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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻7号

1986年07月発行

雑誌目次

特集 第39回日本臨床眼科学会講演集 (6) 学会原著

Epiretinal membraneの構成要素

著者: 松村美代 ,   岡田守生 ,   山川良治 ,   吉村長久 ,   白川弘泰 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.715 - P.720

 種々の疾患で起こるepiretinal mem-braneの構成細胞について組織学的に検討した.試料をより多く得る目的で,epiretinal mem-braneの組織培養を試み,増殖性硝子体網膜症(PVR)21例では67%で成功した.PVRのepi-retinal membraneは網膜色素上皮細胞が主たる構成細胞であった.Macular puckerでは症例によって構成細胞の特徴がまちまちで,黄斑円孔周囲の膜や特発性の膜はきわめて細胞が少なかった.疾患によってepiretinal membraneの構成成分はかなり差があると考えられる.その細胞構成をあきらかにできれば,治療の方針を決めるうえでも有用であろう.

毛様体ジアテルミーならびに毛様体冷凍術の虹彩血流に与える影響について

著者: 堀内二彦 ,   鈴木仁 ,   椎名一雄 ,   窪田まゆみ ,   佐野雄太

ページ範囲:P.721 - P.724

 出血緑内障48眼に対して線維柱帯切除術を施行し,術中毛様体ジアテルミーの併用が術中・術後の前房出血を防止するのに有益であることを示した.
 白色家兎の虹彩血流量は,毛様体ジアテルミー直後では約50%以上の減少を示し,毛様体冷凍術直後では約30%反応性に増加することを,レーザー・ドップラー血流計を用いて示した.

緑内障性網膜神経線維束萎縮と乳頭陥凹の相関の検討

著者: 金谷いく子 ,   溝上国義

ページ範囲:P.725 - P.729

 緑内障眼における網膜神経線維束萎縮(NFA)所見,乳頭陥凹,網膜機能の相関について検討した.対象は初期から中期緑内障21症例29眼である.乳頭を12のセクターに分割し,耳上側,耳下側の四つの神経線維束分布域をF1,F2領域とし,各部位のrimに対する面積率(Rim A)を測定した.また,オクトパス自動視野計の測定結果に基づく0°〜60°内のF1,F2神経線維束分布内の網膜感度をさらに乳頭近位から遠位の三つのサブセクターに分割し,各部位での感度の定量化(%S)を行った.乳頭近位側の%SとRim Aほど強い相関関係がみられ,近位側の機能低下ほど乳頭陥凹におよぼす影響が大きかった.
 NFA所見を乳頭より離れて見られる遠位萎縮型,乳頭に近接する近位萎縮型および全体萎縮型に分類し,さらに程度により(⧺),(+)に分類した.遠位萎縮型は遠位側機能低下優位,近位萎縮型(⧺)は近位側機能低下優位であった.三者の相関の検討により,NFA所見に伴う機能変化がかなり正確に予想できると考えられる.

緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用

著者: 佐々木隆弥 ,   山林茂樹 ,   塚原重雄 ,   丹沢泉 ,   中島新一郎

ページ範囲:P.731 - P.734

 緑内障薬物療法を行っている患者のcompliance (服薬順守状態)を知るために,点眼モニター装置を開発した.本装置は約17分間隔で約48日間,患者の点眼状態(日時,回数)を記録する.出力したデータと実際のデータの相関は,相関係数0.9998で非常に精度の高い装置である.今回は,本装置を用いてピロカルピン点眼を行っている緑内障患者22名の点眼回数について,complianceを調査した.complianceは平均59%で,この値は欧米での38〜72%という報告と同程度であった.40歳以下の若年患者では41%,視野変化が湖崎分類でIa,Ibの初期の患者では49%,ピロカルピンのみを点眼している患者では40%であった.40歳以下の若年患者,視野変化が初期の患者,点眼薬数の少ない患者にcomplianceが悪い傾向があり,このような患者は病気に対する認識が薄いのではないかと思われる.

VDT作業者の眼疲労実態と対応

著者: 山野智敬 ,   山田宏圖 ,   丸本達也 ,   石龍鉄樹 ,   永井宏

ページ範囲:P.735 - P.738

 VDT作業者の眼精疲労の対応として,某事業所におけるVDT作業者と一般事務者のアンケート調査の分析を行い,さらにVDT作業者について,VDT作業用眼鏡(ODおよび+0.5D加入)の実験的研究を行い検討した.
 アンケート調査においては,①VDT作業者は,一般事務者に比較し,いずれの疲労訴えにおいても,平均悪化率が高かった.②オペレーター,パンチャー,プログラマーの職種間の比較では,オペレーターが最も平均悪化率が高かった.
 また眼科的所見では,VDT作業者は一般事務者に比べ,調節弛緩時間が有意に延長した.
 装用眼鏡の影響については,調節弛緩時間では,+0,5D加入群が有意に短縮していた.
 また色フリッカーでGreenの臨界隔合時間はOD群が有意に延長していた.
 さらにedge-light pupil cycle timeは+0.5D,ODの両群とも,有意に短縮していた.

斜視患者におけるまわし眼位の観察

著者: 井上美奈香 ,   高橋総子

ページ範囲:P.739 - P.742

 斜視患者55例において,両眼視状態と非両眼視状態でのまわし眼位を比較検討し,まわし斜位の存在について考察した.方法はFundusHaploscopeを使用し,同時視状態と片眼固視状態でのまわし眼位と上下ずれを測定し,各状態でのまわし眼位の差と上下ずれの差を比較した.その結果,まわし眼位,上下ずれともに差を認めなかったものが42例,主に上下ずれに差を認めたものは8例,主にまわし眼位に差を認めたものは4例あった.このことから同時視をすることにより,主に上下方向に眼位が変化するものと主にまわし方向に眼位が変化するものが存在すると思われた.同時視状態と片眼固視状態で,上下ずれや水平眼位には差を認めず,まわし眼位のみに差を認めたものが3例あり,これらの症例はまわし斜位を示唆するものと考えた.

原発性開放隅角緑内障における網膜神経線維層欠損の臨床的価値

著者: 申尊茂 ,   呂大光 ,   哀淑玉 ,   韓素珍

ページ範囲:P.743 - P.745

 原発性開放隅角緑内障69例112眼で網膜神経線維欠損(RNFLD)を直像鏡で観察し,その所見と緑内障の病期,視神経乳頭のC/D比,視野,螢光眼底造影所見などとの関係を検索した.網膜神経線維欠損は,このうち105眼(94%)で認められた.早期の緑内障症例では限局性,晩期症例ではびまん性の形で起こった.疑緑内障11眼では網膜神経線維欠損は4眼のみに発見された.神経線維欠損の部位は乳頭の上耳側と下耳側に多かった.C/Dの値が大きくなるにつれて,限局性欠損が少なくなり,びまん性欠損の形が大きくなった.大多数の症例で,神経線維欠損は視野変化と一致した.螢光眼底造影を施行した42眼のうち,35眼で神経線維欠損は蛍光充盈欠損と一致し,同じ象限にあった.

Trabeculectomy術後早期よりの血液前房内逆流に関する経時観察

著者: 南波久斌 ,   岡本新生郎 ,   弓田彰 ,   宮坂由美子 ,   高林良文

ページ範囲:P.746 - P.748

 Trabeculectomyを施行した開放隅角緑内障31眼に対し,強膜圧迫隅角検査法を用いて,切除部隅角を術後早期から経時的に観察した.
 術後1週目より1週毎の観察を試みた10眼では,M1H1型隅角6眼中5眼において術後1-2週目に,Schlemm管断端部から血液逆流を見た.しかし,その部分に後に全例,PASを形成した.残りの1眼では術後4週目に初めて逆流出現したが,周辺部虹彩前癒着(PAS)は生じなかった.そこで,以降の症例に対しては術後1カ月目より観察を行った.術後12カ月間の観察期間において14眼の計23カ所から逆流を見た.それ以降では新しい逆流出現はみられなかった.一方,23カ所中10カ所で経過中に逆流が消失したが,その内,9カ所は,この12カ月間の観察期間内であった.以上の事から,人眼におけるtrabeculectomy隅角部に開口するSchlemm管を含む血管の活発な修復機転は,約1年で終了する事が示唆された.

斜視患者における眼球運動位置覚異常と斜視構成因子との関係

著者: 榎本弘 ,   近江俊作 ,   筒井純 ,   深井小久子 ,   有田清三郎

ページ範囲:P.757 - P.760

 種々の斜視構成因子と絶対暗室内におけるduction testによる眼球運動位置覚(以下,眼球位置覚)との関連の有無を検討した.斜視患者においては非偏位眼の眼球位置覚正答率が偏位眼に比較して有意に高かった(P<0.005).この傾向は内斜視に顕著であった.また,外眼筋麻痺症例や片眼手術眼症例では麻痺眼や手術眼の眼球位置覚低下傾向が認められた.しかし,視力あるいは視力差と眼球位置覚との関連は認められなかった.内斜視と外斜視を比較しても,眼球位置覚が著しく高い,あるいは低いといった傾向は認められなかった.本検査法は斜視患者の外眼筋機能,特に自己受容器機能を判定する上で簡便で有用な方法である.

学術展示

ボツリヌム毒素と瞳孔について

著者: 芳野秀晃 ,   鈴木亮 ,   小林俊策

ページ範囲:P.762 - P.763

 緒言 からし蓮根事件により注目を浴びたbotulinum毒素(BoTX)は,bacterium clostridiumにより産生される蛋白毒素で,骨格筋では伝達物質の放出を遮断する結果,筋肉の麻痺をもたらす1).BoTXによる中毒症状として,悪心,嘔吐,視力障害等が起こり,重篤な場合は死に至ることもある.
 眼科領域では以前から,斜視や,ocular neuropathyの治療としてBoTXの局所微量注入2)が試みられている.また,BoTXの中毒症状として瞳孔が散大するといわれているが,その作用機構などについて詳細は不明である.

新しい他覚的斜視角測定法Photostrabismometryの試み

著者: 三宅三平 ,   冨安誠志 ,   水上寧彦 ,   矢ヶ崎悌司 ,   丸山節郎 ,   今道正次

ページ範囲:P.764 - P.765

 現在行われている斜視手術の多くは,術前に測定された斜視覚に基づいて手術量を決定している.しかしながら,synoptophore, prism cover testなど現行の斜視角測定法のほとんどは患者の協力を必要とするので,乳幼児などに対しては使用することができず厳密な意味では他覚的斜視角測定法とはいえない.また,近年乳児内斜視の早期手術に対する是非が議論されているが,この結論が出ていない一つの理由に乳児に対する正確な斜視角測定法のないことが挙げられる.これらの現状から他覚的斜視角測定法の開発は重要と考えられる.我々は角膜上に投影された光反射を写真撮影し,これをpersonal computerとdigitizerで解析し斜視角を測定する方法を試みたので報告する.終局の目的は乳児などの協力の得られない患者の斜視角測定器を作ることであるが,今回の報告では試作した近見時斜視角測定装置の測定誤差などの問題点の検討に主眼を置いた.

CTで外眼筋肥大がみられた白血病

著者: 矢野眞知子 ,   小澤哲磨 ,   林みゑ子 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.766 - P.767

 緒言 外眼筋肥大は甲状腺疾患で最も多くみられるが,他に動静脈瘻,眼窩腫瘍,偽腫瘍,眼筋炎等で生ずると報告されている1).今回,複視・片眼性眼球突出で発症し,CTで片眼の外眼筋部肥大がみられた症例を経験した.諸検査施行中に全身症状が出現し,血液・骨髄所見より,急性リンパ性白血病と診断された.白血病による外眼筋肥大はきわめて稀と考えられるので報告する.

Fundus Haploscopeと新しい眼球運動記録解析装置による潜伏眼振の解析

著者: 佐藤友哉 ,   小島ともゑ ,   可児一孝

ページ範囲:P.768 - P.769

 緒言 眼球はそれぞれ異なった走行を示す六つの外眼筋の働きにより複雑な運動を示すが,その運動は水平,垂直,回旋成分に分けることができる.このような眼球運動の記録には,通常Electro-Oculogram(EOG)が用いられ主に水平性の運動が解析されている.しかし,このEOGでは眼球運動の回旋成分の測定が不可能であり,このため回旋成分の測定には,前眼部の写真測定法や眼底カメラ撮影法などが行われているが,測定法がまだ確立されていないのが現状である.
 我々は赤外線眼底カメラを用いて,無散瞳下に視標と眼底の中心窩との関係を観察できるFundus Hap-loscopeを作製し種々の研究を行ってきた.今回このFundus Haploscopeで眼底の動きとして録画した眼球運動を経時的に解析し,この眼球運動を水平,垂直,回旋の成分に分けることのできる眼球運動記録解析装置の開発を行った.この装置を用いて潜伏眼振の症例の眼球運動を解析したので報告する.

外傷性外転神経不全麻痺により非定型的周期性内斜視を呈した1例

著者: 小笠原孝祐 ,   妹尾佳平 ,   門脇文子 ,   菅和枝 ,   佐藤静

ページ範囲:P.770 - P.771

 緒言 Cyclic esotropiaは比較的稀な疾患であり,その中には,正確に1日おきに内斜視と正位をくり返す隔日性内斜視の他に,その周期が不規則な非定型的周期性内斜視や間歇性外斜視術後に周期性内斜視を呈するconsecutive cyclic esotropiaなどが含まれている.今回,外傷により非定型的周期性内斜視を呈した興味ある1例を経験したので,その発現機序について若干の考察を加えて報告する.

瞳孔緊張症60眼の臨床的検討と瞳孔括約筋の分節麻痺の診断価値

著者: 西田幸子 ,   加島陽二 ,   稲垣昌泰 ,   鈴木利根 ,   石川弘 ,   北野周作

ページ範囲:P.772 - P.773

 緒言 瞳孔緊張症は,一般に①散瞳,②対光反応と輻輳反応の解離(図1),③反応のtonicity,④メコリール点眼による縮瞳がしられている1,2).今回,これらの条件をみたした瞳孔緊張症60眼について検討した結果,瞳孔括約筋の分節麻痺の存在が確定診断に極めて重要であることを確認した.またあわせて瞳孔緊張症の臨床統計についても報告する.

外転神経麻痺に伴う内転眼振について

著者: 湯田兼次 ,   八束米吉

ページ範囲:P.774 - P.775

 緒言 一側の外転神経麻痺に伴い健眼に生ずる正面視での単眼性眼振についての報告や記載は現在まで見られない.筆者らは,このような外転神経麻痺に伴って健眼に生じた単眼性内転眼振を呈した症例を3例経験し,この眼振は注意していれば外転神経麻痺の多くの例に見られることを知った.そこでこの眼振の特徴などにつき報告したい.

鈍的眼外傷の統計的観察—その5 受傷年齢および受傷原因について

著者: 池田誠宏 ,   李薫 ,   平井健一 ,   上畑晃司 ,   松山道郎 ,   北庄司清子 ,   難波彰一 ,   吉本旬

ページ範囲:P.776 - P.777

 緒言 1975年から84年までの10年間に,大阪市立大学眼科外来を受診した,1478症例の眼球打撲症を対象に,年齢および受傷原因を調査し,特定病変との関連性について統計的に検討した1)

外傷性前房内水晶体脱臼の3例

著者: 白木京子 ,   杉野公彦 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.778 - P.779

 緒言 眼外傷による水晶体脱臼のうちでも稀な前房内水晶体脱臼3症例について1),2眼の摘出眼球病理所見を含め報告する.

大学入試における色覚異常者制限の現況

著者: 高柳泰世 ,   大橋克彦 ,   長屋幸郎 ,   安間哲史

ページ範囲:P.780 - P.781

 緒言 わが国では色覚異常者を身体障害者とみて,大学入試の際にもその制限が明記されている.これまでにも詳細な報告はあるが,最近の状況について大規模な調査は行われていない.我々は日本眼科医会の委託を受けて全国の大学484校について調査したので報告する.

Rayleigh均等よりみた中心性脈絡網膜症における赤および緑錐体の障害程度の比較

著者: 神立敦 ,   北原健二 ,   松崎浩

ページ範囲:P.782 - P.783

 緒言 一般に,中心性漿液性脈絡網膜症においてはType IIIの後天性色覚異常がみられる1).すなわち,青黄軸の色相混同があり,Rayleigh均等は赤側に移行する.この赤側への移行は真の第1異常とは異なることからpseudo-protanomalyといわれ,その成因として,receptorの吸収過程の異常,または"red sensitive"mechanismが"green sensitive"mechanismより障害されやすいことなどが考えられていた.しかしながら,近年Smithら2)はextended Rayleigh均等およびStiles-Crawford効果の測定結果から,この赤側への移行は視色素のoptical densityの減少,すなわち網膜の漿液性剥離による視細胞のdisorientationによるものとした.
 前回3),我々は本症におけるanomaloscopeの混色目盛の赤側への移行の度合いに着目し,上述のopticaldensityの減少の理論に基づき,赤および緑錐体が同程度に障害されたものと仮定して,そのoptical den-sityの減少率を算出した.今回は,anomaloscopeにおけるRayleigh均等値の混色目盛と単色目盛の両者の値を考慮し,赤および緑錐体の障害程度を比較検討することを試みた.

学童集団検診の新システム

著者: 河鍋楠美

ページ範囲:P.784 - P.785

 緒言 学校における屈折異常の実態を把握するためには,屈折の集団検診が必要であり,この目的のために,キャノンオートレフ集団検診システム1,2)が開発され成果をあげているが,実施上の問題点が多く必ずしも普及していない.問題点としては次の点があげられる.
(1)専任のオペレーターが必要である. (2)手動でデータの選択に主観が入る。 (3)全項目入力しないと器械が動作しない。 (4)表記が片仮名で罫線がないため表が見にくい。 そこで,これらの点を改良し,一層使用しやすいようにした新しい学童集団検診システムを開発した。

白内障眼,無水晶体眼,人工水晶体眼の中心色覚

著者: 花房晶 ,   宮本正 ,   野寄忍 ,   鳴戸みどり ,   清水金郎 ,   太田安雄

ページ範囲:P.786 - P.787

 緒言 白内障術後の青視症については,以前より種々の報告がみられる.近年,白内障術後に人工水晶体を挿入する機会が多くなり,人工水晶体挿入眼の色覚についての報告も散見されるようになってきた1,2)
 今回,我々は白内障眼,無水晶体眼,人工水晶体眼の各々に対し,各種色覚検査を行い,各状態における色覚について比較検討したのでここに報告する.

Sulbenicillinのヒト硝子体内移行に関する実験的研究

著者: 上谷彌子 ,   高塚忠宏

ページ範囲:P.788 - P.789

 緒言 我々はこれまでCephem系抗生剤三種(CTM1),CMX2),CFS3))について,点滴静注後の人硝子体内移行を観察し,術後感染症の予防または穿孔性眼内炎の治療に対しては,全身投与量の増量または局所投与(点眼,結膜下注射,硝子体内注入)の併用の必要性を報告してきた.合成ペニシリンの一種であるsulbenicillinの点眼用剤の開発によって,眼科領域における基礎的実験成績から臨床的応用へと広く使用され,外眼部疾患には75〜85%の有効率4,5)が得られている.しかし,眼感染症の予防には,点眼のみでは眼内移行は不十分であり,更に全身投与の併用が必要であるといわれている6).そこで今回,我々はsulbenicillinの点滴静注による人硝子体内移行について実験を行ったので報告する.

種々な神経症状を呈した視神経乳頭サルコイドージスの1例

著者: 中島正之 ,   東郁郎

ページ範囲:P.790 - P.791

 緒言 サルコイドージスは多臓器を侵す肉芽腫性疾患で,その眼病変については多くの報告があるが,視神経乳頭肉芽腫を伴うサルコイドージスの報告は少ない.今回我々は種々の神経症状を呈した視神経乳頭サルコイドージスの1例を経験したので報告する.

連載 眼科図譜・344

両眼性輪部角膜ヘルペスの1例

著者: 松村絹子 ,   岩元義信

ページ範囲:P.706 - P.707

 角膜ヘルペスは通常片眼性で,樹枝状角膜炎は瞳孔領とその周囲に局在していることが多い.樹枝状角膜炎を角膜輪部に認めるものを,Thygeson1)はmargi-nal herpes simplex keratitisとして注目し,内田2)はヘルペス性辺縁角膜炎として述べているが,報告は少ない.我々は角膜輪部に沿う,広範な樹枝状潰瘍を認めた角膜ヘルペスの症例を経験したので報告する.

今月の話題

網膜下新生血管による網膜下出血

著者: 大熊紘

ページ範囲:P.709 - P.714

 網膜下出血は,網膜下新生血管という共通の病態を有するとはいえ,その臨床像は各疾患で著しく異なる.入念かつ総合的な検査により,診断ならびに治療方針が決定されなければならない.

追悼

巨人逝く

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.729 - P.729

 ヘンカインド氏Paul Henkindが遂に亡くなられた.1935年の生まれであるから,51歳の若さである.
 氏の業績については,今さら言うまでもなかろうが,その名が一躍有名になったのは,「放射状乳頭周囲毛細血管」RPCの概念と具体像を確立した1967年の一連の論文を通じてであった.いま読みかえしても追加訂正の余地がないほど立派な完結した見事な研究なのである.氏は本来ロンドン学派に属するが,その後ニューヨークのアインスタイン大学に招かれて,Wise氏の後を継いで主任教授となり,この17年間,活躍に継ぐ活躍を重ねて来られた.

最新海外文献情報

神経眼科,他

著者: 向野和雄

ページ範囲:P.750 - P.751

Kiyosawa M et al : Metabolic imaging in hemianopsia using positron emission tomography with 18F-deoxyfluoroglucose. Am J Ophthalmol 101 : 310-319, 1986
 最近の画像診断技術の進歩の中でコンピューター断層撮影(CT),核磁気共鳴スキャン(NMR)に加えてポジトロン断層撮影(Positronemission tomography, PET)は脳局所代謝を直接画像的に捉ええるものとして注目されている.現在まで14C-deoxyglucose,また,本報告では18F-deoxyfluoroglucoseを用い,脳のブドウ糖代謝量を測定してきている.その結果視覚領の代謝が視覚刺激で有意に増加することが捉えられ,視覚領が現実に視覚刺激で活動する中枢であることが示されて来ている.また最近では眼球運動の命令を出す中枢の局在さえ本法で示されようとしている.
 本報告はほとんど報告のない視路の障害例(半盲例)の脳代謝低下を,8例において明確に示したものである.脳血管障害8例,正常対象者4例を対象として検討した.5例が半盲,3例が不完全半盲で示し,CTでは4例に,NMRでは5例に異常域を捉えた.PETではブドウ糖代謝量は閉瞼による非視覚刺激下では視中枢での左右差はみられなかった.しかしパターンリバーサルチェッカーボード刺激下では,視中枢の非障害半球の代謝は増大し,逆に障害半球側では低下した.前内側後頭葉の代謝量の非対称性は,完全半盲例において22%±12%であった.このように8例全例において後頭葉の代謝の非対称性が示され,それらは視野狭窄によく対応していた.

臨床報告

頭蓋内悪性黒色腫の眼窩内進展により網膜中心動脈閉塞症を来たした1症例

著者: 平田昭 ,   山川良治 ,   奥平晃久

ページ範囲:P.799 - P.802

 39歳,女性,頭蓋内悪性黒色腫の急速な眼窩内進展によると思われる,右眼網膜中心動脈閉塞症により失明した症例について報告した.本症例は13年前に対側の左眼窩腫瘍に対して眼球摘出を受けているが,その病理組織学的診断が不明であり,今回の腫瘍との関連性についても不明である.その後本症例は右頭蓋内腫瘍摘出および肝転移巣の摘出を受け,現在化学療法および放射線療法施行中である.網膜中心動脈閉塞症の原因としての腫瘍の眼窩内進展はきわめて稀なものであり,文献的考察を加えて報告した.

低眼圧緑内障の長期視野変化,定義および概念

著者: 谷原秀信 ,   千原悦夫

ページ範囲:P.803 - P.807

 低眼圧緑内障における長期視野変化を検討する目的で32眼を平均4.6年間経過観察した.低眼圧緑内障の視野異常は非常に緩徐であり,32眼中進行性を示したのは7眼のみであり,湖崎分類で2期以上の進行性を認めたものはなかった.緑内障に特徴的な視野異常を示さなかったものは3眼であった.低眼圧緑内障の視野異常の緩徐な進行性は高眼圧緑内障との病態の相違を示すと考えられる.低眼圧緑内障とされる疾患は,(1)健常眼圧の低下,(2)高眼圧の看過,(3)虚血性視神経障害など偽緑内障を含み,低眼圧緑内障を研究するうえでこれらの疾患群を同一視することは混乱を招く.

色覚異常者の色誤認375人に対するアンケート調査Ⅰ

著者: 岡島修 ,   信太佐登子

ページ範囲:P.809 - P.812

 日常生活における色誤認の経験の有無とその具体例に関するアンケート調査を行った.対象は,入学時に色覚異常であることが判明している東京大学卒業生および在校生785人で,375人から解答がよせられた.
 色誤認の経験があると答えた者の比率は,異常三色型軽度,異常三色型,二色型の順に有意(<0.01)に高くなったが,第一異常と第二異常の間には有意差は認められなかった.
 色誤認の具体例をその内容から色別および事柄別に分類した.それらは色覚異常者の三つの色覚特性,すなわちⓐ第一異常における長波長領域の感度低下,ⓑ混同色線上の色混同,ⓒ中性点付近の彩度低下で説明することが可能である.

視神経乳頭ドルーゼンの2例

著者: 渡辺圭子 ,   一宮雅子 ,   山名泰生 ,   荒川哲夫 ,   猪俣孟 ,   日吉康子

ページ範囲:P.813 - P.818

 両眼性の視神経乳頭ドルーゼンの2例について報告した.1例は片眼に視野異常を伴い,乳頭面上に突出の著明な34歳男子である.他の1例は62歳男子で初診時に乳頭浮腫を示し,6年後に視神経乳頭ドルーゼンが確認され,明らかな視野狭窄の進行を示した.視神経乳頭ドルーゼンにおいて蛍光眼底造影検査でもうっ血乳頭様所見を示すことがあり,その診断には頭蓋内病変の検査を含めた総合的検査が必要である.

Ritch隅角鏡によるレーザートラベクロプラスティの成績

著者: 千原悦夫

ページ範囲:P.819 - P.821

 Ritchの隅角鏡を用いてレーザートラベクロプラスティ(LTP)を開放隅角緑内障12例16眼に行い,その成績を通常のコートされた3面鏡による17例24眼のLTPの成績と比較した.Ritchの隅角鏡によるLTPは隅角の観察と凝固が容易であり,照射エネルギーも350-500mWと半減できる.眼圧下降効果は両群の間に有意の差がなく,術後の一過性眼圧上昇はRitchの隅角鏡を用いたほうが少なかった.

視力・視野障害を初発症状とした脊索腫の2例

著者: 島田茂明 ,   後長道伸 ,   調枝寛治 ,   大田正博 ,   迫田勝明 ,   魚住徹

ページ範囲:P.823 - P.829

 視力・視野障害を初発症状とした脊索腫chordomaの2症例を報告した.
 症例 1 38歳男子は右眼耳側の半盲性暗点,症例2 65歳男子は左眼下方の半盲性暗点を認めた.2例とも頭部単純X線撮影とCTにより,トルコ鞍部にchordomaに特徴的な所見が認められ,経蝶形骨洞腫瘍摘出術を行った.症例1は腫瘍はほぼ全摘出可能であったため,術後の視機能に改善がみられたが,約1年後再発し視機能は再び悪化した.症例2は腫瘍部分摘出にとどまり,術後の視機能は悪化した.
 Chordomaは骨を破壊しながら進展する腫瘍であり,放射線感受性も低いため,良好な視機能の回復のためには,完全摘出が可能な早期に発見することが重要と考えられた.

開放隅角緑内障に対するargon laser trabeculoplastyの統計的検討

著者: 野呂瀬一美

ページ範囲:P.831 - P.835

 信州大学医学部眼科にて施行されたargon laser trabeculoplasty (ALT)39例48眼につき,retrospectiveに検討し,次の結果を得た.
 観察期間は3週間から28カ月,平均11.4カ月であった.照射範囲は隅角1/3周とした.
(1)第1回照射にて,28眼(58.3%)が眼圧コントロール良好となり,最終照射後には34眼(70.8%)が良好であった.
(2)60歳以上の症例は,60歳未満の症例に比して,有意に良好な眼圧コントロールを得た.
(3)術前眼圧が25mmHg未満の症例は有意に良好な眼圧コントロールを得た.
(4) ALT後1週間の眼圧が20mmHg以下の症例は有意に良好な成績を得た.

カラー臨床報告

特発性網膜上膜—後部硝子体分離898眼の臨床的検討

著者: 白川弘泰 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.793 - P.798

 後部硝子体分離898眼の細隙灯眼底検査により358眼(約40%)の後極部に網膜上膜を認めた.網膜上膜の存在頻度には性差がなかった.正視群での頻度は近視群に比較して約1.5倍高かった.網膜上膜は高齢になるほど多くみられ,60歳以上では50歳未満に比べて2-3倍の高率となり,硝子体分離の時期が遅いほど網膜上膜の発生の高いことが推測された.網膜上膜を程度により,1度a:孤立性で1/5乳頭径以下の斑点状の5個以内の透明な薄い膜(264眼),1度b;融合性あるいは多数個の透明な薄い膜(39眼),2度:網膜表層の皺襞形成を伴う薄い膜(31眼),3度;網膜表層あるいは全層の皺襞形成を伴う半透明状の肥厚した膜もしくは剥離した膜(24眼),に分類した.年齢,性差,屈折異常のいずれも単独では網膜上膜の程度とは明確な相関関係を示さなかった.しかし,60歳以上の正視群や,飛蚊症を自覚してからの期間が長い例では重症な網膜上膜が多く観察された.特発性網膜上膜は極めて高い頻度で認められ,加齢および後部硝子体分離の時期に関係して発生し,硝子体分離後の期間が網膜上膜の進行に重要であることが示唆された.

文庫の窓から

眼科真筌

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.836 - P.837

 「眼科真筌」は謬布湼爾(Ludwig Bttchner,1824-1899)著,江馬聖欽正人訳で,文久元年(1861)に刊行された.
 本書は上(26葉)下(34葉)巻の2冊よりなり,漢字,片仮名交じりの和文で書かれ,内容は眼焮衝(Ocular Inflammation)を中心に述べたものである.上巻に総論,各種焮衝の病性,経過,区別等を述べ,下巻においてその通治療法を記しているが,各巻の主な項目を抄記すると以下の通りである.

Group discussion

緑内障(第27回)

著者: 澤田惇 ,   山元章裕 ,   松浦義史

ページ範囲:P.839 - P.841

 今回のテーマである「緑内障のレーザー治療の適応と合併症」について16題の一般演題が発表された.
 中谷一・斉藤喜博・中内正興・岡部純子・往江憲勇(大阪厚生年金)は,緑内障に対するレーザー治療成績について述べた.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.842 - P.842

論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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