考案した電動頭部傾斜装置を使用した.
 頭部健側傾斜時は健眼と麻痺眼のDCRの角速度には,術前,術後ともに有意差が認められなかった.
 頭部患側傾斜時は術前,麻痺眼のDCRの角速度は健眼よりも有意に小さく,術後は健眼の角速度が減少し,健眼と麻痺眼の角速度の有意差は認められなくなった.DCRを頭部傾斜角度により3相に分けて検討したところ,ほとんどの症例で,術前は両眼の角速度は同じ相で最大になり,術後はその相で健眼の角速度が減少し,健眼と麻痺眼の角速度の差が減少した.術後,健眼の角速度が減少する理由として,術前に麻痺眼が回旋しにくいため健眼に代償的に過剰な角速度が生じ,これが術後は麻痺眼の回旋力が回復するため健眼の角速度が減少すると考えられた.

糖尿病性網膜症での大量網膜前出血

著者: 得居賢二 ,   北川道隆 ,   仁木高志 ,   村岡兼光

ページ範囲:P.641 - P.647

 糖尿病性網膜症で2乳頭径以上の網膜前出血を生じた93例106眼について,出血の部位と程度が予後とどのように関係するかにつき検索した.出血の部位を各眼ごとに記録し重ね合せることにより,その分布と部位別頻度を計算した.その結果,網膜前出血は網膜硝子体間の癒着の多い血管アーケードに囲まれた後極部に多かった.さらに,6カ月以上経過の追えた72例81眼について,網膜前出血の発症後形成された線維増殖の程度により3群に分けて,それぞれの群で同様の検索をし,さらに網膜症についても検討した.その結果,81眼中線維増殖を残さなかったもの16眼20%,弱い線維増殖を残したもの17眼21%,強い線維増殖を残したもの48眼59%であった.各群を比較して強い線維増殖を残す群ほど,初発した網膜前出血の範囲が広いことが判明した.さらに,線維増殖の程度には,網膜症の活動性と新生血管の数が有意に関与していた.また牽引性網膜剥離は線維増殖のない群では起こらず,線維増殖の弱い群では12%,線維増殖の強い群では69%に合併した.
 以上のことから,網膜前出血は線維増殖の形成ならびに牽引性網膜剥離と密接に関連する重要な病態であると結論された.

学術展示

糖尿病性網膜症に合併した乳頭腫脹

著者: 粟根裕 ,   北川道隆 ,   仁木高志 ,   田中隆行 ,   村岡兼光

ページ範囲:P.648 - P.649

 緒言 若年性糖尿病患者に合併する原因不明の一過性乳頭腫脹がdiabetic papillopathyとして報告1)されているが,その発症機序は推測の域を出ていない.我々は糖尿病性網膜症に合併した乳頭腫脹が真に糖尿病性といえるものか,現時点での考察を行った.

糖尿病性網膜症による黄斑部病変に関する研究

著者: 鈴木隆次郎 ,   吉田顕照 ,   渡名喜勝

ページ範囲:P.650 - P.651

 緒言 糖尿病性網膜症の視機能変化は,黄斑部の状態によって左右されていることを報告した1).しかし,黄斑部浮腫の程度との関係は不明であった.今回,黄斑部浮腫を細分化し,各病期と視機能変化との関係を分析した.さらに,網膜症進行予測に対する視機能の有用性について検討を加えた.

X染色体性遺伝性網膜色素変性症の2家系

著者: 脇田まり子 ,   早川むつ子 ,   中島章

ページ範囲:P.652 - P.653

 緒言 X染色体性網膜色素変性症(以下本症と略す)の家系の報告は我国では極めて少なく,数家系の報告を見るのみである.今回我々は家系図上,本症と考えられる2家系を経験し,3人の女性に保因者の所見を得たので報告する.

発育異常緑内障と水晶体偏位の合併した2家系

著者: 浅井香 ,   新田敬子 ,   小川剛史 ,   三村康男

ページ範囲:P.654 - P.655

 胎生期における隅角の中胚葉組織の発生異常が原因となり,発育異常緑内障(DG)が発症すると考えられている.このような発育異常緑内障には全身の他の部位における中胚葉性の異常を合併することがあるが,水晶体偏位を合併した症例については,その報告はみられない.
 今回我々は,明らかな隅角異常を伴うDGに水晶体偏位を合併した症例に遭遇し,その家系を調べたところ発端者の叔母に同様の所見をみとめ,父と弟には隅角異常のみがみられた.また,他の家系の症例でやはり隅角異常と水晶体偏位の合併例を1例経験したのでそれらをまとめて報告する.これらいずれの症例にも,全身的な他の合併症や先天性代謝異常等はみとめられなかった.

硝子体基本構築の検討—第1報コラーゲン,ヒアルロン酸および水の存在様式

著者: 成田清美 ,   一戸敏 ,   吉本弘志

ページ範囲:P.656 - P.657

 緒言 硝子体についての研究とその成果は近年目ざましいものがある.しかしそれは生化学的アプローチによるものが大部分であり,形態学的にはBalazsの模式的籠構造以後,それに必ずしも一致しない所見の諸報告は有るものの合理的形態に関しての説明はされていない.その理由としては,周知のごとく硝子体が多量の水分を含んだ粘液体であるゆえに全体像への形態学的アプローチが困難になるものと考えられる.そこで我々は,硝子体全重量の99%を占める水を,張力を保存した生に近い状態で除去し,眼球内にあるがままの線維構造を観察する目的で本実験を行った.

糖尿病性網膜症眼の硝子体内酸性ムコ多糖について(第1報)

著者: 石丸裕晃 ,   山根伸太 ,   西内貴子 ,   田内芳仁 ,   三村康男

ページ範囲:P.658 - P.659

 緒言 糖尿病性網膜症は失明率が高く,その原因となる増殖性病変の発生を抑制することが重要である.最近,増殖型糖尿病性網膜症に対しても硝子体手術が盛んに行われるようになり,硝子体の解析が可能となった.今回我々は,硝子体手術によって糖尿病性網膜症眼より得られた硝子体を酸性ムコ多糖(以下GAGと略す)の面から分析した一結果について報告する.

難治性網膜剥離24眼に対するヒーロン®の硝子体内注入

著者: 小川昭彦 ,   田中稔 ,   稲垣有司 ,   石川隆 ,   中島章

ページ範囲:P.660 - P.661

 緒言 近年,難治性網膜剥離に対し硝子体手術が導入され,さらにガス,シリコンオイルなどの硝子体内注入の併用により復位の向上がみられる.しかし,これら眼内タンポナーデを目的とした素材には術後合併症・安全性についてまだ問題が残されている.
 今回,我々は術中極度の低眼圧をきたした16例,および術後の眼内タンポナーデ目的で8例計24例にヒーロン®の硝子体内注入を試み,その術後成績,合併症および有用性について検討した.

眼球内に石灰化を伴ったSturge-Weber症候群の1例

著者: 五井良明

ページ範囲:P.662 - P.663

 緒言 Sturge-Weber症候群は,母斑症のなかで,顔面血管腫,脳の皮質軟膜の石灰化,けいれんの発生,緑内障の発生などで知られる疾患群であるが,眼球内の石灰化については報告をあまり見かけない.
 今回著者は,左三叉神経第二枝領域に血管腫を認め,CTスキャン上,左眼球内に著明な石灰化を認めたSturge-Weber症候群の1例を経験したので報告する.

Forskolinのヒト眼圧下降機序

著者: 江口秀一郎 ,   松元俊 ,   瀬戸千尋 ,   高瀬正弥

ページ範囲:P.664 - P.665

 緒言 Forskolinは細胞膜のレセプターを介さずにアデニル酸シクラーゼを活性化し,細胞内cyclicAMP合成を促進することが確立されて以来アデニル酸シクラーゼの研究に不可欠の存在になりつつある.一方,眼組織においては,点眼にて眼圧下降効果を有し,その機序として房水流量の減少によるということが,Caprioli,Searsら1)により白色家兎,猿,欧米人眼で報告されており,新しい抗緑内障剤としての可能性につき研究が進められている.今回我々は,1%Forskolin懸濁液の本邦正常人眼眼圧および房水流量等に及ぼす影響を検討した.更に緑内障治療剤として広く使用されているベータ受容体遮断剤Timololとの相互作用をも併せて検討したので報告する.

緑内障性陥凹所見に影響を及ぼす諸因子—1.Epipapillary membrane

著者: 勝盛紀夫 ,   伊賀俊行 ,   溝上国義

ページ範囲:P.666 - P.667

 緒言 乳頭陥凹は,緑内障における重要な形態的変化の一つであるが,すべての症例において,陥凹の拡大を初期より碓実に検出することは現在なお容易ではない.今回我々は,その要因の一つとしてepipapillarymembrane (EpM)をとりあげ,陥凹に及ぼす影響につき検討を加えた.

原発性閉塞隅角緑内障の発症機序の解析

著者: 近藤武久 ,   三浦昌生 ,   今道正次

ページ範囲:P.668 - P.669

 原発性閉塞隅角緑内障の発症のメカニズムには多くの要因が関与しているが,それらのうち最も重要な因子としてはpupil blockとangle blockとがある.
 我々は先に角膜,前房のスリット写真像をコンピューターによる画像解析法によってoptical imageからtrue imageへ変換描写し前房容積を算出する方法を報告した1).今回はこのtrue imageから虹彩,水晶体の相互位置関係を算出し,Mapstone2)の方法に従って虹彩に働くいくつかの力のベクトルを検出し,具体的にpupil-blocking forceを算定したので報告する.

Oculocerebrovasculometryの緑内障への応用

著者: 八木橋修 ,   寺田久雄 ,   中野直樹 ,   石川弘 ,   北野周作

ページ範囲:P.670 - P.671

 緒言 Oculocerebrovasculometry (OCVM)は,非観血的に眼および脳循環動態を測定することができる装置である.既に我々は,種々の虚血性眼,脳疾患の検討結果より,従来の測定方法に加え虚血状態を的確に反映するOCVMの新しい測定因子を考案した(図1,2).
 今回,この方法を用い緑内障および低眼圧緑内障の循環動態を検討したので報告する.

緑内障臨床における螢光眼底造影の評価

著者: 申尊茂 ,   王心 ,   呂大光

ページ範囲:P.672 - P.672

 緒言 緑内障視機能障害の発生機理を研究し,もっとも信頼できて敏感な早期診断,病期診断,治療効果および予後を判断できる有効な方法を求めて,著者らは眼底螢光造影技術によって,緑内障患者60例70眼の研究を行った.

連載 眼科図譜・343

眼内人工レンズのスペキュラーマイクロスコピー

著者: 大原國俊

ページ範囲:P.566 - P.567

 スペキュラーマイクロスコープには角膜上皮や実質病変・角膜裏面沈着物をも観察できるものがあり,角膜を対象とする生体顕微鏡としての利用法がある1,2).本報では,眼内の人工レンズ表面沈着物の観察所見を報告し,スペキュラーマイクロスコープの生体顕微鏡としての新たな有用性を報告する.
 症例 66歳,男.左眼の老人性白内障に対して計画的水晶体嚢外摘出術とヒアルロン酸塩(ヒーロン,ファーマシヤ)を用いた後房レンズ(Kratz ellipticalopen loop,プレシジョンコスメット社)の移植術を受けた.術後に散瞳剤・ステロイド剤・抗生剤の局所投与を受け,(1.2×IOL×−1.0D)の術後視力を得た.術中術後に合併症はない.

今月の話題

光による網膜障害

著者: 根木昭

ページ範囲:P.569 - P.573

 眼科診療器具による網膜照射量は,光障害発現閾値に極めて近く,特に細隙灯網膜検査,ECCE+IOL移植時に危険度が高い.間接的にはCMEやSMDの発生に関与する事が考えられ必要最小照射を心がける事が肝要である.

最新海外文献情報

網膜の生化学と細胞生物学,他

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.634 - P.638

Nathans J, Thomas D, Hogness DS : Molecular genetics of human color vision : the genes encoding blue, green, and red pigments. Science 232 : 193-202, 1986 Nathans J, Piantanida TP, Eddy RL, Shows TB, Hogness DS : Molecular genetics of inherited varia-tion in human color vision. Science 232 : 203-210, 1986 遺伝子クローニングは着眼が命であり,それが実にみごとな成果を生み,その威力をまざまざと見せつけた,ノーベル賞を期待できる論文である.Nathans J,Hogness DSらは錐体色素遺伝子塩基配列を解明した.
 彼らは考えた:動物界での色覚の存在様式からみると,錐体色素遺伝子は杆体色素ロードプシン遺伝子から比較的新しく派生したものに違いない.したがってロードプシン遺伝子と錐体色素遺伝子との間には高い相同性があるであろう.それならば牛ロードプシンのcDNA (メッセンジャーRNAから逆転写して得られる単鎖DNA)を用いて人の遺伝子図書館からロードプシン遺伝子だけではなく,青色素遺伝子,赤色素遺伝子,緑色素遺伝子をも釣り上げることができるであろう.

臨床報告

網膜静脈分枝閉塞症に伴う硝子体内増殖の特徴

著者: 玉井信 ,   福与貴秀 ,   後藤元 ,   水野勝義

ページ範囲:P.673 - P.675

 網膜静脈分枝閉塞症に伴う硝子体内増殖の特徴について検討した.これらは虚血型の分枝閉塞症に伴って発生し,血管内皮の増殖が血管瘤様に内境界膜を破って網膜前に突出し,硝子体側にのびること.また発生部位は閉塞した主静脈のわきで,閉塞領域のほぼ中央に位置することが多いことが明らかになった.

鈍的外傷による眼球破裂およびその超音波検査の有用性について

著者: 三根茂 ,   木村由香子

ページ範囲:P.677 - P.680

 鈍的外傷による眼球破裂4例に対し,受傷後早期より超音波検査を行い経過を観察した.direct ruptureと考えられる角膜・強膜破裂の1例は創部に網膜が脱出し,脈絡膜出血も強く術後眼球癆となった.他の3例はindirect ruptureによる結膜下強膜破裂で全例破裂創は赤道部を含み赤道部より前方にみられた.結膜下強膜破裂眼の受傷後早期の超音波検査の特徴的所見は,眼球の前後径の短縮像,眼球外の低エコー像,retrobul-bar spaceの拡大像などであった.これら結膜下強膜破裂3例のうち,破裂創が上鼻側輪部と下耳側前赤道部にみられ受傷後7日目に手術を行った1例は受傷後の期間が長く,眼球への侵襲が強く眼球癆となった.上直筋および外直筋の間の赤道部に破裂がみられた1例は術後増殖性硝子体網膜症を生じた.結膜下水晶体脱臼を伴い上方の輪部に破裂がみられた1例は術後矯正視力1.0を維持した.強力な鈍傷後に著明な低眼圧,浮腫を伴う結膜下出血,前房出血,深い前房などがみられる時は結膜下強膜破裂が疑われるが,さらにその診断には前記の超音波検査所見が極めて有用である.最後に結膜下強膜破裂の早期の診断とそれに対する早急な一次的修復手術の必要性を強調した.

新生児結膜炎の感染源の検索

著者: 青木功喜 ,   野田明 ,   諸星輝明 ,   千葉峻三

ページ範囲:P.681 - P.684

 新生児結膜炎の感染源を検索するために,母体の子宮頸部およびその新生児の結膜から細菌,クラミジア,真菌,ウイルスの検索を行うと共に新生児結膜炎患者の結膜の病因的検索を行い,次のごとき結論を得た.
 ①新生児結膜炎の病因は細菌とクラミジアが主体であり,真菌とウイルスは稀である.
 ②クラミジア性結膜炎は偽膜性であり,病因細菌は抗生物質に耐性を示す頻度が高い.
 ③新生児結膜炎の治療にはエリスロマイシン(EM),ゲンタマイシン(GM)などの抗クラミジア剤と耐性ブドウ球菌に効果のある抗生物質の併用を必要とする.
 ④新生児期から乳幼児期にかけてはtransitfloraであり,正常の結膜細菌叢は7歳以降に完成する.

再発翼状片に対する表層自己角膜移植術

著者: 浅野俊弘

ページ範囲:P.685 - P.687

 再発翼状片2例に対し,これ以上再発しないようにするため,表層自己角膜移植術(偏位法)を施行した.
 この手術法の利点は以下の通りである.
(1)翼状片により破壊されたボーマン膜を有する表層角膜が,健常なボーマン膜を有する表層角膜でおきかえられるため,翼状片の角膜への再侵入が阻止される.
(2)保存角膜を必要としないため,アイバンクを持たない施設でも手術可能である.
(3)自己角膜を用いるため,拒絶反応がおこらない.
 2例の術後経過は良好で,翼状片の角膜への再侵入は認められなかった.

スポーツ眼外傷における網膜剥離

著者: 島崎潤 ,   桂弘 ,   木村肇二郎

ページ範囲:P.689 - P.692

 1977年から1981年までの5年間に,慶大眼科を受診したスポーツ外傷患者のうち,網膜剥離をきたした31例,31眼につき検討し,以下の結果を得た.
(1)スポーツ眼外傷における網膜剥離は,網膜剥離全体の3.2%を占めていた.
(2)性別,および年齢分布では,10歳代を中心とする若年男性に多く発生していた.
(3)競技種目による網膜剥離の発生頻度に差は認められず,症例の受傷機転は大部分,ボールの打撲によるものであった.
(4)裂孔の発見は,半数以上は1カ月以内になされていたが,長期間経過してから発見されるものもあった.
(5)受傷眼の屈折は,網膜剥離全体に比較して,−6.0D以上の近視の割合が少なかった.
(6)裂孔の種類は,網膜剥離全体と比較して馬蹄形裂孔が少なく,鋸状縁断裂が多かった.

Group discussion

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.693 - P.695

1.先天性眼振の一家系
              早坂征次(東北大) 先天性眼振の一家系を検査した.父—息子への伝播がなく,世代でskippingがみられたので,X-linkedirregular dominant inheritanceと思われた.中心視力は比較的良好なので職業選択にはあまり問題ないと思われたが,遺伝相談は困難であった.

文庫の窓から

眼科新説 一名銀海金針

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.696 - P.697

 古来,わが国では秘伝書にその伝授書固有の名を採ってその書名としているものは稀ではないが,外来本の部分的翻訳の場合,原本の書名とは別にその部分訳に適した書名を付して独立した一本の様にすることもある.
 本書はチットマン(Johann August Tittman,1774-1840)の外科書(Lehrbuch der Chir)のホウト(van der Hout)蘭訳書,眼疾門の邦訳(箕作阮甫未定訳稿)を基に,新たに「眼科新説」一名銀海金針という書名を付けて刊行した.いわばチットマン外科書眼科部門の邦訳書の刊本である.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.698 - P.698

論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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