放射線療法が有効と思われた急性リンパ球性白血病の眼内浸潤の1例
著者:
福井和幸
,
高橋茂樹
ページ範囲:P.942 - P.943
白血病の経過中に,さまざまな眼部への浸潤が起こることはよく知られている.さらにこれに対して放射線療法が奏功するという報告も多い.今回,右眼の視神経および広範な脈絡膜への浸潤を来した急性リンパ球性白血病(ALL)の症例に対して,放射線療法が有効であったので報告する.
症例 は7歳男児.食思不振および全身倦怠感を訴えて,1983年10月当院小児科に入院.入院時,白血球数124500/mm3,赤血球数442×104/mm3,血小板5.1×104/mm3であり,細胞分画にても,末梢血にリンパ芽球が66%みられた.ALLの診断のもとに強力な化学療法が施行された.その3日後に眼科に精査依頼があり,その際眼底は,白血病性網膜症と思われる斑状出血を数個みとめる以外異常はなかった.化学療法が奏功し,経過も順調で血液所見も正常化しつつあったが,その後,中枢神経系白血病を起こした.これに対して,メソトレキセートの髄注,脊髄への放射線照射を行ったが,寛解,再燃を繰り返した.4度目の中枢神経系白血病を再燃した際,同時に右眼の視力低下を訴えて,1984年7月に当科を再診した.この時の血液所見は,白血球数3500/mm3,赤血球数380×104/mm3,血小板数18×104/mm3であり,未梢血中に白血病細胞は認められなかった.またCT所見でも,脳,眼窩および視神経に著変は認められなかった.しかし,髄液中には,白血病細胞が多数みられ,髄液圧も亢進していた.眼科的所見では,視力は右20cm指数弁,左0.4(ともに矯正不能),眼圧は右17mmHg,左17mmHg。前眼部および中間透光体は異常なく,前房および硝子体中の細胞は明らかでなかった。眼底所見は,右眼は乳頭浮腫および網膜の漿液性の剥離が著明で,色素上皮の脱色素および色素沈着がみられた。左眼は正常であった。対光反射も右眼は直接反射が遅延しており,間接反射は正常であった。螢光眼底造影では,乳頭および静脈からの螢光色素の漏出がみられ,さらに脈絡膜からの無数の漏出点が認められた。視神経および脈絡膜への広範な白血病細胞の浸潤と考えて,眼窩後部1/3を含む全脳に総計2400rads(200 rads×12)を方笹行した。照射開始後,視力の改善,脳圧亢進症状の軽快がみられた。視力は放射線終了時では,右眼は0中4まで回復した。眼底所見も乳頭浮腫および網膜の漿液性剥離は改善した。しかし,色素沈着は残った。また螢光眼底所見でも,乳頭および血管からの螢光色素の漏出は改善し,さらに脈絡膜側からの螢光色素の漏出も消失した。その後,視力については,経過良好であったが,Leucoencephalopathyを起こし,1984年10月に死亡した。病理解剖は行われなかった。