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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科41巻10号

1987年10月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・356

Meesmann角膜上皮ジストロフィーの母子例

著者: 梅本真代 ,   大橋裕一 ,   真野富也 ,   木下裕子

ページ範囲:P.1136 - P.1137

 Meesmann角膜上皮ジストロフィーは稀な遺伝性疾患で,1935年にPameijer1)によって初めて報告され,1938年にMeesmann2)によって独立した疾患として確立された.本疾患は常染色体性優性遺伝形式をとるが,その詳細な遺伝様式についてはThiel3)による膨大な研究がある.臨床的には幼少時から発症する角膜上皮層内のびまん性の微小嚢胞を特徴とし,角膜表面に達すると上皮欠損を生じるために,患者は異物感を訴えることが多い.この嚢胞は,組織学的にはPAS陽性物質の充満した変性上皮細胞の集合である.本症はドイツのユットランド半島の地域にしかないと従来からいわれていたが,実際には他の地域からの報告も散見され,わが国でも,先に山本4)・涌井5)および最近の宮本ら6)が本疾患の報告を行っている.今回本疾患の母子例を経験し,その1例に対して診断学的な意味で圧迫細胞診(impression cytology)を施行したので報告する.

今月の話題

前房蛋白および前房細胞測定法と装置

著者: 澤充

ページ範囲:P.1139 - P.1143

 本稿で述べた前房内蛋白,細胞測定法は生体において非侵襲かつ定量的に両パラメーターを従来の細隙灯顕微鏡と同様の操作性での測定を可能にした.本法は抗炎症剤の薬効の検討を含め,前眼部炎症に係わる諸問題の臨床的,基礎的研究に極めて有力である.

眼の組織・病理アトラス・12

網膜芽細胞腫

著者: 大西克尚 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1144 - P.1145

 網膜芽細胞腫は小児では白血病に次いで頻度が高い悪性腫瘍で,遺伝性疾患であるために古くから興味を持たれていたが,最近では腫瘍発生のメカニズムを解明できる研究対象として基礎学者の注目を集めている.
 患児は白色瞳孔あるいは猫眼(図1)という状態で受診してくることが多く,その場合は相当病状が進行しているが,初期の場合は眼底検査で,白色の腫瘤を観察できる(図2).

臨床報告

網膜中心静脈閉塞症を来したdural carotid-cavernous fistulaの1症例

著者: 鈴木康夫 ,   有門卓二 ,   兵藤俊樹 ,   大橋勉 ,   横井匡彦 ,   宮坂和夫 ,   加瀬学

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 46歳女性のdural carotid-cavernousfistulaの症例において,眼球突出,球結膜充血,続発緑内障とともに,venous stasis retinopathyの発生と,網膜中心静脈閉塞症への移行が認められた.網膜出血,網膜浮腫の増悪に伴い,視力は低下したが,短絡血管に放射線学的な塞栓術(transvascular embolization)を行い,海綿静脈洞の圧を下げることにより,視力の上昇が得られた.また,眼球突出および続発緑内障の改善も認められた.
 Dural carotid-cavernous fistulaでは,網膜病変は軽度であり,これによる視力障害は少ないとされているが,本症例のごとく網膜中心静脈閉塞症を来すと視力の低下は著明となる.それゆえ,venous stasis retinopathyの段階であっても,増悪傾向がある際には,海綿静脈洞の減圧術を積極的に行うことが必要と考えられる.

眼球摘出後,5年後に再発し全身転移をおこした脈絡膜悪性黒色腫の1剖検例

著者: 坂西良彦 ,   阿部純子 ,   橋本雅章

ページ範囲:P.1159 - P.1164

 眼球摘出後,5年以上経て,全身転移をおこした脈絡膜悪性黒色腫の1剖検例につき報告した.
 再発時の初発症状は頸部転移による右肩甲部から右手にかけてのしびれであり,剖検により,肋骨,椎弓,肝,胆嚢,脾臓,副腎,膵臓,肺,ダグラス窩等ほぼ全身への転移を認めた.眼窩は,肉芽組織で被われ,局所再発の所見はなかった.
 本疾患は眼球摘出後,長期にわたっての経過観察および免疫賦活療法等の後療法が必要であると考えられた.

後房レンズ挿入後に生じた水疱性角膜症の1症例

著者: 石田誠夫 ,   足立和孝 ,   大越貴志子 ,   杉江進 ,   神吉和男 ,   山口達夫

ページ範囲:P.1165 - P.1169

 55歳男性で後房レンズ挿入1年後に生じた水疱性角膜症の1症例を経験した.45歳の提供眼を使用し,全層角膜移植を施行したが改善せず,25歳の提供眼を再移植した.移植時,後房レンズを除去し,前部硝子体を切除した.術後経過は良好で,コンタクトレンズの矯正で0.7の良好な視力を得た.
 角膜移植術時,摘出した角膜および後房レンズを病理組織学的に観察した.角膜は厚く,上皮は菲薄化し浮腫を起こしており,デスメ膜・内皮は欠落していた.後房レンズ表面には,一様に沈着物が認められたが,表面中央部に少なく,また,細胞成分はあまり観察されなかった.Loopには亀裂・破損はなくuveal tissueが一部付着していた.

傍中心型網膜色素変性症の1例

著者: 武井一夫 ,   石橋康久 ,   中野秀樹 ,   本村幸子

ページ範囲:P.1171 - P.1174

 非定型網膜色素変性症のうち,傍中心型網膜色素変性症の報告は極めて少なく,その疾患概念は未だ十分には明らかにされていない.今回我々は,その眼底像より本症と診断された1症例について,臨床像を心理物理学的,電気生理学的方法を用いて検討した.本症例は,検眼鏡的には黄斑周囲に輪状の色素上皮の萎縮が両眼対称的に認められた.中心視力は良好であったが,視野には輪状暗点が検出された.色覚は両眼とも第3異常の傾向を示し,異常の程度は中程度であったが,左眼に著明であった.暗順応曲線は,右眼は2相性を示し,最終域値は約2log単位の上昇を,左眼は一次暗順応曲線のみを認め,またその域値の上昇を認めた.ERGはsubnormal patternを示し,明らかな左右差は認められなかった.また初診時と4年後の視野を比較すると暗点の拡大を認めた.傍中心型網膜色素変性症は,その遺伝形式,進行性,錐体機能異常の有無などについて未だ議論の多い疾患であるが,我々の経験した症例は,進行性で明らかな錐体機能障害を示す疾患と考えられた.

イソニコチン酸ヒドラジドによると思われる視神経障害の1例

著者: 原田景子 ,   松永俊明

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 副作用の少ないといわれている抗結核薬イソニコチン酸ヒドラジドによる視神経障害の症例を経験した.主な症状として視力低下,中心暗点,中心フリッカー値の低下,視神経乳頭の腫脹が認められた.副作用の発生までの総投与量は1,021g,1日投与量は1.0〜0.7gであった.投与中止後,約40日目から視力は改善しはじめたが,中心暗点は6カ月後でも残存していた.これらはエタンブトール中毒性視神経障害の臨床症状と極めて良く似ているため,両者の鑑別には注意を要することを報告した.

第2色盲の色感覚と色識別能力

著者: 岡島修

ページ範囲:P.1183 - P.1186

 先天性片眼第2色盲を色名呼称法で検査し,左右眼の結果を比較することにより,第2色盲生来の色感覚を正常者の色名で表現した.またこれを一般の第2色盲の色名呼称と比較して,彼らの色感覚と色名との対応関係を検討した.
 第2色盲には本来青紫と緑の感覚は存在しない.しかし正常者が赤を感じるのと同じ範囲に,波長依存性に増加する成分—赤類似感覚—が存在する.一方学習によって,非常に不飽和な青または黄の感覚を識別して緑と呼称することが可能となる.黄味緑から黄・橙・赤の色識別は明確ではないが,長波長側には赤成分が存在し,この領域が同一色相ではないことは明らかである.
 二色型色覚者は青と黄の2種類の色しか知覚できないとした定説は誤りである.また色覚異常者では色感覚と色識別能力とは明確に区別する必要があり,後者は成長につれて向上する.

インフルエンザワクチン接種後に視神経炎を発症した1症例

著者: 林倫子 ,   伊東滋雄 ,   宮代汎子 ,   中尾雅春

ページ範囲:P.1187 - P.1190

 インフルエンザHA (ヘムアグルチニン)ワクチン接種後12日目に,両側の視神経炎を発症した32歳男性の症例を経験した.接種したワクチンに含まれるインフルエンザウイルスA,B株に対する患者の血清抗体価は,通常のワクチン接種では考えられない程の高値を呈していた.本症例では,ワクチン接種が,視神経炎の発症と極めて関連が深いと推定された.

免疫グロブリンの大量療法が著効したぶどう膜炎

著者: 砂川光子 ,   栗本康夫

ページ範囲:P.1191 - P.1193

 左眼に,高度の網膜静脈炎とそれに伴う網膜浸出物,硝子体出血を伴った50歳の女性に,ステロイドの大量療法を施行したが無効であった.この症例に,免疫グロブリンを経静脈的に大量投与した所,静脈炎が鎮静化し,網膜浸出物,硝子体混濁とも著明に減少し,視力も0.02より0.6まで改善した.免疫グロブリンが著効した機序について,若干の考察を加えるとともに,免疫グロブリンの大量療法が,一部のぶどう膜炎に有効ではないかという事を示唆した.

カラー臨床報告

骨髄移植術後graft-vs-host diseaseの眼症状

著者: 澤充 ,   宮倉幹夫 ,   大久保彰 ,   水流忠彦 ,   清水昊幸 ,   北野喜良 ,   雨宮洋一 ,   三浦恭定 ,   清水英男

ページ範囲:P.1147 - P.1151

 骨髄移植術後にみられた急性graft-vs-host病(GVHD)の1例について報告した.症例は急性骨髄性白血病の44歳女性である.3回目の寛解期にHLAの一致する症例の姉から提供をうけ,同種骨髄移植を行った.術後23日後に皮膚紅斑の出現と共に眼掻痒感,流涙,結膜点状出血が出現した.ひきつづいて結膜偽膜形成および偽膜の自然剥脱を認めた.偽膜の組織像はリンパ球,多核白血球を有する壊死性線維性膜像であり,炎症性にみられる偽膜像と同様なものであった.眼症状は抗生物質と人工涙液点眼のみで発症後45日には消失した.
 本症を含め現在までの眼GVHDに関する報告を基に考察を加え,本症における偽膜性結膜炎の発症には感染機序が関与したと考えた.

最新海外文献情報

網膜,他

著者: 原田敬志

ページ範囲:P.1180 - P.1180

Clacet-Bernard A, Gaudric A, Touboul C, Coscas G : Occlusion de la veine centrale de la retine avec occlusion d'une artere cilio-retinienne, a propos de 7 cas. J Fr Ophtalmol 10 : 269-277, 1987
 網膜中心静脈閉塞と網膜毛様動脈閉塞との合併した7例を報告した.男性が2人,女性が5名で,年齢は35歳から60歳(平均46歳)である.網膜中心静脈閉塞の病像は軽度ないし中程度で,乳頭から限局性の網膜浮腫をみる.経過は視神経萎縮に19カ月後陥った1例を除き良好で,視力の回復は著しい.視力は3〜4カ月で回復する.7例中4例で,網膜毛様動脈の出口に応じた乳頭の部位に低螢光がみられ,静注後期には過螢光が持続した.全身的には,特に塞栓の原因となるような疾患は認められなかった.3例に激しい偏頭痛発作がみられた.網膜静脈閉塞症は,螢光眼底所見上網膜毛細血管床の永続的な消失を示さなかった.網膜中心静脈閉塞と網膜毛様動脈閉塞の合併は,網膜静脈閉塞が第一義的原因を果たすと考えられているが,静脈閉塞症がいずれも軽症に経過し,網膜毛細血管床の閉塞が7例全例にみられなかったので,網膜静脈閉塞症が主因なのかどうか,について疑問が残ると述べている.

文庫の窓から

眼科龍木論(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.1196 - P.1197

 『我邦ノ中古ノ眼科ハ純然タル唐宋ノ眼科若クハ之ヲ用フルニ方リテ少シク取捨刪削ヲ加ヘタル唐宋眼科ニ外ナラザルナリ』(富士川游博士)といわれているように,日本の眼科は中国(唐宋代)の眼科の強い影響を受けて発達してきた.また,中国は唐代より宋元代におよんでインドとの交通が漸く盛んとなり,仏教とともにインドの眼科は中国に入り,その眼科の面目を一新した(小川剣三郎博士)といわれ,日本の眼科もまたインドの眼科の間接的影響を受けて発展してきたといえる.
 とくに中国,明・清代に刊行された中国眼科専門書は日本にも輸入されたと思われるが,銀海精微(孫思邈著),眼科全書(哀学淵著),玄機啓微附録(薛巳著),一草亭目科全書(鄧苑撰)等はわが国においても刊行され,いわゆる和刻本として広く流布した眼科専門書である.「眼科龍木論」は明版あるいは明未清初版の他,多数の写本が伝えられ,その広く用いられたことが窺えるが,手許の図書目録によるだけでもその収録された龍木論の書名には次の様なものがある.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.1198 - P.1198

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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