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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科41巻4号

1987年04月発行

雑誌目次

特集 第40回日本臨床眼科学会講演集 (1) 学会原著

Argon laser iridotomy後の瞳孔後癒着

著者: 安田典子 ,   景山萬里子 ,   後藤田佳克

ページ範囲:P.283 - P.287

 Argon laser iridotomyが施行された原発閉塞隅角緑内障52例72眼を散瞳し瞳孔後癒着の有無を調べた.瞳孔後癒着は72眼中19眼(26%)に発生し,その癒着範囲も瞳孔の半周を越すものが多かった.瞳孔後癒着の発生は術前前房深度の極度に浅いもの,術後ピロカルピンを使用したものに有意に高率であった.瞳孔後癒着の発生機序として,laser照射後のpigment散乱がその主体をなすものであるが,これに浅前房とピロカルピンによる縮瞳状態が加わった時発生しやすいと考えられた.瞳孔後癒着の防止のため,術後の散瞳,抗炎症治療の徹底に加えて術後無為な縮瞳剤の頻用を避ける必要があると考えた.

「全身条件別眼圧」実用化の試み

著者: 塩瀬芳彦 ,   川瀬芳克

ページ範囲:P.289 - P.292

 愛知県総合保健センター外来人間ドックを1973年1月から1977年12月までに受診した合計94,000人(188,000眼)から作製した全身条件別眼圧表を基礎資料とし眼圧予測式を作製した.これはパーソナルコンピューターまたはポケットコンピューターを用い全サンプルを性別,収縮期血圧別,肥満度別に層別化したものにつき血圧と年齢の一次回帰式を求めプログラムに組込んだものである.実際には症例毎に,性,年齢,収縮期血圧,身長,体重を入力することで条件に応じた予測眼圧値(M),予測上限値(M+2SD)がグラフィック・ディスプレーまたはデジタルでプリントアウトされるものである.

Combined mechanism glaucomaの治療について

著者: 千原悦夫 ,   森秀夫 ,   松村美代 ,   近藤泰子

ページ範囲:P.293 - P.296

 虹彩切除後隅角が解放されたにもかかわらず眼圧コントロールの悪い閉塞隅角緑内症眼について検討した.このようなコントロール不良例は慢性閉塞隅角緑内障群に多く(60%),急性閉塞隅角緑内障群では少ない(20%).また予防的虹彩切除の成績は良好で習熟した術者によるレーザー虹彩切除術はきわめて安全な方法といえる.慢性閉塞隅角緑内障眼においては隅角開放が確認されている場合でも,laser trabeculoplasty,trabeculotomy等の手術成績が不良であり原発性開放隅角緑内障より難治性であった.これらにおいては長期の隅角閉塞によって線維柱網が変性したと推測され,狭隅角眼に対する早期の積極的な予防虹彩切除の必要性が認識される.

Anterior chamber tube shunt to an encircling bandによる難治性緑内障の治療成績

著者: 関伶子 ,   福地健郎 ,   安藤伸朗 ,   佐藤一宣 ,   沢口昭一 ,   難波克彦 ,   岩田和雄

ページ範囲:P.297 - P.301

 新生血管緑内障を含む種々の減圧手術に抵抗する難治性緑内障29例31眼にanteriorchamber tube shunt to an encircling band(ACTSEB)を施行し次の様な結果を得た.
(1)術後21mmHg以下にコントロールされた症例は新生血管緑内障(NVG)63.6%,原発開放隅角緑内障(POAG)87.5%,原発閉塞隅角緑内障(PACG)100%,続発緑内障(SG)66.6%,計73.8%であった.
(2)術後の平均眼圧下降幅はNVG 31.4mmHg, POAG 20.5mmHg, PACG 32.7mmHg,SG 19.4mmHg,計25.2mmHgで統計学的に有意な眼圧下降がみられた(p<0.01).
(3) NVGに対するACTSEB以外の術式では統計学的に有意な眼圧下降はみられず,ACTSEBはこれらの術式すべてに対し統計学的に有意に眼圧は下降していた(p<0.01).
(4)前眼部螢光所見,動物実験から房水はチューブ内を通ってband腔へ導かれることは証明されたがその先の経路は明らかにできなかった.
 以下より本法は種々の難治性緑内障に有効であることが明らかにされたが,更により安全確実な手術法とするため研究が必要である.

アルゴンレーザーによる開放隅角緑内障の治療(Ⅵ)—外傷性緑内障へのlaser trabeculoplasty

著者: 田邊吉彦 ,   浅野隆 ,   本田治 ,   安間哲史

ページ範囲:P.303 - P.307

 10例10眼の外傷性緑内障にlaser trabe-culoplasty(LTP)を行い最短1年1カ月から最長7年2カ月にわたって経過観察をし,7例において眼圧を20mmHg以下にコントロールする事に成功した.
 LTP前の平均眼圧は29.6mmHg, LTP後平均眼圧は21mmHgであり,平均8.6mmHgの眼圧降下が得られた.しかも,成功例は炭酸脱水酵素阻害剤を中止しており,無治療でコントロールされている例もあるので,眼圧降下の実際は数値以上のものがある.
 LTPの奏功した症例は長期にわたって安定した経過をとる例が多く,7例中3例は無治療で眼圧調整されている.
 以上より外傷性緑内障は隅角がある程度開放しておればLTPのよい適応と結論する.
 またLTPの結果からangle recession glau-comaの原因はtrabecular collapseおよびcanalcollapseと推測した.

先天性緑内障の視機能予後

著者: 寺内博夫 ,   永田誠

ページ範囲:P.309 - P.312

 先天性緑内障52例81眼について,術前眼圧,角膜径,視神経乳頭陥凹と術後視力,視野の関係について検討した.術式はすべてtrabeculotomy ab externoを用い,術後眼圧は全例の77.8%で20mmHg以下にコントロールされたが,0.4以上の良好な視力を得た症例は39.4%であった.
 術前眼圧が35mmHg以上の症例で術後の視機能障害が高度になる傾向があり,C/D比が0.7以下の症例では視機能障害が軽く,C/D比0.8以上になると視機能障害が高度となる傾向があった.しかし角膜径の大小とは,一定の相関はなかった.

緑内障眼の人工水晶体移植術

著者: 荻原博実 ,   今井正之 ,   谷口重雄 ,   高良由起子 ,   深道義尚

ページ範囲:P.313 - P.317

 1981年4月から1986年3月までに当院および昭和大学病院で緑内障と診断されかつ眼内レンズ(IOL)移植を受けた緑内障眼77症例,101眼につきこれをiridectomy群,filtration群,triple群,β-blocker群の4群に分けて,その術式,術後眼圧コントロール等について検討した.また非緑内障眼81症例121眼をコントロールとして,術後合併症,視力等について比較した.
 結論として,緑内障眼のIOL移植は96%で良好であった.したがってfiltering blebをもつ緑内障眼でも眼圧コントロールが良好ならば,IOL移植はほぼ安全に行えると思われる.更に術前眼圧が30mmHg以下のものならば,一度の手術侵襲ですむ,triple procedureを考慮しても良いと思われた.

シリコン眼内レンズ移植術についての検討

著者: 黒部直樹 ,   馬嶋慶直 ,   野村隆康 ,   木全一幹 ,   広川仁則

ページ範囲:P.319 - P.323

 眼内で非活性といわれるシリコンを材料とした後房レンズを49症例に移植し,その術後経過を観察した.従来のpolymethylmethacrylate(PMMA)を光学部とした後房レンズ移植例と比較検討し以下の結果を得た.①術後の視力経過,角膜内皮細胞減少率は差がなかった.②血液房水柵への影響は術後1カ月において,毛様溝固定のPMMAレンズに比べシリコンレンズの方が侵襲は少なかった.③瞳孔運動への影響はシリコンレンズの方が良好であった.④後発白内障の発生はシリコンレンズに高かったがNd:YAGレーザーによるレンズ損傷は少なかった.⑤支持部のbulgingを1例に経験し,手術的に整復が可能であった.⑥レンズ表面の付着物はシリコンレンズに少なかった.⑦眼圧およびC値に異常はなかったが,隅角部に虹彩色素沈着を認めた症例があった.
 短い観察期間ではあるが,新しい眼内レンズの材質として有用性があると思われた.

人工水晶体移植眼にみられた網膜光障害

著者: 根木昭 ,   深尾隆三 ,   松村美代 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.325 - P.329

 人工水晶体(IOL)移植時における手術顕微鏡光による網膜障害の実態を知る目的でIOL移植眼20例について蛍光眼底撮影(FFA)などによるprospectiveな検索を行った.術後約1週間目に施行したFFAで7例に境界鮮明な楕円-円形の過蛍光病巣を後極部に認めた.同部は検眼鏡的に術後3日目より淡灰白色を呈していたが,経過とともに中央部に顆粒状の色素増殖が生じ,4〜7週後にはFFAによるlate stainingはみられなくなった.これらの病巣はその特異な形状とFFA経過からみて,術中に生じた顕微鏡光による網膜障害と考えられた.発生群では平均手術時間が64.2分と非発生群より約23%廷長していたが,年齢,術者,術式,屈折率などとは相関を認めなかった.3例で病巣に一致した比較暗点を検出したが,矯正視力は全例1.0以上を得た.7例中6例で高頻度にcystoid macular edemaの併発がみられた.発生機序は不明であるが,IOLによる集光が主要因と推察され,IOL移植後の遮光の重要性が認識された.

後房レンズ挿入術後早期にみられる瞳孔膜

著者: 西興史

ページ範囲:P.331 - P.336

 我々はこの1年間に挿入した後房レンズ596眼中45眼7.6%に,平均術後5〜6日目に集中して見られる眼内レンズ(IOL)前面の一過性のフィブリンを主体とする瞳孔膜形成を観察した.本膜は前嚢縁間を架橋しているのが特徴的所見で,前嚢下の水晶体上皮細胞増殖が原因となる,いわゆるlens induced uveitisの結果と考えられた.また増殖蛋白物質がフィブリノーゲンをフィブリンに変えるプロセスを導入する作用があると考えられた.
 前嚢がIOLの前にある場合(主としてin thebag挿入に見られる)は,IOL前面がscaffoldとなり,このフィブリン膜形成の形をとり,IOLの後方にある場合は後嚢がscaffoldとなって,この上に膜形成され,後嚢混濁となっていくことが多い.

川崎病の発病早期からの眼病変

著者: 藤本隆生

ページ範囲:P.337 - P.341

 川崎病患者44例について発病早期から少なくとも週1回眼科的検査を行った.
 眼球結膜充血は平均3.7病日に44例全例の両眼に出現,平均7.4日間持続した.虹彩炎は第1病週から観察しえた36例中26例(72%)に認められ,この26例中10例では眼科初診時に川崎病と確定診断されていなかった.虹彩炎の発現率は第2病週以降急減し,第6病週までに全て後遺症を残さず消退した.虹彩炎は全て両側性で女よりも男で高頻度にみられた.眼底検査,螢光眼底検査で明らかな異常を認めた例はなかった.冠動脈瘤を認めた6例では虹彩炎が第1病週から認められ,しかも眼球結膜充血,虹彩炎とも長期間持続する傾向がみられた.
 川崎病の虹彩炎は,発病早期から高率に出現し,冠動脈瘤を認める例で虹彩炎が遷延化する傾向がみられた.虹彩炎を川崎病の主要症状の一つとして考えれば,川崎病の早期診断および重症度評価に有用であると考えた.

学術展示

外来患者における点眼薬の汚染第2報

著者: 笹井章子 ,   佐藤由子 ,   成味知子 ,   宮永嘉隆 ,   土田章江

ページ範囲:P.352 - P.353

 緒言 点眼薬は眼科医にとって日常の診療,治療に欠かせないものである.しかし,点眼薬の管理が患者にあること,一つの容器を繰り返し使用すること,また患部に点眼びんのノズルが接触することもあり,点眼薬が汚染されることもある.我々は外来患者の点眼薬の細菌汚染を検討し,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(以下CNSと略す)であるStaphylococcus epidermidis(以下S epiと略す)が多く検出されたことを報告してきた1〜3).CNSは最近,日和見感染の原因菌として関心がもたれるようになった.その分類については1975年Schleifer & Kloos4,5)の提案した分類に従って,近年分類がなされはじめたばかりである.今回我々は,外来患者の点眼薬,手,結膜嚢より検出されたCNSの菌株を用いて,その同定を試み汚染経路について検討したので報告する.

アレルギー性結膜炎と嗜好物との関係

著者: 今泉信一郎 ,   今泉博雄 ,   清水津二 ,   太田誠一郎

ページ範囲:P.354 - P.355

 緒言 アレルギー性結膜炎は,日常決して珍しくない疾患であるが,その疫学的およびアレルギー学的検討はほとんど行われておらず,今回我々は,原因アレルゲンと症状,食品嗜好物(嫌いな物)との関係についての検討を試みた.

メンブレンフィルター法を用いた結膜上皮細胞の立体的観察—第1報正常眼における検討

著者: 瀬口次郎

ページ範囲:P.356 - P.357

 緒言 メンブレンフィルター法は外眼部疾患の診断に有用かつ簡便な結膜生検法である.今回従来の光学顕微鏡(LM)による観察に加え,より詳細な観察を目的とし透過型ノマルスキー微分干渉顕微鏡(NIC)および走査電子顕微鏡(SEM)を用いて結膜上皮表層細胞の立体的観察を行った.

外眼部感染症における検出菌と薬剤感受性

著者: 船坂芳江 ,   中村和枝 ,   佐々木貴美

ページ範囲:P.358 - P.359

 緒言 近年薬剤耐性菌が増加し,外眼部感染症の治療においても抗生物質に対する感受性が問題となっている.特に入院患者の場合,検出菌の薬剤耐性率が高く薬剤の選択が難しい.そこで薬剤耐性の動向を知るために感受性試験を行った.

乳化粒子の角膜裏面付着を生じたシリコン注入無水晶体眼のスペキュラーマイクロスコピー

著者: 大原國俊 ,   大久保彰 ,   松下卓郎 ,   清水昊幸

ページ範囲:P.360 - P.361

 緒言 増殖性硝子体網膜症(PVR)を主とした難治性網膜剥離に硝子体腔内液体シリコン注入が行われるようになったが1),眼組織に対する安全性は未だ確立されておらず,角膜障害・白内障・緑内障の合併が知られている2).我々は乳化粒子となったシリコンが角膜裏面に付着した1症例に,スペキュラーマイクロスコピーを行った.角膜障害の成因解明に示唆を与えるものと考えられるので報告する.

急激に拡大した巨大眼窩眼瞼嚢腫の1例

著者: 松村明 ,   山本親広 ,   岡村良一

ページ範囲:P.362 - P.363

 緒言 胎生裂の閉鎖不全から起こりcolobomatouscystと呼ばれる眼窩眼瞼嚢腫は,これまで数多くの報告がなされている1)が,臨床的に眼窩悪性腫瘍との鑑別が必要となることはまれである.我々は,小眼球に急激な結膜の充血,浮腫,脱出を伴い,眼窩悪性腫瘍との鑑別を必要とした巨大な眼窩眼瞼嚢腫の1例を経験したので報告する.

後房レンズ移植5年後のヒト偽水晶体眼の病理組織学的検索

著者: 重光利朗 ,   馬鳴慶直

ページ範囲:P.364 - P.365

 緒言 後房レンズ(PCL)移植術後5年で死亡した86歳の人眼を用いて,偽水晶体眼における病態を検討し,特に水晶体嚢の支持組織であるチン小帯について検索した.

睫毛乱生症による角膜アミロイドーシス

著者: 真島行彦 ,   明尾潔 ,   気賀沢一輝 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.366 - P.367

 緒言 続発性の角膜アミロイドーシスは,1966年にStafford and Fine1)が水晶体後部線維増殖症に認められた症例を報告して以来,いくつかの原疾患の報告がなされている.今までに,睫毛乱生症による角膜アミロイドーシスの報告は2例ほどある2,3).今回我々は,睫毛乱生症によると思われた片眼の角膜アミロイドーシスを4症例経験し,若干の知見を得たのでここに報告する.典型例2例を報告する.

角結膜疾患に対するビタミンA点眼液の効果

著者: 大橋裕一 ,   真野富也 ,   梅本真代 ,   木下裕子 ,   木下茂 ,   渡辺仁 ,   眞鍋禮三

ページ範囲:P.368 - P.369

 緒言 ビタミンAは古くから知られた脂溶性ビタミンの一つで,視紅の前駆体,生殖機能の維持,上皮細胞の分化など数多くの生理活性を持っている.今回は特にビタミンAの抗角化作用に着目し,レチニール・パルミテートの点眼液を作成して種々の角結膜疾患に対する効果を検討したのでその結果について報告する.

眼窩,眼瞼のスポロトリコーシス

著者: 飯田文人 ,   吉沢直人 ,   山中克二

ページ範囲:P.370 - P.371

 緒言 スポロトリコーシスは,土壌,植物に広く分布している真菌のSporothrix schenckiiを病原菌とし,多くは外傷により皮膚内に侵入し,皮膚,皮下,近接リンパ管に慢性の結節性,あるいは潰瘍性の病変を生ずる疾患である.全年齢にみられるが,特に10歳以下の小児と40歳以上の戸外労働者に多い.片側性に生じ,露出部位である顔面,上肢に多くみられる1).眼科領域における報告は極めて少ない.今回我々は外傷による誘因なく,紅斑,痂皮,潰瘍を伴わない眼窩眼瞼の皮下腫瘤を主症状としたスポロトリコーシスを経験したので報告する.

連載 眼科図譜・350

Plateau irisの1例とその治療

著者: 山上淳吉 ,   小室優一 ,   白土城照

ページ範囲:P.276 - P.277

 緒言 原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機転は,瞳孔ブロックといわゆるplateau irisとに分けられるが,前者が主であり,後者によるものは稀とされている.Plateau irisは,瞳孔ブロックによる原発閉塞隅角緑内障と異なり,周辺虹彩切除術後にもかかわらず散瞳により隅角閉塞を伴う眼圧上昇をきたすことが特徴とされているが,その散瞳前後の隅角所見を比較した報告はほとんどなされていない1〜4).今回,我々はこのplateau irisの1症例を経験し、この症例に対してアルゴンレーザーゴニオプラスティー5,6)を施行し,良好な結果を得たので報告する.

今月の話題

ヘマトポルフィリンを使った光化学療法

著者: 大西克尚

ページ範囲:P.279 - P.282

 網膜芽細胞腫をはじめとする眼科領域の悪性腫瘍に対するヘマトポルフィリン誘導体を使った光化学療法は,小さな腫瘤の場合はそれ単独で治癒させることができ,大きな場合では放射線の量を減らす効果があり,新しい治療法として期待されている.

眼の組織・病理アトラス・6

交感性眼炎

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.392 - P.393

 交感性眼炎は1眼の穿孔性眼外傷や内眼手術の後,第1眼(起交感眼)の炎症が遷延または再燃し,同時に他眼(被交感眼)にも炎症を起こす疾患である.起交感眼の炎症に他眼が同情(交感)して炎症を起こしたものとしてその名がある.角膜縁付近の穿孔性外傷で,虹彩または毛様体が損傷されて結膜下に露出された状態(図1)が続くと発症しやすい.
 起交感眼の炎症も被交感眼の炎症もいずれもぶどう膜炎である.起交感眼では創傷部の炎症症状が遷延し,被交感眼では虹彩,毛様体,脈絡膜に炎症が起こり,前房混濁,硝子体混濁,滲出性網膜剥離(図2)などが認められる.

眼科医のための推計学入門・2

代表値とばらつき

著者: 大野良之

ページ範囲:P.405 - P.408

代表値の種類
 データ(標本測定値)の広がりや位置などの分布状態は,度数分布表を作りヒストグラム(柱状図)を描けば知ることができる.その中心的傾向は通常,中央値(median)・最頻値(mode)・平均値(mean)で代表させる.
 中央値とは,測定値を大きさの順に並べたとき,測定値の数(n)を二分する値をいう.nが奇数なら(n+1)/2番目の測定値であり,偶数ならn/2番目とn/2+1番目の測定値の合計の半分の値である.最頻値とは,測定値の中で最も度数(頻度)の多い値である.平均値といえば通常算術平均をいうが,このほかに幾何平均・調和平均がある.例えば10個の測定値群(0,0,1,2,2,2,2,3,4,5)の場合,中央値と最頻値はともに2,算術平均値は2.1である.算術平均値は代表値として最良で最も広く用いられている.しかし測定値数が少なく,その中に極端に飛び離れた値があると大きい方(あるいは小さい方)へ偏よってしまう.中央値や最頻値はその意味がわかりやすく,飛び離れた値で影響されない.しかし算術平均値と異なり統計的処理には適さない.度数分布が対称的・非対称的な場合の各代表値の位置を図1に示した.対称的な場合は三つが等しくなる.非対称分布の場合には平均値は代表値として必ずしも適当でない.平均値以外に中央値・最頻値を併記するのがよいことがわかる.

最新海外文献情報

ぶどう膜,他

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.344 - P.347

 動物における実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAu)モデルの開発により,ヒトの内因性ぶどう膜炎の免疫病態の理解がさらに深まりつつある.本研究では従来のS抗原とは異なる網膜由来の糖蛋白であるinterphotoreceptor retinoid-bindingprotein (IRBP)を抗原に用い,6頭のサルに皮内注射したところ,全例がEAuを発症したという.とくに網膜血管の白鞘化,眼底後極部に始まる白斑が著明で,これらは螢光眼底造影でも色素の漏出,貯留として認められている.病理組織像では視細胞外節の炎症,脈絡膜の高度細胞浸潤がみられ,類上皮細胞や巨細胞からなる肉芽腫も多かった.また,Dalen-Fuchs結節も散在していた.このほか,松果体にも著明なリンパ球浸潤を伴う炎症像が認められた.これらの所見はヒトの交感性眼炎や原田病に一部類似しており,ぶどう膜炎の病因に網膜抗原が関与している可能性を示唆する興味深い新知見と思われる.
Hirose S et al : Uveitis induced in primated by interphotoreceptor retinoid-binding protein. Arch Ophthalmol 104 : 1698-1702, 1986

臨床報告

糖尿病性びまん性黄斑浮腫に対するgrid pattern photocoagulation

著者: 萱澤文男 ,   三宅謙作

ページ範囲:P.375 - P.378

 びまん性糖尿病性黄斑浮腫に対し,格子状光凝固grid pattern photocoagulationを施行した.35眼の内22眼で浮腫の軽減または消退を認め,5眼で0.1以上の視力の改善を認めたが,22眼で不変,8眼で視力低下を認めた.中心暗点等合併症は1例もなかった.この凝固方法はその実施時期,有効例,無効例の選択等,なお検討すべき問題点が多いと考えられる.

無虹彩-Wilms腫瘍症候群の1例

著者: 野田幸作 ,   玉井嗣彦 ,   上野脩幸 ,   岸茂 ,   目代康子 ,   矢野久仁子 ,   友田隆士 ,   荒木久美子 ,   小倉英郎 ,   倉繁隆信 ,   喜多村勇 ,   沢田敬 ,   佐竹幸重

ページ範囲:P.379 - P.382

 典型的な無虹彩-Wilms腫瘍症候群の5カ月女児の1例について報告した.眼科的に水平眼振,無虹彩,軽度の白内障,緑内障,黄斑低形成などが両眼に認められた.水晶体表面には両眼とも粗な血管網があり,隅角鏡検査にて痕跡的な虹彩根部へ連絡しているのが観察された.この血管網は螢光前眼部検査にて造影された.染色体の核型は46,XX,t (11;13)(p13;p11)であった.のちに左腹部にWilms腫瘍が発見された.無虹彩の症例では眼科的に視能訓練,緑内障の悪化の可能性,角膜混濁などについて十分な経過観察が必要なほか,染色体分析を行い,Wilms腫瘍などの悪性腫瘍の発生を十分監視する必要があると考えられた.

中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの1例

著者: 大久保裕史 ,   谷野洸

ページ範囲:P.383 - P.386

 中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーと思われる38歳の女性の1例を14カ月間にわたって観察し病態の進行を確認した.主要な病変は黄斑部の地図状の網膜色素上皮および脈絡膜毛細管板の萎縮と,それを取り囲む点状の網膜色素上皮萎縮であった.中心窩はこれらの病変から免れていたが,螢光眼底所見では黄斑周囲毛細血管系蹄が不明瞭であった.14カ月の経過で,視力,眼底所見は悪化したが視野,色覚,ERG,EOGの各所見に著変はなかった.網膜色素上皮の萎縮巣は初め点状であったものが次第に癒合し,拡大して地図状となった.この拡大は部位により相違があり,前駆病変たる点状病巣の分布の広範囲な所で必ずしも著しくなく,むしろ点状病変の分布は狭い.しかし点状,小斑状,小地図状など多様の病変が混在した場所で,地図状病巣の拡大は大きかった.

両側内頸動脈閉塞症に起因した眼虚血性症候群の1例

著者: 大野理子 ,   富井純子 ,   堀内二彦

ページ範囲:P.387 - P.391

 螢光眼底検査,oculo cerebro vas-culometry (以下OCVM検査と略す),digitalsubtraction angiography (以下DSA検査と略す)などにより,慢性の両側内頸動脈閉塞症と診断された1症例について,文献的考察を含めて紹介した.
 症例 は83歳男性で,左眼の突然の視力低下を主訴とし,経過観察中に右眼にも一過性の黒内障発作様症状をきたした.
 眼底所見として,左眼は黄斑部を含めた後極部網膜に浮腫状混濁を,右眼は中等度の動脈硬化を呈していた.
 螢光眼底所見としては,両眼の腕-脈絡膜循環時間・腕-網膜循環時間,ならびに網膜内循環時間などが遅延しており,特に左眼で著しかった.
 網膜中心動脈圧は両眼とも高血圧を示し,特に拡張期血圧が高値を示した.
 DSA検査で両側内頸動脈閉塞症と確認できたにもかかわらず,OCVM検査に異常を認めなかったことなどから,慢性の両側内頸動脈閉塞症と診断し,網膜血管抵抗の上昇に伴う,広義の眼虚血性症候群の一種と考えた.

桐沢型ぶどう膜炎の2症例

著者: 岩元義信 ,   松村絹子 ,   尾渡美和子

ページ範囲:P.395 - P.400

 硝子体混濁が比較的軽かった,片眼性の桐沢型ぶどう膜炎の2例を経験した.症例1は55歳男性,成人T細胞性白血病の患者で,日和見感染の既往があった.症例2は41歳の健康男子で,ステロイドやアシクロビールによる治療も奏効せず,網膜剥離へと進展した.リンパ球サブセット分析にて免疫異常が示唆された.2症例とも急性期に点状,一部斑状の滲出斑がみられ,眼底所見,螢光眼底所見よりこの滲出斑は本症に特徴的な濃厚な滲出斑とは本態の異なる病巣と考えられた.また,濃厚は滲出斑は三面鏡検査にて剥離網膜下の顆粒状堆積物として観察され,その主体は脈絡膜よりの炎症性滲出物と考えられた.
 本症の最大の特徴は,網膜内ウイルスに対する異常な反応性ぶどう膜炎にあると思われ,その原因として免疫応答の異常を推測した.

眼球脈波と高血圧症について

著者: 藤川英津子 ,   堀内二彦 ,   田島秀樹

ページ範囲:P.401 - P.404

 Oculo cerebro vasculometry (OCVM)を脳血管障害の予測に利用できないかと期待し,高血圧症35人69眼を対象に,眼球脈波消失時眼圧(OPCP),初期眼球脈波の振幅(PA)等について検討した.その結果,高血圧症のOPCPは正常と有意差がなく,上腕動脈血圧とOPCPには相関がなかった.また,PAについても,高血圧症と正常との間に有意差がなく,PAと上腕動脈血圧,脈圧,眼圧との相関も認められなかった.高PA群では脈圧が高く,低PA群では眼圧が低く,眼球脈圧に影響する因子は複雑であると考えられる.脳血管障害の予測にOCVMを利用するためには,眼球脈波の成分分析を含めて検討していく必要があると思われた.

Group discussion

緑内障(第28回)

著者: 澤田惇

ページ範囲:P.409 - P.411

 今回は,「開放隅角緑内障の早期診断」を主題として湖崎・澤田の司会のもとに行われた.まず視野変化によるものについては,北澤教授の指名講演に続いて,3題の一般演題が発表された.
 北澤克明(岐阜大)は「視野による原発開放隅角緑内障の早期診断」と題して,主に自動視野計の紹介と,その緑内障診断における有用性をまとめた.原発開放隅角緑内障の早期視野変化は主にBjerrum領に生じる孤立暗点と鼻側階段であり,それらを確実に検出するためには静的視野検査が動的視野検査よりも優れていることは理論的に明らかである.静的自動視野計の開発により早期視野変化の検出が容易になっているが,微細な変化が検出可能になるにしたがって,正常な視野とは何であるかが改めて検討課題となっている.異常の判定にあたっては正常者の閾値が年齢,測定部位,中間透光体,屈折などの因子により変化することを知る必要がある.自動視野計ではマイクロコンピュータが内蔵されており結果が光感度閾値という形で数字として得られるため,結果を統計学的に解析することが容易に行いうる.既に実用化されている統計解析法にはいくつかの指数(corrected loss variance, short-term fluctuationなど)を指標として異常の出現,進行を判断しようとする試みや測定部位の異常である確率を計算するシステムなどがある.

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.415 - P.417

1.I-cellにおける涙液ライソゾーム酵素活性と結膜生検について
山口慶子・塩野貴・原敏・石黒誠一(東北大)・早坂征次(島根医大)・ I-cell病(inclusion cell disease)の骨髄移植例に対し涙液中ライソゾーム酵素活性を測定した.測定したacid phosphatase, β-D-glucuronidase, N-acetyl-β-D-glucosaminidase, α-L-fucosidase, α-D-man-nosidaseは,骨髄移植後4カ月では,かなり高活性であったが,10カ月までの間に徐々に活性が低下し,正常レベルに近づいていることが判った.血漿中と涙液中の酵素活性が,ほぼ平行に動くことから,採取が容易な涙液は,本症の補助的検査法として有益であると思われた.

文庫の窓から

眼科龍本論十六巻

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.412 - P.413

 中国眼科の古典として代表的なものに葆光道人秘伝の「眼科龍本論」という眼科専門書があるが,これはインド眼科の「龍樹菩薩眼論」によるところが多いといわれ,五輪八廓説を掲げ,眼疾に内障24症,外障48症を挙げ,中国宋元代の以後の固有説を含んだ撰書といわれている."龍樹","龍木"とした理由について,劉昉の著「幼々新書」の所説によると,宋の英宗がその諱を嫌って樹の文字を廃して木の文字に改めたという,と述べられている(福島義一著「日本眼科全書」).ここに掲出の「眼科龍本論」の"龍本"は果たして龍木が龍本になったものかどうか確かなところはわからない.本書の巻頭によると,その編集,刊行,校正者の名に,建寧路官医提領陳志刊行,南豊州医学教授危亦林,編集,江西等庭官医副提擧余賜山校正となっており,これらの編集者によって書名が付けられたとも考えられ,もとは刊本であったものと窺えるが,掲出本は写本として後世に伝えられたものと思われる.
 本書はおよそ152葉の料紙(和紙)に精写し,全1冊,4針の和綴(27.3×18.6cm)に仕立てたものである.その前半50葉は漢文,中77葉は和文の記述で,後半25葉には彩色の眼病図が多数描かれている.内容的には中国明代のいわゆる漢方眼科を記述したもので,その主な項目を抄記すると以下の通りである.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.418 - P.418

論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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