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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科41巻11号

1987年11月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・357

眼内に色素散布を来した視神経乳頭黒色細胞腫の1例

著者: 山口克宏 ,   塩野貴 ,   玉井信

ページ範囲:P.1206 - P.1207

 視神経乳頭黒色細胞腫(メラノサイトーマ)は,多量のメラニン色素を有する細胞の集簇により形成される良性腫瘍である。本腫瘍は,それに隣接する網脈絡膜および視神経に非常に緩慢な浸潤を示すこともあるが,通常は発育・増大を示さない。今回我々は,初診時に硝子体中に色素散布を認めた黒色細胞腫の1例を,15年後に再度診察し,前眼部への色素散布と腫瘍の形態の特異な変化を認めた。

今月の話題

糖尿病性合併症とアルドース還元酵素阻害剤

著者: 堀貞夫 ,   北野滋彦 ,   石井康雄

ページ範囲:P.1209 - P.1213

 高血糖状況下ではグルコースからソルビトールへ代謝される経路が活発になる。この代謝に関与するアルドース還元酵素を阻害する薬剤が,糖尿病およびガラクトース血症によって生じる眼合併症に対してどの程度有効であるかを解説した。

眼の組織・病理アトラス・13

フォークト・小柳・原田病

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 フォークト・小柳・原田病は両眼性の汎ぶどう膜炎である。病因は不明であるが、ぶどう膜の炎症はメラニン細胞に対する免疫反応が関係している。眼外症状として,髄液の細胞増多,耳鳴,難聴,皮膚の白斑,白髪,脱毛などの髄膜炎症状,聴覚症状,皮膚症状を伴うことを特徴とする。フォークト・小柳・原田病の臨床像と病理学的所見は交感性眼炎の被交感眼と良く似ている。交感性眼炎では,起交感眼に穿孔性眼外傷や内眼手術の既往があるが,フォークト・小柳・原田病では眼外傷や手術の既往がない。
 フォークト・小柳・原田病の眼病変の臨床所見として,前眼部では前房混濁,眼底では滲出性網膜剥離が見られる(図1)。滲出性網膜剥離は脈絡膜の炎症性の滲出液が網膜色素上皮細胞層を通って網膜下に出て貯留したためである。このことは、蛍光眼底検査で,蛍光色素が網膜色素上皮細胞層から点状ないし斑状に漏出して,網膜下に貯留することで理解される(図2)。

臨床報告

ベーチェット病不全型にDevic病が併発した1症例

著者: 桜庭知己 ,   吉田恒一 ,   前田修司

ページ範囲:P.1225 - P.1228

 我々はBehçet病にDevic病(横断性脊髄炎と両眼視神経障害)を合併した1例を経験した。症例は15歳,男子で結節性紅斑,口腔内アフタ,陰部潰瘍の症状を示しBehçet病と診断され,この疾患罹患中に横断性脊髄炎を呈し,更に急激な両眼の視力低下を来した。視神経障害以外,眼科的に異常は認められなかった。Behçet病の病態に免疫異常が考えられていることより,この免疫異常によりDevic病が発症したものと考えられ,両者を一元的に考察してみた。

脈絡膜骨腫の2症例

著者: 山田佳苗 ,   宮内美和子 ,   高橋寛二 ,   板垣隆 ,   宇山昌延 ,   志水久子

ページ範囲:P.1229 - P.1234

 脈絡膜骨腫を44歳男性の両眼と13歳女性の片眼に経験した。症例1の両眼底には黄斑部に2乳頭径の小さい,症例2の左眼底には視神経乳頭,黄斑部を含む広範囲に黄白色脈絡膜萎縮様病変を認め,その上の網膜は扁平に剥離していた。蛍光眼底造影では両者とも初期から後期にわたり,病巣に一致したびまん性過蛍光が観察された。CTでは病変部に骨と同様のdensityをもつ陰影を認め,超音波検査でも100%近い反射と球後組織の吸収減弱が見られた。以上の所見から2症例を脈絡膜骨腫と診断した。CT,超音波検査が診断に有用であった。1例目は男性で両眼例の小さい病巣で比較的珍しい症例であった。また,6カ月後には,左眼中心窩に脈絡膜新生血管を生じ,クリプトンレーザー光凝固を施行し,瘢痕化させることができた。

乳幼児視力に関する研究 予報 PL-OKN装置について

著者: 瓜田千紗子 ,   宮下忠男 ,   池森康子

ページ範囲:P.1235 - P.1238

 乳幼児の視力を測定するための装置を試作して実験を行った。本法の装置は1台のパソコンと2台のテレビを用い,左右いずれかの画面に動く視標を呈示するようにした。本法はpreferen-tial looking法とoptokinetic nystagmus法を併せたものであるが,左右どちらかの画面をみるかということと眼振を観察することで,より速くより正確に視力を判定できるという利点がある。
 生後8カ月〜3歳の正常児,眼疾患児21例について実験し,両眼視ではほぼ100%,片眼視では79%の測定成功率を得た。成功率が高いのは,乳幼児が飽きないうちに測定を行えるためと思われるが,視標の精度,視力の換算,片眼遮閉の方法などに問題があり,さらに検討を加える必要がある。

病毒消点眼液の抗HSV-I実験結果および臨床応用について

著者: 黄樹春 ,   刑美玉

ページ範囲:P.1239 - P.1241

 病毒消点眼液(著者らの命名)の抗HSV-I実験を施行した。実験的研究により病毒消点眼液の抗HSV-I作用を証明した。我々は1984年8月よりこれを臨床的に応用し,単純ヘルペス性角膜炎の228例247眼に30%病毒消点眼液を点眼し,満足な結果を得たので報告する。また病毒消点眼液は長期間安定であり,単純ヘルペス性角膜炎の第一選択治療薬として期待される。

増殖性硝子体網膜症に対する硝子体手術ガスタンポナーデの成績

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.1242 - P.1244

 増殖性硝子体網膜症17例17眼の復位手術として,硝子体切除増殖膜除去,気圧伸展網膜復位,輪状締結,網膜裂孔の眼内キセノン光凝固,空気またはSF6ガスタンポナーデを施行した。前部網膜の肥厚と短縮がなく,気圧伸展網膜復位が完全なものをガスタンポナーデの適応とし,気圧伸展網膜復位が迅速で完全であった9眼は空気タンポナーデ,遅延するが完全であった8眼はSF6ガスタンポナーデとした。17眼のうち14眼,82%が復位した。

新生血管緑内障に対するレーザー隅角光凝固術の試み

著者: 勝呂慶子 ,   礒辺真理子 ,   山森修

ページ範囲:P.1245 - P.1248

 眼圧コントロール困難な新生血管緑内障18例21眼に対しレーザー隅角光凝固術(GPC)を施行した。
 その結果21眼中13眼で,1眼は単独,12眼では薬物療法を併用して眼圧21mmHg以下となり新生血管の消退を認めた。原因別の治療効果は,糖尿病性網膜症10眼中8眼,虹彩炎4眼中4眼と良好であったが,網膜中心静脈閉塞症5眼中1眼,原因不明2眼中0眼と成績は不良であった。網膜光凝固術または網膜冷凍凝固術との併用については,汎網膜光凝固の途中にGPCを施行したものの成績が,4眼中4眼と最も良好であった。初回治療としてGPCを施行したものに3眼中1眼,GPC単独で6眼中4眼に有効な症例がみられた。
 合併症としては,照射後の隅角周辺前癒着形成と繰り返し治療を要する点が問題であった。

OctopusのプログラムFからみた糖尿病性網膜症における中心視野

著者: 木内良明 ,   後長道伸 ,   中野賢輔 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.1253 - P.1257

 Octopus視野計のプログラムFから得られた断面静的視野を用いて,糖尿病性黄斑症の5病型(類嚢胞黄斑浮腫(cystoid macular edema,CME),単純黄斑浮腫(simple macular edema,SME),黄斑沈着物,乏血性黄斑症,糖尿病性色素上皮症)の視野変化について検討し,次の結果が得られた。
(1)各病型とも,網膜感度曲線にジグザグした不規則な低下が認められた。
(2)網膜感度の低下の程度と視力低下の程度は,必ずしも一致しなかった。
(3) CME, SMEでは,軽度な網膜感度曲線の低下をみた。
(4)強い沈着物,人きな無血管帯,網膜色素上皮の障害部では,中等度以上に網膜感度は低下していた。

動眼神経異常連合運動に対する斜視手術の1例

著者: 長谷部聡 ,   小山雅也 ,   大月洋 ,   渡辺好政

ページ範囲:P.1259 - P.1262

 動眼神経麻痺の回復過程で,外眼筋,上眼瞼挙筋,瞳孔括約筋などに異常連合運動が起こる現象は良く知られているが,その眼位異常や眼瞼下垂の矯正に際しては,異常な神経支配に対する配慮が必要となる。
 症例は20歳,男性。頭部外傷による右眼の動眼神経麻痺で,異常連合運動として,下転時の瞼裂開大と縮瞳,内転時の瞼裂開大を認めた。さらに上下転制限を認め,筋電図にて上,下方視時の上下直筋の同時収縮を確認した。これに対し,右下斜視の矯正目的で右眼下直筋後転4mmを施行したところ,眼位は正位となり,更に第一眼位での眼瞼下垂が消失した。第二段階として,下方視での上下偏位矯正目的で,左眼下直筋Faden 14 mmを施行したが,効果は不十分であった。
 以上より,動眼神経異常連合の症例では,上,下直筋手術の効果は,上,下直筋共同収縮の有無に左右されるため,術式の選択にあたって十分配慮すべきである。また,眼位により瞼裂幅が変化する例では,眼筋手術によって眼瞼下垂の改善の可能性があると考えた。

眼科局所麻酔の無痛前処置の試み

著者: 足立和孝 ,   石田誠夫 ,   松葉裕実 ,   大越貴志子 ,   神吉和男 ,   滝野恵介

ページ範囲:P.1263 - P.1267

 白内障手術時の局所麻酔の痛みを軽減する目的で,白内障手術患者100名(102眼)の局所麻酔(瞬目麻酔・球後麻酔)前に笑気・酸素混合ガスの吸入,diazepamの静注(0.1 mg/kg),neur-oleptanalgesia (NLA)変法のいずれかの無痛前処置を施行し,前処置を行わなかった対照群と,痛みに対する自覚症状および局所麻酔前後の血圧・脈拍数・呼吸数・眼圧・瞳孔径の変動について比較検討した。
 この結果無痛前処置群全てで,痛みの自覚症状が,対照群と比べ有意に軽減し,NLA変法>di-azepamの静注≧笑気・酸素の混合ガスの順であった。
 血圧・脈拍数に関しても,前処置を施した群では,対照群と比較し変動が少なかった。これらの各無痛前処置は,局所麻酔の痛みや恐怖を軽減するのに非常に有用であると思われた。

カラー臨床報告

非定型網膜色素変性症を伴ったocular melanocytosisの1例

著者: 今井雅仁 ,   飯島裕幸 ,   関希和子 ,   山林茂樹

ページ範囲:P.1217 - P.1222

 41歳女性の右眼強膜,虹彩,脈絡膜に片眼性のびまん性色素沈着がみられ,ocularmelanocytosisと診断した。この色素異常以外に,本症例は,螢光眼底検査で両眼対称性に後極部網膜の輪状の色素上皮萎縮像が示され,さらに機能的には視野検査にて輪状暗点が,暗順応検査で暗順応最終閾値の上昇が,網膜電図(ERG)検査で振幅の低下が,眼球電位図(EOG)でL/D比の低下がそれぞれ,両眼,同程度に示された。強膜,虹彩,脈絡膜の色素沈着は問診結果をふまえ,片眼性で先天性停止性と考えられたが,視機能障害については両眼性で後天性進行性の可能性が示唆された。本例は先天性の異常であるocularmelanocytosisに網膜色素変性症を伴った症例として理解されるが,同様の症例は過去に2例報告されており,新しい疾患単位の可能性が示唆される。

最新海外文献情報

角膜,他

著者: 樋田哲夫

ページ範囲:P.1250 - P.1251

Raber IM, Friedman HM : Hepatitis B surface antigen in corneal donors. Am J Ophthalmol 104 : 255-258, 1987
 移植角膜を通して感染したウイルス性疾患として,これまでは狂犬病とKreutzfeldt-Jakob病の二つが報告されていたが,AIDSウイルスが涙液,結膜上皮および角膜組織中に証明されて以来,AIDSの感染の可能性も問題となっている。
 最近米国眼球銀行協会は角膜移植によるB型肝炎感染と思われる1例を経験したという。筆者らは提供角膜を使用した後に,提供者がHBsAg陽性と判明した例の角膜を除去した提供眼と,B型肝炎で死亡した患者の全眼球2眼を洗浄した生食液を酵素抗体法で検討し,いずれにもHBsAgを証明した。またB型肝炎患者と事故死したHBsAg陽性者の角膜をemulsifyして同様に検討したところ,前者は強陽性,後者は陰性であった。抗体陽性者の眼球各種組織内におけるHBsAgの存在については,過去にすでに報告されているが,本論文も実験過程における血液の混入を完全には否定できないものの,角膜移植を通してのB型肝炎感染の可能性があることを強く示唆するものである。AIDSと共に確実な提供者のscreeningが必要とされ,眼球銀行の運営はますます大変なものとなる。万が一移植後に提供者のHBsAg陽性が判明した場合には,免疫グロブリンとワクチンの接種を行うべきである。

文庫の窓から

眼科龍木論(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1268 - P.1269

 葆光道人秘伝眼科龍木論首巻には問答形式により第1問から第72問までの眼症状を設問し,この質問に対する答が解答されている。
 秘伝眼科龍木医書総論の目録を各巻別に抄記すると以下の如くである。

第91回日本眼科学会総会印象記 1987年5月14〜16日於京都市

—一般講演—硝子体,網膜Ⅰ,他

著者: 吉岡久春

ページ範囲:P.1270 - P.1291

 原氏(奈良医大)はPVAハイドロゲルが硝子体置換材料として使用しうるかどうかを白色家兎で調べ,ヒーロン,生塩水,PVAの順によいという。
 田中氏ら(順天堂大)はコラーゲンにペプシン処理およびサクシニール化したものを硝子体切除眼に注入し,約2カ月間残存し,タンポナーデ効果があるが,少数例で境界部にエオジン,好中球の浸潤を認めたという。

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.1292 - P.1292

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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