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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻8号

1986年08月発行

雑誌目次

特集 第39回日本臨床眼科学会講演集 (7) 学会原著

斜視手術の量定に及ぼす解剖学的因子の検討

著者: 大原輝幸 ,   福原晶子 ,   岩重博康 ,   久保田伸枝

ページ範囲:P.859 - P.863

 内直筋および外直筋の付着部と角膜輪部間の距離を,過去5年間の斜視手術患者のうち内斜視250例338眼,外斜視335例443眼について測定した.
 内直筋の付着部の距離は,内斜視4.58mm,外斜視5.21mmであり,前者が有意に短かった(P<0.001).外直筋では内斜視6.46mm,外斜視6.03mmと内斜視の方が有意に長かった(P〈0.05).付着部の距離の分散は,内直筋が3.0mmから7.0mmで,外直筋は5.0mmから9.0mmであった.これらの結果から,角膜輪部から付着部までの距離は,水平斜視における手術の諸因子に影響を与えることが推定され,術前の量定の際に角膜輪部からの測定も検討すべきと考えられる.

輻輳過多型内斜視に対するFaden手術

著者: 木井利明 ,   中川喬 ,   森繁樹 ,   梅本亨 ,   中井秀樹

ページ範囲:P.865 - P.868

 術前遠近斜視角差が10 prism diopter(PD)以上ある輻輳過多型内斜視25例に対し内直筋Faden手術を行い,両内直筋後転術を行った25例と比較検討を行った.また,内直筋Faden手術後の4例にEOG検査を行い,以下の知見を得た.
 ①内直筋Faden手術は両内直筋後転術にくらべ,輻輳過多型内斜視の遠近差の矯正に効果が大きかった.
 ②Faden手術による遠近差の矯正効果は約12〜13PDであった.
 ③術前の近見斜視角の大きいもの,および遠近斜視角差の大きいものにFaden手術の矯正効果が大きかった.
 ④Faden手術両眼施行群と片眼施行群との間に矯正効果の大きな差はなかったので,まず,片眼Faden手術を試みるべきであると考えた.
 ⑤Faden手術後の内転時衝動性眼球運動最大速度は,手術眼と非手術眼に大きな差がなかった事より,Faden手術は著明な麻痺を作る事のない安全な手術法と考えられた.

立体視成立時間と輻輳運動の関係について

著者: 近江栄美子 ,   乾敏郎

ページ範囲:P.869 - P.872

 赤外線眼底ハプロスコープを用いて,ランダムドットステレオグラム(RDS)の立体視成立時間と視差の関係について検討した.まずRDS呈示後,立体視成立までの反応時間を,9歳〜14歳の正常小児および正常成人に対して測定を行った.その結果,①視差が大きいほど立体視成立に要する時間は長かった.②8'以下では,立体視成立に差は見られなかった.③正常の成人の場合,凹図形の32'では約半数のものしか正答できなかった.
 次に,RDSを5秒間呈示し,被験者に奥行きおよび形を答えさせた.その結果,奥行きだけ正答する場合の方が,形だけ正答する場合より多かった.また,奥行きの方が速く処理される傾向にあった.以上の結果から,輻輳運動によって視標を探索する際,大まかな奥行きが手がかりとなっていることが示唆された.

定型杆体一色型色覚の心理物理学的特性

著者: 環龍太郎 ,   神立敦 ,   北原博 ,   北原健二

ページ範囲:P.873 - P.876

 いわゆる定型杆体一色型色覚の1例についてその視覚特性を種々の心理物理学的検査法を用いて検索した.
 その結果,色相配列検査では,主としてスコトピック軸の著しい混同がみられた.アノマロスコープならびに暗順応下,明順応下視感度測定ではともに正常者の暗所視比視感度特性類似のパターンを呈し,いかなる錐体系の反応も検出されなかった.しかしながら,スタイルズ・クロッフォード効果測定では,暗順応下においてみられなかった本効果が,明順応下では明らかに示された.さらに,暗順応測定では二つの成分が検出された.
 以上の結果から,本症例においては杆体以外に,錐体類似の形態をもつ光受容器の存在が示され,両受容器ともにロドプシン類似の分光特性をもつ視色素を有すること,また異なる暗順応機構の存在が示唆された.これらの結果は視力障害を伴った先天性色覚異常の鑑別診断上有用と思われる.

網膜色素変性症における眼底直視下網膜感度測定 定型的網膜色素変性症

著者: 平戸孝明 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.877 - P.881

 網膜色素変性症10例に対し,眼底視野計を用いて,眼底直視下動的量的視野計測を行った.結果を螢光眼底写真上にプロットし,網膜感度,眼底所見,螢光眼底所見,三者の関係を検討した.
 その結果,螢光眼底写真上,顆粒状過螢光を密に認める部は,視角6,5',輝度1000asbの視標にて暗点となった.また,輝度1000asb視標を感じる部は,顆粒状過螢光像はほとんどないか,存在しても密度が低く,輝度100asb視標を感じる部では,顆粒状過螢光像は存在しなかった.輝度10asb視標によるイソプターは,螢光眼底写真上異常を認めない部よりも狭かった.
 以上のごとく,顆粒状過螢光密度により示される,網膜色素上皮萎縮の程度と,網膜感度との間に密接な関係が認められた.

仮性同色表の自動提示装置に関する研究2.TMC表による試み

著者: 深見嘉一郎 ,   島本史郎 ,   石黒裕之

ページ範囲:P.882 - P.884

 仮性同色表の使用条件(Schmidt)は次のようである.①適正な照明.②十分な照明.③表を一定の角度で照らす.④表は視線に対して直角に.⑤視距離を一定に.⑥表提示時間を一定に.⑦常に全表を見せる.⑧表の提示順序を常に変える.
 しかし実際は相当にラフに使われている.そこで,上の条件を満たす器械を試作したが,1号機は表提示順序を変えられなかった.
 今回は2号機をTMC表を使って,順序も変えられるようにした.表の提示順序は,乱数によった.
 未熟な検者に使わせても十分検査できる.また記録も残せるので,後日の検討が可能である.
 今後はより簡便にして,安価な器械とすることが必要である.

視神経乳頭ドルーゼン自験例7症例の臨床報告と本邦文献77症例の分析

著者: 山本由佳里 ,   永田豊文 ,   栗田邦雄 ,   渡邉郁緒

ページ範囲:P.885 - P.889

 当科外来にて,視神経乳頭ドルーゼン7症例13眼(表在型5例:9眼,埋没型2例:4眼)を経験した.これら7症例は我々の外来の新来総患者の0.04%に相当する.臨床所見の分析結果から得られた興味深い点は,網膜色素変性症を併発する症例では視神経乳頭は正常大で乳頭上の血管の走行や分岐にも異常は認められなかったが,特発性の症例では乳頭径は正常より小さく血管の分岐異常や走行異常を示すものが多かったことで,本症の成因に有用な示唆を与えるものと考えた.
 さらに,上記7症例を含めた,わが国での報告例77症例の臨床所見,併発症などの分析を行った.

視神経浸潤を発症した急性白血病の5例

著者: 二階堂寛俊 ,   井上恭一 ,   小野秀幸 ,   三嶋弘 ,   調枝寛治 ,   土肥博雄 ,   蔵本淳

ページ範囲:P.891 - P.895

 視神経浸潤を来した急性白血病5例(急性骨髄性白血病3例,急性リンパ性白血病2例)の治療経過について報告した.
 いずれの症例も視神経乳頭が著しく突出し,乳頭周囲網膜が混濁していた.CTを行った3例のうち2例では,視神経が著しく腫大していた.
 3例に放射線療法を施行し,1例は眼底所見が著しく改善したが,全身状態が悪化し,死亡した.2例は視神経乳頭が萎縮したが,腫瘍の所見は消失した.全例に化学療法剤の髄液腔内注入を施行したが,大きな効果はなかった.
 白血病の視神経浸潤に対して,薬物療法は無効といわれているが,化学療法剤の効果に関して考察を行った.
 また,白血病の視神経浸潤の場合,早期に放射線療法を中心とした治療を行うことが必要であることを述べた.

神経眼科的交通外傷の統計的研究

著者: 近江俊作 ,   筒井純

ページ範囲:P.897 - P.900

 1977年1月より1984年6月の間に川崎医大附属病院神経眼科外来を初診した神経眼科的交通外傷患者のうち,事故の状況の明確なもの71例に対し,交通外傷の発生機転と障害の特徴について調査した.
 外傷が発生した時の加害者(自己の場合もある)の使用していた車種により分類し,四輪車事故は受傷機転によりさらに三つに分類した.
 四輪突入事故は26例(36.6%),歩行中四輪車にはねられた事故は10例(14.1%)あり,外眼筋麻痺が高率に認められた.四輪被追突事故は13例(18.3%)あり,調節・輻輳障害が高率に認められた.自動二輪事故は12例(16.9%),自転車事故は9例(12.7%)で,視神経障害が特徴としてあげられる.自動二輪事故の場合,外眼筋麻痺の発生率も高かった.

優性遺伝性若年型視神経萎縮の一家系

著者: 中塚和夫 ,   田村充弘 ,   後藤正雄 ,   麻生明子

ページ範囲:P.909 - P.914

 先天性第3色覚異常を診断するにあたり,その鑑別が問題とされる優性遺伝性若年型視神経萎縮の一家系,男子兄弟3人と父に色覚検査を主とする臨床一般検査を行った.
 視神経乳頭の耳側蒼白は長男のみ明瞭で,他は極めて軽度であった.色覚異常は全員,第3異常を呈したが,色相配例検査より程度が強いと判定される症例は,赤緑異常も併有していた.これら色覚異常の程度は0.1〜0.6の矯正視力とよく相関していた.一方,視神経乳頭の耳側蒼白の程度とは,蒼白が顕著な場合を除き,必ずしも相関しないと考えられた.
 螢光眼底造影施行の3症例中の2症例に腕—網膜循環時間の遅れを認めたため,中の1症例に循環器と血液凝固機能の精査を行ったが,特に著変はなかった.さらに視神経萎縮の原因として,乳頭周囲毛細血管網を含む乳頭血管の異常の存在を疑ったが,その証拠は見出せなかった.

Cytochrome c oxidaseの部分欠損を認めた家族性ocular myopathyの2症例

著者: 川崎真木生 ,   小笠原孝祐 ,   田澤豊 ,   鈴木武敏 ,   新津光子 ,   班目仁 ,   野村毅

ページ範囲:P.916 - P.921

 常染色体優性遺伝と考えられた家族性ocular myopathyの2症例を報告する.臨床的には眼瞼下垂,進行性外眼筋麻痺の他に,三角筋の筋力低下,感音性難聴,耐糖能異常,高脂血症,血清ピルビン酸値の上昇が認められた.病理組織学的検査で,ragged-red fiberおよびmitochon-dria内封入体や巨大mitochondria等のmito-chondriaの形態異常が観察され,また特殊染色でcytochrome c oxidaseの部分欠損が認められ,mitochondria内における代謝異常が示唆された.

学術展示

多発性内分泌腺腫症の1例

著者: 西原勝 ,   板東康晴 ,   小川剛史 ,   三村康男 ,   大下和司 ,   露口勝

ページ範囲:P.922 - P.923

 緒言 多発性内分泌腺腫症(multiple endocrineneoplasia,以下MENと略) type IIIは,多発性粘膜神経腫・甲状腺髄様癌および褐色細胞腫を合併する非常にまれな疾患である.今回,我々は,MEN type IIIと思われる1例を経験したので報告する.

Habekacinの眼内移行に関する研究—第2報 結膜下注射

著者: 大桃明子

ページ範囲:P.924 - P.925

 緒言 強力な抗緑膿菌作用を有する新しいアミノ配糖体抗生剤Habekacin (以下HBK)の臨床応用の基礎的検討として,各種投与法によるHBKの眼内移行の動態について検討している.第1報では点眼による成績1)を報告したが,今回は結膜下注射による成績について述べる.

眼感染症における緑膿菌のアミノ配糖体剤感受性検査成績

著者: 水流恵子

ページ範囲:P.926 - P.927

 緒言 緑膿菌感染症の抗生物質療法では,第一選択剤としてアミノ配糖体薬剤が重要な位置を占めているが,近年,その使用頻度の増加に従って耐性菌の出現が注目されている.眼科領域において,最近の抗生剤点眼薬の開発にはアミノ配糖体が多い傾向にあることから,今回,緑膿菌に対するアミノ配糖体薬剤感受性検査を行い,血液型別についても検討したので,以下にそれらの成績を報告する.

Candida性眼内炎の眼病理組織

著者: 大野研一 ,   渋谷和俊 ,   石田哲朗

ページ範囲:P.928 - P.929

 緒言 真菌性眼内炎の診断にあたり眼病理学的検索のなされた例はわが国においては意外に少ない.今回我々は螢光抗体間接法によりCandida性眼内炎であることを確認した1症例を経験したので,ここに報告する.

前房内線虫迷入の1症例

著者: 猪本康代 ,   板東康晴 ,   西原勝 ,   藤田善史 ,   伊藤義博

ページ範囲:P.930 - P.931

緒言
前房内に線虫が迷入した症例の報告はまれであるが,今回我々は東洋眼虫と思われる線虫が2匹,前房内に迷入していた1症例を経験したので報告する

超音波診断における眼部画像処理と臨床的意義第18報走査方式と画像差

著者: 窪田美幸 ,   山内紘通 ,   矢野真理 ,   松井茂晴 ,   富田美智子 ,   菅田安男 ,   山本由記雄

ページ範囲:P.932 - P.933

 目的と方法 同一メーカーによる電子リニアおよびメカニカルセクタ走査方式による2機種を使用して次の画像を比較した.
1)生体に近いモデルとして透析用セロファン膜(幅3cm)内に, ①生理的食塩水15ccをいれたもの ②生理的食塩水15ccにHt 50%の洗浄赤血球2ccを加えたもの ③蒸留水15ccにHt 50%の洗浄赤血球2ccを加えた溶血液

VDT作業従事者および予定者の集団検診の結果とその検討

著者: 中田先一 ,   沖坂重邦 ,   石田誠夫 ,   川村緑 ,   中島章

ページ範囲:P.934 - P.935

 緒言 近年,OA機器などの急速な発達と普及がみられるが,その反面,Visual display terminalいわゆるVDT作業従事者の眼の疲労をはじめとする多くの社会的問題がとりあげられてきており,眼科的にも数多くの報告がある1).しかし,集団検診でのスクリーニングによる検査報告は少ないようである2)
 今回我々は,数カ所の事業所においてVDT作業従事者および予定者の集団検診を行い,その結果よりVDT作業者の健康管理に対して眼科的問題点および対策について検討を試みた.

ひずみゲージ式圧力検出素子による眼底血圧測定

著者: 田辺法子 ,   松原正男 ,   河井克仁 ,   櫻井やよい

ページ範囲:P.936 - P.937

 緒言 眼の成人病検診が普及するなかで,Ophthal-modynamometerによる網膜中心動脈血圧測定の臨床的意義はなお大きい.
 しかし,従来の眼底血圧測定は,測定値の精査や検査助手を必要とすること,測定記録をとれないなどの問題がのこされている.

マイクロ波凝固装置を用いた臨床手術症例

著者: 三木弘彦

ページ範囲:P.938 - P.939

 緒言 著者らは電磁波の一種である極超短波(マイクロ波micro wave)のエネルギーを利用した新しい眼科用マイクロ波手術装置を開発し,動物を用いた基礎実験を行った結果,臨床応用が可能であることが分かり報告した1,2,3)
 今回は基礎実験で得られた成績をもとに,臨床応用を試みた.対象疾患は裂孔原性網膜剥離,白内障,緑内障などの入院手術や,また,翼状片,霰粒腫などの外来手術の際に止血や眼底凝固として使用してよい結果を得たので報告する.

Chediak-Higashi症候群の眼所見

著者: 塩屋美代子 ,   西元雄一郎 ,   益山芳正 ,   澤田惇 ,   宇都宮与

ページ範囲:P.940 - P.941

 緒言 Chediak-Higashi症候群は,1)皮膚,毛髪および眼底の部分的白子症,2)白血球およびその他の多くの体細胞における原形質内の巨大顆粒または巨大ライソゾームの存在,3)化膿性感染症に対する防衛力の低下,常染色体性劣性遺伝を特徴にもつ疾患である.本症候群の成人までの生存例はきわめて少なく,そのほとんどの報告が小児例に関するものである.さらにこれらの中で眼所見についての詳細な記載のあるものはきわめて少ない.わが国においても,眼科領域での報告は小児例の1例があるのみで,成人例の報告はみあたらないようである.今回我々は28歳女性の1例を経験したので,その眼所見について報告する.

放射線療法が有効と思われた急性リンパ球性白血病の眼内浸潤の1例

著者: 福井和幸 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.942 - P.943

 白血病の経過中に,さまざまな眼部への浸潤が起こることはよく知られている.さらにこれに対して放射線療法が奏功するという報告も多い.今回,右眼の視神経および広範な脈絡膜への浸潤を来した急性リンパ球性白血病(ALL)の症例に対して,放射線療法が有効であったので報告する.
 症例 は7歳男児.食思不振および全身倦怠感を訴えて,1983年10月当院小児科に入院.入院時,白血球数124500/mm3,赤血球数442×104/mm3,血小板5.1×104/mm3であり,細胞分画にても,末梢血にリンパ芽球が66%みられた.ALLの診断のもとに強力な化学療法が施行された.その3日後に眼科に精査依頼があり,その際眼底は,白血病性網膜症と思われる斑状出血を数個みとめる以外異常はなかった.化学療法が奏功し,経過も順調で血液所見も正常化しつつあったが,その後,中枢神経系白血病を起こした.これに対して,メソトレキセートの髄注,脊髄への放射線照射を行ったが,寛解,再燃を繰り返した.4度目の中枢神経系白血病を再燃した際,同時に右眼の視力低下を訴えて,1984年7月に当科を再診した.この時の血液所見は,白血球数3500/mm3,赤血球数380×104/mm3,血小板数18×104/mm3であり,未梢血中に白血病細胞は認められなかった.またCT所見でも,脳,眼窩および視神経に著変は認められなかった.しかし,髄液中には,白血病細胞が多数みられ,髄液圧も亢進していた.眼科的所見では,視力は右20cm指数弁,左0.4(ともに矯正不能),眼圧は右17mmHg,左17mmHg。前眼部および中間透光体は異常なく,前房および硝子体中の細胞は明らかでなかった。眼底所見は,右眼は乳頭浮腫および網膜の漿液性の剥離が著明で,色素上皮の脱色素および色素沈着がみられた。左眼は正常であった。対光反射も右眼は直接反射が遅延しており,間接反射は正常であった。螢光眼底造影では,乳頭および静脈からの螢光色素の漏出がみられ,さらに脈絡膜からの無数の漏出点が認められた。視神経および脈絡膜への広範な白血病細胞の浸潤と考えて,眼窩後部1/3を含む全脳に総計2400rads(200 rads×12)を方笹行した。照射開始後,視力の改善,脳圧亢進症状の軽快がみられた。視力は放射線終了時では,右眼は0中4まで回復した。眼底所見も乳頭浮腫および網膜の漿液性剥離は改善した。しかし,色素沈着は残った。また螢光眼底所見でも,乳頭および血管からの螢光色素の漏出は改善し,さらに脈絡膜側からの螢光色素の漏出も消失した。その後,視力については,経過良好であったが,Leucoencephalopathyを起こし,1984年10月に死亡した。病理解剖は行われなかった。

連載 眼科図譜・343

春季カタルでの角膜輪部嚢胞

著者: 阪下みち代 ,   笹部哲生 ,   水野薫 ,   中川やよい ,   湯浅武之助

ページ範囲:P.850 - P.851

 春季カタルでは瞼結膜の石垣状乳頭増殖がよく知られているが,他に輪部の膠様増殖,Trantas斑,角膜の老人環様混濁,びまん性表層性角膜炎,限局性角膜びらん等の多彩な症状を呈する.今回著者らは輪部に嚢胞を形成した症例を経験したので報告する.

今月の話題

ヘルペスの再発

著者: 大橋裕一

ページ範囲:P.853 - P.858

 日常臨床で遭遇する角膜ヘルペスは大部分が潜伏ウイルスの再活性化に基づくものである.この再発性角膜ヘルペスの臨床像は大きく上皮型と実質型に分けられ,それぞれが異なった病態により発症している.角膜ヘルペスの発症病理と治療ポイントおよび問題点について解説する.

最新海外文献情報

視神経・視路,他

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.902 - P.904

Sestokas AK, Lehmkuhle S : Visual response latency of X-and Y-cells in the dorsal lateral genicuate nucleus of the cat. Vision Res 26 : 1041-1054, 1986
 視覚系にXとY細胞のチャンネルがあることは周知であり,図式的にXが空間周波数,Yが時間周波数に関する視機能を司ると考えるとわかりやすい.ところがこの著者らはそのように割り切るのは正しくなく,Yチャンネルも空間周波数分析能に大いに関与しているとする研究を積み重ねてきている.ネコの背側外側膝状体に細胞外電極を置き,格子縞刺激の受容野の態度と視交叉からの電気刺激に対する潜時からX,Yチャンネルを定義した.そして格子縞の空間周波数とコントラストを変えつつ受容野を刺激し,各チャンネルの反応潜時,ピーク潜時およびそれらの偏差を調べた.その結果Yは低空間周波数で,Xは中間の周波数で反応潜時が短く偏差も小さかった.Yの反応およびピーク潜時はXより10-15msec短いことも示した.この結果をYチャンネルが先に例えば森のような荒い視覚情報を分析し,次いでXが細かい情報つまり木の情報を得るのに使われるという風に解釈している.

臨床報告

眼動脈と黄斑部眼底の先天異常を伴う筋緊張性ジストロフィ

著者: 真舘幸子 ,   矢野裕美 ,   島孝仁 ,   内山伸治

ページ範囲:P.949 - P.953

 一過性左視力消失を契機に診断された筋緊張性ジストロフィの35歳男性例を報告した.眼症状として,両黄斑部異常,非特異的で極く軽度の両白内障,両低眼圧,左眼瞼下垂,左乾燥性角膜炎,左瞳孔反射異常および左外斜視があった.左眼底では中心窩反射,黄斑輪状反射および黄斑部暗黒斑を欠き,黄斑部に相当する部位には検眼鏡で白色線条を伴った帯状黄色部がみられ,蛍光眼底造影ではwindow defectおよび網状のblockによる低蛍光が認められた.さらに左眼には黄斑部動脈走行異常および非定型的脈絡膜欠損が合併していた.右眼の中心窩反射および黄斑部暗黒斑は同定可能で,網膜血管の異常はないが,黄斑輪状反射は不鮮明であり,点状の低蛍光および過蛍光がわずかにみられた.本症例では眼以外の先天異常として,頭蓋骨肥厚,,トルコ鞍狭小,高口蓋,漏斗胸,潜在性二分脊椎および左眼動脈低形成が確認された.

網膜静脈分枝閉塞症に続発した網膜剥離に対する硝子体切除の手術成績

著者: 今泉寛子 ,   竹田宗泰 ,   木村早百合 ,   国立亨治 ,   宮部靖子 ,   鈴木泰 ,   田宮宗久

ページ範囲:P.955 - P.959

 網膜静脈分枝閉塞症に続発する網膜剥離8例の特徴と,それに対する硝子体切除の手術成績を検討し,報告した.
 全例裂孔を有する網膜剥離で増殖性網膜症を合併していた.裂孔はすべて網膜静脈分枝閉塞領域で赤道部より後極側に存在していた.
 手術はOcutomeの3 port systemで硝子体切除を行った後,7眼にシリコンオイルの眼内注入を行い,1眼は眼内に空気のみを注入し,3眼に輪状締結を併用した.
 術後全例に網膜の復位は得られたが,術後視力は0.7の1眼を除き,他は0.2以下であった.視力不良の原因として,硝子体出血による網膜剥離発見の遅延,網膜静脈分枝閉塞症による黄斑部変性が考えられた.

翼状片の再発率に影響する諸要因

著者: 与那嶺豊 ,   外間政利 ,   名城知子 ,   比嘉弘文

ページ範囲:P.961 - P.965

 1983年までの2年間に742例の翼状片手術がなされ,全例に翼状片切除に強膜露出と,結膜有茎弁移植を併用した同一の術式が採用された.
 再発は初回手術608例の160例(26%),2回手術60例の29例(48%),3回手術7例の6例(86%)にみられ,再発率は手術回数と共に著しく増加した.また,30歳以下の若年者,三つ以上の多数の翼状片を持つ症例,術後に肉芽腫が続発する症例においては,再発率が有意に高率であった.
 一定期間以上の経過観察ができない脱落例数の累計は時と共に増加し,これと相関して再発率も上昇するので,手術成績の統計的指標には,単に再発率のみならず脱落例数も考慮する必要があると考えられた.
 120例の比較対象の結果,術後のステロイド点眼には,再発を減少させる効果はなかった.

眼内レンズ固定機構と血液房水柵機能(続報)

著者: 三宅謙作 ,   前久保久美子 ,   朝倉当子

ページ範囲:P.967 - P.971

 我々は水晶体嚢内および毛様溝固定の後房レンズ(PCL),開放型および閉鎖型loopの前房レンズ(ACL)の4群の固定方法の血液房水柵に対する影響を,細隙灯式fluorophotometryを使用して検討した.平均術後1.1年では閉鎖型,あるいは長方形型loopのACLが他の型の眼内レンズ(IOL)より,有意に高い血液房水柵の破壊を示した.毛様溝固定のPCLは水晶体嚢内固定のPCLと比較し,有意に高い柵破壊を示した.水晶体嚢内固定のPCL以外の全ての固定方法は,IOL挿入のない無水晶体眼と比べ,有意に高い柵破壊を認めた.平均術後3.2年では,2群のPCLはIOLの挿入のない無水晶体眼と比べ,有意な柵破壊を認めなかったが,毛様溝固定の群には,相当な柵破壊を示す症例が含まれた.2群のACLは,術後3.2年でもなお無水晶体眼と比べ,有意に高い柵破壊を示した.以上の結果からIOLの固定方法は,偽水晶体眼の血液房水柵機能に影響をあたえ,水晶体嚢内固定のPCLが最も安全な固定方法であることが結論された.

新生児型クラミジア性結膜炎の診断基準

著者: 青木功喜 ,   諸星輝明 ,   沼崎啓 ,   千葉峻三

ページ範囲:P.973 - P.976

 過去3年間にクラミジア性結膜炎を疑った新生児58名の擦過結膜において,クラミジアの分離培養,抗原の検出とギムザ染色によるプロパツェック小体の検索を行うと共に,母親の血清中抗クラミジアIgG, IgMの測定値を参考にして,クラミジアによる結膜炎と病因的に確認した症例は22例(38%)あった.この22例を中心にして新生児型クラミジア性結膜炎の臨床的スクリーニングとして次のごとき診断基準を得た.
 ①発病は一定の潜伏期の後で4日以後に発症し1週から2週の間にピークを有する.
 ②主訴は眼脂と充血が多く流涙は少ない.
 ③結膜炎は両眼発症が64%でその程度は強く,偽膜を伴う場合が多くみられる.
 ④親に帯下の増加,尿道炎の既往歴を有しておる場合が多い.
 ⑤母親の血清中抗クラミジアIgG値はELISAで0.33以上,IFAで80倍以上が新生児型クラミジア性結膜炎と相関し診断の参考となる.

クリプトンおよびアルゴンレーザートラベクロプラスティ

著者: 真壁祿郎

ページ範囲:P.977 - P.979

 点眼のみでは眼圧調整不能の原発性開放隅角緑内障に対し,同一条件のもとで,25眼に赤色クリプトン,110眼に青緑混合アルゴン,14眼に緑色アルゴンレーザーを用いてトラベクロプラスティ(LTP)を行った.
(1)赤色クリプトンLTP施行24時間後の眼圧下降は平均4.8mmHg,1カ月後は平均2.3mmHgで未だ有意なるも,3カ月後には眼圧下降効果は全く認められなかった.これに対し,アルゴンLTPでは24時間後,1カ月,3カ月,またはそれ以降も平均7.0〜8.2mmHgの眼圧下降であり,アルゴンに較べてクリプトンLTPの効果は明かに劣った.
(2)青緑混合アルゴンと緑色アルゴンレーザーの間には,眼圧下降,トノグラフィーC値改善効果に差を認めなかった.
(3)角膜混濁などで通常の青緑混合アルゴンレーザー透過困難な症例では,赤色クリプトンではなく緑色アルゴンレーザーを使用すべきである.

Acyclovirによる単純ヘルペス性角膜炎の治療

著者: 直井信久 ,   千原悦夫 ,   吉田晴子

ページ範囲:P.980 - P.984

 単純ヘルペス性角膜炎に対するacy-clovir眼軟膏の治療効果を検討した.臨床的に単純ヘルペス性であると診断された角膜潰瘍に対してacyclovirは26眼中24眼(92%)に有効であり,平均潰瘍消失日数は5.2日であった.炎症が実質に波及していないか軽度の12眼では平均消失日数はわずか3.2日であった.IDU耐性と考えられる7眼に対してもacyclovirは有効であった.acyclovirにより治癒した角膜潰瘍患者を追跡調査し再発率を調べた.6カ月後には22%,12カ月後には46%,24カ月後には60%に再発を認めた.再発例に対してもacyclovirは有効で,平均潰瘍消失日数は,6.0日であった.円板状角膜炎6眼に対しacyclovir軟膏とステロイドの併用療法を行った.全例において平均16日で角膜炎の消炎をみた.経過中に上皮性潰瘍の出現はみられなかった.さらに単純ヘルペス性角膜炎の治療に対する現在の我々の考え方を述べた.

カラー臨床報告

脈絡膜病変を合併した眼部帯状ヘルペスの1例

著者: 岩元義信 ,   松村絹子 ,   平山善章

ページ範囲:P.945 - P.948

 散在性の脈絡膜病変を同側眼に合併した,眼部帯状ヘルペスの1症例を報告した.
 症例 は基礎疾患を何ら有しない62歳男性で,特徴的な顔面の皮疹,表層性角膜炎,虹彩萎縮を伴った虹彩毛様体炎,続発緑内障に加えて,発症2カ月後に眼底に散在性の滲出斑が出現し,しだいに拡大した.検眼鏡および蛍光眼底造影において,病巣内に脈絡膜血管が認められ,網膜色素上皮とともに脈絡膜毛細血管板にも萎縮が存在することが示された.病変の主座は脈絡膜毛細血管板を中心とした脈絡膜と思われたが,その原因がウイルスによる直接的炎症なのか,血管炎による循環障害が主体なのかは不明であった.
 眼部帯状ヘルペスにおいては,眼球摘出を余儀なくされる重症例でなくても脈絡膜病変を合併しうることが示された.

薬の臨床

Ofloxacin眼軟膏のクラミジア性結膜炎に対する臨床効果の検討

著者: 青木功喜 ,   諸星輝明 ,   千葉峻三

ページ範囲:P.985 - P.988

 臨床的にクラミジア性結膜炎と診断した症例17例にofloxacin眼軟膏(DE-055)を1日4回の頻度で用い薬剤の効果を自覚的,他覚的に判定した.
 薬剤の効果は病因を確認した7例中2例が著効,2例は有効で7例中に無効果は認められなかった.クラミジアが疑われた症例10例では無効例が2例,判定不能が1例に認められたが,他は効果が認められた.新生児1例では眼軟膏使用後眼瞼湿疹を示した.
 細菌の混合感染が7/17(41%)に認められ,エリスロマイシンとテトラサイクリンに較べて耐性の少ないofloxacinがクラミジア感染には有益であり,ofloxacinの点眼液で効果の少なかった症例に眼軟膏は有効であった.

Group discussion

視野

著者: 溝上国義

ページ範囲:P.989 - P.991

1.Uhthoff症候をともなったシンナー中毒による視神経症の1例
○高槻玲子・小川憲司(関西労災病院) 21歳男性,急性シンナー中毒のため両眼とも視力は"ゼロ".徐々に視力は回復し,両眼とも矯正視力1.0となり,この頃よりUhthoff症候を自覚するも半年後には消失.以後,数回にわたりシンナー中毒による視神経障害を繰り返し,左眼の視野障害を残した.
 追加:松崎(慈恵医大):視力"ゼロ"というには他覚的検査で確認が必要.シンナー中毒の視機能が回復するのは,障害が髄鞘に起こるからと考える.

眼科と東洋医学

著者: 竹田真

ページ範囲:P.992 - P.993

 1984年札幌で開かれた臨床眼科学会の際に,「眼科と東洋医学」の会が他のグループディスカッションと同じ時間帯に開かれた.この時の出席者は約50名であった.演題は8題であった.またこれを機に「眼科と東洋医学」の会は正式に臨床眼科学会のグループディスカッションとして認定された.したがって今回の会は当グループディスカッションにとって第1回目の記念すべきものである.一般演題は6題であり特別講演一題であった.

文庫の窓から

眼科要略

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.994 - P.995

 古くから漢法眼科を主流にして来たわが国の眼科は蘭法眼科が急速に移入される様になり,その精確さが認められるに至って,従来の漢法の他に蘭法や漢蘭折衷といった眼科が盛んになり,次第に漢法眼科の弊をただそうとする方向に変わって行った.眼科書もこれまでの秘方秘伝書などは次第に影をひそめ,基礎的,臨床的に裏付けのある蘭法眼科書が翻訳され,編纂されるものが多くなった.こうした時期,文久3年(1863)より慶応元年(1865)にわたり,中川哲(字明甫,号淡齋)編集によって刊行されたのが「眼科要略」である.
 本書は,中川哲がその凡例に「西哲ノ書ニ就テ諸説ヲ折衷シ……編輯ノ例一々扶氏遺訓ノ体ニ従イ……主トシテ布歛幾,設里鳥斯ヲ研覈シ,旁ラ悉篤満,謬布湼兒,扶歇蘭土,季加兒度及ビ摸斯篤等ノ群籍ヲ参考シテ……」と述べている様に,多くの蘭法医書によってその諸説を折衷し結集したものとみることができる.また,本書の巻尾(巻3および巻6)には多数の彩色眼病図,眼療器具図および光線諸図が所載されているが,その凡例に「…緒図取中目樗山翁目病真論,者居多,家厳嘗従翁受其口訣手術,雖今不主一家,竊存影響千此所以不忘旧誼也,諸証名例不一,不必仍諸書所載云」「諸図係視学一歩所載者今掲之……」とあり,本書に所載した諸図は中目樗山(1808〜1854)著「目病真論」(全4巻嘉永3年刊)や中環(天游,1783〜1835)著「視学一歩」など参考にしていることがうかがえる.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.996 - P.996

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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