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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科41巻2号

1987年02月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・348

過熟白内障,水晶体融解性緑内障における網膜血管病変

著者: 上村昭典 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.102 - P.103

 水晶体融解牲緑内障は,その臨床像の理解が深められているが,網膜病変を合併することはほとんど知られない1).我々は過熟白内障に水晶体融解性緑内障を合併した症例を経時的に観察したところ,水晶体内容の自然吸取が進行する過程において,網膜血管に樹枝状黄白色沈着物が多数形成され,やがて消失するという興味ある所見を記載する.

今月の話題

スペキュラーマイクロスコピー

著者: 大原國俊

ページ範囲:P.105 - P.109

 広視野スペキュラーマイクロスコープの臨床応用によりsubclinicalなレベルでの病変の診断が可能となってきている.さらに幅広い臨床応用によって,未知の内皮傷害原因の発見や病因究明と予防策およびその治療法の検討が今後可能と考えられる.

眼の組織・病理アトラス・4

星芒斑

著者: 猪俣孟 ,   岩崎雅行

ページ範囲:P.110 - P.111

 腎性網膜症や糖尿病性網膜症などでは,網膜血管の透過性が亢進し,しばしば黄斑部に放射状の硬性白斑が出現する.黄斑部の硬性白斑は放射状に並ぶことが多く(図1),その様子があたかも星の光の輝きに似ていることから,とくに星芒斑macular starと呼ばれる.星芒斑は黄斑のヘンレ線維層に沈着物が出現したもので,ヘンレ線維層の線維束が中心小窩を中心に放射状に並んでいることによる.
 硬性白斑の出現は,網膜血管から血液成分が血管外に漏出していることを意味している.網膜の血管から漏れ出た血液成分のうち水様成分は徐々に吸収されるが,フィブリンやその他の蛋白成分に富む物質は濃縮されて外網状層に沈着貯留する(図2).また,崩壊した細胞の残渣やそれを貧食して胞体内に多量の脂肪顆粒をもったマクロファージ(脂肪顆粒細胞)も主として外網状層に貯留する.沈着物は検眼鏡的に境界鮮明で黄色味の強い硬性白斑として認められる.

臨床報告

両眼性網膜色素上皮裂孔

著者: 野呂瀬一美 ,   谷野洸 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.119 - P.124

 66歳男性の両眼性網膜色素上皮剥離(PED)の1眼は光凝固後に,他眼は経過を観察中に,網膜色素上皮裂孔が発症した症例を報告した.
 右眼黄斑部には4×6乳頭径大のPEDを,左眼黄斑部には1乳頭径大のPEDが認められた.右眼のPEDの復位を目的として剥離辺縁部にアルゴンレーザー光凝固を施行したが,5日後,PEDは光凝固部位よりもさらに拡大した.19日後剥離耳側辺縁に沿って網膜色素上皮裂孔を認め,その後次第に裂孔は黄斑部方向へ拡大した.
 左眼は,初診より40日後視力が急激に低下し,PEDは6×8乳頭径大に拡大した.PEDの下鼻側に小さな網膜色素上皮裂孔が認められ,次第に拡大した.
 右眼は光凝固後に,左眼は自然に網膜色素上皮裂孔が発生し,両眼の経過は類似したことから,今回行った光凝固は網膜色素上皮裂孔の発生,経過に大きな影響を及ぼしていないと考えられた.

網膜復位手術におけるヒアルロン酸の使用

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.125 - P.128

 18例18眼の裂孔性網膜剥離(Grade C以上の増殖性硝子体網膜症の1眼を含む)の復位目的で,ヒアルロン酸製剤(ヒーロン® )を硝子体腔に0.5mlから4ml注入し,最低2年間経過観察した.注入圧によって網膜下液を強膜切開,脈絡膜穿刺部から排液し,ほぼ復位した後に網膜裂孔の冷凍凝固とシリコンスポンジエクソプラントを置いた.14眼が術翌日から復位したが,4眼は2週間から7カ月の長期間にわたって網膜下ヒーロン® による扁平網膜剥離が残存した.硝子体の濃縮と索形成が9眼にみられ,うち3眼に網膜剥離が再発し,再手術が必要となったが,いずれも再手術により復位した.術前に増殖性硝子体網膜症C1であった1眼は術後1カ月してD1となり,結局復位をえられなかった.黄斑部皺襞形成が2眼に生じた.これらはヒアルロン酸が増殖性変化を促進する可能性を示唆している.術後1〜4週に軽度の眼圧上昇が4眼にみられたが,1週間で正常化した.

人工水晶体挿入手術後に不可逆性散瞳を生じた1例

著者: 大塚忠弘

ページ範囲:P.129 - P.131

 75歳の生来健康な男性の右眼の白内障に嚢外摘出術およびin the bagでの後房レンズ挿入術を施行した所,術前,術中には特に異常な所見は認めなかったが,手術の翌日にミドリンP® ,1%アトロピン点眼後に虹彩の極大散瞳を来し,その後,各種の縮瞳薬にも反応せず,1年を経過しても虹彩の状態は散瞳のままであった.
 1年後,同一例の左眼を同一術者が同一の術式で,同タイプの後房レンズを挿入したが,散・縮瞳薬に良く反応して,瞳孔の異常は認められなかった.
 右眼と左眼の手術を比較検討したが,使用薬剤,手術器具等に不可逆性散瞳の原因を見出す事はできなかった.

RTEC法による眼内レンズパワー計算

著者: 柏木豊彦 ,   大路正 ,   切通彰 ,   木下茂 ,   真鍋禮三

ページ範囲:P.133 - P.135

 新しい眼内レンズパワー計算法であるray tracing and error correcting (RTEC1))法を用いてretrospectiveに解析を行いSanders Ret-zlaf Kraffらの式(SRK式)2)とBinkhorst式3)との比較を行った.108例のAmerican MedicalOptics社(AMO)のPC-11を挿入された症例について各計算法による平均誤差はRTEC, SRK,Binkhorstのそれぞれについて-0.04 D,-0.56D,-1.82 Dであった.誤差が±1D以内に入る割合はそれぞれ78%,73%,24%であり今回の解析ではRTEC法が最も正確な方法であることがわかった.

紫外線吸収人工水晶体の臨床成績

著者: 木下陳子 ,   清水公也

ページ範囲:P.145 - P.149

 同一条件下で移植された紫外線吸収人工水晶体(UV-IOL)108名112眼と紫外線非吸収人工水晶体(nonUV-IOL)134名137眼について,術後合併症や術後視力を臨床的に比較検討した.術後観察期間は平均9.60カ月(1カ月〜1年)であった.2群間には術後視力の有意差はなく,また両群とも6カ月以降の術後類嚢胞黄斑浮腫(CME)発生はなかった.UV-IOL群ではCMEは2例発生し(2/112=1.79%),フィブリン析出は5例であった(5/112=4.46%).nonUV-IOL群では,CME発生が3例(3/137=2.19%)で,フィブリン析出が1例(1/137=0.73%)であった.UV-IOLとnonUV-IOLの両者の間にはCMEを含めた術後合併症の発生率に有意差はなかった.

赤血球中デイフォスフォグリセレートと糖尿病性網膜症

著者: 原田敬志 ,   小嶋一晃 ,   森林平 ,   恒川太史 ,   粟屋忍

ページ範囲:P.151 - P.154

 内科的管理を受けている49名の糖尿病患者について,網膜症の病期ごとに2,3-DPG (2,3-diphosphoglycerate)を測定し,またそのうち27名にHbA1cも同時に測定した.網膜症のない群と非増殖性網膜症の群では,2,3-DPGはやや正常より増加していたが,特に前増殖性網膜症の群では高度に増加した.しかし,増殖性網膜症の群では逆に明瞭に減少した.またHbA1cは非増殖性網膜症の群だけに,2,3-DPGと有意の相関が認められた.

手術用顕微鏡を用いた網膜芽細胞腫のレーザー光化学療法

著者: 小島孚允 ,   箕田健生

ページ範囲:P.155 - P.159

 放射線療法または光凝固療法で治癒しなかった網膜芽細胞腫患児5例にhematoporphyrin誘導体を投与後レーザー照射する光化学療法を行い,その効果を検討した.照射には手術用顕微鏡式アルゴンレーザー光凝固装置を用いた.5例中1例では,他の部位に腫瘍が再発したため眼球摘出したが残りの4例は治癒した.本法は他の治療法で治癒しなかった網膜芽細胞腫にも有効で,今後期待の持てる治療法である.また手術用顕微鏡を用いる方法は安定した照射ができる良い方法であると思われた.

眼球突出を来した蝶形骨fibrous dysplasiaの1例

著者: 牛島博美

ページ範囲:P.161 - P.163

 右眼の充血および流涙のため受診した53歳の女性の患側に眼球突出があり,頭部レントゲン写真で蝶形骨の右大翼および小翼部に骨陰影の増強を認めた.視力は右0.3(0.8),左1.0(nc).眼球突出度の左右差は3mm.右では中心フリッカー値の低下および視野狭窄があり,頭部CTおよび視束管撮影で右視神経管の狭窄を認めた.全身検査では異常はなく,蝶形骨のmonos-totic fibrous dysplasiaによる眼球突出と考え経過観察中である.
 Fibrous dysplasiaは一般に若年者の疾患と考えられているが,monostotic typeの場合は中高年者においても鑑別を要する.

網膜剥離の超音波診断に関する研究 第1報 網膜裂孔の検出

著者: 伊達純代

ページ範囲:P.165 - P.169

 硝子体出血などの眼底透見不能時に,網膜裂孔の存在の有無を知ることは,治療方針決定の際に重要である.そこで網膜裂孔の超音波所見を得るために,検眼鏡的に網膜裂孔を認め,かつ網膜剥離を生じていない34眼に超音波検査を施行した.馬蹄形裂孔22眼全例で,B-scanにてflapが一端で眼球壁と連続する短い膜様エコーとして認められ,もう一方の先端と後部硝子体膜との癒着も確認できた.Flapの反射率は全例100%を示し,△dBは15眼において15.1±5.1 dBだった.蓋付裂孔12眼全例で,B-scanにてoper-culumが後部硝子体膜上に存在する比較的高い反射率の短い膜様エコーとして認められた.Oper-culumの反射率は40%から100%で,△dBは6眼において31.2±2.7dBだった.これらの特徴的な所見から,眼底透見不能時においても網膜裂孔,特に馬蹄形裂孔の診断に超音波検査が有用であると結論した.

迅速診断法としてスタンプ螢光法・5—S-Cysteinyldopa測定法を応用した脈絡膜悪性黒色腫の1例

著者: 八尾雅章 ,   島田宏之 ,   松井瑞夫 ,   長島典安 ,   花輪滋

ページ範囲:P.173 - P.178

 眼球摘出後に混合型脈絡膜悪性黒色腫と診断した症例に当院皮膚科で黒色腫の迅速診断法として開発した病巣のスタンプ螢光法と5-S-cysteinyldopa測定法を応用したところ,眼科領域における黒色腫の迅速診断法として,その有用性が認められたので報告した.また,本症例の網膜・脈絡膜の形態学的所見と検眼鏡・螢光眼底所見を対比して検討したのであわせて報告した.

カラー臨床報告

偽水晶体眼における水晶体起因性ぶどう膜炎

著者: 清水公也 ,   木下陳子

ページ範囲:P.113 - P.118

 人工水晶体移植眼に水晶体起因性ぶどう膜炎と考えられる3症例を経験した.1例は人工水晶体摘出および硝子体手術にてぶどう膜炎は改善したが,網膜剥離を併発した.他眼には水晶体全摘術および前房レンズ移植を行い良好な視力を得た.第2例は人工水晶体を水晶体嚢ごと摘出し,同時に前房レンズを再移植し良好な視力を得た.第3例は前房レンズが移植してあったため,硝子体切除器にて残留皮質を除去することにより治癒した.
 水晶体起因性ぶどう膜炎はステロイド等の薬物に反応せず,唯一の治療方法は残留皮質の摘出である.そして1眼に起きた場合,他眼の手術は全摘術にすべきである.

最新海外文献情報

角・結膜,他

著者: 田川義継

ページ範囲:P.138 - P.140

Hoffmann F et al : Importance of HLA DR matching for corneal transplantation in high-risk cases. Cornea 5 : 139-143, 1986
 著者らは,角膜移植のhigh risk patients (拒絶後の再移植例や母角膜に高度の血管侵入のある例など)に対するdonor-recipient間のHLAmatchingと拒絶反応の関係について報告している.97例のdonorおよびrecipientについてHLA-AおよびB抗原をtypingした.97例中HLA-A・B抗原のうち二つ以上の抗原が一致していた38例ではわずか8例(21%)が術後に拒絶反応を起した.一方,一つ以下の抗原しか一致していなかった59例では,29例(49%)に拒絶反応が発症し,有意差を認めたと述べている.さらに術後の移植片生着率は6カ月後で前者は88%,後者は74%,2年後では前者が80%,後者が39%と術後予後に大きな差がみられたと述べ,今回の結果から,角膜移植のhigh risk patientに行う移植では少なくともHLA-A・B抗原のgood mat-chingが拒絶反応の発症頻度を減少させ,術後成績の向上に貢献すると述べている.

文庫の窓から

眼科治論書

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.170 - P.171

 わが国の天保10年(1839)より嘉永7年(1854)までの間は多くの急進派蘭学者の投獄,蘭書翻訳の取締,翻訳医書出版の許可制,あるいは医官の蘭方行為厳禁等々幕府の蘭方への弾圧が強められ,いわゆる蘭学圧迫時代であったが,幸い外科や眼科は大目にみられ,熱心な医家や蘭学者達によってオランダ医書の翻訳が,次々に行われた.しかし,このような事情のため原著や翻訳者の名が明らかでない翻訳書などが多い.「眼科治論書」もこうした類のものか,今日伝えられている写本には"1792年越児物鏤行"とあるのみである.
 掲出の「眼科治論書」は内田貞氏(浜松)が他の一本により校訂したもので,63葉全1冊,和綴(26.5×18.8cm),漢字・片仮名混りの和文,本文57葉,附録6葉よりなる精写本,内容は内障眼手術,焮衝眼図解について述べたものであるが,今その標目よりみると以下の通りである.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.180 - P.180

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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