連載 眼科図譜・351
未熟児網膜症とアルゴンレーザー光凝固
著者:
大滝千秋
,
中山正
,
松尾信彦
,
依田忠雄
,
産賀恵子
,
秋田紀子
ページ範囲:P.426 - P.427
従来から,未熟児網膜症に対する光凝固術はキセノン光凝固装置で行うことが一般的であった1,2).その理由としては,1)仰臥位で処置できる,2)全身麻酔が必要なことがある,3)当時としてはキセノン以外に適当な凝固装置がなかった,4)アルゴンで行うにしても,適当な未熟児用コンタクトレンズがなかったなどが考えられる.この方法による凝固には熟練を要し,凝固に時間がかかり,正確な位置の把握が困難であり,患児および術者の負担は多大であった.最近,未熟児・新生児用2面鏡コンタクトレンズ(馬嶋)3,4)が発売になった.そこで,通常の普及型アルゴンレーザー光凝固装置を用いて,未熟児網膜症(中間型)の1例に治療を行ったので供覧する.
症例 は出生時体重773g,在胎週数26週の女児(1405893)である.Apgarは9点であったが,呼吸窮迫症候群と無呼吸発作が頻発したため,レスピレーターによる呼吸管理が行われた.酸素濃度は50%から投与され,tcPOは40〜70mmHgに維持されていた.眼科的検査は生後18日目に行われた.瞳孔膜血管はみられず,眼底は全体がhazy mediaであったが,後極部はどうにか透見できた.視神経乳頭は楕円で,やや蒼白,黄斑反射は観察されず,網膜血管に怒張,蛇行はなかった.生後41日目,周辺部が透見可能となった.両眼ともに,赤道部あたり(国際分類,Zone II)で,網膜血管先端部には異常分岐とridgeを伴う境界線形成が全周に観察され,それより周辺部には明らかな無盗管領域がみられた(図1).生後56日目,両眼の後極部網膜動脈に蛇行,静脈の拡張がみられ始めた(図2).生後60日目,ridgeを伴う境界線の周辺側に網膜出血と点状の硝子体への発芽が所々みられ始めた.硝子体内滲出は鼻側から比較的急速に厚みを増し,増殖姓変化に加え,牽引性変化がみられ始めた.以上から,厚生省新分類5)では未熟児網膜症,中間型(活動期,中期から末期),国際分類6)ではStage 3, moder-ate,+ROPと診断し,生後68日目にアルゴンレーザー光凝固術を施行した.この時期の患毘の体重は1626g,酸素濃度は40%,tcPOは40 mmHgであった.患兜はふたりの助手により醐臥位に固定され,無麻酔下で,レスピレーターによる呼吸管理下で治療した〈図3).光凝固装置には,普及型Britt社アイグラールModel 643型を使用した.凝固用コンタクトレンズは未熟児・新生児用2面鏡コンタクトレンズ(馬嶋)を用いた(図4).凝固条件は出力300〜800mW,サイズ400μmおよび時問0,2secであった.凝固部位は境界線上と無血管野全体をできるだけ密に行った(図5).最初は左眼から開始し,凝固数377発,所要時間は28分であった.次の右眼は凝固数247発,所要時問は18分であった.このレンズの使用により,鋸状縁までの観察が比較的容易であった.光凝固後の経過では,凝固翌日をこは境界線に向かう撫管がやや拡張してみられた.凝固後5日Reこは境界線に向かう血管の狭細化が始まり,境界線も全周が不明瞭となってきた.凝固後18日目には硝子体への発芽は耳綴から鼻側の頽で完全に観察できなくなった.凝固後3ヵ月の現在,視神経乳頭周囲の動脈にコイル状の蛇行は観察されるが,周辺部臨管は凝固斑を越え,鎮静化している.疲痕期の変化としては光凝固による変性以外にはなんら異常は観察されていない(図6).