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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科40巻9号

1986年09月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・346

急性網膜色素上皮症

著者: 中山正 ,   松尾信彦 ,   小山鉄郎 ,   生田全

ページ範囲:P.1004 - P.1005

 1968年Gassがacute posterior multifocal placoidpigment epitheliopathy(APMPPE)を報告して以来,網膜色素上皮に病変の主座があると思われる様々な病型が報告されている.その中で急性網膜色素上皮症は若い女性の片眼を侵し,眼底後極部から中間周辺部にかけて灰白色滲出斑が散在性にみられる予後良好な疾患である.本邦では鬼頭1),宇山2),中条3),竹田4),鈴木5)らが,欧米ではJampol6)らの報告がみられ,ひとつの独立したclinical entityを形成するものと思われる.今回著者らは,それらと同一と思われる1症例をパノラマ合成写真として記録できたので供覧する.
 症例 は36歳の女性(AT,57-5420)である.初診の4日前に感冒に罹患し,その頃から左眼の羞明感があった.急激に左眼視力低下を来したために当科を初診した.初診時視力は右眼1.5(nc),左眼0.2(nc)であった.眼圧は右眼16mmHg,左眼12mmHgであった.右眼前眼部,眼底には異常なく,左眼は前房中に細胞(+)であった.左眼底は視神経乳頭の境界は不鮮明で充血し,黄斑部では灰白色の滲出性病巣は融合し,浮腫状を呈し,後極部から赤道部の病巣は1/2かは1/10乳頭径大で散在性に分布していた(図1).病巣の深さは網膜深層から網膜色素上皮のレベルであった.蛍光眼底造影では視神経乳頭は軽度の蛍光漏出を示し,滲出性病巣は造影初期からwindow defect様に過蛍光となった(図2).全身検査所見では血沈が1時間値35mmと亢進していた以外は麻疹,単純ヘルペス,水痘帯状ヘルペスなどのウイルス抗体価には著明な変動はなかった.以上から急性網膜色素上皮症の疑いにてプレドニゾロン30mgからの内服治療を開始し以後漸減した.2週間後には滲出性病巣は瘢痕を残すことなく消失し,左眼視力は1.2(nc)に改善した.

今月の話題

進行性角膜潰瘍の治療

著者: 赤羽信雄

ページ範囲:P.1007 - P.1010

 薬物治療に抵抗する進行性の難治性角膜潰瘍や,角膜穿孔に新鮮な角膜片を移植すると,わずか数日で驚く程良好な結果を得ることがある.技術的には普通の角膜移植と何ら変わる事も無い,誰にでもできる簡単な手術である.

臨床報告

Video display terminal使用による視機能への影響

著者: 渥美一成 ,   鈴村昭弘 ,   水谷聡 ,   辻中博子

ページ範囲:P.1027 - P.1031

 Visual display terminal (VDT)作業者と,一般事務作業者の眼精疲労を比較するため,調節時間,眼圧,視野を指針として検討した.
 被検者10名にVDT作業としてオペレーション作業1時間,9名に一般事務作業1時間行わせ,作業による調節機能の変化をaccommodo poly-recorderで測定し,applanation tonometerにて眼圧変化を測定し,octopus視野計にて視野測定を行った.作業後,VDT作業者では,調節緊張時間延長を認め,パターン分類でも調節衰弱パターンを示した.また,眼圧も作業後上昇を認めたが,調節機能と眼圧の間に相関は認めなかった.視野は変化を認めなかった.一般事務作業者は,調節機能に軽度の低下が認められる以外は変化を認めなかった.
 以上より,VDT作業は,一般事務作業に比べ,調節機能,眼圧に大きな影響を及ぼし眼疲労を発症しやすいことが示唆された.

眼瞼基底細胞癌の液体窒素冷凍凝固療法

著者: 滝川泰 ,   藤原久子 ,   亀田泰 ,   坂本高章 ,   水島睦枝

ページ範囲:P.1033 - P.1037

 基底細胞癌は,他の悪性腫瘍に比し経過は緩慢で転移は少なく,局所侵襲性であるが再発傾向がある.最近,基底細胞癌に対する冷凍凝固術が,外科的療法と同じ程度の低い再発率を示すとの報告がある.著者らは60歳女性と88歳女性の2例の眼瞼基底細胞癌患者に液体窒素冷凍凝固療法を行い,組織学的検査を行いつつ経過観察し,再発なく機能的にも美容的にも良好な結果が得られたので報告する.

低調節性輻輳過剰

著者: 生田全 ,   大月洋 ,   江木邦晃 ,   中山緑子 ,   平松美佐子 ,   渡邊好政

ページ範囲:P.1039 - P.1042

 調節力が低下しているために近見時に異常に努力して調節し,そのため過剰の輻輳が生じ,遠見での斜視角はわずかであるが,近見では強い内斜視になるhypoaccommodative convergenceexcessと思われる2例について報告した.
 調節力低下の原因として弱視の既往が関与していることが示唆された.治療としては,近用の凸レンズ付加の二重焦点眼鏡装用により症状の改善が認められた.

大量の網膜下血腫,硝子体出血を来した老人性円板状黄斑変性症

著者: 西村哲哉 ,   山田美和子 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1043 - P.1046

 大量の網膜下血腫,硝子体出血を来した老人性円板状黄斑変性症10例,10眼について報告した.平均年齢は61歳で,40歳台にも2例見られた.中心暗点や変視症で発症し,1週から数週間後に大量の網膜下血腫,硝子体出血を来し,視力障害が高度となった.他眼に老人性円板状黄斑変性症を認めたものが3眼,黄斑部に多数のドルーゼンを認めたものが2眼あった.硝子体手術施行の6眼中3眼は,視力の改善が見られたが,他の3眼は黄斑部網膜の変性が高度であったため視力は回復しなかった.
 高齢者の硝子体出血の原因の一つとして,老人性円板状黄斑変性症を常に考慮すべきである.

涙点プラグの開発と臨床応用成績

著者: 濱野孝 ,   大橋裕一 ,   趙容子 ,   金昭姈 ,   松田司 ,   下村嘉一 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.1063 - P.1067

 涙液減少症は,医師にとっても患者にとっても,対処するのに困難な疾患である.今回,我々は涙液減少症の患者に対して,新しく開発した従来のものと異なる涙点プラグを使用し,良好な結果を得たので報告する.使用したプラグは含水率70%のPVPとPMMAの共重合体である.このプラグは乾燥時には体積が元の3分の1となり,涙点への挿入が従来のものより容易である点,含水率が高いため,角結膜への障害が無く異物感も少ない点などが特徴である.
 この涙点プラグをシェーグレン症候群,スティーブンスジョンソン症候群,その他の原因による涙液減少症に使用したところ,ローズベンガル染色,フルオレッセイン染色,フォトケラトスコープ像,フェノールレッド綿糸法の値,矯正視力がいずれも改善し,非常に有効と考えられた.涙点プラグは外来で行え,かつ可逆的な処置であるため,医師,患者双方にとって心理的負担が少ない事,臨床効果の大きい事から涙液減少症の治療法の一つとして有用なものであると考えられる.

外傷性毛様体解離による低眼圧症の解離部レーザー光凝固による治療例

著者: 立川晶子 ,   金井清和 ,   近江栄美子

ページ範囲:P.1069 - P.1072

 外傷性毛様体解離によって発生した低眼圧症に対し,毛様体解離部にレーザー光凝固を行い,低眼圧を回復し,眼底所見と視力の改善をみることができた.本症例の毛様体解離は範囲が約60°で比較的狭く,このような例に対しては,反復追加可能で,侵襲の少ない解離部へのレーザー光凝固をまず試みるのがよいと思われた.

白内障手術におけるポリグリコール酸9-0縫合糸の評価

著者: 清水千尋 ,   前田利根 ,   土坂寿行

ページ範囲:P.1073 - P.1075

 18眼の水晶体嚢内摘出術(ICCE)および14眼の水晶体計画的嚢外摘出術(ECCE)を対象として,合成吸収性9-0ポリグリコール酸(以下PGA)縫合糸の評価を行った.ICCEを対象とした試験の結果,9-0PGA糸は組織の通過性に優れ,十分な抗張力,結節保持力を示した.しかし,9-0PGA糸は結節縫合よりも連続縫合に適しており,ICCEに使用した場合他の太い縫合糸の追加縫合を必要とするため,より切開創の小さな手術に適していた.以上の結果よりECCEを対象として9-0PGA糸を用いた連続縫合を行い,縫合糸および縫合法の評価を行った.この結果,9-0PGA糸を用いた連続縫合は術中,術後の合併症も認められず,良好な手術成績が得られた.また,術後糸周囲の刺激症状は極めて少なく,角膜乱視に関しては術後,1週間目に著明な直乱視を認めたが,術後4週間目以降次第に軽減し,術後3カ月目には軽度の倒乱視化を示した.

白内障術後早期の角膜内皮障害

著者: 沼賀二郎 ,   中蔵信一 ,   宮田和典 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.1077 - P.1081

 白内障術後早期の角膜内皮への障害を角膜の厚さおよび角膜内皮細胞の平均面績を指標として,機能的・形態的に評価した.角膜の厚さは術後1週までに急速に回復し,対数時間軸に対して直線的に減少し,4〜6カ月で術前値にまで回復した.一部2週前後に一過性に再び増加した症例もあった.超音波乳化吸引術(KPE)のほぼ全例で,術後1日目に角膜裏面に乳白色の沈着物がびまん性に付着しているのが観察された.角膜内皮細胞面積の増大率の平均値は,計画的嚢外法(ECCE)の方がKPEよりも小さく,症例間のばらつきも小さい値を示し,手術による障害はより小さいと考えられる.

液体シリコンによるband keratopathyの発生

著者: 切通彰 ,   大路正人 ,   木下茂 ,   恵美和幸 ,   田野保雄

ページ範囲:P.1082 - P.1084

 硝子体手術に伴って液体シリコン注入を行った33眼について,band keratopathyおよび水疱性角膜症の発生頻度を細隙灯顕微鏡的に検討した.原疾患は増殖性糖尿病性網膜症13眼,増殖性硝子体網膜症(PVR)15眼,外傷性網膜剥離3眼,桐沢型ぶどう膜炎2眼であり,観察時期はシリコン注入後6〜25カ月,平均13.5カ月であった.band keratopathyの発生は,シリコンが前房内に充満している群では,7眼中7眼(100%)(典型例4眼,初期例3眼),シリコンが前房に存在し一部角膜に接している群では7眼中5眼(57%)(典型例1眼,初期例4眼),シリコンが前房内にほとんど存在せず角膜には接していない群では19眼中0眼(0%)であった.水疱性角膜症の発生については,前房内にシリコンが充満している群で7眼中1眼(14%),角膜に一部シリコンが接している群で7眼中3眼(43%),角膜にシリコンが接していない群で19眼中1眼(5%)であった.スペキュラーマイクロスコープによる観察では,シリコンが角膜内皮に接触している部位でニュートンリングを形成し,シリコンに近接した内皮細胞は極めて大きく,形状の乱れとともにguttataを伴った変性所見を認めた.

Goldenhar症候群とDuane症候群が併発した1例

著者: 篠上治彦 ,   溝渕宗秀 ,   田島秀樹 ,   西牟田真理 ,   堀内二彦

ページ範囲:P.1085 - P.1088

 31歳女性で,Sugarの分類による完全型Goldenhar症候群と両側Duane症候群(type 1)が併発した例を経験した.本症例に対して,全身麻酔下にて,Goldenhar症候群に,両側結膜下Dermoid切除術を,両側Duane症候群外転制限に,上下直筋部分移動術を施行し,さらにその際外直筋付着部より10mm以上筋腹部で外直筋生検を行い,病理組織学的検索を行った.得られた資料では,光顕的に筋線維は見られず,電顕にて約700Åの周期性横縞を持つtendon fibrilsの集族,腱組織と同定された.本症例のように,Golden-har症候群とDuane症候群が併発した症例は極めてめずらしく,胚形成という観点から胎生期,すなわち約5,6週前後における発生異常を強く示唆しているものと推論した.

カラー臨床報告

上輪部角結膜炎(superior limbic keratoconjunctivitis)

著者: 大橋裕一 ,   木下茂 ,   下村嘉一 ,   浜野孝 ,   井上新 ,   渡辺仁 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.1011 - P.1015

 superior limbic keratoconjunctivitis(SLK)は上輪部結膜を主体とする原因不明の慢性炎症疾患であるが本邦での報告は少ない.最近1年間に3施設の外来において男性2名,女性6名の計8名の患者がSLKと診断された.今回の結果では中高年の女性に多く見られ,1例に甲状腺機能異常を,5例に涙液減少症を伴っていた.一部の軽症例は硝酸銀の塗布に反応したが概して難治であり,ステロイド投与や病変の切除などは無効であった.こうした難治例にビタミンAを局所投与したところ,かなりの例で症状や所見の改善を見た.SLKは本邦でも決して稀な疾患ではなく,その特異な発生部位のために見過ごされている可能性が高いと考えられた.

特別講演

治療的角膜移植

著者: 眞鍋禮三

ページ範囲:P.1017 - P.1026

序論
 1937年Filatovが最初に死体眼を用いた角膜移植を試みて以来1),手術術式の進歩,縫合糸や顕微鏡をはじめとする手術材料の改良,および角膜保存法の開発などによって角膜移植術は大きな発展を遂げ,現在最も成功率の高い臓器移植としての地位を得るに至っている.
 角膜移植術はその目的によって大きく四つに分けることができる.第一に視力回復を目的として行う光学的角膜移植,第二に現在進行中の角膜病変を治癒させる目的で行う治療的角膜移植,第三に視力には関係なく美容的見地より行う美容的角膜移植,最後に近年脚光を浴びつつあり,屈折異常の改善を目的として行う屈折矯正角膜移植がある.角膜移植術自体の本来の目的は第一の光学的角膜移植であるが,角膜移植術式の確立と角膜疾患の病態に対する理解がより深まるとともに,治療的角膜移植が非常に盛んに行われるようになってきている.今回は,この治療的角膜移植に焦点を絞り,種々の疾患をとりあげて解説する.

最新海外文献情報

抗生物質・感染症,他

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1048 - P.1050

Raposa PA et al : Epidemiology of neonatal con-iunctivitis. Ophthalmology 93 : 456〜461, 1986 近年,性行為感染症(STD)の垂直感染として新生児眼炎の動向が注目されている.著者らはJohns Hopkins Hospitalで1984年3月から1985年4月までに100例の新生児結膜炎につき検討した.46例にChlamydia trachomatisのモノクローナル抗体染色陽性で,他の54例からはSepidermidis (57%),Str viridans (54%),H in-fluenzae (22%), S aureus (19%), Strpneumoniae (9%)に細菌が検出された.Ngonorrhoeaeは(-)であった.治療はChlamydia性結膜炎にはEM 50 mg/kg/日内服2週間,細菌性にはGMまたはEM眼軟膏点眼が1週間行われた.Chlamydia治療で陰性化しなかった8例には2クールが行われた.Chlamydia性結膜炎児の出生時の予防点眼はAgNO3が42例に,EM眼軟膏が4例に施行されていた.全て産道分娩児で,母親の平均年齢は19.5歳でChlamydia感染の既往は3例にみとめられた.
 今後,新生児眼炎の発症には十分に注意し,この予防対策—予防点眼の再検討が必要と考える.

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第40回日本臨床眼科学会総会

ページ範囲:P.1052 - P.1061

原著論文の書き方について

ページ範囲:P.1112 - P.1112

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

薬の臨床

原発開放隅角緑内障と高眼圧症に対する塩酸ジピベフリン点眼薬の薬効評価 エピネフリン点眼液との比較検討

著者: 東郁郎 ,   北沢克明 ,   高瀬正弥 ,   塩瀬芳彦 ,   澤田惇 ,   田中恒男

ページ範囲:P.1089 - P.1106

 用時溶解型の点眼薬0.04%DE-016および0.1%DE-016の原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症に対する臨床的有用性を検討するため,エピネフリン点眼液(EPI)を対照薬とした封筒法による交叉比較試験(well controlled cross-over study)を実施し,以下の成績を得た.
(1)試験対象は268例で,除外症例15例を除く253例を解析対象とした.解析対象は低濃度群125例,高濃度群128例であった.
(2)有効性の判定において「有効」以上に判定された症例は,0.04%DE-016で76.5%,0.1%DE-016で76.1%,EPIで76.8%であり,3剤間に有意差が認められなかった.しかし眼圧降下の程度は0.1%DE-016>EPI>0.04%DE-Ol6の順であった.
(3)副作用の発現率は0.04%DE-016で35.4%,0.1%DE-016で52.4%,EPIで50.0%であり,0.04%DE-016の発現率が最も低かった.
(4)患者の印象では「良い」以上に判定された症例は,0.04%DE-016で63.3%,0.1%DE-016で62.0%,EPIで51,1%であり,0.04%DE-016とEPIの間,0.1%DE-016とEPIの間に有意差が認められ,0.04%DE-016>0.1%DE-016>EPIの順に患者の忍容性が高かった.以上の成績より,cross-over法による時期差および順序効果は認められなかったが,用時溶解型の0.04%DE-016および0.1%DE-016は,緑内障治療薬として臨床応用が可能であり,従来のEPIに比して,より有用性が高い薬剤であることが示唆された。

Group discussion

眼の形成外科

著者: 中村泰久

ページ範囲:P.1108 - P.1109

 1985年の眼の形成外科グループディスカッションは,第39回日本臨床眼科学会の析,9月13日新潟の地で開催された.当日は,立派な会場を設営して頂いたおかげで,有意義な会をもつことができ,新潟大学医学部眼科学教室の皆様はじめ関係各位に,改めて感謝いたします.
 演題は,10題提出され,前半の座長を筑波大学の中野秀樹先生に,後半の座長を福島医科大学の八子恵子先生にお題いした.プログラムは,下記の通りである.

文庫の窓から

眼科摘要

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1110 - P.1111

 オランダの海軍衛生官ポンペPompe van Meerder-voort (1829〜1908)が安政4年(1857)8月,来日し,長崎の養生所において,日本で初めて系統的医学教育を行ったことは一般によく知られている.ポンペの医学講義は予備学科,基礎医学および臨床医学の順で行われたが,眼科学の講義においても眼の解剖学や生理学を解説した後に眼病の診断や治療が説明されたといわれている.ポンペの講述したものは主に松本良順(字,子良,号,蘭疇,楽痴,1831〜1907)の筆記に係るもので,今日写本にて伝えられているものもある.
 外人教師の講義録をその門下生などの翻訳により刊行された眼科書の主なものには本書の外にもミユルレルの眼科全書(田口和美訳,明治4年刊),シユルツェの講義録(甲野棐訳,明治9年刊)等があり,ポンペの「眼科摘要」はヨーロッパ医道変革後の説に基づく最も新しい眼科として,明治の初めに広く読まれた眼科書である.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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