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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科42巻1号

1988年01月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・259

前房内浮遊虹彩嚢腫の1例

著者: 坂西良彦 ,   金上貞男

ページ範囲:P.6 - P.7

 緒言 虹彩嚢腫のうち,その発生原因が不明とされる特発性虹彩嚢腫についての報告は,従来より比較的多くみられるが,嚢腫が前房内に浮遊している,いわゆる前房内遊離虹彩嚢腫についての報告は極めて稀1〜7)で,わが国においては5例1,2,4,6,7)にすぎない.今回,我々は長期経過後に自然退縮した前房内遊離虹彩嚢腫の1例を経験したので,ここに報告する.

今月の話題

急性前部ぶどう膜炎

著者: 望月學

ページ範囲:P.9 - P.12

 わが国には,比較的まれとされる本疾患は,急性の片眼性の線維素性虹彩毛様体炎で,前房中へのフィブリンの析出や虹彩後癒着などの特徴から,診断は比較的容易である.HLA-B27陽性者に本疾患を発症する者が多く,更に,全身的に強直性脊椎炎を合併する者が半数近くある.一般に虹彩炎の予後は良好である.

眼の組織・病理アトラス・15

うっ血乳頭

著者: 向野利彦 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.26 - P.27

 視神経乳頭の浮腫性腫大はさまざまな病的状態で見られる.直接的な炎症の波及によるものを除き受動的に生じる乳頭の腫張は乳頭浮腫opticdisc edemaといわれる.そのうちでもとくに頭蓋内圧亢進が明らかにされたものをうっ血乳頭papilledemaと称する(図1).しかし,光学および電子顕微鏡を用いた組織学的検討では,乳頭浮腫とうっ血乳頭は区別できない.
 視神経乳頭の腫張は節状板前部で生じ,とくに乳頭縁で著しい.硝子体側へ突出するとともに側方へも腫大し,乳頭隣接部網膜を圧排する.節状板前部の組織容量の増大により生理的陥凹は狭くなり,圧排された網膜は乳頭縁から偏位し,網膜外層は皺になり,臨床的に網膜皺襞(Paton'sline)として観察できる.錐体杆体も網膜色素上皮から剥離し偏位する.網膜下に浸出液が貯留し限局性網膜剥離が出現することもある(図2).これがうっ血乳頭の視野で早期にみられるマリオット盲点の拡大の一因となる.

臨床報告

角膜上皮移植(Keratoepithelioplasty)を行った4症例

著者: 広澤和代 ,   谷島輝雄

ページ範囲:P.17 - P.20

 角膜上皮移植術(Keratoepithelioplasty)を施行した4症例の術後経過について観察した.アルカリ腐食の1例は,上皮の拒絶反応を来したがステロイド点眼にて回復し,2年後の現在もよい状態を保っている.再発性翼状片の症例では移植後に徐々に血管進入を来し翼状片が再発した.トラコーマ後の角膜白斑例と原疾患不明例では,術後,角膜の混濁と血管新生が生じ,視力は術前と変化がなかった.従来,全層あるいは表層角膜移植術が禁忌と考えられていた難治性角結膜疾患患者に対して角膜上皮移植術を行ったが,移植片間や移植片と母角膜間への血管進入を確実に防ぐ方法を確立することが本術式のこれからの課題である.

特異な眼底所見を呈したベーチェット病の1例

著者: 大曾根倫子 ,   金井久美子 ,   小暮美津子

ページ範囲:P.21 - P.25

 ベーチェット病の眼症状として,臨床的に脈絡膜炎の存在を示唆する黄斑部の著明な隆起を呈した1例を報告した.
 症例 は,41歳,ベーチェット病完全型の男性.1982年頃より眼発作を反復していたが,突然右眼の光覚を失い来院した.この時,右眼眼底には視神経乳頭上の限局した硝子体混濁,静脈の高度な拡張,蛇行,静脈に沿っての著明な滲出およびそれを縁どる形状の出血,黄斑を中心とする4-5乳頭径大の黄白色隆起を認めた.Goldmann三面鏡を用いた細隙灯顕微鏡検査により隆起は網膜色素上皮下にあり,また超音波検査で網膜面の約4mmの隆起が検出された.螢光眼底造影では螢光色素の動脈への著しい流入遅延,静脈よりの螢光色素の漏出,黄斑部の隆起に一致した脈絡膜背景螢光の増強がみられた.
 以上より本症例では高度な網膜,視神経病変のみならず,脈絡膜より網膜色素上皮下への炎症性滲出,細胞浸潤により黄斑部の隆起を生じたものと考えた.
 本症において網膜,視神経乳頭の血管を中心とする炎症性変化の報告はみられるが,高度の脈絡膜炎が臨床的にとらえられた報告はなく,貴重な症例と考えられた.

黄斑部網膜下新生血管膜のアルゴン・クリプトンレーザー併用凝固

著者: 真壁禄郎

ページ範囲:P.29 - P.32

 赤色クリプトンレーザー光凝固による出血や,緑色アルゴンレーザーによる網膜血管炎などの合併症を避ける試みとして,黄斑部網膜下新生血管膜を,先ず緑色アルゴンレーザーで耳側部を,次で赤色クリプトンレーザーで鼻側,中心窩近接部および血管膜周囲を凝固した.
 術後3カ月から1年の経過観察で,滲出性老人性黄斑変性症は46例中,視力改善29例,不変7例,悪化10例で,出血性中心性網脈絡膜炎は3例何れも視力改善をみた.脈絡膜出血や網膜出血,網膜血管炎などの合併症は見られず,赤色クリプトンレーザー単独凝固に較べて多少とも良好の成績であった.

フィブロネクチン点眼剤の臨床効果

著者: 西田輝夫 ,   八木純平 ,   大鳥利文 ,   渡辺潔 ,   眞鍋禮三 ,   今釜秀一 ,   宮田典男

ページ範囲:P.33 - P.37

 フィブロネクチン点眼療法が有効な角膜上皮障害の症例を報告してきた.今回フィブロネクチン点眼剤の適応症を明らかにする目的で,過去5年間に大阪大学眼科,近畿大学眼科および宮田眼科において,角膜上皮障害と診断されフィブロネクチン点眼療法を行った302例について,診療録からフィブロネクチン点眼剤の臨床的有効性について検討した.全症例302例中207例(68.5%)においてフィブロネクチン点眼が有効であった.角膜上皮障害の内,遷延性上皮欠損および反復性上皮びらんでは80%以上の症例で有効であった.表層性びまん性角膜炎では約40%の症例にしか効果がなく,上皮浮腫に対しては全く効果が認められなかった.
 原因疾患別には角膜ヘルペス後の潰瘍では84.1%,神経麻痺性潰瘍では100%,白内障摘出術,角膜移植術および外傷後ではそれぞれ87.5,77.1,94.4%にフィブロネクチン点眼が有効であった.フィブロネクチンの臨床効果は濃度に依存する傾向が認められた.副作用は6例,2.1%に認められたのみであり,すべて軽度の眼刺激症状のみであった.
 これらの結果より,角膜ヘルペス,三叉神経障害あるいは白内障摘出術や角膜移植術後などの遷延性角膜上皮欠損が,フィブロネクチン点眼剤の良い適応であると考えられる.

結膜炎の抗クラミジア特異抗体の検討

著者: 青木功喜 ,   池田裕

ページ範囲:P.39 - P.42

 クラミジア感染の判定には,血清抗体の検出が最も感度が高い.クラミジア病原体の分離培養や抗原の検出は,種々の条件を満足しなければ陽性と出ず,たとえ陰性であってもクラミジア感染を否定できない.このため疫学的調査には,血清抗体の検出がきわめて優れている.
 感染症の特異抗体としてのIgG,IgM,IgAのうち,IgMはクラミジア眼感染症においては一般に陰性であり,診断的意義は低い.しかしIgG,IgA抗体価自体と時間的推移など条件を決めて利用すれば,その診断的応用も可能である.
 正常者とトラコーマ瘢痕期の患者群を対照として,クラミジア分離と抗原の検出と共に結膜炎患者のクラミジア特異抗体の検討を行い,単一血清抗体の診断条件をIgG 0.71(ELISA),160倍(FA),64倍(I-PA),IgAは16倍(I-PA)とした.なお血清採取が容易でない新生児や乳幼児では,涙液中のIgG (ELISA)が0.17以上では意義がある.

外傷性低眼圧症の手術治療経験

著者: 浅井源之 ,   辻口玲子 ,   宮谷寿史 ,   谷口康子 ,   越生晶

ページ範囲:P.43 - P.47

 鈍的眼外傷後に毛様体解離による低眼圧が持続した症例に毛様体ジアテルミー凝固,虹彩根部強膜縫合,前房内空気注入を行い良好な結果がえられた.また自験例ならびに従来よりの外傷性低眼圧症についての報告からその治療法について考察した.
 外傷性低眼圧症で保存的療法では改善が見られない場合は,なるべく早期に手術的に回復を試みる.毛様体解離が小さく狭い例では解離部へのアルゴンレーザー光凝固を行い,毛様体解離が大きかったり光凝固が無効な例では毛様体強膜縫合あるいは虹彩根部強膜縫合と毛様体ジアテルミー凝固の併用が良い.

YAGレーザー照射による前部硝子体切開が奏効した悪性緑内障の1例

著者: 高田百合子 ,   松村美代 ,   兜坂法文 ,   河野隆司 ,   井戸稚子 ,   後藤保郎

ページ範囲:P.53 - P.55

 白内障手術後に生じた悪性緑内障に対して,片眼を前部硝子体切除,他眼をYAGレーザーで治療した1例を経験した.
 YAGレーザー治療眼では,術前,細隙灯検査で前部硝子体の厚さがうすいことが確認されたので,レーザー照射が施行された.後嚢切開後,前部硝子体が切開されたところ,後部硝子体腔から房水が前房へ流出し,短時間のうちに深い前房が形成された.
 このようなYAGレーザー治療は,必ずしも全例に奏効するとはいえないが,手術的操作の複雑さがなく,外来で簡単に行うことができるため,今後,無水晶体眼の悪性緑内障に対して,手術的治療を行う前に試みるべき有用な方法であると思われる.

増殖性硝子体網膜症に対する硝子体手術網膜切除術の成績

著者: 荻野誠周 ,   北岡隆 ,   原田隆文

ページ範囲:P.57 - P.60

 裂孔原性網膜剥離に併発した増殖性硝子体網膜症45例45眼に対して,網膜の復位を得るために,網膜切除術を施行した.気圧伸展により網膜切除の必要な範囲を決定した.切除範囲は60度から360度であった.切除後ほとんどの例ではシリコンオイルタンポナーデと汎網膜キセノン眼内光凝固を施行し,シリコンオイルは平均17日で除去した.最低12カ月の経過観察の後,網膜復位は25眼56%に得られ,復位しかつ視力0.01以上は20眼44%に得られた.

若年者の原発性アルドステロン症にみられた網膜中心静脈分枝閉塞症の1例

著者: 尾上晋吾 ,   田窪一徳 ,   白木かほる ,   宮崎茂雄

ページ範囲:P.61 - P.64

 29歳の女性の片眼に網膜中心静脈分枝閉塞症を認め,全身疾患として,原発性アルドステロン症が見出された.本例での網膜中心静脈分枝閉塞症の発症に関して,原発性アルドステロン症による高血圧と,上耳側静脈第2分枝が分枝した直後で動脈と交叉しているという局所的因子が原因となっていたことが考えられた.

後天性両側性上斜筋麻痺について

著者: 森樹郎 ,   大平明彦 ,   後藤公子 ,   小澤哲磨

ページ範囲:P.65 - P.68

 後天性両側性上斜筋麻痺6例の臨床所見についてまとめた.
 全例が成人男性であり,4例が交通事故による頭部外傷,1例が炎症に起因すると考えられた.1例は脳外科手術後に発症している.患者は特に下方視において強い複視を訴えるが外見上の眼位ずれ,眼球運動制限は小さい.本症は回旋を伴う交代性上下斜視およびV型内斜視において特徴があり,この2点が診断上有用であった.Bielschow-sky頭部傾斜試験で肉眼的に明らかな陽性を示す例はなく,頭部傾斜による上下の眼位ずれも比較的小さいものと考えられた.

視神経乳頭黒色細胞腫の診断的ビトレクトミー

著者: 中野秀樹 ,   木村雄二 ,   渡邊亮子 ,   井上隆史

ページ範囲:P.69 - P.73

 右眼の視神経乳頭部に黒色腫瘍を有する61歳女性例を経験した.臨床的所見からは黒色細胞腫が疑われたが,硝子体中に浮遊する色素塊が存在したため,診断的ビトレクトミーを行った.組織標本中に多量の成熟したメラニン色素顆粒を持つ大型の細胞が認められ,またメラノサイトの集塊と思われる大量のメラニン顆粒の集簇も認められた事から,硝子体中の浮遊物は視神経乳頭黒色細胞腫由来の細胞群である事が推定された.

カラー臨床報告

角膜表層穿刺注)の奏効した糖尿病性角膜症の3症例

著者: 細谷比左志 ,   田野保雄

ページ範囲:P.13 - P.16

 角膜表層穿刺が奏効した硝子体手術後の難治性糖尿病性角膜症(角膜上皮接着障害)の3症例を報告した.この角膜表層穿刺は,器具としてディスポの26G針が要るだけで非常に安価で,容易でかつ安全で有効な方法である.オリジナルの方法では,まっすぐな20G針をそのまま使用するので,角膜穿孔の危険があるが,先端部を二段にまげた26G針を使う我々の方法であれば,角膜穿孔の危険はなく安全に行うことができる.
 再発性角膜上皮びらんをはじめ種々の角膜上皮接着障害に試みるべき方法であると考える.

最新海外文献情報

隅角・緑内障,他

著者: 木村良造

ページ範囲:P.50 - P.51

Cotter PB Jr : Scintillating scotomas relieved with topical timolol. Am J Ophthalmol 104 : 432, 1987
 チモロール点眼による全身的な好ましくない副作用については良く知られているが,有益な副作用を最近経験した.高血圧と動脈硬化性心疾患として,ワーファリン,ジゴキシンおよびメチルドーパの投与をうけている79歳の女性患者が眼科の一般検査のため受診し,両眼28mmHgの高眼圧と視神経乳頭の左右差を見出された.隅角は開放しており,他の眼科的異常所見は認められなかった.そこで0.25%チモロールの点眼を1日2回開始継続した.8ヶ月後の検査で以下の事実が判明した.すなわち,本例はチモロール点眼治療を開始するまでは,ほぼ1カ月に1回の割合で閃輝性暗点の発作に見舞われていたが,今回の0.25%チモロール点眼開始以降この閃輝性暗点の発作がずっと消失している.その後も引続き閃輝性暗点の発作を経験しないまま0.25%チモロール点眼開始以来1年以上経験している.ベータ遮断剤であるプロプラノロールが経口的に偏頭痛の予防に使用されることがあるが,本例の場合はチモロールの点眼が有効であったものである.

文庫の窓から

傅氏眼科審視瑤凾(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斉藤仁男

ページ範囲:P.74 - P.75

 本書の眼病分類は五輪八廓説の病理を基に外傷によるもの,熱病後の病,出疹病後の病,栄養不足による病等を加えて,原因により分類を行い,およそ18症を挙げ,さらにこれを症候により108の眼病に分けて掲げている.本書の巻3(38症),巻4(23症),巻5(34症),巻6(13症)に所載されている.しかしこの分類の方法はあまり用いられなかったようである.わが国では「眼科全書」(哀学淵著)に用いられた臨床病像,疾病発生部の解剖学的差異による72症(内障24症,外障48症)分類が眼科諸流派の間でも用いられたようである.
 本書には五輪定位之図,八廓定位之図,眼科鍼灸治目之要穴形図(13図)等が所載されているが,「校正増図眼科大全」—傅氏審視瑤凾—(上海,文明書局発行)には西医の眼科図説が挿入され,その第1図から第19図までと洗眼器,蒸眼器,浴眼器,烙鉄等各施用図および鍼刺内翳図は本庄普一著「続眼科錦嚢」(天保8年刊)に所載の図と全く同じであるが,この図は「続眼科錦嚢」から引用したものか,他の西洋眼科書から用いられたものか,また,本書に西医の眼科図説を附加している理由も明らかでない.

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原著論文の書き方について

ページ範囲:P.76 - P.76

 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います。
 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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