icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科41巻5号

1987年05月発行

雑誌目次

特集 第40回日本臨床眼科学会講演集 (2) 学会原著

眼内レンズ挿入術後に認められた不可逆性散瞳について

著者: 谷瑞子 ,   早川純子

ページ範囲:P.433 - P.437

 1984年1月より施行した計画的嚢外摘出術後に後房レンズを挿入した自験1列248眼のうち,8例8眼(3.2%)に不可逆性散瞳が認められた.男4例,女4例.年齢は58〜78歳.右5眼,左3眼であり,術後観察期間は4〜11カ月であった.術前検査において1例のみがpellucid mar-ginal corneal degenerationを呈した他は異常所見を認めた症例はなかった.術中経過は順調であり,術前,術中に合併症を予測させるものはなかった.術後3〜5日より散瞳が始まり,術後7〜15日で対光反応が消失し,瞳孔径はいずれも7.5〜8mmであった.各種縮瞳剤を使用したが著効といえるものはなく,瞳孔径には変化がみられなかった.全層角膜移植後にみられるUrrets-Zavalia症候群とよく似た現象と思われ,原因や機序に関しては不明であるが,皮質の吸引・灌流の際の圧の変化や,前房内操作による瞳孔括約筋の虚血性変化の可能性は否定できない.

片眼無水晶体例における両眼視機能について

著者: 奥野廣子 ,   勝海修 ,   後藤郁子 ,   宮永嘉隆 ,   朝岡勇 ,   本田和夫

ページ範囲:P.438 - P.442

 片眼性無水晶体症90例について,不等像視,立体視機能を測定した.
 人工水晶体移植例(N=57)において,不等像視の平均値は2.8%であり,3%以下の不等像視を示したものが39例(68.4%)であった.また立体視機能については,チトマステストにおいてサークル5/9(100sec)以上の良好な立体視を示したものは38例(66.7%)を示した.
 コンタクトレンズ装用群(N=27)においては不等像視の平均値は4.9%であり,3%以下のものは11例(40.8%)であった.また5/9以上の立体視を示したものは,同じく11例(40.8%)であった.
 眼鏡で矯正すると(N=6)不等像視は平均16.5%となり,立体視機能は,低い値を示した.

ロービジョンクリニックについて

著者: 坂本洋一 ,   簗島謙次 ,   菊入昭 ,   管野和子

ページ範囲:P.443 - P.446

 わが国においては,低視力者のリハビリテーションについて臨床的発展が遅れているのが現状である.我々は眼科医,ソーシャアル・ケースワーカー,視能訓練士,生活訓練専門職のスタッフによるチームアプローチの原理にたって、ロービジョンクリニックを開設した.クリニックのプログラムは医学的検査,眼科的検査,環境調整,近見視と遠方視の補助具の処方と使用訓練,職業上の業務分析に基づく職場環境の改善などから構成されている.症例は網膜色素変性症と視神経萎縮の患者2名であるが,1人は職場復帰をし,1人は現在職場復帰を調整中である.このことから,低視力者のリハビリテーションでは短期間のクリニックでも職業の維持ができたり,職場復帰できることがわかる.今後このようなクリニックの開設が低視力者のニーズに対応することになる.

眼科外来用診療録のコンピュータ化について

著者: 田中一郎

ページ範囲:P.447 - P.450

 眼科外来用カルテのコンピュータ化のために,カルテに記録する情報のうち,「文字型」のデータを,パーソナルコンピュータで記録した.データ入力の分散化のために,受付,視力室,診察室に,それぞれパーソナルコンピュータを置き,患者名,年齢等を受付で,屈折データを視力室で,診療データを診察室で入力し,互いに通信ライン(RS232C規格)で連絡し,磁気ディスクにすべての患者のデータを記録した.データは患者名以外,ほとんどコード化して入力した.
 コンピュータのプログラムは,BASIC言語で作製した.
 このような情報のコード化と,入力の分散化により,パーソナルコンピュータによる眼科外来患者のデータベース化が可能となり,情報の検索,統計などに応用することが可能となった.

救急眼科外来10年間の変遷

著者: 武田純爾 ,   市橋宏亮 ,   石黒真美 ,   筒井純

ページ範囲:P.451 - P.454

 川崎医科大学附属病院救急部開設以来10年間の眼科救急疾患の統計的観察を行った.時間外救急眼科疾患は全救急疾患の3.1%で,この頻度は年次増加傾向にあった.このうち入院例は約8%であった.年齢別では小児と若年者がほとんどで高年齢層には少なかった.男女比は1.9:1と男性に多く,時間内眼科疾患の比率とは対照的であった.疾患別では外傷が71%で各年度ともほぼ同じ頻度であり,内訳としては異物,鈍傷,鋭傷,コンタクトレンズによる角膜障害が多かった.以上より眼科救急患者の年齢,性,疾患の分布状態には一定の傾向があることが判明し,一般救急病院において設置すべき眼科診療器具や救急医に必要な眼科初期診療を知ることができた.このような資料は眼科救急の充実を計るのに有用であると考えられた.

脈絡膜虚血を伴う黄斑部脈絡膜新生血管

著者: 吉岡久春

ページ範囲:P.455 - P.460

 螢光眼底血管造影により,黄斑部網膜下(症例1)および網膜色素上皮下(症例2)の脈絡膜新生血管と同時に,広範な脈絡膜の充盈遅延を認めた2例と地図状脈絡膜炎の1例では,螢光眼底血管造影により,病巣内で網膜色素上皮組織染の部に一致し,網膜色素上皮下の脈絡膜新生血管を認めた.
 以上の観察から,脈絡膜循環障害が脈絡膜新生血管の発生の一因子であること,しかも脈絡膜の循環障害の程度が脈絡膜新生血管の発生に重要な役割を演ずる可能性が強く示唆された.

黄斑部疾患に関する考察錐体(-杆体)ジストロフィ

著者: 湯沢美都子 ,   八木橋潔 ,   川村昭之 ,   湊ひろみ ,   川久保洋 ,   松井瑞夫

ページ範囲:P.461 - P.468

 我々はび漫性錐体機能不全を示した錐体(-杆体)ジストロフィ52名,およびその疑い2名計54名の初診時の後極部所見をIA,IB,II群,その他に分類し,経過観察を行えた症例および家族発症例を中心に,各病型の進行様式について検討を加え,以下のように推論した.
 IA群は輪状の萎縮病巣(=標的黄斑病巣)が内方に向って進行する病型で,やがて黄斑部には均一な色素上皮の萎縮病巣が形成され,さらに進行すると病巣内には脈絡膜毛細管萎縮が出現する.
 IB群は標的黄斑病巣が,外方に向かって進行する病型で,進行期には色素上皮の萎縮病巣は黄斑部耳側から乳頭を越えた範囲までひろがり,病巣内には脈絡膜毛細管板萎縮が出現する.
 II群は初期に中心窩を含んで色素上皮の萎縮病巣のみられるもので,進行期には多量の色素沈着を伴う色素上皮の萎縮病巣は黄斑部耳側から乳頭鼻側までひろがり,病巣内には脈絡膜毛細管板萎縮が出現する.

網膜色素変性症における視野障害の進行

著者: 飯島裕幸 ,   岡島修 ,   岡本道香 ,   平戸孝明

ページ範囲:P.473 - P.476

 定型網膜色素変性症における視野狭窄の進行様式を明らかにするためにゴールドマン視野のV-4イソプターでの平均視野境界(MB)を求め,経過観察年数毎の視野狭窄の進行状況を示した.
(1)明らかな視野の悪化例は10年以下の各経過年数においていずれも50%を越えず,本症における視野障害の進行速度は比較的緩慢であることがわかった.
(2)進行様式に関して,平均視野境界が50度より広い例では視野狭窄の進行は緩慢であるが,これが30度から50度の範囲にはいるようになると比較的急速に進行し,さらに30度未満になると視野狭窄の進行は再び緩慢となる傾向があることが示された.
 本症患者の指導にあたっては以上の事実を踏まえて適切な助言を与えることが望ましい.

網膜中心静脈閉塞症の線溶・抗凝固療法の試み

著者: 内田英哉 ,   藪下えり子 ,   西田祥藏

ページ範囲:P.477 - P.482

 網膜中心静脈閉塞症に対して,uro-kinase 60万IUを2日間投与しwarfarinを併用した群,24万IUを4〜5日間投与(約半数例にwarfarin併用)した群で,治療効果および血液凝固・線溶能を比較検討した.
(1) urokinase 60万IU投与群,24万IU投与群ともに線溶能は亢進した.特に60万IU投与群において著明であった.
(2) urokinase単独投与では,凝固能には変化は見られなかった.warfarinのurokinase投与開始と同時併用により血液凝固能は抑制された.
(3)最良視力が得られるまでの平均期間は,uro-kinase 60万IU投与群(warfarin併用)が最も短かった.また,光凝固施行により視力の改善を得た症例が認められた.
 以上より,本症治療にurokinaseとwarfarinの併用療法および必要に応じた光凝固は有効な治療法であると考えられた.

網膜剥離と屈折との関係1,166眼の検討

著者: 小川昭彦 ,   田中稔 ,   杉江進 ,   中馬祐一 ,   山崎守成 ,   加藤和男 ,   中島章

ページ範囲:P.483 - P.486

 網膜剥離眼の屈折分布についての報告は数多くみられるが,一般集団ないし網膜剥離の無い集団との屈折における比較は数少ない.
 今回,網膜剥離1,166眼を網膜剥離群,網膜剥離のない一般患者11,671眼をコントロール群として,屈折度数分布の比較およびその発生頻度を調査した.
 屈折度分類は〜+0.75Dまでを遠視,+0.5D〜−0.5Dまでを正視,近視を5段階とした.網膜剥離群では遠視8.58%,正視9.26%,近視82.16%,コントロール群では遠視24.29%,正視41.30%,近視34.41%で,従来通り網膜剥離群では近視の頻度が高かった.次に,屈折度別の網膜剥離発生頻度を求めると,遠視0.35,正視0.22,−0.75D〜−2.75Dの近視0.83となり,以後近視が増加することに増え,−15.0D以上では遠視に比べて約68.6倍発生頻度が高かった.

未熟児網膜症に対するビタミンEの効果について(II)

著者: 加藤寿江 ,   馬嶋昭生 ,   市川琴子

ページ範囲:P.487 - P.491

 1977年1月から1984年12月までに名市大新生児集中治療室(NICU)で管理され,1年間以上経過観察のできた出生体重1,500g未満の極小未熟児は138例で,このうちビタミンE非投与群は67例,ビタミンE筋肉内総投与量が40mg/kgをこえる過剰投与群は33例,ビタミンE筋肉内総投与量が40mg/kgの至適投与群は38例であった.これら3群について,網膜症の発生・進行および瘢痕化とビタミンE投与の関連性について検討し,以下の結果を得た.
(1)ビタミンEによる網膜症の発生予防,進行防止効果は認められない.
(2)ビタミンE過剰投与は,敗血症,感染症を増加させ,網膜症を重症化させる.
(3)ビタミンEによる網膜症瘢痕化の軽減効果もない.

学術展示

眼内レンズ挿入後に発生したlight-induced maculopathy

著者: 小泉恵里子 ,   原田敬志 ,   斎藤昭 ,   杉田肇子 ,   久田廣次 ,   粟屋忍

ページ範囲:P.492 - P.493

 緒言 手術用顕微鏡でlight-induced maculopathyが発生したという報告は,1983年McDonald・Irvinが初めて臨床的に眼内レンズ挿入眼で行って以来,20数例に上るが,本邦では1,2編しかない.今回我々はlight-induced maculopathyと思われる3症例を経験したので報告する.
 この3症例の使用顕微鏡はすべてZeiss OPMI 6typeであり,ビデオテープに同時記録されていた.術式は3例とも水晶体計画的嚢外摘出術後の眼内レンズ移植術で,またレンズ挿入時の前房形成にはHealon® を使用した.

隅角支持型前房レンズの隅角所見

著者: 船坂恭介 ,   鳥飼治彦 ,   武田良彦

ページ範囲:P.494 - P.495

 緒言 人工水晶体移植術は後房レンズが主流であるが,2次移植の場合,嚢外手術で後嚢が破れ後房レンズ挿入が困難になった場合には隅角支持型前房レンズが使用される.また時には嚢内摘出術に一次移植として使用されることもある.隅角支持型前房レンズにも種々のデザインがあり、hapticの固さ・固定状態もさまざまである.最近隅角支持型前房レンズの隅角所見について内外において報告1〜4)が出ており,合併症との関連も注目されている.今回我々は外来通院中の隅角支持型前房レンズ移植術を施行され経過観察中の患者の隅角を観察・隅角写真撮影を行い異常所見について検討を加えたのでここに報告する.

人工水晶体眼と術後早期視力

著者: 田辺法子 ,   松原正男 ,   近藤秀美 ,   播田実浩子 ,   河井克仁

ページ範囲:P.496 - P.497

 緒言 白内障術後患者の早期視力回復は,早期離床,日常生活への早期復帰に極めて重要といえる.とりわけ高齢者の早期視力回復には,人工水晶体IOLが眼鏡コンタクトレンズより大きな視適性を有している.
 今回,IOL眼の早期視力回復に遅延因子として術式や合併症,超音波使用時間US timeなどの手術侵襲がどのように関与しているか検討を試みた.

コラーゲン・ゲルを用いた眼内レンズ移植

著者: 田中稔 ,   白土春子 ,   稲垣有司 ,   宮田暉夫 ,   金井淳 ,   中島章

ページ範囲:P.498 - P.499

 緒言 コラーゲンゲルは特殊な処理を施すことにより生体内で透明で抗原性もほとんどないviscousな物質となることから以前より我々は人工硝子体としての可能性も検討してきている.今回コラーゲンゲルの前眼部手術特に眼内レンズ移植術への応用を試みたのでその有用性について報告する.

5-fluorouracilによる線維柱帯切除術の予後改善

著者: 中野豊 ,   沼賀二郎 ,   宮田和典 ,   白土城照

ページ範囲:P.500 - P.501

 緒言 線維柱帯切除術は,ワトソンとケアンズの報告以来,緑内障に対して現在最も広く行われている手術方法である.その術後成績についても過去多くの報告がなされており,そのなかには国内外を問わず良好な成績を示すものが比較的多い.しかし,稲葉1),白土2)らの報告によれば,生命表法を用いて本邦における線維柱帯切除術の術後成績を解析した場合,その結果は決して満足できるものではなく,原発開放隅角緑内障に限っても初回手術の成功率でさえ約50%前後であり,複数回以上の手術例では更に極端に低下することが明らかになっている.しかも、無水晶体性緑内障、出血緑内障等のいわゆる難治性緑内障に対しては,線維柱帯切除術はもとより他の手術方法も決して有効ではないことが知られている.
 今回我々は手術後の濾過胞の瘢痕形成防止の目的で、抗癌剤である5-FU (5-fluorouracil)を線維柱帯切除術に併用し,その術後成績を生命表法にて解析し,興味ある結果を得た.

水晶体融解性緑内障の細胞診断

著者: 保谷卓男 ,   石原淳 ,   野呂瀬一美 ,   瀬川雄三

ページ範囲:P.502 - P.503

 緒言 融解した水晶体物質とこれを貪食したmac-rophageが房水流出路を閉塞するために生じる水晶体融解性緑内障の存在はよく知られているが,臨床の場での診断は難しく、しばしば誤診され視力予後の不良な症例が多い.
 今回我々は、水晶体融解性緑内障の術前の鑑別診断に房水の細胞診断(Papanicolaou染色)が,安全,簡便,明確な方法であることを再確認したので報告する.

緑内障視野の全進行体系

著者: 湖崎弘 ,   中谷一

ページ範囲:P.504 - P.505

 緒言 我々の約30年間の緑内障診療時に得られたゴールドマン動的視野図の解析の結果,視野による病期分類(1972年日眼総会)1),視野異常のパターン分析(1977年日眼総会)2),視野の進行形式(1977年臨眼学会)3)で発表したが,今回は延べ649眼の緑内障視野の全過程の進行体系について検討し,特異型は次の通りであると結論した.

緑内障性陥凹所見に影響を及ぼす因子 2.近視眼

著者: 伊賀俊行 ,   勝盛紀夫 ,   溝上国義

ページ範囲:P.506 - P.507

 緒言 近視眼の乳頭は独特の形態を示すために,これに緑内障が合併した場合,緑内障性変化が近視性変化に修飾されて,これに伴う機能低下を同定することがしばしば困難になる.特に高度近視眼では,コーヌスなどの乳頭以外の眼底部位においても神経線維の走行が障害される可能性がある.
 今回我々は近視に伴った緑内障群において,その眼底変化と視野との相関に関する検討を行った.

正方向隅角検査法 続報

著者: 山森昭

ページ範囲:P.508 - P.509

 緒言 前に発表した正方向隅角検査法1)を更に研究したので,続報として補足する.

緑内障に対する運動療法の試み

著者: 高嶋和恵 ,   初田高明 ,   橘俟子

ページ範囲:P.510 - P.511

 緒言 近年内科的疾患に対する運動療法への関心が高まり,一部ではその有用性が実証されつつある.具体的には糖尿病・心筋梗塞・狭心症・高血圧などに対して,薬剤・食事療法と並んで運動療法が取り入れられてきている.他方,運動により眼圧が低下することが既に報告されている1〜5).そこで今回我々は緑内障に対する運動療法の実験的試みを行った.

レーザー虹彩切除術後にみられる屈折変化

著者: 篠塚啓子 ,   瓜田千紗子 ,   嘉沢美佐子 ,   武尾宏伸 ,   渡辺博

ページ範囲:P.512 - P.513

 緒言 急性原発性閉塞隅角緑内障の発作眼に対して,あるいはその他眼に対して将来起こりうる可能性の高い閉塞隅角緑内障発作を予防するために行われるレーザー虹彩切除術は現在一般に普及している.レーザー虹彩切除術を行った後,観察期間1カ月から4年の間(平均9カ月),近視化を主とした屈折の変化がみられたので検討,報告する.

連載 眼科図譜・351

未熟児網膜症とアルゴンレーザー光凝固

著者: 大滝千秋 ,   中山正 ,   松尾信彦 ,   依田忠雄 ,   産賀恵子 ,   秋田紀子

ページ範囲:P.426 - P.427

 従来から,未熟児網膜症に対する光凝固術はキセノン光凝固装置で行うことが一般的であった1,2).その理由としては,1)仰臥位で処置できる,2)全身麻酔が必要なことがある,3)当時としてはキセノン以外に適当な凝固装置がなかった,4)アルゴンで行うにしても,適当な未熟児用コンタクトレンズがなかったなどが考えられる.この方法による凝固には熟練を要し,凝固に時間がかかり,正確な位置の把握が困難であり,患児および術者の負担は多大であった.最近,未熟児・新生児用2面鏡コンタクトレンズ(馬嶋)3,4)が発売になった.そこで,通常の普及型アルゴンレーザー光凝固装置を用いて,未熟児網膜症(中間型)の1例に治療を行ったので供覧する.
 症例 は出生時体重773g,在胎週数26週の女児(1405893)である.Apgarは9点であったが,呼吸窮迫症候群と無呼吸発作が頻発したため,レスピレーターによる呼吸管理が行われた.酸素濃度は50%から投与され,tcPOは40〜70mmHgに維持されていた.眼科的検査は生後18日目に行われた.瞳孔膜血管はみられず,眼底は全体がhazy mediaであったが,後極部はどうにか透見できた.視神経乳頭は楕円で,やや蒼白,黄斑反射は観察されず,網膜血管に怒張,蛇行はなかった.生後41日目,周辺部が透見可能となった.両眼ともに,赤道部あたり(国際分類,Zone II)で,網膜血管先端部には異常分岐とridgeを伴う境界線形成が全周に観察され,それより周辺部には明らかな無盗管領域がみられた(図1).生後56日目,両眼の後極部網膜動脈に蛇行,静脈の拡張がみられ始めた(図2).生後60日目,ridgeを伴う境界線の周辺側に網膜出血と点状の硝子体への発芽が所々みられ始めた.硝子体内滲出は鼻側から比較的急速に厚みを増し,増殖姓変化に加え,牽引性変化がみられ始めた.以上から,厚生省新分類5)では未熟児網膜症,中間型(活動期,中期から末期),国際分類6)ではStage 3, moder-ate,+ROPと診断し,生後68日目にアルゴンレーザー光凝固術を施行した.この時期の患毘の体重は1626g,酸素濃度は40%,tcPOは40 mmHgであった.患兜はふたりの助手により醐臥位に固定され,無麻酔下で,レスピレーターによる呼吸管理下で治療した〈図3).光凝固装置には,普及型Britt社アイグラールModel 643型を使用した.凝固用コンタクトレンズは未熟児・新生児用2面鏡コンタクトレンズ(馬嶋)を用いた(図4).凝固条件は出力300〜800mW,サイズ400μmおよび時問0,2secであった.凝固部位は境界線上と無血管野全体をできるだけ密に行った(図5).最初は左眼から開始し,凝固数377発,所要時間は28分であった.次の右眼は凝固数247発,所要時問は18分であった.このレンズの使用により,鋸状縁までの観察が比較的容易であった.光凝固後の経過では,凝固翌日をこは境界線に向かう撫管がやや拡張してみられた.凝固後5日Reこは境界線に向かう血管の狭細化が始まり,境界線も全周が不明瞭となってきた.凝固後18日目には硝子体への発芽は耳綴から鼻側の頽で完全に観察できなくなった.凝固後3ヵ月の現在,視神経乳頭周囲の動脈にコイル状の蛇行は観察されるが,周辺部臨管は凝固斑を越え,鎮静化している.疲痕期の変化としては光凝固による変性以外にはなんら異常は観察されていない(図6).

今月の話題

角膜結膜疾患と免疫

著者: 田川義継

ページ範囲:P.429 - P.432

 角膜・結膜では,その解剖学的特徴から外来因子による感染症やアレルギー性疾患が多くみられ,生体防御の基本をなす免疫反応がその病態に関与する疾患が少なくない.本稿では代表的な疾患について解説する.

眼の組織・病理アトラス・7

網膜色素上皮:視細胞外節の処理

著者: 岩崎雅行 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.514 - P.515

 眼球が光受容器であるという点において,眼組織のなかで最も重要な細胞は視細胞である.その視細胞を機械的に支持しているのは網膜の主要グリア細胞のミュラー細胞であるが,機能的に色々な形で支えているのが網膜色素上皮細胞 retinalpigment epithelial cellである.その意味でミュラー細胞だけでなく,色素上皮細胞も一種のグリア細胞と考えてよいと思われる.このことは色素上皮に病変を生じると,視細胞の機能異常,ひいては視力障害をきたすことを意味する.
 網膜色素上皮は,網膜の最外層に位置する単層立方上皮で,細胞の先端部は視細胞の先端である外節と向い合っており,基底部はブルッフ膜をはさんで脈絡膜毛細管板と隣接する.色素上皮細胞の機能として,古くなった視細胞外節の処理,脈絡膜毛細管板による網膜外層(主に視細胞)の栄養代謝の仲介,血液網膜棚,ビタミンAの代謝,視細胞外節に吸収されなかった光の乱反射防止などが考えられている.今回は,主に視細胞外節の処理に関する形態学的特徴を述べる.

眼科医のための推計学入門・3

仮説検定の考え方と比率の検定

著者: 大野良之

ページ範囲:P.549 - P.551

仮説検定の意味と手順
 仮説検定とは,母集団の分布型(母数)についての特定の仮説のもとで標本統計量が得られる確率をもとめ,その確率をある一定の基準に照らして仮説の当否を判定する推論方式をいう.その手順(表1)と考え方は以下の通りである.

最新海外文献情報

網膜,他

著者: 原田敬志

ページ範囲:P.470 - P.471

Bonnet M, Urrets-Zavalia J : D6collement retiniens par petits trous de la region equator-iale. J Fr Ophtalmol 9 : 615-624, 1986
 赤道部の小円孔によってひきおこされた,有水晶体眼における網膜剥離46眼について臨床的特徴がまとめられている.同一期間に手術された裂孔原性剥離の5.8%を占める.81%が40歳以下で,93.5%が近視眼であった.小円孔の数は1から16(平均4.5),局在は下耳側が50%,上耳側が31.4%であった.剥離はせいぜい2象限までである.100%が復位し,1回の手術で復位したものは93.5%であった.術前視力は0.5以上が39%であったのに対し,術後視力は60%となった.高度な硝子体網膜増殖がないのは,弁状裂孔に伴う網膜剥離と異なり,手術成績の良いことの主因となっていると思われる.予防手術の適応については,他眼に網膜剥離の既往がある場合に考慮されるべきであろう.手術には手術用顕微鏡を用いるのが理想的で輪状締結術は不要であった.

臨床報告

数年後に硝子体腔に侵入したバックル縫着糸

著者: 田窪一徳 ,   美女平一朗 ,   岡本祐二 ,   可児一孝 ,   曽谷尚之

ページ範囲:P.517 - P.519

 1983年に左眼網膜剥離の手術(シリコンスポンジのエクソプラント)を行ったがその一つが結膜外へずれて出てきたため摘出した.1986年11月それまで見られなかった縫着糸が網膜より硝子体中に突出してみられたが,特に悪化の兆候はないためそのまま経過観察中である.

パターンERGによる緑内障性早期視神経障害の検出

著者: 千原悦夫 ,   森秀夫 ,   坂上欧 ,   根木昭 ,   本田孔士 ,   新井三樹 ,   直井信久 ,   堀部勉 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.521 - P.524

 正常24眼,視神経および神経線維層に異常を認めない高眼圧症(OH-1群)15眼,C/D比が0.6以上あるいは神経線維層欠損(nerve fiberlayer defect:NFLD)を認めゴールドマン視野に異常を認めない群でピロカルピンを使用していない群(OH-2群)10眼,OH-2群と同程度の乳頭,NFLD,視野であるがピロカルピンを使用している群(OH-3群)6眼,原発開放隅角緑内障で湖崎分類IIa〜IIIa (ピロカルビン使用)の15眼,同程度の視野異常を示す低眼圧緑内障13眼においてパターンERG (PERG)とパターンVECP(PVECP)を同時記録しその潜時について検討した.
 OH-1群は正常群と差を認めないがOH-2群はPEPG潜時が有意に延長しPVECPの変化より鋭敏であった.OH-3群とPOAG群は明らかな潜時の延長を認めた.また個体差のため個々の症例における異常の判定は困難であったが視野変化進行と共に潜時は延長する傾向がある.低眼圧緑内障は同程度の視野変化を示す高眼圧緑内障群に比してPERG潜時の延長が不明瞭であり両者間の病態の差異を示すものと推論した.

小眼球における閉塞隅角緑内障手術

著者: 谷原秀信 ,   永田誠

ページ範囲:P.525 - P.528

 Nanophthalmosが強く疑われる症例に合併した難治性閉塞隅角緑内障の1例を経験した.一連の手術・レーザー治療を用いることにより隅角と眼圧の安定したコントロールを得ることができた.手術はまず,渦静脈減圧術を施行し,corevitrectomyによる硝子体圧低下を確認してから,Kelman phacoemulsificationを行った.効率不良のために嚢外摘出術への変更を必要とした.水晶体摘出後に隅角癒着解離術とこれに続くゴニオプラスティーにより眼圧のコントロール・隅角の開放を認めた.しかし,隅角の安定はYAGレーザーを用いた後嚢切開術により,虹彩—後嚢癒着による瞳孔ブロックを解除してようやく得られた.

特発性黄斑部網膜上膜形成症の手術成績と組織検索

著者: 岸本伸子 ,   板垣隆 ,   大熊紘

ページ範囲:P.529 - P.533

 進行性の特発性網膜上膜形成症4例4眼に対し,硝子体手術により,増殖膜の剥離および切断を行い,合併症の発生はなく,全例で眼底所見の改善および視力の向上を見た.最低6カ月最長1年9カ月の観察期間で,上膜の再発傾向を認めたものは1例のみであった.2例について切除した膜の電顕的観察を行い,astrocyteと思われる細胞,線維芽細胞,硝子体細胞などの細胞成分と,膠原線維や基質から構成されていた.リンパ球も認められ,網膜上膜形成に炎症の関与が推測された.

眼内灌流液と超音波水晶体乳化術中の気泡発生について

著者: 江口秀一郎 ,   松村譲 ,   新家真

ページ範囲:P.535 - P.540

 ケルマン超音波水晶体乳化装置を用い,豚眼前房内を各種眼内灌流液で置換し,灌流液組成成分が超音波発振時の前房内気泡発生に与える影響を検討した.炭酸ガス重炭酸イオン系を全く含まないBSS (balanced salt solution),乳酸リンゲルは,それらを含むGBR (glutathion bicar-bonate ringer),S-MA2等に比べ明らかに気泡発生が少なかった.重炭酸イオンを含み,炭酸ガス平衡を行っていない灌流液は,炭酸ガス平衡を行っている灌流液に比べ気泡発生が少なく,家兎眼を用いた角膜内皮灌流実験では,両灌流液間の角膜膨潤速度に有意の差を認めなかった.高分子デキストランを含む溶液は含まない溶液に比べ気泡発生が多かった.超音波水晶体乳化術には,グルコースや重炭酸イオンを含み炭酸ガス平衡をしていない灌流液が手術操作に障害となる前房内気泡発生が少なく実用に適すると思われた.

硝子体手術およびアンフォテリシンB硝子体内注入の著効した内因性Candida albicans眼内炎の1例

著者: 浅井利通 ,   世良佳子 ,   溝上国義 ,   山本節

ページ範囲:P.541 - P.545

 胃亜全摘術,経中心静脈高カロリー輸液施行後,内因性真菌性眼内炎をきたした症例にたいし,硝子体手術,アンフォテリシンB硝子体内注入を施行し,良好な視力予後を得た.
 本症例は,除去した硝子体の真菌培養によりCandida albicans眼内炎と診断された.また抗真菌剤の全身投与は施行せずに眼内炎は治癒し,術後1,5年の間再発をみていない.
 保存的療法のみでの治療が困難な重症内因性真菌性眼内炎に対する,硝子体手術とアンフォテリシンBの硝子体内注入は有効な治療法であると考えられた.

文庫の窓から

眼目明鑑

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.546 - P.547

 『世患眼者多而醫眼者寡醫眼者不寡学眼者寡学眼者不寡学眼書寡矣,余此不能無歎也』と.これは本書の叙文の一節であるが,識者杏林菴は真に眼の治療を行う良医を得るために,良書を欲して偏集したものと思われる.
 「眼目明鑑」は元禄2年(1689),杏林菴医生謹識とある叙を載せ,四條坊門通東洞院東江入町,水田甚左衛門より開板され,次いで18年後の宝永4年(1707)に改正眼目明鑑となって,出雲寺和泉掾,江戸日本橋南一町目出店より再板された.この再板は外題箋が"改正"となっているが内容は全く元禄板と同じである.つまり元禄2年板は京都から出され,宝永板は江戸から出版されたことになる.

Group discussion

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.552 - P.553

 第2回目の臨眼における"眼科と東洋医学"のグループディスカッションは,演題も10題集まり,またパリの演題が2題登場し,活況を呈した.沢山の眼科の先生方が東洋医学に興味を持たれているのを知り,嬉しく思いました.
 第1席は"実験糖尿病性白内障に対する牛車腎気丸の薬効検索"と題し,金沢医大,小島正美先生が発表された.数年来,streptozotocin誘発白内障ラットを用いて漢方薬の阻止作用について検討されているが,今回は牛車腎気丸の効果をグルタチオン量,総蛋白量,ソルビトール量,含水率およびNa+/K+比を測定された.これらの結果では明らかな牛車腎気丸の効果を説明しえなかったが,細隙灯写真による判定では投与群において白内障出現時期の遅延が見られ,混濁の進行状態を見たとしている.このことより全身的な状態が白内障進行を阻止していると考えられた.討論として八味丸と牛車腎気丸の違いについて質問があった.牛車腎気丸での死亡率が高いとのことであった.

色覚異常

著者: 深見嘉一郎

ページ範囲:P.554 - P.557

1.一卵性品胎の一児にみられた第二色覚異常について
  ○横田章夫・吉田顕照・関  亮(欄協医大)・       坪田・・男・平形明人(国立栃木病院) 一卵性品胎のうち一児に第二色覚異常を認めた.三児は女児で,出生時いずれも極小未熟児であった.両眼とも遠視性乱視を認めるが,弱視は認めず,矯正視力は1.2であった.諸検査で第二異常であった.
 検査は6歳時および8歳時に行ったが,色覚異常の程度に変化は認められなかった.また,他の二児,兄父親,母親に色覚異常は認められなかった.本症例は,その視路の未熟性等により第一色弱様異常を呈したと考えるのが適当であろう.

--------------------

原著論文の書き方について

ページ範囲:P.558 - P.558

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?